北山特集在日コリアン弁護士協会③
橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)の「慰安婦」発言に対する抗議及び謝罪要求声明
橋下徹氏(大阪市長・日本維新の会共同代表・弁護士)は、旧日本軍の「慰安婦」制度について、「あれだけ銃弾が飛び交う中、精神的に高ぶっている猛者集団に休息を与えようとすると、慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる。」、「軍を維持し、規律を保つために、当時は必要だった。」などと述べた。
しかしながら、そもそも、日本の多数の裁判例においても事実として認定されているとおり、「慰安所」の開設は、旧日本軍当局の要請に基づくものであり、その目的は、旧日本軍占領地域内において、日本軍人による住民婦女子に対する強姦等の凌辱行為が多発したところ、これによる反日感情が醸成されることを防止する高度の必要性があったこと、性病等の蔓延による兵力低下を防止する必要があったこと、軍の機密保持・スパイ防止の必要があったことにある。
すなわち、「慰安所」開設の直接の目的は、「強姦等の凌辱行為の防止」自体ではなく、あくまでも、「反日感情の醸成の防止」や、「戦力低下防止・機密保持・スパイ防止」などにあった。そしてこのような目的達成の手段として採用されたのが「慰安所」の設置であった。このような目的、そして手段の非人道性、非倫理性こそが問題とされている。
「慰安婦」には、13歳から19歳程度の多くの朝鮮人の少女たちが含まれていた。少女たちは、日本による就業詐欺、甘言、暴力的方法、人身売買などの方法によって「集め」られた。
日本政府は、植民地下の朝鮮において義務教育を最後まで実施しなかった。例えば朝鮮人女子の公立普通学校についての完全不就学率は1940年ころでも約70パーセントと高く、「慰安婦」とされたほとんどの少女たちは十分な教育を受けることができなかった。そのような少女たちを、就業や就学、その他甘言を弄して、また、暴力的方法、人身売買などの方法で「集め」、遠く中国や東南アジア諸国などまで連れて行き、「慰安所」に置き、旧日本軍の「慰安婦」たらしめたのである。当然、「慰安所」から脱出することなど不可能であった。
そして、「慰安婦」たちは戦争終結まで、ほぼ連日、多数回の性交を強要された。「慰安婦」とされた女性たちは単なる性交、単なる性的欲望解消の手段として扱われた。まさに「性奴隷」ともいうべき実態であった。そして、旧日本軍の敗戦後、「慰安婦」らの多くは現地に置き去りにされ、その後も悲惨な被害の実態を長らく訴えることさえできなかった。
橋下徹氏は、「意に反して慰安婦になった方には配慮しなければならない」とも発言したとされるが、「慰安婦」問題の核心は、「意に反して慰安婦とされた女性(少女)がほとんどであった実態」や、「人間を施設の必需の備付品のように扱った実態」にある。国家が人間の尊厳を侵して「モノ」として扱う制度を置いたことこそが最大の問題とされているのである。
また、橋下徹氏は「軍や政府が国を挙げて慰安婦を暴行脅迫拉致したという証拠が出れば、日本国として反省しないといけないが、今のところはそういう証拠はないと政府が閣議決定している。」などとも発言したとされるが、そもそも上記のような「慰安婦」問題の本質を理解しないものであることに加え、甘言・暴力的方法等により「慰安婦」が集められたことを事実認定している過去の多数の裁判例やそれを支える多くの証言をも無視し、歪曲するものというほかない。
国連人権基本条約のうちの一つである女性差別撤廃条約は、その前文で、女性に対する差別が権利の平等の原則及び人間の尊厳の原則に反するものであること、そして、アパルトヘイト、人種主義、人種差別、植民地主義、侵略などの根絶が男女の権利の完全な享有に不可欠であるとの普遍的原理を宣言している。
今回の橋下徹氏の発言に対して、諸外国から多くの非難がなされているのは、まさに「慰安婦」制度が女性の尊厳を踏みにじるものであり、同条約の依拠する普遍的原理に反するものであると国際的にも認められているからであり、このような発言は、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたい」とする日本国憲法の理念にも背くものである。
橋下徹氏の発言は、地方自治体の首長であり、かつ、政党の共同代表という公人として、日本の朝鮮半島に対する植民地支配下の歴史的事実をも歪曲するものであり、加えて、「慰安婦」とされた女性の尊厳を深く傷つけるのみならず、すべての女性を蔑視するものである。
われわれ在日コリアン弁護士協会は、橋下徹氏の一連の発言に強く抗議するものであり、直ちにその発言を撤回したうえ、「慰安婦」とされたすべての女性に対して謝罪することを強く求める。
以上
2013年5月17日 在日コリアン弁護士協会
北山(※改行等修正を加えています。)(北山)
「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置を定める政令案等」 に対する意見 (パブリ ックコメント)
2011年11月25日
在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 殷勇基
第1 通称名の記載に関する意見
1 意見の趣旨
在留カード及び特別永住者証明書の氏名欄に、 通称名の併記を可能とする旨の規定を、改正入管法及び改正入管特例法の施行規則に追加すべきである。
2 意見の理由
(1) 関連の各規定等
改正入管法及び改正入管特例法には、在留カード及び特別永住者証明書に氏名を記載するとの規定があるが、 通称名の記載について定めた規定はなく、法律に規定があるもの以外の在留カード及び特別永住者証明書の様式、表示すべきもの及び必要な事項についての定めは法務省令に委任することとされている (改正入管法19条の4第1項及び第4項並びに改正入管特例法8条1項及び4項参照) 。
委任を受けて法務省が作成 ・公表した改正入管法及び改正入管特例法の施行規則案にも通称名の記載について定めた規定はない。 この点、 法務省は、①通称名は公正な在留管理に必要な情報ではない、 ②住民行政サービスに必要な情報は外国人に係る住民基本台帳制度において保有されることとなる、といった理由で、在留カード及び特別永住者証明書に通称名を記載しないことを予定しているとの考えを示しており (同省の2010年8月31日付け 『 「在留カード及び特別永住者証明書の仕様について」 に関する意見募集の結果について』 と題する文書) 、 改正入管法及び改正入管特例法の施行規則案に通称名の記載についての規定がないのはこの考えに沿ったものと思われる。
しかしながら、通称名を在留カード及び特別永住者証明書に併記することを可能とする旨の規定を、改正入管法及び改正入管特例法の施行規則に追加すべきである。 その理由は以下のとおりである。
(2) 在日コリアンに生じうる社会生活上の重大な支障
相当数の在日コリアンが、 日本社会の中で生活する上で、 長年にわたり、 自己を識別し特定するための氏名として通称名を使用してきたことは、 公知の事実である。
このような者らは、 銀行口座の開設や各種契約の締結等の取引行為を通称名において行っており、 また、 不動産登記簿や会社登記簿等の公的記録上の氏名としても通称名を使用している。
ところで、 在留カードまたは特別永住者証明書は、 新制度のもとにおいても、 外国人の身分関係についての重要な公証手段であり社会生活の様々な場面で提示・利用されることが想定されるところ、仮に、これらのカード・証明書に通称名の記載が認められなければ、通称名を氏名として使用している者に、 社会生活上重大な支障が生じることは容易に想定される。
このような重大な支障を回避するためには、 在留カード及び特別永住者証明書に通称名の併記を認めることが必要である。
