決議・意見書
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少年法の適用年齢引き下げに改めて反対する会長声明
2018年(平成30年)1月30日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
長野県教委「学校における働き方改革推進のための基本方針」についての会長声明
平成29年12月9日
長野県弁護士会 会 長 三 浦 守 孝
長野家庭裁判所佐久支部に関する総会決議
2017(平成29)年11月25日
長野県弁護士会臨時総会
平成29年司法試験合格発表についての会長声明
平成29年10月20日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
地方消費者行政の一層の強化を求める意見書
2017年(平成29)年9月2日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
民法の成年年齢引下げに関する会長声明
2017年(平成29)年8月5日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
平成29年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
平成29年7月8日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
適正な弁護士数に関する決議
平成29年6月24日
長野県弁護士会総会
いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に強く抗議し,その廃止を求める会長声明
2017年(平成29)年6月26日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
いわゆる共謀罪法案が衆議院本会議で可決されたことに抗議する会長談話
2017年(平成29)年5月24日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
司法修習生に対して修習給付金を支給する制度創設にあたっての会長声明
2017年(平成29年)5月22日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
70回目の憲法記念日に寄せる会長談話
2017(平成29)年5月3日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
信州大学大学院法曹法務研究科の閉校にあたっての会長談話
平成29年3月27日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
いわゆる共謀罪法案を国会に提出することに反対する会長声明
2017(平成29)年3月13日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明
2016年(平成28年)12月27日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長談話
平成28年12月8日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
長野県子どもを性被害から守るための条例の処罰規定について慎重な運用を求める会長声明
平成28年11月1日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
いわゆる共謀罪法案の提出に反対する会長声明
2016(平成28)年10月3日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話
平成28年6月28日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
ヘイトスピーチ対策法律案に関する会長声明
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に関する会長声明
平成28年5月23日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣
69回目の憲法記念日に寄せる会長談話
2016年(平成28年)5月3日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣
熊本地震に関する会長談話
2016年(平成28年)4月28日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
労働審判の実施支部拡大に関する会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明
平成28年2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受け,民法の差別的規定の早期改正等を求める会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会 長 髙 橋 聖 明
司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2016年(平成28年)1月20日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明
2016年(平成28年)1月9日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
面会室内での写真撮影等に関する会長声明
平成27年11月10日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
安全保障関連法案の採決強行に抗議する会長談話
平成27年9月25日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
2015年(平成27年)8月8日
長野県弁護士会 会 長 髙 橋 聖 明
安全保障関連法案の衆議院採決に抗議し廃案を求める会長談話
平成27年8月8日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」における罰則の強化等に反対する意見書
2015年8月8日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
安全保障関連法案に反対し,衆議院本会議における強行採決に抗議する声明
2015年(平成27年)7月16日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
少年法の適用年齢の引下げに反対する会長声明
2015年(平成27年)7月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
災害対策を理由とした「国家緊急権」の創設に反対する会長声明
2015(平成27)年7月4日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の締結に反対する総会決議
平成27年6月20日定期総会決議
長野県弁護士会
労働時間規制を緩和する労働基準法等の改正に反対する会長声明
2015(平成27)年5月27日
長野県弁護士会 会長 髙橋 聖明
憲法記念日に当たっての会長談話
平成27年5月3日
長野県弁護士会 長 髙 橋 聖 明
商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に抗議する会長声明
2015年(平成27年)3月14日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代
本年の日本国憲法を巡る状況を振り返る会長談話
平成26年12月25日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
東京入国管理局における被収容者死亡事件に関する会長声明
2014年12月17日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
平成26年11月8日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
司法試験予備試験の受験資格制限に反対する会長声明
平成26年9月13日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
司法予算の大幅増額を求める会長声明
平成26年9月13日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
集団的自衛権を容認する閣議決定がなされたことに抗議する会長声明
平成26年7月7日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
法務省東日本入国管理センターにおける2件の被収容者死亡事件に関する会長声明
平成26年6月7日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書を受けて発表された「基本的方向性」に対する会長声明
