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2021-01-03 20:16 0 comments

445  これが訴状だ①

引用元 

        


     訴   状       令和元年  月  日


京都地方裁判所御中

                            原告代理人

                            弁護士 江 頭  節 子


損害賠償請求事件


当事者目録 別紙当事者目録のとおり


請求の趣旨

1 被告神奈川県弁護士会は各原告に対し、金4万4000円及びこれに対する平成30年5月27日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告らは連帯して、各原告に対し、金843万7000円及び内68万2000円に対する平成30年12月12日から、内51万7000円に対する平成31年1月16日から、内103万4000円に対する平成31年2月4日から、内103万4000円に対する平成31年2月6日から、内51万7000円に対する平成31年3月19日から、内103万4000円に対する平成31年3月20日から、内51万7000円に対する平成31年3月25日から、内310万2000円にたいする令和元年7月3日から、支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言を求める。


請求の原因  

 (長文のため、ご参考メモ「請求の原因 構成」を別途つける)

第1 事案の概要

1-1 法的な骨子

 本件は、原告らの政治的信条に関わるセンシティブ情報と住所氏名を含む個人情報を、被告弁護士会が、原告らの承諾なく違法に第三者に提供したことについて、プライバシー侵害の不法行為に基づき損害賠償を請求する「請求の趣旨1」と、その提供を受けた被告嶋﨑が、当該センシティブ情報を含む原告らの個人情報を、原告らの承諾なく17部ものコピーを刷って数十名の第三者に直接見せ、それとは別に一般にも公開し、それとは別にさらに162部もの大量コピーを刷って全国に散在する162人もの多数人(原告らの知らない人々)に送付したプライバシー侵害行為について、被告嶋﨑と被告弁護士会の共同不法行為に基づく損害賠償を請求する「請求の趣旨2」から成る事案である。

1-2 社会的事実の概要

 それらプライバシー侵害事件の概要はこうである。

国際社会及び日本が一致して北朝鮮に経済制裁を科し、それにより核開発問題を解決し、拉致被害者を救出しようと懸命の努力を続けている。朝鮮学校は北朝鮮と朝鮮総聯の支配に服し、補助金が授業料に充当される確証が無いという問題を有しているため、国内外の法令上、政府及び自治体が補助金を支出できないものであった。そうしたところ、日弁連及び全国21もの弁護士会が、そのような北朝鮮と朝鮮学校側の問題点を度外視して、朝鮮学校に補助金を支給せよ、支給しないのは人種差別であるとの会長声明を全世界に向けて発するという、「不当な大量会長声明問題」が発生した。強制加入の公的団体であるにもかかわらず、そのように政治的に偏向し拉致被害者を切り捨てるような声明を、21もの弁護士会が発した行為は、弁護士が数を頼んで政府と自治体に不当な圧力をかけるもので、弁護士会の目的の範囲外であると多くの国民が思料した。しかし弁護士会にはこれを監督する上級官庁が無い。そこで、「余命三年時事日記」というブログが呼び掛けて、初めは21の弁護士会の会長を対象とする懲戒請求を、それが無視されたので次に役員と一部の有力弁護士を対象とする懲戒請求を、最後に21弁護士会に所属する全ての弁護士に対する懲戒請求が呼び掛けられた。そうしたところ、有力弁護士として懲戒請求された訴外佐々木亮弁護士が、根本にある弁護士会の政治活動問題(「不当な大量会長声明問題」)を無視して、「不当な大量懲戒請求問題」であると論点をすり替えた上で、マスコミやSNSで「ブログに煽られ」「カルト」「洗脳」などと大々的に宣伝した。被告嶋﨑もそれに同調し、根本にある「不当な大量会長声明問題」から世間の目を反らすことに協力した。このため、ブログの呼び掛けで、被告嶋﨑を対象とする懲戒請求書が全国から被告弁護士会に寄せられた。

 被告弁護士会は、懲戒請求をした原告らの住所氏名等の個人情報リストを作成し、事案の調査のための必要も無いのに、そのリストを被告嶋﨑に提供した。被告嶋﨑は、懲戒請求が不法行為に当たるとして、リストを利用してそこに載っている懲戒請求者らを順次提訴し、本年7月までにわかっているだけで計162人を被告として計17事件を提訴した。その全ての事件で、それら事件の当事者ではない原告らの個人情報リストが、必要もないのに書証としてマスキングもされず提出された。これにより、原告らの政治的信条を含む個人情報を、17事件の裁判官と書記官が直接目にし、162人の当事者に紙コピーが直接送達され、さらに裁判所において不特定多数の一般人の閲覧に供され、現在も一般公開中である。


第2 基本事実

2-1 当事者

 被告神奈川県弁護士会(以下「被告弁護士会」という)は弁護士法に基づき設立された弁護士会である。

 被告嶋﨑量(しまさきちから。以下「被告嶋﨑」という)は被告弁護士会所属の弁護士である。

原告らは、弁護士などの法曹ではない一般人である。原告らは、職業、趣味、近隣、家庭などの一般的な社会生活を営む傍ら、我が国の国づくり、安全保障、政治のあり方等に関心を持ち、それらについての事実と論評を発信する「余命三年時事日記」というブログ(以下「本件ブログ」という)を閲覧している者である。


2-2 請求の趣旨1の請求原因

2-2-1 本件懲戒請求

原告らは、平成29年秋頃、本件ブログの呼びかけに賛同し、被告嶋﨑を対象弁護士とする懲戒請求書の雛形(甲4の1の最後の1枚)に、住所、氏名を自筆で記入し、押印して、日付は空欄にして、集約団体に送付した。後日、遅くとも平成30年4月3日までに、原告らの各懲戒請求書(日付は空欄)が、まとめて被告弁護士会に送付された(以下、「本件懲戒請求」という)。

被告弁護士会は、原告らの本件懲戒請求に事案番号を付した。原告1は平成30年(綱)第11-128号、原告2は平成30年(綱)第11-108号、原告3は平成30年(綱)第179号、原告4は平成30年(綱)第330号である。

被告弁護士会は、平成30年4月3日、弁護士法58条2項に基づき、原告らを含む591名からの本件懲戒請求につき一括して、同弁護士会の綱紀委員会に対し、「事案」の調査を求めた(甲4の1、調査開始のお知らせ)。

綱紀委員会は、翌日の同月4日、本件懲戒請求書の記載だけから「懲戒すべきでないことが一見して明らかであると認められる。」と判断し、対象弁護士の被告嶋﨑に本件懲戒請求があったことを知らせてその弁明を求めることをしないで、ただちに、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をした(甲5の1)。

被告弁護士会は、綱紀委員会の議決を受けて、同月27日、被告嶋﨑を懲戒しない決定を行った(甲5の1)。被告弁護士会は、その頃、同月4月3日付の調査開始通知書(甲4の1)と同月27日付の懲戒しない旨の決定の通知書(綱紀委員会の議決書の謄本も添付)(甲5の1)とを一緒に、被告嶋﨑及び原告らに送付した。したがってこれら通知書は、どんなに遅くとも同年5月27日には被告嶋﨑に到達していた。


2-2-3懲戒請求者リストの作成と第三者への無断提供

 被告弁護士会は、原告ら含む591名の懲戒請求者らが本件懲戒請求書に記入した氏名、郵便番号、住所の個人情報を、その事案番号順に、コンピューターに入力して、一覧リストを作成し、「K30-11-1乃至591 懲戒請求者一覧」という標目を付し、これを紙に印字した(以下「本件リスト」という)。

