法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会「事務当局試案」に関する会長声明
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2014年(平成26年)4月30日に開催された,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会(以下「特別部会」という)の第26回会議において,事務当局試案(以下「本試案」という)が公表された。しかし,本試案には以下のとおりの問題がある。
1 取調べの可視化が不十分である
本試案には,取調べの可視化の対象について,裁判員制度対象事件の取調べに限定するA案と,裁判員制度対象事件に加えて全身柄拘束事件における検察官取調べとするB案が併記されている。A案では,特別部会設置の契機とされた郵政不正事件のほか,志布志事件,パソコン遠隔操作事件,痴漢えん罪事件など多くの事件が可視化の対象とならない上,裁判員制度対象事件は全公判事件の2パーセント未満に過ぎないことから,可視化は原則ではなく,例外的に行われるものとなってしまう。B案でも,司法警察職員の取調べや身柄拘束のない事件における検察官取調べを対象としておらず,えん罪の原因となってきた密室における取調べが残存することとなり,取調べの適正化を図り,被疑者の黙秘権を保障しようとする可視化制度の目的を達成することは不可能である。また,本試案は「記録をすることが困難であると認めるとき」「記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき」等を可視化の例外事由としており,取調官の判断により可視化されない場合を広く認める余地を残している。本試案が示す取調べの可視化制度は,これまで当会が求めてきた,取調べの全事件全過程の例外なき可視化とはほど遠いものであって,容認できない。
2 通信傍受の対象拡大・手続簡略化には反対する
本試案には,「通信傍受の合理化・効率化」として,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という)の適用対象となる犯罪を,一定の要件のもとで現住建造物放火,殺人,傷害,逮捕・監禁,略取・誘拐,窃盗,強盗,詐欺,恐喝にまで拡大し,さらに,現行の通信傍受法が通信傍受時における通信事業者の立会を要件として規定している点を変更して,捜査機関が通信事業者の立会なくして通信を傍受できる制度が示されている。しかし,現行の通信傍受法が定める通信傍受それ自体が,憲法が国民に保障する通信の自由をはじめとして,思想の自由,言論の自由,結社の自由,プライバシー権等の基本的人権を侵害する「盗聴」であり,また,通常の捜査とは異なり,捜査の対象となる通信が特定されず,かつ,事前に捜査の対象者に令状が提示されない点で憲法35条が定める令状主義に違反している疑いが強いものである。通信傍受法制定時にも同様の議論があり,その結果として通信傍受の対象は組織的銃器犯罪や組織的薬物犯罪などごく一部の犯罪に絞られているのである。そのような通信傍受について,対象犯罪を現行法よりも大きく拡大し,さらに通信事業者の立会を不要とする内容に改正することは憲法違反となる可能性が非常に高いのであり,許されるものではない。本試案が法案要綱案としてこのまま取りまとめられたとすれば,国民の通信の秘密の保障やプライバシー権が侵害される事態が生ずる懸念がきわめて強い。当会は,通信傍受の対象拡大・手続の簡略化については断固反対するものである。
3 証拠開示制度が不十分である
本試案には,証拠の一覧表の交付制度が示されているが,この一覧表には文書の要旨(内容を職別できる程度の事項)の記載が求められていないから,その内容が不明である。また,同制度は公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件のみに適用されるものであるから,被疑者・被告人の権利保障の観点からは不十分と言わざるを得ない。当会が従前求めてきた全面的証拠開示制度の創設が検討されるべきである。
4 被告人の虚偽供述禁止規定は被告人の黙秘権・防御権を侵害する
本試案には,被告人の虚偽供述禁止の規定が示されているが,この規定があることによって,起訴事実を否認する被告人が黙秘をした場合には,裁判官・裁判員に,「黙秘するのは,犯行を否認する供述をすると虚偽供述禁止規定に違反するからだ。犯行否認が虚偽だから黙秘している。」との心証を抱かせるおそれが高まり,そのため被告人は,実際上,黙秘権を放棄して被告人質問に応じざるを得なくなることから,被告人の黙秘権,防御権を侵害する危険性が高い。以上のとおり,本試案には,捜査の適正化という特別部会の設置趣旨を踏み外し,取調ベの可視化や証拠開示は不十分なものにとどまり,さらに通信傍受という憲法違反の疑いのある捜査手法を拡充する等という,重大な問題がある。当会は,特別部会に対し,被疑者・被告人の権利保障を実質化する法制度を確立するという出発点に立ち戻っての議論を行うことを強く求めるものである。
