奈良弁護士会
ttp://www.naben.or.jp/
会長声明一覧
ttp://www.naben.or.jp/date/2017/?cat=12
会長 緒方 賢史
2018/01/24
生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明
2017/06/21
修習給付金の創設を内容とする改正裁判所法成立にあたっての会長声明
会長 佐々木 育子
2017/02/22
「テロ等準備罪」 法案の国会提出に反対する会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2016/?cat=12
2016/12/12
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に対し、改めて反対し、廃案を求める会長声明
2016/10/21
違憲の安全保障関連法によるPKO新任務付与に反対する会長声明
2016/06/22
認知症徘徊事故訴訟最高裁判決に対する会長声明
2016/06/22
成年後見制度の利用の促進に関する法律に対する会長声明
2016/05/12
憲法に災害対策を理由とする緊急事態条項を創設することに反対する会長声明
2016/05/12
夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決に関する会長声明
会長 兒玉 修一
2016/02/22
消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する会長声明
2016/01/20
司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2015/?cat=12
2015/12/10
特定商取引に関する法律における訪問販売・電話勧誘販売勧誘規制の強化を求める会長声明
2015/12/04
集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に先立ち、内閣法制局が、憲法解釈変更の検討過程に関する文書を作成しなかったことに抗議する会長声明
2015/09/19
安全保障法制改定関連法の廃止を求める会長声明
2015/08/13
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
2015/08/06
少年法の「成人」年齢引き下げに強く反対する会長声明
2015/06/15
安全保障関連法案の廃案を求める会長声明
2015/04/15
商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令の廃止を求める会長声明
会長 中西 達也
2015/01/19
精神障がい者に対する福祉医療制度の拡充を求める会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2014/?cat=12
2014/11/07
特定秘密保護法施行令等の閣議決定に対する会長声明
2014/09/08
貸金業の規制緩和に反対する会長声明
2014/08/07
集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明
2014/08/07
「ヘイト・スピーチ」に反対し、その根絶に向けて努力することを宣言する会長声明
2014/05/13
行政書士法の改正に反対する会長声明
2014/04/16
解釈による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明
2014/03/17
司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明
会長 以呂免 義雄
2014/02/14
商品先物取引の不招請勧誘禁止規制撤廃に反対する会長声明
2014/01/07
家族法の差別的規定の全面的改正を求める会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2013/?cat=12
2013/11/18
特定秘密の保護に関する法律の制定に反対する会長声明
2013/06/17
犯行時少年の被告人の実名報道に関する会長声明
2013/06/17
憲法第96条の憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明
2013/06/17
犯行時少年の被告人の実名報道に関する会長声明
奈良弁護士会主催シンポジウム
「全面的国選付添人制度実現にむけて~全ての少年に付添人を~」 参加者一同
2013/02/23
全面的国選付添人制度の実現を求める集会決議
ttp://www.naben.or.jp/date/2012/?cat=12
会長 山﨑靖子
2012/12/23
民法(債権法)改正作業の見直しを求める会長声明
2012/11/21
生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明
2012/11/21
秘密保全法制定に反対する会長声明
2012/10/18
マイナンバー法制定に反対する会長声明
2012/07/26
生活保護制度に関して慎重な報道と行政の適切な対応を求める会長声明
2012/07/18
金利規制・総量規制の緩和に反対する会長声明
会長 飯田 誠
2012/03/14
大阪市のアンケート調査の撤回を求める会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2011/?cat=12
2011/02/16
司法修習生の給費制を1年延長する「裁判所法の一部を改正する法律」成立についての会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2010/?cat=12
会長 朝守 令彦
2010/12/13
秋田弁護士会所属会員の殺害事件に関する会長声明
2010/07/13
司法修習生に対する給費制の維持を求める会長声明
2010/06/22
全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明
2010/06/22
民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明
2010/05/17
取調べの可視化の早期実現を求める会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2009/?cat=12
会長 藤井 茂久
2009/11/20
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
2009/11/20