(3) 法的保護に値すること
通称名も、 使用実態があり社会的に定着したものは、 氏名と同じく個人を識別し特定する機能を有する。 前述のとおり、 在日コ リアンを中心とする相当数の外国人が通称名を使用して社会生活を営んできたことはよく知られているところであり、 かかる外国人の通称名は、 個人の人格を表象するものとして法的な保護を受けるに値する。
現に、 従前の外国人登録実務においては、「通称名は、法律的にみて正式な氏名ではないが、 我が国に長年居住し通称名を用いて取引その他に従事する外国人の便宜を図って、登録事項ではないものの特に登録原票、登録証明書に記載することを認められてい」た。(外国人登録事務協議会全国連合会法令研究会編著 『新版外国人登録事務必携』 日本加除出版、 1988年、 30頁) 。
また、改正後の住民基本台帳制度に関し、総務省は、通称名については立証資料により使用実態が確認できれば外国人に係る住民票等の備考欄に記載する運用を可能とすると公表している (同省の2010年1月作成 「外国人住民に係る住民登録業務のあり方に関する調査研究」の最終報告) 。
なお、社会生活上の必要性という観点においては、 住民票の記載では足りず、 公証手段としての提示 ・ 利用の機会が多い在留カー ド及び特別永住者証明書上も、通称名の記載が認められなければならないから、 法務省においても、 総務省と同様、 通称名の記載を認める方向で制度設計を行うべきである。
(4) 結論
以上のように、 通称名の併記を認めないことで、 在日コリアンらに社会生活上の重大な支障が生じることは回避されなければならず、また、通称名を使用して社会生活を営んできた在日コリアン等外国人にとって、通称名は、個人の人格を表象するものとして法的な保護を受けるに値する。
よって、 在留カード及び特別永住者証明書の氏名欄に、 通称名の併記を可能とする旨の規定を、改正入管法及び改正入管特例法の施行規則に追加すべきである。
なお、 施行令等に明文の規定のないまま運用によって記載を可能とするだけでは、 運用変更吹第で通称名の公証手段が失われ、 事実上通称名が使用できなくなることにもなりかねず、 法的安定性に欠け、通称名を使用する在日 コ リアン等の生活が脅かされる危険があるから、 施行規則に明文を設けるべきである。
第2 在留カード及び特別永住者証明書の携帯及び提示義務に関する意見
1 意見の趣旨
中長期在留者に対する在留カードの常時携帯義務および提示義務、ならびに、特別永住者に対する特別永住者証明書の提示義務を定める改正入管法及び改正入管特例法の各規定は、 立法により削除されるべきである。
現行法のもとにおいても、 上記各義務の違反を理由とする警察権等の行使は、 事実上停止されるべきである。
2 意見の理由
(1) 中長期在留者に対する在留カードの常時携帯義務および提示義務
改正入管法では、中長期在留者に対する在留カードの常時携帯義務および提示義務が引き続き規定され、これらの義務違反については刑事罰が規定されている (改正入管法23条、75条の2、75条の3) 。
その理由は、不法入国者や不法残留者が多数存在している状況の下では、 本邦に在留する外国人の身分関係、 居住関係、 在留資格の有無およびその内容等を即時的に把握し得ることが必要であるから、 とされる。 しかし、 不法入国者や不法残留者の検挙を目的と して、中長期在留者に対しそのような重大な義務を課すことに、果たしてどれほどの合理性が認められるのか甚だ疑問である。 外国人の身分関係、居住関係、在留資格の有無およびその内容等の把握は、 一般の犯罪検挙時と同様、 本人または関係者に対する質問や他の身分証の任意提示、 関係機関への照会等によっても十分に可能であり、 不法入国者や不法残留者の検挙という 目的は、永住者を含む全ての中長期在留者に対し在留カードの携帯を義務づけることを正当化する事情とはなりえない。 中長期在留者に対して一津、 刑事罰を伴う形で常時携帯義務および提示義務を認すことは、 明らかに過度で広範な規制である。
この点、1998年11月19日付けで出された国連自由権規約人権委員会による日本政府に対する勧告では、 外国人永住者が登録証明書を常時携帯しないことを犯罪とし刑事罰を課す外国人登録法について、 自由権規約第2 6条に適合しない、 そのような差別的法律は廃止されるべきである、 との見解が表明されている。 それにもかかわらず、今回の改正で、 依然、 永住者を含む全ての中長期在留者に対する常時携帯義務を残存させたことは、外国人に対してのみ過度な負担を課すものとして、 自由権規約第2 6条等に違反するものであるといわざるをえない。 勧告を受け改正作業も行っているにもかかわらず、 常時携帯義務を残存させた日本政府の姿勢に対して国際的非難が向けられることは避けられない。
以上の理由により、立法論としては、中長期在留者に対し一律に在留カードの常時携帯義務および提示義務を課す規定およびこれらの違反に対する罰則規定は、 直ちに見直されるべきである。
そして、 現行法のもとにおいても、 上記各義務の違反を理由とする警察権等の行使は事実上停止されるべきである。
(2) 特別永住者に対する特別永住者証明書の提示義務
他方で、改正法において、特別永住者に対しては、旅券および特別永住者証明書の常時携帯義務は削除されたが、特別永住者証明書の提示義務は残存されることとなった (改正入管特例法17条2項および4項) 。 そして、 この提示義務に反し提示を拒否した場合、1年以下の懲役または2 0万円以下の罰金という罰則が定められている (改正特例法31条)。
常時携帯義務は廃止されたにもかかわらず、提示義務が残ることになった理由について、立法担当者は、 不法講帯在者が多数存在する状況においては、 日本に在留する特別永住者についても、 他の外国人と同様に、 その身分関係等を即時的に把握する必要が生じる場合があるから、と説明している。そして、 携帯していないときに提示を求められた場合の取り扱いとして、 特別永住者が特別永住者証明書を取り寄せ、 または同証明書が保管されている場所まで赴くなどして提示する、 などが指摘されている。
しかし、 「提示を受ける」 ことを根拠に、 警察官等が自宅等の保管場所まで同行することが正当化されるのであれば、 特別永住者の生活の平穏が著しく害される。 特別永住者が、このような事態を回避するために特別永住者証明書の携帯を強いられるのだとすれば、実質上、特別永住者に特別永住者証明書の常時携帯義務を課していることに他ならない。 かかる事態は、 自由権規約第2 6条にも実質上違反するものである。
以上のとおり、 特別永住者に対し、 罰則を伴って提示義務を残存させることの合理性は見出せず、 今回の改正にあたり、 日本政府が、 特別永住者の歴史的経緯およびその定着性を考慮して常時携帯義務を廃止したのであれば、 これと同じく提示義務も廃止されるべきである。
そして、 現行法のもとにおいても、 提示義務の違反を理由とする警察権等の行使は事実上停止されるべきである。
第3 みなし再入国許可制度に関する意見
1 意見の趣旨
在留カード ・ 特別永住者証明書の 「国籍 ・ 地域」欄の記載が 「朝鮮」の者を含め、全ての在日コリアンを、みなし再入国許可制度の対象とするべきである。
2 意見の理由
(1) 「有効な旅券」 の所持がみなし再入国許可の要件とされていること
新法で新たに導入された 「みなし再入国許可」 は、「有効な旅券を所持すること」をその要件としている (改正入管法26条の2) 。
しかし、在日コリアンの中には、様々な理由から、本国の旅券を取得せず、再入国許可書 (改正入管法2 6条) の発給を受けてこれを事実上の旅券として海外渡航を行っている者が多数存在する。 例えば、 在留カー ド ・ 特別永住者証明書の 「国籍 ・ 地域」 欄の記載が「朝鮮」 の者 (以下、「朝鮮表示者」という。) は、 現状、韓国政府が、 朝鮮表示者に対する韓国旅券の発行に原則、 応じておらず、 その結果、 韓国の旅券を取得できないため、実務上取得しうる 「本国の旅券」 は北朝鮮 (朝鮮民主主義人民共和国) の旅券 (以下 「北朝鮮旅券」 という。 ) しかない。
