奈良弁護士会
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大阪市のアンケート調査の撤回を求める会長声明
2012/03/14
奈良弁護士会 会長 飯田 誠
大阪市は、本年2月9日、「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動」について「徹底した調査・実態解明」を行うためと称し、市職員に対する政治活動・組合活動等に関するアンケート実施を各所属長に依頼した。
本依頼と一体となった橋下徹大阪市長の職員への要請文書には、「このアンケート調査は、任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。」と明記されている。しかも、今回の回答方法について「速やかに集計・分析を行う必要があるため、紙での回答は受け付けません」とし、「庁内ポータルサイト」内の「アンケートサイト」利用を求めるとともに、「各職員には総務局人事課から調査依頼を個人アドレス宛てに送付」するとされている。つまり、本アンケート調査は強制力を持ち、誰が回答し、回答していないかが一目瞭然となる仕組みとなっている。
そこで、本アンケートの内容を検討するに、全22の詳細な質問項目からなっており、組合活動や政治活動に参加した経験があるか、それが自己の意思によるのか、職場で選挙のことが話題になったか否か等について実名で回答を求めるとともに、組合活動や政治活動への参加を勧誘した者の氏名について無記名での通報を勧奨している。建前上、本アンケートは外部の「特別チーム」だけが見るとされていても、アンケート内容により処分を行うとされている以上、結局は市当局がアンケート内容を知ることに変わりはない。
このようなアンケートは、労働基本権を侵害するのみならず、表現の自由や思想良心の自由といった憲法上の重要な権利を侵すものである。
すなわち、まず、本アンケートが職員に組合活動の参加歴等につき詳細な回答を求めることは、実質的に労働組合にとどまり、あるいは新たに加入することに心理的圧迫を与えるもので、労働組合活動を妨害する不当労働行為(支配介入)に該当し、憲法で保障された労働者の団結権を危うくするものであることは明らかである。
また、政治活動への参加歴や職場で選挙のことが話題にされることを一律に問題視して回答を求めることは、憲法21条によって保障された政治活動や政治的意見表明を萎縮させ、その自由を不当に侵害するものである。なるほど、地方公務員は公職選挙法により公務員の地位利用による選挙運動が禁止されており、非現業の地方公務員は地方公務員法により政党その他の政治団体の結成関与や役員就任等、勤務区域における選挙運動などが限定的に禁止されている。しかし、本アンケートの質問項目は、その禁止の範囲を明らかに逸脱しており、必要性、相当性を欠く過度な制約である。その意味でも本アンケートは不当なものである。
さらに、本アンケートが、アンケート項目の内容が「違法行為」であるかのごとき前提で、懲戒処分付きの業務命令でなされていることに鑑みれば、同アンケートはいわば職員に対する「踏み絵」であって、憲法19条が保障する思想良心の自由を侵害するものである。
加えて、本アンケートには、他の職員、職場の関係者ないし一般市民の言動についての質問項目が含まれており、これらについては無記名での情報提供を勧奨している。
従って、本アンケートは当該公務員のみならず、一般市民を含むより広汎な関係者の憲法上の権利に重大な侵害を与えるものであると言わざるを得ない。大阪市においてこのようなアンケートが実施されれば、他の地方自治体にも波及し、全国の地方公務員の人権を危うくするおそれが高い。
よって、当会は、大阪市に対し、このような重大な人権侵害を伴うアンケートの違法性を認め、撤回することを求めるものである。
秋田弁護士会所属会員の殺害事件に関する会長声明
2010/12/13
奈良弁護士会 会長 朝守 令彦
本年11月4日の早朝,秋田弁護士会に所属の津谷裕貴弁護士が,ガラス戸を割って自宅に侵入した男に刺されて死亡するという事件が発生した。津谷弁護士は,市民の立場に立ち,消費者問題に長年取り組み,日本弁護士連合会消費者問題対策委員会の委員長に就任するなど,会活動において,中心的役割を担われていた。本年7月に奈良市で開催された日本弁護士連合会消費者問題対策委員会の第21回夏期消費者セミナーにも津谷弁護士は委員長として出席され,開催の挨拶をいただいた。当会は,津谷弁護士のご冥福を祈り,ご遺族に対して心から哀悼の意を表する。
報道によると,男は津谷弁護士が受任していた離婚調停事件の相手方だったとのことであり,刺殺事件は,同弁護士の弁護士業務に関連して発生したものと思われる。本年6月2日にも横浜弁護士会に所属する弁護士が,事件の相手方に法律事務所内で刺されて死亡するという事件が発生している。
弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命としているが,この使命は,弁護士の生命身体の安全が確保され,自由な弁護士活動を行うことができる環境があって初めて実現できるものである。
当会は,弁護士業務に対する暴力行為の排除及び予防に一層取り組み,今後も,これに毅然と対応し,弁護士としての使命をまっとうしていくことを,ここに表明する。
司法修習生に対する給費制の維持を求める会長声明
2010/07/13
奈良弁護士会 会長 朝守 令彦
2004(平成16)年成立の改正裁判所法に基づき、2010(平成22)年11月から司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)が廃止され、これに代えて、希望する者に対して修習期間中の生活費を国が貸与する制度(貸与制)が実施される予定となっている。