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
2009/10/13
司法修習生の給費制の継続を求める会長声明
2009/10/13
司法修習生の給費制の継続を求める会長声明
2009/08/31
足利事件に関する会長声明
2009/06/23
生活保護申請の代理に関する会長声明
2009/05/28
労働者派遣法の抜本改正を求める会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2008/?cat=12
会長 藤本 卓司
取調べの可視化(取調べの全過程の録画)実現を求める会長声明
2008/06/23
消費者のための消費者庁の実現を求める会長声明
2008/05/20
少年法「改正」法案に反対する会長声明
2008/02/02
奈良弁護士会多重債務者救済宣言
ttp://www.naben.or.jp/date/2007/?cat=12
会長 田中 啓義
2007/05/29
憲法改正手続法の抜本的な修正を求める会長声明
2007/05/09
「少年法等の一部を改正する法律案」の参議院での慎重審議を求める会長声明
三住 忍
2007/03/13
犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度に反対する会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2006/?cat=12
三住 忍
2006/11/13
教育基本法改正に反対する会長声明
2006/05/20
憲法の基本理念を堅持する宣言
福井 英之
2006/03/24
「奈良県少年補導に関する条例」についての会長声明
2006/03/20
貸金業の規制等に関する法律改正に関する会長声明
2006/03/09
ゲートキーパー立法に反対する会長声明
2006/03/09
「奈良県少年補導に関する条例(案)」に反対する会長声明
2006/01/27
仮称「奈良県少年補導条例(案)」要綱案に反対する会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2005/?cat=12
2005/11/17
共謀罪新設に反対する会長声明
2005/07/11
「少年法等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2004/?cat=12
2004/08/24
司法修習給費制の堅持を求める声明
北岡 秀晃
2004/07/21
「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」の廃案を求める声明
2004/07/21
「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」の廃案を求める声明
ttp://www.naben.or.jp/date/2003/?cat=12
2003/03/01
報告書「奈良の家庭ごみを考える」
会長 本多 久美子
2003/02/01
奈良裁判所新庁舎の建設に関する提言
ttp://www.naben.or.jp/date/2002/?cat=12
2002/11/20
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」案に対する意見書
奈良弁護士会
2002/07/17
住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期等を求める決議
2002/07/17
民事法律扶助事業に対する抜本的財政援助を求める決議
奈良弁護士会 常議員会
2002/06/12
有事法制3法案に反対する常議員会決議
ttp://www.naben.or.jp/date/2001/?cat=12
奈良弁護士会
2001/05/26
奈良地域司法計画(試案)
ttp://www.naben.or.jp/date/2000/?cat=12
会長 相良 博美
2000/07/11
ネパール人勾留決定問題に関する会長声明
2000/07/11
ネパール人勾留決定問題に関する会長声明
2000/06/12
「弁護士費用の敗訴者負担」に関する緊急要請
2000/06/12
弁護士費用の敗訴者負担に関する緊急要請
2000/05/20
司法改革に向けて奈良弁護士会は約束します
2000/05/20
司法改革に向けて奈良弁護士会は約束します
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生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明
2018/01/24
奈良弁護士会 会長 緒方 賢史
1. 昨年12月22日、内閣は、生活保護の基準を最大5パーセント引き下げ、その国費負担分を年間160億円削減することを含む2018年度予算案を閣議決定した。
今回の保護基準引下げは、昨年12月8日に厚生労働省が社会保障審議会生活保護基準部会の中で示した案の方向性に沿うものである。これは、2013年からの基準引下げ等の流れを更に推し進めるものであり、他方で児童養育加算の支給対象の拡大はあるにしても、特に子どものいる世帯や高齢世帯に深刻な影響を与えるといわざるを得ない。
2. そもそも、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するための具体的基準である。
しかし、生活保護基準は、これまでにも、2004年からの老齢加算の段階的廃止、2013年からの生活扶助基準の削減、2015年からの住宅扶助基準・冬期加算の削減と連続した引下げがなされており、現行の生活保護基準ですら、健康で文化的な生活を維持するために十分なものとはいい難い。とりわけ、2013年からの生活保護基準の引下げに対しては、奈良県を含む全国29都道府県において、955名の原告が違憲訴訟を提起し、現在も係争中である。
3. ところで、今回の基準引下げは、全世帯を10の所得階層に分けた上で、下位10パーセント(第1・十分位層)の消費水準に合わせて生活保護基準を「調整」するという厚労省案をベースにしている。
しかし、我が国では、生活保護の捕捉率(収入が生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯の割合)は2割ないし3割程度にとどまると推測されている。すなわち、第1・十分位層の中には、実際には、自身が生活保護を受給できるにもかかわらず、これを利用できず、最低生活費未満での生活を余儀なくされている人たちも多数存在する。
このような所得階層に合わせて生活保護費を「調整」すれば、「本来あるべきでない水準」に合わせて「本来あるべき基準」を引き下げる結果となりかねないが、これが不合理であることはいうまでもない。