被告弁護士会は、前述の平成30年4月3日付の調査開始通知書(甲4の1)に、本件リストと、本件懲戒請求書の雛形(すなわち懲戒請求者の住所氏名印影がないもの)1枚とを別紙として添付し、これを前記のとおり同月27日頃、被告嶋﨑に送付した。

原告らは、自身の住所、氏名、印影という個人情報と、自身が本件懲戒請求を行なったという政治的信条に関する個人情報(信条はいわゆるセンシティブ情報である)を、被告弁護士会以外の第三者に提供することを承諾したことは無い。

したがって、被告弁護士会がこれら個人情報を被告嶋﨑に無断で提供したこと(以下「本件無断提供」という)は、原告らのプライバシーを侵害する不法行為であり、被告弁護士会は原告らに対し損賠賠償責任を負う。



2-3請求の趣旨2の請求原因

2-3-1 横浜地裁への17件の提訴

 被告嶋﨑は、横浜地方裁判所に、平成30年11月30日付け訴状(甲6の2)をもって、その頃、訴外岸●●外5名を相手方として、損害賠償請求訴訟を提起した(横浜地裁平成30年(ワ)第4750号損害賠償請求事件。以下「別件4750号事件」という)。別件4750号事件は同地裁第8民事部に係属し、担当書記官は同年12月12日付けの期日呼出状を作成しその頃特別送達した(甲6の1)。

 被告嶋﨑は、別件4750号事件の「甲4号証」として、被告弁護士会が被告嶋﨑に送付した「懲戒請求事案の調査開始のお知らせ」(甲4の1)を提出した。同文書には、本件懲戒請求の懲戒請求書の雛形と、本件リストが添付され、そこには原告らの住所氏名も記載されていたが、被告嶋﨑はマスキングを施すこともせず、そのまま証拠提出し、もって、原告らが本件懲戒請求を行った事実及び原告らの住所氏名を公表した。

 すなわち、本件リスト(甲4の1)はどんなに遅くとも同年12月12日には担当裁判官と書記官が直接目にし、またその数日後には6名の訴外人(別件4750号事件の被告ら)に紙コピーが送達され、またその頃横浜地裁第8民事部で訴訟記録に編綴され、何人でも閲覧できる状態に置かれた。

 以下同様に、被告嶋﨑は、同様の訴訟を次々に提起し、その事件数は令和元年7月末までに合計17事件に上る。訴えた相手方(被告)の人数は、最初の2事件は6名、その後は全て10名であった。各事件の事件番号、係属部、期日呼出状の日付、被告人数は別紙「別件横浜訴訟一覧」のとおりである。被告嶋﨑は、その全ての事件に、書証として本件リストと本件懲戒請求書の雛形を含む「懲戒請求事案の調査開始のお知らせ」(甲4の1)を提出し、その全てにおいて、本件リストにある原告らの住所氏名にマスキングを施さずそのまま提出した。以下、これら17件の事件を「別件横浜訴訟」という。

(実際には被告嶋﨑は、上記の他に同地裁平成30年(ワ)第4749号事件で6名を提訴したようであるが、同事件の資料を原告らが入手できていないため、本件訴訟からは外している)。


2-3-2本件リストの証拠提出による公開

 被告嶋﨑は、別件横浜訴訟のうち、令和元年(ワ)第2619号事件以降の12事件においては、591名の懲戒請求者にかかる本件リストを「甲4号証の1」として提出した他、「甲4号証の2」として、他の367名の懲戒請求者(事案番号平成30年(綱)第58-1乃至第58-367号)の個人情報が添付された「懲戒請求事案の調査開始のお知らせ」も証拠提出した(甲4の2)。

しかし、同じ雛形による同じ事案の懲戒請求でありながら、被告嶋﨑は、「甲4号証の2」においては、添付されていた367名の個人情報リストは省略(除外)して証拠提出した。

すなわち、被告嶋﨑は、個人情報保護の必要性を知っていたものであり、それにもかかわらず原告ら(最初の591名)については、センシティブな個人情報を暴露したものである。

同時に、被告嶋﨑が他の367名のリストを証拠から除外したということは、原告らを含む591名にかかる本件リストも、証拠から除外しても審理に差し支えないこと、言い換えれば原告らの個人情報は別件横浜訴訟の審理に必要がないことを意味する。そしてそのことを、被告嶋﨑は認識していたということである。

別件横浜訴訟で被告嶋﨑が本件リストをマスキングせずに証拠提出した行為を「本件リスト公開」という。


第3 被侵害利益と保護法益性

3-1 はじめに

 以下に、本件で問題になっている個人情報の保護法益性とその根拠法令、判例について主張する。これは、被告弁護士会による本件無断提供と、被告嶋﨑による本件リスト公開の違法性、及び原告らの損害の前提となるものである。


3-2 被侵害利益―センシティブ情報を含むプライバシー

本件は、いわゆる大量懲戒請求に端を発する事案であるところ、いわゆる大量懲戒請求は、憲法で保障された投票の秘密と軌を一にする、政治的見解・信条に基づく活動であり、このような活動を行ったという事実は、個人情報保護法2条3項に「取扱いに特に配慮を要する」とされる、要保護性の高いプライバシー(いわゆるセンシティブ情報)である。

 原告らは、職業上の人間関係、近隣との人間関係、趣味や余暇活動の人間関係など、多様な局面で人間関係を取り結び社会生活を営んでいるところ、それは政治的見解・信条とそれに基づく活動について、誰に打ち明け、誰に秘匿するかを自ら選ぶことで、初めて円滑に実現されるものである。

 したがって、政治的見解・信条とそれに基づく活動についての個人情報の権利は、憲法13条の人権(幸福追求権)から導かれる人格権の内容をなすものであり、保護法益をなすものである。


3-3 個人情報保護法と個人情報取扱事業者

3-3-1 被告弁護士会

 被告弁護士会は、会員名簿や、懲戒請求者リスト(本件リスト、甲4の1)のような各種のコンピュータ管理の個人情報(個人情報保護法2条4項一号の「個人情報データベース」)を有しており、これを事業の用に供しているから、同条5項の「個人情報取扱事業者」に当たる。

したがって、個人情報データベースを構成する個人データを、あらかじめ本人の同意を得ないで、第三者に提供してはならない(同法23条1項)。被告弁護士会が取得した懲戒請求者の住所氏名を、第三者である対象弁護士に提供することは、同項一号ないし四号に規定される例外的場合に該当しないから、許されない。

言い換えれば、懲戒請求者の個人データは、同法によって、みだりに対象弁護士に流されないという保護を受けている、保護法益である。

したがって、被告弁護士会が本件リストのような個人情報データベースを対象弁護士に提供し、その中の一つとして原告らの個人データを提供したことは、原告らの保護法益を侵害するものであり、原告らに対する不法行為を構成する。

3-3-2 被告嶋﨑

 被告嶋﨑も弁護士として多数の労働事件を始めとする事件を受任しているから、必然的に「個人情報取扱事業者」である。

利益相反確認のために依頼者と相手方の氏名のリストをコンピュータで作成していたり、年賀状宛名用に依頼者名簿をパソコンで作成していたり、メールソフトのアドレス帳を利用していれば、同法2条4項1号の「個人情報データベース」を事業の用に供していることになる。