平成26年6月5日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代
商品先物取引における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明
2014年(平成26年)4月25日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代
集団的自衛権行使容認の動きが強まる中で迎えた憲法記念日に当たっての会長談話
平成26年5月3日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代
淫行処罰条例の制定に反対する意見書の提出について
平成25年7月16日会長声明を発しましたが平成25年12月14日提出
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
2014年(平成26年)4月5日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代
袴田事件の再審開始決定に関する会長声明
2014(平成26)年4月5日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代
信州大学法科大学院の新入生募集停止に関する会長声明
平成26年2月13日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
「特定秘密の保護に関する法律」の成立に強く抗議する会長声明
「特定秘密の保護に関する法律」の成立に強く抗議し,
同法の廃止と憲法改悪阻止のための幅広い行動を呼びかける会長声明
2013年(平成25年)12月16日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する総会決議
2013(平成25)年11月30日
長野県弁護士会臨時総会決議
「特定秘密の保護に関する法律案」の衆議院可決に強く抗議する会長声明
2013年(平成25年)11月29日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
改正生活保護法に反対し速やかな廃案を求める会長声明
2013年(平成25年)11月15日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
京都弁護士会所属会員に対する傷害事件に対する会長声明
2013年(平成25年)11月9日
長野県弁護士会会長 諏 訪 雅 顕
「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する会長声明
2013年(平成25年)10月22日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉参加の秘密保持契約が国民主権・国会の最高機関性等に反することを懸念する会長声明
平成25年10月12日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
公契約条例の制定を求める意見書
2013年(平成25年)10月11日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
長野県暴力追放県民センターに対し必要な財政的支援を講ずることを求める会長声明 平成25年7月22日
長野県弁護士会 会長 諏 訪 雅 顕
淫行処罰条例の制定に反対する会長声明
平成25年7月16日
長野県弁護士会 会長 諏 訪 雅 顕
生活保護法改正案に反対し廃案を求める会長声明
平成25年6月10日
長野県弁護士会 会長 諏 訪 雅 顕
憲法第96条の憲法改正発議要件緩和に反対する会長声明
平成25年5月16日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕
法曹養成制度検討会議の中間的取りまとめに対する意見書
平成25年5月13日
法科大学院の地域適正配置と地方法科大学院に対する支援を求める会長声明
2013(平成25)年2月9日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
法科大学院の地域適正配置についての6弁護士会会長共同声明
2013(平成25)年1月12日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
給費制復活を含む司法修習生への経済的支援を求める会長声明
2013年(平成25年)1月12日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
生活保護基準引き下げに反対する会長声明
2012年(平成24年)11月10日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
改正貸金業法等の見直しに反対する会長声明
2012年(平成24年)8月6日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
子どもの権利条例制定の要望書
平成24年7月9日
地域司法の充実を求める総会決議
平成24年6月24日
「マイナンバー法」の制定に反対する会長声明
平成24年6月14日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
秘密保全法の制定に反対する会長声明
平成24年5月12日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹
国の原子力政策の転換等を求める総会決議
平成23年11月26日
長野県弁護士会総会
少年鑑別所の増設を求める決議
平成23年11月26日
長野県弁護士会総会
法曹養成に関する意見書
平成23 年8 月6 日
長野県弁護士会 会長徳竹初男
全面的な国選付添人制度の実現を求める決議
平成23年6月25日
長野県弁護士会 会長徳竹初男
「布川事件」再審無罪判決に関する会長声明
2011年(平成23年)6月1日
長野県弁護士会 会 長 德 竹 初 男
長野地家裁飯田支部、飯田簡裁の実質的な裁判官の減員措置についての要請
平成23年3月16日
長野県弁護士会 会長 小 林 正
(会長声明)司法修習生貸与制施行延期に関する裁判所法一部改正にあたって
2011年(平成23年) 2月24日
長野県弁護士会 会長 小 林 正
適正な法曹人口に関する決議
平成22年11月20日臨時総会決議
長野県弁護士会
秋田弁護士会所属弁護士刺殺事件に関する会長声明
平成22年11月8日
長野県弁護士会 会 長 小 林 正
横浜弁護士会所属弁護士刺殺事件に関する会長声明
平成22年7月10日
長野県弁護士会 会 長 小 林 正
全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明
平成22年6月18日
長野県弁護士会 会 長 小 林 正
憲法改正手続法の施行延期を求める会長声明
2010年(平成22年)5月3日
日本国憲法の施行から63年目の日に
長野県弁護士会 会長 小 林 正
民法(家族法)の早期改正を求める会長声明
平成22年4月30日
長野県弁護士会 会長 小 林 正
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少年法の適用年齢引き下げに改めて反対する会長声明
第1 声明の趣旨
当会は、少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることに改めて反対する。
第2 声明の理由
1 はじめに
すでに、当会は、2015年(平成27年)7月6日に少年法の適用対象年齢を引き下げることに反対する会長声明を発しているところである。
しかし、現在、法務省の法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において、少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることの是非を審議していることから、同部会の議論状況に鑑み、改めて本会長声明を発するものである。
2 法制審議会における議論状況
法制審議会において少年法の適用対象年齢の引き下げの是非に関して交わされたこれまでの審議の結果、現行の少年法が18歳及び19歳の少年の健全な育成と更生を図る上において有効に機能していることについては各委員の間においても格別の異論がないものと解される。
一方、今後、民法の成年年齢が18歳に引き下げられた場合には、民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢が異なることは法的な整合性という観点から問題があるのではないかという指摘がなされてもいる。
そして、同審議会は、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法、手続法の整備に関する審議の内容を踏まえ、少年法の適用対象年齢の引き下げの是非についてさらに検討を進めるのが適当であるとして、現在、犯罪者に対する処遇についての審議をしているところである。
