平成28年12月22日 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」
(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明
2016年(平成28年)12月22日 仙台弁護士会 会 長 小野寺 友 宏
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平成28年11月17日 死刑執行に断固抗議し,死刑執行を停止するとともに,死刑に関する情報を広く公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を求める会長声明
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本年11月11日,福岡拘置所において,死刑確定者1名に対する死刑の執行が行われた。金田勝年法務大臣による初めての死刑執行であり,第二次安倍内閣の下での死刑執行は10回目で,合わせて17名になる。死刑制度は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を有しているものであり,また,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものである。2014年(平成26年)3月27日に,静岡地方裁判所が,袴田巖氏の第二次再審請求事件について再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する決定をしたことは,えん罪による生命侵害の危険性を現実のものとして世に知らしめたものとして記憶に新しい。 世界に目を向けても,死刑を廃止又は停止している国は140か国に達しており,第69回国際連合総会(2014年12月18日)において,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117か国の賛成により採択されている。また,同年7月23日に採択された国連自由権規約委員会の第6回日本定期報告に関する総括所見は,死刑廃止を目指す自由権規約第二選択議定書への加入を考慮することや,再審あるいは恩赦の申請に死刑執行停止効果を持たせたうえで死刑事件における義務的かつ効果的な再審査の制度を確立することなどを勧告している。それゆえ,当会はこれまで,政府に対し,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の存廃について,国民が十分に議論を尽くし意見を形成するのに必要な情報を広く国民に公開して,国民的議論を行うよう繰り返し求めてきた。また,日本弁護士連合会は,本年10月7日に開催された第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,死刑制度についての国民的議論の契機となっている。そのような中,政府が国民的議論のための情報開示を十分に行わないまま今回の死刑執行を行ったことは,死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を著しく欠いたものであり,死刑の執行を停止し死刑制度の存廃を含む抜本的な検討と見直しをする必要性を軽視したものであると言わざるを得ない。よって,当会は,政府に対し,今回の死刑執行について断固抗議するとともに,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の犯罪抑止効果,死刑囚の置かれている状況,死刑執行の方法,えん罪と死刑の関係など死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始するよう改めて求める。
2016年(平成28年)11月17日 仙台弁護士会会長小野寺友宏
平成28年10月20日 憲法違反の安保法制の廃止を求めるとともに南スーダンPKOに対する運用・適用に反対する会長声明
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2015年(平成27年)9月19日に強行採決された「平和安全法制整備法」(※1)及び「国際平和支援法」(※2)(以下併せて「安保法制」という)は、本年3月29日に施行された。そして、安保法制によって改正されたPKO法(※3)に基づき、同年11月から南スーダンPKO(国連平和維持活動)の部隊として派遣される予定の陸上自衛隊東北方面隊に対して「駆け付け警護」・「宿営地共同防護」の任務付与が検討され、それに向けた武器使用等の訓練がなされているとの報道がなされている。「駆け付け警護」では、襲撃されている他国要員等を防護するための武器使用が認められ(改正PKO法第26条第2項)、「宿営地共同防護」では、外国の軍隊の部隊の要員と共に宿営する宿営地に攻撃があったときに当該宿営地に所在する者の生命又は身体を防護するための武器使用が認められている(同法第25条第7項)。これらの任務は、敵対勢力の反撃次第で戦闘行為に発展する可能性があり、その場合には憲法第9条が禁止する「武力の行使」又は「武力による威嚇」に抵触する。そして、本年8月12日に採択された国連安保理決議は、陸上自衛隊が参加するPKO部隊であるUNMISS(国連南スーダン・ミッション)の指揮下に置かれる部隊の増派を決定するとともに、その部隊は国連要員や民間人らへの攻撃に「積極的に対処する」としているため、陸上自衛隊が戦闘行為に関わる可能性は一層増していると言える。そもそも陸上自衛隊の派遣先である南スーダン共和国は、2013年(平成25年)12月から政府と反政府勢力との間で激しい戦闘状態が続き、本年7月にも大規模な戦闘があり、本年10月8日にも首都ジュバ近郊で民間人が襲撃され、多数の市民が死亡したとの報道がなされており、UNMISSも国内各地で暴力や武力紛争が増加していることに懸念を示している。