ところが、 施行令案は、 改正入管法2条5号口の地域として、従前とおり、台湾、パレスチナのみを定め、 北朝鮮を除外しており (第1条) 、 同条の 「旅券」 に北朝鮮旅券は該当しない。 このこともあって、 朝鮮表示者は、みなし再入国許可制度の対象とされていない。
(2) 再入国許可制度自体の問題性
そもそも、 永住者の居住国に帰る権利を認めなかった従前の再入国許可制度については国際社会からの批判が強く、 例えば、 自由権規約委員会が1998年11月6日に発表した日本政府報告書に対する最終見解は、 第18項で、「委員会は、 締約国に対し、 『自国』という文言は、『自らの国籍国』 とは同義ではないということを注意喚起する。 委員会は、従って、 締約国に対し、 日本で出生した韓国 ・ 朝鮮出身の人々のような永住者に関して、出国前に再入国の許可を得る必要性をその法律から除去することを強く要請する。 」 と指摘していた。 今般の法改正によりみなし再入国許可制度が設けられたのは、 かかる批判を受けたものと考えられる。
かかる観点からは、 朝鮮表示者を含む全ての在日コリアンが、 最優先でみなし再入国許可制度の対象とされるべきである。
(3) 改正入管特例法の趣旨及び再入国許可書所持者の実態
また、 朝鮮表示者は、ほぼ全てが終戦前から日本に居住する者及びその子孫であり、一般の中長期在留者に比しても格段に日本社会との繋がりは深く、この者らを一律にみなし再入国許可制度の対象から排除することは、「法務大臣は、特別永住者に対する入管法第2 6条及び前項において準用する入管法第2 6条の2の規定の適用に当たっては、 特別永住者の本邦における生活の安定に資するとのこの法律の趣旨を尊重するものとする」(改正入管特例法2 3条3項) と規定する改正入管特例法の趣旨にも反する。
さらに、立法担当者の解説によれば、「中長期在留者については、 今回の改正により、在留状況の正確な把握が可能となり、 再入国許可申請を行わせることによって在留状況を確認する必要性が減殺されることから、 みなし再入国許可制度を導入することが可能となった」 という (山田利行ほか「新しい入管法‐2009年改正の解説」 (有斐閣) 80頁)。そうであれば、 朝鮮表示者は、そのほとんどが特別永住者であって、他の中長期在留者と同様、 改正法のもとで 「在留状況を正確に把握」 されるのであり、 みなし再入国許可制度から除外する合理的理由は存在しない。
(4) 結論
以上のとおり、 朝鮮表示者などについて、 有効な旅券を所持していないという形式的な理由でみなし再入国許可制度から除外することは、 制度導入の趣旨に反するものであり、かつ、合理的理由のない差別的取扱いとして、 憲法14条に反する疑いすらある。
よって、これらの者を含む全ての在日コリアンをみなし再入国許可制度の対象とするよう、 関連の政省令等を整備すべきである。
以上
北山(※改行等修正を加えています。)(北山)
申入書 2011年6月14日
厚生労働大臣 細川 律夫 様
在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 殷 勇 基
私たち在日コリアン弁護士協会 (略称LAZAK ;Lawyers association of ZAINICHI Korean) は, 日本の弁護士資格を有する在日コリアンの団体であり, 在日コリアンをはじめとするマイノリティの人権擁言葉を目的の一つとして2 0 0 2年に設立されました。 現在, 韓国表示, 朝鮮表示, 日本国籍を有する弁護士8 7名の会員で構成しています。
さて, 在日コリアンをはじめとする定住外国人が日本のホテル・旅館等を利用する際, ホテル・旅館等の宿泊業者から外国人登録証明書の提示を求められ,提示しない場合に,ホテル・旅館等の利用を拒まれる事案の存在が相当数, 報告されています。 そこで, この問題に関して, 貴職に対して, 下記のとおり申し入れます。
(申入れの趣旨)
定住外国人が, ホテル, 旅館等の宿泊施設に宿泊する際, 外国人登録証明書(2 0 1 2年7月までに予定されている改正入管法, 改正入管特例法の施行後は, 在留カード及び特別永住者証明書。 以下同じ。) の提示をする必要はないこと, 従ってまた, 外国人登録証明書の不提示を理由とする宿泊拒否ができないことについて, 都道府県知事等関係首長並びに関係団体及び旅館業者等へ周知を図ってください。 また, 必要であれば実情を調査し, その他, 不当な提示要求, 宿泊拒否が行われないようにするための必要な措置を取ってください。
(申入れの理由)
1 定住外国人が日本のホテル・旅館等を利用する際, 宿泊業者から外国人登録証明書の提示を求められ, 提示しない場合に, ホテル・旅館等の利用を拒まれる事案の存在が相当数, 報告されています。
2 在日コリアンをはじめとする定住外国人は, 日本国籍を有していませんが,特別永住, 一般永住等, 日本に定住する権利を保持し, 日本に住所・生活の基盤を有しており, 現在220万人以上の定住外国人が日本で生活しています。
3 ところで, 旅館業法第6条1項, 旅館業法施行規則第4条の2により, 日本国内に住所を有しない外国人には宿泊の際に国籍, 旅券番号を告げる義務が課されています。 しかし, ここで国籍, 旅券番号を告げる義務が課されているのは, 「日本国内に住所を有しない外国人」 です。 定住外国人は日本国内に住所を有しているので, 国籍及び旅券番号を告げる義務はありません。 従って,上記法令は宿泊の際に外国人登録証明書の提示を定住外国人に求める根拠にはなりません。
4 また, 外国人登録法は, 「外国人は, 入国審査官, 入国警備官, 警察官,海上保安官その他法務省令で定める国又は地方公共団体の職員がその職務の執行に当たり登録証明書の提示を求めた場合には, これを提示しなければならない。」 と規定しています (同法13条1項)。 しかし, ホテル・旅館等の宿泊業者が, 「その他法務者令で定める国又は地方公共団体の職員」 に該当しないことは明らかですから, 同法を根拠としても, ホテル・旅館等の宿泊業者が外国人登録証明書の提示を求めることはできません。
5 加えて, 外国人登録法自体,その一部規定について差別的であることを理由に国連から廃止を勧告されている法律であること (そして, 改正入管特例法においてその趣旨が一部, 現に採用されるに至ったこと) にも留意する必要があると考えます。
すなわち,外国人登録法は, 日本に在留する外国人に対して, 外国人登録証明書の常時携帯義務を課し (13条1項), 警察官等が外国人登録証明書を求めた場合の提示義務を規定し(同条2項), 外国人がこれを拒絶した場合の罰則を定めていますが (18条1項1号), 国連・ 自由権規約委員会は, 永住外国人に刑罰をもって外国人登録証明書の常時携帯を強制することは, 同規約26条 (法の前の平等・法律の平等な保護を受ける権利)に合致しない差別的制度であるとして, 日本政府による第3回政府報告書に対する最終見解以降, その廃止を繰り返し, 勧告しています。 そして, 2012年秋ころ施行予定とされる改正入管特例法において, 特別永住者については, 特別永住者証明書の常
時携帯義務が撤廃されたところです。
6 さらに, 外国人登録証明書には, 氏名,住所, 生年月日の他, 外国人登録番号, 在留資格が記載され,顔写真が添付されており, 極めて高度な個人情報が記載されています。 よって, 不必要な開示により個人情報や, プライバシーに関する権利・利益の侵害が起こることがないよう十分な配慮が必要であることも言うまでもありません。
