北山特集在日コリアン弁護士協会②
在日コリアン弁護士協会の声明等について、次世代の党の回答書などもありますが、新しいものから順に投稿いたします。
また、前日まで(たしか)準備中となっていた代表の挨拶が2018年1月19日に新しいものに変わっていたので今回はそちらを。
(以下引用)
LAZAKは、創立当初、わずか20数名の団体でした。会員のほとんどが父母や祖父母が朝鮮半島からわたってきた在日2世・3世でした。在日コリアン弁護士であるとの1点で共通する私たちは、在野法曹として人権問題に取り組み、実務家として弁護士業務に必要な情報を共有し、またマイノリティとして相互の親睦交流を深めようと、2001年、在日コリアン弁護士協会(LAZAK)というネットワークを創りました。
それまで、在日コリアン社会では、ともすれば、朝鮮籍・韓国籍は絶対に維持しなければならない等、国籍、名前、結婚相手、思想信条などにおいて、ひとつの考え方だけが正しく、その他は間違っているという排他的で単純化された考え方が根強く残っていました。しかし、現実には、在日コリアンのなかには、朝鮮籍・韓国籍を維持する者、帰化手続により日本国籍を取得した者、日本人との結婚によりダブルとして生まれた者がいました。また、本名である韓国名・朝鮮名を日常使用する者、通名である日本名を日常使用する者、読み方だけ日本読みである者、朝鮮・韓国の読み方と日本の読み方が混じっている者などがいました。日本人と結婚している人もいました。思想信条もさまざまでした。私たちは、創立当時、在日コリアンに対する地方参政権の付与や届出制帰化の立法化が具体的な現実性をもって議論されていたことを契機に、多様な在日コリアンのあり方を積極的に肯定しよう、多様な生き方の肯定こそが人権の核心をなすものだから、法律専門家である弁護士が正面からこれを謳い、在日コリアンの人権擁護を進めてゆこうとLAZAKを結成しました。LAZAK内部で多様な意見があったにもかかわらず、一部の意見がLAZAK全体の意見と誤解されるなどの出来事も当初ありましたが、その後、LAZAKは活動の実績を評価されて着実に会員数を伸ばし、いまでは120名を超える大きなネットワークを構成するに至っています。会員も、本国留学経験者、本国での法律実務経験者、民族学校出身者や本国からの留学生出身者など、多様性を増しています。また、著作の出版やシンポジウムの開催、外国人問題に関する外部との交流や韓国の法曹界(弁護士会、法院、憲法裁判所など)との交流などを通じて、団体としてのLAZAK内部の蓄積を豊富にしてきています。およそ韓国や朝鮮に関する法的な問題であれば、その解決能力においてLAZAKを超える団体は存在しないと自負しています。
初心を忘れず、益々LAZAKの活動を推し進めてゆく所存です。在日コリアンの弁護士・司法修習生はLAZAKのメンバーとなってほしいですし、在日コリアンや日本人の方々にはLAZAKを多いに利用していただけたらと思っています。
在日コリアン弁護士協会(LAZAK)
代表 林 範 夫
(以上引用)(北山)
北山
意 見 書
題名
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく「公の施設」利用許可に関するガイドライン(案)」について
氏名
(団体の場合は名称及び代表者名)
在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 林範夫
意見の提出日
2017(平成29)年 7月19日
枚数
4枚(本紙を含む)
政策等に対する意見
1.はじめに
ヘイトスピーチ集会に対する公共施設の利用制限の問題は、ここ数年ヘイトスピーチが蔓延する中で、憲法の保障する表現の自由、集会の自由との関係で地方公共団体を悩ませてきた。当協会は、この問題にヘイトスピーチの被害者となるマイノリティとしての専門家集団として応えるために、法的規制の研究、シンポジウムの開催、出版物の発行等の活動を行っている。
人種差別撤廃条約への加入により、地方公共団体も差別に関与してはならず、禁止し終了させる義務があること、したがって、具体的には、地方公共団体がヘイトスピーチ集会のために公共施設を貸すことは許容されないことは、2016年6月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下、ヘイトスピーチ解消法)が施行され、それに続いて、愛知県、江戸川区などいくつかの地方公共団体で、公の施設をヘイトスピーチに利用させない規則改正などは行われたことからも、全国的に広く周知されつつあるところである。
しかしながら、ヘイトスピーチ集会を理由として公共施設を貸し出さないという運用は、表現の自由、集会の自由とも抵触することから、これらに対する必要最小限の規制となるよう十二分に留意される必要があり、これが濫用されないよう、明確で具体的なガイドラインを作り、第三者機関が判断するなど適正な手続きを保障すること
が重要である。今回の川崎市のガイドライン案の作成は、このようなヘイトスピーチ規制と集会の自由の保障とのバランスを考慮した具体的なガイドライン案を作成する全国で初めての先進的取り組みであり、国やほかの地方公共団体のモデルとなるものと考える。
なお、国際人権諸条約の求めているのは公共施設の利用制限に止まらず、包括的な人種差別撤廃法制度の整備である。したがって、2016年12月の川崎市人権施策推進協議会の意見にもあるように、ヘイトスピーチ対策を含めた人種差別撤廃条例を早急に整備することが不可欠かつ急務であると考える。各種報道によれば、川崎市はすでに条例制定にむけても動いているとのことであるが、当協会としては、緊急対策としてガイドライン策定に続いて、人種差別撤廃条例の制定作業が進められることを強く期待するものである。
2.総評
ガイドライン案は、ヘイトスピーチに苦しむ被害者や差別撤廃を求める市民の声を真摯に受け止め、「市民の安全と尊厳を守る」ため、地方公共団体が責任をもってヘイトスピーチを「制度的に防止」すべくつくられたものであり、法的に難しい問題があるからといってヘイトスピーチ解消の責務を放棄し、問題を先送りするのではなく、何より市民を差別から守ろうとするその積極的姿勢に、当協会は敬意と共感を表する。
また、差別的言動の解消という目的を、憲法の保障する表現の自由、集会の自由の不当な侵害にならないよう実現するために、明確で具体的な基準を設置しようとするものであり、差別の防止のみならず、表現の自由の保障の観点からも大きな意義があるものと考える。また、ガイドライン案の具体的内容を見ても、「不当な差別的言動の行われるおそれが客観的な事実に照らして具体的に認められる場合」(言動要件)には、「警告」「条件付き許可」「不許可」「許可の取り消し」という利用制限ができることとし、「不許可」「許可の取消し」とする場合には第三者機関から事前に意見聴取するとして、人種差別を禁止する義務を果たす上で、表現の自由、集会の自由の不当な侵害にならない、必要最小限度の規制に止めることに留意する内容になっているものと評価される。
さらに、ヘイトスピーチ解消法に基づくガイドラインであり、抽象的な理念法である同法をヘイトスピーチ防止のために実効化する取組であり、同法を反人種差別法として活きたものにし、日本の差別撤廃法制度を発展させる意味も大きい。そして、日本が締約国となっている人種差別撤廃条約及び自由権規約により、中央政府のみならず地方政府もヘイトスピーチをはじめとする人種差別を禁止する義務を負っているところ、川崎市による公的施設でヘイトスピーチに使わせないためのガイドラインが策定されることは、その義務に応える点でも大きな意義を有するものであると考える。
3.個別の条項の内容についての改善提案
以上のように、当協会はガイドライン案を高く評価し、その早急な制定と施行を期待するところであるが、このガイドラインがこれから各地のモデルとなるであろうことから、以下の何点かの改善を提案したい。
(1) 迷惑要件の削除
ガイドライン案では「不許可」「許可の取消し」の場合には、上述の「言動要件」のほかに、「その者等に施設を利用させると他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが客観的な事実に照らして明白な場合」との要件が必要とされている。その判断にあたっては、「その利用によって、他の利用者の人権が侵害され、公共の安全が損なわれる危険があり、これを回避する必要性が優越する場合に限られなければならない」とされている(p.4(3)判断方法ウ)。
「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす」という用語が何を指すかあいまいであるが、p.4(3)判断方法エにおいて会議室の場合は「他の利用者の迷惑自体が想定し難い」と書かれていることからすれば、公共施設を利用する者が施設内で直接ヘイトスピーチを見聞きすることを前提とした解釈がなされる可能性も否定しがたいものと考えられる。しかしながら、施設内で直接ヘイトスピーチを見聞きする者の人権侵害のみを考慮するのは狭すぎる。
ヘイトスピーチの被害は、その言動が発せられている瞬間に限定されるものではないことに留意すべきである。ヘイトスピーチが公共施設で行われる状態がある限り、多くのマイノリティの親たちは子どもを連れて出かける際に常に行き先及びその近辺の公共施設でヘイトスピーチが行われる予定がないか調べることを余儀なくされるなど、日常的に不安にさらされ、自らのアイデンティティを攻撃されずに地域の一員として平穏に暮らす人格権が脅かされているのである。