このような状況下における派遣は、憲法第9条との矛盾抵触を防ぐために定められたPKO実施の要件(「武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合に、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される活動」(同法第3条第1号イ。いわゆるPKO5原則の第1ないし第3原則))を満たしているのか疑わしく、派遣自体に憲法上の疑義があるため、情報を開示した上で派遣継続の是非について慎重に判断されるべきである。当会は、安保法制は憲法第9条に違反することを指摘して、その成立に反対し、廃案を求める意見を繰り返し表明してきた。安保法制が施行された現在においても、これらの法律が違憲であることに変わりはなく、その運用・適用は認められない。そして、今、安保法制によって改正されたPKO法に基づいて憲法違反の自衛隊活動が実行されかねない事態が迫っている。よって、当会は、引き続き憲法違反の安保法制の廃止を求めるとともに、その運用・適用に強く反対し、その具体的場面として検討されている南スーダンPKOへの「駆け付け警護」及び「宿営地共同防護」の任務付与に反対する。
2016年(平成28年)10月20日仙台弁護士会会長 小野寺 友 宏
平成28年07月21日 犯行時少年に対する死刑判決を受けての会長声明
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殺人罪等に問われた犯行時18歳7か月の少年に対する裁判員裁判事件において,仙台地方裁判所は,2010年(平成22年)11月25日に死刑を言い渡した。その後,控訴審(仙台高等裁判所)でも結論が維持され,本年6月,最高裁判所は弁護側の上告を棄却し,死刑判決が確定するに至った。この事件は,裁判員裁判で初めて少年に対して死刑を言い渡したということで社会の注目を集め,少年に対する死刑適用の是非や手続保障,審理のあり方について考える契機となった。死刑制度は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を有しているのであり,また,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものである。このような死刑制度自体の問題を踏まえると,死刑適用の問題,とりわけ犯行時少年に対する死刑の適用については極力慎重な判断が求められる。すなわち,1994年(平成6年)に我が国でも発効した子どもの権利条約第37条が18歳未満の子どもに対して死刑を科すことを禁止し,少年法第51条も同様の定めをしている。これは,18歳未満で重大な事件を起こした少年の場合,成育過程においていくつものハンディを抱えていることが多く,精神的に未成熟であることから,あらためて成長と更生の機会を与え,自らの行為の重大性に向き合わせようとする趣旨である。そして,これらの法の趣旨は,子どもの権利条約の前文に引用されている少年司法運営のための国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)が少年の年齢を区別することなく,「少年とは,各国の法律制度の下において,犯罪について成人とは違った仕方で取り扱われている児童又は若者をいう」(第2条2(a))とした上で,「死刑は少年が行ったいかなる犯罪についても科してはならない」(第17条2)と規定していることをも併せ考慮すれば,犯行時18歳・19歳のいわゆる年長少年についても尊重されるべきであり,その更生可能性の評価・判断は成人の場合以上に慎重を期して行われる必要がある。以上に鑑みれば,犯行時18歳以上の少年に対する死刑選択が争点となりうる事件については,捜査段階からの十二分な適正手続の保障はもとより審理のあり方についても慎重な検討が求められる。しかし,現在までこれらの点に関する議論の進展が見られない。よって,当会は,国に対し,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,犯行時18歳以上の少年に対する死刑選択が争点となりうる事件の捜査段階からの手続保障及び審理のあり方について検討することを求めるとともに,犯行時18歳以上の少年に死刑を科すことを許容することの是非についてより一層の国民的議論を深めるための諸施策の実施を求める。
2016年(平成28年)7月21日仙台弁護士会会長 小野寺 友 宏
平成28年04月28日 栃木県女児殺害事件の第一審判決を受けて,改めて取調べの全面可視化を求める会長声明
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2005(平成17)年に栃木県今市市(現:日光市)にて小学1年生の女児が殺害された事件(以下「本件」という)の裁判において,2016(平成28)年4月8日,宇都宮地方裁判所は被告人に対し有罪判決を下した。本件は,裁判所が判決において「客観的事実のみから被告人の犯人性を認定することはできない」と明言したほど客観的証拠が乏しく,そのため捜査段階で作成された被告人の自白調書が重要な証拠となった。被告人は,自白調書は取調官からの強要・誘導により作成されたものであり,任意性及び信用性がないことを主張していたが,取調べの一部録画映像が法廷で再生された結果、裁判所は自白調書の任意性及び信用性を認め,被告人を有罪と認定した。本件で,最初に被告人が女児殺害への関与を認めたとされるのは別件の商標法違反での起訴後勾留されているときであったが,その時点では取調べは録音・録画されておらず,裁判に提出された自白調書及び取調べの一部録音・録画映像は,その後に殺人罪で逮捕勾留された段階での取調べにおいて作成及び録音・録画されたものであった。結果的に,本件においては取調べの一部録画映像が有罪認定に大きく寄与したといえる。裁判員が判決後の会見で「録音・録画で判断が決まった」「録音・録画がなければ判断は違っていた」等と発言していたことも報道されている。