最高裁判所は、最高裁長官1名、最高裁判事(長官以外の裁判官)14名の計15名から構成される。
最高裁裁判所長官人事
次期最高裁長官は内閣の指名に基づき天皇の任命を受ける。内閣に誰が適任かという意見を述べるのは現最高裁長官であり、内閣総理大臣がその意見を了承すれば閣議により内閣が次期最高裁長官を指名することとなる。現最高裁長官が推薦した候補に汚点が無い限り、専門外の内閣がそれを拒否する理由は見当たらない。同様に、天皇は国事行為として任命権を持っているのであり、積極的な指名権は持っていない。すなわち、任命拒否はあり得ない。
そのため、実質的に次期最高裁長官の決定権を持つのは、現最高裁長官と言える。なお、現最高裁長官が内閣総理大臣に意見を述べる前に、元最高裁長官や一部の最高裁判事、法曹界の有力者に意見を求めることも出来る。この慣例は2代目長官の田中耕太郎氏が3代目長官に横田喜三郎氏を適任とした時からである。
最高裁裁判官(長官含む)は任命後初めて行われる衆議院選挙で国民審査(最高裁判所裁判官国民審査)に付される。ただし、すでに国民審査に付されている最高裁長官の再審査は、前審査から10年以上経過している場合であるため、最高裁長官に就任したことを理由に再審査に付されることはない。
形式的とはいえ、最高裁長官候補が天皇の任命を受諾するということは、天皇の「大御心」に則することを暗黙のうちに誓っている、ということである。
問題は、現最高裁長官が次期最高裁長官の決定権を持つことである。司法での意思決定はそれぞれの職務・職責に応じてなされることは当然ではあるが、表面に出ない精神的ベースは最高裁で醸成され、個人の意識に関係なく、フローチャートのごとく下級裁判官に浸透して行く。なぜならば、最高裁が下級裁判官の人事権の頂点にあるからであり、その人事の最高責任者は建付け上、最高裁長官だからである。
もちろん、最高裁判事は国民審査により罷免・解職される、となっているが、国民審査には「判断材料の少なさ」や「再審査制度の存在」や「衆議院総選挙においてという審査機会のタイミング」などの諸問題があり、ほとんど形骸化している制度だと言える。実際、今まで再審査を受けた最高裁判事は6名のみであり、罷免された裁判官は0名である。
これは、最高裁判事の指名・決定ゲートが秀逸なのか?それとも、審査・罷免ゲートがお粗末なのか?それとも、両方なのか?
最高裁長官以外の最高裁裁判官人事
最高裁長官以外の最高裁判事は、現最高裁長官の意見のもと、内閣が閣議決定後に任命し、天皇が認証する認証官である。候補者については、主として裁判官、弁護士、検察官の場合は、最高裁長官から複数候補者の提示を受け、行政・外交を含む学識経験者の場合は内閣官房で候補者を選考し、いずれの場合も内閣総理大臣の判断を仰いだ上で閣議決定する。
しかし、誰を最高裁裁判官に推薦するかは、まず、法務省事務次官から候補者を検事総長に具申し、両者で決定する事になっており、その中でも検事総長が実質的権限を持つと言われている。実際、今までに検事総長の推薦した候補が最高裁裁判官に任命されなかった例はない。ただし、公安調査庁長官の歴任者は推薦されないという不文律があるようだ。
●最高裁裁判官の出身分野(総計15名)
・裁判官:6名(民事5名、刑事1名)
・弁護士:4名
・大学教授:1名
・検察官:2名
・行政官:1名
・外交官:1名
●最高裁裁判官の任命資格(15人のうち少なくとも10人に適用されなければならない。)
・高裁長官を10年以上
・高裁判事を10年以上
・高裁長官、判事、簡裁判事、検察官、弁護士、法律学の教授、などで通算20年以上
●最高裁の使命 → 憲法判断および法律解釈の統一
そもそも、認証官とは、法にもとづき、任免に当たって天皇による認証が必要とされる官吏をいう。言い方を変えれば、認証官の任免には天皇の認証が不可欠となり、これで正式な人事決定となる。
「大御心」を「忖度」する「筆頭職」であり、認証を受けるということはそれを承知したということである。
下級裁判官人事
高栽・地裁・家裁・簡裁の人事は、最高裁の指名に基づき、内閣が閣議決定後に任命する。高裁長官は内閣の任命後、天皇の認証を受ける。すなわち、認証官である。
最高裁での指名に至る一連の人事手続きは「最高裁事務総局人事局任用課」でおこなわれる。各弁護士から上げられた評価に基づき、「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」から上げられた意見など最終段階での総合的な取り纏めがここでおこなわれ、その結果を最高裁に上申する。重要なことは、平成15年より設置された「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」が設置されたこととともに、「人事評価制度」が制定されたことである。