4. 更に、我が国が批准している子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)では、子どもの身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての権利を認め(27条1項)、締約国に対し、この権利を実現するため、父母及び子どもについて責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとることを義務付けている(同3項)。また、休息、余暇、子どもの年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動、文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利も認めている(31条)。生活保護基準は、当然、これらの要求を満たすものでなければならないが、子どものいる世帯について、上記のような生活保護基準の引下げ等を行えば、同条約の趣旨にも反する結果となる。
5. 生活保護基準は、最低賃金、就学援助の給付対象基準、介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準等、労働・教育・福祉・税制等の多様な施策の適用基準と連動している。したがって、生活保護基準の引下げは、生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに、生活保護を利用していない市民の生活にも多大な影響を及ぼす。
6. 以上より、当会は、国に対し、来年度の予算編成過程において一切の生活保護基準の引下げを行わないよう求めるものである。
「テロ等準備罪」 法案の国会提出に反対する会長声明
2017/02/22
奈良弁護士会 会長 佐々木 育子
1. いわゆる「共謀罪」法案は、これまで国会に3回提出されたが、国民の思想信条の自由や表現の自由等を侵害し、捜査機関による恣意的な運用がなされる危険性がある等の理由で、いずれも廃案とされた。ところがこのたび、政府は、2017年の通常国会に、テロ対策を理由として、これまでの「共謀罪」とは要件をやや異にする「テロ等準備罪」を新設する法案を提出するとの方針を固めた。 2. しかし、今回の法案も、従前廃案とされた法案と本質的に変わるところがない。新聞等の報道によれば、今回提出予定の法案でも、組織的犯罪集団の活動として長期4年以上の懲役・禁錮にあたる罪を2人以上で「計画」することが処罰の対象とされている。処罰の対象はあくまで内心(計画)であって行為ではない。また、長期4年以上の懲役・禁固が定められている犯罪は、軽微な犯罪も含め600以上も存在している 。新たに付け加えられた「組織的犯罪集団」の概念も広範で、「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とされているため、有効な歯止めとはならない 。さらに、今回の法案では、計画をした者のいずれかが、「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為」をすることが客観的処罰条件とされているものの、 その「準備行為」なるものには、預金の引出や現場の下見など、日常ありふれた行為も含まれ得るから、このことも有効な歯止めとはならない。
そもそも、我が国の刑事法体系は、人の生命、身体、財産などの法益が侵害され、またはその危険性が生じて初めて、国家権力がこれを処罰できるというシステムになっている。人は悪い考えを心に抱き、口にすることがあるかもしれないが、しかし大多数の人は自らの良心や倫理観からこれを実行に移すことはなく、犯罪の着手に至らない。犯罪の処罰について、「既遂」を原則とし、必要な場合に限って「未遂」を処罰し、更にごく例外的にきわめて重大な犯罪に限って着手以前の「予備」を処罰しているのは、刑事法が「意思」を処罰するのではなく、法益侵害の現実的危険性がある「行為」を処罰するものであるからである 。しかし「テロ等準備罪」は、このような刑事法の体系を壊すものであり、組織犯罪との関係が疑わしく、未遂犯でも処罰の対象になっていない犯罪についても、そこに至るはるか前の段階から罪を成立させ、きわめて曖昧で広範な処罰を可能にするから、権力による濫用のおそれが極めて高い。
3. また、政府は、同罪を成立させる必要性について、かつては国連越境組織犯罪防止条約(パレルモ条約)批准の必要性を挙げ、今回はテロ対策を強調している。しかし、そもそもパレルモ条約は、国境を越えて活動するマフィアや、麻薬の密売、人身売買等の集団の行う経済活動を規制するものであり、国連が作成した立法ガイドからも、政治的宗教的なテロ組織を規制するものではないことは明白である。また上記の国連の立法ガイドでも、締結国に一定の立法裁量があることが記載されており、長期4年以上の懲役・禁固以上の犯罪に形式的に「共謀罪」を成立させないと条約が批准できないとは解されない 。
また、わが国におけるテロ対策としては、既に、殺人や放火、内乱等の重大犯罪の予備罪・共謀罪が50以上立法されている。また、爆発物取締罰則(陰謀罪)、化学兵器、サリン、航空機の強取などテロ行為となりうる行為については特別法で未遂以前の処罰が可能とされているし、アメリカ等と異なり銃砲刀剣類の所持も特別法で厳重に規制されている。しかも、判例上、予備罪の共謀共同正犯も認められている 。そうであれば、テロ対策としても、屋上屋を重ね、「テロ等準備罪」を制定する必要がないことは明らかである。
4. また、人の内心にわたる「計画」ないし「共謀」を処罰可能にすれば、これに対する広範な捜査活動も正当化されてしまう。今般、刑事訴訟法改正により、捜査機関の通信傍受の対象が拡大したが、「テロ等準備罪」が成立し、かつ、同罪も通信傍受の対象犯罪とすることになれば、市民の会話を日常的に監視・盗聴することも可能となりかねない。また、上記刑事訴訟法改正では、いわゆる「司法取引」も可能となったため、疑わしい行為を見聞きしただけで、処罰を免れようと過剰に反応して、捜査機関に通報するという事態を誘発しかねず、えん罪の温床となることも危惧される。
5. このように、「テロ等準備罪」法案は、その制定を正当化する立法事実を欠くだけでなく、過去に廃案とされた法案同様、国民の思想信条の自由や表現の自由、プライバシー権など憲法の基本的人権を大きく侵害し、相互監視社会を生む危険がある 。
したがって、当会は、その国会提出に反対するとともに、立法化の動きに対しては、これを阻止し市民の自由を保障するため、全力を尽くす所存である。
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に対し、改めて反対し、廃案を求める会長声明
2016/12/12