また仮にそれらを作成利用していないとしても、同項2号の「政令で定めるもの」は確実に作成利用している。政令(個人情報保護法施行令)3条2項は「これに含まれる個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物であって、目次、索引その他検索を容易にするためのものを有するものをいう。」と規定する。弁護士が事件を受任すれば、必然的に、依頼者と相手方の個人情報が記載された相談票、主張書面、書証等の書類を、事件毎に事件記録ファイルに編綴しなければならない。なぜなら起案の際にそれら書類がまとまっていなければ仕事にならないし、裁判所に出かける時にもそれら書類をまとめて持参するし、依頼人との打ち合わせの際にもそれら書類を参照するし、打ち合わせの際に依頼人に他の依頼事件の記録が目に触れては重大な守秘義務違反となるため、依頼事件毎に記録を峻別する必要があるからである。事件記録ファイルは、どのファイルがどの依頼者の事件かすぐわかるように、ファイル表面に依頼者名等を記載する。また、弁護士はパソコンで起案し、パソコン内にも事件(依頼者)毎にフォルダを作成し、どのフォルダがどの事件(依頼者)のものかすぐわかるようにフォルダに名前をつけて管理している。このように、「依頼事件毎」という規則に従って紙ファイルやPC内フォルダを作り、紙ファイルやPC内フォルダに名前を付けて容易に検索できるようにしているから、同法2条4項2号の「個人情報データベース等」を事業に供していることになる。

本件リストも個人情報を事案番号の順という規則に従って整理し、事案番号を冒頭(左欄)に付して検索しやすくしているから、個人情報データベース等に当たる。

以上により被告嶋﨑も「個人情報取扱事業者」である。したがって被告嶋﨑も、個人情報データベース等を構成する個人データを、あらかじめ本人の同意を得ないで、第三者に提供してはならない(同法23条1項)。被告嶋﨑が取得した懲戒請求者らの住所氏名を、第三者に提供したり公開することは、同項一号ないし四号に規定される例外的場合に該当しないから、許されない。

したがって、被告嶋﨑が本件リストをマスキングもせずに裁判の書証として提出したことは、その中の一つとして原告らの個人データを提供・一般公開したことは、原告らの保護法益を侵害するものであり、原告らに対する不法行為を構成する。

 

3-4 最高裁判例による不法行為法の解釈

 個人情報保護法が制定される前から、判例上も、個人情報は保護法益性があり、本人の承諾を得ない個人情報の第三者提供が不法行為に該当するということが認められていた。

最高裁平成29年10月23日判決は、通院教育の会社が、子どもと保護者の住所氏名電話番号等を第三者に漏洩した事件につき、「本件個人情報は、(保護者)のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」として、漏洩により具体的に迷惑行為を受けたとか財産的な損害を被ったとかの事情がない場合でも損害賠償責任が発生し得る旨を判示した(甲7)。

最高裁平成15年9月12日判決は、早稲田大学が国賓の江沢民主席の講演会を開催するに当たり、警備を担当する警視庁から出席者の名簿を提出するよう要請を受けた後に、出席希望者に学籍番号、住所氏名電話番号を記載させ、この名簿を警察署に提出した事件につき、「学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、(参加学生ら)のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」と判示した(甲8)。

 以上のように、個人情報保護法が制定される前から、プライバシーをみだりに開示されない権利は不法行為法上の保護法益として認められていたものである。 

したがって、原告らの承諾なくプライバシーを第三者に漏えいした被告弁護士会及び被告嶋﨑には損害賠償義務が生じるものである。


3-5 政治的見解、信条にかかる情報であること

3-5-1 はじめに

 本件では、無断で第三者に提供されたり一般公開されたのは、単に原告らの住所氏名だけではない。被告嶋﨑の訴状(甲6の2)には弁護士会の会長声明とこれに反発する本件ブログ、その呼びかけに応じた本件懲戒請求という事実が記載され、本件リストはその懲戒請求者リストである。すなわち、開示されたのは原告らの政治的見解、信条にかかる個人情報であり、個人情報保護法に「特に取り扱いを要する」と規定されるセンシティブ情報である。

この、本件懲戒請求をしたという事実が原告らの政治的見解、信条にかかる情報であることについて、以下に具体的に説明する。


3-5-2ブログ、弁護士会の大量会長長声明問題、告発と懲戒請求運動

(1)本件ブログ

 原告らは、「余命三年時事日記」という、日本の主権、安全保障、その他の重大な国家的政治問題について情報を紹介したり論評を行うブログ(以下「本件ブログ」という)を愛読していた。本件ブログは、大手マスコミが敢えて報道しない事実を、情報源を摘示して正確に紹介しており、また広告を出さずに運営していることから、利益や圧力に屈しない信頼性の高いものであると判断したからであった。


(2)日本再生計画

本件ブログは、北朝鮮の核実験やミサイル発射や拉致、韓国による竹島の不法占拠のように、一方で、外国が武力を用いて日本の主権と日本人の人権を直接に侵害するという重大かつ深刻な事態があり、一方で、そのように反日的な外国の国民が日本に在留し日本の政治、経済、社会に強い影響力を及ぼし、さらに日本の参政権までも獲得しようと運動していることに強い危機感を表明し、日本を日本人の手に取り戻す日本再生計画を呼び掛けていた。

そのために一般の日本国民ができる適法な運動として、北朝鮮や韓国の武力行使事態に利益を与える行為を、刑法81ないし88条の外患罪で告発することを呼び掛けていた。告発対象者は、国籍を問わず(ただし大多数が日本人)、政治や経済やマスコミ等の多数の有力者であり、その中には弁護士も含まれていた。後に、弁護士については弁護士法に懲戒手続きが法定されていることから、懲戒請求も呼びかけられた。


(3)弁護士会の大量会長声明問題

弁護士について外患援助行為として問題とされたのは、“大量会長声明問題”である。

北朝鮮の核実験とミサイル発射と拉致問題を解決するために、国連安保理決議による経済制裁と、日本独自の経済制裁が科されている。そのさなかに、北朝鮮支持という政治的立場を旗幟鮮明にしている朝鮮総連の傘下教育機関である朝鮮学校に、補助金を支給せよ、支給しないのは人種差別であるなどとする会長声明を、全国21もの弁護士会が世界中に向けて発信したのである。

日本はその資金が北朝鮮の核開発に流れないことを確保する国際法上の義務を負っており、又、教育基本法16条により不当な支配に服する教育に公金を支出することは許されない。朝鮮学校は北朝鮮と朝鮮総連の傘下にあり、その不当な支配に服していないことの確証が得られず、補助金が確実に授業料に当てられる確証も得られなかったことから、支給対象から外された。しかし、全国21の弁護士会長声明は、弁護士会として責任をもって、朝鮮総連と朝鮮学校の関係を調査し、補助金が確実に授業料に当てられるかどうかを確認したわけでもなく、朝鮮総連の不当な支配に服していないことの確認をしたわけでもないのに、そのような朝鮮学校の問題を敢えて無視し、あたかも支給しない側が人種差別をしており問題であると、全世界に発信したのである。

中でも特に被告弁護士会の会長声明は、政治的な偏向が最も際立つ内容であった。同会長声明は、学校法人神奈川朝鮮学園が、朝鮮学校で使用する教科書を自らの意思で決めることが出来ず、「教科書編纂委員会」の決定に従わなければならないという事実を認定している。すなわち、朝鮮学校が不当な支配に服している事実を認定しているにもかかわらず、当該「教科書編纂委員会」が朝鮮総聯であることには触れないまま、補助金要求声明を出しているのである(甲11)。北朝鮮と朝鮮総連に不都合な事実に故意に目をつぶるという、政治性の露骨な会長声明であり、全国21の会長声明の中でも最悪の部類であった。