1.下級裁判所裁判官指名諮問委員会制度について
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会>
法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)および学識経験者により構成され、指名の適否を審議する。審議の結果に基づき、最高裁判所に意見を述べなければならない。構成委員は11名。任期は3年。再任可能。任命権者は「最高裁判所」となる。
R3.8.5現在の「下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員」の氏名・職歴
1.井田 良(中央大学院法務研究科教授)
2.伊藤 眞(東京大学名誉教授)
3.井堀利宏(政策研究大学院大学特別教授)
4.今田幸子(元独立行政法人労働政策研究所・研修機構統括研究員)
5.神村昌通(最高検察庁総務部長)
6.北村節子(元読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)
7.田邉宜克(弁護士:元日弁連副会長 福岡県弁護士会)
8.中尾正信(弁護士:東京弁護士会)
9.中里智美(東京高裁判事)
10.中田裕康(早稲田大学大学院法務研究科教授)
11.中山孝雄(東京高裁判事)
最高裁が下級裁判所裁判官の人事決定において、裁判所内部の恣意を排除し国民の意思を反映させるために設けられたのが「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」であるが、この機関が十分かつ正確な情報を確保できるよう、弁護士会や検察庁など裁判所外部からも情報を収集することとなった。この情報収集のため、各高裁ブロックに地域委員会が設置され、地域委員会が窓口となり弁護士などからの情報が集められることとなった。これが「下級裁判所裁判官指名諮問委員会地域委員会」である。
R3.7.1現在の「各下級裁判所裁判官指名諮問委員会地域委員会委員」の氏名・職歴
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会東京地域委員会 10名>
1.片山直也(慶応義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)教授)
2.北村 篤(横浜地検検事正)
3.後藤 博(東京地裁所長)※裁判所所長=地裁・家裁。裁判長と同義
4.団藤丈士(横浜地裁所長)
5.永井 徹(東京都立大学特任教授)
6.平沢郁子(弁護士:東京弁護士会)
7.堀内成子(聖路加国際大学学長)
8.三木恵美子(弁護士:神奈川県弁護士会)
9.山上秀明 (東京地検検事正)
10.山野目章夫(早稲田大学大学院法務研究科教授)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会名古屋地域委員会 5名>
1.石原真二(弁護士:愛知県弁護士会)
2.大熊一之(名古屋地裁所長)
3.小林 量(名古屋大学大学院法学研究科教授)
4.真能秀久(中日新聞社常務取締役)
5.吉田安志(名古屋地検検事正)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会大阪地域委員会 5名>
1.畝本 毅(大阪地検検事正)
2.小原正敏(弁護士:大阪弁護士会)
3.竹村登茂子(元読売新聞大阪本社編集委員)
4.中本敏嗣(大阪地裁所長)
5.山本敬三(京都大学大学院研究科教授・同院法学研究科附属政策共同研究センター長)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会広島地域委員会 5名>
1.宇川春彦(広島地検検事正)
2.大迫唯志(弁護士:広島弁護士会)
3.田部 誠(広島大学名誉教授)
4.永谷典雄(広島地裁所長)
5.森信秀樹(森信建設株式会社代表取締役)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会福岡地域委員会 5名>
1.熊野直樹(九州大学法学部教授)
2.作間 功(弁護士:福岡県弁護士会)
3.田口直樹(福岡地裁所長)
4.林 秀行(福岡地検検事正)
5.山本裕子(元西南学院大学教授)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会仙台地域委員会 5名>