奈良弁護士会 会長 佐々木 育子
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下、「カジノ解禁推進法案」という)が、本年12月2日に、衆議院の内閣委員会で採決され、同月6日の衆議院本会議で可決された。自民党は、カジノ解禁推進法案を今国会で成立させることを目指しているとのことである。
カジノ解禁推進法案は、2014年11月の衆議院解散に際し一旦廃案となった後、2015年4月に再提出されたものである。
当会は、2015年8月13日付け会長声明において、カジノ解禁推進法案に対し、賭博は原則として違法であること、ギャンブル依存症が拡大し多重債務問題が再燃するおそれがあること、青少年の健全な育成への悪影響があること、暴力団対策上の問題点があること、マネーロンダリングに利用されるおそれがあること、経済的合理性への検証が不十分であること、奈良県民にも悪影響が及ぶおそれがあることを指摘し、廃案を求めていたところである。しかし、現時点に至っても、カジノ解禁推進法案は、これらの多くの問題点を何ら解決していない。
また、これまで犯罪行為とされていた賭博行為を合法化するという重大な法案であるにもかかわらず、衆議院での審議期間はわずか二日であり、国民の多くが反対している中で、衆議院で強行採決されるなど、審議が尽くされたとは言いがたい。
よって、当会は、カジノ解禁推進法案について、改めて、成立に強く反対し、廃案にすることを求めるものである。
違憲の安全保障関連法によるPKO新任務付与に反対する会長声明
2016/10/21
奈良弁護士会 会長 佐々木 育子
政府は、昨年9月19日に国会で採決され、本年3月29日に施行された安全保障関連法(改正PKO協力法を含む)にもとづき、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊施設部隊に対し、「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」の任務を付与するかどうかを、本年11月に判断する方針を固めた。
しかし、当会は、安全保障関連法自体が憲法に違反するものであり、無効であると指摘してきた。国連PKOも、かつての停戦監視から内容を大きく変化させており、南スーダンPKOを含め、国連安保理から武力の行使を容認されるのが通例となっている。それにもかかわらず、政府は、国連PKOにおける自衛隊の活動は、憲法が禁じた国家権力の行使としての「武力の行使」ではなく、個々の自衛隊員の「武器使用」に過ぎないという論理で、憲法との整合性を説明してきた。その矛盾が、いま、南スーダンで顕在化しようとしている。
すなわち、南スーダンでは、本年7月に大統領派と副大統領派の大規模な戦闘が発生し、市民数百人や中国のPKO隊員が死亡している。本月8日には民間人を乗せたトラックが待ち伏せ攻撃を受けて市民21人が死亡した。国連南スーダン派遣団は、本月12日の声明で、「暴力や武力衝突の報告が増加していることを非常に懸念している」との声明を発表した。
このような状況の下で、さらに、改正PKO法で新たに加えられた「駆け付け警護」や「宿営地の共同防護」などといった危険な任務を付与し、これらの任務遂行のための武器使用を認めるならば、憲法の禁じた「武力の行使」に発展し、自衛隊員が政府軍や反政府軍の兵士を殺傷したり、自らも犠牲になる可能性が極めて高い。
よって、当会は、政府に対し、南スーダンに派遣している自衛隊に対し、「駆け付け警護」や「宿営地の共同防護」などの新任務を付与し、これらの任務遂行のための武器使用権限を付与することに強く反対するとともに、改めて、違憲の安全保障関連法のすみやかな廃止を求めるものである。
憲法に災害対策を理由とする緊急事態条項を創設することに反対する会長声明
2016/05/12
奈良弁護士会 会長 佐々木 育子
1. 安倍晋三内閣総理大臣は、昨年11月の参議院予算委員会において、「国民の安全を守るため、国家、国民がどのような役割を果たしていくべきかを憲法に位置付けることは、極めて重く大切な課題」と述べて、憲法改正による緊急事態条項の創設について積極的な姿勢を示した。菅義偉内閣官房長官も、2016年4月に発生した熊本地震に関する記者会見において同様の発言を行っている。
ここにいう緊急事態条項とは、戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限(国家緊急権)を内閣総理大臣に付与する条項のことをいう。 しかし、当会は、憲法に災害対策を理由とする緊急事態条項を創設することに反対する。理由は以下のとおりである。
2. まず、根本的に、災害対策において必要であるのは事前の準備であり、災害の発生に備えた日常からの訓練である。憲法で緊急事態条項を定めたところで、災害に備えた訓練をしていなければ、災害が発生しても何の対処もできない。
3. 次に、現行憲法下においても、既に、災害対策基本法その他災害対策のための法律が制定されている。
例えば、災害対策基本法においては、災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすような場合には、内閣総理大臣は災害緊急事態を布告することができ(105条1項)、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の招集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないときは、生活必需物資の授受の制限、価格統制、債務支払の延期等をするために必要な措置を取ることができるとされている(109条)。また、大規模地震対策特別措置法では、内閣総理大臣が務める地震災害警戒本部長は、特に必要があると認められる場合には地方自治体に必要な指示を出すことができ(13条1項)、また自衛隊の派遣を要請することもできるとされている(同条2項)。さらに、災害救助法では、7条から10条において都道府県知事に、災害対策基本法では、59条、60条、63条から65条において市町村長にそれぞれ私権を一定の場合に制限する強制権が認められている。
このように、既に現憲法下においては災害対策に関する法整備がなされており、さらに憲法において災害対策に関する規定を定める必要性はない。
4. また、災害が発生する場所や時間によって住民の被害や必要となる対処法は千差万別となる。それゆえ、災害に的確に対処して住民救済の実を上げるためには、被災者に最も近い自治体、つまり市町村の判断を尊重し、そこに主導的な権限を与えることが必要となる。緊急事態条項によって内閣総理大臣に権限を集中したとしても区々に異なる災害現場の状況を逐一把握することは困難であり、むしろ災害の現場に対応しない画一的な対処しかできずに、かえって実効的な被災者救済を行い得ない危険性が高いこととなってしまう。
