平成18年4月20日共謀罪の新設に反対する会長声明
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衆議院法務委員会の理事会は、4月18日、共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」について、21日に審議入りし、与党から修正案の趣旨説明を受けることを決めた。今月末にも、採決にいたる可能性がある。
共謀罪は「長期4年以上の刑を定める犯罪」について、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀した者」を処罰しようとするものである。
しかし、共謀罪は、市民の基本的人権を侵害し、市民生活に重大な脅威をもたらす恐れがある。当会は共謀罪の新設に強く反対する。
1.共謀罪は、団体の構成メンバーが犯罪の合意をするだけで犯罪として処罰している。刑法の謙抑性に反する上、犯罪の構成要件である「団体」、「共謀」などの内容が極めて不明確であり、乱用の懸念が払拭できない。近代刑法の原則である罪刑法定主義に反する。
2.共謀という合意が処罰の対象になるが、合意は内心の意思の合致であり、内心の思想・意思と殆ど異ならない段階のものである。このような合意段階から処罰することは、意思や思想の処罰につながる恐れがあり、思想・良心の自由、表現の自由などに対する重大な脅威となる。
3.共謀罪では、人々の会話、電話、メールの内容そのものが犯罪となるので、犯罪捜査のための盗聴などの強化に繋がる可能性がある。その上、共謀罪の対象になる犯罪が600以上も存するので、監視社会を招く恐れがある。
4.与党は、修正案を提示し、対象団体を「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体である場合に限る」と限定した上、犯罪の合意だけでなく、「共謀に掛かる犯罪の実行に資する行為が行われた場合」という要件を加えるとしている。しかし、犯罪の共謀がなされるとそれが団体の共同目的とされてしまい、結果として全ての団体が共謀罪の対象になる恐れがある。また、後者についても、「資する行為」が曖昧である上、共謀罪の成立を立証するために必要となる外部的行為の存在を掲げたに過ぎなく、共謀罪の成立を限定することにはならない。従って、与党の修正案は、共謀罪の不当性を何ら解消していない。
2006年(平成18年)4月20日
岐阜県弁護士会 会長 武藤壽
平成17年7月2日「少年法等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
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本年6月14日、国会において、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下単に「本法案」という。)の審議が開始された。現在の政治情勢に鑑みると、今国会中にも本法案の採決が行われるとの見通しが強まっている。
本法案は、(1)触法少年及びぐ犯少年に対する警察の強制調査を含む調査権限を認める、(2)少年院に収容可能な年齢の下限を撤廃する、(3)保護観察中に遵守事項に違反した少年の少年院送致を可能にするなどの内容を含むものであるが、いずれの点においても以下のとおり重大な問題を孕んでいる。
まず、(1)については、真実発見のためには触法事案やぐ犯事案についても警察の調査権が必要との考えに基づいて立案されたものと言われる。
しかし、刑事未成年者に対する調査や処遇については、警察ではなく、福祉的見地を重視し、児童心理に対する理解も深い児童相談所を中心として行う事が適切である。14歳以上のぐ犯少年についても、当該少年が将来罪を犯すおそれがあるか否かの判断にあたっては、福祉的な観点も極めて重要な要素となるのであり、やはり警察ではなく児童相談所を中心として調査、処遇を行う事が適切である。現行法もかかる理解を前提として立法されている。また、「ぐ犯のおそれのある」少年も警察の調査の対象とするなどということは、事実上すべての少年を警察の監視下に置くことにつながり、重大な人権侵害である。
本年6月13日発表の厚生労働省研究班の調査結果によれば、児童相談所に非行相談のあった児童の約3割が親などによる虐待を、半数近くが親の離婚等による教育者の交代を経験しているとのことであり、近時ますます現行法の福祉重視の理念の深化が求められていることが明らかである。本法案はこれに逆行するものである。
