かつて,LIBRA の特集で「日米法律事情比較」と題し,デーブ・スペクター氏,八代英輝会員及び矢吹公敏会員による座談会を企画した(2011 年 4 月号)。今回は,東京で活躍されている外国人弁護士 3名をお呼びし,日本の法曹事情を語ってもらうことにした。もっとも,外国人弁護士とは,正式には「外国法事務弁護士」と言い,外国の弁護士有資格者が法務大臣の承認を得たのち日弁連に登録し,原則として原資格国法に関する法律事務を行うもので,日本国内での民事・刑事訴訟は職務としては行うことができない。2016 年 11 月 1 日現在,日弁連に登録している「外国法事務弁護士」は,412 名であり,うち東弁登録者は,76 名である。
参加者 3 人は,それぞれオーストラリア,ドイツ,アメリカ・カリフォルニア州の弁護士資格をお持ちであり,イギリス系,大陸系,アメリカ系ときれいに構成が分かれたことも,議論に広がりをいただいた所以である。
(味岡 康子)
日 時:2016年9月5日(月) 場 所:弁護士会館5階501会議室
出席者:クリストファー・マーク・ホジェンズ(2002年登録/オーストラリア)
ミヒャエル・アンドレアス・ミュラー(2007年登録/ドイツ)
ネルス・クリスチャン・ハンセン(2016年登録/アメリカ合衆国)
司 会:味岡康子(LIBRA 編集委員・47 期)
─ 日本に赴任することが決まった時,会社や友人,家族から言われたことは?
ホジェンズ:日本に赴任してきたのは,約17年前。周りの人や自分の家族,親なども,以前から私と日本との縁についてよく知っていたので,ベーカー&マッケンジー(以下「ベーカー」という)の東京事務所に移籍することについては特段びっくりする反応はなかった。また,ベーカーの同僚に関して言えば,日豪関係についてすでに認知度が高かったので驚いてはいなかった。当時は,日本からオーストラリアに対する投資や観光ブームがちょうど下火になったところで,自分のキャリアにとっても,東京事務所やシドニー事務所の関係から見ても,同僚の皆が後押ししてくれたと思う。
ミュラー:私も,滞在経験が以前にあったので日本との縁は前からあった。最初に日本に来たのは19歳であった。日本の文化を勉強するために3年滞在し,私の家族や友達は私が人生の中心に日本を置いていることをみんな認識していたので誰も驚いてなかった。
ハンセン:私の場合は,3年半ぐらい前に赴任した。
赴任前のパロ・アルトオフィスのトップパートナーが知日派だったので,東京オフィスへ転勤しないかと聞かれたとき,そのパートナーにアドバイスを聞いた。以前はそのパートナーも含めて色々な方が弁護士としての経験を十分積む前に行かない方がいいと言っていたが,日本への赴任が決まったときは米国現地でのM&A経験が十分あったので,行きたければ行ったらいい,行きたくなければ残ったらいいと言われた。アジアに職務経験がない他の殆どの同僚は,日本との縁が薄いので,寿司がおいしいのではないかという程度だった。
── 母国の法体制について,簡単に教えていただき,それを前提に話を進めたい。
ホジェンズ:オーストラリアは,イギリスの植民地だったので,英国の制度や法律などを数々導入したわけだが,現在のオーストラリアの法体制自体について言えば,連邦政府および州政府,準州政府の法律,それから裁判の判例によって作られている,いわゆる判例法主義と言ってよい。
ミュラー:ドイツ法はフランス法と同じように大陸法である。1871年にドイツの統一国家ができたが,ドイツ法のほとんどは,主にプロイセン一般ラント法(プロシア法)が元になっている。
ドイツ法全体はオーストリア,スイスなどのドイツ語圏をはじめ,ギリシャ,トルコ,日本,韓国,台湾,中国などの法制度の源流になる。日本の資格制度とまったく同じだが,国家試験に合格した場合は裁判官の資格,検事の資格と弁護士の資格,司法関係のそれぞれの仕事ができるようになる。日本の司法修習制度はドイツのシステムを参考にして作ったシステムである。日本の法律用語も明治維新以後,大正も含めて,主にドイツ語の法律用語を直訳して作った法律用語である。だからドイツ資格の弁護士として非常に分かりやすい。
