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2021-02-18 08:09 0 comments

479 懲戒ビジネスに加担する裁判官

引用元 



令和2年(ワ)第3695号損害賠償請求事件   令和3年2月17日

原 告 -

被 告 神奈川県弁護士会、嶋﨑量


              準備書面5


横浜地方裁判所第8民事部合議B係御中


                  原告代理人

                    弁護士 江 頭   節 子


 令和3年1月19日付被告弁護士会「準備書面1」及び丙12号証と被告嶋﨑同年2月12日付「準備書面(3)」を受けて、個々の文言についての逐一の反論ではなく、「原告らの主張」という位置づけで反論を展開する。


(用語)

懲戒請求者の個人情報を対象弁護士に提供したことは違法であるとする訴訟で懲戒請求者の損害賠償請求を棄却した判決群(乙10、丙8,丙12その他)を「棄却判決群」という。

対象弁護士が懲戒請求者を提訴し認容された多数の判決群を「認容判決群」という。


第1 個人情報保護法違反であること

1 はじめに

 本件の主要な争点は、懲戒請求者らの住所氏名を対象弁護士に通知することを許す被告弁護士会の会規が、弁護士法及び個人情報保護法に違反する違法無効なものであり、それにのっとって行われた原告らの個人情報の被告嶋﨑への提供(「本件提供」)が違法であるかどうかである。

 被告弁護士会は個人情報取扱事業者であるから、個人情報は特定された利用目的の達成に必要な範囲で取り扱うことを要し、取得した個人情報を本人の同意なく目的外に利用したり第三者に提供することは原則として許されない(個人情報保護法15条、16条、23条)。

被告弁護士会の会規はこれら条項に違反する違法なものであり、本件提供も違法である。


2「利用目的の達成に必要な範囲」に本件提供は含まれないこと

 被告弁護士会は、本件提供が利用目的の達成に必要な範囲であると主張し、棄却判決群の中にはその旨認定するものがあるが、失当である。

 ガイドラインには、

「あらかじめ、個人情報を第三者に提供することを想定している場合には、利用目的の特定に当たっては、その旨が明確に分かるよう特定しなければならない(3-4-1(第三者提供の制限の原則)参照)」(3-1-1)

「あらかじめ、個人情報を第三者に提供することを想定している場合には、利用目的において、その旨を特定しなければならない(3-1-1(利用目的の特定)参照)」(3-4-1)

「法第15条第1項の規定により特定された当初の利用目的に、個人情報の第三者提供に関する事項が含まれていない場合は、第三者提供を行うと目的外利用となるため、オプトアウトによる第三者提供を行うことはできない。」(3-4-2-1の(※5))

 と、繰り返し書かれている。

 そして、個人情報取扱事業者は特定した利用目的を公表または通知しなければならないところ(個人情報保護法18条)、被告弁護士会が同条にもとづき公表した利用目的は、「弁護士法並びに被告弁護士会の会則、会規、規則及び細則に定めのある事務手続に従い、事務の管理を目的として必要な範囲で利用する」というにとどまる(甲2)。個人情報を第三者(対象弁護士)に提供することに全く触れていない。

したがって、本件提供が「利用目的の達成に必要な範囲」に含まれると解する余地はない。

尚、棄却判決群の中には、会規会則を持ち出して、対象弁護士に提供されることが予測されるなどと判示するものがあるが、失当である。

被告弁護士会は、会規を公開していない(乙10判決の8頁26行目)。仮に公開していたとしても、個人情報の利用目的に第三者提供を明確に特定していない以上、これが利用目的に含まれると解する余地はない(上記ガイドライン)。

以上により、原告らの個人情報を対象弁護士に提供することは、「利用目的の達成に必要な範囲」に含まれない。したがって、本件提供には原告らの同意が必要であった。


3 原告らの同意がないこと(「原告らが予測できる」では足りないこと)

 棄却判決群の中には、懲戒請求者は自分の個人情報が対象弁護士に提供されることは予測できるなどと、位置づけが意味不明の判示をするものがある。これは個人情報保護法の無知をさらけ出す恥ずかしい判決である。

 同法は、目的外利用、第三者提供が許される要件として「本人の同意」と規定している(16条1項、23条1項)。「予測できる」かどうかは要件ではない。「原告らが同意していた」と認定しなければ、要件を満たしたことにならない。そして、原告らが同意していたことを認定した判決など、皆無である。同意していないからである。

