どんたく人種差別撤廃NGO報告書
ttp://www.lazak.jp/2014/09/11/LAZAK%20%5BCERD%20Shadow%20Report%5D%202014.07.%81iJapanese%20ver%81j.pdf
人種差別撤廃条約に基づき提出された第7回・第8回・第9回
日本政府報告書に対するNGO報告書
2014年7月 報告団体名:Lawyers Association of Zainichi Koreans (LAZAK)
1. 報告団体について
在日コリアン弁護士協会(LAZAK)は、2001 年5 月に設立され、現在は100 名を超える在日コリアン弁護士及び司法修習生が会員となっている。なお、ここでいう在日コリアンとは、日本に生活しながら、大韓民国(以下「韓国」という。)又は朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)の国籍を保有している者のほか、祖先が韓国・朝鮮系であり、帰化後もコリアンとしての民族性を有する日本国籍保有者を指す。
LAZAK は、これまで、日本における在日コリアンに対する差別撤廃と民族的人権の保障に向けて、在日コリアンの人権問題に関わる裁判において、法的支援を行ってきた。また、在日コリアンに関する書籍の出版、海外のコリアン弁護士との交流等の活動を行っている。これらの活動が評価され、2007 年には、韓国国家人権委員会から人権賞を受賞している。
2. はじめに
(1)在日コリアンの歴史的経緯
2014年現在、日本国籍保有者を含めた日本に永住するコリア系住民の総数は、およそ100万人程度と推測される(日本国籍を保有するコリアンの総数に関する公的な政府統計はない。)。
このうち、2013年12月の時点では、約43万人のコリアンが永住資格を持つ外国籍者として生活している。この約43万人のうち約37万人は、20世紀前半の日本による朝鮮半島の植民地統治時代に日本での生活を余儀なくされた者とその子孫であり、一般の永住資格とは区別された特別永住資格を認められている。
上記のとおり、特別永住資格を持つ在日コリアン(約37万人)は現在外国籍者として日本に居住している。これらの者は、1910年に日本による朝鮮半島の植民地統治が開始してから1952年のサンフランシスコ講和条約により日本が独立を回復するまでの間は、日本国籍を有していた者とその子孫である。
サンフランシスコ講和条約は、講和条約発効後も引き続き日本に在住する在日コリアンの国籍については規定していなかったが、日本政府は、同条約が在日コリアンと在日台湾人(いずれも日本の旧植民地)の日本国籍を喪失させる旨の規定を含んでいるとの解釈のもと、同条約の発効をもって、在日コリアン及び在日台湾人の日本国籍を剥奪した。
日本政府によるこの剥奪措置(1952年4月19日の法務府民事局長通達による措置)は、日本に居住する旧植民地出身者の意思を無視した一方的な措置であった。のみならず、この剥奪措置は、当時の日本の人口(約8500万人)の一部の者(約50万人)についてのみ、彼らが朝鮮及び台湾出身者であるという民族的・種族的出身を理由として狙い撃ち的になされたものであった。従って、この剥奪措置は、人種差別撤廃条約発効前の措置とはいえ、人種差別的な措置であったということができる。
さらに、日本政府によるこの剥奪措置は、法務府民事局長通達という政府通達によるだけで、法律に基づく措置ではなかった点で、国籍の取得・喪失要件は法律で定められなければならないとする日本国憲法第10条にも違反していた。もっとも、日本の最高裁判所は、一貫してこの国籍剥奪措置を是認する立場を示している。
このようにして、サンフランシスコ講和条約の発効と同時に、当時日本に在住していたコリアンは一夜にして日本国籍を喪失した。そのうえで、日本政府は、日本国籍を有していないことを理由に、在日コリアンの人権を制約した。例えば、在日コリアンも一般の外国人と同様に退去強制の対象とされた。多くの社会保障及び社会福祉の分野で国籍条項が設けられ、また、多くの公職から在日コリアンを排除した。このような日本政府による外国人排除の論理は、民間における国籍及び民族的出身による差別を助長することとなった。