2014年(平成26年)5月28日 山形県弁護士会 会長 峯田 典明
集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明
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本日,日本国憲法が施行されてから67年目となる憲法記念日を迎えた。日本国憲法は,前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」,「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した」とし,平和的生存権を宣言するとともに,第9条において,戦争を永久に放棄し,戦力は保持せず,交戦権も認めないとする徹底した恒久平和主義を規定している。そして,これまで政府は,憲法第9条のもとでも日本を防衛するため必要最小限度の自衛権の行使は許されると解しながらも,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」である集団的自衛権については,必要最小限度の範囲を超えるものであって憲法上許されない旨表明し,この憲法解釈を30年以上にわたって一貫して維持してきた。ところが現在,政府は,これまでの政府解釈を大きく変更し,しかも憲法改正手続を経ずして,内閣の閣議決定により,集団的自衛権を容認しようとする動きを示している。しかし,この集団的自衛権の行使容認は,自国が攻撃されていないにもかかわらず他国のために戦争することを可能とし,戦争をしない平和国家としての日本の国の在り方を根本から変えるもので,恒久平和主義を基本原理とする憲法に明らかに違反する。また,このような憲法の基本原理に関わる重大な解釈の変更を憲法改正手続を経ず,時々の政府の判断で行うことは,憲法を最高法規と定め,国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課して,政府や国会を憲法による制約の下に置こうとする立憲主義にも反し,到底許される行為ではない。よって,当会は,恒久平和主義を守り,立憲主義を堅持する観点から,政府の憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認の動きに強く反対の意思を表明するものである。
2014年(平成26年) 5月3日 山形県弁護士会会長峯田典明
商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に反対する会長声明
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1. 経済産業省及び農林水産省は,本年4月5日に「商品先物取引法施行規則」改正案(以下,「本規則案」という。)を公表し,これに対する意見公募を開始した。本規則案には,同規則第102条の2を改正することにより,商品先物取引において,当該業者との間でハイリスク取引を継続的に行っていた顧客に対してのみ認められていた不招請勧誘について,①他の業者とのハイリスク取引の経験者に対する勧誘,②熟慮期間等を設定した契約(顧客が70歳未満であることを確認した上で,基本契約から7日間を経過し,かつ,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合)の勧誘については不招請勧誘禁止の適用除外とする内容が盛り込まれている。
2. しかしながら,商品先物取引は,もともとその仕組みが複雑で消費者に理解しがたく,かつ,リスクの高い取引であることに加え,悪質な業者が,突然の電話や訪問による勧誘によって,商品先物取引の知識や経験に乏しい消費者を取引に巻き込んできたことで,深刻な被害を与えてきた実態がある。このような被害を度重なる行為規制の強化だけでは防止できなかったため,顧客の要請に基づかない勧誘自体を禁止すべきであるという,消費者・被害者関係団体等の強い要望によってようやく,2009年(平成21)7月の商品先物取引法改正で不招請勧誘の禁止が実現し,2011年(平成23年)1月に施行されたばかりである。また,同法が改正される際の国会審議においては,「商品先物取引に関する契約の締結の勧誘を要請していない顧客に対し,一方的に訪問し,又は電話をかけて勧誘することを意味する「不招請勧誘」の禁止については,当面,一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。」,「さらに,施行後1年以内を目処に,規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし,必要に応じて,時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」との附帯決議がされている。ところが本規則案は,事実上,70歳未満の個人顧客に対する不招請勧誘を全面解禁するに等しいものであって,法が個人顧客に対する無差別的な訪問電話勧誘を禁止した趣旨を没却するものである。