7 なお,以上については, 「旅館業法施行規則の一部を改正する省令の施行について」 (平成17年2月 9 日健発第0209001号。 各都道府県知事・各政令市市長 ・ 各特別区区長あて厚生労働省健康局長通知) も, 「本改正により営業者が実施すべき事項」 と して, 「改正規則施行後においては, 宿泊者が自らの住所として国外の地名を告げた場合, 営業者は, 当該宿泊者の国籍及び旅券番号の申告も求めることとする」,「本改正によ り宿泊者名簿に国籍及び旅券番号の記載をすることとなる宿泊者に対しては, 旅券の呈示を求める」 とのみしているところです。
8 以上によれば, 法令の根拠なく, 外国人登録証明書の提示を求め, 提示がない場合に利用を拒むことや,そのような実情があるのに, (是正のための方策もとられず漫然と放置されているようなことがもしあれば) 状況が放置されていることは, 法的にも大いに問題であるというほかありません。
9 しかるに, 前記のとおり, 定住外国人が外国人登録証明書の提示を求められ, 提示しない場合に, 利用を拒まれる事案の存在が相当数, 報告されています。 そこで, 定住外国人が, ホテル, 旅館等の宿泊施設に宿泊する際, 外国人登録証明書の提示をする必要はないこと, 従ってまた, 外国人登録証明書の不提示を理由とする宿泊拒否ができないことについて, 都道府県知事等関係首長並びに関係団体及び旅館業者等へ周知を図る必要があると思料します。 また,必要であれば実情を調査し, その他, 不当な提示要求, 宿泊拒否が行われないようにするための必要な措置を貴職において取られる必要があると考え, 本申入れに至ったものです。
10 なお, 2012年7月までに予定されている改正入管法, 改正入管特例法の施行後は, 上記の趣旨が, 改正法に基づく在留カード及び特別永住者証明書についても妥当すべきであることは言うまでもありません。 したがって, これら証明書についても同様の措置が取られる必要があると考えます。
以上
北山(※書き起こしです。これが最後の一番古いものです。一応、この後最新の3つについて改行等修正したものを投稿します。延坪島砲撃事件を「北朝鮮による砲撃という政治的事件」とか、「弁護士が殺害されるという重大な業務妨害事件」というのもそうですが、すごい迷言です。)(北山)
声明 2010年12月3日
在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 殷 勇基
在日コリアン弁護士協会(会員弁護士85名)は、本年6月2日、文部科学大臣に対し、朝鮮学校を、公立高等学校の授業料無償化・高等学校等就学支援金制度(高校無償化制度)の対象とする告示を行うこと、及び制度発足当初に遡及して就学支援金を支給することを求める意見書を提出しました。
その後、8月31日、高等学校の課程に類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準等について、高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議から「個々の具体的な教育内容については基準としない」とする報告がなされました。これを受けた適用基準が11月5日には文部科学大臣から発表され、日本国内のすべての朝鮮学校が同基準に当てはまる見通しであったと思われます。
しかしながら、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が大韓民国(韓国)・大延坪島を砲撃したことを受けて、11月24日、内閣総理大臣は高校無償化制度の審査手続きを停止するよう文部科学大臣に指示し、文部科学大臣は25日、当面、手続きを停止することを正式に表明しました。従って、今回の審査手続き停止は、北朝鮮による砲撃という政治的事件を考慮した、政治的な決定です。
高校無償化制度は、理想のための制度です。社会全体で子どもたちの学びを支える、家庭の状況にかかわらず、すべての意志ある高校生が、安心して勉学に打ち込める日本社会をつくる、という理想を実現するための第一歩として設けられたものであるはずです。そうである以上、この制度の適用は、一に日本国内・日本社会の子どもたちの教育、処遇の問題なのであり、その審査手続きも、日本に住むすべての子どもたちの学びを、日本社会全体で支えるという目的に敵うかどうかという観点からなされるべきです。言うまでもなく、朝鮮学校に通う子どもたちも、他の子どもたちと同じく日本社会の子どもたちであり、(子どもたち自身の主体的かつ政治的な意見表明をする権利が保障されるべきなのはもちろんのことですが)、その教育の問題に、政治は不用意に持ちこまれるべきではありません。
理由なき民間人への砲撃・殺傷がなされた場合、そのような行為が許されない行為であり、そのような行為を指示・実行した者が強い非難に値することは言うまでもありません。しかし、このことを、高校無償化制度の適用にあたって考慮することには反対します。そのようにすることは、結局、子どもたち自身がどうすこともできない、国外の、政治的な事がらの責任を子どもたちに負担させることになるからです。このように考えることは、政治的な問題を制度に不用意に持ち込むべきではないとして、無償化制度の適否にあたって教育内容の審査を行わないことを決定した検討会議の見解とも符合するものと考えます。
前回の当協会意見書でも表明したとおり、このまま高校無償化制度の対象とされない期間を長引かせることが、朝鮮学校に通う子どもたちに被差別感情を抱かせ、また朝鮮学校に対する社会の差別感情を誘発することになりかねないことをおそれます。
審査手続きを再開し、速やかに朝鮮学校を高校無償化制度の対象として認定することを求めます。
以上
北山(※前に投稿したものに改行等修正を加えたものです。公開されている中では最新の16番目のものです。「公の施設をヘイトスピーチに利用させない規則改正などは行われたことからも」「見聞きすることによることによる被害」は多分誤字です。「ナチスによるユダヤ人、ロマの人々、障がい者などの歴史的事実」は多分“虐殺という”が抜けてます。)(北山)
意 見 書
題名 「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく「公の施設」利用許可に関するガイドライン(案)」について
氏名 (団体の場合は、 名称及び代表者名) 在日コリアン弁護士協会 代表 弁護士 林範夫
意見の提出日 2017(平成29)年 7月19日
枚数 4枚(本紙を含む)
政策等に対する意見
1.はじめに
ヘイトスピーチ集会に対する公共施設の利用制限の問題は、ここ数年ヘイトスピーチが蔓延する中で、憲法の保障する表現の自由、集会の自由との関係で地方公共団体を悩ませてきた。当協会は、この問題にヘイトスピーチの被害者となるマイノリティとしての専門家集団として応えるために、法的規制の研究、シンポジウムの開催、出版物の発行等の活動を行っている。
人種差別撤廃条約への加入により、地方公共団体も差別に関与してはならず、禁止し終了させる義務があること、したがって、具体的には、地方公共団体がヘイトスピーチ集会のために公共施設を貸すことは許容されないことは、2016年6月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下、ヘイトスピーチ解消法)が施行され、それに続いて、愛知県、江戸川区などいくつかの地方公共団体で、公の施設をヘイトスピーチに利用させない規則改正などは行われたことからも、全国的に広く周知されつつあるところである。