5. そして何より、緊急事態条項は、非常事態を克服するために内閣総理大臣等一部少数の者に強大な権力を付与するために濫用の危険が極めて高い。例えば、ナチスが独裁を獲得したことについても、ワイマール憲法48条に定められた大統領の非常措置権を濫用したことがその大きな原因として指摘されているところである。そして、緊急事態条項の濫用を防ぐための十全な抑止措置は存在しない。
6. このように、現行憲法下で災害対策のための立法が整備されていること、災害対策として緊急事態条項に十分な効果が期待できないこと、緊急事態条項の濫用を防止する措置を講じることはそもそも困難であり独裁への道を開く危険性があることから、当会は、憲法に災害対策を理由とする緊急事態条項を創設することに反対する。
夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決に関する会長声明
2016/05/12
奈良弁護士会 会長 佐々木 育子
1. 2015年12月16日、最高裁判所大法廷(寺田逸郎裁判長)は、夫婦同氏の強制を定める民法750条について、「直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない」として違憲ではないと判断した。
また、同法廷は、女性に対してのみ6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項について、「婚姻をするについての自由は、憲法24条1項の規定の趣旨に照らし、十分尊重に値する」とした上で、「本件規定(民法733条1項)のうち100日超過部分は、合理性を欠いた過剰な制約を課すもの」であり憲法14条1項及び同24条2項に違反すると判断した。
しかし当会は、同法廷が民法750条を違憲ではないと判断したことについては是認できない。また、同法廷が民法733条の再婚禁止期間を100日間の範囲で合憲としたことについても是認できない。
2. まず、民法750条についてであるが、同法廷の多数意見のようにその合憲性を「憲法24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超える」ものか否かという観点から判断するとしても、そこで問題とされるべき合理性は、木内道祥裁判官も指摘するように、「夫婦が同氏であることの合理性ではなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性」でなければならない。
そしてこの点について岡部喜代子裁判官(櫻井龍子裁判官、鬼丸かおる裁判官、山浦善樹裁判官も同意見)は、氏の変更により個人識別機能に対する支障や自己喪失感などの負担が生じるという認識のもと、現実にはその支障や負担がほぼ妻に生じていることを指摘し、その要因として、女性の社会的経済的な立場の弱さや家庭生活における女性の立場の弱さ、種々の事実上の圧力など様々なものがあることに触れたうえで、「夫の氏を称することが妻の意思に基づくものであるとしても、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用している。」として、その点に配慮をしないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、「個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超え」憲法24条に違反すると説示したが、正当な見解である。
当会も、意見を同じくし、例外を許すことなく夫婦同氏を強制する民法750条は、立法の裁量の範囲を超え、憲法24条に違反するものであると考える。
3. 次に、民法733条についてであるが、同規定の立法目的は、父性推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争を防止するところにあるとされている。しかし、DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることが可能となった現在では、再婚禁止期間を設ける必要性は大きく減退しており、女性に対してのみ再婚禁止期間を設けることは、たとえその期間を100日間に短縮したとしても、もはや立法目的を達成するための手段としては必要最小限にしてやむを得ないものとはいえず、合理性を欠くものである。
従って、当会は、女性に対してのみ再婚禁止期間を設けている民法733条は女性に対する不合理な差別であり憲法14条1項及び同24条2項に違反するものであると考える。
4. なお、政府はこの最高裁大法廷判決をうけて、平成28年3月8日、第190回通常国会に民法の一部を改正する法律案を提出した。同法律案は、民法733条1項の再婚禁止期間を100日間に短縮するとともに、女性が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合及び女性が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合に再婚禁止期間を適用しないとしている。
この改正が実現すれば、再婚禁止期間の適用を受ける女性の数は大幅に減少することになるが、やはり再婚禁止期間が設けられその適用がなされることにかわりはなく、不充分な改正であると言わざるを得ない。
5. 以上のような立場から、当会は、日本国憲法が定める個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した家族法を実現するため、国に対し、上記の趣旨に従い民法750条及び同733条を改正するよう強く求める。
消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する会長声明
2016/02/22
奈良弁護士会 会長 兒玉 修一
1. 政府は、「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という)を設置し、その中で、消費者庁と国民生活センターを徳島県へ移転することが審議されている。
しかし、当会は、以下の理由により、消費者庁・国民生活センターの地方移転に、強く反対する。
2. 東京圏への一極集中を是正する方策として、政府関係機関の地方移転を促進すること自体は、その機関に関連する民間事業者の地方展開を促す効果も期待され、地方の活性化に資する政策として評価することができる。
ただし、政府関係機関の地方移転に積極的意義があるとしても、地方移転により、当該政府関係機関が果たすべき本来の機能が損なわれることは許されない。有識者会議は、道府県からの地方移転に関する提案のうち、官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関や、中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関に係る提案、移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案については、移転させないとしている。