3 民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢の関係
当会としては、民法の成年年齢を18歳に引き下げること自体に反対をする会長声明(2017年(平成29年)8月5日)を発しているところであるが、仮に民法の成年年齢が18歳に引き下げられたとしても、そのことを理由として少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げなければならないものではない。
すなわち、ある法規範の適用対象年齢をどのように定めるかということは、当該法規範の趣旨や目的に照らして個別具体的に検討されるべき問題であり、民法の成年年齢から他の法規範の適用対象年齢が一律に定められるべきものではない。
このことは、現行法上も、婚姻可能年齢(男性18歳、女性16歳)、喫煙・飲酒可能年齢(20歳)、被選挙権年齢(衆議院25歳、参議院30歳)といったように、法規範ごとに適用対象年齢が異なっていることを見ても明らかである。
そして、民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢の関係についても、戦前の旧少年法においては適用対象年齢を18歳未満と定めており、民法上の成年年齢(20歳)とは一致していなかったことを見ても両者が必ずしも一致しなければならない性質のものではないことが分かる。なお、その後、少年法の適用対象年齢が20歳未満に引き上げられたが、それは少年法が果たすべき役割の重要性からして18歳及び19歳の者に対しても少年法を適用することが望ましいという理由によるものであって、民法上の成年年齢と合致させるべきであるとの理由によるものではなかったと理解されている。
一方、民法の成年年齢に達した者に対して少年法を適用することは過度なパターナリズム(保護主義)であるとの指摘もある。
しかし、少年法上の処遇はパターナリズムという観点のみではなく、少年の健全な育成を通じて再犯の防止を図ることなども含めた総合的な刑事政策的観点に基づいて理解されるべきものであり、民法の成年年齢に達した者に対して少年法を適用することが過度なパターナリズムに当たるものであると単純に解することはできない。
現行法上も、婚姻により成年擬制がされていても20歳未満であれば少年法が適用されているが、これが過度なパターナリズムによるものであるとして特に問題とされているものではない。
4 少年法の適用対象年齢を引き下げる立法事実がないこと
少年法の適用対象年齢を引き下げるか否かという問題は、少年の健全な育成と更生を図るという少年法の目的を達成する上で適用対象年齢を引き下げることが有効か否かという観点から検討されるべき問題である。
そして、現行の少年法は18歳及び19歳の少年の健全な育成と更生を図る上において極めて有効に機能しているということができる。
すなわち、現行の少年法においては、いわゆる全件送致主義のもと、20歳以上の者であれば微罪処分や起訴猶予処分にされてしまうような比較的軽微な事件についても家庭裁判所による調査の対象として、心理学や社会学などの専門的知見を有する家庭裁判所調査官が行動科学(医学、心理学、教育学、社会学、社会福祉学等)の知識や技法を活用して、非行の経緯、動機、態様のみならず、少年の生育歴、家庭環境、生活状況、交友関係、心身の状態等を総合的に調査し、少年が非行に至った原因とその背景(非行メカニズム)を科学的に解明するとともに、再非行に至る危険性の予測をした上で、少年の更生と健全な育成を図り、再非行を防止するための教育的な働きかけを行っているところである。
また、一定の場合には家庭裁判所裁判官の観護措置決定に基づいて少年を一定期間少年鑑別所に収容し、専門家である法務(心理)技官や法務教官及び医師が、24時間体制での行動観察や面接、心理検査、検診等を行って少年の性格や資質などの鑑別をしている。
さらに、弁護士が少年の付添人に選任された場合には、付添人の立場からも非行の原因や背景を調査するとともに少年の更生と立ち直りを図り、再非行を防止するため、少年に寄り添いつつ少年自身の内省が深まるように働きかけをしたり、家庭環境や生活環境の改善を図るために被害者や少年の親をはじめとする関係者との調整を行ったりしているのである。
これらの多面的で重層的な調査、鑑別と働きかけがなされることによって、これまでに多くの少年がそれぞれに抱えてきた問題を認識し、それを克服しようと努力をして立ち直っていくことができ、その結果として再非行も防止されてきたということができる。
このように、現行の少年法は、18歳及び19歳の者を含む少年の健全な育成と更生を図るという同法の目的を達成する上において極めて有効に機能してきたのであって、少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げて18歳及び19歳の者を少年法上の処遇から除外しなければならない事情(立法事実)が存在しないことは明らかである。
むしろ、18歳及び19歳の者が少年法上の処遇から除外されることによって更生をする機会が失われて再犯のリスクが高まることが容易に予想され、社会の安全にとっても深刻な悪影響をもたらしかねないことは2015年の前記会長声明においても指摘したとおりである。
5 厳罰化すべき必要性がないこと
以上に対して、18歳及び19歳の者を少年法上の処遇から除外することによって、これらの者の大人としての自覚を促し、その結果としてこれらの者の健全な育成と犯罪の抑止が図られるとする意見も見られる。
しかし、2015年の前記会長声明でも指摘したように、現行の少年法においては、故意の犯罪により人を死亡させた重大事件については、原則として裁判員裁判を経て刑事罰を科すものとされ、行為時に18歳以上の少年については死刑判決を選択することも可能とされているほか、平成26年には、少年に適用される刑の上限を引き上げる法改正もなされたばかりである。
このように、現行の少年法を前提としても、少年に対し、その犯した罪に応じた刑事罰を科すことは十分に可能なのであって、上記法改正の効果についての然るべき検証もなされないままにさらなる厳罰化をすることは立法事実を欠くものであって適切ではないと言わざるを得ない。
6 刑事政策的措置について
前記のように、法制審議会では、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法、手続法の整備に関する審議の内容を踏まえた上で、さらに少年法の適用対象年齢引き下げの是非についての検討を進めるのが適当であるとして、現在、犯罪者に対する処遇についての審議を進めている。
もとより、現行法制上における刑事政策的措置については20歳に達した途端に少年法に基づく調査や教育的処遇を受けられなくなるなどの点で、改善・充実すべき課題が少なくないことはたしかである。
しかし、これらの課題については、本来、少年法の適用年齢対象を引き下げるか否かという問題とは切り離して、十分な時間をかけて慎重に検討されるべきものであり、少年法の適用対象年齢を引き下げるための手当てという観点からこの問題を議論するのであれば、それは引き下げという結論ありきの議論であると言わざるを得ない。
7 結論
以上のとおりであるから、当会は、少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに改めて反対するものである。
以上
2018年(平成30年)1月30日
長野県弁護士会会長 三 浦 守 孝
長野県教委「学校における働き方改革推進のための基本方針」についての会長声明
1 本年11月15日,長野県教育委員会は,「学校における働き方改革推進のための基本方針」(以下,「方針」という。)を決定した。
方針は,公立小中学校の教員において,質の高い授業を実現すること,教員の長時間勤務(長時間労働)を改善することを目標としており,当会は,特に教員の過労状況の改善という観点から,方針の示した取組について賛成する。
当会は,このような意欲的な取組を長野県教育委員会が方針として掲げたことを高く評価し,子どもらの教育を担うべき志の高い有為な人材が,安心して教員を目指すことができるような環境整備の点からも,その速やかな実現を期待するものである。
2 その上で,当会は,方針に関し,以下の各点にも十分な留意が払われ,方針の掲げる目標に照らし,真に実効的な取組がなされることを期待する。
(1)教員の時間外労働時間について
方針でも指摘されているとおり,教員の長時間勤務の実態は深刻である。相当数の教員が,いわゆる過労死認定ラインとされる1ヶ月80時間超(発症前2か月間ないし6か月間における時間外労働)の時間外労働時間の負担にさらされている現状は,直ちに改善されなければならない。そのために,方針が1ヶ月の時間外労働について年間を通じて,原則45時間以下とするとの目標を掲げたことは,大いに評価されるべきところである。そして,そのためには,方針でも触れられているとおり,教員が本来的に担うべき業務を精選し,スリム化,効率化を図ることが必要不可欠である。
