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2022-02-22 16:25 0 comments

713 懲戒請求による損害は1つ 佐々木北嶋﨑棄却判決① 

引用元 

東京地裁民事第7部にて言い渡された、佐々木・北・嶋﨑原告の棄却判決より


共同不法行為の成否について


ア 選定者らは、本件懲戒請求は、本件ブログの呼び掛けに賛同して原告らを懲戒請求したその余の懲戒請求者らがした懲戒請求との間で共同不法行為になるところ、原告らは、共同不法行為者から、既に原告らが被った損害を上回る弁済を受けており、全て填補されていると主張するので、まず、本件ブログの呼び掛けに賛同して原告らに対してした懲戒請求(以下、単に「原告らに対する懲戒請求」という。)を行った全ての者を共同の範囲とする共同不法行為が成立するかについて検討する。


イ 前提事実及び上記⑴で認定した事実によれば、原告らに対する懲戒請求の仕組みは、

①本件ブログの運営者が、本件ブログにおいて原告らに対する懲戒請求を呼び掛け、原告らに応じた懲戒事由を不動文字で記載した懲戒請求書のひな型を本件ブログで公開した上で、賛同者をしてダウンロードして入手させ、又は賛同者からの請求に応じてこれを送付する、

②原告らに対する懲戒請求書のひな型を入手した賛同者が、懲戒請求書のひな型の住所欄及び氏名欄を手書きで記入し、指定された箇所に押印して、本件ブログの運営者に懲戒請求書を送り返す、

③本件ブログの運営者が、賛同者から送付されてきた懲戒請求書を一旦取りまとめ、日付欄を記入した上で、まとめて原告ら所属の各弁護士会に対して提出するというものであり、現に、本件懲戒請求書については、平成29年12月13日に本件ブログの運営者からまとめて各弁護士会に提出することで、懲戒請求が受理されている(認定事実アないしオ)。上記懲戒請求の仕組みに加え、本件ブログの運営者が、本件ブログの賛同者に対して他に賛同者がいれば更なる協力を依頼するよう求めていること、選定者らによる本件懲戒請求は第6次となることとの記載がされており(認定事実イ)、本件ブログには、その時々において、懲戒請求の呼び掛けに応じる複数の者がいたことが十分窺える記載をしていたものと優に推認されることからすれば、本件ブログの賛同者は、本件ブログの運営者が誰であるか、他に賛同者がいて、どの程度同様に懲戒請求をしている者がいるか具体的に知り得なかったとしても、自身以外にも懲戒請求者が多数存在しており、本件ブログの運営者がこれらを取りまとめた上で原告ら所属各弁護士会に対して懲戒請求書を送付することを認識していたものと認められる


 以上によれば、原告らに対する懲戒請求をした者は、各人が、独自の判断に基づいて本件ブログに公開されていた懲戒請求書のひな型を用いて懲戒請求書を作成したとしても、前提事実⑸及び⑻のとおりの懲戒事由による懲戒請求に賛同する者全員との間で共同して懲戒請求を行う認識を有していたといえ、本件ブログの運営者と原告らに対する懲戒請求者の間には主観的関連共同性が認められるというべきである。また、各人がした原告らに対する懲戒請求が本件ブログの運営者によって取りまとめる形で行われたのは上記のとおりであるから、本件ブログの運営者による懲戒請求の幇助行為とその呼び掛けに応じてされた原告らに対する懲戒請求との間には客観的関連共同性も認められる(なお、これらの懲戒請求者の中には、懲戒請求書のひな型を用いつつも、本件ブログの運営者と通さずに、個別に原告らに対する各弁護士会に対して懲戒請求をした者も含まれている可能性も否定することができないが、このような懲戒請求者も、本件ブログの運営者の呼び掛けに賛同しているからこそ、本件ブログで公開されている懲戒請求書のひな型を用いて懲戒請求をしたものといえるから、本件ブログの運営者を介して提出をしたか否かに関わらず、客観的関連共同性も主観的関連共同性も認められるというべきである。)。


