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2221 ら特集10仙台弁護士会③1(0)

引用元 

仙台弁護士会③
平成28年02月27日 安全保障関連法等の廃止を求め、立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を訴える決議
ttp://senben.org/wp-content/uploads/2016/02/anpo_280227.pdf
個人の尊重を核心的価値に据えた日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義を基本原理とする我が国の最高法規であり(憲法第98条)、天皇、国会議員、国務大臣等の公務員は憲法を尊重し擁護する義務を負う(憲法第99条)。これは、憲法によって国家権力に縛りをかけ、その濫用を防止することにより国民の権利を保障しようとする立憲主義を表したものである。しかし、近時、新たな安全保障関連法制の制定に見られるような立憲主義を否定する動きや、日本国憲法の基本原理を著しく軽視して、基本的人権の保障を危うくするような事態が相次いでいる。昨年9月19日未明、いわゆる平和安全法制整備法案及び国際平和支援法案が参議院本会議で採決が強行された(以下両法案を併せて「本法案」といい、本法案成立後のものを「本法」という。)。本法は、我が国に対する武力攻撃が発生していないにもかかわらず、他国間の戦争に加わっていくことを意味する集団的自衛権の行使を可能にするとともに、他国軍隊に対する兵站支援や武器防護のための武器使用などを認めるものである。当会はこれまで、本法案が、憲法第9条に違反し、また、憲法改正手続(憲法第96条)を潜脱して実質的に憲法第9条を改変する点で立憲主義及び国民主権にも反することを指摘して、その成立に反対し、廃案を求める意見を繰り返し表明してきた。本法は、集団的自衛権の行使を容認するという法案の根幹部分において、戦争、武力による威嚇及び武力の行使を放棄した憲法第9条に違反するうえ、「存立危機事態」の概念の不明確性から、時の政府・与党の判断により歯止めのない集団的自衛権行使が行われる危険性も高い。また、本法が予定する他国軍隊への支援活動は、他国の武力行使との一体化が避けられないなど、本法は多くの基本的な部分で憲法に違反している。このような憲法違反の法制度を作ることは立憲主義の否定に他ならない。上記法案が可決される以前にも、当会はこれまで、日本国憲法の基本原理を軽視して、基本的人権の保障を危うくする動きに対して繰り返し警鐘を鳴らしてきた。中でも、2013年(平成25年)12月6日に強行採決された特定秘密保護法に関しては、国民の知る権利(憲法第21条)を広汎な刑罰規定により制限することで、行政に対する民主的コントロールという縛りを緩めてしまうものであり、国民主権(憲法前文、第1条)の趣旨に反していることから、強い危惧の念を表明してきた。また、当会は、現在参議院法務委員会に付託中の刑事訴訟法等改正法案に盛り込まれている通信傍受(盗聴)の対象犯罪拡大と手続簡略化は、通信の秘密(憲法第21条第2項)及びプライバシー権(憲法第13条)を侵害するものであると指摘してきた。教育の分野においても、公教育の場における愛国心教育を推進するおそれがある2006年(平成18年)の教育基本法改正が思想良心の自由に抵触するおそれがあることを指摘し、強い懸念を表明してきた。それにも関わらず、昨年3月には学校教育法施行規則の改正や学習指導要領の改訂により道徳の教科化等が導入されたが、国家が特定の価値観の受け入れを強制することとなりかねず、思想良心の自由(憲法第19条)、信教の自由(憲法第20条第1項第2項)等を保障する日本国憲法の基本原理とも反するおそれがある。また最近は、外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱や大規模災害等において憲法秩序を一時停止する緊急事態条項の創設を主張する動きもあるが、その立法事実が災害対策を理由とするものであれば、既に整備されている災害法制に基づく事前の準備の充実を図れば足りるのであって、緊急事態条項を創設する必要性は認められない。そもそも緊急事態条項は行政府への強度の権力集中と基本的人権の広範な制限を内容とするため、時の為政者によって濫用されることにより、立憲主義及び日本国憲法の基本原理がないがしろにされる大きな危険性を孕んでいる。本法案において憲法第9条が政府・与党の都合の良いように解釈され、本法案の採決が強行された経過からすれば、仮に緊急事態条項が創設された場合、その条項の適用の場面においても、政府・与党の都合の良いように解釈され、濫用され、引いては、立憲主義及び日本国憲法の基本原理がないがしろにされるおそれを強く感じざるを得ない。