(4)長年にわたる弁護士会の政治活動(特定の政党と同じ主義主張の宣伝)

弁護士会は、弁護士の指導、連絡、監督に関する事務を行うことを目的とする団体であり(弁護士法31条1項)、強制加入団体として公共性が極めて強い団体であるから、弁護士会が自ら政治的活動をすることは本来できないはずである。

ましてや、特定の政党と全く同じ主義主張を宣伝することなど、許されないはずである。

ところが日弁連と全国の弁護士会は、長年、朝鮮学校の問題の外にも、死刑制度に反対、憲法9条の改正に反対、安全保障関連法に反対、特定秘密保護法に反対、テロ等準備罪に反対、等、特定の政党と全く同じ政治的主張を繰り返し発信してきた。

これら政治的主張を、弁護士が個人の資格で、あるいは有志が任意加入の団体を作って宣伝するのではなく、強制加入で全弁護士が加入している弁護士会がその会長声明として発信すれば、一般国民は当然、それが傘下の弁護士全員の総意であると受け取る。だからこそ政府に対する圧力ともなり、国際社会に対する影響力も大きくなる。その影響力の大きさを狙って、個人や任意団体ではなくわざわざ弁護士会の活動として発信しているのである。

弁護士会によるこのような不当な政治活動は極めて問題であり容認できないと、多くの国民が考えていた(甲13の244頁)。


(5)いわゆる大量懲戒請求運動

そこで本件ブログは、一連の外患罪告発と懲戒請求運動の中の一部として、初めは全国21の弁護士会の会長に対する懲戒請求を呼びかけた。

しかし弁護士会による会長の処分が無いのはもちろん、会長声明についての何らの是正、撤回も行われなかった。そこで次に弁護士会の役員や、影響力のある会員に対する懲戒請求が呼びかけられた。

それでも効を奏さないので、最後は全ての弁護士に対する懲戒請求が呼びかけられた。

政治的な会長声明は長年行われてきており、弁護士会に上部監督機関がない以上、その不当な政治活動を是正する責任は、当の弁護士たち全員にあるからである。

原告らは、法律に則った方法で日本を取り戻すという本件ブログの理念に賛同し、市井の国民のボランティア活動として、一連の告発と懲戒請求に参加した。

告発状は検察庁へ、懲戒請求書は弁護士会に提出され、当該機関が法律に則って適切に処理する性質のものであり、捜査・調査の方法も、処分をするしないの判断も、全面的に当該機関の裁量と権限によるものであった。

(6)別件懲戒請求1

 原告らは、平成29年、本件ブログの呼びかけに賛同し、訴外佐々木亮弁護士(以下「訴外佐々木」という)を含む10名を対象弁護士とする懲戒請求書(甲14。 以下「別件懲戒請求書1」という)に住所と氏名を記入し押印して(日付は空欄にして)、「日本再生大和会」に送った。「日本再生大和会」がこれを、日付空欄のまま、東京弁護士会に送付したと聞いている(以下「別件懲戒請求1」という)。

 懲戒事由は「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である。」というものである。

 弁護士会長に対する懲戒請求が功を奏しなかったので、第二弾として役員や有力会員に対する懲戒請求を行なったという流れで言えば、第二弾の役員や有力会員に対する懲戒請求に当たる。

東京弁護士会も、個人情報保護法や同会の個人情報保護方針(甲17)に違反して、原告らの承諾なしに、原告らの住所氏名が記載された別件懲戒請求書1を、マスキングもせずそのまま訴外佐々木に提供した。

別件懲戒請求1を受けた訴外佐々木は、平成29年9月19日、「事実無根で私のことを懲戒請求した人は、それ相応の責任をとってもらいますよ。当り前じゃないですか。大人なんですから。」とツイートし、損害賠償請求提起を公言した。

訴外佐々木は、同年9月20日、「本件は、“保守派”の弁護士の先生たちも、私への懲戒請求には“ひどい”とおっしゃって下さっておりますよ。」とツイートした。


(7)別件懲戒請求2

訴外佐々木のツイートを見た弁護士の訴外北周士(きたかねひと。以下「訴外北」という)は、同年9月21日「保守派といいますかささき先生とは政治的意見を全く異にする弁護士ですが、今回のささき先生に対する根拠のない懲戒請求は本当にひどいというか頭おかしいと思いますし、ささき先生に生じている損害の賠償は当然に認められるべきだと考えています。」とツイートした。

弁護士会の会員でありながら、問題のある弁護士会の政治活動に言及もせず「根拠のない懲戒請求」と決めつけ、「頭おかしい」と公然と侮辱し、しかも損害賠償の提訴をもって懲戒請求者らに脅威を与えるツイートであった。多くの懲戒請求者がこのツイートを脅迫であると感じ、原告らもそのように感じた一人であった。後に橋下徹弁護士やケント・ギルバート米国弁護士も、このような対象弁護士の行為を恐喝罪に当たりうると述べている(甲13の241~243頁)。

 そこで本件ブログは、訴外北に対する懲戒請求を呼びかけ、原告らはこれに応じ、平成29年秋、訴外北を対象弁護士とする懲戒請求書に住所と氏名を記入し押印して(日付は空欄にして)、運動主催者に送った(甲15。以下「別件懲戒請求書2」という)。運動主催者がこれを、日付空欄のまま、東京弁護士会に送付したと聞いている(以下「別件懲戒請求2」という)。

 東京弁護士会は、個人情報保護法や同会の個人情報保護方針(甲17)に違反して、原告らの承諾なしに、原告らの住所氏名が記載された別件懲戒請求書2も、マスキングもせずそのまま訴外北に提供した。 


(8)本件懲戒請求

訴外佐々木の9月19日のツイートを見た被告嶋﨑は、同日、「何で懲戒請求されてるのか、ほんと謎です。酷い話だ。」とツイートした。懲戒請求の根本は、問題のある弁護士会長声明にあるにもかかわらず、「ほんと謎」「酷い話」と言って根本の問題を覆い隠すものであった。しかも「それ相応の責任」を追及すると宣言する訴外佐々木のツイートに同調して、懲戒請求者らに脅威を与えるツイートであった。

このため、本件ブログが被告嶋﨑のツイートを懲戒事由とする本件懲戒請求を呼びかけた。原告は、この呼びかけに賛同し、本件懲戒請求に及んだ。


(9)小結

 以上のとおり、北朝鮮を支持するという政治的立場を旗幟鮮明にしている朝鮮総連、その傘下の朝鮮学校に対する補助金という極めて政治性の強い問題、弁護士会が長年にわたり特定政党と同一の政治的主張を宣伝してきたこと、それに反対する立場で政治的意見を発信する本件ブログ、そのブログの呼びかけによる本件懲戒請求、という背景事情がある。したがって、本件ブログに賛同して本件懲戒請求をしたという情報は、懲戒請求者らの政治的見解、信条に密接に結びつく情報である。