ところで司法修習制度は、司法修習生が将来、弁護士、裁判官又は検察官のいずれかになるかを問わず、法の支配を実現するために必要不可欠な我が国の司法制度を担う人材を養成するという極めて重要な役割を担っている。従って、こうした人材を国費で養成することは、国の当然の責務である。
これまでは、司法修習生を修習に専念させるため、兼職の禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課す一方で、その生活を保障するために給費制がとられてきた。給費制により、法曹資格は貧富の差を問わず広く開かれ、多様な人材が弁護士、裁判官又は検察官として輩出されてきた。
しかし、給費制が廃止され貸与制に移行すれば、経済的余裕のある者でなければ法曹になれないという弊害を招くことを避けられない。司法制度改革により、法科大学院制度が導入された結果、法曹を志すものは司法修習生になるまでに多大な経済的負担を負っている。現に日弁連が2009(平成21)年11月に新63期司法修習予定者を対象に実施したアンケート結果によれば、平均318万8000円、最高1200万円の奨学金の貸与を受けていることが判明している。この様な状況下で給費制が廃止されれば、さらに経済的負担の増大は避けられず、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質、能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も想定され、その弊害は甚大である。
給費制を廃止することは、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹の養成を担ってきた司法修習制度の根幹を揺るがしかねない重大な問題である。
よって、当会は、2004(平成16)年の裁判所法改正を見直し、貸与制を実施することなく、給費制を維持することを強く求めるものである。
民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明
2010/06/22
奈良弁護士会 会長 朝守 令彦
選択的夫婦別姓や婚外子の相続分差別撤廃等を内容とする民法(家族法)の改正は、14年前に法制審の答申が出されながら、現在においても実現していない。
夫婦同姓の規定(民法750条)によって、女性の多くが婚姻の際に姓の変更を余儀なくされ、職業上も生活上も様々な不利益を被っている。先進国では婚姻後の夫婦同姓を強制しているのは日本のみである。個人のアイデンティティとして婚姻前の氏を使い続けるというライフスタイルの選択は、憲法13条等に照らし、十分に尊重されなければならない。
2006年の内閣府の調査によると、60歳未満の年齢層では選択的夫婦別姓の導入に賛成する者が反対する者を上回っている。2009年9月以降に複数の新聞社により実施された調査ではいずれも、選択的夫婦別姓の導入に賛成の者の数は反対の者の数を上回っている。政府及び国会はこのような国民の声を真摯に受け止めるべきである。
また、婚外子の相続分差別規定(民法900条4号)は、子自身の意思や努力によっていかんともし難い事実をもって差別をするものであり、憲法13条、14条及び24条2項に反することは明らかである。最高裁判決においても、相続分差別を撤廃すべきであるという意見が述べられている。
さらに、女性に対する再婚禁止期間の規定(民法733条)については、その趣旨は父性の推定の重複を回避し,父子関係を巡る紛争の発生を未然に防ぐことにあるとされているが、科学技術の発達によりその根拠は既に失われている。
加えて,婚姻年齢(民法731条)の統一も、憲法14条及び24条2項から当然に要請されることである。
1993年以来、日本政府は国連の各種委員会から、家族法の改正に関する勧告を繰り返し受けてきた。とりわけ2009年には、女性差別撤廃委員会から、家族法改正を最優先課題として指摘され、2年以内の書面による詳細な報告を求められるなど、早期改正を行うよう厳しい勧告を受けている。
本会は、国会において、選択的夫婦別姓の導入をはじめ、家族法の差別的規定の改正が速やかに実現されることを強く求める。
取調べの可視化の早期実現を求める会長声明
2010/05/17
奈良弁護士会 会長 朝守 令彦
捜査機関は、被疑者を代用刑事施設に留置し、弁護人の立ち会いなく孤立させて、長時間取調べる。被疑者は自分の言い分を聞いてもらえないことに絶望し、やってもいないことを「私がやりました。」と自白する。このような虚偽自白が重要・唯一の証拠であるかのように扱われた結果、えん罪が後をたたない。
2010(平成22)年3月26日、いわゆる足利事件の菅家さんに対し、無罪判決が言い渡された。これを受けた最高検察庁と警察庁は、捜査過程の検証結果と今後の防止策を表明した。その中で、両庁は、自白偏重の捜査手法を自己批判どころか、菅家さんの「強く言われるとなかなか反論できない性格」ゆえに虚偽自白がなされた特殊な事件であったかのように位置づけ、今後は取調べの「相手方の特性に応じた取調べ方法」を用いれば虚偽自白が防げると主張する。
しかし、足利事件のみならず、他のえん罪事件においても共通することは、被疑者は、自分の言い分を聞いてもらえないことに疲れて、やってもいない罪を認め、再び詰問されるのを恐れて、想像で犯行を供述するのである。えん罪は、被疑者の性格に関わる問題ではない。誰でもえん罪の被害者になりうる、取調べシステムの問題である。
捜査機関は、取調べの全過程を録画すると自白が得られにくくなり、真相解明が不可能になるというが、自白がなくとも客観的証拠によれば真相解明ができるし、そうしなければならないのが刑事裁判の大原則である。取調べを録画したら自白が得られないなどと主張すること自体、密室で「見られたら困る」取調べをしていることの証左である。現在既に実施されている被疑者が自白した後の一部録画では、自白に至る過程が適正であったかを検証する術がなく、虚偽自白を塗り固めるばかりで、えん罪を助長することになる。