このように立憲主義を否定する法制や立憲主義及び日本国憲法の基本原理をないがしろにするような事態が相次いでおり、また将来にわたり検討されていることに対し、強い危機感を抱かざるを得ない。当会は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士の団体として、憲法に違反する安全保障関連法及び特定秘密保護法を廃止することを求めるとともに、立憲主義を否定する動きや、立憲主義及び日本国憲法の基本原理を著しく軽視して、基本的人権の保障を危うくするような法制度に反対し、立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を強く訴えるものである。以上のとおり、決議する。
2016年(平成28年)2月27日仙台弁護士会 会長岩渕健彦
提案理由
第1 立憲主義の意義
個人の尊重を核心的価値に据えた日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義を基本原理とする我が国の最高法規であり、これに反する法律等は効力を有せず(憲法第98条第1項)、裁判所により違憲・無効の判断が下される(憲法第81条)。また、天皇、国会議員、国務大臣等の公務員は憲法を尊重し擁護する義務を負う(憲法第99条)。これらは、国家権力を行使する者に対し、憲法によってその権力に縛りをかけ、濫用を防止するという立憲主義を表したものである。この立憲主義の趣旨は、一人ひとりを個人として尊重し(憲法第13条)、一人ひとりの人権保障を確たるものにすることにある。したがって、立憲主義の否定は、個人の尊重という憲法の中核的価値や人権保障の否定につながり、到底許されるものではない。しかしながら、近時、いわゆる安全保障関連法制の制定に見られるような立憲主義を否定する動きや、日本国憲法の基本原理を著しく軽視して、基本的人権の保障を危うくするような事態が相次いでいる。第2 2014年(平成26年)7月1日閣議決定と安全保障関連法1 国内議論の積み重ねや国会審議の軽視第2次安倍内閣は、2014年(平成26年)7月1日、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。これは、「集団的自衛権の行使は憲法違反である」という60年以上にわたって積み重ねられてきた政府解釈を国会審議も経ず、また国民的議論もせずに、一内閣の判断で覆すものであった。当会は、同日、本閣議決定に強く抗議し、その即時撤回を求める会長声明を発した。また、日米両政府は、2015年(平成27年)4月27日、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を改定した。これは、現行のいわゆる安保条約の枠組みさえも超える「グローバルな日米同盟」を標榜し、集団的自衛権行使や後方支援の拡大など安全保障関連法を先取りするものであった。さらに、安倍首相は、同年4月29日、米国上下両院議員の前での演説の中で、いまだ国会に上程されていなかった安全保障関連法案について「この夏までに成立」することを言明した。これは、国民主権(憲法前文、第1条)及び「国権の最高機関」(憲法第41条)である国会の審議を軽視する態度であったと言わざるを得ない。
 2 市民、弁護士会、有識者らの指摘の軽視当会を始めとする全国の弁護士会や市民、有識者が憲法違反、立憲主義違反を指摘するなか、政府与党は、2015年(平成27年)9月19日未明に参議院本会議において、自衛隊法など既存の10法を一括して改正する平和安全法制整備法案と新設の国際平和支援法案(以下、併せて「安全保障関連法案」という。)の採決を強行した。
 3 安全保障関連法案の違憲性安全保障関連法案は、憲法違反の集団的自衛権行使を可能とし、米軍等の武力行使に自衛隊が地理的限定なく緊密に協力するなど憲法第9条が定めた戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認を覆すものであった。例えば、自衛隊法及び武力攻撃事態法の改正により「存立危機事態」における集団的自衛権の行使を可能とした。しかし、同改正では「存立危機事態」の内容をなす「我が国と密接な関係にある他国」に対する「武力攻撃」が発生し、これにより「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がある場合に、この攻撃を「排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使」を認めているが、その概念は漠然としており範囲も不明確であり、歯止めのない集団的自衛権行使につながりかねず、憲法第9条に反する。