また,方針でも指摘されているとおり,教員の労働時間が客観的かつ適切な方法で把握されることも必要不可欠である。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」及び「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては,原則として使用者が自ら現認するか,タイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として労働時間を把握することを求めており,自己申告制については客観性の担保が十分でないため,例外的なものとされている。教員についても,上記同様に,タイムカード等の機械的,客観的な記録方法によって教員の労働時間を把握すべきであり,自己申告制は採用すべきではない。
また,教員についてはいわゆる持ち帰り残業が少なくないことも指摘されており,表面的な時間外労働時間が短縮されたとしても,その分自宅等での持ち帰り残業が増えるだけとなる,といった方針の趣旨に反する事態が起らないよう,十分に留意する必要がある。仮に持ち帰り残業を行わざるを得ない場合には,その時間も含めて労働時間を算定することで,適正に労働時間を把握すべきである。
(2)部活動指導の負担軽減について
業務の分業化について,方針では,部活動指導員やスクールサポートスタッフの活用が指摘されているところ,その場合に必要な予算措置を確保することが重要であると考えられるため,予算面での裏付けが実効的になされるべきである。また,朝練廃止を含めた部活動指導の負担軽減については,保護者の理解も必要であるところ,教員もひとりの労働者であるという観点が保護者側においても十分共有されることを期待したい。なお,部活動に関する取組として,方針において中長期的な取組として指摘されている総合型地域スポーツクラブの設立や部活動の学校合同チームによる練習環境の整備,地域の指導者の育成などの地域の取組への支援についても,子どもたちの部活動への意欲に応えうるような仕組み作りを期待したい。
(3)教員の労働実態についての調査検証
今後も教員の労働実態については,適切な調査を継続的に行い,その結果を踏まえた検証を行うとともに,調査・検証の結果を,適時に県民に向けて公表されたい。
平成29年12月9日
長野県弁護士会 会 長 三 浦 守 孝
長野家庭裁判所佐久支部に関する総会決議
( 2017-12-05 ・ 338KB )
2017年(平成29)年11月25日、当会は、「長野家庭裁判所佐久支部において、調査官の常駐、少年審判の取扱い、及び庁舎の建替えを求める総会決議」を採択致しました。
決議の趣旨は、下記の通りです。
記
近年の家事事件の増加、家庭裁判所の役割の重要性に鑑み、地域の司法制度が地域の住民にとって「より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」となるよう、どの地域の住民であってもあまねく共通の司法サービスを受けることができるように、当会及び当会会員が一丸となって活動を継続していくことを決意するとともに、裁判所及び国に対して以下の施策の実現を求める。
1 長野家庭裁判所佐久支部において、直ちに家庭裁判所調査官を常駐させること。
2 長野家庭裁判所佐久支部において、直ちに少年事件を取り扱うこと。
3 長野地方・家庭裁判所佐久支部・佐久簡易裁判所庁舎を早期に建て替えること。
4 全国の裁判所における人的物的基盤の充実にともなう支出に対応するため、司法予算を大幅に増額させること。
決議の理由は、上記PDFファイルをご覧下さい。
平成29年司法試験合格発表についての会長声明
1 9月12日、司法試験の最終合格者が発表された。当会は、新たに法曹となる合格者を歓迎し、今後の司法修習、実務でのOJTを通じて、法律実務家として大きく成長されることを期待する。
2 司法試験は、法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有するかどうかを判定する国家試験である(司法試験法第1条第1項)。司法は市民の権利義務と社会正義に深く関わるものであるから、司法試験を適切に運営して法曹の質を確保することは、市民に対する国の重大な責務である。
法曹養成制度改革推進会議も、平成27年6月、司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが、その際、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との重要な留保を付している。
3 司法試験の在り方について、当会は、弁護士の急増政策に基づく急増現象により、弁護士業務の過度の商業化やOJT不足が危惧されること、法曹志願者激減に伴う司法試験の機能不全が懸念されること、弁護士制度の国家資格制度としての安定性と確実性が損なわれていることを指摘して、弁護士増加ペースを緩めるべく、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める総会決議を行った(平成29年6月24日)。また、本年の合格発表に先立ち、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定を行うよう求める会長声明を発した(同年7月8日)。
4 ところが、本年の司法試験合格者数は1543人とされた。長年にわたり裁判官及び検察官の採用人数が抑制されている現状では、司法試験合格者の大多数が弁護士登録を行うこととなるが、今後も現在のペースで弁護士数の増加が進む場合、当会が総会決議で指摘した諸弊害は、一層増大するおそれがある。
5 さらに、たとえば、直近3年間に比較すると、合格率は平成26年が22.58%、平成27年が23.08%、平成28年が22.95%と推移してきたところ、本年の合格率は25.86%となって約3%上昇した。
また、合格点は、平成26年が770点、平成27年が835点、平成28年が880点、本年が800点であるのに対し、全受験者の総合点について、各年の分布を代表する中心的傾向を表す中央値を見ると(短答式試験不合格者と論文式試験最低ライン点未満者は中央値より低い総合点であったと擬制している。)、平成26年が604点、平成27年が679点、平成28年が725点、本年が659点であって、合格点と前記中央値の差が、本年は直近3年間に比較して14点~25点縮減している。
これらの数値的変化は、各年の受験者全体の得点状況との対比において本年は合格ラインが下がったことを示すが、法曹志願者が激減している現状等からは、本年の受験者全体の試験の解答能力が昨年までに比べて急に上昇したものとは考えにくいことからすれば、本年の合格ラインは、絶対評価としても低下した可能性が高い。そして、かかる現象は、司法試験の受験者数が大幅に減少している状況下で、合格者数は昨年並みの1500人台としたために生じたものと言わざるを得ない。
以上からすれば、本年の司法試験の合格判定は、上記法曹養成制度改革推進会議の取りまとめとしての「1500人程度以上」に拘泥し、合格ラインを意図的に引き下げた可能性が高い。
政府が、法曹の質の確保という市民に対する国の重大な責務を軽視し、「法曹の質の確保」という上記取りまとめの重要な留保を無視したのではないかとの疑義を免れない。
6 よって、当会は、本年の司法試験合格判定の適切性に懸念を表明するとともに、引き続き政府に対し、司法試験合格者数の更なる削減と厳正な合格判定の実施を求める。
平成29年10月20日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
地方消費者行政の一層の強化を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領について、2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用対象を限定している点を、2018年度(平成30年度)以降の新規事業に適用対象を含めるよう改正するとともに、消費者行政の相談体制、啓発教育体制、執行体制等の基盤拡充に関する事業を適用対象に含めるよう改正し、同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。
2 国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報の登録事務、重大事故情報の通知事務、違反業者への行政処分事務、適格消費者団体の活動支援事務など、国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について、地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。
3 国は、地方消費者行政における法執行、啓発・地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上に向け、実効性ある施策を講ずべきである。
第2 意見の理由
1 地方消費者行政推進のための交付金の継続について
平成21年の消費者庁の創設及び「地方消費者行政活性化交付金」等の交付措置により、消費生活センターの設置数は501箇所(平成21年度)から799箇所に増加し(平成29年版消費者白書252頁)、平成27年末までにすべての地方自治体が何らかの消費生活相談窓口を設置するに至るなど、地方自治体の消費生活相談体制が整備されてきた。この間、地方消費者行政活性化交付金は、地方消費者行政推進交付金に変更して継続され、消費生活相談体制の整備・拡充に寄与してきている。