えん罪は、国家による究極の人権侵害である。裁判員を含む一般国民の多くは、「捜査機関が違法な取調べをするはずがない。被疑者は、自分がやってもいないことをやったと言うはずがない。」と考えがちである。取調べの全過程の可視化こそが、違法な取調べの防止に最良かつ簡潔明瞭な手段なのである。
本会は、内閣及び国会に対し、直ちに取調べの全面可視化に関する諸法令を制定し、完全実施することを求める。
生活保護申請の代理に関する会長声明
2009/06/23
奈良弁護士会 会長 藤井 茂久
1.厚生労働省が本年3月に策定した生活保護問答集(以下、「問答集」という)では、「代理人による保護申請はなじまないものと解することができる」との見解が表明されている。この問答集は、生活保護行政の運用の方針等を示すものとして取り扱われており、今後、全国各地の実施機関において、弁護士による代理申請を受付けない、あるいは弁護士を申請者の代理人として認めないとの対応がなされる可能性がある。
しかし、上記のような見解は不当であり、当会は到底これを容認することはできない。厚生労働省は、直ちに問答集における上記見解を削除すべきである。
また、各実施機関は、今後も、申請者から委任を受けた弁護士を申請者の代理人として認め、そのように取り扱うべきである。
2.上記問答集において厚生労働省は、「生活保護の申請は、本人の意思に基づくものであることを大原則としている」ことを理由に挙げるが、全く失当である。
代理人たる弁護士は、当然、本人の意思を確認した上で申請に及んでいるところである。また、生活保護の申請行為の代理も、権利義務ないし法律関係の存否等に関する紛争を取扱うものである点で「一般の法律事務」として弁護士法3条が規定する弁護士の職務に含まれ、これをあえて除外すべき理論的根拠もない。
3.ところで、生活保護行政におけるいわゆる「水際作戦」等の違法な運用に対し、弁護士が代理人として生活保護申請をする等の活動を行うことによって要保護者の権利が擁護された例は、枚挙に暇がない。奈良県においても同様であり、高齢者や障がい者等を含む生活困窮者の代理人として生活保護申請に関わることで、ようやく受給が開始された例が少なからず存在する。
そもそも、生活保護行政においては、申請者に対し、実施機関による助言・教示が適切に行われておらず、その結果、生活保護受給は国民の正当な権利であるにもかかわらず、要保護者本人だけでは、なかなか行使できないのが実態である。このようなときこそ、弁護士が代理人として保護申請を行う等の支援・援助が必要となる。法テラスが、弁護士による生活保護の申請代理を日弁連委託援助業務の対象として取り扱っているのも、このような実態を前提としている。
4.厚生労働省の上記見解は、生活保護受給へ向けた弁護士による支援・援助をも強く制限するもので、ひいては憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」すら脅かしかねない。
取調べの可視化(取調べの全過程の録画)実現を求める会長声明
2008/06/23
奈良弁護士会 会長 藤本 卓司
違法な取調べを根絶するには可視化しかない。
不当な取調べを根絶するには可視化しかない。
そもそも、自白を強要することは憲法38条に違反する。
ところが、被疑者等の取調べは取調室という密室で行われているために、被疑者等が捜査官によって虚偽の自白をさせられたり、捜査官が被疑者等の供述と違う内容の調書を作成したりすることが少なくない。
免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件のいわゆる死刑・再審無罪4事件だけでなく、最近の宇和島事件、志布志事件、氷見事件、北方事件からも明らかなように、虚偽の自白を誘発する違法・不当な取調べは現在でも行われている。
密室での取調べにおいて何が行われたか、については客観的に証明する手段がない。そのため、捜査段階で虚偽の自白が強制されて供述調書が作成されてしまうと、後に公判廷において、その任意性や信用性を争っても、取調官や被告人等の尋問に膨大な時間が費やされることになり、裁判は長期化し、冤罪を生んでしまう。
密室における自白強要を防止し、取調べの適正を確保する最善の方法は、被疑者等の取調べの全過程を録画することである。
この取調べの可視化は、今や世界の潮流であり、イギリス、オーストラリア、アメリカの各州、イタリア、香港、台湾、韓国、モンゴル等で取調べの録画や録音が実施されている。
わが国では、2009年5月21日から、市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が実施される。取調べの全過程を録画すれば、密室での取調べ状況を客観的に把握でき、自白の任意性や信用性の審理を合理化することができる。裁判員に加重な負担をかけないで裁判員裁判を円滑に実施するためにも、取調べの可視化は早急に実現されなければならない
現在、検察庁は、検察官による取調べの一部を試行的に録画している。警察庁も取調べの一部録画の試行を予定している。しかし、これらの一部録画は、自白調書作成後に取調べ状況を確認するだけのものにすぎず、違法・不当な取調べを抑止することはできない
取調べの適正化を図り、自白の任意性・信用性の審理を合理化し、虚偽自白に基づく冤罪を根絶するためには、検察官による取調べのみならず、警察官による取調べも含めた全ての取調べの可視化を実現するしかない。
奈良弁護士会は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の実現を強く求める。
少年法「改正」法案に反対する会長声明
2008/05/20
奈良弁護士会 会長 藤本 卓司
1.政府は、本年3月7日、少年法の一部を改正する法律案(以下「同法案」という。)を国会に上程した。