しかしながら、ヘイトスピーチ集会を理由として公共施設を貸し出さないという運用は、表現の自由、集会の自由とも抵触することから、これらに対する必要最小限の規制となるよう十二分に留意される必要があり、これが濫用されないよう、明確で具体的なガイドラインを作り、第三者機関が判断するなど適正な手続きを保障することが重要である。今回の川崎市のガイドライン案の作成は、このようなヘイトスピーチ規制と集会の自由の保障とのバランスを考慮した具体的なガイドライン案を作成する全国で初めての先進的取り組みであり、国やほかの地方公共団体のモデルとなるものと考える。
なお、国際人権諸条約の求めているのは公共施設の利用制限に止まらず、包括的な人種差別撤廃法制度の整備である。したがって、2016年12月の川崎市人権施策推進協議会の意見にもあるように、ヘイトスピーチ対策を含めた人種差別撤廃条例を早急に整備することが不可欠かつ急務であると考える。各種報道によれば、川崎市はすでに条例制定にむけても動いているとのことであるが、当協会としては、緊急対策としてガイドライン策定に続いて、人種差別撤廃条例の制定作業が進められることを強く期待するものである。
2.総評
ガイドライン案は、ヘイトスピーチに苦しむ被害者や差別撤廃を求める市民の声を真摯に受け止め、「市民の安全と尊厳を守る」ため、地方公共団体が責任をもってヘイトスピーチを「制度的に防止」すべくつくられたものであり、法的に難しい問題があるからといってヘイトスピーチ解消の責務を放棄し、問題を先送りするのではなく、何より市民を差別から守ろうとするその積極的姿勢に、当協会は敬意と共感を表する。
また、差別的言動の解消という目的を、憲法の保障する表現の自由、集会の自由の不当な侵害にならないよう実現するために、明確で具体的な基準を設置しようとするものであり、差別の防止のみならず、表現の自由の保障の観点からも大きな意義があるものと考える。また、ガイドライン案の具体的内容を見ても、「不当な差別的言動の行われるおそれが客観的な事実に照らして具体的に認められる場合」(言動要件)には、「警告」「条件付き許可」「不許可」「許可の取り消し」という利用制限ができることとし、「不許可」「許可の取消し」とする場合には第三者機関から事前に意見聴取するとして、人種差別を禁止する義務を果たす上で、表現の自由、集会の自由の不当な侵害にならない、必要最小限度の規制に止めることに留意する内容になっているものと評価される。
さらに、ヘイトスピーチ解消法に基づくガイドラインであり、抽象的な理念法である同法をヘイトスピーチ防止のために実効化する取組であり、同法を反人種差別法として活きたものにし、日本の差別撤廃法制度を発展させる意味も大きい。そして、日本が締約国となっている人種差別撤廃条約及び自由権規約により、中央政府のみならず地方政府もヘイトスピーチをはじめとする人種差別を禁止する義務を負っているところ、川崎市による公的施設でヘイトスピーチに使わせないためのガイドラインが策定されることは、その義務に応える点でも大きな意義を有するものであると考える。
3.個別の条項の内容についての改善提案
以上のように、当協会はガイドライン案を高く評価し、その早急な制定と施行を期待するところであるが、このガイドラインがこれから各地のモデルとなるであろうことから、以下の何点かの改善を提案したい。
(1) 迷惑要件の削除
ガイドライン案では「不許可」「許可の取消し」の場合には、上述の「言動要件」のほかに、「その者等に施設を利用させると他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが客観的な事実に照らして明白な場合」との要件が必要とされている。その判断にあたっては、「その利用によって、他の利用者の人権が侵害され、公共の安全が損なわれる危険があり、これを回避する必要性が優越する場合に限られなければならない」とされている(p.4(3)判断方法ウ)。
「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす」という用語が何を指すかあいまいであるが、p.4(3)判断方法エにおいて会議室の場合は「他の利用者の迷惑自体が想定し難い」と書かれていることからすれば、公共施設を利用する者が施設内で直接ヘイトスピーチを見聞きすることを前提とした解釈がなされる可能性も否定しがたいものと考えられる。しかしながら、施設内で直接ヘイトスピーチを見聞きする者の人権侵害のみを考慮するのは狭すぎる。
ヘイトスピーチの被害は、その言動が発せられている瞬間に限定されるものではないことに留意すべきである。ヘイトスピーチが公共施設で行われる状態がある限り、多くのマイノリティの親たちは子どもを連れて出かける際に常に行き先及びその近辺の公共施設でヘイトスピーチが行われる予定がないか調べることを余儀なくされるなど、日常的に不安にさらされ、自らのアイデンティティを攻撃されずに地域の一員として平穏に暮らす人格権が脅かされているのである。
また、小さな会議室で行なわれる場合でも、ヘイトスピーチの目的は差別を煽動することにあるから、インターネット上の生中継か、少なくとも「YouTube」などの録画サイトへの投稿が行われることが通常であり、市民がネット上でヘイトスピーチに遭遇して人格権が侵害され、また、差別が広がる危険性がある。2017年3月末に発表された法務省の外国人住民調査結果においても、ネット上にヘイトスピーチを見るのが嫌でそのようなネットサイトの利用をやめた人が外国籍者全体で約2割、朝鮮籍者では5割近くもいることが明らかとなっており、表現の自由、知る権利や、ネットを通じて社会に参加する権利が侵害される実害が生じている。よって、この点からも、「他の利用者の迷惑自体が想定し難い」として、ヘイトスピーチによる人権侵害の対象を施設内で直接見聞きすることによることによる被害に限定するのは不適切である。
そもそもヘイトスピーチ解消法が前文で述べるとおり、ヘイトスピーチにより被害者が「多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている」現状が既に存在するのであり、このような重大な害悪があるから、同法は国及び地方公共団体に対し喫緊の課題として解消に取り組むことを責務として求めたのである。
公共施設でヘイトスピーチが行われること自体により、被害者の「多大な苦痛」として、前述の実害が生じるほか、民間施設でなく公共施設で行われることにより、差別に公的機関を容認していることが被害当事者に孤立感、社会への絶望感と恐怖をもたらす。また、公共機関が差別を認めていることとなり、そのようなことをある特定のグループの人たちに対し言ってもいいのだとの感覚―差別感情が地域社会に広がり、「地域社会に深刻な亀裂を生じさせ」てしまう。マイノリティへの蔑視感が暴力へとつながることは、関東大震災における朝鮮人、中国人虐殺やナチスによるユダヤ人、ロマの人々、障がい者などの歴史的事実から明らかである。
ガイドライン案はヘイトスピーチ解消法に基づくものと位置付けられているのだから、解消法の認定するこのような重大な害悪を防ぐ目的に照らし、言動要件があれば利用制限の対象とすべきであり、この要件と別に「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす」ことを要件として加重すべきではない。
加えて、「迷惑」「公共の安全」という用語は、定義としてあいまいであり、市民の人権保障の観点ではなく、権力的な秩序維持の観点から解釈される余地を残すという危険性があり、明確性の原則の点からも不適切であると考える。よって、迷惑要件を削除することを提案する。