また、周辺事態法の改正により、それまでの「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(周辺事態)を「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)に変更し、自衛隊が地理的限定なく後方支援活動を行うことができるようにしている。さらに、国際平和支援法は、我が国の平和と安全への影響がなくても、国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」が発生し、当該事態に関連した国連の決議があれば、自衛隊が地理的限定なく後方支援活動を行うことを可能としている。加えて、重要影響事態法(周辺事態法の改正)では、従来イラク特措法で「非戦闘地域」のみで許容されていた後方支援活動の範囲を広げ、現に戦闘行為が行われている現場でなければ戦闘地域内であっても後方支援活動を可能としているほか、後方支援活動の内容についても、弾薬の提供並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の米軍等の航空機に対する給油及び整備といったこれまで認められていなかった活動まで可能としている。これらの後方支援活動は、自衛隊が戦闘現場近くで外国の軍隊に緊密に協力する兵站活動であり、海外における自衛隊と他国軍隊との武力行使の一体化は避けられず、「自衛のための必要最小限度の実力」を超えるものであり、憲法第9条に違反する。
4 砂川事件最高裁判決
 安倍首相や一部の議員は、砂川事件最高裁判決は集団・個別の区別なく自衛権を認めている以上、憲法上集団的自衛権の行使も認められる旨主張している。しかし、砂川事件最高裁判決の趣旨は、憲法第9条第2項の「戦力不保持」からくる自国防衛の不足を補うための米軍駐留は一見明白に憲法に反するとは言えないというものであって、他国防衛である集団的自衛権が同判決の射程に入り込む余地はない。砂川事件最高裁判決によって、安全保障関連法の合憲性を基礎づけることは不可能であり、上記の主張を法律家団体として見過ごすことはできない。
5 小括
 以上のとおり、上記閣議決定及び安全保障関連法は、憲法第9条の縛りを破るという内容的意味、及び憲法改正手続によらずに憲法第9条の意味内容を実質的に改変したという手続的意味のそれぞれにおいて立憲主義を否定するものである。
第3 立憲主義及び日本国憲法の基本原理を軽視する近時の動き
立憲主義及び日本国憲法の基本原理を軽視する政府等の動きは、上記法案が可決される以前にも頻発しており、当会はこれまで、これらを顧みず、基本的人権の保障を危うくする動向に対して、以下の通り繰り返し警鐘を鳴らしてきた。
1 特定秘密保護法
(1)基本的人権侵害のおそれ
2013年(平成25年)12月6日に強行採決された特定秘密保護法(翌年12月10日施行)には、当会の2014年(平成26年)2月22日「特定秘密保護法の廃止を求める決議」などで指摘してきたとおり、憲法上看過できない多くの重大な問題が存在している。まず、同法は、特定秘密の範囲が広範かつ不明確であり、恣意的な秘密指定をチェックし是正するための監視機関も設けておらず、国民が主権者として国政に関する情報を取得する「知る権利」の保障に反し、国民主権の原理にもとるものである。また、同法は、特定秘密取扱者による故意の漏えいのみならず過失漏えいも処罰の対象としているなど、その処罰範囲は広範かつ不明確であるため、罪刑法定主義(憲法第31条)の観点から重大な疑義がある。さらに、特定秘密を取扱う者を選別する適性評価制度は、精神疾患に関する事項、信用状態等といった機微にわたるプライバシー情報が調査項目になっており、プライバシー権(憲法第13条)や思想・良心の自由(憲法第19条)を侵害する危険がある。その上、秘密漏えい行為等による特定秘密保護法律違反被告事件において、「特定秘密」の内容が明らかにされないまま有罪とされてしまうおそれも否定できず、被告人の防御権及び裁判を受ける権利(憲法第31条、第32条、第37条、第82条)を侵害しかねない。(2)国家権力に対するチェック機能の弱体化