同法案は(1)一定の結果が重大な犯罪について、犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認めること、(2)記録の閲覧・謄写につき、その要件を現行法よりもさらに緩和することなどを内容とする。
しかし、当会は、以下の理由から同法案に反対する。
2.少年法は、「少年の健全育成」(1条)を目的とし、少年の保護・教育の優先をうたっている。
これは、少年が成長発達の途上にあり、可塑性に富むことから、可能な限り教育による改善更生を図ることが再犯の防止にも有効であり、少年の成長を支援することが出来るとの考え方に基づくものである。
このような目的を実現するため、少年審判は、非行事実の認定のみならず、非行をおこすに至った背景・要因を正確に把握し対処することが必要とされる。
そのため、少年審判は「懇切を旨として、和やかに行う」(22条1項)とされている。これは、事件をおこした少年が生育環境や資質・性格に大きな問題をかかえていることを踏まえ、まず少年からその悩みや不満、家族やプライバシーに関する事項を萎縮することなく率直に述べてもらうためである。
そして、少年の率直な発言をきっかけに、少年の持つ問題点を浮き彫りにし、その未熟さを自覚させる過程を経て、はじめて少年は自らがもたらした被害に向き合い、内省を深めることができるようになる。
ところが、被害者等が審判の傍聴をした場合、精神的に未熟で社会的経験も乏しい少年は、心理的に萎縮して、率直に自分の生育歴や思いを語ることができなくなるおそれが大きい。特に審判は、事件発生から間もない時期に開かれるため、少年のみならず、被害者等にとっても心理的動揺がまだ大きい状況にあり、そのような状況下で被害者等が審判を傍聴することにより、少年審判は緊張した雰囲気とならざるを得ず、少年法の理念に基づいた審判運営は極めて困難となる。
また、裁判官や調査官、附添人などの関係者は、少年と親族のプライバシーに配慮せざるをえなくなり、少年の生育歴や家族関係の問題といったプライバシーに深く関わる事項を取り上げることが困難となり、非行の原因を十分に掘り下げることができず、かつ適切な処分を選択することが出来なくなる。
3.また、同法案は、閲覧・謄写の要件を現行法よりも緩和し、閲覧・謄写を原則可能とし、対象となる記録の範囲も法律記録の少年の身上経歴等に関する部分にまで拡大している。
しかし、このような法改正は、少年や親族等の関係者のプライバシーを害するおそれが高く、その後の少年の更生を困難にしかねない。現行法の運用上、被害者等による記録の閲覧・謄写は十分に機能しており、これ以上に閲覧・謄写を原則可能とし、対象となる記録の範囲を拡大する必要性はない。
4.被害者等の保護・支援は重要であり、被害者等の事実を知りたいという心情も尊重されるべきである。しかし、以上のとおり同法案は少年法の基本理念を根本から脅かすものであり、あまりに弊害が大きい。
被害者等の支援は、関係各機関が連携し、2000年(平成12年)少年法改正で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写、被害者等の意見聴取、審判の結果通知の各規定の存在をさらに丁寧に知らせるとともに、被害者に対する経済的、精神的支援制度を早期に充実することによるべきである。
5.以上のとおりであり、当会は、(1)被害者等に少年審判の傍聴を認めること、(2)記録の閲覧・謄写の要件を緩和することに関する同法案に強く反対するものである。
憲法改正手続法の抜本的な修正を求める会長声明
2007/05/29
奈良弁護士会 会長 田中 啓義
「日本国憲法の改正手続に関する法律」は、2007年4月13日の衆議院本会議に引き続き、5月14日の参議院本会議で慎重な審議を求める多数の国民の意見に反して採決がなされ、与党の賛成多数で可決成立となった。
同法は、国民が主権者として、国の最高法規である憲法の改正案を承認するかどうかの意思を表明する憲法改正国民投票の手続を定めるものであり、その内容をどのように定めるかは、国民投票の結果に重大な影響を及ぼすものである。そのため、慎重な審議を求める声が多くの国民から寄せられ、地方公聴会や参考人質疑でも、法案への賛否の立場を越えて慎重な審議を求める声が一致して出されていた。しかるに、衆議院においては、中央公聴会が2回、地方公聴会が大阪と新潟の2箇所で開かれたのみで、参議院においては連日の委員会の開催で拙速に審議を進め、中央公聴会も開かずに審議を打ち切り、委員会及び本会議の採決をしたことは極めて遺憾である。
そして、成立した法律は、衆議院段階で一部修正がなされたものの、(1)最低投票率を定める規定がなく、ごく少数の賛成により憲法改正がなされるおそれがあること、(2)投票日前14日間、テレビ・ラジオの有料意見広告を一律に禁止することは、表現の自由に対する過度の規制である一方で、それまでの期間は何ら規制が加えられておらず、資金力ある政党・団体が有料意見広告を独占的に行うおそれを排除できないこと、(3)公務員・教育者について広汎な運動規制がかかり、自由であるべき憲法改正問題についての論議の萎縮が起こること、(4)一括投票の余地が残されていること、(5)国民投票広報協議会の構成が各議院における各会派の所属議員の比率により選任されるため、反対意見が適切に反映されないおそれがあることなど、多くの問題点が残されたままとされた。
参議院の憲法調査特別委員会では18項目に及ぶ付帯決議が採択されたが、この中には、「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること」「公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制については・・・禁止される行為と許容される行為を明確化するなど、その基準と表現を検討すること」「罰則について、構成要件の明確化を図る等の観点から検討を加え、必要な法制上の措置も含めて検討すること」「憲法改正原案の発議にあたり、内容に関する関連性の判断は、その判断基準を明らかにするとともに・・・適切かつ慎重に行うこと」など、本来であれば法案審議の中で明らかにされ、本法の条文に盛り込まれるべき事項が少なからず含まれている。