現在の地方消費者行政推進交付金の実施要領は、2017年度までの新規事業を適用対象事業として限定的に定め、かつ、対象となる推進事業ごとに活動期限を設定しており、地方において事業を継続するためには、期限が切れる事業から順次、自主財源化していく必要がある。ところが、ほとんどの地方公共団体の政策判断は消費者行政重視に向けて転換しておらず、また、地方財政の実情の厳しさから、財源を捻出することは容易ではない。地方自治体にとって、地方消費者行政推進交付金に代わって、地方消費者行政の体制整備・拡充を支えるだけの自主財源を確保することは困難である。このような状況下では、年々、新たな消費者問題、とりわけ高齢者の消費者被害が深刻さを増す現状に対応することはできなくなる。
以上を踏まえると、地方消費行政推進交付金の実施要領を改正し、2018年以降の新規事業も適用対象に加えるべきである。
さらに、消費生活相談体制の充実・強化とともに被害防止のための出前啓発講座等の啓発活動や悪質業者排除の法執行が一層重要となっていることに鑑み、消費生活相談員の増員及び専門性向上等の人的基盤強化についても、適用対象に位置付けるべきである。そして、これまで、8年間の地方消費者行政に対する交付金の給付によっても最低限の体制整備が未達成であることに鑑み、少なくとも同交付金を今後10年間は継続する必要がある。
2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担について消費生活情報のPIO-NET登録、重大事故情報の通知、法令違反業者への行政処分、適格消費者団体の差止関係業務などは、国と地方公共団体相互に利害関係がある事務であり、消費者被害防止のために全国的な水準を向上させる必要がある。そこで、これら国と地方公共団体相互に利害関係がある事務については、地方財政法弟10条を改正し、国が恒久的に財政負担する事務とすべきである。
なお、適格消費者団体の活動への国の財政支援は、地域の民間団体の実情に応じて支援する必要があるため、基本的に、都道府県を通じた支援として実施することが相当である。
3 地方消費者行政職員の増員と資質向上について
今後の地方消費者行政の役割は、地方公共団体内の他部署との連携による高齢者見守りネットワークの構築や官民連携によるきめ細やかな消費者啓発・見守りの実施が重要課題とされている。また、違法な事業活動に対する法執行件数が減少している現状や、商品事故に関する原因究明や商品テスト担当職員が減少している現状に鑑みれば、消費者行政担当職員の配置と専門性向上の施策も重要な課題である。
国は、地方消費者行政の担当職員の職務が、法執行部門、啓発・教育分野、地域連携の企画推進分野、他部署・他機関との連携調整など、多様な課題を担う必要があることを踏まえ、職員の増員及び資質向上に向け、具体的な政策を検討すべきである。
2017年(平成29)年9月2日
長野県弁護士会会長 三 浦 守 孝
民法の成年年齢引下げに関する会長声明
1 現在,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げようとする動きが具体化しているが,その必要性や消費者被害をはじめとする引下げに伴う諸問題に対する施策が十分に検討されているとは言い難く,当会は,成年年齢引下げを内容とする民法改正に反対する。
2 若年者は社会経験の不足等から,契約に必要な知識又は経験を十分に有しているとは言い難く,様々な消費者契約の被害者となっている。
現行民法は,20歳未満の未成年者の保護を図るため,未成年者が法定代理人の同意なく締結した契約等の法律行為については,契約を取り消すことができると規定する(民法第5条第2項)。
民法上の成年年齢を18歳に引き下げることは,18歳,19歳の若年者に行為能力を付与し,法定代理人の同意なく単独で有効な法律行為を行うことを可能にする反面,未成年者を保護するための上記取消権を失わせるものである。
民法の成年年齢の引下げについて,法制審議会が平成21年10月28日に採択した「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」は,若年者の消費者トラブルの現状について,①消費生活センター等に寄せられている相談のうち,契約当事者が18歳から22歳までの相談件数は,全体からみると割合は少ないものの,20歳になると相談件数が急増するという特徴があること,②悪質な業者が,20歳の誕生日の翌日を狙って取引を誘いかける事例が多いこと,③携帯電話やインターネットの普及により,若年者が必要もないのに高額な取引を行ってしまうリスクが増大していること,④若年者の消費者被害は学校などで連鎖して広がるなどの特徴があり,特に上記①及び②の事情からすると,未成年者取消権の存在が悪質業者に対する大きな抑止力になっていると考えられることから,民法の成年年齢が18歳に引き下げられ,18歳,19歳の若年者が未成年者取消権を失えば,悪質業者のターゲットとされ,不必要に高額な契約をさせられたり,マルチ商法等の被害が広まるおそれがあるなど,18歳,19歳の若年者の消費者被害が拡大する危険があると指摘している。
3 民法の成年年齢の引下げには,かかる重大な問題が存在する以上,引下げを行うには,未成年者取消権に代わり,悪質業者に対して抑止効果を持ち,消費者被害に遭ったとしても容易に被害回復することを可能とする消費者保護ルールの構築等を十分に検討し,実現することが必要不可欠である。
上記最終報告書も,成年年齢の引下げは消費者被害拡大等の問題があり,消費者被害が拡大しないよう消費者保護施策の更なる充実を図る必要があると指摘し,消費者保護施策や消費者関係教育の充実等の具体的な施策を求めているうえ,消費被害拡大防止のための有効な施策の充実が成年年齢の引下げを行う条件であるとしている。
しかし,現状では,消費者保護ルールの構築やその他の有効な施策は実現しておらず,このような状況下で,成年年齢を18歳に引き下げれば,18歳,19歳の若年者の消費者被害拡大を招く危険があり,若年者の十分な保護は図られない。
4 また,消費者被害のほかにも,離婚の際の未成年者の養育費が早期に打ち切られてしまうおそれや,未成年者に不利な労働契約の解除権(労働基準法第58条第2項)の喪失により若年労働者の保護の範囲が狭められてしまうなどの,成年年齢の引下げに伴う様々な問題点も指摘されているが,これらの問題点についても十分な検討や対策がなされているとはいえない。
5 よって,成年年齢を18歳に引き下げた場合に生じる上記問題点に対し,十分な検討や有効な施策が実現されていない以上,民法の成年年齢を引き下げることに反対するものである。
2017年(平成29)年8月5日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
平成29年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
1 司法試験をめぐる志願者減少が著しい。
平成29年度の法科大学院志願者数(延べ人数)は8,159名(前年度比119名減),入学者数は1,704名(同153名減)に,同年の司法試験出願者数は6,716名(同1,014名減),受験者数は5,967名(同932名減)にまで落ち込んだ。
ピーク時には,法科大学院志願者数が72,800名(平成16年度。延べ人数),司法試験出願者数が11,892名(平成23年)であったことを考えると,上記のとおりの法曹志願者の減少は激減というべき状況にあり看過できない。
このような法曹志願者激減の原因については,法科大学院修了を受験資格要件としたことで多額の学費や時間的コストを要することになった反面,司法試験合格者の多くが進路として選択する弁護士について,現実の法的需要を無視した弁護士数の過剰増員による就職難や,弁護士の職業的魅力の低下等が生じていることが背景に存在するものと考えられる。多くの時間的,経済的コストを課しておきながら将来に不安がつきまとうといった現在の制度設計では,有為な人材が法曹という職業を敬遠することは必然的な現象である。
2 司法は国民の権利義務や社会正義に深く関わるものであり,その司法を担う法曹の質の維持・向上は国民にとって重大な課題・要請である。現状のように法曹志願者の母数が激減すれば,その中の有為な人材の絶対数が減少することは道理であり,法曹の質の確保にも懸念が生じる。
法曹養成制度改革推進会議は,平成27年6月,司法試験の合格者数を年間1500人程度以上とする検討結果を取りまとめた。しかし,司法試験出願者が激減している現状の下で,単に上記方針通りの合格者数を確保するために合格ラインが下げられてしまうなら,司法試験に本来要請される選抜機能は大きく損なわれ,合格者の質を制度的に担保できない事態も想定される。このような事態は,上記取りまとめにおいて示されている「輩出される法曹の質の確保を考慮す」べき,との方針にも反することとなる。
したがって,今後の司法試験の合格判定は,目標とされた数ありきでなされてはならず,従前にも増して,司法を担う法曹の質の維持・向上という本質的要請をふまえ,厳正に行われなければならない。
3 以上から,当会は平成29年司法試験の合格判定にあたって,1500人程度以上とされる合格者数の確保が優先されるべきではなく,司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定が行われることを求める。
