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2306 ら特集金沢弁護士会(0)

引用元 

会長声明・意見表明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/statement/

2017.12.19 死刑執行に抗議する会長声明
2017.9.13 消費者被害と民法の成年年齢の引下げに関する会長声明
2017.8.24 地方消費者行政の拡充・強化を求める意見書
2017.7.14 死刑執行に抗議する会長声明
2017.6.16 司法修習生への経済的支援を内容とする改正裁判所法成立にあたっての声明
2017.4.21 最低賃金額の大幅な引き上げ等を求める会長声明
2017.4.21 テロ等組織犯罪準備罪(いわゆる「共謀罪」)法案の廃案を求める会長声明
2017.1.26「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し,廃止を求める会長声明
2016.10.17 テロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明
2016.3.25 死刑執行に抗議する会長声明
2016.3.2  夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所判決を受け民法における差別的規定の改正を求める会長声明
2016.2. 1 死刑執行に抗議する会長声明
2016.1.20 司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2015.9.30 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
2015.9.25 安全保障関連2法の制定に抗議する会長声明2015.9. 1
接見室内での写真撮影に関する東京高裁判決に対する会長声明
2015.9. 1 少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明
2015.5.27 安全保障法制に関する2法案に断固反対する会長声明
2015.5.19 労働時間を大幅に緩和する労働基準法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
2015.4. 1 集団的自衛権行使等の閣議決定撤回と法整備中止を求める決議
2015.3. 6 商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に抗議する会長声明
2015.2.4 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉にあたりISDS条項の締結に反対し交渉状況の情報公開を求める会長声明
2014.12.10特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める会長声明
2014.7.28 大飯原発差止訴訟判決に対する会長声明
2014.7.28 集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める会長声明
2014.7.16 性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明
2014.5. 2 集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明
2014.5. 2 商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に反対する会長声明
2014.3.31 労働者派遣法改正案に反対する会長声明
2014.3. 5 行政書士法改正に反対する会長声明
2013.12. 2 商品先物取引に関する不招請勧誘禁止規制の撤廃に反対する会長声明
2013.11.25「特定秘密保護法案」の衆議院での可決に反対する会長声明
2013.8.29 憲法96条改正に反対する会長声明
2013.8.29 生活保護法改正法案の再提出に反対する会長声明
2013.3.26 保証制度の抜本的改正を求める意見書
2013.2.14 司法修習生に対する修習費用給費制の復活を含む経済的支援を求める総会決議
2012.12.28 生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明
2012.11. 1 集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の早期創設を求める会長声明
2012.8.31 秘密保全法制定に反対する会長声明
2012.8.31 改正貸金業法の完全施行後2年を迎えての会長声明
2012.5. 7 志賀原発の拙速な再稼働に反対する会長声明
2012.2.24 市町村暴力団排除条例の早期制定を求める会長声明
2011.11.30「福井女子中学生殺人事件」再審開始決定に関する会長声明
2011.7.22 地方消費者行政の充実・強化に対する国の支援のあり方についての会長声明
2011.7. 8 東日本大震災による被災者の救済と復興支援に関する決議
2010.11. 9 秋田弁護士会所属会員の殺害事件に対する会長声明
2010.6.24 全面的な国選付添人制度の実現を求める会長声明
2010.6.14 横浜弁護士会所属会員の殺害事件に対する会長声明
2009.10.22改正貸金業法の早期完全施行を求める会長声明
2009.4.16 金沢弁護士会所属会員に対する業務妨害に関する声明
2009.2.27 法曹人口問題に関する会長声明
2007.7.19光市母子殺害事件弁護人への脅迫行為に対する会長声明
2007.6.13犯罪被害者の刑事手続参加に反対する会長声明
2006.9.29共謀罪法案の会長声明
2006.9.29特例金利に反対する会長声明
2006.9.29教育基本法改正に反対する会長声明
2005.9.29共謀罪の新設に反対する決議
2005.7. 1少年法等の一部改正法案に関する会長声明

死刑執行に抗議する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2017/12/post-114.html
1平成29年(2017年)12月19日、死刑確定者2名に対して死刑が執行された。なお、2名とも再審請求中の者であり、このうち1名は、犯行当時19歳の少年だった者である。犯行当時少年だった者に対する死刑執行は、実に20年ぶりの異例のものである。
 日本弁護士連合会が、第59回人権擁護大会(平成28年10月7日)において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択したにもかかわらず、今回、死刑が執行されたことは極めて遺憾である。
2 死刑は重大な人権侵害である
死刑は、生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害である。いかなる理由を付しても、国家が国民の生命を剥奪することは許されない。これは、先の戦争等を通して、私たちが歴史上学んできたことである。
3 死刑には誤判・冤罪の危険性がある
 また、刑事司法制度は人の作ったものであり、その運用も人が行う以上、誤判・冤罪の可能性が常に存在する。そして、死刑は他の刑罰と異なり、全ての根元にある生命そのものを奪うものであるから、一旦執行されると取り返しがつかないことも論を俟たない。
 日本では、1980年代に免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件という4件の死刑事件について再審無罪が確定したことを契機に、誤判・冤罪の危険性と重大性が強く認識されるようになった。さらに2014年3月袴田巖死刑確定者の再審開始が決定され、約48年ぶりに東京拘置所から釈放されたことで、私たちは改めて誤判・冤罪の危険性が具体的・現実的であることを認識させられたところである。
4死刑の犯罪抑止効果には疑問がある
 そもそも、死刑制度に他の刑罰に比べ犯罪抑止効果が認められるかどうかについては、長い間論争が続けられてきた。しかし、犯罪抑止効果があることを実証した研究はなく、むしろ多くの研究はそのような効果の存在に疑問を呈しているのが実情である。
 加えて、日本の凶悪犯罪は減少傾向にあり、殺人(予備・未遂を含む。)の認知件数は、1978年から2000件を下回り、2013年以降は1000件を下回っている。殺人発生率(既遂)も人口10万人あたり0.28件であり、218か国中211番目である。すなわち、日本は凶悪犯罪が最も少ない国の一つであり、本来死刑により凶悪犯罪を抑止する必要性は低いと言える。したがって、犯罪抑止効果を理由に死刑存続を主張するべきではない。
5国際的趨勢は死刑廃止に向かっている
死刑の廃止は国際的な趨勢であり、2015年12月末日現在、法律上又は事実上の死刑廃止国は140か国に及び、世界で3分の2以上を占めている。しかも、実際に死刑を執行した国はさらに少なく、2015年の死刑執行国は日本を含め25か国のみである。なお、OECD(経済協力開発機構)加盟国34か国のうち、死刑を国家として統一して執行しているのは日本だけである。
その上、国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会や人権理事会が、死刑執行を停止し死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を何度も行っているにもかかわらず、日本は死刑の執行を繰り返しているのである。
6犯罪被害者・遺族の支援の課題
 犯罪により命が奪われた場合、被害者の失われた命はかけがえのないものであり、これを取り戻すことはできない。このような犯罪は許されるものではなく、遺族が厳罰を望むことは自然なことである。
 しかし、当初は死刑を望んでいたにもかかわらず、実際に死刑が執行されても悲しみは何一つ癒されなかったと述べる遺族も存在する。また、死刑の執行が真の問題解決につながると考えない遺族も存在する。
 上述のとおり、死刑制度から誤判・冤罪の危険性を払拭できないことからすると、遺族の心情を慮ったとしても、結局は、死刑により犯罪者の命を奪うべきではないとの結論に至る。無辜の処罰は、刑事手続に携わる者としては決して看過できない。
 犯罪被害者・遺族に対する支援は、当会を含め社会全体の重要な責務であり、経済的、心理的な支援を通じ、苦しみを緩和するためのシステムを構築することなどにより成し遂げられるべきものである。したがって、当会は、犯罪被害者・遺族に対する支援制度の改善・向上などにも全力を挙げて取り組む所存である。
7 よって、当会は、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、政府に対し、死刑の執行を直ちに停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める。以 上
2017(平成29)年12月19日
金沢弁護士会会長  橋本 明夫

消費者被害と民法の成年年齢の引下げに関する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2017/09/post-111.html
平成29年9月12日
金沢弁護士会
会 長  橋本 明夫
1 声明の趣旨
民法の成年年齢の引下げにより,18歳,19歳の若年者に対する消費者被害を拡大するおそれが高いことから,当会は,現時点において,民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する。
2 声明の理由
 選挙年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる公職選挙法等の一部を改正する法律が平成28年6月19日から施行されたことを受け,現在,民法の成年年齢を20歳から18歳まで引き下げることが議論されている。
 民法の成年年齢を引き下げた場合における,最も大きな問題は,18歳,19歳の若年者が,未成年者取消権(民法5条2項)を喪失することである。民法では,これら若年者を含む未成年者は,単独で行った法律行為を未成年者であることを理由として取り消すことができる。このため,未成年者が,違法もしくは不当な契約を締結させられた場合,未成年者取消権によって,救済する必要性は極めて高い。
また,消費生活センター等に寄せられる相談において,未成年者取消権を失う20歳になると相談件数が急増することは,未成年者取消権が未成年者に違法もしくは不当な契約の締結を勧誘する悪質な事業者に対する抑止力として機能していることを示している。
さらに,選挙権年齢の18歳への引下げは,18歳,19歳の若年者に国政参加の権利を付与するものであるのに対し,民法の成年年齢の18歳への引下げは,若年者に私法上の行為能力を付与する反面,未成年者取消権という重要な権利を喪失させるものであって,その趣旨を異にすることから,統一する必要はない。
 以上のとおりであるから,若年者を含む未成年者を取巻く消費者被害の現状に鑑みれば,まずはこれら現状に対応する施策の具体化,充実化が検討されるべきであり,そのうえで国民的議論をするという手順を踏むべきである。すなわち,現在,改正が検討されている消費者契約法に関し,平成29年8月8日付け,消費者委員会答申書(府消委第196号)において,付言事項とされている「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」について,先ずは喫緊の課題として早急に検討されるべきである。
よって,当会は,現時点において民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する。以上

死刑執行に抗議する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2017/07/post-107.html
1 平成29年(2017年)7月13日、死刑確定者2名に対して死刑が執行された。なお、このうち1名は再審請求中の者であり、再審請求中の者に対する死刑執行は、実に17年半ぶりの異例のものである。
 日本弁護士連合会が、第59回人権擁護大会(平成28年10月7日)において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択したにもかかわらず、今回、死刑が執行されたことは極めて遺憾である。
2 死刑は重大な人権侵害である
死刑は、生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害である。いかなる理由を付しても、国家が国民の生命を剥奪することは許されない。これは、先の戦争等を通して、私たちが歴史上学んできたことである。
3 死刑には誤判・冤罪の危険性がある
 また、刑事司法制度は人の作ったものであり、その運用も人が行う以上、誤判・冤罪の可能性が常に存在する。そして、死刑は他の刑罰と異なり、全ての根元にある生命そのものを奪うものであるから、一旦執行されると取り返しがつかないことも論を俟たない。
 日本では、1980年代に免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件という4件の死刑事件について再審無罪が確定したことを契機に、誤判・冤罪の危険性と重大性が強く認識されるようになった。さらに2014年3月袴田巖死刑確定者の再審開始が決定され、約48年ぶりに東京拘置所から釈放されたことで、私たちは改めて誤判・冤罪の危険性が具体的・現実的であることを認識させられたところである。
4 死刑の犯罪抑止効果には疑問がある
 そもそも、死刑制度に他の刑罰に比べ犯罪抑止効果が認められるかどうかについては、長い間論争が続けられてきた。しかし、犯罪抑止効果があることを実証した研究はなく、むしろ多くの研究はそのような効果の存在に疑問を呈しているのが実情である。
 加えて、日本の凶悪犯罪は減少傾向にあり、殺人(予備・未遂を含む。)の認知件数は、1978年から2000件を下回り、2013年以降は1000件を下回っている。殺人発生率(既遂)も人口10万人あたり0.28件であり、218か国中211番目である。すなわち、日本は凶悪犯罪が最も少ない国の一つであり、本来死刑により凶悪犯罪を抑止する必要性は低いと言える。したがって、犯罪抑止効果を理由に死刑存続を主張するべきではない。
5 国際的趨勢は死刑廃止に向かっている
死刑の廃止は国際的な趨勢であり、2015年12月末日現在、法律上又は事実上の死刑廃止国は140か国に及び、世界で3分の2以上を占めている。しかも、実際に死刑を執行した国はさらに少なく、2015年の死刑執行国は日本を含め25か国のみである。なお、OECD(経済協力開発機構)加盟国34か国のうち、死刑を国家として統一して執行しているのは日本だけである。
その上、国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会や人権理事会が、死刑執行を停止し死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を何度も行っているにもかかわらず、日本は死刑の執行を繰り返しているのである。
6 犯罪被害者・遺族の支援の課題
 犯罪により命が奪われた場合、被害者の失われた命はかけがえのないものであり、これを取り戻すことはできない。このような犯罪は許されるものではなく、遺族が厳罰を望むことは自然なことである。
しかし、当初は死刑を望んでいたにもかかわらず、実際に死刑が執行されても悲しみは何一つ癒されなかったと述べる遺族も存在する。また、死刑の執行が真の問題解決につながると考えない遺族も存在する。
 上述のとおり、死刑制度から誤判・冤罪の危険性を払拭できないことからすると、遺族の心情を慮ったとしても、結局は、死刑により犯罪者の命を奪うべきではないとの結論に至る。無辜の処罰は、刑事手続に携わる者としては決して看過できない。
 犯罪被害者・遺族に対する支援は、当会を含め社会全体の重要な責務であり、経済的、心理的な支援を通じ、苦しみを緩和するためのシステムを構築することなどにより成し遂げられるべきものである。したがって、当会は、犯罪被害者・遺族に対する支援制度の改善・向上などにも全力を挙げて取り組む所存である。
7 よって、当会は、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、政府に対し、死刑の執行を直ちに停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める。 以 上
2017(平成29)年7月13日
金沢弁護士会会長  橋本 明夫

司法修習生への経済的支援を内容とする改正裁判所法成立にあたっての会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2017/06/post-105.html
【趣旨】
当会は,司法修習生への経済的支援を内容とする裁判所法改正法案が国会で可決・成立したことを歓迎するとともに,政府に対し,①今後も法曹志望者が経済的理由により断念することのないよう制度の検証及び必要に応じた更なる充実化を検討すること,②無給下で司法修習を行った者と,従前の給費又は今後の経済的支援下で司法修習を行った者との間の不公平を是正するための措置を早急に検討すること,③不公平是正のための措置の検討が終了するまでの間修習貸与金の償還を猶予することを求める。
【理由】
1 2017年4月19日,司法修習生に対して月額13万5000円の基本手当を支給すること等の経済的支援制度の創設を内容とする裁判所法改正法案が,衆議院・参議院で可決され,成立した。当会は,当該法案の成立を心より歓迎するとともに,当該法案の成立にあたって尽力された,石川県関係の国会議員,石川県内の賛同団体をはじめ多くの関係者の皆様に,深く感謝を申し上げる。
2 2011年に司法修習生の給費制が廃止されて以降,司法修習生は,大学や法科大学院の進学にあたっての奨学金債務を負担している者も多い中,更なる経済的負担のもとで司法修習を受けて,法曹としてのスタートラインに立たざるを得なくなった。全国の法科大学院入学者は,2010年は4122人であったところ,2016年は1857人にまで減少した。このように法曹志望者が急激に減少した一因として,法曹になるための重い経済的負担があると指摘されてきた。
 当会は,北陸地方唯一の法科大学院である金沢大学大学院法務研究科(法科大学院)も法曹志望者減少の例外ではなく入学者が減少し,地方で法曹を目指すことが一層困難になっているという事実を重く受け止め,日本弁護士連合会及び全国の単位弁護士会,ビギナーズ・ネット等とともに,司法修習生への経済的支援制度の創設を求めてきた。そして,石川県関係の多くの国会議員,石川県内の多くの団体から賛同のメッセージが寄せられたこともあって制度創設への流れは一層加速し,この度の経済的支援制度創設を内容とする改正裁判所法が,衆議院・参議院いずれも全会一致により可決・成立するに至った。
3 新たな経済的支援制度により,法曹志望者の経済的負担は一定程度軽減されることとなる。もっとも,当該経済的支援制度により,法曹志望者が経済的理由によってその道を断念する可能性が一切なくなったわけではない。政府には,制度の内容が,法曹志望者として有為の人材が確保されるのに十分なものであるかを今後も検証し,必要に応じて更なる制度の充実化を検討するよう求める。
4 また,改正裁判所法は,従前の給費制廃止後から新たな経済的支援制度の下での司法修習が開始するまでの6年間に司法修習生となった者(以下「無給修習世代」という。)に対し,何らの措置も講じていない。
 無給修習世代は,全国で約1万2000人,当会会員でも36名にのぼる。無給修習世代の法曹も,給費制下の法曹や,新たな経済的支援制度の下で司法修習を受けて法曹になる者と同様に,日本における司法の担い手としての今後の活躍が期待されるところ,法曹になるにあたって負った重い経済的負担の影響により,必ずしも経済的利益に結びつかない、弁護士の使命である基本的人権の擁護等(弁護士法第1条「弁護士の使命」)のための公益的な活動に制約が生じかねなくなっている。これだけ多くの法曹について経済的負担が取り残されている状況は,単に個々人の法曹が他の法曹と比較して不公平であることにとどまらず,国民のために弁護士が果たすべき使命等の実現に支障をきたすものであり,これは日本の司法にとって重大な問題である。
 加えて,平成30年7月から,給費制が廃止された第65期司法修習生であった者に対する貸与金の返済が始まるところ,返済が始まってしまうと不公平な事態を解消するための方策の制度設計において困難な事態が生じる。
そこで,当会は,政府に対し,無給修習世代が重い経済的負担の影響により司法の担い手として活動に制約が生じないよう,従前の給費制及び新たな経済的支援制度により給付を受ける司法修習生との間の不公平を是正するための措置を早急に検討することを求めるとともに,その検討結果が出るまでの間,無給修習世代が司法修習にあたって借入れた貸与金の償還を猶予する措置を講じるよう求める。
2017年(平成29年)6月15日
金沢弁護士会 会長 橋本 明夫