いうまでもなく、憲法改正は国のあり方を決定する重大問題である。本法についての国民的論議は緒についたばかりといっても過言ではなく、広く国民的議論を尽くすことが必要である。
当会は、憲法改正を最終的に国民に委ねている憲法第96条の趣旨が十二分に生かされるよう、本法施行までの3年間に、上記の問題点等について慎重に再検討を重ねて、抜本的な修正がなされることを強く求めるものである。
「少年法等の一部を改正する法律案」の参議院での慎重審議を求める会長声明
2007/05/09
奈良弁護士会 会長 田中 啓義
現在、少年法のいわゆる第2次改正法案が衆議院を通過した後、参議院において審議されようとしている。
当会は、「奈良県少年補導に関する条例」に反対する活動を通じて、子どもたちが広く無限定に警察官の規制・取り締まりの対象となることに対し警鐘を鳴らしてきた。また、同時に、問題を抱えた子どもたちにとって本当に必要なのは、子どもの人格を尊重しその健やかな成長を支援する福祉的施策であると主張してきた。
したがって、上記の改正法案において、特に、当初の政府提出法案から「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官の調査権限を定める点が削除されたことは評価に値する。
しかし、一方で、同改正法案は、少年院送致年齢の下限の引き下げ等を未だ含む点で、立法事実の検証がなされていないにも拘わらず厳罰化の発想を残すものであ り、この点は賛成できない。また、触法少年に対する警察官の調査権限を定めるにも拘わらず、調査への弁護士の立会いを認めるないし調査の全過程をビデオ録画するといった「可視化」については何ら手当てがなされておらず、この点でも問題点を残す。
したがって、当会は、参議院において、これら改正法案の問題点について、より一層慎重な審議が行われ、全ての問題点が解消されることを要望する。
犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度に反対する会長声明
2007/03/13
奈良弁護士会 三住 忍
1.2007年2月7日、法制審議会は、法務大臣に対して、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための法整備に関する要綱(骨子)」を提出した。
この答申は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制わいせつ及び強姦の罪,業務上過失致死傷等の罪、逮捕及び監禁の罪並びに略取、誘拐及び人身売買の罪等について、参加を申し出た被害者や遺族(以下「犯罪被害者等」という)に対し、「被害者参加人」という法的地位を付与し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、自ら被告人に対して行う質問、証拠調べが終わった後における弁論としての意見陳述を認める被害者参加制度を創設することを求めている。
2.しかし、この被害者参加制度は、犯罪被害者等について、「事件の当事者」から、「被害者参加人」という訴訟当事者又はそれに準ずる地位を容認するものであり、刑事訴訟の構造を根底から変えるものである。
起訴状に被害者として記載された者が真に被害者か否かは、刑事裁判の判決において初めて判断されるものである。
とりわけ、無罪を主張して、被害の有無それ自体を争う場合に、起訴状に記載された被害者を刑事訴訟に参加させて訴訟活動に参加させることは、無罪の推定の原則や予断排除の原則に抵触すると言わざるを得ない
3.近代刑事司法は私的復讐を公的なものに昇華させ、被告人は国家が処罰することにより、被害者は加害者からの再復讐から守られ、被害者と加害者との報復の連鎖を防ぎ、もって社会秩序の維持を図ろうとしている。
ところが、犯罪被害者等が刑事法廷で被告人と直接対峙すると、被告人に対する犯罪被害者等の言動が被告人の反発を招きかねず、また、被告人の中には、犯罪被害者等の訴訟活動によって自分が有罪とされ、あるいは重く処罰されたと考えて、逆恨みや報復感情を抱く可能性がないとは言えない。
このように犯罪被害者等が被告人と刑事法廷で直接対峙することは、近代刑事司法が断ち切ろうとした報復の連鎖を復活させることになりかねない。
4.被告人は、無罪推定の原則により、刑事法廷において、予断と偏見をできる限り排除して、自由に供述することができなければならない。
しかし、犯罪被害者等が、常時、被告人と直接対峙する形で刑事法廷に出廷することになれば、被告人には大きな心理的圧力がかかり、自由に弁解や反論をすることができなくなることが予想される。
5.刑事訴訟は、客観的な証拠により犯罪事実の存否や量刑が決められるが、犯罪被害者等は必ずしも全ての証拠を把握しているわけではなく、検察官とは情報量や立場が異なっており、証拠に基づく訴訟活動を期待すること自体に無理がある。
また、裁判員制度の下においては、犯罪被害者等の主張や陳述、応報感情に基づく弁論としての意見陳述が刑事法廷でなされることにより、初めて刑事法廷に臨む市民である裁判員が戸惑い、冷静な判断をすることができなくなるおそれがある。
6.犯罪被害者等の要望に応えるためには、まず、検察官と十分にコミュニケーションを図り、犯罪被害者等への情報提供や検察官の訴訟活動について意見を述べる機会を確保できる制度を創設すべきである。
また、十分な法的知識を持たず、捜査機関などによる二次被害に苦しめられる危険性に晒されている犯罪被害者等に対して、公費による弁護士支援制度を導入すべきである。