3. 熟慮期間を設定することについては,かつて,「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」に類似の規定が設けられていたが,同法が適用される事案においても,熟慮期間を活用して被害救済された例はほとんどなかったという実情を考慮する必要がある。投資可能資金額を過大に記載させて,過大な取引を勧誘する事例や,習熟期間が経過したとたん,取引証拠金を目一杯利用した過当な勧誘が行われる事例が過去多数みられことからすれば,これらは不招請勧誘禁止規定の代替策となりえないものである。
4. さらに,過去のハイリスク取引の経験があったとしても,投機資金や余裕資金を喪失した顧客は,そもそも商品先物取引のような投機取引を行うにはふさわしくなく,過去のハイリスク取引経験者の全般に勧誘を拡大するような本規則案には賛成できない。
5. 不招請勧誘禁止規定の見直しについては,2012年8月に経済産業省に設置された産業構造審議会商品先物取引分科会が「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず,これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため,引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」「将来において,不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として,実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」と取りまとめている。しかしながら。現在も,個人顧客に対し,金の現物取引や損失限定取引を勧誘して顧客との接点を持つや,すぐさま通常の先物取引を勧誘し,多額の損失を与える被害が数多く発生していることが日本弁護士連合会の会員からも報告されており,商品先物取引業者の営業姿勢はまったく変わっていない。農林水産省及び経済産業省も,昨年12月に不招請勧誘禁止規定違反があるとして,ある商品先物取引業者の行政処分を行ったところである。現時点で,不招請勧誘禁止規制の緩和が許容されるような営業実態には全くないのであって,規制は維持されなければならない。
6. 本規則案は,そもそも透明かつ公正な市場を育成し,委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないものである上,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為を除く」(商品先物取引法第214条第9号括弧書き)とする法律の委任の範囲を超え,施行規則によって法律の規定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。内閣府消費者委員会も本年4月8日付けで,本規則案が,「消費者保護の観点から見て,重大な危険をはらむものであることに鑑み,その再考を求める。」旨の意見を公表している。
1. 当会は,本規則案について,商品先物取引の不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするような商品先物取引法施行規則の改正は,消費者保護の観点から手続的にも内容的にも到底許容できるものではなく,強く反対する。
2014年(平成26年)5月1日 山形県弁護士会 会長 峯田 典明
特定秘密保護法の廃止を求める決議
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1. 2013(平成25)年12月6日,第185回国会において,特定秘密の保護に関する法律(以下「本法律」という。)が制定された。
