置き去りになっていた損害論に言及
いわゆる大量懲戒請求による損害上限額の算定
共同不法行為であり、個別の不法行為ではない
和解金とすでに支払われた損害賠償金で弁済(補填)済み
昨日は、一審棄却判決の他に、佐々木亮弁護士一審原告の控訴審で、これまでとは異なる動きがありました。控訴審はほぼすべてが一回結審で、弁論が一度開かれて結審し判決が出ていました。
ところが、昨日は1回で結審することなく、次回期日が定められて、当日は弁論終了後に場所を移動して弁論準備手続きが行われるという慎重な審理が行われています。
裁判官からは「損害論について詳しくやりたい」とのお話があったそうで、懲戒請求により原告が被ったと主張している損害について、控訴審では初めて詳細に取り調べと審理が行われることになりました。
これは一審の棄却と連動していると考えられ、これまでの訴状追認の認容判決から脱して、裁判所が大きく軌道修正をし始めたとみることができるでしょう。
それでは、これまで懲戒請求裁判で出ている「棄却判決」について原告ごとに見ていきます。昨日の棄却により、棄却判決がひとつも出されていないのは金哲敏弁護士ただひとりとなりました。
共同不法行為、損害額の上限、和解金により弁済済み、他の理由も含めてみていきます。
■原告嶋﨑量弁護士 横浜地裁民事第5部 棄却判決 令和2年1月31日
◇共同不法行為である
これまでに説示したところを前提とすると、まず、本件懲戒請求は、本件ブログに呼応して付和雷同的に行われた大量懲戒請求事案の一部をなすものであり、本件懲戒請求を含む原告に対する591件の懲戒請求は、本件投稿に対し、同一の時期に、同一の理由で、同一の書式を用いて行われ、その結果、神奈川県弁護士会において、併合されて一括処理されたものであること(上記第2の2⑹、⑺は、これまで繰り返し説示してきたとおりである。そうすると、591件の各懲戒請求行為は、少なくとも客観的関連共同を有すると認められるから、591件の各懲戒請求行為については、各請求者に故意過失が認められる限り、共同不法行為が成立する。
さらに、591名の各懲戒請求行為については、各請求者に故意過失が認められる限り、共同不法行為が成立する。
さらに、591名の懲戒請求者各相互間に主観的な意思疎通があったと認められるに足りる証拠はないけれども、本件ブログにおいて、平成29年9月ころ、原告に対する懲戒請求を行うことが本件ブログの運営主によって呼びかけられ、591名の懲戒請求者は、そこに掲載された本件懲戒請求書に署名押印をするなどし、それらをそれぞれ神奈川県弁護士会に提出することによって原告に対する懲戒請求を行ったものであることは、上記第2の2⑸、⑹に記載のとおりである。そうすると、591名の懲戒請求者は、少なくとも本件ブログの運営主と直接意思的な結びつきを持つことによって、いわば本件ブログの運営主を中心とした主観的共同体を形成していたということができ、本件ブログの運営主の意思の下に共同で原告に対する懲戒請求を行った(主観的関連共同)ということができる。したがって、591件の各懲戒請求行為には共同不法行為が成立する。
◇懲戒請求者ひとりあたりに請求できる損害額3万円、弁護士費用3千円
原告が、本件選定者ら及び被告は単独の不法行為として本件訴訟を構成していること(したがって、大量の懲戒請求であることや先鋭化した集団の行動による恐怖などによる精神的苦痛については、そのすべてが本件選定者及び被告の個別的行為と相当因果関係のある損害ということはできない。)、そのほか本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件懲戒請求によって原告が被った精神的苦痛を慰藉するに足りる慰謝料の額は、本件選定者ら及び被告それぞれについて各3万円が相当である。
次に、原告が、本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人らに委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件事案の内容・性質等に照らせば、本件選定者ら及び被告の不法行為と相当因果関係がある弁護士費用の額はそれぞれ3000円が相当である。