7.第166通常国会には、被害者参加制度の創設を含む刑事訴訟法改正案が上程されることが予定されているが、奈良弁護士会は、被害者参加制度の導入に反対し、国会における慎重な審議を求めるものである。
教育基本法改正に反対する会長声明
2006/11/13
奈良弁護士会 三住 忍
1.政府は、本年4月28日、教育基本法「改正」法案(以下「法案」という)を国会に上程し、衆議院「教育基本法に関する特別委員会」にて継続審議となっている。今秋の臨時国会において、政府は、同法案の成立を最重要課題と位置付けて取り組むことを明らかにしている。
ところで、教育基本法は、その前文で、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」と規定するように、「準憲法」的性格を持つ極めて重要な法律である。したがって、これを改正することについては、特に慎重でなければならない。
しかし、法案は、既に日本弁護士連合会が本年9月15日付意見書で明らかにしているとおり、様々な問題点を有している。当会も、同意見書の内容を踏まえ、以下の意見を表明するものである。
2.当弁護士会は、本年5月20日、総会の場において「憲法の基本理念を堅持する宣言」を採択した。同宣言は、現行憲法の基本理念たる「立憲主義」を堅持すべきことを訴えるとともに、現在の改憲案の多くが、国家権力を規制するという憲法の基本的性格を曖昧にし、国家主義的な傾向を明らかにしていると指摘した。そして、今回の法案は、その基本的発想において、これらの改憲案と共通している。
すなわち、法案は、「教育の目標」として、「公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」や「伝統と文化の尊重」、「我が国と郷土を愛する態度を養うこと」等を規定するとともに(2条)、「学校においては、教育の目標が達成されるように…体系的な教育が組織的に行われなければならない」としている(6条2項)。しかし、そこで「目標」として掲げられた「公共の精神」や「伝統と文化の尊重」、「我が国と郷土を愛する態度」といった事柄は、本来、多様性を持つ多義的な概念であって、一義的に決定できないはずのものである。然るに、法案は、これらの徳目を法定するとともに、現行法が教育の目的ないし方針として掲げる「個性ゆたかな文化の創造」(現行法前文)、「個人の価値をたつと」ぶこと(同1条)及び「自発的精神」(同2条)といった言葉をいずれも削除してしまった。このことは、法案の目ざすものが、国家が定める特定の価値観を身につけた「標準日本人」づくりにあることを意味する。
しかし、一人一人の「個性」が認められることなくして、「個人の尊重」(憲法13条)は実現しえない。法案は、憲法13条の「公共の福祉」を特定の価値観を前提にした「公益及び公の秩序」に改めようとする改憲案と同じく、立憲主義の理念と根本的に相容れない。それは、戦前と同様、教育の場を通じて、子どもたちに為政者の求める「お国のため」の論理に従わせることを可能とするものである。
3.また、現行教育基本法10条は、戦前教育の過度の国家的介入と統制への反省の上にたち、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」と規定するとともに、「教育行政は…必要な諸条件の整備確立を目標として行われ」るものと規定した。しかし、法案は、「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべき」との規定を削除するとともに、国と地方公共団体が、役割分担と協力の上で教育を行い、教育に関する施策を策定するものとしている(法案16条)。このような改正は、新たに設定された「教育の目標」を達成するための国家的体制の実現を許容することになりかねない。
4.当会は、上記宣言と同日、「『奈良県少年補導に関する条例』の施行に反対する総会決議」を採択した。本条例は、未成年者の広範囲にわたる行為を「不良行為」と定め、これを発見したときにこれを止めさせる努力義務及び警察職員等に通報する努力義務を県民一般に課すとともに、警察職員の権限を拡大して少年に対する監視・規制・取り締まりを強化するものである。しかし、そもそも「不良」とは、特定の価値観を前提に、それに従わないことを意味する。これを警察職員の権力行使の対象とすることは、上記の法案ならびに改憲案と同一の発想に立つものである。法案は「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」と規定するが(13条)、これが全国的な補導法制ならびに上記条例と密接な関連性を持つ可能性が高い。当会としては、このような可能性を持つ本法案を看過することはできない。
5.そもそも、本改正案については、このような改正を是非とも必要とする理由が審議のうえで明らかにされていない。
確かに、現在の教育制度やその運用実態が国民のニーズに応えた理想的なものであるかどうかについては、多様な議論がある。いじめ被害の頻発等、改善に取り組まなければならない課題も多い。しかし、だからといって、今回提案されているような教育基本法そのものの改正が必要であるかどうかは大いに疑問である。この点についての議論は未だ十分になされているとはいえない。
6.法案が以上のような問題を孕むものであることに鑑みるならば、当会としては、これに反対せざるを得ない。また、今後、教育及び教育基本法の在り方が問題にされるとしても、拙速に流れることなく、同法の「準憲法」的性格にふさわしい、慎重な取り扱いがなされることを望む次第である。
「奈良県少年補導に関する条例」についての会長声明
2006/03/24
奈良弁護士会 福井 英之
本日、奈良県議会において、「奈良県少年補導に関する条例」(以下、「本条例」という。)が賛成多数により可決された。