 ガイドラインは次のように述べる。

「『本人の同意』とは、本人の個人情報が、個人情報取扱事業者によって示された取扱方法で取り扱われることを承諾する旨の当該本人の意思表示をいう(当該本人であることを確認できていることが前提となる。)。

また、『本人の同意を得(る)』とは、本人の承諾する旨の意思表示を当該個人情報取扱事業者が認識することをいい、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法によらなければならない。」

「 【本人の同意を得ている事例】

事例1)本人からの同意する旨の口頭による意思表示

事例2)本人からの同意する旨の書面(電磁的記録を含む。)の受領

事例3)本人からの同意する旨のメールの受信

事例4)本人による同意する旨の確認欄へのチェック

事例5)本人による同意する旨のホームページ上のボタンのクリック

事例6)本人による同意する旨の音声入力、タッチパネルへのタッチ、ボタンやスイッチ等による入力        

                       (ガイドライン2-12)

 本件で、上記のような同意は一切ない(この点おそらく争いが無い)。同意がない以上、「予測できる」などと、どこから持ってきたか意味不明の要件で本件提供を正当化することは出来ない。

(尚念のため。「予測」もできない。弁護士法に、対象弁護士への提供は規定されていない。これを規定する会規は非公開である。被告弁護士会が公表している利用目的に第三者提供の記載は無い。)

 よって、本件提供は個人情報保護法23条1項に違反する違法な取り扱いである。


4 「法令に基づく場合」に該当しないこと

 同法23条は、例外的に個人データを第三者に提供することが許される場合として、法令に基づく場合を挙げる。

 本件は、被告弁護士会が、原告らの懲戒請求書を受領したことによって原告らの個人情報を取得した。したがって、弁護士法に、懲戒請求者の個人情報を第三者に提供することを定める規定があれば問題ない。

 しかし弁護士法上、懲戒請求者の住所氏名を対象弁護士に通知すべきことを規定した条文は存在しない。対象弁護士に通知すべき内容を規定した条文に懲戒請求者の住所氏名は含まれていない(同法64条の6第1項、64条の7第1項、)。

 個人情報保護法ガイドラインで、「法令に基づく場合」として想定されているのは、次のような例である。

事例1)警察の捜査関係事項照会に対応する場合(刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第197条第2項)

事例2)裁判官の発する令状に基づく捜査に対応する場合(刑事訴訟法第218条)

事例3)税務署の所得税等に関する調査に対応する場合(国税通則法(昭和37年法律第66号)第74条の2他)

事例4)製造・輸入事業者が消費生活用製品安全法(昭和48年法律第31号)第39条第1項の規定による命令(危害防止命令)を受けて製品の回収等の措置をとる際に、販売事業者が、同法第38条第3項の規定に基づき製品の購入者等の情報を当該製造・輸入事業者に提供する場合

事例5)弁護士会からの照会に対応する場合(弁護士法(昭和24年法律第205号)第23条の2)

事例6)保健所が行う積極的疫学調査に対応する場合(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)第15条第1項)

事例7)災害発生時の停電復旧対応の迅速化等のため、経済産業大臣の求めに応じて、一般送配電事業者が、関係行政機関又は地方公共団体の長に対して必要な情報を提供する場合(電気事業法(昭和39年法律第170号)第34条第1項)

(ガイドライン3-4-1が参照する3-1-5)

 上記の法令はいずれも、公的機関が個別具体的事情において客観的に必要性があると判断して情報提供等を求めることができることを明示的に定める法令である。そのような求めに応じて情報を提供することが「法令に基づく場合」として許されるのである。

また提供する相手は原則として公的機関である(事例4だけは公的機関から命令を受けた製造・輸入事業者)。つまり個人情報が保護され、かつ利用目的が限定されていることが担保されている。

個別具体的な事情の如何にかかわらず一般的抽象的に個人情報の提供を認める例は一つもない。

 本件提供は、上記のように公的機関から照会を受けてなされたものではない。弁護士法に何ら規定がないにもかかわらず、被告弁護士会が自ら制定した会規に基づき、内容や必要性の如何によらず全件無条件に対象弁護士に個人情報を提供した事案である。したがって、「法令に基づく場合」に該当しないのは明らかである。