2. 本法律は,国民主権の原理を揺るがし憲法が保障する諸々の基本的人権に脅威を与える懸念があることから,当会でも同年11月19日に会長声明を発するなどして警鐘を鳴らし,日本弁護士連合会や各地の弁護士会とともに,その制定に反対する意思を表明していたところである。当会等が指摘してきた本法律の問題点は,①行政機関の長が指定することのできる「特定秘密」の範囲が広範かつ曖昧であるため,その恣意的判断により本来国民に開示されるべき重大な情報が隠蔽される危険があり,しかも一度特定秘密に指定すれば半ば恒久的に秘匿することが可能となること,②「適性評価制度」の導入により幅広い国民の個人情報が収集され,国民のプライバシーの権利が危険にさらされること,③「特定秘密」の漏えい行為や取得行為については,過失犯や共謀,教唆,煽動まで広く処罰の対象となるうえ,国民の側からはそもそも何が特定秘密として処罰されるのかを予測することが困難なため,国民の国政に関する情報に対するアクセス,ことに報道機関の取材活動に対する萎縮効果は計り知れず,報道機関の取材・報道の自由,ひいては主権者である国民の知る権利を著しく損なうこと,④国会議員も処罰の対象であるため,特定秘密を知得した国会議員が当該秘密に関して同じ会派の議員や専門家に相談をすることすらできず,国会の行政に対する民主的コントロール機能を後退させること,⑤特定秘密の漏えい等に関して起訴された場合,対象となる特定秘密の内容が明らかにならない状態で裁判が進められ,適正な裁判を受ける権利までも失われるおそれがあることなどであり,他にも多くの問題点が存する。
3. そのため,本法律に対しては,日本弁護士連合会や各地の弁護士会のみならず,学者,報道機関,作家,映画監督などを含む広範かつ多数の国民から,本法律の制定に反対する意見や慎重な国会審議を求める声が続々とあがっていた。衆議院での採決前に福島市で開かれた地方公聴会では,7名の公聴人全員が反対の意見を述べたほどである。さらに国連人権高等弁務官からも,秘密の要件が明確でなく,これでは政府がどんな不都合な情報も秘密に指定できてしまうとの懸念が示されていた。
4. したがって,本法律案の国会審議は,そうした反対意見に耳を傾け,国民に対する説明を尽くして,慎重なうえにも慎重になされるのが民主国家として当然の姿であるところ,政府与党は,上記のような強い反対意見や慎重審議を求める国民世論を振り切って,本法律案が国会へ提出されてからわずか1か月半あまりの短期間のうちに,衆議院でも参議院でも採決を強行し,本法律を成立させた。これは,本法律の内容のみならず,手続的にも国民主権,民主主義の理念を踏みにじる暴挙といわなければならない。当会はこれに強く抗議する。
2. 本法律は2013(平成25)年12月13日に公布され,公布後1年以内に施行されることになっているが,上記のとおり本法律は,到底看過することのできない憲法原理に関わる重大な問題を数多く含んでおり,抜本的な見直しがなされるべきであって,その観点から当会は本法律の廃止を求めるものである。以上のとおり決議する。
2014年(平成26年) 2月28日 山形県弁護士会
適正な弁護士人口及び給費制復活を含む司法修習生への経済的支援を求める決議
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決議の趣旨
1. 当会は,政府に対して,2014年より司法試験合格者を1,000人以下にすることを求める。
2. また,早急に給費制復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期,第66期,第67期の司法修習生に対しても遡及的に適切な措置が採られることを求める。
決議の理由
第1.適正な弁護士人口について。
1. 法務省の発表によれば2013年の司法試験合格者数は2,049人であった。司法試験の合格者は1990年までは年間約500人であったが,その後に増員が繰り返され,2002年から約1,200人,2004年から約1,500人と増加し,2007年以降は2,000人台に増加されてきた。この司法試験合格者数の増加は,司法修習修了後の判事補,検事への任官者数が増加していないため(逆に近年は減少傾向にある),必然的に弁護士人口の大幅な増加に直結し,2000年3月に1万7,126人であったところ,2014年2月に3万5,445人と14年間で2倍以上に急増した。そして,この弁護士人口の急激な増加は,司法修習生の就職難,新人弁護士の既存の法律事務所での研鑚(OJT)の機会の不足,ひいては法曹志願者数の激減などの様々な問題を生じさせた。そこで日弁連は,2012年3月15日の理事会で「法曹人口対策に関する提言」を決議し,「司法試験合格者数をまず1,500人まで減員し,更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべき」であることを提唱した。しかし,2013年12月の一括登録時点における弁護士未登録者数は584人,28.7%にのぼる一方,法曹志願者数の激減にも全く歯止めがかからないなど事態の進展は極めて深刻であり,法曹すなわち司法を支える制度自体が危機的状況にあると言わざるをえない。