むしろ、児童相談所の態勢を充実強化し、調査能力の向上をはかることこそ今求められているのである。それをせずに安易に警察を頼りとすれば、警察の厳しい取調べに耐えられない少年が警察官に迎合した供述をすることによるえん罪発生の危険性があり、かえって真実発見からも遠ざかる結果になりかねない。
次に、(2)については、近時14歳未満の少年が社会の注目を集める重大事件を引き起こすケースが散見され、かかる少年にも相当期間の身柄拘束を伴う処分をすべきとの考えに基づいて立案されたものと言われる。
しかし、このような事件は従前から一定数発生していたのであって特別に近時増加したわけではなく、かかる少年については、生育歴や家庭環境の問題から情緒が十分に育っていない等の複雑な問題を抱えている者が多く、そのため福祉的援助を必要不可欠としているのであり、一定の強制力を伴う矯正教育の対象とするのは適切ではない。上述の厚生労働省調査結果もこのことを如実に示すものであり、家庭的な雰囲気の下で少年の「育てなおし」を図る福祉的趣旨で設けられた児童自立支援施設を今こそ充実強化することが強く求められている。加えて、上記の立案の趣旨は、少年院を少年に対する処罰の趣旨を含む身柄拘束機関とする捉え方を前提とするものであり、かえって矯正施設としての少年院の特性を否定するものである。
また、(3)については、保護観察の実効性を少年院送致という強制力で担保しようという考えに基づいて立案されたものと言われる。
しかし、ぐ犯の程度にすら至らない遵守事項違反のみをもって少年院送致をすることは憲法39条後段の二重処罰禁止に抵触するおそれがある。
そもそも保護観察は終局処分であり、保護観察所や保護司と少年との信頼関係を基礎とし、社会内において、少年が試行錯誤し、時には遵守事項を逸脱してしまうことも認めた上で、少年自らが少しずつ規範意識を熟成していくことを期待するという福祉的側面も有する制度であり、今日まで概ねよい成果を挙げている。上述の厚生労働省調査結果に鑑みれば、今後も現行制度の更なる充実強化が求められている。ところが、遵守事項を守らなければ施設収容されると威嚇されれば、自発的な真の更生など期待できず、保護観察制度を変容させることとなる。仮に、保護観察の実効性に問題があるというのであれば、保護観察所・保護監察官及び保護司の充実強化こそを必要とすべきである。
よって、当会は、本法案には反対の意思を表明するものである。
2005年(平成17年)7月2日
岐阜県弁護士会 会長 毛利哲朗
平成16年7月3日司法修習生の給費制維持を求める声明
司法制度改革推進本部の法曹養成検討会は、本年6月15日、司法修習生に対する給費制に代えて、貸与制を平成18年度から導入する旨の意見の取りまとめを行い、今後かかる方向での法案作成がなされる見通しとなった。
そもそも給費制、すなわち国費による法曹養成制度が今日まで採用されてきたのは、それが単なる有資格者の養成ではなく、「法の支配」を具現化するという高度の公共性を有する人材の育成であって、その存在が国民の人権擁護や民主主義の確立という国家にとっての至上命題の実現のため必要不可欠であるからである。
今般の司法制度改革は、「法の精神、法の支配がこの国の血となり、肉となる」(司法制度改革審議会意見書)ことを目指すのであるから、上述の給費制の意義は時を経て薄れるどころか、近時ますます高まっていることは疑いようのない事実である。
しかるに、法曹養成検討会において上述のような取りまとめがなされたことは、上述の給費制の意義を十分考慮に入れないまま、専ら財政事情のみに思いを致した審議結果と言わざると得ず、極めて遺憾である。
当会は、今後国会等の場で給費制の意義について今一度十分な理解と吟味がなされた上で、給費制維持の方向に向かうことを強く希望するものである。
また、法曹養成検討会においては、任官者に返還を免除する旨の論議もなされ、取りまとめにおいても、返還免除のあり方は、関係機関の意見を踏まえつつ、引き続き検討するとの留保が付されている。
しかし、任官者に対する返還免除は、その実質は国家に奉仕する任官者に対しては事実上給費制を維持し、在野法曹である弁護士のみを本来の貸与制に移行させるものと言わざるを得ない。
司法制度改革審議会意見書は、弁護士を含む「法曹がいわば『国民の社会生活上の医師』として・・・国家社会のさまざまな分野で幅広く活躍すること」を期待している。現実にも、弁護士は、国選弁護人、破産管財人等官公署からの委嘱事項を誠実に遂行し、さらには平成18年より業務開始予定の日本司法支援センターにおいても、その中心的役割を担う事が期待されているのである。それにも関わらず、弁護士と任官者を別異に取り扱うべき理由がどこにあると言うのであろうか。