5「財産の保護のために必要がある場合」に該当しないこと

 個人情報保護法23条1項2号は、例外的に本人の同意なく第三者提供が許される場合として、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」と規定する。

 そこで被告弁護士会は、対象弁護士の懲戒請求者に対する損害賠償請求権という財産の保護のために、個人情報の提供が必要であるなどと強弁している。もちろん失当である。

(1)全件無条件に対象弁護士に提供するのであれば、それはあらかじめ利用目的の1つとして明確に特定し公表通知して、懲戒請求者の同意を得る必要がある。しかし被告弁護士会はそれをしていないことは前述のとおりである。

(2)ガイドラインは、同条項は「人(法人を含む。)の生命、身体又は財産といった具体的な権利利益の保護が必要であ」る場合と述べる。

そしてガイドラインがその例として挙げるのは次のような場合である。

事例1)急病その他の事態が生じたときに、本人について、その血液型や家族の連絡先等を医師や看護師に提供する場合

事例2)大規模災害や事故等の緊急時に、被災者情報・負傷者情報等を家族、行政機関、地方自治体等に提供する場合

事例3)事業者間において、暴力団等の反社会的勢力情報、振り込め詐欺に利用された口座に関する情報、意図的に業務妨害を行う者の情報について共有する場合

事例4)製造した商品に関連して事故が生じたため、又は、事故は生じていないが、人の生命若しくは身体に危害を及ぼす急迫した危険が存在するため、当該商品の製造事業者等が当該商品をリコールする場合で、販売事業者、修理事業者又は設置工事事業者等が当該製造事業者等に対して、当該商品の購入者等の情報を提供する場合

事例5)上記事例4のほか、商品に重大な欠陥があり人の生命、身体又は財産の保護が必要となるような緊急時に、製造事業者から顧客情報の提供を求められ、これに応じる必要がある場合

事例6)不正送金等の金融犯罪被害の事実に関する情報を、関連する犯罪被害の防止のために、他の事業者に提供する場合

(ガイドライン3-4-1で参照される3-1-5)

 以上のように、具体的な権利利益の保護の必要があり、かつ危険が急迫しており緊急を要する場合だけである。

 本件では、被告弁護士会は、対象弁護士が懲戒請求者に対し損害賠償請求権を有するかどうかにかかわらず、全件無条件一律に、何の緊急事態でもないのに、個人情報を提供しているのであるから、個人情報保護法23条1項2号の財産の保護のために必要がある場合に当たらないことは明白である。


6 小結

以上のとおり、被告弁護士会の会規は個人情報保護法に違反する違法な会規であり、それにもとづく本件提供も違法である。


第2 弁護士法上の懲戒手続きの解釈適用の誤り

1 はじめに

 本件同種のプライバシー裁判の棄却判決群、懲戒請求者に賠償を命じる認容判決群、被告弁護士会、対象弁護士らは全員、弁護士法上の懲戒手続きの理解を根本的に誤っている。

 他士業や裁判官ではありえないのに弁護士だけが懲戒手続き1つで一般人から数億円の賠償金をせしめる懲戒ビジネスが成り立っている狂乱、個人情報保護法に違反するのは明らかなのにそれを認めない棄却判決群の不可思議は、この制度理解の欠如に由来する。

 そこであらためて弁護士法上の懲戒手続きを説明する。


2 懲戒処分の性質と「事案」の法的性質

 弁護士法上の懲戒処分は行政処分であり、不利益処分である。弁護士会という公的監督機関が、弁護士に対して行う権力作用である。

 懲戒処分を課す主体は弁護士会であり、客体は弁護士である。

 処分を受けた弁護士は、不服であれば審査請求を経て、最終的に取消訴訟を提起することができる。取消訴訟の原告は弁護士であり、被告は処分庁の弁護士会(または処分庁ないし裁決町庁の日弁連)である。

 懲戒処分は特定の「懲戒の事由」についてなされる(弁護士法56条)。当該特定の「懲戒の事由」について弁護士会が対象弁護士に懲戒処分を課すか否かの件、というのが同法58条2項にいう「事案」である。