日本政府は、1991年に、1945年の日本の敗戦以前から日本に居住していた日本の旧植民地出身者(コリアン及び台湾人)並びにその子孫に対して、特別永住資格制度を設けた。 しかし、日本政府は、特別永住者についても、日本国籍がないことを理由に、社会保障や公務就任等について差別している。なお、1945年以前から日本に居住していた旧植民地出身者及びその子孫の全員が特別永住資格を認められたわけではなく(1945年から1952年の間に日本を出国したことがあるなどの理由のため)、一部の者は、一般永住資格やその他の在留資格で日本に居住している点も忘れてはならない。
日本では、日本国籍は、国籍法によって決定される。日本の国籍法は、厳格な血統主義を基調とする国籍法であるため、ごく例外的な場合を除き、父母が外国籍である子は、日本で出生したとしても、日本国籍を取得しない。このため、1952年に民族的・種族的出身を理由に日本国籍を剥奪された在日コリアンの子孫は、両親のどちらかが日本人と結婚していない限り、日本国籍を取得しないことになる。日本の国籍法の血統主義は、民族的・種族的出身を理由として在日コリアンを日本国籍から排除するように機能しているのであり、この意味で、日本の国籍法は、民族主義的・種族主義的な国籍法であるといえよう。
このような国籍法の下では、4世、5世になっても外国籍のまま暮らす在日コリアンの例もある。実際、1952年に日本国籍を剥奪された在日コリアンの中には、100年以上にわたり日本に居住してきた家族もいる。
もちろん、日本の国籍法にも、帰化手続の規定がある。しかし、日本では、帰化手続もまた、民族主義的・種族主義的に運用されてきた。すなわち、帰化の許否については、日本政府が自由かつ広汎な裁量を持つところ、最近まで、日本風の姓名への変更を要求するなど、日本民族への民族的・文化的同化を帰化の条件とする運用がとられてきたのである。日本社会では、帰化を、法的な国籍取得にとどまらない、日本民族への民族的・文化的同化を意味するものと理解する傾向が強い。
また、ほとんどの旧宗主国が旧植民地出身者の帰化手続に関しては特別な定めを置いているのに対し、日本の国籍法には、これらの規定は置かれていない。
(2)在日コリアンに対する国籍を理由とする区別は人種差別である
人種差別撤廃条約は、市民と非市民との区別等については適用されない(第1条第2項)。 しかし、日本国籍がないことを理由として、特別永住者やこれに準ずる在日コリアンを区別することについては、第1条2項の適用はないというべきである。特別永住者やこれに準ずる在日コリアンへの区別的取扱いは、民族的若しくは種族的出身に基づく区別であり、「人種差別」(第1条第1項)に該当するというべきである。なぜなら、上記のとおり、これらの在日コリアンは、一方で、1952年に、民族的若しくは種族的出身を理由に日本国籍を剥奪されたが、他方で、その後も、民族主義的・種族主義的な日本の国籍法及び同法の運用により、民族的若しくは種族的出身を理由に日本国籍から制度的に排除されてきたからである。
1952年以降、在日コリアン及び彼(女)を支援する日本の市民社会の運動や、日本政府による国際人権規約や難民条約の批准などにより、在日コリアンの法的地位は改善された。しかし、前記のとおり、日本では、依然として社会保障の分野や公務就任など多くの場面で、特別永住者である在日コリアンは日本国籍がないことを理由とした差別を受けている。これらは、上記の理由で人種差別に該当する。
(3)近時の在日コリアンに対する差別の悪化
日本社会においては、植民地支配の過程で、コリアンに対する蔑視感情・優越感が醸成されてきた。包括的な差別禁止法の制定を含むコリアンへの差別感情を是正するための対応を日本政府が怠ってきたこともあり、今でも日本社会にはコリアンに対する差別感情が根強く残っている。
このような古くから残るコリアンへの差別意識に加えて、近時の日本と北朝鮮及び韓国との外交関係の悪化などの事情を背景として、近時在日コリアンに対する差別が悪化している。
とりわけ、日本政府は、北朝鮮との外交関係の悪化を理由に、新たに導入された高等学校等就学支援金制度から朝鮮学校のみを排除した。また、排外主義団体による在日コリアンを対象としたヘイトクライム及びヘイトスピーチの問題が深刻化している。
(4)本報告書の構成
LAZAKの会員弁護士各人は、様々な在日コリアンの人権に関わる訴訟に代理人として参加している。本報告書は、LAZAKの会員弁護士が訴訟代理人又は当事者として関わってきた人権問題の中から、在日コリアンに対する差別問題、具体的には、
(i)在日コリアン高齢者の年金制度からの排除、