ハンセン:米国の場合,オーストラリアと同じようにもともと英国の法律が元となっているが,それ以降数百年の歴史もあり,当然判例も憲法・法令も違ってきている。
法体制をもう少し広く申し上げると,日本の新司法試験制と同じように,ロースクール制が50年ぐらい前につくられたが,基本的に大学を卒業してから3年間勉強をしないと司法試験を受ける資格がないということになっている。日本と比べて合格者が非常に多いのも特徴の1つかと思う。毎年約5万人が弁護士になっているので,日本の弁護士の全体が
1年ぐらいでできてしまう規模の弁護士を毎年輩出している制度となっている。
また,法律事務所に限らず弁護士資格が様々な職場で評価され,弁護士資格を持っている人がかなり幅広い業務に従事しているのも特徴の1つかと思う。
ホジェンズ:1つ加えると,ミュラーさんのおっしゃるドイツ法の場合と違って,日本法はイギリスのコモンローと異なり,歴史的に判例法をあまり根拠としないところが大きな違いである。唯一,イギリス法をモデルにした日本の法律は,民法の特別損害と普通損害で,これはイギリスの有名な古い判例に基づいたものだと記憶している。
ミュラー:会社法もアメリカ法の影響を少し受けていると思う。
ホジェンズ:おっしゃる通り。日本の基本法はコンチネンタル・ローをベースにしている法律だが,戦後はどちらかというとアメリカ法の影響が大きいところもある。
ミュラー:それは会社法中心だ。例えば日本民法も今,債権法の改正準備中であろう。
そこもまた一番参考にしているのはドイツ民法になる。ドイツ民法は,少しずつ改正しながら今の民法になってきており,日本の民法も続けてドイツ法を参考にしているのでは。だからアメリカはかなりリーダーシップを取っていることは取っているが,1回できた大陸法のシステムを完全にアメリカ法に切り替えることは無理。戦後アメリカの希望はあったかもしれないが,日本は憲法だけ変えたのだ。
──では,初めて来日して驚いたことは?
ホジェンズ:実は,私が初めて日本に来たのは,先ほど申し上げた赴任したときより前で,まだ学生時代の36年前である。記憶が少し薄れている部分もあるが,最初に何に驚いたかというと,成田空港から東京までの距離のことである。タクシー代がべらぼうに高くて,それが1つの驚きであった。
ミュラー:私が最初に驚いたことは,とてもアメリカ化している印象を受けたことだ。日本に行く前に,日本の文化,日本の伝統にあこがれて,日本の伝統を大切にしている国だと当然思っていたが,日本に着いたらものすごくアメリカ的だった。そういう印象はあったのだが,何年か日本に滞在して,アメリカ的ではあるが,そこからさらに日本独自に変化している部分が結構多いと気が付いた。
ハンセン:私は,まず日本人の優しさに驚きを覚えた。初めて来日した時はホジェンズ弁護士の事務所で,インターンの機会をいただいた。その際に行き先のアパートに行こうとしていたところで,飛行機の隣に座っていた方がテレホンカードを渡してくれた。また,コインテレホンを使おうとするとコインがないので使えず,コインをいただき,居酒屋にも連れていっていただいて,いろいろ案内していただいたこともある。
その同じ夏に,道を歩いて迷っていたら,若い方が駅までずっと歩いて案内してくれた。共通の知り合いがいたのだが,何回か居酒屋に行ったり、カラオケに行ったり,優しくしていただいた。今は国会議員になっている。そのように合縁奇縁というか,不思議なほど優しくしていただいたのは驚きであった。2つ目はラーメンのおいしさに魅了されたこ
と。その2つのことが契機となって今は日本にいると思う。
── 日本での普通の一日の執務内容は?