3. 消費者庁は、食品偽装問題や中国産冷凍餃子への毒物混入事件等重大な消費者問題の発生を受け、従来の消費者行政が各省庁による縦割りであったことによる弊害が問題視された結果、消費者行政を一元化し、安全安心な市場の確保を図るため、政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担うべき組織として創設されたものである。
消費者庁は、自ら所管する法の執行を担うほか、担当大臣の下で消費者行政の司令塔として、緊急の事態には関係省庁と対応の協議を行い、所管省庁がない場合には隙間事案として自ら対応し、所管省庁が所管法に基づく措置を取らない場合には措置要求を行う等の責務を担っている。そして、関連省庁が行う法改正に対しても意見を述べ、消費者政策全般に関する消費者基本計画の作成・見直しを行い、その作業過程において各省庁の関連部局と情報交換や施策実施の要請を行う役割がある。こうした司令塔機能を果たすためには、霞が関の各省庁に近接して消費者庁が所在し、いつでも関係部局の担当者と面談協議や資料提出要請を行うことが必要不可欠である。消費者庁の業務は消費者庁だけで完結するものではなく、司令塔機能を発揮するためには関連各省庁との緊密な連携が必須である。
大規模な食品被害等消費者の安全を脅かす事態に対しては、官邸および関係省庁との迅速な連絡協議によって様々な緊急対応を行う等、政府の危機管理業務を担うことが求められる。実際に、2013(平成25)年暮れに発覚した冷凍食品への農薬混入事件においては、消費者庁による他省庁との密な連携に基づく迅速な対応がなされた。
消費者庁は、他省庁とは異なり、創設後6年と歴史が浅く、基盤が盤石とは言えない。そのような消費者庁が、仮に、地方に移転したとすると、消費者庁以外の他省庁が移転する場合に比して、より一層機能が低下し、司令塔機能を果たすことができなくなることは明らかである。
消費者庁の地方移転は、まさに、有識者会議が移転させない場合として示した、官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関や、中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関に係る提案、移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案にあたるものである。
したがって、消費者庁を地方移転の対象とするのは不適当である。
4. 国民生活センターは、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の運用等により全国の消費生活相談情報を集約・分析し、一般消費者や地方自治体に情報を発信するとともに、消費者庁や各省庁の消費者関連法制度の不備や見直しの問題提起や立法事実となる資料提供を行う等、消費者庁ほか関連省庁との緊密な連携により、政府全体の消費者行政を推進する役割を担っている。
国民生活センターが、こうした役割を担うためには、消費者庁や他省庁との随時かつ直接の連携が必要不可欠であり、各省庁と近接し、緊密に連携しなければならない。消費者庁及び他の省庁から国民生活センターを切り離して地方移転することは、消費者行政全体の機能低下をもたらすことは明らかである。
国民生活センターの地方移転は、まさに、有識者会議が移転させないものとして示した、中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関に係る提案、移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案にあたるものである。
したがって、国民生活センターを地方移転の対象とするのは不適当である。
5. よって、当会は、消費者庁と国民生活センターを地方移転することについて、強く反対する。
司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2016/01/20
奈良弁護士会 会長 兒玉 修一
司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会・各弁護士会に対して,多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられているが,先日,同賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数717名の過半数である359名に達した。奈良県からも,3名の県内選出国会議員の皆様にメッセージをお寄せいただいた。
まずは,メッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し,心からの感謝の意と敬意を表するものである。
メッセージを寄せられた国会議員は,与野党を問わず広がりを見せており,司法修習生への経済的支援の必要性についての理解が得られつつあるものと考えられる。また、奈良県では,2015年10月9日,県議会において「司法修習生の経済的支援のあり方を検討することを求める意見書」が可決されており,司法修習生への経済的支援の必要性についての理解は一層進んでいると考えられる。
そもそも,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであり,国はかかる公共的価値を実現する司法制度を担う法曹になる司法修習生を,公費をもって養成するべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた。しかし,2011年11月から,修習期間中に費用が必要な修習生に対しては,修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。この修習資金の負債に加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている修習生も多く,その合計額が極めて多額に上る者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが指摘されているところである。
こうした事態を重く受け止め,法曹に広く有為の人材を募り,法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう,また,司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整えるため,司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。