3-5-3政治的見解の公表は強制されるべきでないと被告嶋﨑も主張

訴外佐々木と訴外北とが原告となり被告嶋﨑がその訴訟代理人となって懲戒請求者らに損害賠償を請求している別件訴訟で、裁判所が訴外佐々木らに対してある訴訟上の指示をした。訴外佐々木と訴外北が別件懲戒請求1、同2を受けて東京弁護士会に提出した「答弁書」を証拠提出するよう、指示したのである。ところが訴外佐々木らは提出を拒否した。拒否の理由として、代理人である被告嶋﨑は、朝鮮学校補助金支給要求の弁護士会長声明についての賛否等の見解は、「誰からも公表を強制されるべきではない性質のものである。」「答弁書が手続き外に公表させられることとなれば、結局、懲戒手続が弁護士に対する意見表明を強制する手段として使われうることになる」と主張している(甲16)。

(それならば見解だけマスキングして提出すればよいのだが、それはさておき)このように被告嶋﨑も訴外佐々木も、政治的見解は公表を強制されるべきではないと主張しているのであり、政治的見解、信条の秘密は保護されるべきことについて、争いは無いものである。


3-6 要保護性の高さ

~マスコミとネットでの「不当」「カルト」「洗脳」バッシングと脅迫

 本件で提供・公開された原告らの個人情報は、本件懲戒請求を行なったという情報を含むところ、大量懲戒請求を行なった者らについて、大手マスコミが一方的な立場から否定的に取り上げたり、対象弁護士と第三者が侮辱と脅迫文言の公言を繰り広げてきた。この結果、懲戒請求者らは、侮辱し軽蔑しても良い者、社会制裁を受けるべき者であるというイメージが社会に広まってしまっている。

したがって、原告らの個人情報の要保護性は極めて高い。

 以下に詳述する。(太字、下線は原告代理人による強調)

ア 平成29年9月2日、訴外佐々木はツイッター上に懲戒請求者らについて「落とし前はつけてもらうからね」(甲22)「とりあえずランダムに訴えてみようかな」(甲21)等とツイートした。それに対し被告嶋﨑は「良いですね。労働弁護士は、こんなお仕事が大好きな戦闘的な皆さまが多数。とりあえず何人か血祭りにあげてみましょう。」とツイートした(甲21)。

イ 平成30年5月9日、訴外佐々木は「ネトウヨのみんな、リアルに訴状が送られてくるので、しっかり受け取るんだぞ。」とツイートした。それを読んだアカウント名nos@unspiritualizedという訴外人が「素晴らしい。法的なことは分からないが、ネトウヨたちの実名リストを公表してもらいたい。そして社会の様々なレベルで露わとなったネトウヨたちをきちんと排除し、叩き、軽蔑し、その上で真人間に戻るよう努めるべきだ。」と発信した(甲23)。

ウ 同年5月11日、大量懲戒請求で対象弁護士となった被告弁護士会所属の訴外神原元は、ツイッターで、懲戒請求者らについて、「ネトウヨ」「更生するには数年の月日を要する」「彼等の更生には“処罰→治療→教育”という過程を経ることが必要だろう。法律家は医者でも教師でもないから、我々にできるのは、その最初のターム(処罰)だけである。」「ネトウヨには社会的制裁のみ受けてもらえばよい。」「私の手元にある懲戒請求者のリスト。これは他の事件の解決にもつながる貴重なリストである。公安警察等公的機関で保管して利用すれば犯罪(主にヘイトクライム)の抑止にもつながるかもしれない。」「警察は本件懲戒請求者リストを“ヘイト犯罪の傾向がある者のリスト”として永久保存し活用するだろう。」「たかがネットに煽られて弁護士に大量の懲戒請求をしたり、在日コリアンを入管に大量通報したり、検察庁に大量告発したりする日本人が、新聞に煽られたら朝鮮人虐殺をしないはずがない。何度も言うが、大量懲戒請求はヘイトクライムである。」「“売る”とは言ってません。刑事告訴すれば当然に当局の手に移るし、前科前歴になれば永久に記録されるという意味です。」「“ネトウヨ絶対殺すマン”って(^.^)  俺にぴったり過ぎるよね。」とツイートした(甲24)。

エ 平成30年5月16日、訴外佐々木は訴外北とともに記者会見を開き、要旨「訴外佐々木は延べ3000件、訴外北は960件の不当な大量懲戒請求を受け、損害を被った。懲戒請求者を提訴する。」旨を告知し、大量懲戒請求が不当であり違法であるいう見解を宣伝した(甲18)。

オ 同年5月30日、Business Journalは、「歪んだ正義感はなぜうまれたのか…弁護士への大量懲戒請求にみる“カルト性”」というタイトルの記事をインターネット上に掲載した(甲19)。ジャーナリスト江川紹子が本件懲戒請求に関し「歪んだ正義感」「ブログに煽動され」「カルト性」などという否定的言葉でまとめた記事であった。

カ 同年6月23日、朝日新聞は「ブログの言うまま懲戒請求」という見出しの記事を掲載した。本件懲戒請求について「今思えば差別」「洗脳されていた」「ブログにあおられた」「間違っていた。反省している」「差別加担しないで」とする和解者等の意見をもとに書かれ、発端となる弁護士会の政治活動の問題には一切斬り込まない記事であった(甲20)。

キ 同年10月29日、NHK「クローズアップ現代」が「なぜ起きた? 弁護士への大量懲戒請求」を放送した。内容は、懲戒請求を受けた弁護士と、自分が間違っていたと反省して和解した懲戒請求者のコメントが大きく取り上げられていた。「深く考えていない」「ギャンブルで負けが込み自己破産、低空飛行している時にブログに出会った」「嘘もあるが全て信じてしまう。過激さが加わり偏りすぎた」「迷惑をかけたと反省している」「(日弁連コメント)懲戒制度の趣旨とは異なる。検討には値しない」等、否定的なコメントが中心であり、根本の問題である弁護士会の政治活動には一切触れないものであった(甲25)。

ク 訴外佐々木、訴外北、被告嶋﨑は同年11月を皮切りに順次、多数の懲戒請求者らに対し、各自33万円の損害賠償を求める訴訟を提起し、そのことを積極的にツイッターで発信した。

ケ 同年12月25日、被告嶋﨑、訴外佐々木、訴外北、訴外倉重、訴外田畑の計5名の弁護士が記者会見を開き、期日報告をするとともに、あらためて順次、全員を訴えて「サンクション」をする旨宣言した。訴外佐々木は懲戒請求者が高齢層だとコメントした上で「目を覚ましなさい」「シャバに戻ってこい」などと述べ、被告嶋﨑は「和解すると名前が漏らされて、960人の中で攻撃されると恐れている人がいる。カルトそのものだ。」などと発言した(甲26)。

 提訴や、認容判決が下されたことが、その後も逐次報道されるようになった。


 以上のように、懲戒請求を受けた弁護士らも、マスコミも、第三者も、本件の本質である弁護士会による不当な政治活動や、北朝鮮傘下の学校へ公費補助を行わないのは人種差別だとする会長声明の政治性を何ら問題とすることなく、懲戒請求者らを「不当」「違法」「カルト」「洗脳」「差別」「頭おかしい」「制裁」などと一方的に非難攻撃(バッシング)するキャンペーンを繰り広げて来た。