ホジェンズ:普通の典型的な日というのはないかもしれない。例えば,クライアントとの接触もあれば,請求書のレビューなどのアドミ(総務)的な業務もあり,日によって異なる。それからパートナーなので,当然,若手の育成に関しても責任があり,そのためのトレーニングの準備や実施を行うこともある。大きい国際法律事務所なので,東京事務所の弁護士以外に,他の国の事務所の弁護士との打合せや会議などもあり,海外に出張することもある。勤務時間の平均は,私は少し遅めで,10時から21時ぐらいまで。家に帰ってからリモートで作業するのも好きなので,事務所にいる時間イコール就業時間でないところもある。
ミュラー:私も事務所を始めるのは遅めで,10時から始める。住んでいるのは結構遠くて,神奈川県に住んでいる。通勤は,駅まで15分ぐらい歩く。通勤の時間は丸1時間。遅く出ればだいたい座れる。だからそのために少しずらして遅めに行くのである。大体
9時発の電車に乗ると座れるので,ノートパソコンで電車の中で仕事ができる。前の晩にドイツから来たメールなども全部見て回答することも。それで10時以降に事務所に着いてから,クライアントとの打合せの準備など。日本のクライアントが多い。ドイツ法の案件について,ドイツと取引して,準拠法がドイツ法になっている場合は当事務所に直接来て打合せをすることが多い。
日本のお客さんは電話でのやりとりでなく,直接会って話をすることが好きだ。だから,東京のお客さんのほか,名古屋とか,遠いところは九州から来る場合もある。紹介されることが多いが,結局,実務的に案件を担当させてもらうのは1回会ってから。
そこで会って打合せをするときに,資料を全部見せてもらって,具体的に質問もする。それは午前中あるいは早い午後,13時,14時以降である。
あとは,事務所の方はドイツから司法修習生がいつも来ている。日本の司法修習制度と同じだが,ドイツはまだ2年間である。それで2年間のうちの最後の3カ月は海外に行ってもいいことになっている。条件はドイツ資格の弁護士に付いて研修を行うこと。
それで東京に来たがる司法修習生も多いので,私の事務所には必ず2人ぐらいいる。そういう司法修習生にも仕事を与えたり,日本のことを少し教えたりすることもある。だいたい司法修習生をランチに連れていく。
午後は日本のお客さんが来る場合もあるし,いない場合は意見書とか,契約作成とか,そういうPCの業務が多い。17時以降,だいたいはもっと遅い時間だが,ドイツから連絡が入ってくる。残念ながら日本とドイツの間は非常に時差があり,ドイツのクライアントから連絡が来るのはだいたい18時以降である。
かなり遅くまで事務所にいなければいけない場合が多く,そこは非常につらい。アシスタントも帰った後に1人残って,請求書作成等の仕事もある。日本では資格がないので裁判所に行くことはほとんどない。
── 先ほど,日本の方が直接お会いして話したがるとおっしゃったが,クライアントが来るときは法務部の人が来るのか,それとも顧問弁護士が来るのだろうか。
ミュラー:顧問弁護士に紹介された法務部が殆どである。法務部だけでなく,取引を担当している営業担当とか,直接取引の責任のある部署の方が一緒に来る。案件の内容は,契約作成,修正もあるが,ドイツでの訴訟も多い。訴訟の場合はどういう流れで,何でこういう問題が発生したか等,細かい質問をすると顧問弁護士,あるいは法務部の人では分からないので,営業の担当者が一緒に来ないとだめで,3人から6人が一緒に来ることも少なくない。
ハンセン:M&Aがメインだとどうしても仕事の波があるので,激しいときは1つの案件だけでも1日20時間ぐらい稼働しているときがある。先週末もそうだったが,今年は私の仕事の半分以上が西海岸のテクノロジー会社の,日本とは関係のないM&A案件にな
っている。その時差の関係でも深夜の仕事が比較的多いかもしれない。日本と関係のない案件になると,当然ながら電話会議の予定時間を合わせてくれない。