 「事案」は、民事訴訟で言えば訴訟物、刑事訴訟で言えば訴因に当たる、審理の対象物である。訴訟物や訴因は、事件の異同を識別し、二重起訴の禁止、再訴の禁止、既判力、一事不再理等の基準となるものである。かつ、防御の対象と範囲を明示することによって、防御権を保障する機能を有するものである。そうであるから、具体的に特定される必要がある。

その理は、不利益処分たる弁護士法上の懲戒処分においても変わるところはない。したがって、懲戒請求を受け付けた弁護士会が最初にすべきは、「事案」の特定である。

 そうして特定された1個の「懲戒の事由」について課すことができるのは、1個の懲戒処分だけである。その1個の懲戒処分をするかどうかにかかる懲戒手続きは、当然、1個だけである。1個の「事案」について懲戒請求者が2人いるからといって2個の懲戒手続きが並行してなされるわけではない。(それは違法である。判断の矛盾、手続きの重複の無駄、防御の二重負担)。


3 懲戒請求者が複数いる場合の擬律

 懲戒請求はなんぴともすることができ、懲戒手続きの時効は3年もあるから、1個の「事案」について時を前後して複数の人から懲戒請求がなされることを、法は当然予定している。その場合、当該1個の「事案」について、最初の懲戒請求が端緒となって懲戒手続きに付され綱紀委員会の調査が開始されれば、その懲戒手続きが終了しないうちに、後続の懲戒請求書が来ても、同一の事案であるから、別の懲戒手続きが始まることはあり得ない。単に、既に開始した懲戒手続きの懲戒請求者の数が増えたというだけのことである。それは、増えた数が1人でも1000人でも変わらない。

 弁護士法上、対象弁護士に通知するのは「綱紀委員会に事案の調査をさせたとき」である(64条の7第1項1号)。懲戒請求書を受理したときではない。

したがって、複数人が同一の「事案」について時を前後して懲戒請求した場合、対象弁護士に通知するのは、最初の懲戒請求が端緒となって綱紀委員会の調査が開始された時、ただ1回である。後続の懲戒請求書が到達しても、新たに別個に「綱紀委員会に事案の調査をさせ」ることが有り得ない以上、後続の懲戒請求の存在を対象弁護士に通知する必要は無く、これを通知するという弁護士法上の根拠条文は存在しない。

1個の「事案」について複数(たとえば1000人)の懲戒請求者がいるということは、当該1個の懲戒手続きにおいて、異議の申出をする資格者が1000人いるということであり、その権利の行使を可能にするため、弁護士会が1個の決定(懲戒する又はしない決定)をしたときに、その決定を通知すべき者が1000人いるということである(64条の6第2項、64条の7第1項2号)。

また弁護士会の綱紀委員会や懲戒委員会は、必要があるときは、懲戒請求者に説明等を求めることができるから(70条の7,67条3項)、同条項に基づいて説明を求めることができる懲戒請求者が1000人いるということでもある。(但し同条項は「関係人」にも説明を求めることができると規定しているから、懲戒請求者であることに格別の意味はないであろう)


4 被告弁護士会の同一事案・複数立件の違法

上記のような弁護士法上の規定により、弁護士会は懲戒請求者の住所氏名を取得する必要があり、取得した個人情報を管理する必要がある。したがって、本件リストの作成自体には何ら問題はない。

ただし問題は、本件リストの懲戒請求者ごとに付された番号は、上記のような本件リストの目的性質からいえば「懲戒請求者番号」に過ぎないものであって、決して「事案番号」ではないことである。「事案」は1つであるから、「事案番号」をつけるとすれば、最初の懲戒請求者についても1000人目の懲戒請求者についても「事案番号」は同一のものが付くはずである。

ところが被告弁護士会(と東京弁護士会)は、懲戒請求者1名ごとに懲戒手続きを「立件」し、別個の「事案番号」を付け、1000人の懲戒請求者がいれば1000個の懲戒手続きがあると解釈して運用したのである。そのうちの100とか200とかをまとめて「併合」して決定を出すことがあったにせよ、基本的理解は同一事案の複数立件である。

そのために、懲戒請求書が届くたびに、これを対象弁護士に通知し、同一の事案について繰り返し「懲戒手続きが開始しました」と通知して、答弁書の提出を催告したのである(被告弁護会につき神原元、宋惠燕弁護士、東京弁護士会につき佐々木亮弁護士を対象とする平成29年9月頃までの懲戒請求。)