2. 言うまでもなく基本的人権の擁護と社会正義実現をはかるためにわが国憲法における司法は重要な役割を求められている。特に弁護士は,民間職業人でありながら,憲法上刑事裁判において人権擁護のための重要な機関とされており,民事訴訟,行政訴訟においても,弁護士が代理人として具体的事件を取り上げて訴訟を提起し,法廷活動を行うことによってはじめて裁判所の人権擁護や,社会正義に資する政策形成がなされるのであり,司法制度における弁護士の役割は必要不可欠かつ極めて重要なもので公共的機関性を有するものである。従って,弁護士業務は,その職務に関して高度の資質が求められ(弁護士法1条第2項),国家権力からの独立性とその前提としての経済的独立性も必要不可欠なものである。新規登録弁護士の就職難が社会問題化していることは周知の事実である。既存の法律事務所における研鑚(OJT)の機会もなく,経済的独立すらおぼつかない新人弁護士が急増すれば,国民の基本的人権の尊重や社会正義の実現という弁護士の責務を十分に尽くすことができず,その不利益が国民に及ぶおそれを生じさせる。さらに法科大学院入学志望者数の推移にみられるように法曹志望者が激減している実情は,この問題が一刻の猶予も許されない極めて深刻な事態であることを示している。法曹志望者の激減の原因は,法曹資格取得後の就職や開業に十分な見通しを立てることができない司法修習修了者や新規登録弁護士の実情が明らかになっているためである。このような状況が今後も続く限り,将来法曹を担うべき有為な人材がいなくなることになり,司法が機能しなくなる可能性も否定できない。
3. 当会は,適正な法曹人口について山形県内の事情を加味しながら,2002年10月24日に平成14年山形県地域司法計画案決議をし,2009年2月27日には司法試験合格者数を1,500人程度にとどめるべしとの総会決議をした。すなわち,前記司法計画案においては,県内の需要調査を行なったうえで10年以内52名の会員数を80名に増員することが必要としたが(被疑者国選制度実現をひかえての政策的目的もあった),2009年の総会決議時点では,その増員の見通しがついたとして,適正弁護士人口を考慮しての1,500人決議であった。しかるにその後も当会の会員数は増加し,2014年2月時点では会員数90名となった。司法制度改革は,国民の法的サービスに対する利便性の向上の観点,すなわち弁護士過疎地域の解消も目的とされてきたところ,山形県内でも,本庁管内で59名,米沢支部管内で10名,鶴岡支部管内で9名,酒田支部管内で8名,新庄支部管内で4名の弁護士がそれぞれ活動しており,山形県内のどの圏域でも弁護士への需要に対して十分に応えられる体制が整っている。他方,山形県内人口は,1988年をピークに減少し続けており,2013年までに12万人以上減少しており,今後も減少し続けることが予想される。事件数においても,破産事件は2009年より急激に減少しており,一般民事事件ももともと横ばいあるいは減少傾向にあったものが,一時的には過払い金訴訟などの急増で全体として増加したものの,それらの事件の減少により全体の減少傾向がはっきりとし,今後増加に転じる要因はみあたらず,刑事・家事事件も明確な増加の傾向にはない。また,弁護士の増加を必要とするだけの活動領域が,訴訟事件以外の分野で大きく拡大しているという事実もない。当会会員の9割近くは民事法律扶助の契約弁護士となり,県民の法的需要に応えてきたが,2011年より扶助件数は減少に転じている。
4. 前述のような法的需要の減少は当会に限ったことではなく全国的な傾向である。日弁連が1,500人減員の理事会決議をした後も,司法試験合格者数は,2012年2,102人,2013年2,049人と2,000人台を維持しており,合格者増による前記弊害は解消されることなく拡大しており,まさに猶予のない状況である。このまま2,000人合格の場合は,法曹人口は2048年ころには8万6,000人ほどに,1,500人合格の場合は同じく6万6,000人ほどとなり,仮に1,000人に減員したとしても,2043年ころには5万人ほどとなり,いずれにしても弁護士人口が増え続けることは確実である。
5. 弁護士人口が既に供給過剰に陥っていることは,総務省による法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価(2012年4月)によっても明らかにされているところである。
6. 従って,当会が1,500人減員総会決議をした当時から司法試験合格者数は2,000人台を維持したままでさらに状況は悪化していることから,2014年より直ちに1,000人以下に減員することを求めるものである。
第2.給費制復活を含む司法修習生への経済的支援について。