また、小さな会議室で行なわれる場合でも、ヘイトスピーチの目的は差別を煽動することにあるから、インターネット上の生中継か、少なくとも「YouTube」などの録画サイトへの投稿が行われることが通常であり、市民がネット上でヘイトスピーチに遭遇して人格権が侵害され、また、差別が広がる危険性がある。2017年3月末に発表された法務省の外国人住民調査結果においても、ネット上にヘイトスピーチを見るのが嫌でそのようなネットサイトの利用をやめた人が外国籍者全体で約2割、朝鮮籍者では5割近くもいることが明らかとなっており、表現の自由、知る権利や、ネットを通じて社会に参加する権利が侵害される実害が生じている。よって、この点からも、「他の利用者の迷惑自体が想定し難い」として、ヘイトスピーチによる人権侵害の対象を施設内で直接見聞きすることによることによる被害に限定するのは不適切である。
そもそもヘイトスピーチ解消法が前文で述べるとおり、ヘイトスピーチにより被害者が「多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている」現状が既に存在するのであり、このような重大な害悪があるから、同法は国及び地方公共団体に対し喫緊の課題として解消に取り組むことを責務として求めたのである。
公共施設でヘイトスピーチが行われること自体により、被害者の「多大な苦痛」として、前述の実害が生じるほか、民間施設でなく公共施設で行われることにより、差別に公的機関を容認していることが被害当事者に孤立感、社会への絶望感と恐怖をもたらす。また、公共機関が差別を認めていることとなり、そのようなことをある特定のグループの人たちに対し言ってもいいのだとの感覚―差別感情が地域社会に広がり、「地域社会に深刻な亀裂を生じさせ」てしまう。マイノリティへの蔑視感が暴力へとつながることは、関東大震災における朝鮮人、中国人虐殺やナチスによるユダヤ人、ロマの人々、障がい者などの歴史的事実から明らかである。
ガイドライン案はヘイトスピーチ解消法に基づくものと位置付けられているのだから、解消法の認定するこのような重大な害悪を防ぐ目的に照らし、言動要件があれば利用制限の対象とすべきであり、この要件と別に「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす」ことを要件として加重すべきではない。
加えて、「迷惑」「公共の安全」という用語は、定義としてあいまいであり、市民の人権保障の観点ではなく、権力的な秩序維持の観点から解釈される余地を残すという危険性があり、明確性の原則の点からも不適切であると考える。よって、迷惑要件を削除することを提案する。
なお、2017年6月21日付け神奈川新聞「時代の正体<487>ガイドライン(上)規制が表現の自由を守る」との記事によれば、市は、2016年5月30日に公園をヘイト集会に利用させない判断をした際、「市民の安全と尊厳を守る」ことを理由として掲げ、在日外
国人市民が不安を抱くだけでなく、実際に公園を使うことができないという実害が生じることを考慮したという。また、今回の迷惑要件はこの不許可判断を包摂しており、同様のケースでは当然、不許可の判断になるとガイドラインの作成と運用を担当する担当者が説明しているという。しかしながら、「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす」という要件を設けた場合、このような判断に支障が生じる懸念があるのであるから、仮に迷惑要件全体を削除しないとしても、少なくとも、立法意思に誤解が生じることを防ぐよう、「他の利用者」ではなく「『他の市民』に著しく迷惑を及ぼす危険」のあることを要件とする修正を行うべきであると考える。
また、迷惑要件の判断方法としても「他の市民の人権が侵害され、安全が損なわれる危険」とすれば、昨年5月の判断基準との同一性が明確となるのであるから、「他の利用者」の概念を狭くとらえすぎているように読める「(3)判断方法エ」は明確に削除する必要があると考える。
(2) 第三者機関の人数及び構成
第三者機関の人数及び構成は、公正さと実効性を担保するために重要なので、ある程度の要件を定めることが望ましいと考える。人数は、例えば、大阪市ヘイトスピーチ審査会にならって少なくとも5人とすることを検討するべきであると考える。また、第三者機関の構成員についても、人種差別の撤廃に関して専門的知見を有する者であることを最低限の必要条件とし、このような必要条件を満たす人材の中から、憲法及び国際人権法の専門家、マイノリティに属する者を必ず加えること、ジェンダーバランスにも配慮すること等を定めるべきであると考える。
(3) 第三者機関の審議結果の取り扱い
「7 第三者機関への意見聴取(3)」によると、第三者機関の委員が全員一致で言語要件及び迷惑要件に該当すると判断した場合には、「各施設の所轄機関は、その判断及び表現の自由等の重要性を総合的に斟酌して最終判断を行う」とあるが、委員の意見が全員一致でない場合については明記されていない。第三者機関による検討結果をヘイトスピーチ解消に向けて最大限活用するためにも、全員一致でない場合には、委員たちの意見を参考にすべきことを明記することが必要であると考える。
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提 出 先
部署名
川崎市 市民文化局 人権・男女共同参画室
北山
ヘイトスピーチに関する与党法案を修正し,より実効的な法律を成立させることを求める声明
本年4月8日に,自民・公明両党から「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下「本法案」という。)が参議院に提出された。
ヘイトスピーチは,主に人種・民族の違いなどを理由に「殺せ」「ゴキブリ」「ガス室へ送れ」などと公道で公然と叫び,その実行を慫慂するものであり,同じ社会に暮らす隣人であるのに,人種・民族をもって差別し,劣ったもの,保護するに値しないもの,どのように扱っても構わないものという差別意識を広く蔓延させる。憲法13条が保障する,対象とされているマイノリティーの人間としての尊厳を傷つけるものであり,また,憲法14条に定める平等権を侵害するものである。そればかりか,身体生命に危害を加えるヘイトクライムへと容易に結びつき,甚だしくはジェノサイド(大量虐殺)を引き起こしかねない。これは日本における関東大震災の際の朝鮮人虐殺に限らず,諸外国にも例の見られるところである。ヘイトスピーチのもたらす害悪は極めて深刻である。
近年,日本においても公共空間におけるヘイトスピーチが猖獗を極め,対処するための法律が求められてきたところ,今般,与党が本法案をとりまとめた。いうまでもなく,人
種差別・民族差別,なかでも在日コリアンに対する民族差別は日本における最大の人権問
題の一つであり続けているが,人種差別撤廃条約に日本が加盟して20年以上,戦後70年
以上,植民地化から100年以上を経て,人種差別・民族差別への対処を正面から課題とす
る法案を与党に提出させたのは,あまりに遅きに失したことであるとはいえ,画期的なこ
とといえる。人種差別と闘ってきた市民,運動の成果である。
しかしながら,本法案は,少なくとも下記の諸点について修正が必要である。第一に,
本法案は,ヘイトスピーチの対象となる被害者の範囲を不当に狭めるものである。本法案
は,対象者を「専ら本邦の域外にある国又は地域の出身者である者又はその子孫であって
適法に居住するもの」と定義する(第2条)。これでは,在留資格なく日本に滞在している,あるいは滞在の適法性を争っている外国人,また被差別部落,アイヌ,さらには琉球・沖縄などの国内の人種的・民族的少数者に対するヘイトスピーチは本法案の適用対象外となるものと考えられる。しかし,ヘイトスピーチなどの人種差別が問題なのは,上記のとおり,それが人種的・民族的属性等を理由として人を人として扱わない,人間としての価値を踏みにじるからである。そこには,滞在が適法かどうか,出身地が国内であるか国外であるかという区別を持ち込む余地はない。
次に,「不当な差別的言動」の定義(第2条)においては,「生命,身体,自由,名誉,
または財産に危害を加える」場合のみならず,人種・民族の違いに基づいた,侮蔑,蔑視,
悪質なデマなども含まれることを明記すべきである。
さらに,本法案は,「不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」(第3条)と国民・市民に努力義務を課すにとどまるものである。罰則規定を設けない法律がヘイトスピーチ抑止のための実効的法規範たるためには,「違法」若しくは「禁止」の文言が明確に規定される必要がある。
加えて,本法案が地方公共団体の義務を努力義務にとどめている(第4条から第7条)点も問題である。罰則などの制裁が明示されていない上に,相談,教育,啓発活動すら努力義務でしかないのでは,やはり実効性を欠くことになりかねない。
当会は,少なくとも以上の諸点の修正について与党と野党が協議を行い,ヘイトスピーチ根絶のために,より実効的な法律を今国会において成立させることを求める。また,こ の法律が成立したとしても,それはあくまでも第一歩にすぎない。当会は,与野党,政府・地方自治体に対し,さらなる実効的な措置,立法等について引き続き検討することを求めるとともに,そのための努力を行っていく所存である。
2016年4月14日
在日コリアン弁護士協会
(※韓国憲法裁判所宛ての意見書です。)(北山)
意 見 書
在日コリアン弁護士協会
憲法裁判所が、2015憲マ1047号憲法訴願審判請求事件について違憲決定を下すとともに、2015憲サ984号効力停止仮処分事件について迅速な仮処分決定を下すことを要請します。1.問題の所在(保健福祉部指針と関連法令)