 以上のような基本的人権侵害のおそれのほかに、同法は、国家権力に対するチェック機能を弱体化させる危険を孕んでいる。いわゆる安保法制においては、「存立危機事態」には武力行使が許されることとなるが、特定秘密保護法の運用基準においては、秘密指定されうる事項として、「(別表1号防衛に関する事項につき)自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究のうち、b(略)アメリカ合衆国の軍隊との運用協力に関するもの」が明記されている。そのため、武力行使の要件に該当するかどうかの基本的な情報が秘密指定され、国民や国民の代表である国会に何ら明らかにされないまま、「存立危機事態」として武力行使が決定・行使されてしまう危険がある。また、国会を通じた内閣のコントロールという観点においても、国会議員への特定秘密の提供は行政機関の長等の裁量に委ねられており(特定秘密保護法第10条)、議院の国政調査権(憲法第62条)や議員の質問権(国会法第74条から第76条)を制約しかねず、国会が内閣をコントロールする議院内閣制や国会の最高機関性の趣旨を没却させかねない。
(3)小活
 以上のとおり、特定秘密保護法は、国民の基本的人権を制限し、国家権力の横暴に対するチェック機能を弱体化させるものであって、立憲主義及び日本国憲法の基本原理を没却させるおそれが極めて大きいと言わざるを得ない。
2 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案等の刑事法制に関する動向
 現在、参議院には、通信傍受(盗聴)の対象犯罪拡大と手続簡略化や、司法引(捜査・公判協力型協議・合意制度。他人の罪を捜査機関に告げることで自己の刑責を軽くする制度)の導入を盛り込んだ刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(以下「刑訴法等改正法案」という。)が上程されている。当会では、上記の法律案について、これまで、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」の衆議院通過に抗議し、同法案に反対する会長声明(2015年(平成27年)8月28日)において、刑訴法等改正法案が、衆議院にて可決された際、衆議院が同法案の問題点を看過し同法案を可決したことに対して強く抗議し、同法案の廃案を求めた。また、当会は、これまで共謀罪の新設が具体化する度ごとに、共謀罪に反対する会長声明を発し、捜査機関が共謀事実の捜査名目で一般市民の会話を傍受したり、電話や電子メールのやり取りを監視したりする社会の到来に対する危惧を表明してきた。政府は2015年(平成27年)1月14日、犯罪の謀議に加わる行為を処罰する「共謀罪」の創設を柱とする組織犯罪処罰法改正案について、通常国会への提出を見送る方針を固めたが、これは、集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案の審議を優先するためであり、参議院に継続している刑訴法等改正法案とともに、依然として予断を許さない状況は続いている。これらの制度は、捜査機関に強大な権限を付与するとともに、捜査の対象を拡大させるものであって、その濫用による人権侵害や誤判えん罪を助長しかねず、刑罰法規として、実体的・手続的におよそ適正とは言い難いものである。また、これらの制度は、特定秘密保護法とともに、捜査機関の権限濫用による人権侵害の危険を増大させるものであり、基本的人権に対する重大な脅威となりかねない。
3 国家による教育統制のおそれ
(1)教育基本法の改正
 2006年(平成18年)12月22日、第1次安倍内閣は、教育基本法を改正した。この改正は、旧教育基本法が第1条において教育の目的として掲げていた「個人の価値をたっとび」の文言を削除し、教育の目標として「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」を明記するものである。これは、すべての国民を個人として尊重する憲法の精神に則り、「個人の価値」を最大限尊重することを教育の目的に据えて教育の憲法と言われた教育基本法の理念を、「公共の精神」を養う目的のもとで後退させるものであった。また、改正教育基本法は、「国を愛する心をはぐくむ」を教育の目標として掲げるが、国を愛する心情は、個人の内心の自由に属する問題であり、公教育の場で「国を愛する」ことが当然であると教えることは、内心の自由を保障する憲法第19条に抵触するおそれがある。
(2)教育法制の危惧すべき動き
 その後も、教育法制に関しては、2014年(平成26年)1月17日、教科書検定基準等を改正し、検定教科書には時の政府の見解を明記することを要請する動きや、同年6月20日、国(文部科学大臣)の関与権強化を含む教育委員会制度見直しを主たる内容とする「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正」がなされるといった動きが相次ぎ、国家による教育統制を危惧すべき事態が進行している。(3)道徳の教科化