また、平成18年以降、法科大学院に在学した者が順次司法修習生として採用されることとなるが、既に多額の学費や生活資金等の経済的負担を背負ってきた司法修習生に対し、国家が優秀な人材を囲い込む材料として任官者に対する返還免除を利用する余地を生むことにもなりかねない。
それゆえ、当会は、貸与制の導入が諸般の事情に鑑みやむを得ないものとなったとしても、任官者に対する一律、当然の返還免除には強く反対するものである。
2004年(平成16年)7月3日
岐阜県弁護士会 会長 矢島潤一郎
平成18年5月13日弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に反対する会長声明
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政府は、弁護士に対し、不動産の売買等一定の取引に関し、金銭の移動がマネーロンダリングやテロ資金の移動であるとの「疑わしい取引」を警察庁へ報告することを義務づける法案を作成し、平成19年の通常国会に提出予定である。しかし、この制度は、弁護士をして、依頼者を警察庁へ密告することを求め、市民の監視役にするものである。弁護士制度の崩壊を招き、民主的な司法の基盤を突き崩しかねない。当会はゲートキーパー制度に強く反対する、
1.弁護士の守秘義務を侵害し、民主国家の実現を危うくすること
弁護士は、依頼者から有利・不利を問わず相談を受け、依頼者のために法的に適切な助言をしてきた。市民があらゆることを相談できるように、弁護士は、守秘義務を負担している。にもかかわらず、弁護士において依頼者が打ち明けた事実を警察庁へ密告するとなると、市民は弁護士を信頼せず真実を語ることを躊躇するようになる。弁護士が法に適った助言をすることもできなくなり、民主的な司法国家の実現を危うくする。
2.弁護士の国家権力からの独立性を害すること
弁護士は、国家権力に立ち向かうことがあっても依頼者の人権を守り抜くことを重要な使命の一つとしており、これにより市民から職責に対する期待と信頼を得ている。しかし、「疑わしい取引」を警察庁へ密告する制度を設けると、弁護士が犯罪捜査の手先であるという外観を作り出すことになり、市民の弁護士に対する信頼を決定的に傷つける。弁護士が国家権力から独立して市民の人権を擁護するという使命も果たし得なくなる。
3.諸外国でも反対運動が続けられていること
アメリカでは、アメリカ法曹協会(ABA)は、報告義務を課すことにより却って違法行為を助長するとの理由による強硬な反対運動をしており、未だ立法化の動きはない。カナダでは一旦法制化されたが、弁護士会による法律の執行の差止仮処分が認められ、政府が弁護士への適用を撤回している。同様に国内法制化されたベルギーやポーランドでは、弁護士会がこの制度の違憲性を指摘して、行政・憲法裁判所に提訴し係争中である。
2006年(平成18年)5月13日
岐阜県弁護士会会長 武藤壽
平成16年1月10日裁判員制度に関する会長声明
ttp://www.gifuben.org/oshirase/seimei/seimei040110-1.html
裁判員制度は、国民の司法参加の理念のもとに民主的裁判の実現を目指して導入されるものである。
よって、当会は2004年(平成16年)度の通常国会に同制度にかかる法案が上程されるにあたり、以下のとおり要望する。
1.裁判官は1人または2人、裁判員の数は9ないし11人とするなどできるだけ多くして、国民が主体的・実質的に関与できる制度にすべきである。
2.慎重な評議・評決を行い免罪を防ぐため、評決については、有罪判決を言い渡す場合には原則として全員一致とし、充分に評議を尽くしても全員一致に達しない場合には例外として3分の2以上の多数決制とすべきである。
ただし、死刑を言い渡すときは、必ず全員一致を要するとすべきである。
3.裁判員にわかりやすい制度とすべきである。
捜査機関の取調べで作成された供述調書の任意性、信用性等を判断しやすいよう、取調べの状況の可視化(録画・録音)を導入すべきである。
4.検察官が所持する証拠については、全証拠のリストを開示することを含めて、事前に全面的に開示すべきである。