1.三瓶 淳(弁護士:仙台弁護士会)
2.舘内比佐志(仙台地裁所長)
3.成瀬幸典(東北大学大学院法学研究科教授)
4.前田修也(東北学院大学経済学部教授)
5.森本和明(仙台地検検事正)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会札幌地域委員会 5名>
1.池田清治(北海道大学大学院法学研究科教授)
2.神谷奈保子(札幌医科大学客員教授)
3.小寺正史(弁護士:札幌弁護士会)
4.恒川由理子(札幌地検検事正)
5.森 英明(札幌地裁所長)
<下級裁判所裁判官指名諮問委員会高松地域委員会 5名>
1.有澤陽子(特定非営利法人子育てネットひまわり代表理事)
2.黒野功久(高松地裁所長)
3.行田博文(弁護士:高知弁護士会)
4.佐藤美由紀(高松地検検事正)
5.山本陽一(香川大学人文社会科学系法学部教授)
各地方5名(東京のみ10名)の構成枠を見れば、「法曹三者3名」「学識経験者2名」となっているが、その機能に最大影響を与えているのは「管轄内の弁護士会と弁護士」である。
2.下級裁判官人事評価制度について
さぁ、これが重要なポイントである。目を凝らしてお読みいただきたい。
「下級裁判所裁判官指名諮問委員会制度」の分析で、人事はどのあたりのポジションで色濃く決められるのか、ということまではわかった。では、どのような評価基準で?決定権のパワーバランスは?ということを調べてみたい。査定に必要な「評価」とは?実権を持つ「実力評価者=メインジャッジ」は?
平成15年(第1次小泉内閣)の司法制度改革で、裁判官の評価権者は上司である裁判所長官もしくは裁判所所長ではあるが、評価に当たっては「弁護士会などの情報についても配慮するもの」と定められた。
驚いたことに、結論から言えば弁護士の情報が最大の肝となっているのだ!
裁判官人事のキャスティングボートを握るのは個々の弁護士の評価なのだ!
実際、「下級裁判所裁判官指名諮問委員会制度」と「裁判官人事評価制度」を支えるのが弁護士からの「裁判官の職務情報の提供制度」である。
この提供は、裁判官の人事評価や再任手続きに関するばかりでなく、弁護士の活動にも深いつながりを持たせている。
図で示す通り、人事評価権者から依頼要請を受けた弁護士会は会員に提供依頼をするが、会員は直接人事評価権者に報告書を提出する。基本的には「裁判官の人事評価に関する規則3条1項」に従うこととなっている。
3条1項における3つの評価項目
①事件処理能力
②部などを適切に運営する能力
③裁判官として職務を行う上で必要な一般的資質・能力
(参考)「評価項目および評価の視点」
http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/81023001.pdf
以上のように、最高裁人事では長官を筆頭に判事全員が天皇の任命もしくは認証を受ける。
すなわち、天皇の「大御心」に背くことがあってはいけない第一人者である。
下級裁人事では、高裁長官は最高裁判事と同様に直接天皇から任命される。すなわち、高裁長官も「大御心」に背くことがあってはならない第一人者である。
その他の裁判官は最高裁が指名し内閣が任命するが、「最高裁の指名」はすなわち「大御心」に沿った指名でなければならない。日本人であるのなら「大御心」に違背する可能性のある人物を指名できるはずはないからである。しかし、その指名は形式上のことであり、「該当裁判官の人事評価を弁護士会から依頼され、その人事評価権者である該当裁判所長官もしくは所長に直送できる弁護士」の評価を基準とした「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」の審査と意見を受けて行われるのが現実である。
いくつものハードルや責任者が絡み合う仕組みではあるが、個々の弁護士が組織的な人事評価を挙げた場合を考えると、恣意的な人事が裁判所外部からなされることになる。司法制度改革審議会は「国民の裁判官に対する信頼を高めるために人事評価の透明性・客観性を確保することを目的として」というが、運用の仕方一つで逆作用が働くことがこれでご理解いただけただろう。
・・・ あぁ、そうか。そうだったのか。自分達の管轄地の裁判所にこだわり、不条理な理由をこじつけても移送を願ったのは。弁護士の評価が気になる裁判官に大きなバイアスをかけられるためか ・・・
・・・ あぁ、そうか。そうだったのか。すべて「大御心」を感じない連中が毒素をばら撒いているからか ・・・