. 保健福祉部は、同部指針「2015年度保育事業案内」(以下「本件指針」といいます。)付録2で、「住民登録法第6条第1項第3号によって住民番号の発行を受け…る者」は、「2015年の保育料及び養育手当支援対象」から除外されるものと定めています(以下「本件指針条項」といいます。)。
「住民登録法第6条第1項第3号によって住民番号の発行を受け…る者」とは、同条項号の「在外国民」をいいます。そして、同条項号は、同「在外国民」の定義について、「大韓民国の国民であり、外国の永住権を取得した者」1で、「海外移住法」第12条による永住帰国の申告2をしない者であって、住民登録の無い者が帰国後最初に住民登録する場合であると規定しています。
1 「在外同胞の出入国と法的地位に関する法律」第2条第1号の「国民」。
2 「海外移住法」第12条では、永住帰国の申告について、申告者は、外交部令に定める永住帰国を証明することができる書類(永住権または永住権に準ずる長期在留資格の取消を確認することができる書類と居住旅券(同法施行規則第13条))を備えて申告する必要があると定めている。
. したがって、本件指針条項に基づき、日本で出生し日本の特別永住権を有する韓国人は、韓国に生活の本拠を置き居住している実態があるとしても、日本の特別永住権を保持している限り、保育料及び養育手当の支援対象から除外されています。
2.本件指針条項は憲法違反である
. 大韓民国憲法前文は、「政治、経済、社会、文化のすべての領域において各人の機会を均等にし」、「内には国民生活の均等なる向上を期」すると規定し、憲法第11条第1項は「すべての国民は、法の前に平等である。」と規定して平等原則を定めています。この平等原則は、国民の基本権保障に関するわが憲法の最高原理であり、国家が立法を行い、又は、法を解釈及び執行するにあたり従わなければならない基準であると同時に、国会に対
し合理的理由なく不平等な待遇を受けず、平等な待遇を要求することができるすべての国民の権利であり、国民の基本権中の基本権であると解されています(憲裁1989.1.25.88憲カ7)。
. この平等原則は、憲法第23条が定める財産権、憲法第36条第1項、同第10条、同第37条第1項からから導き出される「父母の子のための教育権」の実現にも当然に適用されるべきものです。
また、国民の教育を受ける権利が、憲法第31条第1項で保障されていますが、同条項は「すべての国民は、能力に応じて、均等に教育を受ける権利を有する。」と規定し、国民の教育を受ける権利について平等原則が適用されることが憲法上明記されています。同条5項は国が平生教育を振興すべき義務を定めていますが、この平生教育の振興についても平等原則が適用されなければなりません。
. 本件指針は、嬰幼児保育法に基づく幼児の無償保育について具体化したものです。同法第3条では「嬰幼児は、自身又は保護者の性、年齢、宗教、社会的身分、財産、障害、人種及び出生地域などによるあらゆる種類の差別も受けず保育されなければならない」と嬰幼児保育における平等原則を規定しています。かかる平等原則もまた、上記の韓国憲法上の平等原則に基づくものというべきです。
. 嬰幼児保育法は、第1条で「この法は、嬰幼児(嬰幼児)の心身を保護し健全に教育し健康な社会構成員として育成するとともに、保護者の経済的・社会的活動が円滑になされるようにすることで、嬰幼児及び家庭の福祉増進に貢献することを目的とする」と定めています。
嬰幼児保育法の目的である韓国社会の構成員として育成すべきこと、そして、保護者の経済的・社会的活動が円滑になされるべきことは、当該韓国国民が外国の長期滞在資格を保有しているか否かにかかわるものではありません。実際に、当該韓国国民が韓国国内に生活の本拠を置き定住している以上、同法の目的が妥当します。上記韓国憲法上の平等原則、同法の目的・保育の理念からすれば、同法は、無償保育の対象者として、現に韓国に定住しているあらゆる韓国国民の家庭を念頭においているというべきです。
それにもかかわらず、本件指針は、現に韓国に定住している韓国国民の家族について、外国の長期在留資格を有していることを理由に、嬰幼児保育法に基づく嬰幼児の無償保育から一律に排除しています。これは、上記の韓国憲法上の平等原則に反する不合理な差別であり、本件憲法訴願審判請求人らの平等権を侵害しているといわざるを得ません。
. なお、本件指針では、韓国国民のみならず、父母の一方が外国籍を有する家庭の子女についても、多文化家族支援法に基づき養育手当の支給を受けられるものと定めていますが、例えば、在日同胞が日本国において帰化手続を行い、新たに日本国籍を取得した後、外国に永住権を有しない韓国 国民と結婚し、韓国で居住することになった場合には、出生した子に対する養育手当の支給がなされるのに対し、在日同胞が韓国国籍を放棄せず、外国に永住権を有しない韓国国民と結婚した場合には、出生した子に対する養育手当の支給がなされないという点で、両者に不合理な不均衡が生じていることは明らかです。
また、2014年の住民登録法の改正の趣旨は、在外国民が韓国の国民であるにも関わらず国籍を放棄した外国国籍の同胞と同じく扱われることに対しての心理的な拒否感を払拭させ、国内で生活するにおいて不便をなくし、大韓民国の国民であるという所属感を向上させるところにありました。しかし、本件指針条項は、日本で生まれ韓国に定住している韓国人について内国人と異なる取扱いをしており、住民登録法の改正の趣旨にも反してい
ます。
3.日本における児童手当の受給資格
. 日本においても、韓国と類似の制度として、児童手当の支給制度があります。即ち、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的として、児童手当法が制定さており(同法第1条)、同法に基づき、中学校修了前の児童に対して児童手当が支給されています。
. 日本の児童手当の受給資格については、児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするその父母等であって、日本国内に住所を有するものとされています(同法第4条第1号)。これに基づき、日本政府は、日本国内に住所を有し住民基本台帳に記載されている者は、すべて児童手当の受給資格の対象としており、父母の日本国外の在留資格自体は問いません(日本国籍の有無も問いません。)。
そのため、父母が夫婦で海外に居住している場合であっても、当該児童が日本に居住している場合に、児童と同居している者を「父母指定者」として指定すれば、指定された者に手当が支給されています。
. このように、日本政府は、韓国政府とは異なり、日本国内に住所を置くすべての児童に対し、次代の社会を担う児童として扱い、その健やかな成長を図るため、その児童を養育する者に広く児童手当を支給しています。
4.特別永住権の歴史性・内容
. 日本における「特別永住権」は、一般永住資格とは異なり、1945年の解放前から日本に在留している日本の旧植民地出身者の法的地位の安定化を図るために特別に認められている法的地位です。そのため、「特別永住権」は、1945年9月2日以前から引き続き日本に在留し、サンフランシスコ講和条約(以下「講和条約」といいます。)の規定に基づき1952年4月28日に日本国籍を離脱した者等及びその子孫(以下「特別永住者」といいます)に限り認められています。
3 なお、日本政府の見解は、特別永住について、日本在留のための「資格」、「法的地位」にすぎず「権利」ではないというものです。しかし、特別永住が実質的に日本の旧植民地出身者及びその子孫が有する権利であるのは明らかですので、本意見書では特別永住権として説明します。
4 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法第
3条。
5 同法第4条第1項、第2項。
6 同法第22条。
7 同法第20条。
8 同法第23条第1項、第2項。
. 特別永住権については、まず、講和条約による国籍離脱者及びその子孫について、特別永住者として日本で永住することができるとし4、特別永住者が特別永住許可の申請をしたときには、法務大臣は許可をするものと規定され5、覊束的に特別永住権が認められる点で、一般永住等の中長期在留資格と異なります。
加えて、特別永住者の退去強制事由は、内乱罪、外患誘致罪及びそれらの予備罪、陰謀罪、幇助罪で禁固刑を受けた場合等のほか、無期又は7年を超える懲役又は禁錮に処せられ、かつ法務大臣が日本の重大な利益が損ねられたと認定した場合に限られ6、一般永住等の中長期在留資格に比べて非常に狭く限定されています。実際に7年以上の懲役又は禁固刑に処せられた特別永住者は存在するものの、当会が知る限りでは、実際に退去強制は実施されたことはありません。
さらに、特別永住者は、日本を出国し再入国する場合、予め再入国許可を受けて日本を出国したときには、再入国の上陸手続において所持する旅券の有効性のみ審査され、他の外国人のように上陸拒否事由に該当しないことを審査されることはありません。また、特別永住者以外の中長期在留資格を有する外国人の場合、再入国許可の有効期限の上限が5年であるのに対し、特別永住者の上限は6年、再入国許可を受けずに再入国が可能な期間も、特別永住者でない外国人の場合には1年であるのに対し、特別永住者は2年とそれぞれ長くなっています。
このように、「特別永住権」は、特別永住者が日本でより安定した生活を営むことができるために認められた法的地位であり、他の日本の中長期在留資格と比較し、非常に安定した在留資格です。
. 在日同胞が「特別永住者」として「特別永住権」を保有することになった経緯は、次のとおりです。