去る6月30日,政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。
これは,司法修習生に対する経済的支援の実現に向けた大きな一歩と評価することができる。法務省,最高裁判所等の関係各機関は,有為の人材が安心して法曹を目指せるような希望の持てる制度とするという観点から,司法修習生に対する経済的支援の実現について,直ちに前向きかつ具体的な検討を開始すべきである。
当会は,司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当の創設)に対し,国会議員の過半数が賛同のメッセージを寄せていること,及び,政府においても上記のような決定がなされたことを踏まえて,国会に対して,給付型の経済的支援(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の改正を求めるものである。
集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に先立ち、内閣法制局が、憲法解釈変更の検討過程に関する文書を作成しなかったことに抗議する会長声明
2015/12/04
奈良弁護士会 会長 兒玉 修一
1. 昨年7月1日、政府は、1972(昭和47)年以降堅持してきた集団的自衛権行使は憲法上許されないとする政府見解を変更する閣議決定(以下、「本件閣議決定」という。)を行った。内閣法制局(以下、「法制局」という。)は、その前日に審査のため閣議決定の案文を受領し、閣議決定当日に、「意見はない」と電話で回答したが、その審査の際、集団的自衛権行使を容認するに至った過程を検証しうる文書を作成していないことが判明した。
2. そもそも、公文書等の管理に関する法律(以下「法」という。)第1条は、公文書が、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であることを確認し、公文書管理の目的が、「国民主権の理念にのっとり」「(公権力の)活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」であることを明記する。
また、上記目的を実現するために、法第4条は、行政機関の職員に対して、「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程を合理的に跡付け、又は検証することができるよう」文書を作成する義務を負わせているところ、文書を作成する事項として同条第2号に「閣議」が挙げられていることからすれば、本件閣議決定がこれに該当することは論を俟たない。
なお、同規定は事案が軽微な場合には、文書作成義務の例外を認めているが、内閣総理大臣が決定した「行政文書の管理に関するガイドライン」によれば、軽微な場合とは、「文書を作成しなくとも職務上支障が生じず、かつ当該事案が歴史的価値を有さないような場合」に限られるとしており、憲法解釈の変更という重大かつ歴史的意味を有する本件閣議決定の審査について、法制局が意思決定の過程及び回答内容の文書の作成義務を負うことは明らかである。
そうであるにもかかわらず、報道機関の取材に対して、法制局総務課長は、「今回は必要なかったということ。意図的に記録しなかったわけではない。」「法にのっとって文書は適正に作成・管理し、不十分との指摘はあたらない。」と回答し、内閣官房長官も本年9月28日の記者会見で法制局の対応を擁護した。
3. このような本件閣議決定の審査に関する法制局の一連の対応は、法が求める現在及び将来の国民に対する説明責任を放棄するものであり、法律を誠実に執行すべき内閣の責務(憲法73条1号)に反するばかりか、法が理念として掲げる国民主権原理(憲法前文)に対する重大な挑戦であると言わざるを得ない。
よって、当会は、集団的自衛権行使を容認するに至った過程を検証しうる文書を作成しなかった法制局の対応に強く抗議する。
安全保障法制改定関連法の廃止を求める会長声明
2015/09/19
奈良弁護士会 会長 兒玉 修一
本年9月19日未明、自衛隊法等既存の10法を一括して改正する「平和安全法制整備法案」と新法である「国際平和支援法案」が参議院で可決され、成立した(本声明では、成立した各法律を総称して、「安全保障法制改定関連法」という。)。
安全保障法制改定関連法は、他国のためにも武力行使ができるようにする集団的自衛権を認め、後方支援の名目で他国軍への弾薬・燃料の補給、武器の輸送等を世界中で可能とするものである。しかし、既に、多くの憲法学者や、元内閣法制局長官、そして元最高裁裁判官までが本法律を憲法違反と断じてきた。そして何よりも、多くの学生、学者、市民が本法律の成立に反対する声を全国各地であげてきた。
当会も本年8月22日に、「憲法違反の安全保障関連法案の廃案を求める市民集会・パレード」を実施した。そして、この集会では、当会の呼びかけに応じた約2500人の市民の参加のもと、次世代の子どもたちに平和な日本を引き継ぐ義務を果たすため憲法に違反する本法案を廃案にするよう求める旨の宣言を採択した。
このような法曹界、学界、市民からの強い反対の声にもかかわらず、憲法改正手続を経ることなく、また、政府と国会が憲法と本法律との関係についてまっとうな議論を尽くさずに本法律を成立させたことは、日本国憲法が掲げる恒久平和主義に反するばかりでなく、近代憲法の根本原理である立憲主義、民主主義の精神に反する暴挙であると言わざるを得ない。
そこで、当会は、国会に対し、憲法違反の本法律の速やかな廃止を求めるとともに、政府に対し、憲法違反の集団的自衛権を行使しないことを求めるものである。そして、本法律の廃止に向け、引き続き当会全体を挙げての活動を継続していくことを、ここに宣言する。
少年法の「成人」年齢引き下げに強く反対する会長声明
2015/08/06
奈良弁護士会 会長 兒玉 修一
1. 本年6月に成立した改正公職選挙法では、選挙権付与年齢を満18歳に引き下げるとともに、その附則において、「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされた。そして、これを受けて、自由民主党は、「成年年齢に関する特命委員会」を設置し、選挙権付与年齢にあわせて少年法の適用年齢もあわせて引き下げる方向での検討を始めており、今国会会期中には結論が示される見込みである。
しかし、以下のとおり、少年法の適用年齢の引き下げには反対である。
2. そもそも、選挙権付与年齢の引き下げは、若者の意見を国政に反映させると同時に、若者にも国政に関心を持ってもらい、民主主義をこれまで以上に機能させようとしたものである。他方、少年法の趣旨は、心身の発達が未熟で可塑性に富む未成年者に対しては、刑罰を科するのではなく保護処分によって教化をはかるべきという「保護主義」にあり、両者の趣旨は全く異なる。また、歴史的にみても、選挙権付与年齢と少年法の適用年齢は、常に一致していたわけでもない。したがって、両者の年齢を一致させなければならない必然性は乏しい。