しかし、これまでの当会会長声明、近畿弁護士会連合会決議及び日本弁護士連合会会長声明で既に指摘されているとおり、本条例には種々の重大な問題点がある。しかも、昨年11月に県警により本条例の要綱案が発表されてから今日に至るまでの経緯に鑑みれば、上記のような本条例の問題点について、県民に対する十分な周知及び県民の間での十分な議論を経ないまま、拙速に制定に至った感は否めない
そこで、当会は、本条例の制定に対し遺憾の意を表明するとともに、奈良県議会ないし奈良県知事に対し、本条例の速やかな廃止あるいは施行の凍結を求めるための取り組みを継続する所存である。
ゲートキーパー立法に反対する会長声明
2006/03/09
奈良弁護士会 福井 英之
1.FATF(OECD加盟国を中心とする政府間機関である「金融活動作業部会」の略称)は、マネーロンダリング及びテロ資金対策を目的として、従前から対象としていた金融機関に加え、弁護士等の専門職に対しても、不動産の売買等一定の取引に関し、「疑わしい取引」を金融情報機関に報告する義務を課すことを勧告した。
これを受けて、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、平成16年12月、「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、その中でFATF勧告の完全実施を決めた。さらに、政府は、平成17年11月17日、FATF勧告実施のための法律の整備の一環として、金融情報機関を金融庁から警察庁に移管することを決定した。
2.しかしながら、弁護士に依頼者の「疑わしい取引」に関する報告義務を課すことは、弁護士の守秘義務を侵すのみならず、弁護士の存立基盤である国家権力からの独立性を危うくし、弁護士に対する国民の信頼を損なうことにつながるから到底容認できない。弁護士の職責は、国家権力から独立し、ときには国家権力と一定の対抗関係に立って国民の人権と法的利益を擁護するところにある。
そのため、弁護士は国家権力から独立した専門家としての地位が保障されるとともに、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、依頼者に対して高度の守秘 義務を負うものとされている。
「疑わしい取引」を金融情報機関に報告する義務を課すゲートキーパー立法は、かかる弁護士制度の基盤を根底から覆すものである。諸外国の弁護士及び弁護士会においても、FATF勧告は弁護士制度の根幹を揺るがすものとしてその実施に反対し、FATFの重要な加盟国であるアメリカやカナダでは勧告による立法はなされておらず、ベルギーやポーランドでは違憲訴訟が係属しているのが現状である。
3.そもそも、「疑わしい取引」を金融情報機関に報告することを義務づける法制度の下では、依頼者は弁護士に安心して全ての事実を打ち明けることができなくり、弁護士と依頼者の基本的な信頼関係は破壊される。さらに、弁護士は事実関係の全容を把握できなくなる結果、依頼者は弁護士からの適切な助言を受けることができなくなる。加えて、依頼者が弁護士に真実を話さなくなれば、弁護士は依頼者が法律を遵守して行動するように適切な指導をすることができなくなり、依頼者による違法行為という結果を招くリスクも生じる。
従って、依頼者の違法な行為を金融情報機関に通報することによる違法行為の予防、抑止の効果よりも、多くの依頼者が適切な法的アドバイスを受けられなくなるリスクの方が格段に大きい。
4.もちろん、当会は、マネーロンダリングやテロ資金対策を否定するものではなく、弁護士がそれらに関与させられることがないよう継続的に研修を実施し、また、弁護士がそれらに関与すれば懲戒処分をもって臨む。
しかしながら、ゲートキーパー立法は、弁護士制度の基盤を根底から覆し、弁護士に対する国民の信頼を損ない、依頼者が秘密の内に適切な法的アドバイスを受ける権利を侵害するという重大な問題を含んでいる。まして、各弁護士が直接 警察庁に刑罰の威嚇をもって通報を義務づけられる制度を作るとすれば、弁護士が警察機関と対抗して刑事弁護活動等を行う上での制度的独立を危くし、弁護士の警察権力からの独立を損なう可能性がある。
よって、当会はゲートキーパー立法に反対する。
「奈良県少年補導に関する条例(案)」に反対する会長声明
2006/03/09
奈良弁護士会 福井 英之
1.はじめに
現在開会中の奈良県議会において、「奈良県少年補導に関する条例(案)」が上程されている。
この「奈良県少年補導に関する条例(案)」(以下、単に「本条例案」という。)には重大な問題点があるので、当会は、その問題点を指摘したうえ、このような条例の制定に反対するものである。
2.本条例案の問題
本条例案は、「不良行為少年の補導に関し、保護者及び県民の責務を明らかにするとともに、警察職員及び少年補導員の活動に関して必要な事項を定め、もって少年の非行の防止と保護を通じて少年の健全な育成を図ること」をその目的とするという。
少年の健全育成及びそのための少年非行の防止それ自体は重要な社会の利益である。しかし、奈良家庭裁判所管内における少年一般保護事件の年間新受件数は、ここ数年ほぼ減少傾向にある。また、上記新受件数と、奈良県と人口が近似する他の県に対応する家庭裁判所管内における同事件の年間新受件数とを比較しても、奈良県の件数がことさらに多いとはいえない。すなわち、奈良県において特に少年非行の深刻な増加をいうべき根拠となる事情はなく、したがって、以下のように問題点の多い条例を今あえて制定すべき必要性はない。
また、少年非行の防止を実現するための手段として、本条例案は警察権限を拡大し少年の行為に対し広範な規制を及ぼすことを予定しているところ、このようなやり方は、適切な手段とはいえない