テロ等組織犯罪準備罪(いわゆる「共謀罪」)法案の廃案を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2017/04/post-100.html
当会は,昨年10月14日にテロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明を発したところである。しかし,今般,政府は,「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画罪」(いわゆる「共謀罪」。以下,「テロ等組織犯罪準備罪」という。)の新設を内容とする組織犯罪処罰法改正案(以下,「本法案」という。)を国会に提出した。
「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を内容とする本法案は,過去3度も国会に提出され,廃案となった「共謀罪」の新設を内容とする法案について,成立要件及び名称を変更したものである。具体的には,犯罪の主体を単なる「団体」から「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とし,「組織的犯罪集団」とは「その結合関係の基礎としての目的が別表第三に掲げる罪を実行することにある」団体とされている。また,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰に当たっては,計画をした者の一部が「その計画に基づき資金又は物品の手配,関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」という要件が付されている。
2 しかし,共謀罪における「団体」との要件を「組織的犯罪集団」と変更した点については,依然として,本来は犯罪の実行を目的としていない団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことをもって「組織的犯罪集団」であるとみなされるおそれが強く残っており,共謀罪に関して指摘されてきた問題点は解消されていない。「組織的犯罪集団」の事例として「テロリズム集団その他の」との例示は付け足されたものの,法律案においては第1条の目的においても,第2条の定義においても,「テロ」の文言は入っていないうえ,「その他」という曖昧な文言まで付されており,何ら限定がないのと同じである。
また,一旦,ある団体が「組織的犯罪集団」と認定されると,当該団体の本来の活動のための資金取得行為等が「犯罪を実行のための準備行為」とみなされる危険性が高く,「準備行為」の概念が拡大される危険性も解消されていない。
しかも,「組織的犯罪集団」を「別表第三に掲げる罪」を実行する組織としている点については,依然として277もの多くの犯罪類型が適用の対象となっている。「テロ等組織犯罪準備罪」との名称は,いわゆるテロを取締対象とするもののようにも思えるが,その実態は,到底テロとはいえない多くの犯罪を対象とするものである。また,このように多くの犯罪の準備行為を処罰することは,実行行為を中心に未遂の成立範囲を限定し,予備・陰謀を原則不可罰とする我が国刑法における基本原則と著しく矛盾するのであり,この点についても,共謀罪の問題点は全く解消されていない。
3 さらに,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰するという本法案の本質は,「合意」を処罰対象とするという共謀罪の本質と全く変わりはなく,通信傍受や監視カメラ等を利用した捜査手法の拡大やそれに伴う捜査権の濫用のおそれ,市民の思想良心の自由,表現・通信・集会・結社の自由などを萎縮させるおそれといった問題点も残されたままである。これらの危険性は,通信傍受についての対象犯罪の拡大や2019年6月までに予定されている暗号技術を利用した特定装置の導入に伴う通信管理者の立会いの省略化によってさらに増幅される危険性がある。
また,具体的な行為を伴わない「合意」を処罰することは,計画に参加したとされる者の供述のみによって無実の者が巻き込まれる危険が高い。
4 我が国では,既に,内乱,外患及び私戦の各予備・陰謀罪,殺人,身代金目的略取等,強盗及び放火の各予備罪,凶器準備集合罪等が規定されており,組織的犯罪集団に関連した主要犯罪は,現行法によっても未遂に至る前から処罰が可能である。また,判例上,共謀共同正犯理論が確立しており,共謀をした者が予備行為に及べば共謀者全員に予備罪の共謀共同正犯が成立することになる。さらに,テロ行為についても,航空機の強取等の処罰に関する法律3条等の個別法で予備罪の処罰規定が存在するうえ,銃砲刀剣類や薬物・化学兵器の所持等を取り締まる実効的規制も存在する。このように,新たな立法をすべき立法事実が存在しないことは,共謀罪の問題点として従来から指摘されてきたとおりである。
5 そもそも,我が国は,国際連合の主要なテロ防止関連条約を13本締結しており,これらに対応する国内法をすでに整備している。他方で,政府が同法案を提出する理由として挙げる国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約は,国際連合のテロ防止関連条約には含まれていない。政府が,過去,共謀罪法案を提出した際にもテロ対策は理由として挙げられていなかったうえ,今回の法律案を閣議決定する前に与党に示された政府案にもテロ対策については言及がなかった。上記諸点にも照らし合わせると,本法案は,従来の共謀罪法案をテロ対策のための法案であると取り繕っているにすぎないというべきである。
6 以上のとおり,テロ等組織犯罪準備罪については,対象犯罪が非常に広範囲にわたること,「組織的犯罪集団」や「準備行為」の概念が拡大されるおそれがあること,そもそも立法事実が存在しないことなど,共謀罪の問題点として指摘されていた懸念がほとんど解消されていないうえ,先般の刑事訴訟法改正により捜査権限の濫用や冤罪の危険がさらに高まっている状況にある。
したがって,当会は,本法案を廃案とするよう強く求める。
2017年(平成29年)4月20日
金沢弁護士会 会長 橋本 明夫

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し,廃止を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2017/01/post-94.html
1 声明の趣旨
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し,廃案を求める。
2 声明の理由
2016年12月15日,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「カジノ解禁推進法」という。)が成立した。
 当会は,2015年9月24日にカジノ解禁推進法案に反対し,廃案を求める会長声明を発出した。2015年4月に超党派の議員連盟によって提出されたカジノ解禁推進法案は,一定の条件のもとで刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当する行為を合法化してカジノを解禁するものであり我が国の刑事司法政策に重大な変更をもたらすものである一方,暴力団対策上の問題,マネー・ローンダリング対策上の問題,ギャンブル依存症の拡大・多重債務問題再燃の危険性,青少年の健全育成への悪影響など,看過できない様々な問題点が存したからである。
ところが,2016年11月30日に突如審議入りした法案は,衆議院内閣委員会では約6時間という極めて短い審議時間で採決が強行された。さらに,参議院内閣委員会では,刑法が賭博を犯罪とするなかで民間賭博を認めることの法秩序全体の整合性の点からの問題点も改めて浮き彫りとなったが,同委員会でも十分な審議は行われず,修正案についても修正動議の後わずか数十分の審議で可決された。
カジノ解禁推進法は,我が国で現行刑法制定以前から歴史的に厳に禁止され刑罰の対象とされてきた賭博行為を,一部とはいえ非犯罪化するものであり,また,民間賭博を初めて正面から公認するというものである。この点からも慎重な審議を要するものであるが,今回のカジノ解禁推進法の審議過程は,あまりに短時間で,拙速にすぎるものであった。
また,参議院での採決前に,ギャンブル依存症等の弊害に対応した対策をとることを明らかにする修正が加えられたものの,その内容は抽象的な表現にとどまっており,いかなる対策が講じられるかについての具体的な提案はされていない。
 以上のとおり,カジノ解禁推進法は,当会が指摘していた問題点についての解消策が全く講じられておらず,その審議経過も拙速である。内容にも成立過程にも重大な問題があると言わざるを得ない。
よって,当会は,カジノ解禁推進法の成立に強く抗議し,その廃止を求める。
2017年(平成29年)1月26日
金沢弁護士会 会長 川本藏石

テロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2016/10/post-91.html
1 今般,政府は「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を内容とする組織犯罪処罰法改正案を国会に提出することを検討していると報じられている。
「テロ等組織犯罪準備罪」とは,過去3度も国会に提出され,廃案となった「共謀罪」の新設を内容とする法案について,成立要件を見直し,名称を変更したものである。具体的には,犯罪の主体を単なる「団体」から「組織的犯罪集団」とし,「組織的犯罪集団」の定義を「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とするとのことである。また,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰に当たっては,計画をした者の一部が「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付するとのことである
2 しかし,共謀罪における「団体」との要件を「組織的犯罪集団」と変更した点については,本来は犯罪の実行を目的としていない団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことをもって「組織的犯罪集団」であるとみなされるおそれが依然として強く残っており,共謀罪に関して指摘されてきた問題点は解消されていない。
また,一旦,ある団体が「組織的犯罪集団」と認定されると,当該団体の本来の活動のための資金取得行為等が「犯罪の実行のための準備行為」とみなされる危険性が高く,「準備行為」の概念が拡大される危険性も解消されていない。
しかも,「組織的犯罪集団」を「長期4年以上の懲役・禁錮の刑を定める犯罪」を実行する組織としている点は共謀罪から変更されておらず,依然として600を超える極めて多くの犯罪類型が適用の対象となる。「テロ等組織犯罪準備罪」との名称は,いわゆるテロを取締対象とするもののようにも思えるが,その実態は,到底テロとはいえない多くの犯罪を対象とするものである。また,このように多くの犯罪の準備行為を処罰することは,実行行為を中心に未遂の成立範囲を限定し,予備・陰謀を原則不可罰とする我が国刑法における基本原則と著しく矛盾するのであり,この点についても,共謀罪の問題点は全く解消されていない。
3 更に,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰するという法案の本質は,「合意」を処罰対象とするという共謀罪の本質と全く変わりはなく,通信傍受や監視カメラ等を利用した捜査手法の拡大やそれに伴う捜査権の濫用のおそれ,市民の表現・通信・集会・結社の自由などを萎縮させるおそれといった問題点も残されたままである。これらの危険性は,通信傍受について2016年12月までに実施が予定されている対象犯罪の拡大や2019年6月までに予定されている暗号技術を利用した特定装置の導入に伴う通信管理者の立会いの省略化によって更に増幅される危険性がある。
また,具体的な行為を伴わない「合意」を処罰することは,計画に参加したとされる者の供述のみによって無実の者が巻き込まれる危険が高い。冤罪発生の危険性は,2018年6月までに導入が予定されている協議・合意制度(司法取引)の導入によって,更に高まるおそれがある。
4 そもそも,我が国では,既に,内乱,外患及び私戦の各予備・陰謀罪,殺人,身代金目的略取等,強盗及び放火の各予備罪,凶器準備集合罪等が規定されており,組織的犯罪集団に関連した主要犯罪は,現行法によっても未遂に至る前から処罰が可能である。また,判例上,共謀共同正犯理論が確立しており,共謀をした者が予備行為に及べば共謀者全員に予備罪の共謀共同正犯が成立することになる。さらに,テロ行為についても,航空機の強取等の処罰に関する法律3条等の個別法で予備罪の処罰規定が存在する上,銃砲刀剣類や薬物・化学兵器の所持等を取り締まる実効的規制も存在する。このように,新たな立法をすべき立法事実が存在しないことは,共謀罪の問題点として従来から指摘されてきた通りである。
5 以上の通り,テロ等組織犯罪準備罪については,対象犯罪が非常に広範囲にわたること,「組織的犯罪集団」や「準備行為」の概念が拡大されるおそれがあること,そもそも立法事実が存在しないことなど,共謀罪の問題点として指摘されていた懸念がほとんど解消されていない上,先般の刑事訴訟法改正により捜査権限の濫用や冤罪の危険が更に高まっている状況にある。
したがって,当会は,テロ等組織犯罪準備罪の新設に強く反対する。
2016年(平成28年)10月14日
金沢弁護士会 会長 川本藏石

死刑執行に抗議する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2016/03/post-85.html
第1 趣旨
当会は,平成28年(2016年)3月25日になされた死刑執行(被執行者2名)に強く抗議する。
 当会は,政府に対し,死刑の執行を直ちに停止した上で,死刑制度やその運用状況に関する情報を国民に対して積極的に公開して,死刑制度の廃止に関する全社会的論議を促し,死刑制度の廃止に向けての抜本的な制度の改善を行うよう強く求める。
第2 理由
1 死刑存廃問題の位置づけ
そもそも,死刑は,国家が個人の生命を侵害する刑罰であり,罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪い取るものであるから,個人の尊厳を基調とする憲法の理念に照らせば,死刑のない社会が望ましいことは論を待たない。 もっとも,死刑制度の存廃問題は,社会が重大な罪を犯した人に対してどのように向き合っていくのかという社会のあり方を決める重大な問題でもあるから,これには全社会的論議が尽くされなければならない。 われわれ弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義の実現を使命とする者として,死刑のない社会が望ましいとの認識のもと,死刑制度の存廃問題に真正面から取り組んでいく決意である。
2 死刑存廃問題をいま改めて論議すべき社会情勢の変化がみられること    我が国の最高裁判所は,昭和23年(1948年)3月12日判決において,「憲法は,現代多数の文化国家におけると同様に,刑罰として死刑の存置を想定し,これを是認したものと解すべきである。」として,死刑制度を合憲とした。 しかしながら,同最高裁判決から65年以上が経過し,国内外を問わず,死刑制度をめぐる社会情勢に顕著な変化がみられる。 まず,国際的には,死刑廃止に向けた大きな潮流の中で,我が国は数少ない死刑存置国の一つとなり,国連からも死刑廃止を求める勧告を受け続けており,そして,国内においても,平成21年(2009年)に裁判員制度が導入され,死刑判決に一般市民が裁判員として関与する場合もあるから,一般市民も死刑の問題に無関心ではいられない状況にあるといえる。 その意味で,死刑制度存置の是非について改めて全社会的に論議しなければならない時を迎えているといえる。 なお,死刑を法律上又は事実上廃止している国は,昭和23年(1948年)当時,わずか8か国であったが,平成26年(2014年)現在,世界全体の約70%に相当する140か国と急激に増加し,死刑が非人道的な刑罰であるとの認識が全世界的に広まりつつある。とりわけ,OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進諸国(34か国)のうち,死刑制度を存置している国は,日本,韓国,アメリカ合衆国のみであり,韓国は,死刑執行を停止する事実上の廃止国であり,アメリカ合衆国も死刑を廃止する州が年々増加する傾向にある中で,死刑を国家として統一して執行するのは日本だけである。このような状況から,我が国は,国際人権(自由権)規約委員会より,平成20年(2008年),「世論調査の結果にかかわらず,死刑の廃止を前向きに検討し,必要に応じて,国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべき」と,平成26年(2014年)には,「死刑の廃止を十分に考慮すること」「死刑の廃止を目指して規約の第二選択議定書(死刑廃止条約)への加入を考慮すること」との勧告を受けている。
3 死刑制度やその運用状況に関する情報が広く開示される必要があること
 政府は,平成19年(2007年)12月以降,被執行者の氏名,生年月日,犯罪事実,執行場所について公表するようになったものの,それ以外の情報については依然として明らかにしておらず,死刑存廃問題に関する全社会的な論議をするに足りる情報を開示しているとは到底いいがたい状況にある。このような状況は,とりわけ死刑求刑がなされた刑事裁判に裁判員として参加した市民にとっては,死刑制度に関する十分な情報が与えられないまま究極的な量刑判断を迫られてしまうことを意味する。裁判員に課せられる過重な心理的負担の軽減措置も何ら講じておらず現状をこのまま放置することは許されない。  そこで,死刑制度に関する全社会的論議を促す前提として,また,裁判員裁判との関係においても,政府は,国民に対して,死刑制度やその運用状況に関する情報をできる限り幅広く開示すべきである。そして,このような情報開示がなされて死刑制度に関する全社会的論議が尽くされないうちは暫定的にでも死刑の執行を停止すべきである。
4 えん罪・誤判が事後に判明した場合に取り返しがつかないこと
そもそも刑事裁判においてえん罪・誤判の危険性を完全に払しょくすることは不可能であり,死刑事件についても同様である。とりわけ,死刑は,他の刑罰とは異なり,いったん執行されれば,事後的にえん罪・誤判が明らかとなった場合に取り返しがつかない事態に陥ってしまう刑罰であることを忘れてはならない。 現に,死刑判決が言い渡され,確定したにもかかわらず,再審により無罪となった事件が過去に4件もある(免田事件,財田川事件,島田事件,松山事件)。近時でいえば,死刑事件である袴田事件について,平成26年(2014年)3月27日,静岡地方裁判所は,再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する判決が下されており,えん罪・誤判の危険は現実のものである。
5 よって,当会は,以上のとおり,会長声明を発出する。 以上

「夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所判決を受け民法における差別的規定の改正を求める会長声明」
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2016/03/post-84.html
第1 声明の趣旨 2015年12月16日に言い渡された最高裁判所大法廷判決を受け,当会は,国に対し,民法第750条及び同第733条を含む民法の差別的規定を速やかに改正することを強く求める。
第2 声明の理由
1 2015年12月16日,最高裁判所大法廷は,婚姻の際の「氏の変更を強制されない自由」は憲法上保障されていないこと,夫婦同氏の強制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないこと,個人の尊厳と両性の本質的平等という憲法第24条の要請に照らして夫婦同氏の強制が合理性を欠くとは認められないことを理由として,夫婦同氏の強制を定める民法第750条は憲法第13条,同第14条,同第24条のいずれにも違反するものではないと判断したが,この判断は是認できない。 夫婦同氏の強制を定める民法第750条は,憲法第13条及び同第24条が保障する個人の尊厳,同第24条及び同第13条が保障する婚姻の自由,同第14条及び同第24条が保障する平等権を侵害し,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」にも反するものである。  今回の最高裁大法廷判決においても,5名の裁判官(3名の女性裁判官全員を含む。)が民法第750条は憲法第24条に違反するとの意見を述べ,問題となっているのは夫婦同氏の合理性ではなく,それに例外が許されないことの合理性であると指摘した。岡部喜代子裁判官の意見(櫻井龍子裁判官,鬼丸かおる裁判官及び山浦善樹裁判官が同調)は,夫婦同氏の強制によって個人識別機能に対する支障や自己喪失感等の負担がほぼ妻に生じていることを指摘し,その要因として,女性の社会的経済的な立場の弱さや家庭生活における立場の弱さ,事実上の圧力など様々なものがあることに触れており,夫婦同氏の強制が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえないと説示している。また,木内道祥裁判官の意見は,夫婦同氏の強制は,憲法第24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等に反すると説示し,「家族の中での一員であることの実感,夫婦親子であることの実感は,同氏であることによって生まれているのだろうか」と疑問を投げかけている。 なお,多数意見は「氏を改めることによって生ずる不利益は,婚姻前の通称使用によって一定程度緩和され得る」とする。しかし,通称は制度として確立されているものではなく,あくまで慣例上の便宜的なもので,使用の拒否,許される範囲等が定まっているわけではない。現在のところ公的な文章には使用できない場合があるという欠陥があるうえ,通称名と戸籍名との同一性という新たな問題を惹起することになる。前述の岡部喜代子裁判官の意見では「そもそも通称使用ということ自体が,婚姻によって変動した氏では,個人の同一性の識別に問題があることを示す証左である」と述べられており,また,木内道祥裁判官の意見も,「法制化がなされないまま夫婦同氏の合理性の根拠と成し得ないことは当然である」と述べ,通称使用を合理的根拠の一つに挙げる多数意見を批判している。
2 一方,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条については,最高裁判所大法廷は,100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとして,憲法第14条第1項及び同第24条第2項に違反するとの判断を下した。 民法第733条を違憲であると判断した点については,一定の評価ができる。しかし,DNA鑑定等が発達した今日,父性推定の重複を避ける目的のためだけに,女性のみに再婚禁止期間を設けることは,その期間を100日間に短縮したとしても必要最小限にしてやむを得ないものとはいえない
3 法制審議会は,1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」を総会で決定し,男女とも婚姻適齢を満18歳とすること,女性の再婚禁止期間の短縮及び選択的夫婦別姓制度の導入を答申した。また,国連の自由権規約委員会は婚姻年齢に男女の差を設ける民法第731条及び女性のみに再婚禁止期間を設ける民法第733条について,女性差別撤廃委員会はこれらの規定に加えて夫婦同氏を強制する民法第750条について,日本政府に対し重ねて改正するよう勧告を行ってきた。法制審議会の答申から19年,女性差別撤廃条約の批准から30年が経つにもかかわらず,国会は,上記各規定を放置してきたものである。今回の最高裁大法廷判決における山浦善樹裁判官の反対意見も,1996年の法制審議会の答申以降相当期間を経過した時点において,民法第750条が憲法の諸規定に違反することが国会にとっても明白になっていたと指摘している。
4 よって,当会は,国に対し,民法第750条及び同第733条を含む民法の差別的規定を速やかに改正することを強く求める。
2016(平成28)年2月25日
金沢弁護士会会長 西村 依子