以上によれば、原告は、被告ら(本件選定者全員を含む。)に対し、不法行為に基づく損害賠償金として各3万3000円及びこれに対する平成29年11月13日以降支払済みまで年5部の割合による遅延損害金の支払請求権を取得したと認められる。
◇損害総額は100万円を上回らず弁護士費用は10万円を超えない 損害の上限は110万円
上記2で説示した事情等本件一切の事情を総合考慮すれば,上記591件の各懲戒請求行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は100万円を上回らないものと認められ,相当因果関係のある弁護士費用も10万円を超えないと認められる。
◇和解金及びすでに支払われた損害賠償金により弁済済み
◇本件懲戒請求を理由とする損害賠償債務は弁済によりすべて消滅した
原告は,591件の懲戒請求者の一部の者に対し,訴訟上又は訴訟外で本件訴訟と同種の損害賠償請求を行い,和解ないし判決により1人当たり3万円ないし33万円の和解金ないし損害賠償金の支払を受けることにより,当該懲戒請求者から相当額の弁済を受けてきたことが窺われる。弁済した主体や各弁済金額及び弁済日等の具体的な内容を原告が明らかしないことから,それらの詳細は不明であるものの,原告はこれまで約10名の懲戒請求者と和解契約を締結した旨を主張していることに加え,判決により終局した訴訟やその判決によって賠償金の支払を命じられた当事者の数から推定すると,原告は,合計で110万円を大きく上回る額の和解金又は損害賠償金を既に懲戒請求者の一部から受領していると認められる。
そうすると,本件懲戒請求を含む原告に対する591件の懲戒請求により生じた原告の損害賠償請求債権は消滅したと認めるのが相当である。
■原告神原元弁護士・宋惠燕弁護士 東京地裁民事第1部 棄却判決 平成31年4月25日
◇共同不法行為について
ア 前記(1)アのとおり,本件懲戒請求は,本件ブログの呼びかけに応じ,同一内容の懲戒請求書により,本件ブログの運営者の取り纏めにより行われた多数(1141件)の懲戒請求の一部であるところ,これらの懲戒請求は,客観的にも主観的にも共同する行為と認めるのが相当である。
◇損害総額について
◇損害総額は100万円を上回らず弁護士費用は10万円を超えない 損害の上限は110万円
ウ 以上を前提として,原告らの損害額につき検討する。
(ア) 本件懲戒請求を含む多数の懲戒請求(1141件)は,それ自体が,多数の者の原告らに対する敵意の存在を示すものであり,本件ブログ等により,これが拡散する可能性を考慮すれば,原告らの精神的損害は,相応に評価すべきものといいうる。
(イ) 一方で,本件懲戒請求書の記載内容に加え,原告らの弁明書(甲15,16〔枝番を含む。〕)の内容が極めて簡潔なものであることに照らせば,原告らにおいて,懲戒処分を受ける危険の観点から精神的な損害を受けたものとは考え難く,懲戒手続に係る事務的な負担等も,比較的軽微なものと評価するほかない。また,原告らの主張する身分上の制約等についても,原告らに具体的な支障等が生じたことは窺われない。
(ウ) また,本件ブログ上の記事(前記認定事実(3)ウ)以外に,原告らに対する懲戒請求につき,原告らを批判する趣旨で広範な報道等がされた形跡はなく,現時点において,原告らの社会的評価の低下につき,原告らに深刻な被害があったものとは認め難い。
(エ) 以上を考慮すると,前記(ア)の多数の懲戒請求により原告らに生じた損害は,原告ら各自につき100万円を上回ることはなく,原告宋の主張する
弁護士費用を考慮しても,110万円を上回ることはないものと認めるのが相当である。
◇損害は和解金によりすべて弁済済み
(3)ア そして,前記認定事実(3)ケのとおり,原告らは,各自111万9666円の和解金を受領しているところ,原告らの前記(2)ウ(エ)の損害は,上記和解金の受領により,既に填補されたものと認められる。
(4) 以上によれば,本件懲戒請求を含む多数の懲戒請求による原告らの損害は,既に填補されたものと認められる。