そういう案件が激しいときは,例えば深夜2時から6時ぐらいはずっと電話会議で,その後M&A契約の修正や交渉が始まって,わりと日本にいなくてもいいような生活になってしまう。それがここ3年半の私の仕事の半分ぐらいで,あとの半分は日系企業のアジア,米国もしくは欧州を対象にしたM&A案件・投資・その他の日本と関係がある案件になる。
日本の銀行のクライアントになると,朝早いので,8時からいろいろ対応して,午前11時ぐらいまでにそれが終わるのが多い。その他のクライアントの対応も,打合せ・電話会議が多いときは朝8時から17時まで時間が経ってしまう。欧州関係の日系企業の海外買収案件が入っているときは,15時ぐらいから欧州からのメールが始まるので,15時からが忙しくなる。最悪のパターンはアメリカ・欧州両方が同時に起こっている時期で,そうすると,いつ寝ても危ない。それが一番つらい。
ミュラー:そこは私がこれまでの弁護士の体験として一番つらかったことと同じだ。日本企業とドイツ企業と,あとアメリカ企業。3企業とも車の部品メーカーだが,3カ国の合弁会社設立の案件があり,電話会議をデトロイトとフランクフルトと東京で同時にしなくてはいけなかったのだが,時間設定が非常に無理で,終電に間に合わなかったことが3回もあった。
── 法律関係で日本で初めて驚いたことを教えていた
だけるだろうか。
ホジェンズ:自分の資格はオーストラリアの中のニューサウスウェールズ州の資格である。日本に来た当時は,ニューサウスウェールズ州の資格を有するロイヤーの数は2万人を超えていたので,人口がオーストラリア全体の5倍の日本の弁護士の総数がそれ以下だというのを聞いて驚いた。
ミュラー:日本で初めて法律関係で驚いたことはたくさんあるが,大きく言えば2点ある。1つは憲法裁判所がないこと。憲法裁判所がないことはドイツではとても考えられない。法律の解釈は,もちろん民法の場合は一般の地方裁判所が担当し,その上に最高裁判所があることもドイツも日本も同じである。基本権,人権の問題もあるので,最高裁判所が人権,基本権を十分反映せずに判決した場合は,その上に憲法裁判所があることはドイツの法律の解釈の当たり前のところである。それが日本にはないことは非常に驚いた。最高裁判所はその役割を少し果たしていることは認識しているが,ただ独立性がないのではないかと気になっている。
2つ目は,ドイツは法務関連の専門職は主に,弁護士,税理士,あとは公証人。公証人も今は弁護士資格だから,弁護士と税理士,弁理士,その3つしかない。日本はそれ以外の,司法書士,行政書士,社会保険労務士などの職業もあることは非常に驚いた。これらの仕事は全部,弁護士あるいは公証人がやる。
ハンセン:私の場合だと,自分の業務とは関係しないが,労働法であまり自由に人を解雇できないと聞いて驚いた。アメリカだと,電話がかかってきてクビだと言われた瞬間に終わりなので,それと比べると対照的である。
あとは離婚についても,それも同意の上でないと難しいと聞いたことがあるが,アメリカだと,嫌になったら出ていけるような軽い制度になっている。幸い職務においても自分の人生においても両方とも体験したことのない話だが,その話を聞いて非常に驚いた。
ミュラー:労働法の適用はドイツ法からの影響がある。ただ,ドイツで法律を2000年に改正して,10名以下の中小企業の場合は容易に解雇できるようになった。零細企業はなかなか人を雇うことが不可能である。経営者が1人いて,3人ぐらい雇うということだと,正社員にしないと優秀な人を雇えない。そこを最初から解雇できない条件だと,経営者としてリスクが非常に高い。だから10名以下の会社は解雇の制限が緩いというドイツの労働法の改正は非常に意味があったと思う。
日本の考え方は,労働者のためと解釈しているが,中小企業にとって優秀ではない人を辞めさせる方法がないことは,人を雇うことの制限となる。そうすると,結局パートタイムか契約社員しか雇わない。若い人が実務経験を積むチャンスがなかなか発生しない。だから若い労働者のためにも改正した方がいいと思う。
── 契約に関する考え方が自国と違うなと感じることは?