日本における朝鮮半島の植民地支配によって、日本に多数の同胞が居住することになりました。1940年前後以降、多数の朝鮮人が強制的に連行されました。それ以前は「渡航」の形態をとっていましたが、これも植民地支配に起因するものであったことは言うまでもありません。朝鮮半島の解放当時、200万人以上の朝鮮人がいたとされ、最終的に、帰国者を除く約50~60万人の朝鮮人が日本に継続して居住することになりました。
日本政府は、このような在日同胞の国籍について欺瞞的な立場に立っています。すなわち、朝鮮人は1910年の植民地化によって日本国籍を取得したが9、1945年の光復によっては日本国籍を喪失せず、日本が連合国による占領から主権を回復した講和条約が発効した1952年4月28日まで朝鮮人の日本国籍は存続していた、というものです。
9 本意見書では、日本国籍の強制取得自体の無効、不当性については措きます。
10 ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第126号)第2条第6項。
日本国家は、このような見解を前提とするにもかかわらず、1947年5月2日、天皇の最後の勅令である「外国人登録令」により、朝鮮人は日本国籍を保有しているが外国人とみなすと宣言し、朝鮮人を外国人として取り扱いました。翌5月3日には広く人権を保障する日本国憲法が施行されましたが、実際には、その人権は日本国籍者に限って保障し、外国人については人権享有を厳しく制限するという運用がなされました。そして、外国人とはいっても、日本における外国人人口の90パーセント以上は朝鮮人でした。朝鮮人は民主的な日本国憲法の発足当初から、人権保障の埒外に置かれたのです。
そして、在日同胞は、講和条約発効により正式に日本国籍を剥奪され、そして同時に日本国籍がないことを理由に、これ以降、人権が厳しく制約されました。即ち、日本政府は、講和条約が発効した1952年4月28日に外国人登録法を公布・施行し、一方的に、在日同胞の日本国籍を「剥奪」しました。その一方で、日本国は、日本国憲法の人権条項を外国人に対し限定的にしか適用せず、また、人権保障のための法律に「国籍条項」(人権の享受に日本国籍を要求する条項)を置くなどして、在日同胞の人権を制約したのです。さらに、在日同胞の在留資格は、「別に法律で定めるところによりその者の在留資格及び在留期間が決定されるまでの間、引き続き在留資格を有することなく本邦に在留することができる」10とされ、暫定的な在留資格しか認めませんでした。日本国家は、いったんは在日同胞の日本国籍を剥奪し、その法的地位を非常に不安定なものとしながら、希望するものに対しては個々的に「帰化」により日本国籍を認めるとしつつ、「帰化」にあたっては
日本への同化を求める政策を採ったのです。
これに対し、在日同胞は、安定した法的地位を日本政府に求める闘争を繰り広げるとともに、日本社会、国際社会からの助力を得て、解放から45年以上が経過した1991年になってようやく「特別永住権」を日本国家に認めさせました。このように、日本における特別永住権と特別永住者に対する人権保障は、日本国籍がないことを理由になされた日本国による不当な人権侵害に対して、日本国籍がないまま人権を保障するよう私たちの先達が求め、勝ち取ってきた成果です。
. 以上の意味で、日本の特別永住権は、植民地支配、講和条約に発効に伴う一方的な「日本国籍」の「剥奪」措置とその後の国籍がないことを理由とする及び差別・同化という在日同胞に対する過酷な状況の中で、在日同胞の人権を保護するために認められた重要な法的地位です。特別永住権は、「剥奪」された日本国籍の回復を求めるべきではないという在日同胞に特殊な事情から、日本国籍を求めないまま、人権保障を勝ち取った実質的には「国籍」に相当する法的地位であって、韓日両国において戦後補償の対象外とされてきた在日同胞11にとって唯一の戦後補償ともいえるものです。日本の特別永住権の放棄を求めることの合理性を判断するにあたっては、以上の在日同胞の特殊事情がよく勘案される必要があります。
11 「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第172号、1965年6月22日署名)第2条1.「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、(中略)、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」という規定が、同条2.(a)で「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」に影響を及ぼさない旨規定されている。「対日民間請求権申告に関する法律」(法律第2287号、1971年1月19日制定)でも、申告対象の範囲を定めた第2条第1項で「1947年8月15日から1965年6月22日まで日本国に居住したことがある者を除く大韓民国国民」と定められている。このように、在日同胞は韓日両国で戦後補償の対象外とされた。
5.まとめ
. 以上より、日本の特別永住権を有しながら韓国に居住する韓国人に対する保育料・育児手当を支給しないと定めた本件指針条項は、韓国憲法上の平等原則に反する不合理な差別であり、本件憲法訴願審判請求人らの平等権を侵害しており、韓国憲法に違反します。
. 日本では、日本国籍者を外国の在留権の有無で社会保障から一律排除する不合理な差別は、当会が把握している限りでは存在しません。
. 本件指針条項の下では、日本の特別永住権を有する同胞が韓国で保育料及び養育手当を受給するには、二つの方法しかありません。第一に、特別永住権を放棄することであり、第二に、日本の国籍を取得することです。
しかし、特別永住権が日本の植民地支配と在日同胞に対する差別・同化の歴史を証明するものであることは、前述のとおりです。
また、日本国籍を取得していない在日同胞は、日本国に納税しているにもかかわらず、地方参政権をはじめとするすべての政治から除外されています。
自己統治が基本原理とされる民主主義社会であたかも専制政治を受けるかのようです。このような不当な扱いを受けても、あえて日本国籍を取得していない在日同胞たちがまだ30万人以上に達します。このような在日同胞が日本国籍を取得しない理由もまた、植民地支配と在日同胞に対する差別・同化の記憶からです。
本件指針条項は、結果として、日本の特別永住権を有する同胞に対し、韓国で保育料及び養育手当を受給するために、特別永住権を放棄させ、または、日本国籍を取得させようとするものであって、日本の植民地支配と在日同胞に対する差別・同化の歴史を、在日同胞の祖国が自ら消し去ろうとするものです。
. 当会は、日本の特別永住権を有する同胞に対する不合理な差別について憲法裁判所が違憲決定を下すことで是正するとともに、本件請求人らが保育料及び養育手当を受給できるよう仮処分決定を迅速に下すことを強く要請します。
以 上
2015年12月1日
在日コリアン弁護士協会 代表 金 竜 介
北山(※改行等修正を加えています。)(北山)
人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案の採決見送りに抗議し、次期国会での早期成立を強く求める声明
2015年9月25日
在日コリアン弁護士協会 (LAZAK)
参議院議員によって発議された「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」は、参議院法務委員会で審議されたものの、与党の慎重姿勢により今国会では継続審議となった。
日本は1995年に人種差別撤廃条約に加盟したが、その後、現在までの20年間、人種差別撤廃のための抜本的な施策を全く講じてこなかった。 本法律案は、人種差別撤廃条約で定められた義務を法律としてもあらためて規定したうえで、国の基本原則・方針を定め、 国が人種差別の防止に取り組むことを宣明する基本法・理念法の位置付けを有するにとどまる。この程度の法律ですら成立させられないのであれば、日本社会の見識を問われることにもなりかねないものであり、当会は、日本における人種差別撤廃法制の最初の一歩となるものとして早期の成立を求めてきた。
日本においては、 在日外国人や外国にルーツを持つ日本人に対する深刻な人種差別が横行している。 特に、近年、在日コリアンをはじめとするマイノリティに対する公然とした人種差別行為が蔓延し、現在でも、公道上でヘイト・デモや街宣行動が毎週のように行われ、インターネット上でのヘイトスピーチも野放しとなっている。 本法案は、人種差別の禁止を、条約に重ねてあらためて宣言するとともに、人種等差別防止政策審議会等の担当機関を設置し、国が人種差別の防止のための施策に着手することを明らかにしている点において意義がある。人種差別撤廃委員会等の国連機関からもヘイトスピーチをはじめとする人種差別に対する抜本的対策が必要であることは、再三、指摘されており、人種差別撤廃に関する基本法の策定は急務である。
当会は、本法律案の今国会での成立が見送られたことに抗議するとともに、次期国会での速やかな成立を強く求めるものである。
以上
北山(※書き起こしです。「精算」は誤字みたいです。)(北山)
戦後70年談話についての声明 2015年8月21日
在日コリアン弁護士協会 代表弁護士 金竜介
本年8月14日に発表された内閣総理大臣談話(以下「安倍談話」という。)は、痛切な反省と心からのお詫びの対象を「先の大戦における行い」にとどめ、日本による侵略や植民地支配に対する反省とお詫びに正面から言及しなかった。また、日露戦争(1904~1905年)を、植民地支配のもとにあった多くのアジア、アフリカ人を勇気づけたと評価する一方、この戦争の結果、朝鮮半島はまさに植民地支配のもとに置かれた(1910年)という負の事実についての言及も全くなされなかった。
