監督官庁を持たない弁護士会及び日本弁護士連合会は、昭和24年に制定された現行弁護士法によって、世界で類例を見ない広範な自治権が認められています。
自治権が認められるということを、好き勝手にやりたい放題が許されていると勘違いしているのではないかと思われる現象が、この一連の懲戒請求裁判では多数見受けられます。
弁護士懲戒制度は自治を担保するものであり、適切に運用されることが前提となっているが、その実態は極めて危ういものと言えましょう。何人に対しても懲戒請求権を認めた趣旨からはずれて、金銭的欲求と懲罰目的で訴訟を弄する弁護士が一定数存在していることは、読者の皆様がご存知のとおりです。
以下に、法的措置を執ることに謙抑的であれと述べた判決を見てみましょう。
嶋﨑量弁護士原告控訴審判決
このような弁護士懲戒制度の趣旨や仕組みに鑑みると、弁護士が行った発言に対して法律知識の乏しい一般人が懲戒請求を行ったからと言って、当該弁護士がそれにより被った損害の賠償を求めて法的措置を執ることが常に必要かつ相当であるとは限らず、むしろ、一般に弁護士の職責にある者の発言が重く受け取られがちであることも考慮すると、弁護士の自己に対する懲戒請求への対応については、ある程度謙抑的な姿勢が求められるというべきである。
金竜介弁護士原告一審判決
弁護士の身分を有する原告が、法的知識の乏しい一般人が違法ないし不合理な懲戒請求を行ったことに対し、法的措置を執ることが常に必要であるとは限らず、弁護士法58条1項が広く何人に対しても懲戒請求権を認めた趣旨に鑑みれば、ある程度謙抑的姿勢が望まれる。
金哲敏弁護士原告一審判決①
弁護士の身分を有する一審原告が、法的知識の乏しい一般人が違法ないし不合理な懲戒請求を行ったことに対し、法的措置を執ることが常に必要であるとは限らず、弁護士法58条1項が広く何人に対しても懲戒請求権を認めた趣旨に鑑みれば、ある程度謙抑的な姿勢が望まれることも否めない。
金哲敏弁護士原告一審判決②
その一方で、本件懲戒請求では、攻撃的な表現が使われているものの、そこに掲げている懲戒事由自体は、本件声明への賛同、容認等と在日コリアン弁護士協会との連携であり、仮にそれが公然となされたとしてもそのような事実の摘示により原告の弁護士としての名誉、信用が毀損される程度は低いといえる。
また、同時期に対象弁護士に対して960人から本件懲戒請求と同じ書式で同内容の懲戒請求がなされていることから(認定事実⑵)、原告は、これらの懲戒請求について被告を含む懲戒請求者らを相手取り共同不法行為者としての責任を追及することも考えられた事案であるにもかかわらず、あえてそのような主張をせず、被告の単独不法行為を前提とする主張をしている。
これらの懲戒請求がそれぞれ単独不法行為であるならば、原告請求に係る慰謝料額を全ての懲戒請求者らについて認容する場合の合計額は約5億円に達してしまい、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し加害者にこれを賠償させることにより被害者が被った不利益を補てんして不法行為がなかったときの状態に回復させるという損害賠償請求権の本質に照らして明らかに過大であることに加え、弁護士法58条1項が広く何人に対しても懲戒請求権を認めた趣旨に鑑みれば、違法ないし不合理な懲戒請求を行った者(特に弁護士以外の者)に対する損害賠償請求はある程度謙抑的姿勢が望まれることなど本件にあらわれた一切の事情を総合的に考慮すれば、本件における慰謝料額は1万円と認めるのが相当である。