ホジェンズ:日本に赴任した当時はアソシエートという地位だったので,実務に携わるなかで数多くの英文契約書の作成とレビューの手伝いをしていた。その際に日本の契約書と比較する機会が多かったが,日本の契約書の作り方は,基本がまるきり違っていた。
まずボリュームが少なく短いところ。内容について言えば,先ほど申し上げたようにオーストラリアの法体制はイギリスから引き継いだものなので,オーストラリアあるいはイギリスのクライアントは,日本のクライアントと契約書に期待する点が異なる。海外のクライアントは,契約書の条項に,将来起こり得る可能性に対して明確な内容が反映されていることを期待するのである。
一方,日本の契約書は逆に,将来のこと,あるいは細かいところにあまり触れずに,原則論が中心で,契約はお互いの信頼のもとに結ばれている。従って,悪く言えば内容があいまいだ。西洋のロイヤーの目から見ると,そこが違うという印象を受けた。
ミュラー:ホジェンズ弁護士がおっしゃっているあいまいな定めになっていることが多いことはその通りだ。
また,口頭の約束だけで取引が成り立っているケースも少なくはなく,そこはドイツではなかなか考えられない。口頭の約束で海外で取引することは,関係がよければよいが,争う場合は非常に難しくなる。
弁護士として最初に困ることは,口頭の約束だと,準拠法は何を使うか。裁判管轄をどこにするのか,どこにも約束してない,どこにも決まってない。だから国際私法から仕事が始まることがすごく多い。
中小企業の場合は圧倒的に多いと思う。信頼関係を大切にしようとしている日本人の考え方もよく分かる。取引相手と仲良くすれば契約につながるのではないかという考えはいいのだが,ただ,例えば瑕疵担保の責任の問題とか,瑕疵が発生した場合どうするか等何も決まってなければ本当にそれぞれの民法を確認するしかない。
契約関係で,あいまいという言葉についてもう1つコメントさせていただきたい。日本とドイツとの契約で英語を使うことが問題になる。英語を使うと,日本法あるいはドイツ法に完璧に合う言葉がない場合が多い。だから英語を使って契約を作成すると,誤解の原因になる。ただ,(共通言語として)英語を使わざるを得ないので,そこは内容を明確にするためにたまに日本語かドイツ語を追加することがある。
英語自体もあまりフィットしないとあいまいさから誤解の原因になることも結構ある。言葉の解釈の問題で,1対1に同じ意味の言葉がある場合もあるし,ない場合も多い。
最後にもう1つ。国際取引関係で日本企業が海外と契約を締結する場合,契約のドラフトは片一方が準備することは普通だが,日本人は先方が契約をドラフトして送ってきた場合は修正を入れずに,その条件をのむことが多い。そこは,私は,契約ドラフトにたくさん修正を入れる。これは条件が悪いから変えるべきなど必ず入れる。ただし,裁判になってから,初めて契約を見せてもらう案件も多い。そこで,誰がこの契約をつくったのかと聞くと,相手の方がつくったと。ではその中に修正を入れたのか。いや,まったくしないでそのままにしたということがよくある。それは,日本側の会社が自分の条件,立場を悪
くしている。
ハンセン:そういう経験はやはりある。原因としては,国際的に活躍している会社の話になると全然違うと思うが,一部の国際取引に慣れてない企業だと,契約書が送られてきた時点で,それでよいのではないかとネガティブチェックの略としてネガチェックという言葉を使うが,そこにあまり金を掛けないで,本当にとんでもないことが入ってないかだけをチェックしてくださいというニュアンスで依頼してくることが多い。その会社は,まだ,そのままのんでしまって後で争って負けてしまった経験が薄いからこそ,こういうことが起こっているのではないか,弁護士が契約書をちゃんと見て修正をいっぱい入れて交渉するメリットがまだ十分理解できてないのではないかと,私はそう見ている。弁護士のことをコストだけでなく,弁護士が提供できる付加価値について,もう少し理解してもらうことが必要なケースが日本においては非常に多いと感じている。
ミュラー:そこはもう1つ追加してもよろしいだろうか。弁護士の数が少ないことと関係するかもしれないが,日本では中堅企業でも法務部の方々は必ずしも弁護士ではない。ドイツでは法務部の人は必ず弁護士資格がある。アメリカ,オーストラリアも同じだと思う。
専門性が足りない場合があると感じることがある。そういう意味では,法務部で専門性のある担当者を増やすべきではないかとも思う。
ハンセン:企業それぞれ社内で非常に長い国際取引の経験を持っていながら実は資格がないという方も多いと思う。特に小さい企業,あるいは国際的な取引をあまりしていない企業になると,おっしゃる通りまだ法務部としては誤字がないか等しかしない会社もあると言われるので,何とかその能力を高めないと不利益に働くのではないかと心配している。
ミュラー:その問題を認識している会社は必ず外部の弁護士に見てもらうという条件を設定する場合もある。そうなればいいが,ただ社内で判断することは結構不利な結果になると思う。