死刑執行に抗議する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2016/02/post-83.html
第1 趣旨
当会は,昨年(2015年)12月18日になされた死刑執行(被執行者2名。うち1名は,裁判員裁判を経て死刑が確定した者。)に強く抗議する。
当会は,政府に対し,死刑の執行を直ちに停止した上で,死刑制度やその運用状況に関する情報を国民に対して積極的に公開して,死刑制度の廃止に関する全社会的論議を促し,死刑制度の廃止に向けての抜本的な制度の改善を行うよう強く求める。
第2 理由
1 死刑存廃問題の位置づけ
 そもそも,死刑は,国家が個人の生命を侵害する刑罰であり,罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪い取るものであるから,個人の尊厳を基調とする憲法の理念に照らせば,死刑のない社会が望ましいことは論を待たない。 もっとも,死刑制度の存廃問題は,社会が重大な罪を犯した人に対してどのように向き合っていくのかという社会のあり方を決める重大な問題でもあるから,これには全社会的論議が尽くされなければならない。 われわれ弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義の実現を使命とする者として,死刑のない社会が望ましいとの認識のもと,死刑制度の存廃問題に真正面から取り組んでいく決意である。
2 死刑存廃問題をいま改めて論議すべき社会情勢の変化がみられること
 我が国の最高裁判所は,昭和23年(1948年)3月12日判決において,「憲法は,現代多数の文化国家におけると同様に,刑罰として死刑の存置を想定し,これを是認したものと解すべきである。」として,死刑制度を合憲とした。 しかしながら,同最高裁判決から65年以上が経過し,国内外を問わず,死刑制度をめぐる社会情勢に顕著な変化がみられる。 まず,国際的には,死刑廃止に向けた大きな潮流の中で,我が国は数少ない死刑存置国の一つとなり,国連からも死刑廃止を求める勧告を受け続けており,そして,国内においても,平成21年(2009年)に裁判員制度が導入され,死刑判決に一般市民が裁判員として関与する場合もあるから,一般市民も死刑の問題に無関心ではいられない状況にあるといえる。 その意味で,死刑制度存置の是非について改めて全社会的に論議しなければならない時を迎えているといえる。 なお,死刑を法律上又は事実上廃止している国は,昭和23年(1948年)当時,わずか8か国であったが,平成26年(2014年)現在,世界全体の約70%に相当する140か国と急激に増加し,死刑が非人道的な刑罰であるとの認識が全世界的に広まりつつある。とりわけ,OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進諸国(34か国)のうち,死刑制度を存置している国は,日本,韓国,アメリカ合衆国のみであり,韓国は,死刑執行を停止する事実上の廃止国であり,アメリカ合衆国も死刑を廃止する州が年々増加する傾向にある中で,死刑を国家として統一して執行するのは日本だけである。このような状況から,我が国は,国際人権(自由権)規約委員会より,平成20年(2008年),「世論調査の結果にかかわらず,死刑の廃止を前向きに検討し,必要に応じて,国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべき」と,平成26年(2014年)には,「死刑の廃止を十分に考慮すること」「死刑の廃止を目指して規約の第二選択議定書(死刑廃止条約)への加入を考慮すること」との勧告を受けている。
3 死刑制度やその運用状況に関する情報が広く開示される必要があること
 政府は,平成19年(2007年)12月以降,被執行者の氏名,生年月日,犯罪事実,執行場所について公表するようになったものの,それ以外の情報については依然として明らかにしておらず,死刑存廃問題に関する全社会的な論議をするに足りる情報を開示しているとは到底いいがたい状況にある。このような状況は,とりわけ死刑求刑がなされた刑事裁判に裁判員として参加した市民にとっては,死刑制度に関する十分な情報が与えられないまま究極的な量刑判断を迫られてしまうことを意味する。裁判員に課せられる過重な心理的負担の軽減措置も何ら講じておらず現状をこのまま放置することは許されない。そこで,死刑制度に関する全社会的論議を促す前提として,また,裁判員裁判との関係においても,政府は,国民に対して,死刑制度やその運用状況に関する情報をできる限り幅広く開示すべきである。そして,このような情報開示がなされて死刑制度に関する全社会的論議が尽くされないうちは暫定的にでも死刑の執行を停止すべきである。
4 えん罪・誤判が事後に判明した場合に取り返しがつかないこと
そもそも刑事裁判においてえん罪・誤判の危険性を完全に払しょくすることは不可能であり,死刑事件についても同様である。とりわけ,死刑は,他の刑罰とは異なり,いったん執行されれば,事後的にえん罪・誤判が明らかとなった場合に取り返しがつかない事態に陥ってしまう刑罰であることを忘れてはならない。現に,死刑判決が言い渡され,確定したにもかかわらず,再審により無罪となった事件が過去に4件もある(免田事件,財田川事件,島田事件,松山事件)。近時でいえば,死刑事件である袴田事件について,平成26年(2014年)3月27日,静岡地方裁判所は,再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する判決が下されており,えん罪・誤判の危険は現実のものである。
5 よって,当会は,以上のとおり,会長声明を発出する。 以 上
2016年2月1日
金沢弁護士会 会長 西村 依子

司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2016/01/post-82.html
[趣旨]
当会は,国会に対し,司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の改正を求める。
[理由]
1 司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会・当会をはじめ全国の各弁護士会に対して,石川県関係の国会議員を含む多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられているが,先日,同賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数717名の過半数である359名を超えた。 まずはメッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し感謝の意と敬意を表するものである。 メッセージを寄せられた国会議員は,与野党を問わず広がりを見せており,司法修習生への経済的支援の必要性についての理解が得られつつあるものと考えられる。
2 司法修習生とは,司法試験に合格した者が法曹(裁判官・検察官・弁護士)のいずれの道に進むにあたっても受けなければならない国家による研修(司法修習)の過程にある者である。司法修習生は,法令上,修習に専念する義務(司法修習との兼業は原則として禁止される),修習中に知り得た秘密を守る義務といった公務員に準ずる義務が課されるとともに,国家公務員に準じて給与が支払われていた。 このように,司法修習生が公務員に準ずる身分とされてきたのは,そもそも司法制度が,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであることから,国はかかる公共的価値を実現する司法制度を担う法曹になる司法修習生を,国家が責任をもって養成するべきである,という理念に基づくものであった。
3 ところが,2011年11月から,司法修習生に対する給費制が廃止され,司法修習期間中に費用が必要な司法修習生に対しては,司法修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された(なお,修習専念義務や守秘義務等の義務は給費の廃止後も存続している)。この司法修習資金の負債に加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている司法修習生も多く,その合計額が極めて多額に上る者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが指摘されているところである。 当会はこれまで,北陸地方唯一の法科大学院であり「地域に根ざした法曹教育」を理念に掲げる金沢大学大学院法務研究科への支援等を通じて,経済的事情から都市部の法科大学院に進学することができない者も含め,地域における司法の担い手として活躍できる多くの人材の養成に取り組んできた。もっとも同法科大学院も志望者減少の例外ではなく,法曹を目指す者の重い経済的負担が,地方で法曹を目指し,教育を受けることを一層困難にしているのである。 こうした事態を重く受け止め,法曹に広く有為の人材を募り,法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう,また,司法修習生が安心して司法修習に専念できる環境を整えるため,司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。
4 去る2015年6月30日,政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。 これは,司法修習生に対する経済的支援の実現に向けた大きな一歩と評価することができる。法務省,最高裁判所等の関係各機関は,有為の人材が安心して法曹を目指せるような希望の持てる制度とするという観点から,司法修習生に対する経済的支援の実現について,直ちに前向きかつ具体的な検討を開始すべきである。
5 当会は,司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当の創設)に対し,国会議員の過半数が賛同のメッセージを寄せていること,及び,政府においても上記のような決定がなされたことを踏まえて,国会に対して,給付型の経済的支援(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の改正を求めるものである。
2016年(平成28年)1月20日
金沢弁護士会 会長 西 村 依 子

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/09/post-75.html
1 はじめに 2013年12月に国会に提出された,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」は,カジノを含む特定複合観光施設区域の整備推進を目的とし,そのための関係諸法令を整備する基本法的な性格を持ち,一定の条件のもとで刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当する行為を合法化し,カジノを解禁するものである。 本法案については,提出当初から様々な問題点が指摘され,議論が紛糾して審議が進まないまま衆議院の解散によって廃案となったが,2015年4月28日に再提出された。しかし,以下の問題点から本法案を容認することは到底できない。
2 カジノ解禁推進法案の問題点
(1)カジノは刑法で処罰対象となっている「賭博」であること 本法案は,刑法第185条及び第186条で社会風俗を害する行為として処罰の対象とされている「賭博」行為そのものであるカジノを合法化して解禁するものである。違法行為の例外を認めることは極めて慎重になされるべきであるところ,後述するとおり,本法案の立法目的である経済活性化については十分な裏付けがあるとは言い難い。
(2)暴力団対策上の問題  暴力団が資金獲得のためカジノへの関与に強い意欲を持つことは容易に想定される。暴力団自身が事業主体となり得なくとも,従業員の送り込み,事業主体の下請,カジノ客に対する闇金融等といった,種々の脱法的方法でカジノ事業及びその周辺領域での活動に参入する危険性がある。
(3)マネー・ローンダリング対策上の問題  我が国も加盟している,マネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において,カジノ事業者はマネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。我が国にカジノを設けた場合,仮にカジノ事業者に様々な義務を課したとしても,マネー・ローンダリングを完全に防ぐことは極めて困難であると考えられる。
(4)ギャンブル依存症の拡大・多重債務問題再燃の危険性  ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性の重篤な疾患である。ギャンブル依存症から家族関係が悪化したり,多重債務に陥って犯罪や自殺に至ったりする者も少なくない。もしカジノを解禁すれば,ギャンブル依存症患者が更に増加するおそれがある。  また,近年の様々な多重債務者対策によって多重債務者が激減してきたが,ギャンブルは多重債務の原因の一つであり,カジノの解禁によって沈静化しつつあった多重債務問題を再燃させるおそれがある。
(5)青少年の健全育成への悪影響  合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も座視できない。とりわけ,IR方式(カジノが,会議場,レクリエーション施設,宿泊施設その他と一体となって設置される方式)は,家族で出かける先に賭博場が存在する方式であるから,青少年らが幼少のころからカジノに接することにより賭博に対する抵抗感を持たないまま成長することになりかねない。そのような環境では,青少年の健全な育成に悪影響をもたらすことは明らかである。
(6)経済的観点からの合理性の検証が不十分であること  本法案の立法目的に経済の活性化が掲げられているが,経済効果の有無は十分な検証の上に評価されるべきである。韓国,米国等では治安悪化などを理由にカジノ設置自治体の人口が減少し,あるいは多額の損失を被ったという調査結果も存在するにもかかわらず,経済的なマイナス要因の可能性について,客観的な検証はほとんどなされていない。
3 結論
以上のとおり,カジノ解禁が上記の様々な弊害をもたらすものであるにもかかわらず,本法案の立法目的である経済効果に対する検証が不十分なものである。 よって,当会は本法案に反対する立場を表明するとともに,その速やかな廃案を求めるものである。
2015年(平成27年)9月24日
金沢弁護士会 会長 西村依子

安全保障関連2法の制定に抗議する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/09/post-74.html
(趣旨)
当会は,平成27年9月19日に成立した安全保障法制に関する「国際平和支援法」と「平和安全法制整備法」の2法の制定に抗議し,その適用・運用に反対する。
(理由)
1 平成27年9月19日未明,参議院本会議において安全保障法制に関する「国際平和支援法」と「平和安全法制整備法」の2法案が可決され,同法案は形式的には法律として成立した。
2 しかし,このうち「平和安全法制整備法」は,政府がこれまで憲法9条の下では認めることができないとしてきた集団的自衛権の行使を一部容認する内容を含むものであり,立憲主義及び恒久平和主義に反することは明らかである。衆参両議院における公聴会において,元最高裁判所裁判官を含む多くの公述人が違憲と述べ,また,元最高裁判所長官や歴代の内閣法制局長官を始めとする多くの法律家や学者も違憲である旨指摘していることは周知の事実である。 そもそも,国会議員は憲法尊重擁護義務を負っている。したがって,憲法に適合する法律を制定するのが国会議員の職責であり,仮に法案が憲法に適合しない疑いが有力に指摘された場合は,その疑いを払拭するか憲法に適合する内容に修正するのでなければ,廃案にするのが国会議員の職責でもある。違憲の法律を制定することなど,多数決をもってしても許されるはずがない。然るに,今国会においては,衆参両議院を通じて,憲法適合性の審議が不十分なまま,結果として憲法に違反する内容の法律を成立させてしまった。違憲の法律は無効である。したがって,当会は,資格を有する法律家集団として,立憲主義の観点から,このような違憲の法律の制定に抗議し,その適用・運用に反対する。
3 また,集団的自衛権の行使を一部であれ認めなければならないような立法事実(法律の制定・改正の合理性を支える社会的事実等)がないことも,今国会における審議を通じて明白となった。政府は,昨年7月1日の閣議決定において,これまでの憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を一部容認する法整備をする必要性について,「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展,大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し,変化し続けている状況を踏まえれば,今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても,その目的,規模,態様等によっては,我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」との認識を表明していた。しかし,国会における政府答弁によっても,政府がいわゆる存立危機事態として具体的にどのような事態を想定しているのかさえその説明が二転三転し,結局このたびの法整備の必要性については一向に明らかにされなかった。ましてや,今回の安全保障法制は,いわゆる存立危機事態において,実際に自衛隊が集団的自衛権の名の下で武力を行使することが想定されているのであるから,いずれ自衛隊員の中にも命を落とす者,他者の命を奪う者が現れるという重大な事態が予想される。政府は,存立危機事態の認定には,「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」という厳格な歯止めがかかっており,しかも国会による承認という民主的コントロールも受けると説明するが,今般の国会における審議で明らかとなったことは,「明白な危険」の有無は時の政府が総合的に判断するということだけであった。しかも,国会による承認も過半数で足りるとするならば,「明白性」という文言が付されていたとしても,必ずしも十分な歯止めにはなり得ないことは論理上明らかである。したがって,具体的な立法事実が認められない中で,このような曖昧な基準で存立危機事態の認定が可能となる法律の制定を到底容認することはできない。
4 同様に,国際平和支援法や改正国際平和協力法(PKO協力法)においても,いわゆる後方支援や駆け付け警護等の海外における自衛隊の活動範囲が拡大され,かつ,海外での自衛隊員による武器使用等が想定されているが,これらの点について武力行使の一体化等に関する憲法適合性や立法事実の検証,さらにはそのような自衛隊ないし自衛隊員の活動の必要性・相当性,自衛隊員の安全確保等についての議論は甚だ不十分といわざるを得ない。
5  以上のとおりであるから,当会は,今般の安全保障法制に関する「国際平和支援法」と「平和安全法制整備法」の2法の制定に抗議し,その適用・運用に反対し,さらには日弁連と共に,その廃止に向けた取組を行う決意である。
2015(平成27)年9月24日
金沢弁護士会  会 長  西 村 依 子

接見室内での写真撮影に関する東京高裁判決に対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/09/post-73.html
東京高等裁判所は,本年7月9日,東京拘置所の接見室内で,接見中に被告人の健康状態の異常に気づいた弁護人が,弁護活動の一環として証拠保全目的で被告人を写真撮影したところ,拘置所職員から写真撮影を制止され,接見を中止させられたことについて,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害するとして提起された国家賠償請求事件で,国に損害賠償を認めた原判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの判決を言い渡した。
 憲法34条前段は,被疑者・被告人(以下,「被告人等」という。)に対し,弁護人から充分な援助を受ける機会をもつことを保障し,このような権利保障のもと,弁護人は,被告人等の刑事手続上の諸権利を実現すべく,誠実に弁護活動を行い,最善の努力をする義務を負うものであって,それにより,正しい刑事裁判が実現されるのである。
 証拠保全のために接見室内で写真撮影(録画を含む。以下,同じ。)をすることは,被告人等が弁護人による充分な援助を受ける機会をもつために最大限に保障されるべき弁護活動に含まれるものであるから,刑事施設等の職員は,逃亡や罪証隠滅の防止といった拘禁目的に具体的な支障が生じない限り,接見や写真撮影等の弁護活動を妨害してはならないものである。
 しかるに,本判決は,単に刑事施設が定めた規律侵害行為があれば,写真撮影を制止し,接見を中断させることができるとし,これらの措置は弁護活動を不当に制約しないと判示したものである。これは,刑事施設等による弁護活動の侵害を安易に許すものであり,到底是認しうる判断ではない。
 刑事施設,留置施設,鑑別所が,撮影機能を持つ機器及び録音機能を持つ機器の持ち込み並びに面会室内における写真撮影を禁止したり,弁護人が接見室内でした録音又は写真撮影画像(録画を含む。)の内容を検査したりすることは,弁護人の秘密交通権及び正当な弁護活動を侵害するものであるが,本判決により,弁護人の誠実な弁護活動が萎縮することが危惧される。
 当会は,本判決に対し強く抗議するとともに,刑事施設,留置施設,鑑別所に対し,接見室内における写真撮影等を禁止するなどして弁護人の弁護活動を侵害することのないよう強く求める。
2015(平成27)年8月27日
金沢弁護士会  会 長  西 村 依 子

少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/09/post-72.html
選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)が平成27年6月17日に可決成立したが、その附則第11条では、「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」と規定されている。また、自由民主党は同法の成立に先立ち、「成人年齢に関する特命委員会」を開いて、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることを検討しているとの報道がなされている。
しかし、当会は、以下の理由により少年法の適用年齢を引き下げることについては強く反対するものである。
 法律の適用年齢は、それぞれの法律の立法趣旨を踏まえ、法律ごとに考えなければならない。公職選挙法と少年法では立法趣旨が全く異なる。
 選挙権年齢は、多元的な民意を的確かつ効率的に国政等に反映させるため、どのような範囲の者に選挙権を与えるのが適当かという観点から考えるべきものであり、18歳以上の国民に選挙権を付与することは、多元的な、特に若年者の民意を的確に国政等に反映する上で合理性を有するといえる。
 しかし、少年法の適用年齢に関しては、選挙権年齢と同様に考えることはできない。少年法は、少年が、人格的に発達途上で環境の影響を受けやすく教育可能性も大きいこと(可塑性)から、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」こと等を目的としているところ(少年法第1条)、現状、18歳・19歳の非行に至る少年について、人格的に発達途上でなくなったとか、環境の影響を受けなくなったとか、教育可能性がなくなったとかいった事実はない。むしろ、社会の変化(ネット依存、離婚等による不安定な家庭の増加、等々)にも伴い、非行に至る少年については特に、心理的、精神的、社会的な成熟が遅れる懸念がある。そのような少年に対しては、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分」の必要性が増大しているというべき状況なのである。家庭裁判所が取り扱う少年事件の約4割を占めるのが18歳・19歳の少年であるところ、それらの少年に対し刑事罰を科することとなれば、何ら教育的な措置が講じられず、その結果、将来にわたって犯罪が繰り返されることになりかねない。さらにいえば、刑罰法令に触れるわけではないが将来犯罪に及ぶ危険性が高い状態にある虞犯への介入は、少年法に固有のものであるところ、少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられれば、18歳・19歳の虞犯への介入が不可能となり、犯罪の芽を未然に摘む貴重な機会を失うことになる。これは、社会にとっても大きな損失になりかねない。
 歴史的にみても、旧少年法(大正11年制定)はその適用年齢を18歳未満としており、現行少年法(昭和23年制定)で20歳未満に引き上げられるまで、民法の成年年齢(20歳)とも、選挙権年齢(昭和20年の法改正までは25歳、それ以降は20歳)とも一致していなかったのであるから、選挙権年齢と少年法の適用年齢とを一致させる理由はない。
なお、凶悪な少年事件が増加しており、これに対処するために「甘い」少年法を改正しなければならないとの議論が一般には見受けられるところである。しかし、こうした議論は誤っている。
 まず、少年事件は増加しておらず、凶悪化もしていない。平成26年版犯罪白書によれば、少年による刑法犯の検挙人員は、昭和58年の31万7438人をピークとして平成7年まで減少傾向にあり、その後若干の増減を経て、平成16年からは毎年減少し続けており、平成25年は9万0413人と、昭和21年以降初めて10万人を下回った。少年10万人当たりの人口比でも、平成16年以降減少傾向にある。凶悪犯の検挙人員についても、昭和58年には殺人87人、強盗788人、強姦750人、放火389人であったのが、平成25年には殺人55人、強盗564人、強姦136人、放火137人となるなど減少傾向にある。したがって、少年事件の増加や凶悪化しているという事実はなく、そのために少年法を改正しなければならないということもない。
また、少年法による保護処分は成人に対する刑事処分に比べて「甘い」わけではない。少年事件は全件家庭裁判所に送致され、少年が非行に至った原因・背景や生活環境について、家庭裁判所や少年鑑別所の専門的知見を活かした調査や鑑別を行い、それら結果を踏まえ、継続的かつ人間的な接触に基づく教育的な働きかけを行うことによって少年の更生が図られている。そのため、非行事実だけをとらえれば、仮に成人であれば起訴猶予となったり、起訴されても執行猶予付き判決が言い渡されたりする可能性が高い事案であっても、少年事件においては、少年の資質や生活環境に深刻な問題があり教育的措置の必要性が高いと判断されれば、少年院送致となる可能性も十分あるのであり、刑事罰でないということだけをもって、保護処分を「甘い」というのは誤りである。加えて、検察官送致によって刑事罰が科される可能性も十分存する制度となっている。
 以上のとおり、選挙権年齢の引き下げと連動させて少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる理由はなく、また、若年者の成熟が遅れる傾向にある現状において、むしろ非行に至った18歳・19歳の少年に対する教育的措置の必要性は増大しているといえ、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることは、かえって社会を不安定化させることとなりかねない。 よって、当会は、少年法の適用年齢を引き下げることについては強く反対するものである。
2015(平成27)年8月27日
金沢弁護士会  会 長  西 村 依 子