本件及びその判決は,現在参議院で審議されている「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という)の,いわゆる取調べの一部可視化の重大な問題点を浮き彫りにしている。すなわち,本法案は,裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件について逮捕・勾留されている被疑者に対する取調べの録音・録画を義務づけているが,上記事件以外の取調べでは録音・録画を義務づけていない。本件では,被告人が女児殺害への関与を認めたのは録音・録画が義務付けられていない商標法違反の事件での起訴後勾留中においてなされたものであったため,本法案によっても当該取調べが録音・録画される保障は全くなく,どのような取調べ状況の中で自白をするに至ったのかを客観的に検証することができない。そもそも,取調べの可視化(録音・録画)は,捜査機関による暴力・強要や誘導といった不当な取調べを防止し,取調べの適正を確保することにより,虚偽自白の強要・誘導,ひいてはえん罪を防止することを目的としている。しかし,可視化の対象事件を限定してしまうと,本件のように対象事件以外の事件での逮捕・勾留中の取調べの適正を検証することができず,結果として過去のえん罪事件と同様に密室での取調べによる虚偽自白が生まれる基盤を十分に残すものとなってしまう。本法案は,このような虚偽自白やえん罪の温床を制度として認めてしまいかねないものになっている。また,本法案は,上記の可視化対象事件であっても逮捕・勾留されていない被疑者に対する任意の取調べについては録音・録画を義務づけていないし,取調べの録音・録画が義務づけられている場合であっても,捜査機関の判断により録音・録画をしなくてもよいとする例外を広範に認めている。そのため,本法案は,可視化対象事件であっても捜査機関の都合で録音・録画をする取調べを選択できるようにするものと言え,結果として捜査機関にとって都合の良い取調べ場面のみ録音・録画され,裁判に利用されるという事態が生じかねない。これが取調べの可視化の目的と相容れないことは明らかである。当会は,2013(平成25)年11月14日付け「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書」においても上記のような一部可視化の危険性を指摘していたが,本件の判決を受け,また本法案が衆議院を通過し現在参議院で審議されている状況を踏まえ,改めて一部可視化の危険性を指摘するとともに,本法案に反対し,全事件における取調べの全過程の可視化を義務付けるよう求める。2016年(平成28年)4月28日仙台弁護士会会長小野寺友宏
平成28年03月28日 死刑執行に断固抗議し,死刑執行を停止するとともに,死刑に関する情報を広く公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を求める会長声明
ttp://senben.org/archives/6182
本年3月25日,大阪拘置所及び福岡拘置所において,死刑確定者2名に対する死刑の執行が行われた。岩城光英法務大臣による昨年12月に続く2度目の死刑執行であり,第二次安倍内閣で死刑が執行されたのは9回目で,合わせて16人にのぼる。 死刑制度は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を有しているものであり,また,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものである。それゆえ,当会はこれまで,政府に対し,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の存廃について,国民が十分に議論を尽くし意見を形成するのに必要な情報を広く国民に公開して,国民的議論を行うよう繰り返し求めてきた。そして,ここ数年の動きを見ると,2014年(平成26年)3月27日には,静岡地方裁判所が,袴田巖氏の第二次再審請求事件について再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する決定をしたが,これは,えん罪による生命侵害の危険性を現実のものとして世に知らしめたものであった。 世界に目を向けても,死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っており,また,同年7月23日に採択された国連自由権規約委員会の第6回日本定期報告に関する総括所見は,死刑廃止を目指す自由権規約第二選択議定書への加入を考慮することや,再審あるいは恩赦の申請に死刑執行停止効果を持たせたうえで死刑事件における義務的かつ効果的な再審査の制度を確立することなどを勧告している。そのような中,政府が,前回の執行からわずか3か月後に今回の死刑執行を行ったことは,死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を著しく欠いたものであり,死刑の執行を停止し死刑制度の存廃を含む抜本的な検討と見直しをする必要性を軽視したものであると言わざるを得ない。よって,当会は,政府に対し,今回の死刑執行について,断固抗議するとともに,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始するよう改めて求める。2016年(平成28年)3月28日仙台弁護士会会長岩渕健彦
平成28年02月27日 表現の自由の危機的状況に対する懸念を表明するとともに表現の自由の確立に全力を挙げて取り組む宣言