これが、1個の懲戒手続きに過ぎないものから数億円の損害賠償金ビジネスを成り立たせた根本原因である。

本来の正しい手続きはこうである。最初の1通の懲戒請求書が端緒となって、1回だけ対象弁護士に調査開始の通知を出し、「事案の内容」だけを示し(懲戒請求者の住所氏名は秘匿)、後続の懲戒請求書の受理について対象弁護士にいちいち通知しない。(後続の懲戒請求者が新たな情報や証拠をもたらせば、それについて70条の7に基づき弁明を求めることはあり得るが、それは64条の7第1項1号の通知ではない。) そして綱紀委員会が懲戒委員会に審査を求めないことを相当とする議決を行い、弁護士会が懲戒しない決定をしたら(1つの事案であるから決定も1回だけである)、それを対象弁護士と懲戒請求者(1000人)に通知する。決定は1つであるから、異議の申出期間も決定から3ヶ月と数日もたてば経過する。期間内に複数人が異議の申出をすれば、日弁連の綱紀委員会における異議の審査も、1つの決定に対する審査であるから、手続きは1つである。異議の申出者が複数いても、複数の手続きが並行して行われるわけではない。


5 手続き終了後に同一事案の後行の懲戒請求があった場合

(1)

綱紀委員会が懲戒委員会に審査を求めないことを相当とする議決をして、それに基づき弁護士会が懲戒しない決定を出した後に、同一の「事案」につきさらに後続の懲戒請求書が来た場合には、弁護士会は原則として、再び懲戒手続きに付して調査を開始することは許されない。対象弁護士の一事不再理に準じた利益(注)が著しく損なわれるからである。

(注)一事不再理効が生じるのは「無罪判決」が確定したときであり、これに相当するのは、懲戒委員会の審査における懲戒しない議決(58条6項)に基づき懲戒しない決定があった時であろう。綱紀委員会の調査に過ぎない段階では、まだ裁量で「再起」することがあり得るから、「一事不再理に準じた利益」とした。

例外的に、後続の懲戒請求者が先行の決定を覆すべき有力な新証拠をもたらす等、特段の事情がある場合に限って、再度の懲戒手続き開始が許容されよう(検察官がいったん不起訴処分にした事件を、新たな証拠の発見などにより再度捜査に着手することがまれにあり、これを「再起」と呼ぶ。そこから借用して仮に「再起」という)。

懲戒しない決定をした後の懲戒請求者に対しては、弁護士会は「貴殿の懲戒請求にかかる事案については、すでに懲戒しない決定により懲戒手続きが終了しています。」という連絡だけ送付すればよい。もちろんその者に異議の申出権は無い。

懲戒請求の法的性質は、懲戒手続きの端緒を与えるだけであり、弁護士会は既に先行の懲戒請求を端緒として懲戒手続きを行った以上、後続の懲戒請求者に対し懲戒手続きを開始すべき何らの義務も負わないからである。

これは懲戒処分が行政処分であることから来る当然の理であって、弁護士法58条2項は当然すぎていちいち書いていないが、「但し、既に同一の事案について懲戒手続きに付されたときはこの限りでない」と読むべきだからである。


(2)被告弁護士会の違法な「再起」

前記の神原弁護士、宋弁護士、佐々木弁護士の事案では、被告弁護士会も東京弁護士会も、何ら「再起」すべき特段の事情も無いのに、単に後続の懲戒請求書が届いたというだけで、同一の「事案」につき「再起」を繰り返している。それで対象弁護士が損害を被ったと言って懲戒請求者に莫大な金員を要求しているのであるから、完全に、弁護士会と弁護士がタッグを組んで懲戒ビジネスのマッチポンプ商法を展開したものである。(但し、対象弁護士は全国に100人を超えるが懲戒請求者を提訴して懲戒ビジネスを展開しているのはほんの数名である。)

(3)被告弁護士会の「再起」ですらない「再起」

被告嶋﨑を対象弁護士とする本件懲戒請求書は、平成29年12月末までには被告弁護士会に到達したが(少なくとも懲戒請求書記載の日付は同年11月である。丙9)、被告弁護士会はなぜかこれを2グループに分け、本件リスト掲載の591名グループについて平成30年4月3日に調査開始、翌4日に議決をして同月中に懲戒しない決定で終えている。