本年は戦後70周年の節目であるとともに、「日韓国交正常化」50周年の節目の年でもある。日本の植民地支配責任については、50年前の「日韓国交正常化」の過程において十分な総括と精算がなされなかった。その結果、「慰安婦」問題を初めとする、日本の侵略と植民地支配が多くの朝鮮半島出身者に苛烈な人生を背負わせた日本の過去の精算については、現在も解決を見ていない。また、植民地主義の結果生まれた日本社会の在日コリアンに対する差別構造についても、いまだ克服できないままとなっている。
このような現状があるにも関わらず、「日韓国交正常化」50周年の節目の年に、安倍談話が、日本による侵略や植民地支配に対する反省とお詫びに言及せず、この点について直接の言及をしていた過去の村山談話や小泉談話と比べて、大きく後退する内容となったことについては、大変遺憾である。
また、安倍談話においては、「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」との表現が加えられた。しかしながら、日本もまたグローバル化しつつあり、「私たち日本人の子や孫や、その先の世代」の中には、コリア系、その他の「外国」系の日本国籍保有者も含まれることをこの談話は見逃している。来し方を訪ねて歴史の教訓に学び、未来を望んで道を誤らないことは、これらすべての未来の「日本人」のために、ひいては人類社会のために現在の世代が負うべき責任である。
当会は、日本が、安易な「未来志向」の美辞麗句の下、歴史と向き合うことを放棄し、現在まで続く差別構造等の植民地支配の残滓を解決するための歩みを止めることのないよう、引き続き求めるものである。
北山(※改行等修正を加えています。)
公開質問状回答に対する意見書
2015年4月9日
次世代の党 党首 平沼 赳夫 殿
在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 金 竜介
当会からの2015年1月19日付け「公開質問状」に対する貴党からの平成27年2月16日付け「公開質問状回答」(以下「回答」とします。)に対する当会の意見は以下のとおりです。
第1 意見の趣旨
貴党は、日本に居住する外国人の生活保護や、「慰安婦」問題について「タブーブタ」と題する動画(以下「本動画」といいます。)を作成し、インターネット上の貴党のチャンネル上に掲載することで誰でも視聴できるようにしています。
しかし、その内容は、本動画を観る者をして誤解・偏見を抱かせるものですから、政党の行為としてふさわしくありません。
ついては、本動画を速やかに削除し、その内容に問題があったことを公表すべきであると考えます。
第2 意見の理由
1 生活保護を通じて、日本に居住する外国人に対する誤解・偏見を抱かせていること
(1)貴党は、回答で、本動画の歌詞にある「僕らの税金」には、「日本に住む外国人が納めている税金」が含まれていることを認めています。
それにもかかわらず、本動画では「日本の生活保護なのに日本国民なぜ少ない 僕らの税金つかうのに 外国人なぜ8倍」としています。
本動画は、これを視聴する者に、外国人が生活保護費の元となる税金を払っていないにもかかわらず、生活保護の受給を受けているかのような誤解を与え、偏見を抱かせるものです。
(2)次に、「外国人なぜ8倍」との歌詞の根拠について、平成22年の日本国籍者と全外国籍を含む全生活保護者の保護率や、世帯主が韓国籍又は朝鮮籍(ただし、「韓国表示又は朝鮮表示」と理解するのが正しい)である場合の保護率等に基づいて算出しているとのことです。
しかし、前者は人数比較であること、後者は世帯比率であることなど算出の方法自体に問題があります。しかも、このことは貴党自身も認識しているところです。従って、「8倍」とすること自体にそもそも問題があると言わざるを得ません。
にもかかわらず、「外国人なぜ8倍」とすることは本動画を視聴する者に誤解を与え、偏見を抱かせるものです。
(3)さらに、生活保護を受けている外国人の中には、日本の社会保障体制から排除され、年金に加入することができなかったことが原因で、生活保護に頼って生活せざるを得ない方がいます。このような背景事情を説明しないで外国人の生活保護受給のみを問題視することは世論を誤導するおそれがあります。
2 「慰安婦問題」に対する誤解・偏見を助長していること
(1)貴党は、回答では「慰安婦という存在がいたことを認めるとともに、当時、様々な境遇の中で慰安婦という立場に身を置かれた方々が大変な苦労をされたことについても重々承知しております。」などと述べてはいますが、公開している本動画では、単に「慰安婦問題でっちあげ」としているだけです。本動画は、本動画を視聴した一般人をして、「慰安婦」問題自体を「でっちあげ」だとするものと認識させるものです。
(2)「慰安婦」問題は、「慰安婦」とされた被害女性たちの名乗り出を受け、研究者や市民らによる資料の発掘が進み、日本軍や日本政府関係文書によって証明された歴史的事実ですから「でっちあげ」られた問題ではありません。
また、「慰安婦」問題を語る際、「慰安婦」を暴行によって連行したのか、甘言や詐術によって連行したのかは問題の本質ではありません。「慰安婦」問題の本質は、「慰安婦」が、(暴行によると、甘言などによるとを問わず)その意思に反して慰安所に連れていかれ、慰安所において性行為を拒否する自由を持たず、そして、慰安所から帰還する自由を奪われていたことにこそあるからです。
(3)従って、仮に吉田証言が真実でなかったとしても、このことから「慰安婦」問題が存在しなかったことにはなりません。仮に新聞社が同証言について「誤報」をしたとしても同様です。「慰安婦問題でっちあげ」と主張したいのであれば、貴党は、「慰安婦」が、慰安所から帰還する自由等を持っていたことを立証すべきです。
もっとも、「慰安婦」が自由を奪われていたと認定したからこそ、国際社会も「慰安婦」問題の存在を認めているのであり、実際にはこのような立証は不可能です。そして、国際社会は、このように自由を奪われた状態を「性的な奴隷」としているのです。「慰安婦」問題は「でっちあげ」などではありません。
(4)本動画は、「慰安婦」被害者や「慰安婦」問題に対する偏見・誤解を助長するものであり、本動画を継続して公衆の閲覧に供する行為が極めて不適切であることは明らかです。
3 結論
以上の通り、貴党の作成した本動画は、日本に居住する外国人および「慰安婦」問題について誤解や偏見を助長するものといわざるを得ず、このような動画を作成し、誰でも視聴可能な状態に置く行為は、公の政党の行為としてふさわしくありません。
よって、意見の趣旨記載の通り、本動画を速やかに削除し、その内容に問題があったことを公表すべきであると考えます。
以 上
北山(※書き起こしです。一応電話番号は省略しました。「収めている税金」「でしょか」は多分誤字です。)(北山)
平成27年2月16日
次世代の党 事務局
資料送付のご案内
平素、お世話になっております。
先日ご依頼いただいたアンケートの件、添付の通り回答いたしますのでご確認くださいますようお願いします。
記
ア)公開質問状回答 … 計3枚
【本件問合せ先】次世代の党 事務局(電話:(※略))
在日コリアン弁護士協会公開質問状回答
まず初めに、回答の意図が変わってしまう危険性がありますので、本回答をご使用になる場合は必ず、引用等回答の一部を抜き出したものだけでなく、回答全体も併記して頂きます様、お願い申し上げます。
1.生活保護について、「日本の税金」「僕らの税金」を使うと歌われていますが、これは「日本人が収めている税金」という趣旨でしょうか。生活保護には、日本に住む外国人が納めた税金も使われていますが、「日本の税金」「僕らの税金」には「日本に住む外国人が納めている税金」も含まれていますか。正確な趣旨をご説明ください。
回答:
生活保護については、正確には以下の様に歌っています。
“日本の生活保護なのに 日本国民なぜ少ない 僕らの税金つかうのに外国人なぜ8倍”まず、「日本の税金」とは歌っていないことを指摘いたします。
「僕らの税金」には、「日本に住む外国人が納めている税金」は含まれています。そして、その使い道は、参政権のある日本国民が決めます。
税金は法律に基づいて使われるべきものです。そして、平成26年7月18日の最高裁判所の判決文においては「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象になるにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しない者というべきである」としています。法律ではなく、昭和29年5月の厚生省社会局長の通知だけで外国人へ生活保護の支給が続けられていることを問題と考えています。
2.生活保護について、「外国人なぜ8倍」という歌詞がありますが、この「8倍」とは、どのような統計を比較して出されたものでしょか。その根拠をご教示ください。
回答:
①日本籍と全外国籍を含む全生活保護者の保護率は、
平成22年 保護率 1.52% ※これは人数比較です。
[厚労省福祉行政報告例。月平均被保護者実人員を国勢調査人口で除した。]
②世帯主が「韓国又は北朝鮮」籍である場合の保護率(世帯)は、
27,035世帯/190,246世帯= 14.2% ※これは世帯数比較です。
[分子:平成22年被保護者全国一斉調査(調査日7月1日)
分母:平成22年国勢調査(調査日10月1日)]。
平成22年を用いているのは、国勢調査が5年に一度しか行われていないことによります。
③これらの割合を比較すると以下のようになります。
14.2%/1.52%= 9.3倍
ここには、
・全生活保護者に外国人が含まれていること。
・分子が世帯数比較、分母が人数比較であること。