■原告金竜介弁護士 名古屋地裁民事第5部 棄却判決 令和元年6月20日
◇金銭をもって賠償するほどの名誉感情を侵害されたとは認められない
4 損害額(争点(3》について
(1)本件懲戒請求を含む大量の懲戒請求について,東京弁護士会は,簡易棄却の決定をし,原告に対し,調査開始及び調査結果の通知とともに懲戒をしない旨の決定を通知しており(前提事実(6),認定事実(3),原告は,本件懲戒請求の手続において,主張書面や証拠などを提出していない(認定事実に))。したがつて,原告は,本件懲戒請求について,何らの労力を要することなく懲戒しない旨の決定を得ているから,本件懲戒請求への対応を余儀なくされたことによる物理的,精神的負担は生じていない。
また,懲戒の手続において,対象の弁護士名が公表されるのは,実際に懲戒され,公刊物等において懲戒の事実が公表された場合にとどまる。したがつて,公刊物等で懲戒の事実の公表がない限り,懲戒請求の対象になつている弁護士の名前が一般に公表されることはないから,懲戒請求をされたことのみをもって,その対象となった弁護士の名誉や信用が毀損されるということは考え難い。本件では,本件懲戒請求に関する懲戒の手続は簡易棄却で終了している(前提事実(6),認定事実(3》から,原告が本件懲戒請求を受けていることは公表されておらず,原告の弁護士としての名誉又は信用が毀損されたと認めることは困難である(なお,本件懲戒請求の審査に関与した東京弁護士会の関係者は,本件懲戒請求を目にしていることにはなるが,簡易棄却という判断をしており,原告の名誉又は信用は棄損されていない。)。
原告は,本件懲戒請求において,懲戒請求理由①ないし③として,本件会長声明に関して,原告が犯罪行為を行つた, しかも外患罪に該当する行為を行つた等と指摘されたのであり,本件懲戒請求は原告に対する侮辱行為には該当し得るものである。しかし,原告が,懲戒請求理由①ないし③を知ったのは,本件懲戒請求が簡易棄去「されたとの通知を受けたのと同時であると認められること(前提事実0)からすると,原告は,懲戒請求理由①ないし③を,弁護士会において懲戒するべきでないことが一見して明らかであると認められるとして処理され,まともな請求として取り上げられなかった本件懲戒請求に記載されていた内容にすぎないものであることを前提として知つたことになる。また,原告は弁護士であり,懲戒請求理由①ないし③について,何らの根拠もないことは一読して理解したものと考えられる。
これらの点からすると,原告が金銭をもつて賠償を要するほどのその名誉感情を侵害されたと認められない。
■原告北周士弁護士 広島地裁民事第1部 棄却判決 令和元年11月29日
◇頭おかしいツイートは弁護士の品位についての疑義を生じさせるおそれのあるもの
◇北弁護士への懲戒請求は不法行為とは言えず、原告北の請求には理由がない
しかしながら,本件ツイートは,原告佐々木に対する懲戒請求について「頭おかしい」という侮辱的表現を用いている。たとえ明らかに根拠を欠く懲戒請求をすることを批判する目的で用いたものであるとしても,あえてそのような表現方法を採らなければならない理由はなく,「頭おかしい」とぃぅ侮辱的表現が各選定者らを含む懲戒請求者を不必要に誹謗するものであるとの評価は免れない。しかも,本件ツイートは,弁護士である原告北が,弁護士である旨を公開している自らのアカウントを用いて投稿したものであり,上記表現を見た者において,弁護士の品位についての疑義を生じさせるおそれのあるものでもあるというべきである。
そうすると,本件ツイートの投稿が,弁護士としての品位を失うべき非行(弁護士法56条1項)に該当するとみる余地もあるというべきであり,本件ツイートを懲戒事由とする本件懲戒請求2が,事実上又は法律上の根拠を,欠くものとみることはできない。
以上によれば,本件懲戒請求2は不法行為に該当するといえず,各選定者らは,原告北に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負わないから,その余の点について判断するまでもなく,原告北の請求は理由がない。