 このような渦中にある中、原告らが本件懲戒請求を行なったという情報は、要保護性が極めて高いものである。


3-7 要保護性が高いことの強調

~訴訟記録の閲覧制限申立てにおける秘密保護の判断との共通性~

3-7-1 はじめに

 懲戒請求者らが当事者となっている全国各地の訴訟で、懲戒請求者らが上記の事情に鑑み、民事訴訟法92条所定の訴訟記録の閲覧制限(住所氏名の秘匿)を申し立てたところ、問題なく認める決定を出す裁判体がある一方で、中にはこれを却下する決定を下す裁判体があった(甲27。以下「本件却下決定」という)。個人情報保護について誤った認識を持っている裁判官が存在することがわかり、驚愕しているところである。

本件も正に、訴訟記録として原告らの個人情報が一般公開されていることを損害として訴えているものであるから、そのような誤った認識で本件を審理判決されてはたまらない。そこで、御庁にはそのような裁判官はいないと思われるが、念のため、本件却下決定の誤りを指摘し、本件個人情報が訴訟記録として一般に閲覧されてよい情報ではないことをさらに主張する。


3-7-2本件却下決定の理由

 本件却下決定は、却下の理由として、「氏名、住所及び郵便番号は、いずれも、人が社会生活を送る上で、一定の範囲の他者に開示することが予定されている情報であり、それ自体が直ちに申立人の私生活についての重大な秘密に当たると解することはできない。」「弁護士に対する懲戒の請求は、対象とされた特定の弁護士について、所属弁護士会の有する自律的懲戒権限の行使を求める公的な申立てであり、当該弁護士会による懲戒の処分について、懲戒を受けた弁護士から、処分又は採決の取消しを求める訴えが提起されることも予定されているところ(弁護士法59条、61条、行政事件訴訟法8条1項、2項)であって、申立人が自らこのような公的申立てである懲戒の請求を行い、その結果、自己の政治的見解、信条を表明した以上、上記政治的見解ないし信条が、申立人の私生活についての重大な秘密として保護されるものに当たるとは解されない。」と述べる。

 しかし、この却下理由は、民事訴訟法92条の解釈、及び弁護士法に基づく懲戒請求の制度の理解を完全に誤ったものである。このような認識で本件を審理判断されることがあってはならない。


3-7-3「私生活についての重大な秘密」とは~個人情報保護法を踏まえて

 民事訴訟法92条にいう「私生活についての重大な秘密」の解釈は、その閲覧制限の申立てがなされた時点における社会通念を基準に判断されるものである。時代とともにプライバシーないし個人情報に対する保護の要請は強まり、ついには平成15年に個人情報保護法が成立し、かつては公表されていた個人情報でも(例、電話帳、学校の生徒名簿)、現在では原則として本人の同意無く他人に開示されることはなくなった。

 そうすると、民事訴訟法が制定された当時とは異なり、現在、個人の住所氏名は本人の承諾がない限り、第三者に提供されるべきものではないのであるから、ましてや不特定多数に向けて一般公開されてよい情報ではない。

 そもそも民事訴訟法91条が、訴訟記録の一般公開を規定しているのは、裁判の公開原則に対応したものである。裁判の公開は、裁判が公正に行われることを制度として保障し、裁判に対する国民の信頼を確保するためのものである。

そうであるならば、どのような事案がどのような主張と証拠に基づきどのように審判を下されるのかが国民に明らかになればよく、その事案の当事者が誰であるかという個人情報は、それが公務員やこれに準じた公的立場の人でない限り、国民一般が知る必要は無い。そうであるから、閲覧制限申立ても、事案の内容は全て公開し、ただ単に当事者の個人情報だけを秘匿することが求められたものである。

したがって、個人情報保護法が制定されて久しい今日、住所氏名という個人情報は、原則として本人の承諾がなければ開示されないものであり、ましてや不特定多数の第三者に一般公開されてよいものではないから、少なくとも当事者が住所氏名について民事訴訟法92条に基づき閲覧制限を求めた場合、原則としてこれを認めるのが、個人情報保護法を踏まえた民事訴訟法92条の正しい解釈である。


3-7-4住所氏名が開示される他者について

本件却下決定は「氏名、住所及び郵便番号は、いずれも、人が社会生活を送る上で、一定の範囲の他者に開示することが予定されている情報」と書いている。そのとおり、あくまで「一定の範囲の他者」であって、不特定多数の一般人ではない。社会生活上の様々な場面で、その必要に応じて、必要な相手にだけ開示されるのである。しかし、訴訟記録は誰でも閲覧でき、無制限である。そうであるから、「一定の範囲の他者」に開示されるからと言って、訴訟記録として一般公開してよい情報であると言うことはできない。

このような理由で住所氏名の閲覧制限を認めなかった裁判官3名は、訴訟記録(たとえば判決書)に裁判官の氏名のみならず、自宅の住所も記載してよいというのであろうか。


3-7-5 最高裁判決等

最高裁判決等により住所氏名等の個人情報の要保護性が認められていることは、既に述べたとおりである。


3-7-6 公的な申立てであるから公開という論理の失当

(1)被処分者の取消し訴訟との関係

懲戒請求が公的な申立てであることと、その申立てをした事実を不特定多数に公開してよいかどうかは全然別問題である。

  本件却下決定は、弁護士会から懲戒処分を受けた弁護士が、不服申し立ての取消し訴訟を提起することも制度上予定されていることを挙げる。(その趣旨は不明だが、だから懲戒請求が公的な申立てだと言いたいようである。)

しかし、取消訴訟の当事者は、原告が弁護士、被告が日本弁護士連合会(又は弁護士会)であって、懲戒請求者は当事者ではない(弁護士法61条、行政事件訴訟法8条1項、2項)。懲戒請求はあくまで弁護士会による調査の端緒に過ぎず、懲戒請求者の権利の救済等を目的とするものではないからである。

懲戒処分はあくまでも弁護士会の調査に基づき弁護士会が行う公的処分であり、主体は監督権限を持つ弁護士会である。それに対して被処分者が不服申し立てをしたり取消訴訟を提起したりできるのは当然である。だからと言って、調査の端緒となった懲戒請求者の個人情報が公的情報となり、なんぴとにも開示されてよいものになるわけではない。本件却下決定の論理は失当である。


(2)公益通報の通報者の保護

ア はじめに

むしろ逆である。懲戒請求は公益通報の一種であり、通報者は逆恨みされて不利益を受けることの無いよう、秘密が保護されなければならない立場である。

公益通報の一種とは、次のような意味である。すなわち、不良な弁護士が跳梁跋扈しては、国民の権利利益が損なわれ、弁護士に対する信頼が失われ、その結果弁護士を国家機関に監督させようということになり、弁護士自治が廃止されることになるから、弁護士会が責任を持って弁護士を監督するが、弁護士会の目の行き届かないことがあるから、「天網恢恢疎にして漏らさず」を期して、不良な弁護士の情報を広く一般に求めているのが懲戒請求の制度趣旨である。だから弁護士法は「なんぴとも」懲戒請求できると定め、そのハードルを低くしているのである。そして、弁護士が身内の庇い合いで適正な処分を下さないことが想定されるから、懲戒請求者に結果を通知し、もみ消しの防止と処分の適正を担保しようとするものである。つまり懲戒請求は、懲戒請求者自身の権利利益とは関係なしに、弁護士自治という公益のために行われる行為である。

公益通報において、通報者が通報したことによって不利益を被ってはならないのは言うまでもない。通報者自身のため、また、必要な通報が行われなくなるという萎縮効果を避けるため、通報者は保護されなければならない。