なお、2017年6月21日付け神奈川新聞「時代の正体<487>ガイドライン(上)規制が表現の自由を守る」との記事によれば、市は、2016年5月30日に公園をヘイト集会に利用させない判断をした際、「市民の安全と尊厳を守る」ことを理由として掲げ、在日外国人市民が不安を抱くだけでなく、実際に公園を使うことができないという実害が生じることを考慮したという。また、今回の迷惑要件はこの不許可判断を包摂しており、同様のケースでは当然、不許可の判断になるとガイドラインの作成と運用を担当する担当者が説明しているという。しかしながら、「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす」という要件を設けた場合、このような判断に支障が生じる懸念があるのであるから、仮に迷惑要件全体を削除しないとしても、少なくとも、立法意思に誤解が生じることを防ぐよう、「他の利用者」ではなく「『他の市民』に著しく迷惑を及ぼす危険」のあることを要件とする修正を行うべきであると考える。
また、迷惑要件の判断方法としても「他の市民の人権が侵害され、安全が損なわれる危険」とすれば、昨年5月の判断基準との同一性が明確となるのであるから、「他の利用者」の概念を狭くとらえすぎているように読める「(3)判断方法エ」は明確に削除する必要があると考える。
(2) 第三者機関の人数及び構成
第三者機関の人数及び構成は、公正さと実効性を担保するために重要なので、ある程度の要件を定めることが望ましいと考える。人数は、例えば、大阪市ヘイトスピーチ審査会にならって少なくとも5人とすることを検討するべきであると考える。また、第三者機関の構成員についても、人種差別の撤廃に関して専門的知見を有する者であることを最低限の必要条件とし、このような必要条件を満たす人材の中から、憲法及び国際人権法の専門家、マイノリティに属する者を必ず加えること、ジェンダーバランスにも配慮すること等を定めるべきであると考える。
(3) 第三者機関の審議結果の取り扱い
「7 第三者機関への意見聴取(3)」によると、第三者機関の委員が全員一致で言語要件及び迷惑要件に該当すると判断した場合には、「各施設の所轄機関は、その判断及び表現の自由等の重要性を総合的に斟酌して最終判断を行う」とあるが、委員の意見が全員一致でない場合については明記されていない。第三者機関による検討結果をヘイトスピーチ解消に向けて最大限活用するためにも、全員一致でない場合には、委員たちの意見を参考にすべきことを明記することが必要であると考える。
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提 出 先
部署名 川崎市 市民文化局 人権・男女共同参画室
北山(※前に投稿したものに改行等修正を加えたもので、15番目のものです。)(北山)
ヘイトスピーチに関する与党法案を修正し, より実効的な法律を成立させることを求める声明
本年4月8日に,自民・公明両党から「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下「本法案」という。)が参議院に提出された。
ヘイトスピーチは,主に人種・民族の違いなどを理由に「殺せ」「ゴキブリ」「ガス室へ送れ」などと公道で公然と叫び,その実行を慫慂するものであり,同じ社会に暮らす隣人であるのに,人種・民族をもって差別し,劣ったもの,保護するに値しないもの,どのように扱っても構わないものという差別意識を広く蔓延させる。憲法13条が保障する,対象とされているマイノリティーの人間としての尊厳を傷つけるものであり,また,憲法14条に定める平等権を侵害するものである。そればかりか,身体生命に危害を加えるヘイトクライムへと容易に結びつき,甚だしくはジェノサイド(大量虐殺)を引き起こしかねない。これは日本における関東大震災の際の朝鮮人虐殺に限らず,諸外国にも例の見られるところである。ヘイトスピーチのもたらす害悪は極めて深刻である。
近年,日本においても公共空間におけるヘイトスピーチが猖獗を極め,対処するための法律が求められてきたところ,今般,与党が本法案をとりまとめた。いうまでもなく,人種差別・民族差別,なかでも在日コリアンに対する民族差別は日本における最大の人権問題の一つであり続けているが,人種差別撤廃条約に日本が加盟して20年以上,戦後70年以上,植民地化から100年以上を経て,人種差別・民族差別への対処を正面から課題とする法案を与党に提出させたのは,あまりに遅きに失したことであるとはいえ,画期的なことといえる。人種差別と闘ってきた市民,運動の成果である。
しかしながら,本法案は,少なくとも下記の諸点について修正が必要である。第一に,本法案は,ヘイトスピーチの対象となる被害者の範囲を不当に狭めるものである。本法案は,対象者を「専ら本邦の域外にある国又は地域の出身者である者又はその子孫であって適法に居住するもの」と定義する(第2条)。これでは,在留資格なく日本に滞在している,あるいは滞在の適法性を争っている外国人,また被差別部落,アイヌ,さらには琉球・沖縄などの国内の人種的・民族的少数者に対するヘイトスピーチは本法案の適用対象外となるものと考えられる。しかし,ヘイトスピーチなどの人種差別が問題なのは,上記のとおり,それが人種的・民族的属性等を理由として人を人として扱わない,人間としての価値を踏みにじるからである。そこには,滞在が適法かどうか,出身地が国内であるか国外であるかという区別を持ち込む余地はない。
次に,「不当な差別的言動」の定義(第2条)においては,「生命,身体,自由,名誉,または財産に危害を加える」場合のみならず,人種・民族の違いに基づいた,侮蔑,蔑視,悪質なデマなども含まれることを明記すべきである。
さらに,本法案は,「不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」(第3条)と国民・市民に努力義務を課すにとどまるものである。罰則規定を設けない法律がヘイトスピーチ抑止のための実効的法規範たるためには,「違法」若しくは「禁止」の文言が明確に規定される必要がある。
加えて,本法案が地方公共団体の義務を努力義務にとどめている(第4条から第7条)点も問題である。罰則などの制裁が明示されていない上に,相談,教育,啓発活動すら努力義務でしかないのでは,やはり実効性を欠くことになりかねない。
当会は,少なくとも以上の諸点の修正について与党と野党が協議を行い,ヘイトスピーチ根絶のために,より実効的な法律を今国会において成立させることを求める。また,この法律が成立したとしても,それはあくまでも第一歩にすぎない。当会は,与野党,政府・地方自治体に対し,さらなる実効的な措置,立法等について引き続き検討することを求めるとともに,そのための努力を行っていく所存である。
2016年4月14日 在日コリアン弁護士協会
(※前に投稿したものに改行等修正を加えたもので、14番目のものです。韓国憲法裁判所宛てです。)(北山)
意 見 書
在日コリアン弁護士協会
憲法裁判所が、2015憲マ1047号憲法訴願審判請求事件について違憲決定を下すとともに、2015憲サ984号効力停止仮処分事件について迅速な仮処分決定を下すことを要請します。
1.問題の所在(保健福祉部指針と関連法令)
(1) 保健福祉部は、同部指針「2015年度保育事業案内」(以下「本件指針」といいます。)付録2で、「住民登録法第6条第1項第3号によって住民番号の発行を受け…る者」は、「2015年の保育料及び養育手当支援対象」から除外されるものと定めています(以下「本件指針条項」といいます。)。
「住民登録法第6条第1項第3号によって住民番号の発行を受け…る者」とは、同条項号の「在外国民」をいいます。そして、同条項号は、同「在外国民」の定義について、「大韓民国の国民であり、外国の永住権を取得した者」1で、「海外移住法」第12条による永住帰国の申告2をしない者であって、住民登録の無い者が帰国後最初に住民登録する場合であると規定しています。
1 「在外同胞の出入国と法的地位に関する法律」第2条第1号の「国民」。
2 「海外移住法」第12条では、永住帰国の申告について、申告者は、外交部令に定める永住帰国を証明することができる書類(永住権または永住権に準ずる長期在留資格の取消を確認することができる書類と居住旅券(同法施行規則第13条))を備えて申告する必要があると定めている。