平成29年7月8日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
適正な弁護士数に関する決議
第1 決議の趣旨
当会は、政府に対し、平成29年度以降、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める。
第2 決議の理由
1 弁護士数が過剰となったこと
(1)弁護士数の増加状況
政府は、平成14年3月、今後法的需要が増大し続けるとの予測のもと、「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す。」とする司法制度改革推進計画を閣議決定した。
この結果、司法試験合格者数は年々増加し、平成19年から平成25年には2000人を超えた。平成26年、平成27年には1800人台となったものの、平成14年当時1万8838人であった弁護士数は、平成29年5月1日現在で3万9011人と倍増した。
この間、裁判官の数は平成14年時点で2288人、平成28年時点で2755人と約20%の増加、検察官の数は平成14年時点で1484人、平成28年時点で1930人と約30%の増加であるのに対し、弁護士の数は約106%増加した。
(2)法的需要予測の見込み違い
ところが、法的需要が増大するという政府の予測は大きく外れ、平成18年度以降、裁判所の全新受事件数は、過払訴訟の影響を考慮しても明らかに減少傾向にある(平成18年-約500万件、平成22年-約430万件、平成26年-約350万件)。法律相談件数も、平成18年から平成25年まで年間約60万件と横ばいで推移し、増加傾向は全く見られない(弁護士会法律相談センター、法テラス、自治体の弁護士相談の総計)。
たしかに、弁護士の増加に伴いゼロワン地域が解消されたこと、刑事国選事件や民事扶助事件への対応の充実が見られることについては、一定の評価がなされるべきである。
しかし、現在では、仮に弁護士過疎地が一部残っているとしても、過疎地開業支援等の施策により対処すべきであって、弁護士数の単純増により対処すべき性質のものではないし、新たな分野で弁護士が必要とされていく可能性が皆無でないとしても、不確かな憶測を含むものであって、現在のような急激な増員を要するほどの実例が存在しているとはいえないから、これらを理由に更に弁護士を増加させる必要性は見いだせない。
(3)弁護士数の過剰
かかる状況に鑑み、富山県議会、佐賀県議会をはじめ各地の地方議会が、弁護士数はすでに過剰であるとの認識を明示したうえ、法曹人口政策の早期見直しを求める内容の決議等をなしており、長野県議会においても、昨年、弁護士人口は飽和状態にあるとして同様の決議を行っているところである。
弁護士が倍増しても訴訟や法律相談の件数が増えず、新たな分野で必要とされる実例も特段確認されていないということは、もともと社会は、これほどに多くの弁護士を必要としていなかったことに他ならない。
平成14年の閣議決定以降の推移と現状を踏まえる限り、各地の地方議会が指摘するとおり、現在、弁護士は、利用者たる市民が必要とする数を明らかに超えて増え続けており、それによる弊害を直視した対応が検討されなければならないのである。
2 弁護士数の過剰により弊害が生じていること
(1)弁護士の使命の達成が危うくなること
弁護士は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする(弁護士法1条1項)。しかしながら、弁護士数の過剰は、弁護士間の過当競争を招き、事務所経営や生活防衛のために目先の利潤を追求する傾向を強め、事件漁りや無用な訴訟への誘導、過度に高額な費用請求などが生じて市民が害される事態が危惧される。
また、弁護士には、その使命の達成のために職務の自由と独立が要請され、依頼者の「正当な利益」を実現すべきであるとされ、ときに依頼者に対しても公共的・公益的見地からの説得を試みる役割が期待される(弁護士職務基本規程第2条、第21条)。しかしながら、顧客獲得競争が激化して目先の利潤を追求する傾向が強まれば、昨今、恫喝や報復を目的として法外な請求を行なう「スラップ訴訟」の実例が報告されるように、依頼者の要求に無批判に迎合し、人権擁護や社会正義を無視した業務遂行を生みかねない。
そして、弁護士の使命を達成しようとすれば、国家権力から独立し、ときには対峙してでも市民の側に立つことを要することから、我が国では、弁護士の資格審査や懲戒を行政官庁等の監督に服させず弁護士の自律に委ねる弁護士自治が採用されている。しかしながら、弁護士業務が過度に商業化し、公共的・公益的性格が失われれば、「国家権力からの独立」は実際上の意義を失い、弁護士自治の存立基盤を危うくすること必至である。
かように、弁護士数過剰の状況は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命の達成を危うくし、我が国の弁護士制度を根底から揺るがしているのである。(2)若手弁護士の研鑽の機会が失われていること
弁護士数の過剰を背景として、弁護士登録後に勤務弁護士として研鑽を積むことを望みながら即独やノキ弁に甘んじ、十分なOJT(on the job training)の機会を得られない新人弁護士は後を絶たない。(新人弁護士の就職難の状況は、司法修習修了後の一括登録時点の未登録者割合に顕れると言われている。平成19年度には3.3%であったものが、平成22年度に11%、平成23年度に20.1%、平成24年度に26.3%、平成25年度に28%、平成26年度に27.9%となっている(いずれも現行司法試験合格者の数値)。)
法律専門家としての技能や倫理を会得する機会を十分に持たない弁護士が実務に当たれば、市民に深刻な影響を与えることが危惧されると言わざるを得ない。
(3)法曹志願者が激減していること
弁護士数の過剰を背景として、近年、法曹志願者は目に見えて激減している。法科大学院志願者は、以下のとおり、減少傾向が顕著である。大学受験生の法学部離れも顕著であり、法曹界が有為な人材を確保することは困難となっている。
さらに、現在では大半の法科大学院が深刻な定員割れを起こし、現行の法曹養成制度が掲げる育成機能の充実は期待しがたいうえに、法科大学院入学者数が司法試験合格者数に接近しつつあり、このような状況下で、後述の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめが示唆するように1500人以上の合格者数を墨守した場合、試験制度としての正常な選抜機能が働かない事態が危惧される。
年度 法科大学院全志願者数(延べ人数) 入学者数
平成16年度 72,800 5,767
平成19年度 45,207 5,713
平成22年度 24,014 4,122
平成25年度 13,924 2,698
平成27年度 10,370 2,201
平成28年度 8,278 1,857
平成29年度 8,159 1,704
今後もかかる事態が続けば、裁判官、検察官、弁護士の平均的な質が、長期的かつ慢性的に低下していくことが憂慮されざるを得ないのである。法曹三者が、憲法をはじめとする法の運用、解釈を通じて、市民の人権を直接的に取り扱う職責を担っていることに鑑みれば、このような法曹三者の平均的な質の低下は、回避しなければならない。
(4)国家資格制度としての安定性・確実性を損なうこと
そもそも我が国が弁護士について国家資格制度を採用するのは、市民の人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の重大な使命に鑑みて、高度な専門性や技術、見識を担保する必要があることによるものであり、利用者たる市民においては、必ずしも弁護士の技能や適性を十分に判断しえないことから、国家の責務としてその資格付与の条件を適切に整備し、誰もが安心して弁護士に相談・依頼できる状況を維持するためである。
特段専門的な情報や判断力を持たない一般市民においても、安心して弁護士に相談、依頼できる資格制度を構築し維持することが重要であり、一般市民の権利利益の保護に資するものである。
ところが、弁護士急増政策は上記の各弊害を生み出し、市民が本来的に国家資格制度に求める安定性と確実性を損ねる事態を招いているのである。
公認会計士についても、過剰な増員による弊害が生じ、国家資格の安定性・確実性が維持できない事態を招いたため、公認会計士試験の合格者数が政策的に減員されたとおり、国家資格の安定性等を合格者数の調整によって回復することは法曹界に特有の事態でもない。
3 当会が改めて総会決議を行なう理由
(1)平成22年度総会決議後の経緯
当会は、平成22年11月20日の臨時総会において、「政府に対し、司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策について直ちに見直し、司法試験合格者数を段階的に削減し、弁護士人口が4万人に達した以降、これを維持するため、司法試験合格者数年間1000人程度とする法律制度の運用を求める」との総会決議をなした。
この決議は、当時すでに現われていた若手弁護士のOJT不足その他の弁護士急増の弊害を挙げたうえ、弁護士総数を約4万人で均衡させるべく、増員ペースの緩和を求めるものであった。