安全保障法制に関する2法案に断固反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/05/post-68.html
(趣旨)
当会は,政府が第189回国会に提出した安全保障法制に関する2法案の成立に断固反対する。
(理由)
1 政府与党は,安全保障法制を整備するとの方針の下,平成26年5月から与党協議を開始させ,同年7月1日にはこれまでの政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をし,これを受けて平成27年4月27日には新たな日米防衛協力のための指針(以下「新ガイドライン」という。)に合意し,さらに、同年5月14日には,新法である「国際平和支援法」と,既存の自衛隊法や周辺事態法(重要影響事態法に名称を変更)等10の関連法律の改正を一括した「平和安全法制整備法」の2法案を閣議決定し,国会に提出した。
2 これまでにも当会は,集団的自衛権の行使を容認することが,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を謳っている憲法第9条や恒久平和主義を宣明している憲法前文に反していること,また,閣議決定という何ら制約のない手続きによって集団的自衛権の行使を容認することが政府の独断専行によって前記憲法の精神を踏みにじるに等しく,立憲主義をないがしろにするものであること等を理由に,政府与党が進めてきた安全保障法制整備の動きに対し,一貫して反対意見を表明してきた。
すなわち,平成26年5月2日には「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を,同年6月27日には「性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明」を,同年7月25日には「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める会長声明」を,さらには平成27年2月6日には「集団的自衛権行使等の閣議決定撤回と法整備中止を求める決議」を総会で採択し,それぞれ関係各機関に発出してきた。そのほか,広く一般市民にも訴えるべく,多数回に及ぶ署名活動・街頭宣伝活動を行い,さらにはシンポジウムや意見交換会等も開催してきた。
これら当会の意見表明や活動には,多数の市民が賛同しており,同様の思いをもって状況を見つめている者は,日本国中を見渡しても決して少なくないと思われる。
3 それにもかかわらず,政府は,我々の声に耳を傾けることなく,国民の代表機関である国会に諮ることもなく,今般,新ガイドラインに合意し,それを受けて上記2法案を閣議決定し,国会に提出した。
(1) しかし,まず新ガイドラインにおいては,「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」として,日本が米国とともにアセット防護,海上作戦,後方支援等を行うことが定められるなど,集団的自衛権行使の内容がかなり具体化されているが,このような集団的自衛権行使という憲法上極めて重要な問題につき,外交関係の処理という枠組みのみにおいて対外的に新たな取り決めを行うことは,立憲主義をないがしろにするものである。のみならず,その内容について国民に十分な周知がなされないままに日米の政府間でガイドラインを合意することは,いまだ国会で議論すらされていない安保法制立法を既成事実化するものであって,国民主権・民主主義に反するものであり,到底許されない。
(2) 次に,上記2法案のうち自衛隊法や武力攻撃事態法等の改正案では,これまでの自衛隊の防衛任務から「直接侵略及び間接侵略に対」する場合を削除し,新たに「存立危機事態」を追加して自衛隊が武力行使をできる範囲を集団的自衛権の行使にまで拡大している。また周辺事態法の改正案である重要影響事態法案においては,外国軍隊への後方支援に関する地理的な制約を排除した上,武器使用を認める範囲も拡大している。しかし,このような法案が成立し,実際に自衛隊による防衛活動や後方支援活動が行われれば,いずれ自衛隊員の中にも戦闘に巻き込まれて命を落とす者,他者の命を奪う者が現れることは明白である。
 政府はこれらの法案は戦争法案などではなく,抑止力により平和を構築するための法整備である旨説明する。しかし,このような法制化が他国に対する抑止力に止まる保証はどこにもなく,相手国にとってはまさにわが国が他国の戦争に加担する国となるということにほかならない。当会は,戦争は人権侵害の最たるものであるとの認識の下,戦争に巻き込まれる危険を伴う法案には,人権擁護の立場から断固反対するものである。
1 以上のとおりであるから,当会は,政府及び国会に対し,現在国会で審議中の安全保障法制に関する「国際平和支援法」と「平和安全法制整備法」の2法案の成立に断固反対する。
2015(平成27)年5月26日
金沢弁護士会  会 長  西 村 依 子

集団的自衛権行使等の閣議決定撤回と法整備中止を求める決議
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/04/post-65.html
第1 趣旨
当会は,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回,及び関連する国内法整備の中止を求める。
第2 理由
1 集団的自衛権の行使は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を謳う憲法第9条の解釈上許されない。それにもかかわらず,政府は,2014(平成26)年7月1日,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定を行った(以下「本閣議決定」という。)。 閣議決定は政府にとって何ら制約のない手続であり,政府が本閣議決定によって憲法第9条の解釈を変更し,従来政府も違憲としてきた集団的自衛権の行使を容認したことは,憲法が国家権力を拘束し人権を保障する立憲主義の理念に反するものである。
2 また,本閣議決定によれば,集団的自衛権の行使には「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」という要件が付されているため,本閣議決定による集団的自衛権の行使は憲法第9条に抵触しないという主張も存在する。しかし,同要件の内容は極めて不明確なものであり,時の政府の判断により恣意的な解釈がなされる危険性が極めて大きく,事実上限定や歯止めとして機能することは期待しえない。
3 さらに,同年12月10日に施行された特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)によって,行政機関の長は,「外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち,国民の生命及び身体の保護,領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの」を「特定秘密」に指定し,非公開とできることとなった。これでは,集団的自衛権行使の要件充足を判断する根拠が非公開とされ,私たち国民や国会が,集団的自衛権行使の是非を適切に判断できず,武力行使の法制化段階,及び法の適用段階において監視機能を働かせられなくなるおそれがある。
4 以上のとおり,本閣議決定及び特定秘密保護法の施行により,集団的自衛権の行使として他国に対する武力行使が行われる危険性が高まっている。今後,関連する法律の改正等により,本閣議決定に基づく集団的自衛権行使のための法制度が具体化されれば,当該危険性がより現実味を帯びることとなる。
5 集団的自衛権行使の要否には様々な意見があるが,当会は在野法律家の立場から,かかる状況に危機感を抱き,同年7月25日に本閣議決定の撤回を求める会長声明を,同年12月10日に特定秘密保護法の廃止を求める会長声明を発出してきたが,今般の情勢を踏まえ,更に,政府が憲法第9条の解釈変更によって集団的自衛権の行使を容認したことに強く反対すべく,総会にて決議する。
2015(平成27)年2月6日
金 沢 弁 護 士 会

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉にあたり
ISDS条項の締結に反対し交渉状況の情報公開を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2015/02/post-62.html
2015年2月4日
金沢弁護士会
会長 飯 森 和 彦
[趣旨]
当会は,政府が交渉に参加しているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関して,
1 同協定に含まれるISDS(国家と投資家の間の紛争解決)条項が,憲法の定める司法・立法・行政の機能と相容れず,国民主権という基本原理を脅かすものであるので,これに反対するとともに,それが不可能であれば,TPP交渉から脱退することを求める。
2 同協定への参加をめぐる交渉は,秘密交渉として行うべきではなく,国民主権原理に基づく国会の権能を踏まえ,議論に必要な情報の公開をできるようにするための交渉を求めるとともに,それが不可能であれば,TPP交渉から脱退することを求める。
[理由]
第1 ISDS条項について
1 ISDS条項とは ISDS(Investor-State Dispute Settlement)条項とは,投資家と投資受入国との間で投資紛争が発生した場合に,投資家が当該紛争を国際仲裁等を通じて解決するという規定であり,投資関連協定における中核的な規定の一つである。 現在世界各国で締結されている投資関連協定の大多数がISDS条項を含んでいることから,TPPへの参加にあたっても,他の参加国との間でISDS条項を含む投資協定が締結される可能性が高いと考えられる。
2 ISDS条項に基づく仲裁手続
ISDS条項を締結した国家間では,投資家と投資先の国家等との間に生じた紛争は,以下のような解決手段を利用できるとされる。
(1) 投資家が締結国(投資受入国)の政府ないし地方政府の投資協定違反行為によって損害が発生したと主張する場合,その紛争解決手続を国際仲裁機関(政府機関ではない私設の裁判機関)に求めることが可能である。
(2) 国際仲裁機関による仲裁手続では,ISDSの実体規定である,
① 最恵国待遇(相手国の投資家及びその投資財産に対して,第三国の投資家に与えている待遇より不利でない待遇を与えること)
② 内国民待遇(投資家を投資受入国の国民または企業と同等に扱うこと)
③ パフォーマンス要求(投資活動に対する特定措置の履行要求)の禁止
④ 直接収用及び間接収用(所有権等の移動を伴わない投資財産の利用や収益の障害となる措置)の禁止
⑤ 公正衡平待遇義務(公正かつ衡平な待遇並びに十分な保護及び保障を与える義務 等に基づいた裁定がなされる。
(3) 国際仲裁機関の裁定には強制力があり,投資受入国の裁判所での手続を経なくとも強制執行手続が可能となる。
3 ISDS条項は国家の司法権に広範な例外を設けるものである
憲法76条1項は,「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定している。そして,司法権とは,具体的な争訟(権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争)について,法を適用し,宣言することによって,これを裁定する国家の作用をいう。 ところが,ISDS条項では,2(1)で述べたように,憲法上は国家の司法権に属する国内の具体的な争訟について,国家の関与しない私的な仲裁制度によって終局的に解決することを認めているほか,2(3)で述べたように強制執行の申立権まで認めている。
日本の現行法で,国際法に基づく司法権の例外とされているのは,外国の外交官による特権の場合と,日米地位協定に基づくアメリカ軍関係者の場合(例外は一部に限られている)しかない。日本がISDS条項を含むTPPに加盟した場合,加盟国の投資家(外国企業)すべてに仲裁の申立権,日本の裁判所による承認手続を経ない強制執行申立権が認められることになり,司法権に極めて広範な例外が認められることとなる。
このような広範な例外を認めることは,「すべて司法権は」と規定した憲法76条1項の趣旨に反するものである。
4 ISDS条項は立法行為を萎縮させ国民主権を脅かしうる
2(2)で述べたとおり,ISDS条項には国際仲裁機関が規範として適用する実体規定が存在する。これらの規定はいずれも「収用」「公正衡平」といった抽象的な文言で定められており,何が投資協定違反行為にあたるのかが明確に規定されていない。
このことから,経済取引に関するルールを定める立法の必要性があっても,投資協定違反行為であるとして国際仲裁機関から多額の損害賠償命令を受けることを回避しようとするばかり,国権の最高機関である国会の立法行為,あるいは内閣・地方公共団体による規則制定行為に萎縮効果を及ぼす可能性がある。
また,条約が国内法に優先するということからも,外国投資家の利益を保護するための手続であるISDS条項により,国民主権・民主主義という憲法の基本原理が脅かされる可能性すらある。
5 小括
これまでに述べたことから,ISDS条項は,司法権,立法権及び行政権のいずれの国家作用についても,その本来の機能と相容れないものであり,ひいては国民主権という憲法の基本原理を脅かす可能性すらある内容を含むものである。そこで,当会はこれに反対し,それが不可能であれば,TPPへの参加に対し,反対する。
第2 交渉状況の情報公開について
1 TPP交渉の目的
TPPは,関税のみならず,広く非関税障壁一般の撤廃を目的とした協定であり,日本は2013年7月から交渉に参加している。
2 情報公開の必要性
非関税障壁とは,広く国家の規制,制度や慣行を意味する。
このうち,経済活動に対する国家の規制は,国民の生命・健康・財産といった国民生活全般のほか,環境の保護をも目的としてなされるものであるため,それらの規制の撤廃は,これら国民生活や環境,ひいては日本社会に多大な影響を与える可能性が極めて高い。
そのため,これら規制の撤廃を目的とするTPPについては,国民が十分な情報を得た上で,その是非につき議論がなされなければならないことは自明である。
3 秘密保持契約の存在とそれにより生じる懸念
(1) しかるに,TPP交渉では,交渉参加に先立ち,秘密保持契約を結ぶという異例の秘密交渉の方式が採られている。さらに,TPP発効後,もしくは,TPPが合意に至らなかった場合は,最後の交渉会合から4年間は,交渉原文,各国政府の提案,添付説明資料,交渉の内容に関するEメールおよび交渉の文脈の中で交換されたその他の情報を秘匿することが求められているとの報道がある。
そのため,国民や国民の代表者たる国会が,TPPに関し十分な情報を得ることも出来ず,当然,TPPやその内容の是非につき国民的議論を行うことは甚だ困難である。
(2) このような状況下では,TPPに関する条約締結に関する国会の承認(憲法61条,73条3号但書)を経るに際しても,国会に対し秘密保持条項を根拠として必要な情報を与えられず,国会は,意味内容が十分に確認できない条約に対し承認を迫られることとなる。
これは,条約に対する承認権を国会に与えている国民主権の趣旨を没却するものと言わざるを得ない。
(3) また,TPPの内容が不明確なまま承認をする場合,国会は,条約承認時において国内法の改正について十分な議論ができず,条約締結後も同様に,関連する国内法の改正を十分な審議ができまま議決することを余儀なくされる。
これは,事実上,国会による十分な議論を経ずに国内法を改正することとなるため,国会を唯一の立法機関と定めた憲法41条の趣旨にも反する。
4 小括
よって,TPP交渉は,秘密交渉として行うべきではなく,国民主権原理に基づく国会の権能を踏まえ,議論に必要な情報が公開されるべきである。それが不可能であれば,わが国はTPP交渉から脱退すべきである。

特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/12/post-61.html
(趣旨)
当会は,本日施行された特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める。
(理由)
1 法律の施行
特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)は,2013年(平成25年)12月6日に成立し,2014年(平成26年)10月14日には,特定秘密保護法施行令(以下「施行令」という。)及び特定秘密の指定及びその解除並びに適正評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(以下「運用基準」という。)が閣議決定され,本日施行日を迎えた。
2 知る権利や報道の自由を侵害するおそれがある
しかし,特定秘密保護法の内容及び施行の経緯には,以下に述べるとおり様々な問題点がある。
まず,そもそも政府が保有する情報は,本来,私たち主権者である国民の財産でもあり,その一部を「特定秘密」に指定し私たちに知り得ないものにできるということは,私たちの知る権利や報道の自由を侵害するものである。
また,運用基準においても,「特定秘密」指定の要件該当性に関して極めて不明確な判断基準を示した上で,「特定秘密として保護すべき情報を漏れなく指定すること」を遵守事項として掲げている。これでは,不明確な基準のもと,「特定秘密」指定に積極的な方向に厳格性が追求され,結果「特定秘密」に指定される範囲が不当に拡大されることは明らかであり,到底認められるものではない。
3 国民主権主義に反する
次に,特定秘密保護法が「特定秘密」を最終的に公開するための確実な法制度を設けておらず,「特定秘密」を国会へ提供するか否かの最終的な判断を政府が行うこととしている点は,国民主権原理に反するものである。
また,特定秘密保護法の抱える問題点は成立当初から縷々指摘されていたものではあるが,情報保全諮問会議が作成した施行令,運用基準の素案に対して,2万3820件ものパブリックコメントが寄せされたことからも,国民的コンセンサスがいまだ十分に形成されていないことは明らかである。それにもかかわらず,同素案はほとんど変更されることなく閣議決定され,その抱える問題点が何ら解消されないまま多くの国民の声を無視して,本日施行されてしまった。この1点を見ても,国民主権原理に反する特定秘密保護法の内実が反映されているといわざるを得ない。
4 重大な情報の秘密指定が集団的自衛権行使と結びつき恒久平和主義破壊となる危険性が極めて大きい
さらに,特定秘密保護法は,以下のとおり,集団的自衛権との関係においても深刻な問題を抱えている。
運用基準によれば,「特定秘密」と指定される情報には,「外国の政府等との交渉又は協力の方針又は内容のうち,(a)国民の生命及び身体の保護,(b)領域の保全,…(d)国際社会の平和と安全の確保(我が国及び国民の安全に重大な影響を与えるものに限る。)もの」が含まれている。これらの情報は,2014年(平成26年)7月1日の閣議決定において示された集団的自衛権行使の要件該当性(「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」)を判断する上で必要不可欠な情報である。
集団的自衛権行使は,そもそも憲法第9条の解釈上認められないのであり,限定的な行使容認ですら本来許されるものではないが,特定秘密保護法によって,限定要件該当性の判断過程が私たち国民にとって不透明なものとなれば,集団的自衛権行使に対する歯止めが効かなくなり,恒久平和主義が破壊される危険性が極めて大きくなる。
5 むすび
よって,当会は,このような問題を多く抱えている特定秘密保護法を一刻も早く廃止することを強く求める次第である。
2014年(平成26年)12月10日
金沢弁護士会 会長 飯 森 和 彦