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民主主義社会においては、政治上の意思決定は、最終的に市民によって行われるものであり、適切な意思決定をするためには、その前提として、市民に対し十分な情報が提供されると共に、それに基づく自由な議論がなされることが必要不可欠である。その意味で、マスメディアの報道の自由を含む表現の自由及びその保障のもとでの自由な意見表明は、まさに民主主義、国民主権の根幹を為すものである。それ故、日本国憲法は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と定めた上で(第11条、第97条)、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」(第21条第1項)と定めている。ところが、今、この表現の自由を取り巻く環境は、危機的状況にあるものと言わざるを得ない。政府は、2013年(平成25年)12月6日、特定秘密保護法を強行採決により成立させた。同法は、表現の自由の大前提ともいうべき国民の知る権利を大きく制限する点において、表現の自由に対する重大な脅威である。この採決に先立ち、当時の自由民主党石破茂幹事長は、国会前で行われていた法案反対デモに対し、同年11月29日の自身のブログに、「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」とのコメントを掲載している。しかしながら、特定秘密保護法案の拙速な強行採決が為されようとする状況下において、多くの市民が国会周辺で成立阻止を訴える行動に出ることは、表現手段の選択肢が限られている主権者たる国民にとって、表現の自由として行使し得る重要な活動であって、かかる評価は、表現の自由の本質を全く理解していない発言と言わざるを得ない。この1年を振り返ってみても、2015年(平成27年)4月、自由民主党情報通信戦略調査会が特定のテレビ番組の内容に関して放送局幹部を呼び出して事情聴取を行ったことや、同年6月、自由民主党若手議員らの勉強会において、出席者である元NHK経営委員が特定の地方新聞について「潰さないといけない」などと発言したことに続き、会合に参加していた複数の与党議員からも、いわゆる安保関連法案を批判する報道に関し、「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」などと、マスメディアに対する威圧とも言うべき発言が相次いでなされたことなどが報じられている。政府と密接な関係にある与党におけるこれらの動きは、表現の自由に対する事実上の圧力となりかねず、ひいては表現の自由に対する萎縮的効果を生ぜしめるものとして、看過できない。同年11月には、放送業界の第三者機関である放送倫理・番組向上機構(BPO)も、自由民主党の上記事情聴取について、「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである」と警鐘を鳴らしているところである。このような中、報道番組において、安倍政権や安保関連法案に批判的だった著名キャスターらが相次いで降板する事態に対し、一部報道によれば、放送局の報道現場の自粛・自制や、放送局内における政権の意向を忖度する空気感も指摘されているところである。これが事実であるとすれば、まさに報道の自由の衰退であり、民主主義の重大な危機であると言わざるを得ない。最近では、自由民主党高市早苗総務相が、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波停止を命じる可能性に言及したが、これは「政治的な公平性」を理由として、政権による報道の自由への恣意的かつ不当な介入を許すことにも繋がり兼ねない。近時、安倍晋三首相は、災害対策を理由とする緊急事態条項の創設を含む憲法改正を志向し、最近の報道では、夏の参議院選挙の争点として、憲法改正を掲げる意向である旨が報じられている。このような情勢からして、今後、憲法改正論議が高まることも十分に予想される。憲法改正には様々な角度からの多種多様な意見があるが、かかる我が国の戦後の大きな政策転換が議論されるこの時期においては、何にも増して、表現の自由が尊重され、十分な情報の中、国民・市民らが自由に意見を表明し、自由闊達な議論・討論のもとで、民主的な合意形成が行われることが必要不可欠である。このような時期である今だからこそ、民主主義社会における表現の自由の重要性が再確認されなければならない。他方で、自由で民主的な社会を実現するためには、市民が社会に関する事実や他者の意見を正しく知ることが保障されなければならないが、市民の知る権利の保障、特に権力に対する監視は、マスメディアの報道の自由なくしては実現され得ない。マスメディアは、報道の自由が市民の知る権利に奉仕し、権力を監視するために保障されていることに重要な意義があることを再認識し、権力からの不当な干渉に動じることなく、政権に対する批判、異論を含む多様な報道を行う責務を担っていることを、改めて、強く自覚すべきである。当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律家の団体として、今まさに、表現の自由を取り巻く環境が危機的状況にあることに懸念を表明し、政府、与党及びマスメディアに対し、以下のとおり求める。
1 政府及び与党は、民主主義社会における表現の自由の重要性に鑑み、市民の表現の自由及び知る権利を最大限保障するため、市民の表現行為、及び、マスメディアの報道の自由を脅かす不当な干渉・妨害を行わないこと。
2 マスメディアは、報道の自由が市民の知る権利に奉仕し、権力に対する監視を役割とすることを改めて認識し、権力による不当な干渉を排除して、批判、異論を含む多様な報道を実現する責務を果たすべく努力すること。当会は、民主主義社会における表現の自由の重要性を改めて広く市民に訴えるとともに、今後も一致団結して、自由で多様な言論が保障された社会を実現すべく、表現の自由を確立するために全力を挙げて取り組んでいく決意であることを、ここに表明するものである。以上のとおり宣言する。2016年(平成28年)2月27日仙 台 弁 護 士 会会 長 岩 渕 健 彦