3. ところで、昨今、少年が犯した一部の残虐な事件が大きく報道され、少年に対する処分は軽すぎる、重大な罪を犯した少年は、大人と同様に厳しく処罰すべきだ、といった意見が見受けられる。また、殺人、強盗、放火、強姦事件(以下「重大事件」という)等の増加を念頭に少年法の適用年齢を引き下げるべきとする議論もある。
しかし、いずれも説得力のあるものではない。現行の少年法においても、少年による一定の重大事件等については、検察官送致(逆送)により、成人と同様の刑事裁判を受ける可能性がある。そして、少年が刑事裁判を受けた場合の刑罰については、2014(平成26)年6月に、厳罰化する方向での改正が行われたばかりであるから、少年に対する処分が軽すぎるとは一概に言えない。また、最高裁判所の調べによれば、2013(平成25)年の少年保護事件の新受人員数は、2004(平成16)年に比べて47.8%も減少しており(この間の少年人口の減少率は9.7%にとどまる。)、少年犯罪は近年急減している。少年による重大事件についても増加しているとの事実はなく、2013(平成25)年における少年保護事件新受人員数全体のわずか0.6パーセントにすぎないことからも明らかである。
4. もっとも重要なのは、少年法の適用年齢の如何を議論するにあたっては、少年保護事件全体に及ぼす影響について慎重に考慮されなければならないことである。
この点、少年法の下では、少年は成人の場合と異なり、犯罪の嫌疑があれば全件が家庭裁判所に送致され(少年法第41条)、少年鑑別所や家庭裁判所調査官によって、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識を駆使して、少年自身や保護者、関係人の行状、経歴等の環境についてまで詳細に調査される(少年法第8条)。そして、これらすべての調査結果に基づいて、家庭裁判所は少年を健全に育成し少年の再非行を防ぐために最も適切な処分を下してきた。
仮に、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げると、18歳、19歳の少年が、これまでと異なり、成人の刑事手続で処分されることになる。その結果、少年鑑別所や家庭裁判所等による上記のような事件の背景事情等の調査が十分に行われないまま少年が処分されることとなり、かえって少年の更生の機会を奪い、少年の再犯リスクを高めてしまう危険性すら存在する。
5. 以上のとおり、少年法の適用年齢を引き下げるべき合理的な理由はなく、むしろ弊害が多い。したがって、当会は、これに強く反対する。
精神障がい者に対する福祉医療制度の拡充を求める会長声明
2015/01/19
奈良弁護士会 会長 中西 達也
1. 2014(平成26)年2月、奈良県は、精神障害者保健福祉手帳の1級・2級所持者に対して、これまでにも行われていた精神科通院医療費の自己負担分に対する助成に加えて、同年10月診療分より、全診療科の入院・通院についても医療費助成を行うこと(精神障害者医療費助成事業)を発表した。
これは、具体的には、各市町村が実施している障がい者に対する福祉医療制度につき、上記精神障がい者も対象に含めて医療費の助成を行うように事業変更すれば、県が自治体負担分の半額の助成を実施するというものである。
奈良県のこのような施策は、精神障がい者が現在置かれている生活状況等に照らしその福祉をより厚く保障しようとするものであり、高く評価することができる。
これに基づき、県内の全ての町村は、2014(平成26)年10月より既にこれに沿った事業変更を行い、精神障がい者に対する医療費助成を行っている。
2. しかし一方、全ての市(12市)は、現時点では、財源確保の困難さや他の障がいとの整合性等を理由として、事業変更の実施時期を明確にせず、あるいは事業内容につき独自に精神障害者保健福祉手帳1級所持者のみを対象にするなどとして、県の方針通りの事業変更に応じていない。
このような12市の態度は、理解に苦しむといわざるを得ない。
3. そもそも、精神障がい者は、2013(平成25)年に至ってようやく障害者雇用促進法における法定雇用率の算定基礎に加えられたこと等に象徴されるように、近年まで障がい者福祉施策の対象とは必ずしも捉えられていなかった。
しかし、そのような施策の遅れの結果、精神障がい者は、まず、身体障がい者や知的障がい者と比べても、雇用率が低い。その一方で、その障がい特性もあって障害年金の無年金者が非常に多いので、結果、経済的に困窮している者が少なくないという傾向がある。
他方、精神障がい者は、定期的な通院や服薬の必要性が高く、体調が安定しないために入院を繰り返すケースも多く、また生活習慣に起因した身体疾患を併発している者も多いため、他の障がい類型と比べても、医療ニーズが特に高い。
県の上記精神障害者医療費助成事業は、精神障がい者に対するアンケート調査等から判明したこのような深刻な生活実態を踏まえ、精神障がい者が必要な医療を受けられることを積極的に保障しようとしたものである。
それにもかかわらず、12市がこれに速やかに協調しないのは遺憾である。
4. わが国も2014(平成26)年1月に批准した「障害者の権利に関する条約」は、障がいとは社会に存在する障壁によってもたらされるものであり、その障壁の解消に向けて取り組むべきは社会の側の責任であると高らかに述べている。
精神障がい者が医療を受けたくとも受けられない状態はまさに社会に存在する障壁によってもたらされる障がいである。したがって、一刻も早く必要な医療を受けられるようにすることは社会の責任である。また、それにより精神障がい者の自立及び社会参加が支援されることにもなり、ひいては、「全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現(障害者基本法1条参照)にも繋がり得るのである。よって、それは自治体にとって必要な財政支出である。現に、県内の各町村は、そのことを理解したうえでこれに取り組んでいるのは、前述のとおりである。
それにもかかわらず、12市が身体障がい者及び知的障がい者に対し福祉医療制度を実施しながら、県の施策方針に反し、「他の障がいとの整合性」といった必ずしも合理的とはいえないような理由に基づいてあえてことさらに精神障がい者をその対象に含めないとすれば、それは、精神障がい者に対しその社会的障壁の大きさを軽視し、差別を助長することになりかねない。
5. したがって、当会は、精神障がい者の医療を受ける権利を実質的に保障するため、現在、精神障がい者に対する福祉医療制度について未実施の12市に対し、速やかに、奈良県の方針に従い、精神障害者保健福祉手帳の1級・2級所持者もその対象に含めて実施することを求める。