大飯原発差止訴訟判決に対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/07/post-58.html
第1 会長声明の趣旨
当会は,基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し,積極的に判断を示した福井地方裁判所の姿勢を高く評価するとともに,政府に対しては,本判決を重く受け止め,福島原発事故の極めて重大かつ深刻な被害の重みを直視した上で,原子力発電に依存する姿勢を転換するよう強く求める。
第2 会長声明の理由
1 福井地方裁判所は,2014年(平成26年)5月21日,関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)に対し,大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)から半径250キロメートル圏内の住民の人格権に基づく大飯原発3号機及び4号機の運転差止請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。本判決は,仮処分決定を除くと,2011年(平成23年)3月の福島第一原発事故以降に言い渡された原発訴訟の判決としては初めてのものであり,極めて意義の大きい判決である。
2 従来の原子力発電所をめぐる行政訴訟及び民事訴訟において,裁判所は,行政庁の科学技術的裁量を広く認め,また,行政庁や事業者の原子力発電所の安全性についての主張・立証を緩やかに認めた上で,安全性の欠如について住民側に過度の立証負担を課したために,適切な司法判断がなされてきたとは言い難かった。
これに対し,本判決は,従来の司法判断の枠組みはとらず,原子炉規制法に基づく新規制基準での適合性審査とは別個独立に,司法は司法としての判断が可能であり,司法の役割としてその判断を行うべきことを明言した。そして,個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益の総体にあたる人格権は憲法上の権利であり,人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできず,原子力発電所の事故はこの人格権が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるところ,このような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば,原子力発電所の運転の差止めが認められるとしたものである。その上で,①基準地震動を超える地震が発生しないとは言い切れないこと,②基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得ること,③使用済み核燃料が堅固な施設によって囲まれていないことなどの事実から,大飯原発の具体的危険性を認め,運転差止めを認めたものである。
3 当会は,2012年(平成24年)5月2日,志賀原子力発電所1号機及び2号機について,福島第一原発事故の原因が解明されておらず,新しい安全基準による審査が行われていないなど,再稼働の前提条件が満たされていない現段階における拙速な再稼働に反対する旨の会長声明を発している。本判決は,基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し,高度な専門的・科学的知見を必要とする訴訟においても積極的な審理を行ったものであって,当会の上記声明と基本的認識を共通にするものであり,当会としては本判決を高く評価したい。
4 また,当会は,政府に対しては,本判決を真摯に受け止め,従来のエネルギー・原子力政策を改め,再生可能エネルギーを飛躍的に普及させるとともに,原発に依存する姿勢を転換するよう強く求めるものである。 以上
2014年(平成26年)7月25日
金沢弁護士会 会長 飯 森 和 彦


金沢弁護士会
集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/07/post-57.html
(趣旨)
当会は,政府に対し,従前の憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を一部容認した閣議決定の撤回を求めるとともに,同決定に基づく国内法整備に断固反対する。
(理由)
1 はじめに
2014(平成26)年7月1日,政府は,集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った(以下「本閣議決定」という。)。政府は,本閣議決定により,日本は,自国が武力攻撃をされていないにもかかわらず,武力行使ができる国であることを明らかにした。しかし,本閣議決定には,以下のとおり,憲法に違反する点がある。
2 平和主義の原則に反すること
平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であり,だからこそ憲法前文は平和的生存権を確認し,憲法第9条において戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を規定するなど徹底した恒久平和主義を宣明し,私たちもこれを堅持してきた。
かかる恒久平和主義の立場からすれば,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」である集団的自衛権の行使が憲法第9条に違反することは明らかである。
集団的自衛権に関するこれまでの政府見解においても,政府は,「わが国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)があること」などの自衛権発動の3要件を定め,政府答弁や内閣法制局長官答弁において,集団的自衛権の行使は憲法第9条の解釈上認められない旨一貫して表明してきたところであり,かかる政府見解は国内外を通じて確立したものとなっていた。
ところが,本閣議決定において,政府は,集団的自衛権の行使容認へと立場を変更した。本閣議決定の中で,政府は,憲法第9条との抵触問題について,集団的自衛権の行使が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」,当該武力攻撃により,「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限定される以上,違憲でない旨説明している。しかし,そもそも集団的自衛権の行使は憲法に違反するのであり,限定の有無は問題となるはずもなく,かかる説明は到底認められない。
加えて,かかる限定要件の中に用いられている文言は極めて幅の広い不確定な概念を持つものであり,時の政府の判断によって恣意的な解釈がされる危険性が極めて大きいため,将来的に,集団的自衛権の行使拡大につながるおそれがある。恒久平和主義の礎を揺るがさないためにも,本閣議決定は早急に撤回されなければならない。
3 立憲主義の理念に反すること
憲法は,国の基本的な在り方を定める最高法規であり(憲法第98条),憲法第96条は厳格な改正要件を定めている。ところが政府は,かかる憲法改正の手続を回避するばかりか,国民の中で十分に議論することすらなく,閣議決定という何ら制約のない手続きによって,憲法第9条の解釈を変更し,これまで認められないとしてきた集団的自衛権を一部とはいえ認めてしまった。
本閣議決定においては,「国際安全保障環境が変化した」ことが強調され,今回の憲法第9条の解釈変更の理由とされている。しかし,前述のとおり,今回の解釈変更は,解釈の限界を超えるものであり,かかる変更が閣議決定においてなされることは憲法の破壊であり,立憲主義国家であるわが国においては,いかなる理由があろうとも許されるはずがない。
以上より,本閣議決定による,拙速かつ強行的な憲法9条の解釈変更は,立憲主義をないがしろにするものであり,到底許されるものではない。
4 憲法尊重擁護義務に反すること
以上のとおり,憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認が憲法上許されない行為である以上,本閣議決定は,内閣総理大臣,国務大臣の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に違反する。
政府は,本閣議決定において,今後自衛隊法等の国内法整備を進めていく旨明言している。しかし,本閣議決定自体憲法に違反する以上,政府は,本閣議決定を一刻も早く撤回するべきで、本閣議決定に基づく立法活動も当然差し控えるべきである。
5 むすび
当会は,2014(平成26)年に入ってからも,5月2日に「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を,6月27日には政府・与党が閣議決定による集団的自衛権行使容認への動きを加速させたことに対し警鐘をならすべく,再度「性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明」を発表した。
こうした当会の2度にわたる反対声明をふくむ国民各層からの反対が表明されていたにも関わらず,政府は,これらを無視して本閣議決定に及んだ。そこで,当会は,政府に対して,本閣議決定の撤回を求め,同閣議決定に基づく国内法整備に断固反対するものである。
平成26年(2014年)7月25日
金沢弁護士会 会長 飯森 和彦

性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/07/post-55.html
趣 旨
当会は,政府が性急に閣議決定によってこれまでの憲法解釈を変更し,集団的自衛権行使を容認することに強く反対する。
理 由
1 集団的自衛権行使容認に関する最近の動き
安倍首相は,第186回国会における平成26年6月11日の党首討論において,集団的自衛権の行使に関して,「政府として立場を決定し,閣議決定する。」と,集団的自衛権行使容認を閣議決定においてすることを明らかにした。この間の自民党との協議によって,これまで政府解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に消極的であった公明党も,限定的とはいえ閣議決定による集団的自衛権行使容認に賛成する動きを見せ始めている。
こうした状況からすれば,早々に集団的自衛権行使を容認する閣議決定がなされる可能性は高まっている。同閣議決定後は,今秋の臨時国会において集団的自衛権行使に向けての立法活動も大きく進展することが予想され,集団的自衛権行使容認問題は非常に切迫した局面を迎えていると言わなければならない。
2 集団的自衛権行使を容認する閣議決定の憲法上の問題点
政府は,これまで自衛権発動の3要件を定め,集団的自衛権の行使は,「わが国に対する急迫、不正の侵害」に対処する場合ではないから憲法第9条の解釈上認めることはできないとの見解を示しており,政府答弁や内閣法制局長官答弁でも同見解を前提とした内容を繰り返し表明してきた。かかる政府の姿勢により,国民の間にも広く「わが国は集団的自衛権を行使しない」との信頼が形成されており,対外的にもそのような信頼が定着していると言っても過言ではなく,上記政府見解を結論において変更することは,解釈の幅を超えるものと言わざるを得ない。
加えて,集団的自衛権の行使を閣議決定によって容認することは,以下のとおり憲法上問題がある。
そもそも平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であることから,憲法前文,第9条は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という恒久平和主義,そして平和的生存権を宣明し,私たちは,これを堅持してきたのであり,集団的自衛権の行使容認は,第9条の解釈の限度を超えている。よって,時の政府の都合で憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは憲法上許されない。
また,憲法前文及び第9条に規定されている恒久平和主義,平和的生存権の保障は,憲法の基本原理であるから,政府が閣議決定によって,集団的自衛権行使を容認する方向で憲法解釈を変更することは,国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反するおそれが強く,許されない。
しかも憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法第96条は厳格な改正要件を定めている。かかる憲法改正の手続を回避し,閣議決定という何ら制約のない手続において集団的自衛権を認めてしまうことは,立憲主義をないがしろにするものと言わざるを得ない。
したがって,閣議決定によって集団的自衛権の行使を容認することは憲法上極めて問題がある。
しかも、以上の根本的な問題点は,集団的自衛権の行使につき,国会の事前承認を要するとか,「限定的に認める」としても,何ら解消されるものではない。
3 結論
当会は,平成26年5月2日に「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を発表したところであるが,今日の政府・与党の動きに警鐘を鳴らすべく,改めて,政府が性急に閣議決定によってこれまでの憲法第9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する次第である。
平成26年(2014年)6月27日
金沢弁護士会 会長  飯  森  和  彦

集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/05/post-54.html
当会は,政府による憲法解釈の変更や法律の改正・制定のみで,集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する。
理由
1 集団的自衛権行使を容認する最近の動き
平成24年(2012年)12月の衆議院議員総選挙で自由民主党が大勝し政権与党に復帰して以来,集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進んでいる。
まずは安倍首相が内閣法制局長官に集団的自衛権行使の容認論者を任命したことに始まり,続いて政府が国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案や特定秘密保護法案を国会に提出,国会における反対意見,日弁連・当会を含む各地弁護士会の反対,市民らの反対運動を押し切って成立させたことは記憶に新しい。
そして,今,安倍首相は,閣議決定により憲法9条の解釈変更を行った上で,既存の関連法を集団的自衛権の行使を前提とする方向で改正するほか,将来的には国家安全保障基本法等の制定を考えているようである。
2 集団的自衛権に関するこれまでの政府見解
政府は従来から,自衛権発動の場面を,①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること,②この攻撃を排除するため,他の適当な手段がないこと,③自衛権行使の方法が,必要最小限度の実力行使にとどまること,の各要件に該当する場合に限定してきた。
そのうえで,集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」と定義した上で,自衛権発動の①の要件を欠くことから,「我が国が,国際法上,このような集団的自衛権を有していることは,主権国家である以上,当然であるが,憲法9条の下において許容されている自衛権行使は,我が国を防衛するための必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており,集団的自衛権を行使することは,その範囲を超えるものであって,憲法上許されない」(昭和56年(1981年)5月29日政府答弁)との見解を表明し,その後の政府答弁や内閣法制局長官答弁においても,この政府見解を前提とする答弁が繰り返し表明されている。
国民の間にも広く「我が国は集団的自衛権を行使しない」との信頼が形成されており,対外的にもそのような信頼が定着していると言っても過言ではない。
3 現行憲法下で集団的自衛権の行使を容認することは許されない
(1) 集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲は許されない
上記の政府見解は,憲法上の当然の帰結である。そもそも平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であることから,憲法前文,第9条は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という恒久平和主義,そして平和的生存権を宣明している。この憲法第9条が,前記自衛権発動の3要件が具備されない状況下で,外国に対して武力攻撃がなされたということを理由とする武力行使を許容しているとは,到底考えられない。したがって,憲法第9条の文言からは,集団的自衛権の行使を容認する解釈は成り立ち得ない。
よって,時の政府の都合で憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは憲法上絶対に許されない。
(2) 集団的自衛権の行使を容認する法律の改正や立法も許されない
また,憲法前文及び憲法第9条に規定されている恒久平和主義,平和的生存権の保障は,憲法の基本原理であるから,憲法の下位規範である法律を改正あるいは制定してこれを変更しようとすることは,国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反し,憲法が最高法規であり,憲法に反する法律や政府の行為は無効であるとされていること(憲法第98条)に鑑み,許されない。
しかも憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法第96条は,改正の要件を,①各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,②国民投票でその過半数の賛成を得なければならないとして,一般の法律より格段に厳格な手続を定め,国会や国民の間で充分かつ慎重な審議が尽くされることを要求している。このような厳格な憲法改正の手続を回避し,通常の立法手続で集団的自衛権を認めてしまうことは,立憲主義をないがしろにするものと言わざるを得ない。
したがって,集団的自衛権の行使を前提とした既存法の改正や立法も許されない。
(3) 以上の根本的な問題点は,集団的自衛権の行使につき,国会の事前承認を要するとか「限定的に認める」としても,何ら解消されるものではない。
4 結論
以上の次第であるから,当会は,政府による憲法解釈の変更や法律の改正または制定のみで,集団的自衛権の行使を容認しようとする最近の政府の行為に強く反対する。
平成26年(2014年)5月2日
金沢弁護士会 会 長  飯 森  和 彦

行政書士法改正に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2014/03/post-50.html
第1 趣旨
当会は,行政書士法を改正して,行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することに,反対する。
第2 理由    日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出することのできる書類に係る認可等に関する審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め,そのための運動を推進してきており,それを受けて行政書士法改正案が議員立法として国会に提出される可能性がある。しかし,上記業務を行政書士の業務範囲に加えることは,以下に述べるとおり,国民の権利利益の擁護を危うくするおそれがある。よって,当会は,ここに反対の意見を述べる。
1 行政不服申立等の代理業務は行政書士業務と相容れない
そもそも,行政書士の業務は,行政に関する手続の円滑な実施に寄与し,国民の利便に資することを目的として,官公署に提出する書類等の作成及びその作成・提出を代理人として行うことを主たる内容とする。他方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度である。したがって,後者においては国民と行政庁が鋭く対立することが予想されところ,行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が,行政庁の行った処分に対しその是正を求めることは,その職務の性質と本質的に相容れないものである。
2 行政不服申立等の代理権を行政書士に付与することは国民の利益を損なう
都道府県知事による監督を受ける行政書士が,国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立等の代理人となることは,国民の権利利益の実現を危うくするおそれがある。
また,行政不服申立等の代理行為は,その後の行政訴訟の提起や同訴訟段階での結論も十分に視野に入れる必要があるところ,行政不服審査法の知識を有するとしても,訴訟実務に精通していない行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することによって,行政庁の違法・不当な行政処分を是正し国民の権利利益を擁護するはずの行政不服申立制度において,国民の側に立ってその権利利益擁護のため最善を尽くすことのできない代理人が許容されることになる。このような国民の権利利益が全うされないという事態は,厳に避けなければならない。
3 職業倫理
行政書士について定められている倫理綱領は,その内容において,当事者の利害や利益が対立する紛争事件の取扱いを前提にする弁護士倫理と異なっており,行政書士において紛争事件を取り扱うだけの職業倫理が確立しているとはいえない。
4 改正の必要性がない
行政書士に行政不服申立等の代理権を付与しなければ代理人が不足するものでもなく,立法事実を欠く。弁護士は,これまでも,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。
そして,今後も,弁護人口の増加等により,行政不服申立ての分野にも弁護士が一層関与してゆくことが確実に予想される状況にあるから,行政書士法を改正して行政書士の業務範囲を拡大する必要性はない。
よって,当会は,行政書士法を改正して,行政書士に行政不服申立等に関する代理権を付与することに反対するものである。
2014年(平成26年)3月4日
金沢弁護士会 会長  西 井   繁