第一に、少年非行防止のための成長支援の本来的あり方は警察権限による規制ではなく教育・福祉的政策であることは既に世界的潮流であり、2001年11月に奈良で開催された日本弁護士連合会主催第44回人権擁護大会においても、このような流れをふまえて、「子どもの成長支援に関する決議」を採択し、その中で、「少年犯罪の防止のために大人に求められていることは、子どもの悩みやストレスを早期に正面から受け止め、一人ひとりの子どもの尊厳を確保し、その力を引き出すことであ」り、そのためには、「学校や地域社会、福祉機関、医療機関、保健所などは、子どもに対する人権侵害を見逃さず、関係機関との連携を強めて、これに対処すべきであ」るとの提言を行っているところである。
単に規制・威嚇を強めることでは少年非行問題は解決しない。強制権限を背景に持つ警察官が、条例に規定される「不良行為」に該当するとして少年に対し権力的・画一的指導を行ったとしても、それは、少年が自ら抱える問題点を認識し、これを積極的に改めていこうとする真の更生への契機にはならない。問題行動には、子ども自身の悩みや劣等感が顕れていることが多い。したがって、更生への契機として真に必要なのは、個々の少年が抱える問題に応じてきめ細やかな対話・ケアを行い、少年が自己肯定感を持てるようにすることなのである。
そのために必要な学校教育の充実、児童相談所の人員・予算増加を含む態勢・活動の充実、未就職者に対する就職の機会の提供等、先に取り組まれるべき福祉施策をなおざりにしたまま、ただ規制を強化するのみでは、少年非行の防止及び保護という目的は達成されない。
第二に、本条例案は、県民が不良行為少年を発見したときにこれを止めさせる努力義務及び保護者等に通報する努力義務を定める。
しかし、本条例案のいう「不良行為」とはあくまで非犯罪行為であるから、それにも拘わらず、このような行為を止めさせる努力義務及び保護者等に通報する努力義務を定めるとすると、それを望まない県民の内心の自由が不当に侵害されることとなる。また、県民一般にこのような義務を課せば、問題を抱える少年及びその家族と地域住民を含む県民とを、条例による強制のもと、行動を監視し、制限し、挙げ句は通報する側とされる側として対立するような状況に置くことは必至である。このような息苦しい状況が非行防止及び立ち直り支援に資するとは到底思われない。むしろ、問題を抱える少年及びその家族を、地域社会から疎外してしまうことにもなりかねないし、このような方向性は、地域社会が一体となっての子育て支援を掲げて県が一方で進めている「新結婚ワクワクこどもすくすくPlan(奈良県次世代育成支援行動計画)」とも整合しない。
3.まとめ
以上のように、本条例案については、様々な看過できない問題点が存するので、当会は、これに対して反対の意見を述べるものである。
謀罪新設に反対する会長声明
2005/11/17
奈良弁護士会 福井 英之
当会は、第163国会(特別会)に提出されている「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」第2条(組織的な犯罪の処罰に)「組織的な犯罪の共謀」の新設に反対する。
この共謀罪は、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織」により行 われる犯罪の遂行を共謀した者で、その犯罪が死刑無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪、あるいは長期4年以上10年以下の懲役 又は禁錮が定められている罪にあたる場合にこれを処罰しようとするものである。共謀罪は、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を国内法化するための規定である。
しかし、この法律案には次のような重大な問題点がある。<
1.単なる日常会話も処罰の対象となりうる危険性がある。
共謀罪は、実行行為に着手する以前の予備行為も要件とされておらず、犯罪実行の合意という外形があれば共謀と見なされ、同罪が成立すると見なされる可能性がある。単に思っていること、言うことと、それを行動に移すことは全く別のことであ る。ところが、共謀罪により、日常生活において何気なく交わされる犯罪にかかわる会話さえもが、当事者にそれを本気で実行する意思がなくても当該犯罪を実行したものに類する形で処罰の対象となる危険性がある。
2.処罰範囲が極めて広範になる危険性がある。
法務省は、「組織的な犯罪の共謀罪」には、組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の共謀行為に限り処罰すると主張しているが、法律案上は「団体の活動として当該行為を実行するための組織により行われたものの遂行を共謀した者」と規定されているに過ぎない。
上記条約上、対象となる犯罪が「性質上国際的なものであること」、「組織的な 犯罪集団」の関与するものであること等の要件が必要とされているのと対比しても、 共謀罪の規定が適用される組織、団体について明確に限定された定義がないため、処罰の対象となる組織、団体は広範にならざるを得ない
また、対象犯罪は、長期4年以上の懲役又は禁錮にあたる重大な犯罪が対象となっているため、対象となる罪名は550を超えるといわれており、その対象となる犯罪は極めて広範である。
3.捜査方法が無限定に拡大する危険性がある。
共謀罪の捜査については、客観的、物的な証拠がなく、捜査機関の捜査に困難を来すことが予想され、そのため、通信傍受法の適用が拡大される等、電話等の通信手段の傍受が捜査の名において拡大する危険性がある。
4.憲法上の権利、自由の制限の危険性がある
以上のような様々な問題点に鑑みれば、共謀罪は、国民の自由な表現活動、団体 結社、宗教活動など、憲法上保障された権利、自由に対する不当な制限を課する手段 となる危険性を内包すると言わざるを得ない。
以上のような理由により、当会は共謀罪の新設に強く反対するものである。