棄却判決が確定した後に続々と言い渡された認容判決、その中でも特に満額判決は、一体何を根拠としていたのか。確定した判例は参照されたのか、裁判官にはそれを説明する責任がある。
弁論が終結した時点で、神原元弁護士は和解金を111万9666円受領済みであり、同様に宋惠燕弁護士も和解金111万9666円を受領済みであった。
平成30年(ワ)第14392号 損害賠償請求事件
平成31年4月25日判決言渡し
原告らは控訴せず令和元年5月10日判決確定
原告 神原元弁護士 請求額50万円
宋惠燕弁護士 請求額55万円
判決主文
1 原告らの本訴請求をいずれも棄却する。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は、本訴・反訴を通じこれを3分し、その1を原告宋の、その1を原告神原の、その余を被告の負担とする。
神原弁護士と宋弁護士による、懲戒請求者への和解金の請求
原告らは、平成30年5月9日、東京地方裁判所に対し、本件本訴を提起した。
原告らは、本件本訴提起と並行して、平成30年5月頃以降、別紙の懲戒請求を行った者らに対し、訴え提起前の和解を提案する内容の通知書及び合意書のひな形を送付した。合意書のひな形には、和解条項として、①懲戒請求者は、懲戒請求に理由がなく違法であることを認めて謝罪すること、②懲戒請求者は、懲戒請求による損害賠償責務として、対象となった弁護士1人当たり5万円の支払い義務を認め、平成30年6月末日限り、同債務の履行を行うことなどが記載されている(乙3)
原告らは、平成30年10月16日までに、懲戒請求を行った者らのうち24名との間で訴え提起前の和解を成立させ、和解金として、原告ら各自につき、それぞれ合計111万9666円の支払を受けた。
なお、最も早く和解が成立した日は、平成30年5月12日であり、最も早く和解金が支払われた日は、同月14日である。(甲17ないし19)
損害額等の算定等
ア 前記⑴アのとおり、本件懲戒請求は、本件ブログの呼びかけに応じ、同一内容の懲戒請求書により、本件ブログの運営者の取り纏めにより行われた多数(1141件)の懲戒請求の一部であるところ、これらの懲戒請求は、客観的にも主観的にも共同する行為と認めるのが相当である。
イ(ア) そして、前記認定事実⑶イないしオの経過に照らせば、原告らは、神奈川県弁護士会からの調査開始通知書(平成30年6月28日)により、本件懲戒請求を含む201件の懲戒請求について一括して認識し、その後に通知された懲戒請求(940件)についても同一内容の弁明書を提出している。以上の事情に照らせば、原告らは、当初の201件の懲戒請求につき一括して認識し、さらに、当該時点において、その後も同様の懲戒請求が係属することを認識していたものと認めるのが相当である。
以上によれば、原告らの精神的損害は、本件懲戒請求を含む多数の懲戒請求により、一括して発生したものと認めるのが相当であり、個別の懲戒請求により個々に発生したものとは認め難い。
(イ) この点、原告らの主張中には、原告らの損害(弁明の準備等)の大部分が、当初の201件の懲戒請求(本件懲戒請求を含む)により生じたものであり、その後の懲戒請求に係る損害を区別すべき旨を主張する部分があるが、前記(ア)で述べたところに加え、証拠(甲13,14の各1,2,甲15,16の各1)によれば、原告らの最初の弁明書の提出(平成29年7月13日)に先立ち、第2次の懲戒請求に係る調査開始の通知(同月5日付)がされたものと認められることに照らして採用できない。
ウ 以上を前提として、原告らの損害額につき検討する。
(ア) 本件懲戒請求を含む多数の懲戒請求(1141件)は、それ自体が、多数の者の原告らに対する敵意の存在を示すものであり、本件ブログ等により、これが拡散する可能性を考慮すれば、原告らの精神的損害は、相応に評価すべきものといいうる。
(イ) 一方で、本件懲戒請求の記載内容に加え、原告らの弁明書(甲15,16[枝番を含む。])の内容が極めて簡潔なものであることに照らせば、原告らにおいて、懲戒処分を受ける危険の観点から精神的な損害を受けたものとは考え難く、懲戒手続に係る事務的な負担等も、比較的軽微なものと評価するほかない。また、原告らの主張する身分上の制約等についても、原告らに具体的な支障等が生じたことは窺われない。
(ウ) また、本件ブログ上の記事(前記認定事実⑶ウ)以外に、原告らに対する懲戒請求につき、原告らを批判する趣旨で広範な報道等がされた形跡はなく、現時点において、原告らの社会的評価の低下につき、原告らに深刻な被害があったものとは認めがたい。
(エ) 以上を考慮すると、前記(ア)の多数の懲戒請求により原告らに生じた損害は、原告ら各自につき100万円を上回ることはなく、原告宋の主張する弁護士費用を考慮しても、110万円を上回ることはないものと認めるのが相当である。
⑶ア そして、前記認定事実⑶ケのとおり、原告らは、各自111万9666円の和解金を受領しているところ、原告らの前記⑵ウ(エ)の損害は、上記和解金の受領により、既に補填されたものと認められる。
イ これに対し、原告らは、原告らに生じた名誉棄損の損害は、個々の懲戒請求の積み上げにより生じたものと考えるべきであり、また、原告らが前記和解金の受領につき、その後の名誉棄損により精神的苦痛が生じなくなるとはいえないから、単純に損益相殺を行うべきではないと主張する。
しかしながら、本件懲戒請求を含む原告らの損害の発生につき、前記⑵イのとおり判断される以上、その損害額及び填補の有無は、本件の口頭弁論終結時を基準時として判断するほかはない。仮に、上記基準時後に新たに多数の懲戒請求がされた場合には、これらの懲戒請求に係る原告らの損害が発生する余地はあるとしても、当該事情は、当裁判所の判断の対象外というほかない。
⑷以上によれば、本件懲戒請求を含む多数の懲戒請求による原告らの損害は、既に填補されたものと認められる。
そうすると、原告らの本訴請求はいずれも理由がないこととなる。
結論
以上によれば、原告らの本件本訴請求及び被告の本件反訴請求はいずれも理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。