そもそも論的な記述はおもしろくもないだろうから、相手方弁護士連中の主張に反論するかたちで進めたい。
懲戒請求訴訟で、彼らは憲法第89条違反については逃げの一手である。この稿ではその関係について触れる。
「朝鮮人学校補助金要求声明」について
ア 「朝鮮人学校補助金支給要求声明」とは、各地の弁護士会及び日本弁護士連合会が、学校法人神奈川朝鮮学校を含む各地の朝鮮学校に補助金を交付するよう求めて出した会長声明を言う。
イ 「違法である朝鮮人学校補助金」とは、朝鮮学校に補助金を出すことは違法であることを言う。
そう思料された根拠は諸々であるが、公的に権威のあるものとしては国の見解がある。国は、公安調査庁の報告、参議院予算委員会における公安調査庁長官の答弁、文科省の就学支援室から朝鮮学校への照会、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の刊行物やホームページ、在日本大韓民国民団の刊行物や文書、新聞報道等を根拠に、朝鮮高級学校に対する北朝鮮や朝鮮総連の影響力は否定できず、その関係性が教育基本法16条1項で禁じる「不当な支配」に当たらないことが確認できず、就学支援金が授業料に充当されないことが懸念されるとの見解を有し、同見解を、裁判においても主張していた。
ウ 「違法である(中略)要求声明」とは、強制加入の公法人である弁護士会が、会員個々の思想信条や政治的立場の相違により大きく意見の分かれる問題について、会としての決議をなしたり会長声明を発したりすることは、法人の目的の範囲を逸脱するもので違法無効だという意味である。
そう思料する根拠としては、南九州税理士会の政治団体への寄付金決議が目的の範囲外とされた最高裁平成8年3月19日判決が有名である。ちなみに弁護士会については、国家秘密法に反対する日弁連総会決議が弁護士会の目的の範囲を逸脱したものであるとして111人もの弁護士が日弁連を訴えた事件がある(東京地裁平成1年(ワ)第4758号事件)。111人もの弁護士がそう思料するのであるから、一般人がそう思料することに根拠が無いと言えるわけがない。
エ 「要求声明に賛同し、その活動を推進する行為」は、弁護士会の内部で会長声明を出すよう働きかけたり、会長声明が出された後にこれを支持する旨の意見を表明をする等の行為である。
オ 「日弁連のみならず当会でも」は、日弁連でも神奈川県弁護士会でも、という意味である。
カ 「二重、三重の確信的犯罪行為である。」とは、憲法89条に違反して公の支配に属しない事業へ公金を違法に支出すること、教育基本法16条に違反する教育事業に公金を支出すること、弁護士会の法人の目的の範囲外の行為である会長声明を違法に行うこと、さらに北朝鮮がミサイルや核開発や拉致という明白に違法な行為により、日本人の生命、身体、自由に重大な脅威を与えている中で、その影響下にある朝鮮総聯の傘下にある学校に資金援助をすることは、日本人の生命、身体、自由に重大な脅威を与える違法行為に加担することに他ならないこと、したがってこれら二重、三重、四重もの違法行為を、一般人ならいざ知らず、いくら弁護士が法に疎いといっても、とりあえずは法の専門家といわれる弁護士が行うことは、確信的犯罪行為と言っても過言ではないという意味の論評である。ここまで説明すればわかるかな。
弁護士会の「違法な要求声明」を懲戒事由とすることの許容性
弁護士会の活動に関する批判として懲戒請求がなされることについては、H23年最判の須藤正彦裁判官の補足意見が重要である。以下、引用する。
「弁護士は裁判手続に関わって司法作用についての業務を行うなど、その職務の多くが公共性を帯有し、また、弁護士会も社会公共的役割を担うことが求められている公的団体であるところ、主権者たる国民が、弁護士、弁護士会を信認して弁護士自治を負託し、その業務の独占を認め(弁護士法72条)、自律的懲戒権限を付与しているものである以上、弁護士、弁護士会は、その活動について不断に批判を受け、それに対し説明をし続けなければならない立場にあるともいえよう。懲戒制度の運用に関連していえば、前記のとおり、弁護士会による懲戒権限の適正な行使のために広く何人にも懲戒請求が認められ、そのことでそれは国民の監視を受けるのだから、弁護士、弁護士会は、時に感情的、あるいは、無理解と思われる弁護活動批判ないしはその延長としての懲戒請求ないしはその勧奨行為があった場合でも、それに対して、一つ一つ丹念に説得し、予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められているといえよう。あるいは、著名事件であるほどにその説明負担が大きくなることはやむを得ないところもあろう。この観点からしても、(光市弁護団)の被侵害利益の程度は大きいとはいえないと評価できる面があるように思われる。」
以上の補足意見からすれば、会長声明に対する主権者国民からの批判が懲戒請求という形で出されても、弁護士や弁護士会は、丹念に説得する責任があり、その説明責任が大きくなっても、違法に利益が侵害されたとは言えないという結論になる。