イ 裁判官の訴追請求にかかる通報者保護

国民誰でも裁判官について訴追委員会に訴追請求をすることができるが(裁判官弾劾法15条)、誰が訴追請求したかは、対象とされた裁判官に知らされることはない。訴追請求者が対象とされた裁判官から逆恨みされ、係属中の裁判で不利益を受けることがあってはならないからである(甲28、訴追委員会へのよくある質問No.11)。

ウ 他士業の懲戒請求における通報者保護

 司法書士、税理士、社会保険労務士という他士業においては、一般国民から各士業の単位会や連合会に懲戒を求める通報がもたらされても、その者の個人情報を対象者(会員)に提供していない。また各士業の懲戒処分権限を持つ監督行政庁は、守秘義務を負う公務員であるため懲戒請求者の個人情報を対象者に提供していない(甲29~31)。


エ 小結

 このように、公益通報としての性質を持つ懲戒請求については、通報者の個人情報が保護されている。

したがって、本件却下決定の言う懲戒請求が公的申立てであるということは、懲戒請求者の個人情報の秘密を守らなければならないという結論に結びつくものである。本件却下決定はこの点を全く逆にしており、懲戒請求の制度趣旨を全く知らないものである。


(3)申立人は自ら「表明」していないこと

本件却下決定は「申立人が自らこのような公的申立てである懲戒の請求を行ない、その結果、自己の政治的見解、信条を表明した以上」と書いているが、そのような事実は存在しない。

当該事件の申立人は、本件の原告らと同様、懲戒請求書を作成し、それを封書に入れて取りまとめ団体に送り、取りまとめ団体がこれを封書で東京弁護士会と被告弁護士会に送付したものである。したがって、当該懲戒請求書から知れる申立人の政治的見解、信条を、各弁護士会以外の第三者に「表明」したりしていない。ましてや不特定多数の一般人に広く「表明」したことなど一切ない。

東京弁護士会も被告弁護士会も、個人情報保護法により、個人情報を本人の承諾なく第三者に提供することは許されない。ましてや、両弁護士会とも、個人情報保護に関する指針をウェブサイトに公開し、個人情報を本人の了解なしに第三者に提供しないと宣言している(甲17の最後のページ、甲2)。懲戒請求者らは、個人情報取扱事業者としてこれら指針を公開している各弁護士会を、その限度で信用して、懲戒請求を行なったものである。したがって、各弁護士会が懲戒請求者らの住所氏名を、本人の承諾なく、法令上の根拠も無いのに対象弁護士に横流ししたことは、重大な違法であり不法行為である。

本件却下決定は、そのような弁護士会による個人情報の違法な取り扱いを、あたかも当然の前提であるかのごとく述べ、申立人が政治的見解、信条を「表明した」などと認定したのは、完全な事実誤認である。


(4)懲戒手続きは非公開であること

 各弁護士会の懲戒手続きは、懲戒処分が下されれば公表されるが、懲戒処分が下されない限り、非公開である。

東京弁護士会の綱紀委員会会規(甲32)は、綱紀委員会の委員、担当職員に守秘義務を課している(35条)。綱紀委員会の議事と調査は非公開であり記録も非公開である(8条、36条)。

被告弁護士会の会規(甲3)も同様で、綱紀委員や職員には守秘義務が課され(6条)、綱紀委員会も調査期日も非公開であり(34条)、記録も非公開である(64条2項)。

東京弁護士会は、大量懲戒請求にかかる事件の係属裁判所から個別事案について調査嘱託を受けたのに対し、個別の事案に関する内容については、手続きと記録の非公開原則を定めた会規の存在を理由に回答できないとしている(甲33)。

このように、懲戒請求は公的申立てであっても、弁護士会が懲戒処分をしない限り、手続きは一切非公開である。本件は懲戒処分に至ることなく終了しているので、非公開である。

したがって、公的申立てであることを理由に、懲戒請求者らの住所氏名を公開してよいことにはならないものである。


(5)公的な行為と秘密の保護について~民主政治の根幹をなすもの

政治的見解、信条は、投票の秘密と軌を一にするものである。

投票は、国会や地方議会の議員等を選ぶという最も公的な行為であり、政治的な行為の最たるものであるが、その秘密は憲法で保障されている。なぜならば、誰(何党)に投票したかを言わなければならないとすれば、有形無形の不当な圧力を受け、自由に投票することが出来なくなり、その結果、民主的な選挙が行われなくなるからである。

投票の秘密を実効あらしめるためには、これと不可分の政治的見解、信条の秘密も保護されなければならない。政治的見解、信条を、意に反して言わなければならないとすれば、結局、選挙で誰(何党)に投票するかを言わなければならないのと同じだからである。

つまり、政治的見解、信条の秘密は、民主主義の根幹を為す極めて重要なものである。

個人情報保護法2条3項で、信条を「取扱いに特に配慮を要する」要配慮情報の1つと定めているのも、この趣旨に出たものである。

したがって、懲戒請求が公的な申立てであることをもって、懲戒請求者の政治的見解、信条の秘密は保護されなくてもよいとする本件却下決定は、論理的に誤っているのみならず、民主主義の意味も理解していないものである。裁判官にあるまじき誤りであり、驚き呆れる他は無い。


(6)見解の表明と個人情報の公開は別であること

 仮に本件却下決定の言うごとく、懲戒請求者が自らの意思で政治的見解、信条を「表明した」と仮定しよう。政治的見解、信条を公に発言したり発信したりすることは、民主主義社会の一員である以上、あり得ることである。

 しかしだからと言って、住所氏名を不特定多数の一般人に公開してよいことにはならない。匿名で政治的意見を述べることはよくある。仮に氏名を明らかにして発言したとしても、自宅住所まで一般に公開する人はむしろ稀である。

 本件却下決定の論理に従えば、自宅の住所を一般公開されることを甘受しなければ、公的な申立てはできないということになる。そのような不当な結論が誤っているのは明らかである。

 本件却下決定の論理に従えば、本件却下決定を書いた裁判官3名は、自らの意思で裁判官になり、公的かつ権力的な公文書である判決書等を作成し、その中で自らの法的見解を表明しているのだから、自宅の住所も一般に広く公開してよいことになる。松本サリン事件は裁判官の官舎が狙われたテロ事件であった。裁判官が不当な圧力や脅しに屈せず、法と良心のみに従って判決を書くためには、その安全が守られなければならない。裁判も、政治活動も、それにより不利益を被る者から容易に恨まれやすく、不当な攻撃にさらされやすい。だからこそ、自宅の住所などは最も秘密が守られなければならないものである。


3-8 小結

 以上のとおり、原告らが本件懲戒請求をしたという事実と原告らの住所氏名は、その秘密が法律上保護を受ける原告らのプライバシーである。しかも、政治的見解、信条にかかる情報として、取り扱いに特に配慮を要するセンシティブ情報であるから、その法律上の保護が特に厚いものである。


第4 違法性

4-1 基本的主張

4-1-1 本件無断提供の不法行為該当性

 原告らが本件懲戒請求を行ったという事実と、原告らの住所氏名という個人情報は、前記のとおり法的に保護されたプライバシーであるから、被告弁護士会が原告らの同意無く、本件懲戒請求を行なった者として本件リストを被告嶋﨑に提供したことは、原告らのプライバシーを違法に侵害する不法行為である。