1. 司法修習生は,最高裁判所によって採用を命じられ(裁判所法第66条第1項),守秘義務を負うほか,司法を担う法曹としての高い専門性を修得するため1年間司法修習に専念する義務を負い(同法第67条第2項),兼業・兼職が禁止され,収入を得る道はない。また,司法修習生は,全国各地に配属され司法修習を行うため,現在の居住地とは異なる場所に配属され,引越費用や住居費などの出費を余儀なくされることもある。このような司法修習生の法的地位及び実態を踏まえ,新第64期及び現行第65期までの司法修習生に対しては,司法修習中の生活費等の必要な費用が国費から支給されていた(以下「給費制」という。)。しかし,2011年11月から司法修習を開始した新第65期の司法修習生から,給費制は廃止され,司法修習費用を貸与する制度に移行した(以下「貸与制」という。)。
2. 日本弁護士連合会は,昨年6月,新第65期司法修習生に対し,司法修習中の生活実態を明らかにすることを目的としてアンケートを実施した。このアンケートの集計結果によれば,28.2%の司法修習生が司法修習を辞退することを考えたことがあると回答し,その理由として,86.1%が貸与制,74.8%が弁護士の就職難・経済的困窮を挙げた。すなわち,司法試験に合格していながら,経済的理由から法曹への道をあきらめることを検討した者が3割近くもいる実態が明らかになった。さらに,司法修習生の月平均の支出額は,住居費の負担がない場合が13万8,000円であるのに対し,住居費の負担がある場合は21万5,800円であった。司法修習の開始に伴い修習配属地への引越が必要だった司法修習生は,約6割を占め,この場合には,引越費用等で平均25万7,500円が別途必要になる。山形の新第65期司法修習生に対するアンケート結果においても11名が,引越費用や就職活動のための交通費等の負担での生活は大変であったと回答し,貸与制による借金を抱えての将来に対する不安を訴えている。また,第66期に対するアンケート結果においては,今後の修習生活費に対する不安,就職難に対する不安,将来借金返済が可能か不安に感じている者がほとんどであった。以上のとおり,新第65期司法修習生及び第66期司法修習生に対する生活実態アンケートにより,貸与制の不平等さや不合理さが改めて明確になった。司法修習生の多くは大学及び法科大学院の奨学金等の返済義務を負担しており,更に貸与制による借金が加算されることになる。こうした経済的負担の重さや昨今のいわゆる「就職難」が法曹志願者を減少させ,有為で多様な人材が法曹の道を断念する一因となっている。
3. そもそも三権の一翼を担う司法における人材養成の根幹をなす制度負担について,本来財政的事情のみで私費負担とすべきではなく,前述のような将来に対する不安を抱えながらの司法修習は,司法修習制度の目的実現にとって悪い影響となることは否定できない。そして,前述したとおり,司法研修所を卒業した66期のうち,一括登録日に弁護士として活動するために必要な弁護士会への登録を行わなかったものが584人と過去最多になっている(その後の弁護士登録予定者を控除した未登録者数でも400人を超えている)。これは貸与制も含めた負担の増大と就職難が大きな理由と考えられる。
4. 2012年7月に成立した裁判所法の一部を改正する法律によれば,「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ,検討が行われるべき」ことが確認された。これを受けて,昨年8月21日の閣議決定により法曹養成制度検討会議が設置された。同検討会では,法曹養成制度において司法修習は重要な役割を担っており,司法修習生を修習に専念させる必要性があることから,給費制が制度化されていたことや,法科大学院制度を導入したうえで給費制を廃止すれば,経済的に余裕のない者が生じるなど,給費制廃止の弊害も指摘されていた。また,パブコメでは,2,400件もの意見が寄せられ,その大多数が給費制の復活を求める意見であった。しかるに,同検討会は,貸与制を前提とした中間的取りまとめをし,修習専念義務を緩和して一部アルバイトを認めるなど,極めて不十分かつ不合理な内容となっている。
5. そもそも,良質な法曹に支えられている司法制度は,法の支配の確保と国民の基本的人権の保障のための重要な社会的インフラである。したがって,法曹養成は国が責任をもって行うべきものである。弁護士を含む法曹が,社会正義実現の担い手として地域社会の各方面で公共的な役割を積極的に果たしていることも,国家国民の負担により養成された者としての自覚の現れであるということもできるのである。
3. 当会は,有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう,早急に給費制復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期,第66期,第67期の司法修習生に対しても遡及的に適切な措置が採られることを求めるものである。
2014年(平成26年) 2月28日 山形県弁護士会