このような流れの中、政府は、2015年(平成27年)3月27日、学校教育法施行規則の改正及び学習指導要領の改訂を行い、道徳を「特別の教科道徳」として位置付けること、検定教科書を導入すること、子どもの道徳性に対して評価を加えることを決定し、小学校においては平成30年度から、中学校においては平成31年度から、この改正・改訂内容を完全施行することとした。しかし、こうした道徳教育は、国家が特定の価値観を「善きもの」と評価することで、子どもの内心に介入し、一定の価値を受け入れることを強することに?がりかねない。
(4)日本国憲法の趣旨と当会の意見
 日本国憲法は、個人の尊重を中核として、思想良心の自由、信教の自由、学習権を保障している。これら憲法が保障する権利は、いずれも、個人の内心、個人が有する価値観や生き方に対し、国家が望ましいと考える一定の価値観をもって介入したり、強制したりすることを禁ずるものである。当会は、これまで2015年(平成27年)3月12日「道徳の教科化等に反対し学校教育法施行規則改正案及び学習指導要領改訂案に反対する意見書」において以上の問題を指摘してきたところであるが、2006年(平成18年)の教育基本法の改正以降の一連の教育法制の改正・改訂は、国家による教育統制を強め、個人の尊重よりも国家の利益が優先される価値観に基づく教育がなされる危険性を高めるものであり、憲法が保障する個人の尊厳、思想良心の自由、信教の自由等を侵害するおそれのあるものと言わざるを得ない。
第4 大規模災害を理由とする緊急事態条項創設に向けた政府の動向
このような立憲主義及び日本国憲法の基本原理を軽視する動きの中で、最近は、外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱や大規模災害等において憲法秩序を一時停止する緊急事態条項の創設が企図されている。与党自由民主党は、東日本大震災時の災害対応不備を理由に、日本国憲法に緊急事態条項を創設することを内容とする憲法改正の国会発議を行う方針を掲げており、安倍首相も同趣旨の発言をしている。しかし、当会の2015年(平成27年)4月24日付け会長声明において指摘したとおり、緊急事態条項は戦争や大規模災害時などの非常事態において国家の存立を維持するために立憲的な憲法秩序を一時停止して、行政府への強度の権力集中と基本的人権の制限を内容とするものであり、時の為政者によって濫用されることにより立憲主義及び日本国憲法の基本原理がないがしろにされる大きな危険性を孕んでいる。そのため、緊急事態条項の創設については極めて慎重な検討が必要である。東日本大震災時の災害対応が十分でなかったのは既存の災害法制に基づく事前の準備が不足していたことが原因であって、緊急事態条項が存在すれば適切な対応ができたという事実は全く存在せず、災害対策を理由とする緊急事態条項創設の必要性・相当性は認められない。そもそも緊急事態条項は行政府への強度の権力集中と基本的人権の広範な制限を内容とするため、時の為政者によって濫用されることにより、立憲主義及び日本国憲法の基本原理がないがしろにされる大きな危険性を孕んでいる。本法案において憲法第9条や、砂川事件最高裁判決が政府・与党の都合の良いように解釈され、本法案の採決が強行された経過からすれば、仮に緊急事態条項が制定された場合、その条項の適用の場面においても、政府・与党の都合の良いように解釈され、濫用され、引いては、立憲主義及び日本国憲法の基本原理がないがしろにされるおそれを強く感じざるを得ない。第5 むすびこれまでに掲げた動きは、個々の法制度が憲法に適合するか否かという問題にとどまらない。安全保障関連法及び特定秘密保護法による法制度は、対外的には憲法第9条に違反して武力行使による加害や被害の危険を増大させる一方で、対内的には国家による国民の監視・統制を強めるおそれに結びつくものである。また、上記のような刑事法制、国家による教育統制及び大規模災害を理由とした緊急事態条項の創設に向けた動きも、国家による国民の監視・統制を強めるものであり、立憲主義及び日本国憲法の基本原理に反して人権を侵害する危険が大きいものである。このような動きが積み重なれば、立憲主義が破壊され、人権保障が後退するおそれは否定できず、近時の憲法をとりまく一連の動向に対しては強い危機感を抱かざるを得ない。以上のような経緯を踏まえ、当会は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士の団体として、憲法に違反する安全保障関連法及び特定秘密保護法の廃止を改めて求めるとともに、上記のような憲法秩序を破壊し、人権保障を後退させるおそれのある法制度に反対し、立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を強く訴えるものである。以上

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