ウ このように、原告らに対する懲戒請求について、主観的関連共同も客観的関連共同も認められるとしても、原告らに対する懲戒請求によって侵害された利益が、個別の懲戒請求ごとに観念され、損害も個別の懲戒請求ことに算定すべきことになれば、共同不法行為は成立せず、個別の不法行為が競合的に成立することとなる。そこで、次に、原告らに対する懲戒請求によって生じた損害について検討する。


 原告らは、弁明を余儀なくされることに対する業務妨害、弁護士としての信用等の毀損、精神的損害、利益相反の有無を確認することによる事務負担の増大、弁護士としての活動の萎縮などの結果を指摘した上で、個々の懲戒請求それぞれについて損害が発生する旨主張する。

 確かに、原告らに対する懲戒請求によって原告らに生じる精神的苦痛や弁護士としての信用等の毀損は、その性質上、基本的には個別の懲戒請求ごとに発生する者であり、利益相反の有無の確認その他懲戒請求に対応するための事務負担は、懲戒請求の数に応じて増大する側面があることは否定することができない。


 しかしながら、原告らに対する懲戒請求は、本件ブログの呼び掛けに賛同した1000名弱の懲戒請求者によって一斉にされたものであり、選定者らの懲戒請求はその一部を構成するところ、これらの大量の懲戒請求は、全て事実上及び法律上根拠のない同じ懲戒事由に基づいてされた事案であることを踏まえると、個別の懲戒請求ごとに損害を観念するのではなく、全体として1つの損害が発生したものと評価するのが相当というべきである。以下、原告らの主張に沿ってその理由を敷衍する。


 まず、原告らに対する懲戒請求によって原告らに発生した精神的苦痛や弁護士としての信用等の毀損についてみると、上記⑴で認定した事実によれば、これらの懲戒請求は、本件ブログに公開されていた懲戒請求書のひな型が用いられており、その懲戒事由も、懲戒請求書とともに公開された定型的な内容であること(前提事実⑷、⑻、認定事実ア、ウ)、しかも、一般の閲覧者が読めば一見して理由や根拠が薄弱なものであると認められることを踏まえると、原告らが被った精神的苦痛や弁護士としての信用等の毀損は、各懲戒請求の数に応じて正比例的に増大する者ではなく、1000名弱の見ず知らずの人々から一斉に懲戒請求をされたという一連一体の行為によって生じた側面が多分にあるというべきであるから、全体として1つの損害として評価するのが相当である。


 また、弁明を行うことによる業務妨害についてみると、上記⑴で認定した事実によれば、原告らは、原告らに対する懲戒請求を受けて、所属弁護士会から懲戒請求書をまとめて受領し、懲戒請求毎ではなく、これらにまとめて対応した簡潔な答弁書を提出するように求められただけであること(認定事実カ。なお、原告佐々木及び原告嶋﨑に関する具体的な事務負担等は明らかではないが、原告北と同様であったと推認される。)からすると、その弁明のための負担に係る損害を個別の懲戒請求ごとに評価することは相当でない。


 さらに、利益相反の確認のための事務負担についても、原告らに対する懲戒請求を1件1件個別のものと考えれば、その当該1名の懲戒請求者との利益相反があるかどうかの確認をするための事務作業の負担は非常に軽いものといわざるを得ない。むしろ、今回のように多数の者から一度に懲戒請求を起こされたことが、原告らの利益相反確認のための事務負担を飛躍的に増大させるものであって、やはり、全体として1つの損害として評価するのが相当である。


 以上のような事情を踏まえれば、前期説示の通り、本件懲戒請求によって生じた損害は、個別の懲戒請求ごとに観念するのではなく、大量の懲戒請求を行うことによって生じた1つのものと評価するのが相当であるというべきである。


エ したがって、選定者らを含む本件懲戒請求者の間では、本件懲戒請求を行った全ての者を共同の範囲として共同不法行為が成立するといえる。

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