(ii)外国人に対する公務就任の制限、
(iii)朝鮮学校の無償化からの排除、及び、(iv)在日コリアンを対象としたヘイトスピーチについて、情報提供を行うものである。
LAZAKとしては、人種差別撤廃委員会が、在日コリアンの直面する人権侵害に懸念を表明し、日本政府に対し、国際人権法に適合した措置をとることを勧告するよう期待する。
・国民年金制度からの在日コリアンの排除
・外国人、主に在日コリアンに対する公務就任の制約
・朝鮮学校の高等学校等就学支援金制度からの排除
・在日コリアンを攻撃対象とするヘイトスピーチ
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”朝鮮学校の高等学校等就学支援金制度からの排除”の重要部分を特に抜き出しました。
1. 問題の要点
日本政府は、高等学校等就学支援金制度から朝鮮学校を排除している。また、地方自治体の多くは、政治的理由により朝鮮学校に対する補助金を停止又は廃止している。かかる措置は、在日コリアンという民族的出身に基づき、朝鮮学校に通う生徒の教育を受ける権利を差別的に侵害するものである。日本政府及び地方自治体はこのような差別的取扱いを是正すべきである。
2. 背景事情
(1)朝鮮学校
第二次世界大戦終了後、日本に居住するコリアン達は、自身の子どもたちを教育する施設として朝鮮学校を設立した。現在朝鮮学校は日本の各地に存在するが、日本と外交関係のない北朝鮮とも関係を維持している。朝鮮学校においては、基本的に授業は朝鮮語で実施され、朝鮮の歴史や社会についてもカリキュラムに盛り込まれている。他方日本史や日本社会の仕組みについての教育も行われるなど、日本の教育制度とも一定の相似性をもっている。
日本では、基本的に日本語で書かれた検定教科書を使用して授業を行う教育施設が「学校」とされているため(教育基本法第1条、第34条、第62条)、朝鮮学校をはじめとする外国人が母国語で独自の教育を行う施設は、「学校」として国の認可を受けることができない。
但し、学校教育に類する教育を行うものは、「各種学校」として、自動車教習所等と同じく都道府県知事の認可を受けることは可能であるので、朝鮮学校を含む外国人を対象にした教育施設の多くは都道府県知事の認可を受け、「各種学校」という地位に置かれている。
朝鮮学校をはじめとする外国人学校は、高等学校等就学支援金制度による場合を除き、国庫からの助成金を受けられない。また、地方自治体からは、一定の補助金を受けているが(補助金の額は自治体に応じて区々である。)、その額は、地方自治体が日本の学校に対して支給する補助金に比べて大幅に少ない。
この他、朝鮮学校に対しては、
(1)朝鮮学校の卒業生には当然には日本の大学の受験資格が認められない、
(2)欧米系評価機関の認定を受けたインターナショナル・スクールに対する寄付金は税制的優遇措置の対象となるのに対して、朝鮮学校に対する寄付金はかかる優遇措置の対象外となる等、各種の差別的取扱いが存在する。
(2) 地方自治体の補助金への影響
朝鮮学校に対しては、都道府県や市町村からの補助金が長年支給されてきたが、朝鮮学校の高等学校等就学支援金制度からの排除を背景にして、補助金の打ち切り・減少が相次いでいる。とりわけ、大阪府及び大阪市が2011年度に補助金を不支給にしたことを皮切りに、補助金の打ち切りや廃止の動きが全国に広がり、域内に朝鮮学校がある27都道府県のうち8都府県が、2013年度予算案に朝鮮学校への補助金を計上しなかった。
また、市町村レベルにおいても、補助金の不支給の動きが続いている。これらの補助金の不支給に際しては、多くの自治体が、北朝鮮の核実験や拉致問題の進展がないことを理由として挙げており、不支給の決定に際して政治的な考慮が働いていることは明確である。
子どもたち自身がどうすることもできない国外の政治的な事件の責任を子どもたちに負担させることは、朝鮮学校に通う在日コリアンの教育を受ける権利を侵害するものである。
(3)提言
教育を受ける権利は、およそ子どもたちに普遍的なものであり、特定の国家間の外交関係に左右されるべきものではない。上述したところをふまえ、LAZAKとしては、人種差別撤廃委員会が日本政府に対し、下記の勧告をされるよう要請する。
・ 日本政府は、朝鮮学校についても高等学校等就学支援金制度の対象に含めるべきである。
・ 地方自治体は、朝鮮学校への補助金支給の停止及び廃止措置を撤回するべきである。