4-1-2 本件リスト公開の不法行為該当性

別件横浜訴訟は17件全て、被告嶋﨑が原告ら以外の第三者らに対して、当該第三者らが本件懲戒請求をしたことが被告嶋﨑に対する不法行為であると主張して、損害賠償を請求するものである(甲6の2、訴状)。

それら各事件において、被告嶋﨑の主張立証のために、原告らが本件懲戒請求をした事実と原告らの住所氏名という個人情報を公表する必要は皆無である。

したがって、別件横浜訴訟における本件リスト公開は、原告らのプライバシーを違法に侵害する不法行為である。


4-2 本件無断提供の違法性の補充主張~被告弁護士会の反論を踏まえて

 被告弁護士会が懲戒請求者らの個人情報を本人の同意無く対象弁護士に横流しした不法行為については、他の対象弁護士に対する横流しについて、既に損害賠償請求訴訟が係属中である(横浜地裁平成30年(ワ)第4206号。以下「別件横浜4206号事件」という)。

 別件横浜4206号事件において、被告弁護士会は、懲戒請求者の住所氏名を対象弁護士に横流しすることは違法でないと主張して、不法行為の成立を争っている(平成31年3月29日付「準備書面1」。以下「被告弁護士会書面」という。甲34)。そこで別件横浜4206号訴訟での被告弁護士会書面の主張をも踏まえて、本件無断提供の違法性について主張を尽くしておく。


4-2-1被告弁護士会が懲戒制度の基本的理解を全く欠いていること

 被告弁護士会は、「懲戒手続は懲戒請求があってはじめて開始することができ(法58条1項、2項、会規23条、24条)」と書いている(甲34の17頁9行目)。この主張は完全な誤りである。

この誤りは、制度の些末な手続きに関する勘違いなどではなく、懲戒制度の根本に関する基本的理解を欠いていることを露呈する、あり得ない誤りである。

被告弁護士会による本件無断提供は、被告弁護士会がこのように制度の根本さえ理解していないことに由来するものである。

当たり前の話であるが、懲戒手続きは弁護士自治を支える重要な制度であるから、一般人からの懲戒請求を待たずとも、弁護士会が職権で開始することができる(弁護士法58条2項、会規24条)。

懲戒制度の趣旨、枠組みはこうである。不良な弁護士が跳梁跋扈しては国民の権利利益を害し、弁護士に対する信頼が失われ、ひいては国家権力に弁護士を監督させようということになり、そうなっては自治が損なわれるから、弁護士会が懲戒権限をもって自治的に監督するが、弁護士会の目が行き届かないところがあるため、一般人からも情報提供を受け付けているのが懲戒請求である。いわば弁護士会の監督能力の不足を補うために、一般人の助力を仰ぐのが懲戒請求である。だから懲戒請求は「なんぴとも」できるとされ、調査の端緒に過ぎず、懲戒請求者の権利救済を目的とするものではなく、懲戒請求が取り下げられた後も手続きは進行するのである。

このような制度であるから当然、一般人の懲戒請求を待たず、弁護士会が職権で手続きを開始できる。

被告弁護士会は、別件横浜4206号事件で代理人弁護士が3人もいて、3人ともこのような基本的な理解も無いのである。本件無断提供は、このように弁護士でありながら弁護士法も自らの弁護士会会規も知らない弁護士らによって、違法に行われたものである。



4-2-2 会規に基づく通常の手続きとの弁解関連

(1)通常イコール適法ではないこと

 被告弁護士会は、懲戒請求者の住所氏名という個人情報を対象弁護士に横流しすることが、「会規に基づいて、通常の手続きとして行われているところである。」と主張する(甲34の14頁)。

しかしこれは、何ら適法かつ正当であることの根拠となっていない。単に、違法な会規に基づく個人情報漏洩が常態化していることを自白しているだけである。違法なことを通常やっているからといって、それが違法でなくなるわけではない。


(2)法や会規が住所氏名の通知を定めていない趣旨~請求者の保護

 会規(甲3)によれば、対象弁護士に対して通知しなければならない事項に、懲戒請求者の住所氏名は含まれていない(26条2項)。当然である。被告弁護士会が説明するように、懲戒請求は弁護士会の懲戒権の発動を促す申立てであり、調査の端緒にすぎない。懲戒手続きは、あくまで弁護士と所属弁護士会との間の法律関係であることから、懲戒請求者は懲戒手続きにおける当事者とはいえない(被告弁護士会書面甲34の8頁下3行~9頁3行目)。したがって、懲戒請求者の住所氏名を対象弁護士に知らせる必要は無い。

知らせる必要が無いどころか、逆に、懲戒請求者を守るために、対象弁護士に知らせてはならない要秘匿事項である。このことは、既に公益通報の通報者保護の要請として論じた。対象弁護士が法律事務所でパワハラやセクハラをしていることを懲戒事由としている場合を考えれば、容易に理解できるはずである。懲戒請求は「なんぴとも」行うことができるから(弁護士法58条1項)、パワハラやセクハラの訴えがあったからといって、ただちに被害者本人が訴えたかどうかはわからず(家族や同僚が訴えることもあり得るから)、その限りで懲戒請求者は守られる。しかし、懲戒請求者の住所氏名が対象弁護士に筒抜けになるならば、到底安んじて懲戒請求することはできない。「よくも懲戒請求したな」と、意趣返しでさらなるパワハラを受けるのが目に見えているからである。懲戒請求は公益通報の一種であるから、通報者の個人情報は固く守られなければならない。

そうであるから、弁護士法はもちろん被告弁護士会の会規にも、懲戒請求者の住所氏名を対象弁護士に通知するとは定められていないのである。

 

(3)違法な会規

弁護士法上、綱紀委員会がすべきことは「事案の調査」である(58条2項)。これを受けて被告弁護士会会規26条2項二号は、対象弁護士に、「事案」を通知することを定めている。対象弁護士は、「事案」が知らされなければ防御活動を行うことができないから、当然、必要な通知事項であり、ここは問題ない。

同会規が違法なのは、同号のカッコ書きに「(懲戒請求書又は懲戒請求書の副本又は謄本を添付することをもって代えることができる。)」とある部分である。「懲戒請求書又は懲戒請求書の副本又は謄本」には、「事案」のみならず、懲戒請求者の住所氏名が記載されているから(丙2、会規21条1項一号)、このカッコ書きにより、本来秘匿しなければならない懲戒請求者の個人情報が対象弁護士に開示されるという、あってはならない事態が起こるのである。このカッコ書きが「懲戒請求者の住所氏名印影を黒塗りした懲戒請求書の抄本」であれば問題は無かったであろう。しかし被告弁護士会は、敢えて懲戒請求書又はその副本又は謄本と規定し、個人情報漏洩を常態化させる違法な会規を制定したのである。


(4)会規に基づかないリスト作成と交付

しかも本件では、被告弁護士会が、「事案」を通知するために、会規のカッコ書きに従って、懲戒請求書又はその副本又は謄本を添付する方法によったがために、事案のみならず住所氏名までもが対象弁護士に知らされてしまった、というだけではないのである。

何と、被告弁護士会は、わざわざ懲戒請求者の住所氏名を打ち込んだ本件リストを別途作成し、これをそのまま対象弁護士に交付したのである。そのようなリストを添付してよいなど、会規26条2項二号は規定していない。つまり、「会規に基づいて」さえもいない、完全に違法な個人情報漏洩である。


(5)小結

よって、会規に基づく通常の手続きであるから適法かつ正当であるとの被告弁護士会の弁解は失当である。








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