(2) したがって、本件指針条項に基づき、日本で出生し日本の特別永住権を有する韓国人は、韓国に生活の本拠を置き居住している実態があるとしても、日本の特別永住権を保持している限り、保育料及び養育手当の支援対象から除外されています。
2.本件指針条項は憲法違反である
(1) 大韓民国憲法前文は、「政治、経済、社会、文化のすべての領域において各人の機会を均等にし」、「内には国民生活の均等なる向上を期」すると規定し、憲法第11条第1項は「すべての国民は、法の前に平等である。」と規定して平等原則を定めています。この平等原則は、国民の基本権保障に関するわが憲法の最高原理であり、国家が立法を行い、又は、法を解釈及び執行するにあたり従わなければならない基準であると同時に、国会に対し合理的理由なく不平等な待遇を受けず、平等な待遇を要求することができるすべての国民の権利であり、国民の基本権中の基本権であると解されています(憲裁1989.1.25.88憲カ7)。
(2) この平等原則は、憲法第23条が定める財産権、憲法第36条第1項、同第10条、同第37条第1項からから導き出される「父母の子のための教育権」の実現にも当然に適用されるべきものです。
また、国民の教育を受ける権利が、憲法第31条第1項で保障されていますが、同条項は「すべての国民は、能力に応じて、均等に教育を受ける権利を有する。」と規定し、国民の教育を受ける権利について平等原則が適用されることが憲法上明記されています。同条5項は国が平生教育を振興すべき義務を定めていますが、この平生教育の振興についても平等原則が適用されなければなりません。
(3) 本件指針は、嬰幼児保育法に基づく幼児の無償保育について具体化したものです。同法第3条では「嬰幼児は、自身又は保護者の性、年齢、宗教、社会的身分、財産、障害、人種及び出生地域などによるあらゆる種類の差別も受けず保育されなければならない」と嬰幼児保育における平等原則を規定しています。かかる平等原則もまた、上記の韓国憲法上の平等原則に基づくものというべきです。
(4) 嬰幼児保育法は、第1条で「この法は、嬰幼児(嬰幼児)の心身を保護し健全に教育し健康な社会構成員として育成するとともに、保護者の経済的・社会的活動が円滑になされるようにすることで、嬰幼児及び家庭の福祉増進に貢献することを目的とする」と定めています。
嬰幼児保育法の目的である韓国社会の構成員として育成すべきこと、そして、保護者の経済的・社会的活動が円滑になされるべきことは、当該韓国国民が外国の長期滞在資格を保有しているか否かにかかわるものではありません。実際に、当該韓国国民が韓国国内に生活の本拠を置き定住している以上、同法の目的が妥当します。上記韓国憲法上の平等原則、同法の目的・保育の理念からすれば、同法は、無償保育の対象者として、現に韓国に定住しているあらゆる韓国国民の家庭を念頭においているというべきです。
それにもかかわらず、本件指針は、現に韓国に定住している韓国国民の家族について、外国の長期在留資格を有していることを理由に、嬰幼児保育法に基づく嬰幼児の無償保育から一律に排除しています。これは、上記の韓国憲法上の平等原則に反する不合理な差別であり、本件憲法訴願審判請求人らの平等権を侵害しているといわざるを得ません。
(5) なお、本件指針では、韓国国民のみならず、父母の一方が外国籍を有する家庭の子女についても、多文化家族支援法に基づき養育手当の支給を受けられるものと定めていますが、例えば、在日同胞が日本国において帰化手続を行い、新たに日本国籍を取得した後、外国に永住権を有しない韓国国民と結婚し、韓国で居住することになった場合には、出生した子に対する養育手当の支給がなされるのに対し、在日同胞が韓国国籍を放棄せず、外国に永住権を有しない韓国国民と結婚した場合には、出生した子に対する養育手当の支給がなされないという点で、両者に不合理な不均衡が生じていることは明らかです。
また、2014年の住民登録法の改正の趣旨は、在外国民が韓国の国民であるにも関わらず国籍を放棄した外国国籍の同胞と同じく扱われることに対しての心理的な拒否感を払拭させ、国内で生活するにおいて不便をなくし、大韓民国の国民であるという所属感を向上させるところにありました。しかし、本件指針条項は、日本で生まれ韓国に定住している韓国人について内国人と異なる取扱いをしており、住民登録法の改正の趣旨にも反しています。
3.日本における児童手当の受給資格
(1) 日本においても、韓国と類似の制度として、児童手当の支給制度があります。即ち、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的として、児童手当法が制定さており(同法第1条)、同法に基づき、中学校修了前の児童に対して児童手当が支給されています。
(2) 日本の児童手当の受給資格については、児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするその父母等であって、日本国内に住所を有するものとされています(同法第4条第1号)。これに基づき、日本政府は、日本国内に住所を有し住民基本台帳に記載されている者は、すべて児童手当の受給資格の対象としており、父母の日本国外の在留資格自体は問いません(日本国籍の有無も問いません。)。
そのため、父母が夫婦で海外に居住している場合であっても、当該児童が日本に居住している場合に、児童と同居している者を「父母指定者」として指定すれば、指定された者に手当が支給されています。
(3) このように、日本政府は、韓国政府とは異なり、日本国内に住所を置くすべての児童に対し、次代の社会を担う児童として扱い、その健やかな成長を図るため、その児童を養育する者に広く児童手当を支給しています。
4.特別永住権の歴史性・内容
(1) 日本における「特別永住権」は、一般永住資格とは異なり、1945年の解放前から日本に在留している日本の旧植民地出身者の法的地位の安定化を図るために特別に認められている法的地位です。そのため、「特別永住権」は、1945年9月2日以前から引き続き日本に在留し、サンフランシスコ講和条約(以下「講和条約」といいます。)の規定に基づき1952年4月28日に日本国籍を離脱した者等及びその子孫(以下「特別永住者」といいます。)に限り認められています3。
3 なお、日本政府の見解は、特別永住について、日本在留のための「資格」、「法的地位」にすぎず「権利」ではないというものです。しかし、特別永住が実質的に日本の旧植民地出身者及びその子孫が有する権利であるのは明らかですので、本意見書では特別永住権として説明します。
4 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法第3条。
5 同法第4条第1項、第2項。
6 同法第22条。
7 同法第20条。
8 同法第23条第1項、第2項。
(2) 特別永住権については、まず、講和条約による国籍離脱者及びその子孫について、特別永住者として日本で永住することができるとし4、特別永住者が特別永住許可の申請をしたときには、法務大臣は許可をするものと規定され5、覊束的に特別永住権が認められる点で、一般永住等の中長期在留資格と異なります。
加えて、特別永住者の退去強制事由は、内乱罪、外患誘致罪及びそれらの予備罪、陰謀罪、幇助罪で禁固刑を受けた場合等のほか、無期又は7年を超える懲役又は禁錮に処せられ、かつ法務大臣が日本の重大な利益が損ねられたと認定した場合に限られ6、一般永住等の中長期在留資格に比べて非常に狭く限定されています。実際に7年以上の懲役又は禁固刑に処せられた特別永住者は存在するものの、当会が知る限りでは、実際に退去強制は実施されたことはありません。