5.開示された証拠は、被告人の防御活動又は弁護活動その他正当な目的以外で使用してはならないものとすべきであり、過料と刑罰の制裁規程を置くべきではない。
6.健全な批判がないところに健全な発展はない。裁判員が任務を終えた後は、職務上知り得た秘密及び自己以外の発言者と発言内容が特定できる事項を除いては、その経験を自由に述べることができることを容認すべきである。これを制限したり。守秘義務違反に刑罰を科したりすべきではない。
7.裁判員制度に関する取材及び報道内容の在り方については、報道機関による自主的・自律的な判断に委ねるべきであり、法律で規制すべきではない。
2004年(平成16年)1月10日
岐阜県弁護士会 会長 安藤友人
平成15年9月8日住民基本台帳ネットワークの本格稼働の停止を求める会長声明
ttp://www.gifuben.org/oshirase/seimei/seimei030908-2.html
岐阜県弁護士会は、2002年5月30日に住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期を求める会長声明をした。
しかし、本年8月25日から、住民基本台帳ネットワークシステムの第2次本格稼働が開始され、全国の3200余の自治体を結ぶ巨大なネットワークが全面的に動き出すことになった。
この間に、個人情報保護法や行政機関個人情報保護法などが成立したものの、個人情報の保護法制としてはまだまだ不十分なものである。特に住民票コードによって多くの個人情報が名寄せされる危険性がたかまり、そのチェックシステムすら欠いたままであるため、国民のプライバシーが侵害される危険性は高い。また、膨大な端末をもつ住民基本台帳の巨大なネットワークシステムのセキュリティも不十分であるとの指摘がなされているにもかかわらず、国はコンピューターの利便性と普及の必要性のみを一方的に強調するのみである。
このため、いまだに住民基本台帳ネットワークシステムに参加していない自治体もあるほか、なお不接続を検討している自治体も少なからずあると伝えられている。
憲法13条が定める個人の尊厳の確保、幸福追求権の保障のためには、デジタル化されたネットワーク社会においてこそ、自己情報コントロール権が欠かせないものであることを再確認し、個人や自治体が自主的に判断してネットワークへの不接続や一時停止、離脱などを求めることを容認すべきである。
岐阜県弁護士会は、住民基本台帳ネットワークシステムの稼働を停止するとともに、自己情報コントロール権を確立するよう求めるものである。
2003年(平成15年)9月8日
岐阜県弁護士会 会長 安藤友人
平成15年9月8日司法修習生の給費制維持を求める会長声明
ttp://www.gifuben.org/oshirase/seimei/seimei030908-1.html
1.現在、司法修習生に対して給与を支払う制度(給費制)を廃止しようとの動きがある。
財務省の財政制度等審議会が「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(本年6月9日)の中で給費制の早期廃止を提言するなど、財務省筋を中心とした圧力が強まる中で、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会は「貸与制への移行という選択肢を含めて柔軟に検討する」との座長とりまとめを行った。
2.法曹養成制度は単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現にかかわるプロフェッションたる法曹を養成するものである。そして、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義実現の担い手であるのに加えて、各種公益活動、公的弁護、公設事務所、法律相談センターなど公益性の高い分野を担い、実行する人的資源であり、その公共性、公益性が高い点においては、裁判官あるいは検察官と全く同様である。
このように、法曹の養成は、国及び社会にとって極めて公共性・公益性の高い重要事項であることから、司法修習生に司法修習に専念させることを目的として、司法修習生に給与を支払う給費制が導入された。
現在、医師養成の分野においても、研修医の生活を保障して研修に専念できる環境を整えるために国費を支出する動きがある。こうしたなかで、給費制を廃止することは21世紀の社会が求める高い質の法曹を養成するという新しい法曹養成制度の目的に反するものである。