しかるに、政府は、平成25年7月、司法試験合格者数3000人を目指す方針は撤回したものの、平成27年6月30日の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめにおいて、「法曹人口は、全体として今後も増加させていくことが相当である」とし、司法試験合格者数について、今後も「1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」るべきであるとした。
政府はこのように、当会の平成22年総会決議後も弁護士の急増ペースを抜本的に見直すことをせず、その結果、弁護士数は3万9011人に増加している(本年5月1日現在)。
(2)弁護士数の将来予測
平成28年度の司法試験合格者は1583人であったが、今後も同様に約1500人の合格者数を維持すれば、弁護士数は1、2年のうちに4万人を超え、平成55年には推計6万人を超える(弁護士白書2016年版)。そうなれば、我が国の人口減少傾向とあいまって、弁護士数の過剰による上記各弊害が一層拡大することは目に見えており、基本的人権の擁護や社会正義の実現という弁護士の使命は見失われ、弁護士業務への信頼は失墜し、弁護士自治を崩壊させていくおそれすらある。
司法試験合格者が本年度以降毎年1000人で推移するとしても、弁護士数は今後も増加し、平成53年におよそ4万9500人になると推計され、我が国の人口減少傾向を考慮すると、弁護士一人当たりの国民数は、現在より約1000人少ない約2100人となると推計されるものであるから(弁護士白書2016等に基づくシミュレーション)、本決議の趣旨が実現された場合、弁護士急増による弊害が緩和されこそすれ、市民にとって弁護士が不足するとの懸念は皆無である。
4 むすび
以上のとおり、我々弁護士が、基本的人権の擁護と社会正義の実現という本来の使命を果たし、弁護士資格制度の安定性と確実性を維持し、そして弁護士自治を維持して市民の権利利益を護り続けるためには、弁護士数が適正に維持されることが絶対不可欠である。我々弁護士が、国家権力から独立し、ときには対峙してでも、市民の側に立つべきその足場の崩壊を招くおそれある弁護士の過剰増員は、このような観点から改められなければならない。
したがって、平成29年度以降、司法試験の年間合格者を1000人以下とすべきである。
平成29年6月24日
長野県弁護士会総会
いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に強く抗議し,その廃止を求める会長声明
いわゆる共謀罪法案(共謀罪の創設を含む組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)が,2017年6月15日,参議院本会議で可決され,成立した。当会は,これに強く抗議するとともに,成立した共謀罪を速やかに廃止することを求める。
我が国は,個人の尊厳を究極の価値として,基本的人権の尊重,国民主権(民主主義),恒久平和主義を基本的な原理とする日本国憲法を制定した。
民主主義の健全な発展にとって,国家権力を監視し,その在り方を自由に批判することは必要不可欠な要素である。市民が自由に国家権力を批判するには,立憲主義や三権分立などの制度と並び,市民に対して思想・良心の自由や表現の自由,集会・結社の自由などの精神的自由権及びプライバシーの権利が保障されることが最低限の条件となる。
今回成立した共謀罪は,日本国憲法が保障するこれらの重要な自由権を市民から奪うおそれがあり,市民活動に著しい萎縮効果を与え,民主主義の重大な脅威となる。当会は,そのことを危惧し,既に本年5月24日に会長談話を発表するなどし,強く訴えてきた。また,全国の弁護士会,数多くの学者や市民団体等が訴えてきたように,共謀罪は既遂の処罰を原則とする近代刑法の前提を大きく逸脱し,一般市民の内心の意思を処罰する監視社会を招来し,市民の日常生活を萎縮させる危険がある。すなわち,共謀罪が成立したことにより,捜査機関は共謀罪の捜査を名目に,実際に犯罪に着手して法益が侵害される遥か以前から捜査を行う根拠を獲得し,昨年12月1日から施行されている通信傍受の対象犯罪の拡大と相まって,電話,メール,SNSなど市民の日常生活をターゲットにした早い段階からの捜査を行うことが可能となった。さらに,司法取引制度が施行されれば,自己の処罰減免を得る目的で,他人との共謀を認める虚偽自白を誘発する危険性も高まるおそれがある。このような捜査権限の拡大により,市民の正当な政治活動や労働組合活動,その他の活動が萎縮し,ひいては捜査機関による監視対象となってプライバシーの権利が侵害されるという懸念から市民の日常生活までもが萎縮する,深刻な監視社会が到来する。
また,繰り返し指摘されてきたように,共謀罪の「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」などの規定は,文言上極めて曖昧であるがゆえ,権力により拡大解釈される危険性があり,市民の自由を保障するために処罰の範囲をあらかじめ明示する罪刑法定主義にも反するおそれの高いものである。
そして,政府が共謀罪を導入する目的として,国際組織犯罪防止条約の締結とテロ対策を掲げてきた。しかし,前者については,同条約の立法ガイドが,各締結国の国内法の基本原則に基づいて必要な措置を取ることを許容しており,立法裁量が広いことは明らかであり,同条約を締結するにあたって我が国が共謀罪を制定する必要はない。後者についても,国際組織犯罪防止条約の目的にテロ対策が含まれないことは,同条約に関する国連の立法ガイド26パラグラフが明確に規定し,同ガイドを作成した国際刑法の専門家であるニコス・パッサス教授もこのことを明言している。また,我が国では公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律によってテロ行為の計画段階は既に犯罪化されており,銃器や刃物の所持を規制する銃砲刀剣類等処罰法等の実体法が存在するだけでなく,13ものテロ防止に関連する条約を締結しており,テロ対策についてはすでに立法的な手当がなされていることから,テロ対策のために新たに共謀罪を制定する必要はない。
このように数多くの問題を抱えた共謀罪は,その問題点に関する疑問や市民が抱く不安を解消するために慎重に審議されなければならなかった。特に衆議院法務委員会で審議時間の形式的な経過後に強行採決されたことを踏まえ,良識の府たる参議院ではより一層慎重に審議しなければならなかった。しかし,参議院では,法務委員会における審議を合計18時間弱で打ち切り,6月15日未明の本会議において「中間報告」を行った上で,法務委員会の採決を行わず,本会議で強行採決に踏み切った。参議院でも市民から出された数多くの疑問が何一つ明らかにならないまま採決されたということに加え,かかる手続は,国会法56条の3において定められた中間報告を求める要件である「特に必要があるとき」(第1項),及び中間報告を受けての本会議での審議の要件である「特に緊急を要すると認めたとき」(第2項)のいずれの要件も満たさず,明らかに手続上の瑕疵がある。これは,二院制の存在意義を参議院が自ら踏みにじる行為である。
さらに,立法の必要性そのものに重大な疑いがあり,かつ立法過程において既に憲法上の問題点が指摘されている共謀罪について,市民に対する充分な説明がなされないまま,また付託した法務委員会の採決を経ることなく参議院本会議で強行採決するという強硬な手段により可決されたことは暴挙と言わざるを得ず,我が国の民主主義を制度面から支える議会制民主主義の否定である。
以上のとおり,当会は,共謀罪法案が参議院本会議で可決され成立したことに強く抗議するとともに,今後も国会において共謀罪を速やかに廃止させるよう全力を挙げて取り組んでいく。
2017年(平成29)年6月26日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
いわゆる共謀罪法案が衆議院本会議で可決されたことに抗議する会長談話
いわゆる共謀罪法案が,2017年5月23日,衆議院本会議で可決された。当会は,これに強く抗議する。
民主主義の健全な発展にとって,市民が国家権力を監視し自由に批判することは必要不可欠である。このように市民が自由に国家権力を批判することができるためには,立憲主義や三権分立などの制度と並び,国家からの自由たる思想・良心の自由や表現の自由などの精神的自由権が市民に対して保障されることが最低限の条件である。共謀罪は,日本国憲法が保障するこれらの重要な自由権を市民から奪うおそれがあり,市民に著しい萎縮効果を与えることになる。共謀罪は,民主主義に対する重大な脅威である。
当会も繰り返し指摘してきたとおり,共謀罪法案は,既遂の処罰を原則とする近代刑法の前提を大きく逸脱するうえ,「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」などの規定の曖昧さは,市民の自由を保障するために処罰の範囲をあらかじめ明示する罪刑法定主義に反する。
政府は,共謀罪を導入する目的として,2020年の東京オリンピックにおけるテロ対策と国連越境組織犯罪防止条約を批准するための国内法の整備の必要性を掲げている。