「特定秘密保護法案」の衆議院での可決に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/11/post-46.html
趣旨
当会は,現在衆議院で審議中の「特定秘密の保護に関する法律案」が,同院で可決されて参議院に送付されることに,断固として反対する。
理由
1 政府は,平成25年(2013年)10月25日,「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定して国会に提出し,現在は衆議院で審議中である。
2 当会は,これまでの「秘密保全法」制定に向けての動きに対しても重大な問題があることを指摘し立法化作業に反対し,平成24年(2012年)7月26日には,「秘密保全法制に反対する会長声明」を公表しているところであるが,本法案についても,以下の理由により断固として反対するものである。
(1) 立法の必要性がないこと
そもそも,本法案を制定しようとする動きのきっかけとなったと思われる尖閣諸島沖中国船追突映像流出事件は,国家秘密の流出などとは到底言えない事案であり,本法案を制定する必要性の根拠とはなり得ない。仮に,情報漏えいから保護されるべき国家秘密があるとしても,情報漏えいに関しては国家公務員法100条(罰則同109条)や自衛隊法59条(罰則同118条)等の現行法制で十分に対処できるものであり,新たな法制を設ける必要性はない。
また,「国家安全保障会議」いわゆる日本版NSCを設置するために必要との主張もあるようだが,本法案では,適用対象者及び適用対象情報をNSC関係のものに限定しておらず,広くすべての国家公務員が扱うすべての情報を対象にしていること,また,上記のようにそもそも現行法制の下でも厳格な情報管理によって必要な秘密の保護はなし得るのであるから,本法案を特に日本版NSCを設置するために制定しなければならない理由は見出せない。
(2) 「特定秘密」の範囲が広汎かつ不明確であること
本法案は,保護の対象となる「特定秘密」の範囲を,①防衛,②外交,③特定有害活動の防止,④テロリズムの防止の各事項であって,「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要であるもの」としているが(第3条,別表),その範囲は広汎で,かつ不明確である。
すなわち,防衛に関する事項(第1号)は,自衛隊法別表第4と同様であって限定的と評価し得るものではない。外交に関する事項(第2号)は,「安全保障」という概念が抽象的に過ぎてその捉え方如何ではその範囲が無限定に広がるおそれがある。特定有害活動の防止に関する事項(第3号)は,要件が「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全への脅威」「その他の重要な情報」など抽象的であいまいな文言になっているために範囲が極めて不明確である。テロリズムの防止に関する事項(第4号)は,「テロリズム」の明確な定義が規定されていないため,「テロリズム」の捉え方如何によっては政府による防止活動の範囲を無限定に拡大させることも可能となるおそれがある。
また,上記各事項について,「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要であるもの」という要件を付加してその範囲を限定するとしても,「安全保障」という概念の危険性については上述したとおりであるし,「著しく支障を与えるおそれ」という概念も抽象的に過ぎるものである上に,この要件の存否も以下に述べるように「特定秘密」に指定する行政庁の長が自ら判断するのであって恣意的判断を制度的に排除することはできないのであるから,実質的には「特定秘密」の範囲を限定する機能を果たさないおそれは極めて大きいというべきである。
(3) 「特定秘密」の指定が行政機関の長により恣意的になされうること
本法案は,保護の対象となる「特定秘密」の指定を行う権限は,情報を保有する行政機関の長に委ねられており,かつ,公正な第三者機関による事前審査の機会もないため,政府にとって国民に知られたくない情報が,政府の恣意的運用によって「特定秘密」と指定されて隠蔽される危険がある。
すなわち,指定をできる行政機関が限定されていないため,殆ど全ての行政機関が指定をできることとなり,行政に関する情報の殆どが指定の対象となり得ることを否定できない。
しかも,指定された情報が「特定秘密」として適正な情報か否かを客観的に担保する制度が存在していないから,行政機関の長による恣意的な指定を制度的に排除することはできず,本来国民に公開されるべき情報が「特定秘密」として国民に秘匿されるおそれを防止することができない。
(4) 指定の有効期間を延長し続ければ指定が恒久化すること
本法案は,行政機関の長が「特定秘密」の指定をするときは,当該指定の日から起算して5年を超えない範囲内においてその有効期間を定めるものとして指定の有効期間の上限を5年としつつ(4条1項),同じく5年を超えない範囲で行政機関の長による延長(更新)を通算30年を超えない範囲で許容し(同2項),かつ,「指定の有効期間が通じて30年を超えることとなるときは,(中略)内閣の承認を得なければならない。」(同3項)と定めるので,30年までは指定権者である行政機関の長の恣意的な判断で,30年を超える場合でも当該行政機関の長の判断を追認する形で内閣の承認がなされてしまえば,恣意的な指定が恒久化することを容認することになってしまう。しかし,これでは事後的に国民が指定の適否を検証することが不可能となり,主権者である国民が国政に関する重要な情報を知ることができなくなり,国民の知る権利を害することとなる。
この点,新聞報道によれば,与党は,特定秘密として指定してから30年後に公開することを原則とすることに本法案を修正する意向であるようではあるが,原則とするということは例外を認めるということにほかならず,その点で不十分であるといわざるを得ないし,また,かかる修正をしたところで,指定の有効期間の更新についての客観的相当性を担保することには何ら役立たない。
(5) 適性評価制度は重大なプライバシー侵害のおそれがあること
本法案は,特定秘密の取扱いの業務を行うことのできる行政庁の職員等や行政機関との契約を行う業者の役職員(以下「特定秘密取扱業務従事者」という。)を定めるに際して,「適性評価」を実施する旨を定めている(12条)。
しかし,その対象事項には,精神疾患や飲酒節度,信用状態に関する事項等,他人に知られたくない極めて高度のプライバシー情報が多く含まれており,しかも,一定の事項については特定秘密取扱業務従事者の家族や同居人の氏名,生年月日,国籍及び住所も含まれている。
特定秘密取扱業務従事者のうちの行政機関との契約を行う業者の役職員は一般市民であり,かつ行政庁の職員等の家族や同居人の多くも一般市民であることを勘案すれば,特定秘密取扱業務従事者による同意が調査の要件とされているとしても,これらの者のプライバシー権が侵害されるおそれは極めて大きい。
(6) 処罰範囲があいまいかつ広汎で,罰則も過剰であること
本法案は,特定秘密取扱業務従事者等による特定秘密の漏えい行為を犯罪として処罰することとしているが,故意による場合だけでなく,過失によるものも処罰対象としている。しかし,過失は処罰の対象の範囲が不明確で開かれた構成要件と呼称されていることからも明らかなように,過失による漏えい行為をも処罰対象とすることは,罪刑法定主義の観点,刑罰の補充性・謙抑性の原則に照らして極めて疑問である。また,本法案は,未遂罪も処罰対象としているが,これでは処罰範囲が無限定に拡大するおそれも否定できない。さらには,その成立要件が不明確とされる「共謀」によるものや,正犯の実行行為がなくても独立して犯罪とされる「独立教唆」及び「扇動」によるものも広く処罰対象とされているが,このような処罰範囲が不明確な構成要件を設けること自体,罪刑法定主義の観点から到底看過することができない。
さらに,本法案では,一定の行為態様による特定秘密の取得行為も犯罪として処罰することとしているが,この行為態様の中には,「その他の特定秘密の保有者の管理を害する行為」が含まれている。この構成要件は,抽象的に過ぎて甚だ不明確であり,前述した特定秘密取扱業務従事者等による特定秘密の漏えい行為についての共謀,独立教唆及び扇動も処罰対象とされていることと相俟って,処罰範囲が無限定に拡大するおそれが極めて大きく,罪刑法定主義の観点からはもとより,特定秘密取扱業務従事者等への取材や情報提供の働きかけという行為も処罰対象となりうる危険性を内包していると評価せざるを得ない。
従って,こうした処罰規定の存在自体が,各種報道機関の取材活動やオンブズマン活動等の各種の市民活動に深刻な萎縮的効果をもたらすことは明白であり,報道機関の取材の自由と報道の自由及び国民の表現の自由や知る権利を侵害する危険性は甚だしい。
この点,本法案には,報道の自由への配慮規定が設けられているが,憲法上の権利として報道の自由と国民の知る権利が存することは判例法上確定しており,配慮規定を設けざるを得ないこと自体が,本法案が国民の知る権利とこれに資する報道の自由を侵害する高度の危険性を内包していることの何よりの証左である。
このように,本法案の処罰範囲はあいまいでかつ広汎にすぎ,またそれぞれの刑罰も過剰に重すぎ,国民に対する萎縮効果は甚大で,国民の自由を大幅に制約するものといわざるを得ない。
さらには,国会議員も処罰対象とされていることからすれば,国会議員による行政機関への種々の調査活動や国会議員間での自由な討論及び有権者への国政報告活動を総て刑罰をもって禁止することも可能となり,国民主権に基づく議会制民主主義そのものが危殆に瀕する可能性も否定できない。
(7) その他,本法案は,行政機関の長の判断で「特定秘密」を国会に対しても提出を拒むことができるものとするが,これでは国会の国政調査権が空洞化され,国権の最高機関性が侵されるおそれがある。
3 以上のとおり,本法案には,様々な問題点があるほか,憲法の基本原理に抵触するおそれがあるといわざるを得ない。よって,当会は本法案が立法化されることに断固として反対し,衆議院に対して本法案を可決して参議院に送付しないように強く求める。
平成25年(2013年)11月22日
金沢弁護士会 会長 西井 繁

憲法96条改正に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/08/post-43.html
第1 趣旨
当会は,憲法第96条1項について,同項の定める憲法改正の要件を緩和する方向でのいかなる改正に対しても断固反対する。
第2 理由
1 最近の憲法改正論議の状況
最近,複数の政党から,憲法改正手続きを定めた憲法第96条1項の発議要件について,「各議員の総議員の3分の2以上の賛成」と規定するところの「3分の2以上」という要件を「過半数」に緩和すべきという憲法改正議論がなされているようである。
しかし,この憲法改正論には,以下のような問題がある。
2 立憲主義の考え方を大きく後退させることになる
憲法は,国の基本的なあり方を定め,たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても,権力が濫用されるおそれがあることから,基本的人権を擁護するために,国家権力を担う者の権力濫用を防止するために縛りをかけるものである。
このような立憲主義の理念の現れとして,憲法は,発議要件として「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」というハードルを設けている。これは,憲法が,国の基本的なあり方を定める最高法規であり,慎重かつ本質的な議論が尽くされた上で改正がなされるべきであるため,憲法改正の発議案を検討する段階で,少数意見にも配慮した十分な論議が国会でなされることを絶対条件として,国民投票手続きに進むことを許したものである。
しかし,発議要件が「過半数」に緩和されると,その時々の政権与党の考え方次第で憲法改正の発議案が決せられることになりかねず,少数意見に配慮した十分な議論が国会でなされないまま国民投票が実施されることとなってしまう。
したがって,このような発議要件を緩和する方向での改正は,立憲主義の考え方を大きく後退させることになるものと言わざるを得ない。
3 硬性憲法の趣旨を後退させることになる
多くの国々では,憲法改正の要件を,法律の制定・改正よりも加重し,憲法の安定性を担保して,国家の根本秩序の不安定化による混乱をさけようとしている。
しかし,発議要件が「過半数」に緩和されると,憲法改正について,国民的な議論が深まっていない段階で,容易に憲法改正案の発議がなされることになり,憲法が安易に改正されるおそれがあり,硬性憲法の趣旨を後退させることになる。
4 憲法第96条の改正は,憲法改正の限界を超えている
憲法学説の中では,憲法改正には限界があるとの見解が多数を占めており,憲法第96条の改正も限界を超えるものと解釈されている。
なぜならば,憲法第96条は憲法自身の存立基盤にかかわるものであって,その改正は,憲法の同一性を失わせるものであり,憲法がそもそも予定するところではないからである。
したがって,憲法96条を改正すること自体許されない。
5 以上の理由により,当会は,憲法第96条1項について,同項の定める憲法改正の要件を緩和する方向でのいかなる改正に対しても断固反対する。
2013(平成25)年8月27日
金沢弁護士会 会長 西井 繁

生活保護法改正法案の再提出に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/08/post-42.html
第1 趣旨
当会は,次期国会に生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)が再提出されることに対し強く反対する。
第2 理由
1 政府は,平成25年度の通常国会において,生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)の成立を目指し,平成25年 6月4日に若干の修正が加えられたうえ,改正案は衆議院で可決された。最終的に,改正案は同年6月26日に参議院で廃案となったものの,田村憲久厚生労働大臣は,次の臨時国会に改正案を再提出する意向を示している。しかし,この改正案は,①行政窓口における違法な「水際作戦」を合法化する,②扶養義務者に対する事前通知の義務付け等により保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす,との2点において看過しがたい重大な問題が含まれている。
2 まず,現行の生活保護法24条1項は,「保護の開始の申請があったときは」と規定し,保護申請を要式行為とせず,かつ,保護の要否決定に必要な書類の添付を申請の要件としていない。また,口頭による保護申請も認められるとするのが確立した裁判例である(大阪高裁平成13年10月19日判決等)。しかしながら,改正案では,原則として生活保護の申請には,厚生労働省令で定める書類を添付した申請書を提出しなければならないとされている(改正案24条1項,2項)。これにより,申請書の不備等を理由として申請の拒絶が可能となり,これまでも問題となっていた違法な「水際作戦」を合法化しようとするものである。
すなわち,現行生活保護法では,申請書の提出や書類の添付は保護申請の要件とされず,保護申請の意思があれば,まずはこれを受け付け,実施機関側がその責任において調査権限を行使し,必要書類を収集し保護の要否判定を行うこととしているところ,改正案では,事実上,申請者自身が要保護状態であることを証明しなければならなくなる。そのためホームレス状態の人やDV被害者など,必要な書類を用意できず着の身着のままの状態で福祉事務所に申請に行く人は,申請を拒否される結果となり,また居宅があっても心身に障害を持ち書類の準備に時間のかかる人は適切な時期に保護が受けられなくなる恐れがある。
この点について,改正案でも「特別な事情」がある場合は申請書の提出や書類の提出を免除することとなっているが,「特別な事情」の有無は行政側が判断するので,申請書などの不備を理由とした申請拒否が生じる可能性は否定できず,改正案は違法な申請権侵害行為をいわば合法化するものであって,到底容認できるものでない。
3 また,改正案は,保護の実施機関に対し,保護開始の決定をしようとするときは,あらかじめ扶養義務者に対して,厚生労働省令で定める事項を通知することを義務づけている(改正案24条8項)。さらに,同項は,保護実施機関が扶養義務者に対し保護の決定等にあたって報告を求めることができる等,実施機関の調査権限を拡大している。
現行の生活保護法では扶養義務者への通知は法定のものではなかったが,それでも保護申請を行う際に,扶養義務者への通知により親族との間にあつれきが生じるのを恐れて申請を断念する場合も多かった。もし,扶養義務者への通知が義務化されれば,よりいっそう保護申請に萎縮効果が生じることは明らかである。
4 なお,改正案は,「不正受給」防止を立法趣旨の一つとするが,既に平成24年12月27日付当会「生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」で指摘したとおり,「不正受給」の割合は金額ベースで0.4%弱で推移しており,近年目立って増加している事実はなく,改正案はその前提となる立法事実を欠いており,実際には保護費の削減を意図するものであることは明らかである。
しかしながら,そもそも日本の生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割ないし3割程度と推定され,残りの7割ないし8割の人々は所得が生活保護基準以下であるにもかかわらず生活保護を受給しておらず,その数は800万人とも1000万人とも言われている。かかる現状の下で,改正案が施行されれば,さらなる捕捉率の低下により,生活苦による自殺や餓死等が増加することが強く懸念される。
5 このように,改正案は「水際作戦」の合法化に加え,生活保護申請に一層の萎縮効果を及ぼすもので立法趣旨にも実質的理由がないなど,憲法25条によって保障された生存権を侵害するものである。
以上の理由から,当会は,次期国会に改正案が再提出されることに対し強く反対するものである。以上
2013(平成25)年8月7日
金沢弁護士会 会長 西井 繁

司法修習生に対する修習費用給費制の復活を含む経済的支援を求める総会決議
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2013/02/post-33.html
第1 趣旨
当会は,給費制の復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期及び第66期司法修習生に対しても遡及的に適切な経済的措置が採られることを求める。
第2 理由
1 平成24年11月27日に第66期司法修習が開始され,当会には第66期司法修習生として21名が配属された。
2 司法修習生は,裁判官,検事,弁護士になるために司法修習を受けている者であり,司法修習の目的は,「高い見識と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」こととされている(司法修習生に関する規則第4条)。
3 かかる司法修習の目的を達成するべく,司法修習生は,その修習期間中,司法修習に専念する義務を負っており(裁判所法第67条2項),兼業・兼職も禁止されている。そのため,第64期司法修習生までは,公務員に準じた給与が支給される制度(給費制)が採られていた。
ところが,新第65期司法修習生から給費制は廃止され,司法修習中の必要費について国から貸し付けを受ける貸与制に移行された。
4 日本弁護士連合会は,新第65期司法修習生に対し,司法修習中の生活実態を明らかにすることを目的としてアンケートを実施した。
同アンケートの結果によれば,約28%の司法修習生が司法修習を辞退することを考えたことがあると回答し,その理由として約86%が貸与制,約78%が弁護士の就職難・経済的困窮を挙げていた。すなわち,司法試験に合格していながら,経済的理由から法曹への道をあきらめることを検討した者が3割近くもいる実態が明らかとなった。
上記アンケート結果をふまえると,今後も貸与制が継続されるようであれば,法曹志願者はより減少し,経済的理由により有為で多様な人材が法曹資格の取得を断念することになってしまう。このような結果は,幅広い教養,豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹を養成するという司法制度改革の理念に逆行するものである。
5 そこで,有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう,給費制の復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援が必要不可欠である。
また,すでに司法修習を終えた新第65期及び現在修習中の第66期司法修習生についてのみ経済的負担を負わせることがないよう,新第65期及び第66期司法修習生についても適切な経済的支援措置を採る必要がある。 以 上
平成25年2月8日
金沢弁護士会 会長 奥村 回

生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2012/12/post-32.html
第1 趣旨
当会は,生活保護基準の引下げに関して,以下に述べる厚生労働省案,財務省案の撤回を求めるとともに,生活保護基準の引下げに断固として反対する。
第2 理由
1 政府は,2012年(平成24年)8月17日,「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定し,生活保護費を極力圧縮する方針を示した。また,厚生労働省は,同年10月5日,生活保護基準について,第1十分位層(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の下位10%の所得階層)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方法(以下「厚生労働省案」という)を提案し,財務省は,同年10月22日,より所得の低い第1五十分位層(下位2%の所得階層)との比較が適当である旨示唆し,医療費一部自己負担の導入等も提案した(以下「財務省案」という)。これらの案は,生活保護基準が最下層の低所得者の消費水準を上回ってはならないとの考え方によるものである。さらに,同年11月17日,内閣府行政刷新会議においても生活保護制度は「新仕分け」の対象とされた。
以上のとおり,生活保護基準引下げへの圧力は強く,年末にかけての平成25年度予算編成において,生活保護基準の引下げがなされるのは必至の情勢であるといえる。
2 言うまでもなく,生活保護基準は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生存権(憲法25条)に直結する基準であって,国家が国民に保障する最低限度の生活水準である。
(1) 生活保護基準引下げの直接的影響
現在の生活保護基準そのものが「健康で文化的な最低限度の生活」といえるだけの内実を有しているか,低位にすぎるのではないかとの指摘がある中で,安易に生活保護基準を引き下げては,生活保護制度利用者は生活することすらままならなくなるおそれがあるのであって,かかる事態が,憲法が立脚する個人の尊厳の原理(憲法13条)に悖る事態であることは明らかである。
(2) 生活保護基準引下げの最低賃金に及ぼす影響とその結果
また,最低賃金法9条3項は,地域別最低賃金の考慮要素たる労働者の生計費について,「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むこと」を目的とし,生活保護制度との整合性に配慮するものとされている。そのため,仮に生活保護基準が下がれば,最低賃金の引上げ目標額も下がることになり,今や全労働者の約35%を占め,うち相当数が生活保護基準に近い低賃金で働いている非正規労働者の生活を直撃するほか,正規労働者の賃下げをも招きかねず,「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むこと」の実現がますます遠のくことになる。
(3) 生活保護基準引下げの各種施策に及ぼす影響とその結果
さらに,生活保護基準は,地方税の非課税基準,国民健康保険料・同一部負担金の減免基準,介護保険料・同利用料・障害者自立支援法における利用料の減額基準,公立高校の授業料の減免基準,生活福祉資金の貸付対象基準,就学援助の給付対象基準など,医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準に連動している。そのため,生活保護基準の引下げは,前記各種制度にかかる費用負担の増大をとおして低所得者層をさらなる生活困難に陥れ,貧困層の拡大に拍車をかける事態を招きかねない。
3 「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」(2010年(平成22年)4月9日付け厚生労働省公表)によれば,生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割ないし3割程度と推定され,残りの7割ないし8割の人々は所得が生活保護基準以下であるにもかかわらず生活保護を受給しておらず,その数は800万人とも1000万人とも言われている。かかる現状の下では,低所得世帯の消費支出が生活保護基準未満となることも当然であり,厚生労働省案(下位10%)であれ,財務省案(下位2%)であれ,最下層の低所得者の消費水準を上回らないように保護基準を引き下げることとなれば,保護基準は際限なく引き下げられることになる。
4 そもそも,生活保護制度は,憲法25条に定める生存権保障の基盤となる極めて重要な制度であり,生活保護基準は,生活保護利用者を含む市民各層の意見を聴取したうえで多角的かつ慎重に決せられるべきものであって,財政的見地から安易な制度の削減を行うことは厳に慎まれるべきである。保護費の増加による財政負担が問題視されているが,その原因は高い失業率や不安定で低賃金の労働条件,脆弱な教育・医療・年金・住宅等の社会保障制度などにあるのであって,生活保護の基準や運用に原因がないことは明白である。貧困率(等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合)が16%と年々悪化している現状において,財務省や厚生労働省に求められているのは,税や社会保険料の応能負担原則の貫徹等によって社会保障の財源を捻出し,所得再分配機能を強化することで貧困を解消することのはずである。今般の厚生労働省案は,生活保護基準の引下げという結論先にありきで,社会保障審議会生活保護基準部会の議論を誘導しようとするものであり,財務省案や予定されている「新仕分け」は,さらに生活保護費の削減案を提示して,同部会に対して事実上の圧力をかけるものであって,到底容認できない。
このような動きの背景には,生活保護の「不正受給」が増加しているとの見方があると思われる。もちろん「不正受給」自体は許されるものではないが,既に指摘されているとおり,「不正受給」は金額ベースで0.4%弱で推移しており,近年目立って増加している事実はない。
保護基準の引下げは,それだけでも憲法25条の保障を蔑ろにするものである。これに加え,上記のような多様な施策への影響まで考慮すれば,引下げの断行は,わが国が福祉国家であることを放棄するに等しく,断じて許されない。
以上の理由から,当会は,厚生労働省案,財務省案の撤回を求めるとともに,生活保護基準の引下げに断固として反対する。
なお,日本弁護士連合会は,2012年9月20日,同様に生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明を発表し,続けて同年11月14日には,生活保護基準の引下げに改めて強く反対する会長声明を発表しており,また各地の単位弁護士会でも,同趣旨の決議や会長声明が多数発せられている。
2012年(平成24年)12月27日
金沢弁護士会 会長 奥 村 回  以 上