国は司法制度改革を実現するために、必要な財政上の措置を講じることが義務づけられているので(司法改革推進法6条)、財政事情を理由とした廃止は認められない。したがって、法曹養成とりわけ司法修習に対しては、可能な限り国費が投入されるべきである。
3.また、司法修習生には、司法修習専念義務が課されており、他の職業い就いて収入を得る方法を閉ざされているので、司法修習専念義務を課したまま給与を支給しない事は、合理的均衡を欠くばかりでなく、司法修習生の生計の維持を困難にする。
加えて、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院に在学することから、その間に多額の学資や生活資金が必要となる。その上、司法修習生に対し給与を支給しないことは、経済的な負担を一層増大させるものである。
そこで、法科大学院における学生の経済的負担を軽減すべきことはもとより、司法修習生に対しても、給費制を維持して、司法修習に専念できる態勢を整備すべきである。
4.法曹には多種多様な人材が求められるものであるが、経済的負担の大きさから一定の富裕層のみからの偏った人材しか輩出されなくなるとすれば、それは極めて憂慮すべき事態を招来するものであり、司法改革の趣旨にも反することとなる。
よって、岐阜県弁護士会は司法修習生への給費制度は今度とも堅持されるよう強く求めるものである。
2003年(平成15年)9月8日
岐阜県弁護士会 会長 安藤友人
平成15年8月2日「イラクにおける人道支援活動及び及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」に関する会長声明
ttp://www.gifuben.org/oshirase/seimei/seimei030802.html
1.7月26日、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法案」(イラク特別措置法案という)が参議院で採択された。
このイラク特別措置法案は、「戦後はじめて、自衛隊が他国領土で米英軍を主力とする多国籍軍を支援する」ことをその目的とするものである。
2.日弁連は、7月4日、イラク特別措置法案が衆議院を通過したのを受けて、同法案が他国領土での武力行使を禁じている憲法に違反するおそれが大きく、国民の意見も大きく分かれているにもかかわらず、延長国会におけるわずかな審議のみで与党3党が全野党の反対を押し切ってイラク特別措置法案を採決したことは到底容認できないとして、採決に抗議し、イラク特別措置法案に反対する会長声明を出した。
3.日弁連の会長声明が指摘したように、そもそも、イラク侵攻は国連憲章に違反する違法なものである。米英がイラク侵攻を正当化するために主張した大量破壊兵器は未発見であるのみならず、米英政府による情報操作疑惑も生まれている。また、米軍の司令官自ら認めているようにイラク全土で現在も戦闘が継続している。また、小泉首相自ら認めているとおり、自衛隊員が攻撃により死傷する危険性も予想される。
そうしたイラクにおいて自衛隊が戦闘継続中の米英軍のために武器・弾薬・兵員を輸送することは、「非戦闘地域での後方支援」などではなく米英軍の武力行使と一体化したものと評価せざるとえない。
4.憲法は、他国での武力行使を認めていないし、国の交戦権も放棄している。したがって、イラクにおいて、自衛隊が占領行政を行っている米英軍を中心とした多国籍軍の指揮のもとで「後方支援」を行うことは、武力行使を否定し、国の交戦権を放棄した憲法に違反するおそれがある。
5.朝日新聞の世論調査によると、イラクへの自衛隊の派遣について、賛成が33%に対して、反対は55%であると報道されている(7月22日付朝日新聞朝刊)。このように、国民の意見が大きく分かれているにもかかわらず、参議院においてもわずかな審議で与党3党が全野党の反対を押し切ってイラク特別措置法を採決したことは到底容認できない。
6.岐阜県弁護士会は、採決に強く抗議するとともに、今後とも引き続き憲法の定める平和主義、基本的人権擁護のために全力で取り組む決意を表明する。
2003年(平成15年)8月2日
岐阜県弁護士会 会長 安藤友人
平成15年6月7日有事法制3法案の採択に対する会長声明
ttp://www.gifuben.org/oshirase/seimei/seimei030607.html
昨日、参議院本会議において有事法制3法案が可決され、わが国は第二次世界大戦後58年を経て有事法制を有する国となった。この日は、歴史の大きな転換点として、長く記憶されるであろう。