・分母の調査日が異なること。
・世帯主が「韓国又は北朝鮮」籍の世帯にも日本国籍者が存在することを配慮すべきと考え、8倍の表現を使いました。
④世帯主が日本籍である場合の保護率(世帯)は、1,321,120世帯/51,158,359世帯= 2.6% であり、保護率(世帯)同士を比較せよという意見もあります(この場合は、5.5倍になる)。世帯主が日本国籍であるが、外国籍の家族がいる場合や、世帯主が外国籍であるが日本籍の家族がいる場合もあります。厚生労働省に国籍別の保護率(世帯ではなく、人を単位としたもの)を要求しましたが、提示できませんでした。厚労省は、国籍別の生活保護給付の状況を把握していません。把握もせずに、通知だけで外国籍所有者への給付を続ける厚生労働省の姿勢を問題視しています。
3.慰安婦問題について、「でっちあげ」と歌われていますが、ここでいう「でっちあげ」られている「慰安婦問題」とはどのような問題を意味していますか。そもそも「慰安婦問題」自体が存在しないという趣旨でしょうか。
回答:
まず、わが党は慰安婦という存在がいたことを認めるとともに、当時、様々な境遇の中で慰安婦という立場に身を置かれた方々が大変な苦労をされた事についても重々承知しております。公娼制度が認められていたとはいえ、多くの日本人及び外国人が慰安婦となったことは事実だと重く受け止めています。
一方、2014年8月5日、朝日新聞は、いわゆる慰安婦問題に関するこれまでの報道について、次の点について認めました。
①(日本の官憲が)慰安婦を強制連行したとする吉田清治証言を「虚偽だと判断」し、「記事を取り消し」た。
②女性を戦時動員した「女子勤労挺身隊」と慰安婦を同一視した記事の誤りを認めた。
③朝鮮や台湾では、「軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません」と認めた。
わが党はこの問題を以前より注視し、国会でも質問を行っていました。
そこで今回、慰安婦を強制連行したとする吉田清治証言を真実であるかのように報じたことや、女子勤労挺身隊を慰安婦と同一視したことなどを朝日新聞による「でっちあげ」とみなして、「慰安婦問題でっちあげ」という歌詞にしました。
4.慰安婦問題について「真相」がわかったと歌われていますが、ここでいう「真相」とはどのような事実を意味していますか。具体的な事実とその根拠をご説明ください。
回答:
ここでいう「真相」とは、2014年8月5日、朝日新聞がこれまでの、いわゆる慰安婦に関する記事のうち、①慰安婦を強制連行したとする吉田清治証言を「虚偽だと判断」し、「記事を取り消し」た、②女性を戦時動員した「女子勤労挺身隊」と慰安婦を同一視した記事の誤りを認めた、③朝鮮や台湾では、「軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません」と認めた――という事実を指しています。
北山(※書き起こしです。)(北山)
公開質問状 2015年1月29日
次世代の党 党首 平沼 赳夫 殿
在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 金 竜介
新春の候、貴党ますますご健勝のほどお喜び申し上げます。
私たち「在日コリアン弁護士協会」は、自らのエスニシティーがコリアにあると考える弁護士及び司法修習生で構成されている団体です。
さて、Youtube内に設けられた貴党のチャンネル上の「タブーブタ」と題する動画を拝見したところ、事実誤認が疑われる歌詞が見受けられましたので、その趣旨及び根拠を確認いたしたく、以下の点を質問いたします。
1 生活保護について、「日本の税金」「僕らの税金」を使うと歌われていますが、これは「日本人が納めている税金」という趣旨でしょうか。生活保護には、日本に住む外国人が納めた税金も使われていますが、「日本の税金」「僕らの税金」には「日本に住む外国人が納めている税金」も含まれていますか。正確な趣旨をご説明ください。
2 生活保護について、「外国人なぜ8倍」という歌詞がありますが、この「8倍」とは、どのような統計を比較して出されたものでしょうか。その根拠をご教示ください。
3 慰安婦問題について、「でっちあげ」と歌われていますが、ここでいう「でっちあげ」られている「慰安婦問題」とはどのような問題を意味していますか。そもそも「慰安婦問題」自体が存在しないという趣旨でしょうか。
4 慰安婦問題について、「真相」がわかったと歌われていますが、ここでいう「真相」とはどのような事実を意味していますか。具体的な事実とその根拠をご説明ください。
以上の質問について御回答いただきたく、お願いいたします。おって、御回答は、本年2月16日(月)までに当会代表金竜介宛てに御送付ください。
御多忙の折、お手数をおかけし誠に恐縮ですが、御協力の程、よろしくお願いいたします。
北山(※改行等修正を加えています。)
2014年11月30日
特定秘密保護法に反対する意見書
在日コリアン弁護士協会
第1 序論
1.はじめに
2013年12月6日、特定秘密の保護に関する法律(以下、「特定秘密保護法」という。)は参議院において強行採決の末、成立した。この法律については、すでに日本弁護士連合会など多数の個人、団体が様々な問題点を指摘しているところであるが、同法12条2項1号において「国籍(過去に有していた国籍を含む。)」が調査対象とされていることが問題視されていた。さらに、本年10月14日に閣議決定された「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的 な運用を図るための基準」(以下、「運用基準」という。)は、より詳細な外国との接点を尋ねる質問事項を定め、外国籍を有する者に対しては就職差別を公的に助長し、外国にルーツのある者に対しては公的に新たな差別を生じさせ、国際交流を行おうとする日本人に対してはこれを躊躇させるなど、多文化共生社会の実現という観点からとくに深刻な問題を含んでいる。このように問題の多い特定秘密保護法が施行されることに当協会は強く反対する。
2.これまでの日本の対外国人政策
日本は、1910年に韓国を併合し、朝鮮人に対し一方的に日本国籍を付与した。その後、日本政府の法務府民事局長通達によって、「サンフランシスコ講和条約が発効する1952年4月28日をもって、朝鮮人及び台湾人は、内地在住者も含めてすべて日本の国籍を喪失する」とされ、日本にいた約60万人の朝鮮人及び台湾人は一方的に日本国籍を奪われた。
その後、1965年の日韓条約、日韓法的地位協定によって韓国籍者のみに永住権が認められることになり、1991年の入管特例法によって戦前から在留する在日コリアン及びその子孫はすべて特別永住者の資格を有することになった。しかし、日本政府は一貫して、在日コリアンが存在するに至った歴史的経過を正しく教育する機会を設けることもなくその存在を無視し続け、在日コリアンを含む日本国籍を有しない外国人に対しては参政権を認める法律を制定することもなく、国家公務員をはじめとした公務就任も「当然の法理」を理由に制限するなど、日本国籍の有無によって多くの差別的な取り扱いを公認してきた。このような日本政府の姿勢は、未だに在日コリアンの存在の理由を知らず、偏見・蔑視の対象とする日本人が存在し、差別的な言動を発する一因となっている。そのため、在日コリアンに対する就職差別が現在もなお続いている。
他方、戦後、日本は朝鮮人や台湾人から一方的に日本国籍を奪ったものの、その後帰化手続きを経て日本国籍を取得した元外国人に対しては、父母が誕生時から日本国籍のみを保有していた者(あえてここではこのような者を「〈日本人〉」という。)との間に差異を設けず、法律上は平等に取り扱ってきたといえる。また、民間においても、在日コリアンに対し個人的には差別感・偏見を有している人がいたとしても、日本国籍を保有し、日本人と区別できない氏名を名乗っていれば、帰化した者も〈日本人〉と同様に扱われ、平穏な生活を送ることができていた。もちろん、内面的には複雑な感情を有していた者も多いと思われるが、このような表面上差別されない平穏な生活を望んで帰化した者は少なくない。帰化許可者数は、1970年代以降年間5000人~8000人規模で推移し、1993年以降は年間1万人を突破している(なお、この帰化許可者数は、すべての外国人の数である。)
3.運用基準の位置付けと意義
特定秘密保護法は、外国人や外国にルーツを持つ日本人など(ここではこれらをまとめて「外国系住民」という。)の権利利益を直接制限することを目的としてはいないように規定されている。しかしながら他方で、本法律では、運用基準にしたがって行われた適性評価が適正に行われているかどうかをチェックする仕組みを有しておらず、また、不適切に下された適性評価の評価結果について争う異議申立手続きも用意されていない。このような法制度としての不十分さに鑑みれば、適性評価は、必要最小限の評価項目に絞った質問を行い、これに対する回答について明確かつ客観的な基準に基づいて、公正・公平に行われるべきであるといえる。しかし、本運用基準における質問事項は、秘密の取扱いとの因果関係が不明であるにもかかわらず広範に外国との接点を尋ねるものが多いため、適合事業者が過剰に反応して、質問事項に少しでも触れる外国と接点のある従業員を最初から排除することになりかねず、結果としてすでに雇用されている者については昇進の機会が制限されたり、新規採用の際には就職を拒否されるなど外国系住民に対する差別を招くおそれがある。また、国家公務員志望者や政府と取引のある大企業への就職を希望する学生など、特定秘密を取扱う可能性のある日本人が外国との接点をなくそうとするおそれが生じる。