集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の早期創設を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2012/11/post-30.html
本年8月に消費者庁は「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案」(以下、「制度案」という。)を公表した。
このような基本的枠組みの訴訟制度は,今日まで多くの消費者を巻き込んだ消費者被害事件の発生は後を絶たず,2010年度の全国の消費生活相談の件数は約89万件(石川県における消費生活相談は約4400件)と,依然として高い水準が続いていること,しかし,現在の訴訟制度を利用して被害回復を図るためには,相応の時間や費用・労力を要するため,事業者に比べて情報力・交渉力・資力で劣る消費者は,被害回復のための行動を起こすことが困難という状況があること等を踏まえると,画期的な制度である。
もっとも,この「制度案」は2011年12月に消費者庁が公表した「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨子」よりも対象事案が限定される等の問題点もある。
これまで存在しなかった画期的な制度を実効性あるものとして機能させ,これまで救済に困難のあった消費者被害の救済を現実のものとするには,少なくとも以下の点についての見直しを行ったうえで,このような基本的枠組みの制度の早期実現を強く求めるものである。
1 手続の遂行主体については特定適格消費者団体以外の弁護団等にも拡大していくことを検討するべきである。
2 個人情報流出事案,有価証券報告書虚偽記載等の事案,製品の安全性を欠く事案,虚偽・誇大な広告・表示に関する事案も対象とするべきである。
3 消費者契約の目的となるものについて生じた損害又は消費者契約の目的となるものの対価に関する損害以外の損害も対象とするべきである。
4 役員等事業者自体以外の者の責任を追及する事案も対象とするべきである。
5 簡易確定手続における通知・公告費用は原則的に相手方の負担とするべきである。
6 制度を担う特定適格消費者団体に対して国は財政面も含めた支援を実施するべきである。以上
平成24年10月22日
金沢弁護士会会長 奥 村   回

秘密保全法制定に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2012/08/post-27.html
2011年8月8日に「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が発表した秘密保全法制を早急に整備すべきである旨の「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という。)を受けて,政府は,「秘密保全法」(仮称)の立法化作業を進めている。当会では,2012年6月30日,富山県弁護士会との共催で,秘密保全法についてのシンポジウムを開催したが,同シンポでは,以下に述べるように,同法の内容は,憲法の保障する人権及び憲法上の諸原理を侵害する危険性を有しており,国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を早急に進めることは,民主主義国家の政府の態度として極めて問題であることが浮き彫りになった。
1 立法の必要性がないこと
そもそも,秘密保全法を制定しようとする動きのきっかけとなったとされる尖閣諸島沖中国船追突映像流出事件は,国家秘密の流出などとは到底言えない事案であり,秘密保全法を立法する必要性はない。また,報告書では,秘密保全法制の必要性を基礎付けるため,「主要な情報漏洩事件等の概要」が資料として添付されているが,情報漏洩に関してはいずれも国家公務員法100条(罰則同109条)や自衛隊法59条(罰則同118条)等の現行法制で十分に対処できるものであり,新たな法制を設ける必要性はない。
2 「特別秘密」概念が広汎かつ不明確であること
秘密保全法においては,保全措置の対象となる「特別秘密」として,①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序の維持が掲げられている。しかし,「特別秘密」の概念は曖昧かつ広汎であり,特に③公共の安全及び秩序の維持は,国民の生活全般に関係する広汎な情報が含まれる可能性がある。また,「特別秘密」の指定権者が当該情報を扱う行政機関等とされており,その恣意的判断によって,本来国民に開示されるべき情報が統制・隠蔽される危険性がある。
3 禁止行為の広汎性
禁止行為には,漏洩行為の独立教唆,扇動行為,共謀行為が含まれ,さらに「特定取得行為」と呼ばれる秘密探知行為についても独立教唆,扇動行為,共謀行為を処罰しようとしており,単純な取材行為すら処罰対象となりかねず,禁止行為も曖昧かつ広汎に及ぶ。報道機関による取材活動に対する萎縮的効果が極めて大きく,取材の自由・報道の自由を侵害し,引いては国民の知る権利や民主主義制度自体にとっても大きな脅威となる恐れがある。また,同法では,これらの禁止行為に該当する場合に刑罰を科すことが想定されているが,前記の「特別秘密」概念の曖昧さと相まって,処罰範囲が広汎かつ不明確となることが避けられず,適正手続及び罪刑法定主義(憲法31条)に反するおそれがある。さらに,秘密保全法違反で起訴された者の裁判手続は,検察には「特別秘密」の内容の開示義務がなく,その内容を明らかにしないと考えられることから,憲法に定められた基本的人権である公開の法廷で裁判を受ける権利や弁護を受ける権利が十分に保障されないおそれがある。
4 規制対象者に対する過度の管理体制が人権侵害となる恐れがあること
規制対象者となる「特別秘密」の情報取扱者は,取扱業務者と業務知得者とされており,公務員等に限らず,委託を受けた民間事業者,研究者,企業の技術者など広汎にわたる。報告書では,情報取扱者に対し,「特別秘密」を取り扱う適性があるか否かを判断する「適格評価制度」の創設が必要とされている。しかし,「適格評価制度」においては,行政機関や地方公共団体が,情報取扱者にその関係者まで含めて「特別秘密」を取り扱う適格があるかどうかを思想・信条やセンシティブ情報にまで立ち入って調査し,評価するという制度であり,国民のプライバシー権,思想・信条の自由を侵害する恐れがある。
5 情報公開の必要性,知る権利等の侵害
日本国憲法が採用する国民主権原理を実効あらしめるためには,政府情報の公開が大原則であり,例外を認めるには極めて慎重に判断しなければならない。福島原発事故への対応に代表される情報公開における政府の不十分な対応からすれば,現状においては更なる情報公開が必要とされているというべきであり,秘密保全法制を設けることは,このような流れに逆行するものであり,国民主権原理,国民の知る権利,報道の自由・取材の自由,学問・研究活動の自由,言論・表現の自由,出版の自由等をも侵害するおそれも極めて高い。
以上の理由から,当会は,秘密保全法の制定には反対であり,法案が国会に提出されないよう強く求めるものである。
なお,日本弁護士連合会は,2012年5月25日の総会において,同じく同法案に反対する旨の決議を行っている。また各地の単位弁護士会でも,同趣旨の決議や会長声明が多数発せられている。
2012年(平成24年)7月26日
金沢弁護士会 会 長  奥 村 回

志賀原発の拙速な再稼働に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2012/05/post-22.html
第1 会長声明の趣旨
当会は,志賀原子力発電所1号機及び2号機について,福島第一原発の事故原因が解明されず新しい安全基準による審査もなされていない現段階においては,その再稼働に反対する。
第2 会長声明の理由
1 福島第一原発事故の原因が解明されていないこと
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所(以下原子力発電所を「原発」という。)事故について,その原因を解明するため,政府及び国会がそれぞれ事故調査委員会を設置したが,いずれの事故調査委員会も最終報告を行っていない。
福島第一原発事故のような事故を起こさないためには,福島第一原発事故を踏まえた安全対策を実施する必要があるが,このように福島第一原発事故の原因は,解明されていない。
したがって,福島第一原発事故の原因が解明されていない以上,志賀原発1号機及び2号機(以下合わせて単に「志賀原発」という。)を再稼働させてはならない。
2 安全基準が改訂されていないこと
福島第一原発事故によって,現行の安全設計審査指針には,長時間の全交流電源喪失・共通原因故障を想定していなかったなどの誤りがあることが明らかになった。また,福島第一原発1号機については,現行の耐震設計審査指針の想定内の地震動であったにもかかわらず,地震によって配管が破断した可能性が指摘されている。
福島第一原発事故のような事故を起こさないためには,福島第一原発事故の実態を踏まえてこれらの安全基準を改訂し,改訂された安全基準に基づきバックチェックを行う必要があるが,前記1記載のとおり福島第一原発事故の原因は,解明されておらず,安全基準は,改訂されていない。
したがって,安全基準が改訂されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
3 ストレステストが実施されていないこと
政府は,原子力安全委員会の要求を受けて,ストレステストを実施することとしたが,志賀原発では,ストレステストの一次評価の審査中であり,二次評価は,実施されていない。
このように一次評価の妥当性が確認されていない上,原子力安全委員会の斑目春樹委員長は,一次評価及び二次評価を合わせて実施して初めて,総合的安全評価と言い得る旨述べている。
したがって,ストレステストが実施されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
4 30項目の対策が実施されていないこと
原子力安全・保安院は,平成24年3月,福島第一原発事故の発生及び進展に関し,当該時点で分かる範囲の事実関係を基に,今後の規制に反映すべきと考えられる事項を30項目の対策として取りまとめた。
福島第一原発事故では,格納容器ベントが実施され,大量の放射性物質が放出されたため,当該30項目の対策は,ベントフィルターの設置を求めているが,志賀原発では,当該ベントフィルターの設置を含む対策が実施されていない。
したがって,当該30項目の対策が実施されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
5 原子力規制庁が設置されていないこと
政府は,福島第一原発事故によって損なわれた我が国の原子力の安全に関する行政に対する内外の信頼を回復し,その機能の強化を図るため,原子力規制庁を設置する法案を国会に提出したが,当該法案は,成立しておらず,原子力規制庁は,設置されていない。
原発の安全規制に失敗した現行の原子力安全・保安院及び原子力安全委員会という体制で,原発の安全性を判断することはできない。
したがって,原子力規制庁が設置されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
6 地域防災計画が改定されていないこと
地域防災計画は,原子力災害防災対策特別措置法(以下「原災法」という。)に基づき策定されているところ,政府は,福島第一原発事故を受けて,原子力災害対策重点区域(いわゆるEPZ)の見直しを含む原災法の改正法案を国会に提出したが,当該改正法案は,成立しておらず,これに基づく地域防災計画の改定も行われていない。
福島第一原発事故では,EPZの範囲を超える地域が放射性物質によって汚染されるなど,地域防災計画の改定の必要性が明らかになった。
したがって,地域防災計画が改定されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
7 住民の同意が得られていないこと
福島第一原発事故では,広範な地域の住民が被ばくし,また,避難を余儀なくされるなど,甚大な被害を及ぼしていることから,原発の再稼働にあたっては,原発立地自治体にとどまらない広範な地域の住民の同意を得ることが必要である。
しかし,志賀原発に関しては,安全協定については,石川県及び志賀町以外の自治体とは締結されておらず,また,住民の意思を確認する住民投票等も実施されていない。
したがって,住民の同意が得られていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。 以上
2012年(平成24年)5月2日
金沢弁護士会 会長  奥 村  回

福井女子中学生殺人事件」再審開始決定に関する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2011/11/post-2.html
本日,名古屋高等裁判所金沢支部は,いわゆる「福井女子中学生殺人事件」に関する再審請求事件(請求人前川彰司氏)について再審開始の決定をした。
本件は,1986年(昭和61年)3月,福井市内において,女子中学生が殺害された事件である。前川氏は、事件の1年後に逮捕され起訴されたものの、一審福井地方裁判所において,1990年(平成2年)9月26日,無罪判決を獲得した。
ところが,名古屋高等裁判所金沢支部は,1995年(平成7年)2月9日,一審の無罪判決を破棄し、逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡し、また,最高裁判所も,1997年(平成9年)11月12日,上告を棄却し,控訴審判決が確定した。
これに対し,前川氏は,2004年(平成16年)7月,日本弁護士連合会の支援の下に,名古屋高等裁判所金沢支部に再審請求を申し立て、本日の再審開始決定となった。本件は、前川氏に不利な証拠がもともと極めて脆弱かつ不当な目撃証言のみしか存在しない事件であり、刑事訴訟の大原則からして、一審判決が正当なものであった。
当会も、再審請求時に、名古屋高等裁判所金沢支部管内の単位弁護士会として、再審開始へ向けて、支援することを表明してきた。
そして、本日の名古屋高等裁判所金沢支部による再審開始決定は、前川氏及び弁護団そして支援されてきた方々の努力のたまものであるとともに、正当な判断であり,無罪への第一歩を記したものとして評価するものである。
検察官に対しては、公益の代表者として,本決定につき異議申立てを行うことなく,速やかに再審公判への途を開くことを求める。
金沢弁護士会は,今後も,再審開始決定が確定し,同氏が無罪判決を勝ち取るべく支援を続けるとともに,捜査機関の保有する証拠の全面開示といった,えん罪を防止するための制度改革を実現するべく全力を尽くす決意である。
2011年(平成23年)11月30日
金沢弁護士会 会長 智口成市

秋田弁護士会所属会員の殺害事件に対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2010/11/post-5.html
2010(平成22)年11月4日午前4時05分ころ,秋田弁護士会会員の津谷裕貴弁護士が,同弁護士の自宅を訪れた男に胸等を刃物で刺され,死亡するという痛ましい事件が発生した。当会は,亡くなられた津谷裕貴弁護士の御冥福を心からお祈りするとともに,御遺族の皆様へ心よりお悔やみ申し上げる。
この事件は,未だ犯行の原因・背景等が明確にされてはいないが,津谷弁護士が受任していた離婚事件に関するトラブルが存在するともいわれており,そうであれば,同弁護士に対する逆恨みから同弁護士の弁護士業務を妨害しようとする意図の下になされたものと考えられる。
当会においても,2009(平成21)年,当会会員の弁護士がかつての依頼者に包丁で腹部を刺されるという傷害事件が発生している。
このような犯罪行為は,社会正義の実現と基本的人権の擁護を使命とする我々弁護士の業務に対する重大な挑戦であり,断じて許されるものではない。
当会は,このような凶行を行った犯人を強く非難するとともに,卑劣な暴力に怯むことなく,弁護士の使命を全うするため引き続き全力を尽くす決意である。
2010(平成22)年11月9日
金沢弁護士会 会長 山崎正美

全面的な国選付添人制度の実現を求める会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2010/06/post-6.html
弁護士付添人は、少年審判において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、少年の立場から手続に関与し、家庭や学校・職場等少年を取りまく環境の調整を行い、少年の立ち直りを支援する活動を行っている。
居場所を見つけられず、また、信頼できる大人に出会えないまま、非行に至ることも少なくない少年を受容・理解したうえで、少年に対して法的・社会的援助をし、少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は、少年の更生にとって極めて重要である。
しかし、2008年統計によれば、家庭裁判所の審判に付された少年(年間54,054人)のうち観護措置決定により身体拘束された少年は11,519人に上るのに対し、弁護士付添人が選任されたのは4,604人と全体の約40%(審判に付された少年全体に対しては約8.5%)に過ぎない。刑事裁判を受ける被告人の約98%に弁護人が付されていることに比して、心身ともに未成熟でより法的・社会的援助が必要な少年に対する支援は極めて不十分な状況にある。
こうした状況が生じている原因には、現行の国選付添人制度が、対象事件を重大事件に限定し、しかも、国選付添人を選任するか否かを裁判所の裁量に委ねていることがある。
また、昨年5月21日以降は、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたことにより、被疑者段階の少年に国選弁護人が選任されていながら、家庭裁判所に送致された後は国選付添人が選任されないという深刻な事態も生じており、制度上の矛盾が一層明らかになっている。
このような状況の下、日本弁護士連合会は全会員から特別会費を徴収して少年・刑事財政基金を設置し、これを財源とする少年保護事件付添援助制度を設け、当会では、少年鑑別所に収容された少年に対し、弁護士が無料で面会する当番付添人制度を全件で実施している。
しかし、こうした私費による付添人制度の拡充は、被疑者国選弁護制度の拡大に伴う付添援助制度の利用者の増加により、財政的な危機に瀕しており、上記のような現行の不十分な国選付添人制度も相俟って、このままでは、弁護士付添人による少年に対する支援の一層の拡大に困難を伴うといわざるを得ない。
わが国が批准している子どもの権利条約第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有する」と規定しており、少年に対し適正手続を保障し更生の支援をすることは、そもそも国の責務である。
とりわけ、少年鑑別所に収容された少年は、事件の軽重を問わず家庭環境や生育歴に複雑な問題を抱えていることが多く、また、少年院送致等の重大な処分を受ける可能性も高いことから、国費による弁護士付添人の援助の体制を整える必要がある。
よって、当会は、国に対し、国選付添人制度の対象事件を、少なくとも少年鑑別所に収容され身体拘束を受けた少年の事件全件にまで拡大するよう、速やかに少年法を改正することを求める。
2010年6月24日
金沢弁護士会 会長 山崎正美

横浜弁護士会所属会員の殺害事件に対する会長声明
2010(平成22)年6月2日午後2時40分ころ,横浜弁護士会会員の前野義広弁護士が,同弁護士所属の法律事務所を訪れた男に腹部等を刃物で刺され,死亡するという痛ましい事件が発生した。当会は,亡くなられた前野義広弁護士の御冥福を心からお祈りするとともに,御遺族の皆様へ心よりお悔やみ申し上げる。
この事件は,未だ犯行の原因・背景等が明確にされているには至っていないが,白昼,法律事務所において業務を遂行中の前野弁護士を襲撃したものであることから,同弁護士の業務に関連して弁護士業務を妨害しようとしたものである可能性が極めて高い。
当会においても,2009(平成21)年,当会会員の弁護士がかつての依頼者に包丁で腹部を刺されるという傷害事件が発生している。
このような犯罪行為は,社会正義の実現と基本的人権の擁護を使命とする我々弁護士の業務に対する重大な挑戦であり,断じて許されるものではない。
当会は,このような凶行を行った犯人を強く非難するとともに,卑劣な暴力に怯むことなく,弁護士の使命を全うするため引き続き全力を尽くす決意である。
2010(平成22)年6月14日
金沢弁護士会 会長 山崎正美

金沢弁護士会所属会員に対する業務妨害に関する声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2009/04/post-9.html
本日、金沢弁護士会に所属する弁護士が、その法律事務所において、男に刃物で腹部を刺されて傷害を負う事件が発生した。容疑者は直ちに逮捕されたとのことである。
「民事事件に関して恨みがあった」と容疑者が供述しているとの報道もあり、これが事実であるとすると、弁護士業務に関連して、凶悪な犯行に至ったということである。我々は、このように弁護士の業務を暴力で妨害し、弁護士に傷害を負わせるという本件犯行について、強く糾弾するものである。
弁護士は、訴訟手続や交渉を通じ、法に基づき社会の紛争を解決することを職責としており、弁護士活動の安全が何よりも確保されなければならない。
暴力による弁護士業務の妨害は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする弁護士制度に対する不当な攻撃であり、司法制度や法秩序に対する重大な挑戦であって、決して許すことはできない暴挙である。
当会は、弁護士業務への妨害に対する対策を強化するとともに、卑劣な妨害行為に決してひるむことなく、弁護士の使命を貫徹し、法の支配を実現するため邁進する決意であることをここに表明する。
平成21年4月16日
金沢弁護士会 会長 北川 忠夫

法曹人口問題に関する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2009/02/post-10.html
1.法曹人口の増加
政府は,2002年3月,司法制度改革推進計画を閣議決定して,司法試験合格者数の大幅な増加に着手した。2001年に990名であった司法試験合格者数は,上記閣議決定に基づき,2007年には2099名,2008年には2209名へと増加した。
ところが,裁判官や検察官の増加が殆ど見られず,実際には,弁護士の人数のみが大幅に増加する結果となった。2000年には1万7126名であった弁護士会員数は,2009年2月1日現在,2万6976名と激増した。
2.増員を支える基盤の不存在
しかしながら,新しい法曹養成制度が未だ整備途中にあり,司法の基盤整備が遅れている状況下にあって,法曹人口の増加が先行していることにより,新規法曹が就職できない問題や法曹としての質についての懸念が生じている。
質が伴わない弁護活動により,依頼者の利益が害されることはもちろん,過度な自由競争により弁護士自身の利益確保を第一とする弁護活動と結びつく場合、社会秩序の混乱を招く結果となる。法曹養成制度が十分に整備された状況下で,質の確保された法曹が,裁判官・検察官・弁護士にバランスよく配置されることによって,国民の利益が守られる次第である。
3.急激に法曹人口を増加すべき必要性・緊急性がないこと
弁護士人口が急増したにもかかわらず,平成19年度司法統計によれば裁判所に係属する民事事件,刑事事件の事件数は減少傾向にある。弁護士過疎の問題については,公設事務所の設置,司法支援センターの事業の一つとして司法過疎地域への事務所の設置が進み,昨年ゼロ地域(弁護士がいない地域)は解消した。このような状況下において,法曹の質の確保を犠牲にしてまで法曹人口を急激に増加すべき必要性・緊急性があるとは言い難い。
4.結論
よって,当会は,政府に対し,司法試験合格者数を3000人程度とする方針を見直し,適正な法曹人口政策をとるよう求めるものである。
2009(平成21)年2月27日
金沢弁護士会 会長 西  徹 夫