当会は、有事法制法案は、平和主義・基本的人権の尊重・国民主権主義という憲法原理に抵触するおそれが大きいとして、昨年5月30日及び本年5月22日付けの会長声明及び昨年10月24日には市民集会を開催して、有事法制の制定に反対し廃案を求めてきた。
しかも、毎日新聞が本年5月31日と6月1日に実施した世論調査によると、「4割」が「有事法制の整備を評価すべきかわからない」と回答しており、有事法制法案について国民に対する説明が尽くされていないことは明らかである。
しかるに、そうした状況下で、わが国の進路を決定づける有事法制法案が可決され成立したことは、きわめて遺憾であり。強く抗議の意思を表明する。
当会は、今後とも、有事法制の有する憲法上の問題点を広く明らかにし、平和が脅かされ基本的人権が侵害されることのないよう、法制の廃止を求めていくとともに、具体化や運用にあたっては、厳しくチェックしていく考えである。
また、武力攻撃事態法を実施するため今後提出が予定されている「米軍支援法制」「国民保護法制」などの個別法案について、法律家団体として平和主義・基本的人権の尊重・国民主権主義という憲法原理の立場から、検討し提言していく考えである。
憲法は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」(前文)、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない(12条)ことを謳っている。憲法の理念や憲法が保障する基本的人権は、私たちが何もせずに与えられ守られるものではないことを想起し、今一人一人の市民が自らの自由と権利を保持するために努力することが求められている。
当会も、引き続き市民とともに、最大の人権侵害である戦争に反対し、憲法で保障された自由と権利を守るために最大限の努力を継続する決意である。
2003年(平成15年)6月7日
岐阜県弁護士会 会長 安藤友人
平成15年5月24日有事法制三法案に反対する会長声明
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5月15日の衆議院本会議において、政府提出の有事法制三法案は与党と民主党の修正合意を踏まえて、修正のうえ賛成多数で可決された。
当会は、既に昨年5月30日付の会長声明において、政府提出の有事法制三法案は、憲法の基本原則(国民主権、基本的人権尊重、平和主義、地方自治の本旨尊重)に照らし様々な問題があるので廃案にすべきであると主張してきた。
この修正案は、欠陥の大きかった政府案と比べれば、基本的人権の保障と国会による民主的統制をより強化したものであり、当会が指摘していた問題点にある程度応える内容となっている。
しかし、肝心な「武力攻撃予測事態」の定義や範囲は曖昧なままであり、「予測事態」と周辺事態法でいう「周辺事態」の異同や、武力攻撃事態対処法と周辺事態法がどう連動するのかは依然として不明確である。また、有事認定の客観性も十分に担保されていない。さらに、国会による事前の民主的コントロールも確保されていない。有事における首相の地方公共団体や指定公共機関に対する指示権・代執行権は、当面凍結されたものの何ら変更がなく、有事において民主的な統治機構や地方自治を維持することができるのかという疑問は払拭されていない。民法を含むメディアが有事に政府の規制下に置かれる危険性も完全には排除されていない。
したがって、修正案にはなお憲法上多くの重大な問題点が存在し、当会が指摘してきた基本的人権を侵害する危険性は解消されていない。
しかも、今回の修正は、自由民主党と民主党の衆議院有事法制特別委員会理事の間の密室での協議によって政府案の修正を合意し、それにもとづいて僅か数時間の同委員会審議と衆議院本会議での審議で可決された。言うまでもなく、有事法制法案は、わが国の進路を決定し、国民の生命と安全そして基本的人権に大きく関わる重要法案である。このような憲法原理にかかわる重要法案が、十分な国民的議論も国会審議もないままに可決され成立してしまうことは民主主義にも反することである。
よって、当会は、有事法制三法案は、憲法の諸原理に抵触する重大な疑問・疑義が存するので、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の役割に鑑み、重ねて有事法制三法案の制定に反対し、同法案の廃案を求めるものである。
2003年(平成15年)5月24日
岐阜県弁護士会 会長 安藤友人