すなわち、今回の特定秘密保護法の運用基準によって、現在は労働基準法3条の下で公然とは行われていない国籍や民族による就職差別が、適性評価を理由に公然と認められかねない事態となりうる。また、帰化の有無が問題とされることで、就職や結婚の際に帰化について問題とされる事態が生じる可能性があり、これまで平穏に過ごすために帰化した者を、再度差別される側へと引き摺り戻すことにもなりうる。運用基準は、将来にわたって〈日本人〉とそうでない者とを公的に合理的理由なく区別し続け、社会に差別感情を醸成させるものなのであって、外国的住民の権利を侵害するものである。現在、在日コリアンが対象となっている、国際的にも批判されているいわゆるヘイトスピーチの問題が今なお未解決のまま残っているが、今回の運用基準によって、さらにその攻撃対象が帰化した者やその家族にも広がるおそれが高まったともいえる。
また、今回の運用基準案は、〈日本人〉に対しても、同居人や配偶者について、あるいは過去の職歴や活動内容を答えさせることにより、国際結婚はもとより、外国人と親しくなることにも不安を感じさせ、また、国際貢献などをも躊躇し国際交流を控える者が出てもおかしくないほど、外国との関係を執拗に尋ねている。外国と接点を持つ者が日本の秘密を漏えいするという因果関係はまったく無いにもかかわらず、このような外国と接点のある者はスパイと見做すかのような姿勢は、国際社会における日本人の信頼・信用性にも影を落とすものであるといえる
このようなすべての人に悪影響をもたらす外国に関する広範な質問を挙げている運用基準は、労働基準法3条のみならず、人種による差別を禁じた憲法14条、職業選択の自由を保障している憲法22条1項後段、自己実現のための活動の自由や情報のコントロール権を保障した憲法13条、婚姻の自由を定めた憲法24条1項、配偶者の選択に関して個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、法律は制定されなければならないと定めた憲法24条2項等との関係でも重大な問題を孕んでいる。その問題点を、以下具体的に指摘する。
第2 運用基準案の問題点
1.外国籍を有する者との関係
(1) 運用基準の質問票では、外国籍の現在または過去の保有の有無と国籍、保有期間(p52、1(10))について回答を求めている。なお、カッコ内のページ数は運用基準のページ数であり、番号は運用基準の「質問票(適性評価)」の質問の番号である(以下、同じ)。
(2) 外国籍を保有していたからといって秘密の取扱いに問題があるとされた実証データはなく、このような外国籍の有無を尋ねる質問事項は不要であるばかりか、市民に差別感を生じさせるものである。とくにこれは、外国籍保有者に対してだけでなく、それまで外国籍を意識していなかった事業者に対しても、外国籍の者を雇ったり秘密を取扱う可能性のある立場に昇進させる際に心理的障壁を設けるものであり、その影響は大きい。
また、これまで、公的には日本国籍があれば、外国籍を保有していても、日本社会において〈日本人〉との間で区別されることはなく、民間企業など一般社会の間でも外国籍の有無自体が問題とされることはほとんどなかったと思われる。しかし、今回の運用基準では、日本国籍の有無とは別に外国籍の有無を尋ねており、これをきっかけに、外国籍を有する日本人についても、区別の理由を与え、特定秘密の取扱いの場面だけでなく、適合事業者の新規採用や昇進の場面で別異取扱いの口実を与えることになる。
2.帰化した者との関係
(1) 運用基準の質問票では、評価対象者の帰化歴、帰化前の姓名を含む旧姓・通称を尋ね(p52、1(5)(9))、その配偶者(事実上婚姻関係にある者を含む)、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、配偶者の子、同居人についても、現在及び過去の外国籍の有無、帰化歴、通称の使用歴について回答を求めている(p55~62、2(1)(2)(3))。
(2) これらの質問事項は、すでに帰化して日本国籍をした者についても、秘密の取扱いについて躊躇させるものであり、帰化した者を家族に持つ者についても秘密漏えいの疑いの目を向けるものであるから、帰化した者自身はもちろん、帰化していない〈日本人〉であっても、帰化した者が家族になることを嫌がることが十分予想される。
これでは、外国籍では日本社会で生き難いと帰化を選択した者についても、再度外国人として社会の中の事実上の差別に晒されることになり、また、帰化を理由に婚姻や同居を拒否されることにもなりかねず、これまで〈日本人〉と同様に扱い差別から免罪してきた帰化した者に、日本社会で〈日本人〉と平等に生きる権利を奪うものである。
3.家族に対する影響
(1) 運用基準の質問票では、以下の事項について回答を求めており、これは本人についてのみならず、家族についても尋ねられている。
・本人の外国籍の有無(p52、1(10))(法制度により、婚姻によって自動的に国籍が付与される場合もある。)
・配偶者(事実上婚姻関係にある者を含む)、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、配偶者の子、同居人について、現在及び過去の外国籍の有無、帰化歴、通称の使用歴(p55~62、2(1)(2)(3))
(2) これらの質問事項は、前述の通り、外国籍の者や帰化した者との関係で重大な問題であるが、これらの者と同居・婚姻しようとする〈日本人〉にとっても、心理的な障壁となる。また、家族内で国際結婚して外国籍を取得する兄弟姉妹など、すでに形成されている家族間においても、その婚姻等について他の家族が拒否感を持ってしまう可能性もある。
このような上記の質問事項は、個人の自由として認められている婚姻への重大な侵害である。
4.国際交流をした、あるいはしようとする日本人との関係
(1) 運用基準の質問票では、以下の事項について回答を求めている。
・外国に所在地のある勤務先(p53、1(12)a)
・外国に所在地のある学校についての学歴(p54、(12)b)
・外国政府の関係機関の関係者との連絡・面会(p64、3(2))
・外国人に対する身元の保証、住居の提供、その他これらに類する援助の有無、内容、理由(p65、3(3))
・経済的な援助やそれ以外に便宜を図ったり、繰り返し飲食接待を行ったりすることにより、業務に影響を及ぼす可能性のある外国人の有無、関係の内容(p65、3(4))
・外国人から、助言・協力の依頼や、顧問就任の依頼といった何らかの依頼を受けたり、転職や仕事の誘いを持ちかけられたことの有無(p66、3(5))
・外国に所在する金融機関の保有口座の有無、預金金額(p66、3(6))
・外国に所在する不動産の保有の有無、理由(p66、3(7))
・外国政府機関から、教育、医療、社会福祉等に関し、何らかの給付(奨学金、年金等)や免除を受けたことの有無、内容(p66、3(8))
・海外渡航歴、居住歴(p68、3(10))
(2) これらの質問事項は、純粋に外国に関心を持ち、留学したり国際貢献の活動をしようとする〈日本人〉にとっても心理的な障壁となるものであり、外国人との交流を回避する事態を招くものである。上記の質問に対する回答を恐れて、これにまったく問題のない、つまり外国との一切の接点のない〈日本人〉が増えることになれば、日本国内において多文化共生が困難になることはもちろん、国際社会で活躍する日本人もいなくなるであろう。
第3 結語
以上述べたとおり、運用基準には、日本に暮らす外国人や国際的な活躍をしようとする日本人、またこれらの者と家族関係にある者、家族になろうとする者にとって、看過できないセンシティブな質問事項が多すぎる。これらの質問事項と適性評価の関連性も不透明であり、過去行われた情報漏えい事件においても外国人との関係が影響したことは実証されていない。それにもかかわらず、このような質問をすることによって、評価対象者(評価対象になりうる職業を希望する者も含む)だけでなく適合事業者にとっても、疑心暗鬼が生じて過剰に反応し、差別的取扱いが増えることは容易に予想できる。
日本政府は、このような差別社会を招かないよう、直ちに、このような運用基準を設けざるをえない特定秘密保護法自体を廃止すべきであり、法律の施行を延期することを強く求める。
以 上
北山(※改行等修正を加えています。)
LAZAK (Lawyers Association of Zainichi Koreans)
Press Release 2014.9.5
国連人種差別撤廃委員会、ヘイトスピーチ等に関して厳しい勧告
2014年8月20-21日、第85会期人種差別撤廃委員会において日本政府の報告書審査が行われた。審査に基づき、委員会は8月29日、日本が抱える様々な人種差別に関する課題について、最終所見を公表した (このうち、主として在日コリアンに関係する項目の和訳については後記1.参照。) 。
とりわけ、今般の審査において委員の間で注目されたのは、在日コリアンをはじめとするマイノリティに対するヘイトスピーチの問題であった。なお、2014年7月15-16日、第111会期自由権規約委員会において行われた日本政府の報告書審査においても、ヘイトスピーチの問題は強い関心を持って審査され、後記2.のとおりの勧告がなされたところである。
審査において、日本政府は、特定の人や集団に向けられたヘイトスピーチが名誉毀損や脅迫にあたる場合などには、現行法の下でも民事責任と刑事責任を問うことは可能であるが、それ以外の場合には表現の自由の観点からヘイトスピーチに対して規制を行うことは難しいとの見解を示した。これに対し、複数の委員から、 排外主義団体によるデモ行進等におけるヘイトスピーチに対する規制の不備について懸念が示された。最終所見においても、ヘイトスピーチが適切に捜査・起訴されていないことに懸念が表明され、日本政府はヘイトスピーチと闘うために適切な措置をとるよう勧告されている。