さらに、特別永住者は、日本を出国し再入国する場合、予め再入国許可を受けて日本を出国したときには、再入国の上陸手続において所持する旅券の有効性のみ審査され、他の外国人のように上陸拒否事由に該当しないことを審査されることはありません7。また、特別永住者以外の中長期在留資格を有する外国人の場合、再入国許可の有効期限の上限が5年であるのに対し、特別永住者の上限は6年、再入国許可を受けずに再入国が可能な期間も、特別永住者でない外国人の場合には1年であるのに対し、特別永住者は2年とそれぞれ長くなっています8。
このように、「特別永住権」は、特別永住者が日本でより安定した生活を営むことができるために認められた法的地位であり、他の日本の中長期在留資格と比較し、非常に安定した在留資格です。
(3) 在日同胞が「特別永住者」として「特別永住権」を保有することになった経緯は、次のとおりです。
日本における朝鮮半島の植民地支配によって、日本に多数の同胞が居住 することになりました。1940年前後以降、多数の朝鮮人が強制的に連行されました。それ以前は「渡航」の形態をとっていましたが、これも植民地支配に起因するものであったことは言うまでもありません。朝鮮半島の解放当時、200万人以上の朝鮮人がいたとされ、最終的に、帰国者を除く約50~60万人の朝鮮人が日本に継続して居住することになりました。
日本政府は、このような在日同胞の国籍について欺瞞的な立場に立っています。すなわち、朝鮮人は1910年の植民地化によって日本国籍を取得したが9、1945年の光復によっては日本国籍を喪失せず、日本が連合国による占領から主権を回復した講和条約が発効した1952年4月28日まで朝鮮人の日本国籍は存続していた、というものです。
9 本意見書では、日本国籍の強制取得自体の無効、不当性については措きます。
10 ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第126号)第2条第6項。
日本国家は、このような見解を前提とするにもかかわらず、1947年5月2日、天皇の最後の勅令である「外国人登録令」により、朝鮮人は日本国籍を保有しているが外国人とみなすと宣言し、朝鮮人を外国人として取り扱いました。翌5月3日には広く人権を保障する日本国憲法が施行されましたが、実際には、その人権は日本国籍者に限って保障し、外国人については人権享有を厳しく制限するという運用がなされました。そして、外国人とはいっても、日本における外国人人口の90パーセント以上は朝鮮人でした。朝鮮人は民主的な日本国憲法の発足当初から、人権保障の埒外に置かれたのです。
そして、在日同胞は、講和条約発効により正式に日本国籍を剥奪され、そして同時に日本国籍がないことを理由に、これ以降、人権が厳しく制約されました。即ち、日本政府は、講和条約が発効した1952年4月28日に外国人登録法を公布・施行し、一方的に、在日同胞の日本国籍を「剥奪」しました。その一方で、日本国は、日本国憲法の人権条項を外国人に対し限定的にしか適用せず、また、人権保障のための法律に「国籍条項」(人権の享受に日本国籍を要求する条項)を置くなどして、在日同胞の人権を制約したのです。さらに、在日同胞の在留資格は、「別に法律で定めるところによりその者の在留資格及び在留期間が決定されるまでの間、引き続き在留資格を有することなく本邦に在留することができる」10とされ、暫定的な在留資格しか認めませんでした。日本国家は、いったんは在日同胞の日本国籍を剥奪し、その法的地位を非常に不安定なものとしながら、希望するものに対しては個々的に「帰化」により日本国籍を認めるとしつつ、「帰化」にあたっては日本への同化を求める政策を採ったのです。
これに対し、在日同胞は、安定した法的地位を日本政府に求める闘争を繰り広げるとともに、日本社会、国際社会からの助力を得て、解放から45年以上が経過した1991年になってようやく「特別永住権」を日本国家に認めさせました。このように、日本における特別永住権と特別永住者に対する人権保障は、日本国籍がないことを理由になされた日本国による不当な人権侵害に対して、日本国籍がないまま人権を保障するよう私たちの先達が求め、勝ち取ってきた成果です。
(4) 以上の意味で、日本の特別永住権は、植民地支配、講和条約に発効に伴う一方的な「日本国籍」の「剥奪」措置とその後の国籍がないことを理由とする及び差別・同化という在日同胞に対する過酷な状況の中で、在日同胞の人権を保護するために認められた重要な法的地位です。特別永住権は、「剥奪」された日本国籍の回復を求めるべきではないという在日同胞に特殊な事情から、日本国籍を求めないまま、人権保障を勝ち取った実質的には「国籍」に相当する法的地位であって、韓日両国において戦後補償の対象外とされてきた在日同胞11にとって唯一の戦後補償ともいえるものです。日本の特別永住権の放棄を求めることの合理性を判断するにあたっては、以上の在日同胞の特殊事情がよく勘案される必要があります。
11 「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第172号、1965年6月22日署名)第2条1.「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、(中略)、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」という規定が、同条2.(a)で「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」に影響を及ぼさない旨規定されている。「対日民間請求権申告に関する法律」(法律第2287号、1971年1月19日制定)でも、申告対象の範囲を定めた第2条第1項で「1947年8月15日から1965年6月22日まで日本国に居住したことがある者を除く大韓民国国民」と定められている。このように、在日同胞は韓日両国で戦後補償の対象外とされた。
5.まとめ
(1) 以上より、日本の特別永住権を有しながら韓国に居住する韓国人に対する保育料・育児手当を支給しないと定めた本件指針条項は、韓国憲法上の平等原則に反する不合理な差別であり、本件憲法訴願審判請求人らの平等権を侵害しており、韓国憲法に違反します。
(2) 日本では、日本国籍者を外国の在留権の有無で社会保障から一律排除する不合理な差別は、当会が把握している限りでは存在しません。
(3) 本件指針条項の下では、日本の特別永住権を有する同胞が韓国で保育料及び養育手当を受給するには、二つの方法しかありません。第一に、特別永住権を放棄することであり、第二に、日本の国籍を取得することです。
しかし、特別永住権が日本の植民地支配と在日同胞に対する差別・同化の歴史を証明するものであることは、前述のとおりです。
また、日本国籍を取得していない在日同胞は、日本国に納税しているにもかかわらず、地方参政権をはじめとするすべての政治から除外されています。自己統治が基本原理とされる民主主義社会であたかも専制政治を受けるかのようです。このような不当な扱いを受けても、あえて日本国籍を取得していない在日同胞たちがまだ30万人以上に達します。このような在日同胞が日本国籍を取得しない理由もまた、植民地支配と在日同胞に対する差別・同化の記憶からです。
本件指針条項は、結果として、日本の特別永住権を有する同胞に対し、韓国で保育料及び養育手当を受給するために、特別永住権を放棄させ、または、日本国籍を取得させようとするものであって、日本の植民地支配と在日同胞に対する差別・同化の歴史を、在日同胞の祖国が自ら消し去ろうとするものです。
(4) 当会は、日本の特別永住権を有する同胞に対する不合理な差別について憲法裁判所が違憲決定を下すことで是正するとともに、本件請求人らが保育料及び養育手当を受給できるよう仮処分決定を迅速に下すことを強く要請します。
以 上
2015年12月1日
在日コリアン弁護士協会 代表 金 竜 介