光市母子殺害事件弁護人への脅迫行為に対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2007/07/post-11.html
1 広島高等裁判所に現在係属中の殺人等被告事件(いわゆる「光市母子殺害事件」)に関し,日本弁護士連合会宛てに弁護人を脅迫する書面等が届けられ,報道によれば,その後,同連合会に送付されたものと類似のものが新聞各社にも送付されたとのことである。当会は,このような脅迫行為に対し,厳重に抗議するため本声明を発表する。
2 この事件は,母親と幼い子どもの命が失われた大変痛ましいものであり,遺族の心情も察するに余りあるものである。また,社会的にも大きな影響を与えており,国民に広く関心が集まっている。
しかしながら,このような遺族の方々の心情や社会的な影響と関心の大きさがどのようなものであるかに関わりなく,被告人の弁護人依頼権の保障は充分になされなければならず,その権利実現のための弁護人の活動に対して脅迫的な妨害行為がなされることは断じて許すことができない。
3 憲法37条3項は,「刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定する。
いかなる場合であっても,弁護人を依頼する権利が保障され,十分な防御の機会が与えられなければならない。これは,被告人に適正な裁判を受ける権利を保障するものであり,人類が歴史を通じて確立してきた大原則である。この原則は,いかなる時代にあっても,また,いかなる刑事事件であっても,実現されなければならない。そして,弁護人は,被告人のために最善の努力をすべき責務を負っているのである。
また,国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は,第1条において人権と基本的自由を適切に保護するため,「すべて人は,自己の権利を保護,確立し,刑事手続のあらゆる段階で自己を防御するために,自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」と定め,第16条において「政府は,弁護士が脅迫,妨害,困惑あるいは不当な干渉を受けることなく,その専門的職務をすべて果たし得ること,自国内及び国外において,自由に移動し,依頼者と相談し得ること,確立された職務上の義務,基準,倫理に則った行為について,弁護士が,起訴,あるいは行政的,経済的その他の制裁を受けたり,そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。
価値観が多様化し,複雑な権利関係が鋭く対立する現代において,国内外を問わず,力によらず言葉により基本的人権の擁護と社会正義の実現を目指す弁護士の役割は,民主主義の基盤として,ますますその重要性を増している。
4 しかるに,今回の脅迫行為は,民主主義の基盤として極めて重要な役割を担う弁護士の活動を暴力によって威嚇し,人類の歴史を通じて確立してきた大原則である弁護人依頼権を踏みにじろうとする極めて卑劣なものであって,断じて許されるものではない。これは,まさに民主主義への挑戦である。
当会は,今回の脅迫行為に対し,厳重に抗議するとともに,今後も刑事弁護に携わるすべての弁護士がこのような卑劣な行為に決して屈することなく,その職責を全うすることができるよう,最大限支援していく決意をここに表明する。
2007(平成19)年7月19日
金沢弁護士会 会長 今 井   覚

犯罪被害者の刑事手続参加に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2007/06/post-12.html
犯罪被害者および遺族の刑事手続き参加を認める「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が既に衆議院で可決され、参議院に係属中である。被害者参加制度は、犯罪被害者等に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人に対する直接質問、求刑を含む意見陳述等を認めているが、この制度は、近代刑事司法の理念に反し、被告人に認められた憲法上の適正手続保障をそこないかねない。
1.近代刑事司法の構造を変容させる
近代刑事司法は、国家機関たる検察官に起訴および訴訟追行を独占させ、有罪立証は 検察官の責任とされ、被告人・弁護人がこれを弾劾するという二当事者対立構造をとっているが、被害者参加制度は、犯罪被害者等に「被害者参加人」という法的地位を与え、検察官の活動から独立した訴訟活動を認めることになる。これは、二当事者対立構造を変容させ、近代刑事司法が断ち切ろうとした報復の連鎖を復活させることになる。
2.真実発見に障害となる
刑事司法は、無罪推定の原則のもと、予断と偏見を排除し、被告人は法廷において任 意に供述できる防御の機会が保障されなければならない。法廷で犯罪被害者等が被告人と対峙することになれば、被告人は多大な心理的圧迫を受けて萎縮し、本来なすべき供述や弁論が出来なくなるおそれが大きい。犯罪被害者等から直接質問されれば、犯罪被害者の落ち度など重要な争点につき被告人は沈黙せざるを得なくなる場合も生じ、防御権が実質的に侵害され、実体的真実の発見がゆがめられ、証拠に基づく冷静な事実認定と公平な量刑の実現が阻害されかねない。
3.裁判員に過度の影響を与える
2009年5月までに施行される裁判員制度は、元々被害者等の参加が考慮されておらず、被害者参加制度が導入されれば、情緒的で影響を受けやすい裁判員は犯罪被害者等の意見や質問に大きく左右され、冷静かつ理性的な事実認定が困難となり、過度の重罰化に傾く危険性が容易に予想される。また犯罪被害者等の手続き参加により争点の拡大や訴訟遅延ないし混乱を来すことは明白で、公判前整理手続きによる適切な争点と証拠整理、連日開廷による充実した迅速な審理の実現に大きな支障を招く。
4.犯罪被害者等に対しては、支援・救済が優先さるべき
犯罪被害者等が刑事裁判に対して抱く不満の多くは「事件の当事者」でありながら刑事手続きに充分な情報提供を受けられないため、「知りたい」という願いが満たされないことや検察官の訴訟活動に自らの思いが反映されていないことに起因する。こうした不満に対応するためには被害者等の検察官に対する質問・意見表明や公費による弁護士支援制度および経済的保障制度などを早期に導入し、精神的・経済的支援体制を構築、充実させることこそが重要視されなければならない。
よって、被害者参加制度の新設に反対する。
2007(平成19)年6月13日
金沢弁護士会 会長 今井  覚

共謀罪法案の会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2006/09/post-15.html
4月21日、衆議院法務委員会は、共謀罪導入のための法律案について審議入りした。与党から修正案が提案されたが、この間、日本弁護士連合会をはじめ当会を含む多くの単位弁護士会が指摘してきた問題点は何ら解決されていない。
そもそも、本法案は次のような問題点を有しており、この点は修正案でも解消されていない。
第1に、本法案が導入しようとする共謀罪は、犯罪が実際に発生する以前、関係者が犯罪を起こすことを合意したことのみで処罰できるとするものである。刑法では、予備行為を処罰する犯罪でさえ殺人罪等ごく一部に限られていたのであり、本法案は、このような刑法の体系を根本から覆すものである。
第2に、対象犯罪が619にも及び、あまりに広範な内容となっている。現実に組織犯罪集団が行うと予測される犯罪類型に限定して立法することは可能である。
第3に、本法案は、国連越境組織犯罪防止条約に基づいて作られたものであるが、同条約は、国境を越える性質を持った組織犯罪を防止する目的で起草されたものである。条約の批准を一部留保するなどの方法によって、我が国の国内法として、国境を越える犯罪に限って適用する旨を規定することは、条約の趣旨に反するものではない。
第4に、自首した者の罪を減免するという規定が盛り込まれているが、この規定は、一旦共謀に加わった者は、犯罪の実行をやめることを合意してもそれだけでは共謀罪の適用を免れることができず、さらに警察に自首する以外に刑罰を免れる手段がないことを示している。この点は共謀罪の本来的な問題点を如実に示すものであると同時に、共謀を持ちかけた側のみが自首により刑罰を免れることがあり得るという点で、この規定自体にも問題がある。
さらに、修正案についても以下のとおり問題点がある。
第1にこの修正案は、あくまでも団体の「活動」に着目して限定を加えたものであって、必ずしも、「団体」がどこまで限定されているかは明らかでない。現実に過去に犯罪を遂行してきた事実も要件とされていない。団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことのみをもって、団体に犯罪目的ありと解釈される可能性がある。むしろ端的に、文字通りの組織犯罪集団が関与する場合に適用範囲を限定するべきである。
第2にこの修正案においては、共謀に加えて、「犯罪の実行に資する行為」が必要とされている。この概念は、犯罪の準備行為よりもはるかに広い概念であり、犯罪の実行にはさしたる影響力を持たない精神的な応援などもこれに含まれる可能性があり、共謀罪の適用場面において、ほとんど歯止めにならない。少なくとも、犯罪の実行の「準備行為」が行われたことを明確に要件とするべきである。
以上の通り、この法案がもともと有している多くの問題点は修正案によっても是正されていない。当会は、昨年9月29日に共謀罪法案に反対する総会決議をあげ、本年3月11日に共謀罪法案に反対する市民集会を開いてアピールを採択したが、引き続き本法案に強く反対し、その抜本的見直しを求め、運動を継続・強化していくものである。
2006(平成18)年9月29日
金沢弁護士会 会長 木梨 松嗣

教育基本法改正に反対する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2006/09/post-13.html
1. 本年4月28日、政府による教育基本法改正法案が国会に上程され、その後、対案としての民主党案も提出され、それらは衆議院特別委員会で実質審議に入った後、同年5月30日、継続審議とされました。そして、今月20日に行われた自民党総裁選の後、同党執行部は、26日に開会の今臨時国会で同法案の早期成立を目指すことを表明しています。
2. ところで、当会では、子どもの権利委員会の委員を中心として、20年近くにわたって「子どものなやみごと相談」での相談活動や子どもの人権擁護活動を行い、また、それ以前から非行を犯してしまった少年たちの付添人としての活動を熱心に行ってきました。そのような子どもに関わる諸活動の経験から、私たちは、今国会で審議される教育基本法の改正案に対し、強い危惧の念を覚えるものです。
3. というのは、私たちが従来の子どもに関わる活動を通じて感じているのは、現行の教育基本法に不備があるから子どもたちが問題行動を起こしている、あるいは、不登校になったり、いじめの加害者や被害者になっているということでは全くないからです。むしろ、現在においても学校教育が、学力偏重、過度に競争的な教育制度となっており、多くの「落ちこぼれ」の子を生み出すなどしていて、本来楽しいはずの場が、逆に、子どもにとって非常にストレスの多い場となっていることにこそ問題があるということです。
また、現行の教育基本法が、前文及び第1条の教育の目的で掲げている「個人の尊厳を重ん」ずること、「個人の価値をたつと」ぶということが、現実にはまだまだ充分ではなく、学校現場においては、「どんな子どもであっても1人1人の子どもが大切にされる」というよりは、「問題のある子どもは多数の子どものために切り捨てる」という傾向になりつつあることが、より多くの子どもたちを非行やいじめ行為、不登校に追いやっていると考えています。
4. そうした体験から、今回の教育基本法改正案を見るとき、いずれの改正案も、むしろ、従来禁止されていた教育内容にまで政府が過度に介入する途を開くなど(教育行政についての、現行教育基本法10条2項、政府案16条、民主党案18条)、これまで以上に、全国一律の競争的な教育制度になるのではないか、また従来不充分であった子どもの人権への配慮がますます忘れさられるのではないか(政府案第1条「教育の目的」から「個人の価値をたつとび」が削除されている)、さらに特定の信条・思想・倫理観などが教育の場に持込まれ、それを子どもたちに強制し、また、成績として評価することで、子どもたちがますます学校の場から離れていくのではないか(政府案第2条教育の目標)、その結果、従来以上に、多くの子どもが落ちこぼれ、切り捨てられ、非行に走ったり、いじめをしたり、不登校になったりするのではないかという強い不安を感じます。
5. 以上の観点から、当会としては、今般の教育基本法改正案のいずれもが廃案とされる事を強く望み、その旨、表明します。
2006(平成18)年9月29日
金沢弁護士会 会長 木梨 松嗣

共謀罪の新設に反対する決議
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2005/09/post-16.html
1.第156回国会に「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれて提出され、第159回国会に「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれて提出されたものの、いずれも廃案となった「共謀罪」に関する規定は、第163回国会に再上程されることが必至の情勢である。
2.共謀罪は、「死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている犯罪について」、「団体の活動として」、「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀した者」を処罰の対象とするものである。共謀罪の適用対象となる罪名は600を超える非常に広範囲なものとなっている。
3. 「共謀」とは、犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議あるいは謀議の結果として成立した合意のことをいう。犯罪は一般的に、犯罪を決意し(意思)、準備に取りかかり(予備)、実行に着手し、結果を発生させて既遂となる。実行行為のない予備は原則として不可罰であり、ましてや外形的行為の認められない意思の段階は処罰しないというのがわが国刑法の原則である。ところが、共謀罪は、意思の段階に過ぎない「共謀」それ自体を処罰の対象とする。まさにそれは「意思」を処罰するものであって、刑法の原則に反するものといわざるを得ない。また、わが国においては、判例によって共謀共同正犯理論がとられ、共謀者の一部が犯罪の実行に着手した場合、他の共謀者も罪責を負うこととされている。共謀共同正犯理論自体については学説上異論もあるが、それでもこの理論においては、実行の着手が犯罪成立の絶対的要件とされている。ところが、共謀罪は、実行の着手がなくても犯罪の合意だけで犯罪が成立するというものであるから、近代刑法の基本原理である客観主義を否定するものである。
4.その上、共謀罪の構成要件には、「団体の活動」、「当該行為を実行するための組織」、「共謀」などといった文言が用いられており、その内容や定義は極めて広汎かつ不明確であり、濫用の懸念が払拭できず、一般の政党、NPOなどの市民団体、労働組合、企業等の活動も処罰の対象となるおそれがある。 例えば、市民団体がマンションの建設に反対して着工現場で座り込みをすることを相談しただけで、組織的威力業務妨害罪の共謀罪が成立する可能性すら否定できないものとなっている。 したがって、共謀罪は、明確性の原則、実質的デュープロセス等、刑法の基本原理である罪刑法定主義にも反するおそれの高いものである。
5.しかも、共謀罪の制定は国連越境組織犯罪防止条約の国内法化のための立法であるとされており、同条約の制定過程においては、日本の法制度の基本原則から見て不可能であり、また、国内に立法事実はないとして、わが国政府ですらその成立には反対していたにもかかわらず、共謀罪の規定内容を見ると、条約が要請している「組織犯罪集団が関与したもの」という限定を撤廃し、また、条約がその精神において求めている犯罪の「越境性」も構成要件とされておらず、条約を上回る広範な立法となっている。
6.そして、共謀罪は、「相談」や「会話」自体を処罰するものであるから、その立証にあたっては、会話を録音した媒体や関係者の供述に頼らざるを得ず、その結果、捜査機関が市民の一般的な会話や電話、電子メールのやりとりなどに対する監視ないし管理を強化していくという事態をもたらしかねず、盗聴や密室における自白の強要等、従来から人権侵害の危険性が指摘されてきた捜査が今まで以上に頻繁に行われる可能性が極めて高くなる。
7.以上述べてきたように、共謀罪は、わが国刑法の原理に反し、思想、表現の自由などの人権を侵害するおそれが極めて高い。
よって、当会は、人権保障の見地から、共謀罪の新設に断固反対するものである。
2005(平成17)年9月29日
金沢弁護士会 会長 久保 雅史

少年法等の一部改正法案に関する会長声明
ttp://www.kanazawa-bengo.com/info/2005/07/post-17.html
政府は、本年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、同日付けで今国会に提出した。
この改正法案は、①いわゆる触法事件等について警察の強制調査権を認める、②14歳未満の少年でも少年院送致を可能とする、③保護観察中に遵守事項に違反した少年の少年院送致を可能とする等の内容が含まれ、児童相談所の調査機能や児童自立支援施設の「育てなおし」機能を大きく後退させ、保護観察制度の根底を揺るがすものであることから、以下のとおり、少年の福祉を害する恐れがあるといわざるを得ない。
1 触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与について
低年齢の少年に対する調査は、本来、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。触法少年等への調査や処遇の現状には不十分な点があるとの意見もあろうが、これに対しては、児童相談所をはじめとした福祉的・教育的施設の人的・物的な拡充を図ることによって対処すべきであり、警察権限の拡充によって解決しようとすることには賛成できない。
そもそも、被暗示性、迎合性が強い低年齢の少年に対し、児童の福祉や心理に専門性を有していない警察官が中心となって取調べを行うことは、誤った供述を引き出す危険性が高く、真相解明が阻害される恐れがある。また、非行少年に児童虐待の被害経験者も多いことは、多数の専門家が指摘しているところであり、非行少年は、生育歴や家庭環境の要因から情緒が十分に育っていない等の精神的な問題を抱えている。かかる少年に対して、ぐ犯の名の下に、警察官による取調べ類似の質問調査を行えば、少年は、さらに傷つけられ、その立ち直りが阻害されることにもなる。さらに、警察からの学校その他の公務所への照会は、警察権力による福祉・教育への不当な干渉を招く恐れがあるのみならず、少年の立ち直りの環境を悪化させることが懸念される。
2 少年院送致年齢の下限の撤廃について
今般の改正法案は、法的には、小学生はもちろん未就学児童でも少年院に送致できるという内容であり、到底賛成できない。
年齢の低い少年を家族から分離して更生を図らなければならない事案の場合は、暖かい擬似家庭の中で、人間関係を中心とした生活力を身に付けさせるべきであり、また、そうすることによって被害者等への真摯な思いを育むことが必要である。このような理念のもと、現行法は、児童自立支援施設を設け、「育てなおし」の実績をあげている。低年齢の少年を集団的規律の場である少年院へ送致しても「育てなおし」にはならず、再犯防止の実効性にも疑問がある。
家族からの分離処遇を施すべき14才未満の少年については、十分な児童自立支援施設等による福祉的対応こそ必要であり、そのためには施設等の充実強化が図られるべきである。
3 遵守事項違反を理由とする少年院送致について
少年に一旦保護観察処分を言い渡した後に、ぐ犯にも該当しない単なる遵守事項違反を理由として、さらに少年院送致処分を言い渡すというのは、憲法が禁止する「二重処罰」に当たり、許されないというべきである。
保護司のもとへ面接に来ない少年があったとしても、保護観察官・保護司による粘り強いケースワーク的工夫によって対処すべきである。少年院送致という威嚇を手段として、遵守事項を守らせようとすることは、少年と保護司との信頼関係に基づき、少年の自主的な努力による成長を助けるという保護観察制度の趣旨を大きく変容させるもので、賛成できない。
以上のとおり、今回改正の対象になっている事項に関しては、現状の不十分な点があるとすれば、児童相談所や児童自立支援施設等の児童福祉機関の機能を強化し、また保護観察官を増員する等の方法で対処すべきである。当会としては、今回の改正法案には賛成できない。
なお、今回の改正法案では、極めて限られた範囲ではあるが、従前の検察官関与事件と切り離して、非行事実に争いがない場合であっても、国費で付添人を付する制度を設けた点は評価できる。しかし、少年鑑別所に収容された少年の全員に国費による付添人選任権を保障するとの観点からすれば、今回の改正法案は不十分であり、かかる国選付添人制度のいっそうの拡充は必要である。
2005年(平成17年)7月1日
金沢弁護士会 会長 久保 雅史

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