この他、最終所見においては、(i)在日コリアン高齢者及び障害者の国民年金制度からの排除、(ii)外国人の公務就任における制限、及び、(iii)朝鮮学校の高校無償化制度からの除外に関しても勧告がなされている。
在日コリアン弁護士協会(LAZAK)の各会員は、ひろく日本国内における民族的・人種的マイノリティの権利を擁護するための活動を行ってきた。また、LAZAKは、委員会における審査に先立ち、ヘイトスピーチ、在日コリアンの無年金問題、外国籍者の公務就任権、及び朝鮮学校の高校無償化除外に関する別紙記載の報告書を委員会に提出している。今回の最終所見は、 人種差別撤廃条約上の規定にもとづく厳正な審査のうえで表明されたものであり、LAZAKとしてはこれに歓迎の意を表する。
LAZAKとしては、日本政府が今般の委員会の勧告を真摯に受け止め、日本社会に蔓延する人種差別と排外主義の撤廃に向けた効果的な対策を実施することを強く求めるものである。
記
1. 第85会期人種差別撤廃委員会最終所見抜粋(2014.8.29)
◆人種差別を禁止する包括的な特別法の不在
8.委員会は、いくつかの法律が人種差別に対する条文を含んでいることに留意しつつも、締約国において人種差別行為や人種差別事件が起き続けていること、および、被害者が人種差別に対し適切な法的救済を求めることを可能とする包括的な人種差別禁止特別法を未だ締約国が制定していないことについて、懸念する(第2条)。
委員会は、締約国に対して、人種差別の被害者が適切な法的救済を求めることを可能とし、条約1条および2条に準拠した、直接的および間接的な人種差別を禁止する包括的な特別法を採択するよう促す。
◆4条に準拠した立法措置
10.締約国の4条(a)(b)項の留保の撤回あるいはその範囲の縮減を求めた委員会の勧告に関して締約国が述べた見解および理由に留意するものの、委員会は締約国がその留保を維持するという決定を遺憾に思う。人種差別思想の流布や表明が刑法上の名誉毀損罪および他の犯罪を構成しうることに留意しつつも、委員会は、締約国の法制が4条のすべての規定を十分遵守していないことを懸念する(第4条)。
委員会は、締約国がその見解を見直し、4条(a)(b)項の留保の撤回を検討することを奨励する。委員会は、その一般的勧告15(1993年)および人種主義的ヘイト・スピーチと闘うことに関する一般的勧告35(2013年)を想起し、締約国に、4条の規定を実施する目的で、その法律、とくに刑法を改正するための適切な手段を講じるよう勧告する。
◆ヘイト・スピーチとヘイト・クライム
11.委員会は、締約国における、外国人やマイノリ ティ、とりわけコリアンに対する人種主義的デモや集会を組織する右翼運動もしくは右翼集団による切迫した暴力への煽動を含むヘイト・スピーチのまん延の報告について懸念を表明する。委員会はまた、公人や政治家によるヘイト・スピーチや憎悪の煽動となる発言の報告を懸念する。委員会はさらに、集会の場やインターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチの広がりと人種主義的暴力や憎悪の煽動に懸念を表明する。また、委員会は、そのような行為が締約国によって必ずしも適切に捜査や起訴されていないことを懸念する。(第4条)
人種主義的ヘイト・スピーチとの闘いに関する一般的勧告35(2013年)を思い起こし、委員会は人種主義的スピーチを監視し闘うための措置が抗議の表明を抑制する口実として使われてはならないことを想起する。しかしながら、委員会は締約国に、人種主義的ヘイト・スピーチおよびヘイト・クライムからの防御の必要のある被害をうけやすい集団の権利を守ることの重要性を思い起こすよう促す。したがって、委員会は、以下の適切な措置を取るよう勧告する:
(a) 憎悪および人種主義の表明並びに集会における人種主義的暴力と憎悪に断固として取り組むこと、
(b) インターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチと闘うための適切な手段を取ること、
(c) そうした行動に責任のある民間の個人並びに団体を捜査し、適切な場合は起訴すること、
(d) ヘイト・スピーチおよび憎悪扇動を流布する公人および政治家に対する適切な制裁を追求すること、そして、
(e)人種主義的ヘイト・スピーチの根本的原因に取り組み、人種差別につながる偏見と闘い、異なる国 籍、人種あるいは民族の諸集団の間での理解、寛容そして友好を促進するために、教授、教育、文 化そして情報の方策を強化すること。
◆市民でない者の公職へのアクセス
13.委員会は、締約国代表団により提供された説明に留意しつつ、国家権力の行使を必要としない一部の公職へのアクセスについて、市民でない者が制限と困難に直面していることを懸念する。委員会は、家事紛争を解決する裁判所において、締約国が、能力のある市民でない者を調停委員として活動することから除外する見解と実務的取扱いを継続していることに、特に懸念する(第5条)。
委員会は、市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30(2004年)を想起し、締約国に対して、家事紛争を解決する裁判所において能力のある市民でない者が調停委員として活動できるよう、締約国の見解を見直すことを勧告する。委員会はまた、締約国が、締約国に長年にわたり暮らしてきた市民でない者に適切な注意を払いつつ、国家権力の行使を要しない公務へのアクセスを含む公的生活に市民でない者の参加がより一層促進されるよう、法律上または行政上の制限を取り除くことを勧告する。委員会は、さらに、締約国が次回定期報告において、市民でない者の公的生活への参画に関して、包括的で細分化されたデータを提供することを勧告する。
◆国民年金制度への市民でない者によるアクセス
14.国民年金法が国籍に関係なく日本に居住するすべての人びとを対象とすることに留意しつつ、委員会は、1982年の国民年金法からの国籍条項の削除および1986年の法改正により導入された年齢および居住要件が相まって、1952年に日本国籍を喪失したコリアンを含む多くの市民でない者が、国民年金制度のもとで排除され、年金受給資格を得られないままとなっていることについて懸念する。委員会はまた、1982年の国民年金法の障害基礎年金における国籍条項の削除にもかかわらず、国籍条項のために1982年1月1日以前に年金受給資格を喪失した市民でない者および同日時点で20歳以上であったその他障害のある市民でない者についても、障害基礎年金受給から排除されたままであることについても懸念する(第5条)。
市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30 (2004年)を想起しつつ、委員会は、年齢要件によって国民年金制度から除外されたままの状態にある市民でない者、特にコリアンが、国民年金制度における受給資格を得られるための措置を講じることを締約国に勧告する。委員会はまた、現時点で受給資格のない市民でない者が障害基礎年金の適用を受けられるよう法を改正することも勧告する。
◆朝鮮学校
19.委員会は、朝鮮を起源とする子どもたちの下記を含む教育権を妨げる法規定および政府による行為について懸念する。
(a)「高校授業料就学支援金」制度からの朝鮮学校の除外
(b)朝鮮学校へ支給される地方政府による補助金の凍結もしくは継続的な縮減(第2条と第5条)
市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30(2004年)を想起し、委員会は、締約国が教育機会の提供において差別がないこと、締約国の領域内に居住する子どもが学校への入学において障壁に直面しないことを確保する前回総括所見パラグラフ22に含まれた勧告を繰り返す。委員会は、朝鮮学校への補助金支給を再開するか、もしくは維持するよう、締約国が地方政府に勧めることと同時に、締約国がその見解を修正し、適切な方法により、朝鮮学校が「高校授業料就学支援金」制度の恩恵を受けられるよう奨励する。委員会は、締約国がユネスコの教育差別禁止条約(1960年)への加入を検討するよう勧告する。
2.第111会期自由権規約委員会最終所見抜粋(2014.7.24)
◆ヘイト・スピーチと人種差別
12.委員会は、朝鮮・韓国人、中国人および部落民などのマイノリティグループの構成員への憎悪および差別を扇動している広範囲に及ぶ人種主義的言説と、これら行為に対する刑法および民法上の保護の不十分さに懸念を表明する。委員会はまた、頻繁に行われている許可を受けた極端論者のデモ、外国人の生徒・学生を含むマイノリティに対する嫌がらせと暴力、並びに民間の施設や建物での“ジャパニーズ・オンリー(日本人以外お断り)”などの看板・貼り紙の公けの表示について懸念を表明する。(規約第2条、19条、20条、27条)
締約国は、差別、敵意あるいは暴力の扇動となる人種的優越あるいは憎悪を唱える全てのプロパガンダを禁止し、そのようなプロパガンダを広めるためのデモを禁止するべきである。締約国はまた、人種主義に対する意識高揚活動のために十分な資源を割り当て、裁判官、検事および警察官が、ヘイトクライムや人種主義的動機による犯罪を発見する力をつける訓練を確実に受けるよう取り組みを強化するべきである。締約国はまた、人種主義者の攻撃を防止し、加害者とされる者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合は適切な制裁をもって処罰されることを保証するためにすべての必要な措置をとるべきである。