それにもかかわらず、同年7月31日にその余の367名について何ら合理的理由もないのに「再起」して調査開始し、翌日の8月1日に議決をして同月中に懲戒しない決定をしている。

これなどは、決定後に届いた後続の懲戒請求ですらなく、最初の決定時に既に到達していた懲戒請求書について「再起」したのであるから、全く何をやっているのか意味不明としか言いようがない。これで損害を被ったとされ賠償請求され御庁がバンバン認容しているのであるから、弁護士会の懲戒ビジネス商法に裁判所が積極的に加担しているものである。

本件懲戒請求は、591名のグループについて4月に懲戒しない決定をしたのであるから、その後に被告弁護士会が367名分の懲戒請求者の漏れに気付いたのであれば、遅ればせながら4月の決定書をそれら367名に通知すればよかっただけである。「速やかに」という法64条の7の規定にやや違反するが、それ以外にどうしようもなく、それが正しい唯一の対処である。もちろん被告嶋﨑に何らの通知も必要ない。(但し被告嶋﨑は4月の決定から3ヶ月で異議申出期間は終了すると予測しているから、被告弁護士会は、通知漏れのミスがあり異議申出期間がまだ終わらないことを連絡し謝罪くらいしてもいいであろう)。


6 小結

 以上のとおり、認容判決群、棄却判決群、被告弁護士会、被告嶋﨑をはじめとする提訴弁護士らは、全員、弁護士法上の懲戒処分の性質の理解を欠き、その無理解に基づいて、あり得ない懲戒ビジネスを展開し、あり得ない棄却判決を量産しているのである。

第3 公正な懲戒手続きのため必要とは言えないこと 

被告弁護士会や棄却判決群は、懲戒手続きを公正に行うためとか、防御権を保障するために、懲戒請求者の住所氏名を対象弁護士に提供することに合理性があるという。

 しかし、対象弁護士が保障されるべきなのは、綱紀委員会が事実認定で採用する証拠や間接事実に対するアクセスと弾劾の機会である。

 たとえば、法律事務所の事務員が弁護士から叱責されて自信喪失し、親に「仕事を辞めようかと思う」と相談し、弁護士からの叱責の録音を聞かせたところ、親がこれは違法なパワハラだと思料して懲戒請求したとしよう。綱紀委員会が当該録音をもとにパワハラを認定するならば、それをいつ誰がどこで録音したかが対象弁護士に明らかにされなければならない。この例では事務員である。懲戒請求者が誰かという情報は全く必要ない。事務員は、証拠録音の録音者として対象弁護士に認識されるが、綱紀委員会は「関係人」から広く情報を収集できるのであるから(70条の7)、事務員が懲戒請求したということには当然にはならない(実際、違う)。

 この例で、事務員が録音者であるということを対象弁護士に知られたくないという場合には、綱紀委員会は手続きの公正と対象弁護士の防御権保障の見地から、当該録音を証拠としては採用しないことになろう。弁護士会は、対象弁護士を懲戒処分にする義務を誰に対しても負っていないから、証拠が採用できない限り、懲戒しない決定で終わるのは止むを得ない。それが手続きの公正ということである。

 被告弁護士会は、抽象的に手続きの公正とか対象弁護士の防御権というが、懲戒請求者の個人情報が必要であることの具体的な説明が何も主張できていない。何ら実質が伴わない空虚な主張であることは、被告弁護士会自身がわかっているはずである。そのようなもので、違法な個人情報の漏えいが正当化できるものではない。


第6 結語

 以上のとおり、個人情報保護法にのっとり、弁護士法上の懲戒処分が行政処分であるという正しい理解に基づけば、懲戒ビジネスも本件提供も本来あってはならないものであることは容易に理解できる。

被告弁護士会の本件提供が違法なのは、法律のしろうとが見ても明らかである。被告弁護士会がこれを適法だと言い張り、棄却判決群が追従しているのは、まるで裸の王様を見て口々に「すばらしいお召し物」と言っている大人たちのようである。

王様は裸ではないか。素直に見えたままを堂々と判決で言っていただきたい。

                                       以上

 


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