しかし,そもそも国連越境組織犯罪防止条約の目的は,マフィアや暴力団等が金銭的・物質的利益を得るために行うマネーロンダリング等の越境的組織犯罪の防止にある。同条約に関する国連の立法ガイド26パラグラフは,経済的な利益の獲得を目的としないテロリスト集団が,同条約の規制の対象となる組織的犯罪集団に該当しないことを明確に規定している。同条約がテロ対策を目的としていないことは,同ガイドを作成した国際刑法の専門家であるニコス・パッカス教授もこのことを明言している。今国会における審議過程も,憲政史上大きな禍根を残した。共謀罪法案は,前述のとおり,市民の精神的自由権を奪うおそれが強い以上,これらの疑問や市民が抱く不安を解消するために慎重に審議されなければならなかった。しかし,衆議院法務委員会における審議では,共謀罪法案を所管する法務大臣の答弁が二転三転し,これら数多くの疑問は何一つ明らかにされず,なお一層深まるばかりであった。それにもかかわらず,政府・与党は,自ら設定した審議時間である30時間を形式的に消化したとして採決に踏み切った。これでは,共謀罪法案の成否を決するに足る程度に審議が成熟したとは到底評価できない。
以上のとおり,当会は,共謀罪法案が衆議院本会議で可決されたことに強く抗議するとともに,共謀罪法案を廃案とすることを求める。
2017年(平成29)年5月24日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
法修習生に対して修習給付金を支給する制度創設にあたっての会長声明
2017年(平成29年)4月19日,司法修習生に対して修習給付金を支給する改正裁判所法(以下,本法という。)が成立した。これにより,2017年(平成29年)の司法修習生から基本給付金として月額13万5000円,さらに必要に応じて住居給付金(上限3万5000円)及び移転給付金が支給される見込みとなっている。
本来,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ市民の権利を実現する社会的インフラであり,これを担う法曹となる司法修習生は,公費をもって養成されるべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し,給与が支払われてきた(給費制)。
しかし,この給費制は,2011年(平成23年)に廃止され,司法修習のために必要な資金を貸与する制度に変更された。これ以後の司法修習生は,大学・法科大学院での奨学金債務に加えて,貸与金として数百万円の負債を負担せざるを得ない状況になるなど,重い経済的負担を強いられていた。近年,法曹を目指す者は激減しているが,こうした重い経済的負担がその一因となっていることが指摘されている。
当会は,司法修習生の重い経済的負担を解消し,本来どおり法曹養成が公費により行われるよう,そして有為の人材が経済的な理由によって法曹となることを断念することがないよう,司法修習生への給費制復活のための活動を行ってきた。本法は,この活動の確かな前進として評価できるもので,当会は,本法の成立を歓迎する。なにより,この間,当会の活動に賛同しご尽力いただいた多くの国会議員や県議会議員,市民,諸団体の方々に対し,あらためて深く感謝申し上げる。
もっとも,本法によりすべての問題が解消されたわけではない。
本法による給付金額は,司法修習のための資金として必ずしも十分ではなく,司法修習の意義・実態を踏まえて,その適正額についてさらなる検討が必要である。
さらに,より重要な問題は,本法は,2011年(平成23年)から2016年(平成28年)の間に司法修習生となった人らに対し何らの措置もなされていないということである。これらの司法修習生と,2010年(平成22年)以前に司法修習生となった人及び本法による給付を受ける司法修習生との間で,司法修習の意義・実態は何も異ならないにもかかわらず,受ける経済的支援だけが大きく異なり著しい不公平が生じることになる。
そして,2011年(平成23年)に司法修習生となり貸与金の支給を受けた人らは、早くも2018年(平成30年)7月から貸与金の返還を迫られ、経済的負担が顕在化することになるため,同世代への給費制に代わる是正措置の整備は早急に取り組むべき切迫した問題である。
よって,当会は,本法の成立をこれまでの活動の確かな前進として評価するとともに,今後も上記問題解消のため,引き続き活動に取り組む所存である。以上
2017年(平成29年)5月22日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
70回目の憲法記念日に寄せる会長談話
1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今日、70回目の憲法記念日を迎えた。
日本国憲法は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と国民主権を高らかに謳っている(前文第1項)。
そして、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と平和的生存権を謳い、恒久平和主義を宣言し(前文第2項)、戦争の放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を規定している(第9条)。
さらに、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。」(第11条)と基本的人権の尊重を保障する。
この70年間、私たちの社会や、わが国をとりまく国際情勢は大きく変わったが、国民は、一貫して日本国憲法を支持してきた。日本国憲法は、厳しい政治の現実にさらされながらも、国の最高法規として、強い規範力を発揮してきた。日本国憲法は、徹底した恒久平和主義に基づきわが国が一度も他国と戦火を交えることなく平和と繁栄を築き、国際社会で高い信頼を得るために、大きな役割を果たしてきた。
しかし、近年、日本国憲法をとりまく状況は大きく変わろうとしている。2013年(平成25年)12月、取材・報道の自由に委縮的効果をもたらし、国民の知る権利を侵害するおそれのある「特定秘密の保護に関する法律」が成立した。
2015年(平成27年)9月には、日本国憲法の立憲主義や徹底した恒久平和主義に違反する集団的自衛権の行使を容認し、外国軍隊に対する後方支援を拡大し、自衛隊の海外における武器使用権限を拡大する、いわゆる安全保障関連法が制定された。
そして今、思想・良心の自由を侵害し、市民生活に深刻な影響を及ぼすおそれのある、「テロ等準備罪」いわゆる「共謀罪」を新設する法案が国会に提出された。
さらに今後、憲法改正が政治課題にのぼる可能性があり、「災害対策等を理由とする緊急事態条項」の創設や9条の改正も取りざたされている。
日本国憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される」こと(第13条)を究極の価値としている。そのために、国家権力の行使は、憲法による統制の下におかれる(立憲主義)。私たちは、憲法の意義をあらためて認識するとともに、これらの動きがどのような国づくりを指向しているのか、その結果何がもたらされるのか、今一度考えなければならない。
日本国憲法の掲げる国民主権、恒久平和主義、基本的人権の尊重という基本理念は、時代を超えた普遍的な価値である。日本国憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定している。
70回目の憲法記念日にあたり、日本国憲法に込められた崇高な理念とそれを守ってきた先人の努力に思いを致すとともに、これから私たちが未来にどのような社会を引き継ぐのか、深く考える機会としたい。
そして、私たち弁護士は、「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命とする者として(弁護士法第1条第1項)、基本的人権が尊重され、法の支配が貫徹される社会を実現するため、法律制度の改善に一層の努力を続けていきたいと思う(弁護士法第1条第2項)。
2017(平成29)年5月3日
長野県弁護士会 会 長 三 浦 守 孝
信州大学大学院法曹法務研究科の閉校にあたっての会長談話
本日、信州大学大学院法曹法務研究科(以下、「信大ロースクール」という。)の閉校式が行われる。信大ロースクールは、平成17年4月に開校したが、当会は、「自らの後継者を自らの手によって育成し、地域の司法水準を向上させる」という地域司法充実の理念のもと、関係機関に対する働きかけや市民に対する大規模な署名活動を行うなど、その構想段階から主体的に設立運動を担った。また、当会は、信州大学との間で、平成16年6月30日に「信州大学大学院法曹法務研究科に関する協定」、平成19年3月7日に「ロークリニックに関する協定」を締結するとともに、当会内に法科大学院バックアップ委員会を設置し、多数の実務家教員の派遣や、模擬裁判への講師派遣、ロークリニック・事務所訪問の受け入れ、講演活動、課外指導等を継続的かつ積極的に行ってきた。
派遣した実務家教員や、法科大学院バックアップ委員会に所属する若手会員らによる献身的な指導の甲斐もあって、信大ロースクールの修了生から、これまでに合計36名が司法試験に合格し、現在、その内の22名が当会に弁護士登録し(当会の会員の1割程度が信大ロースクールの出身者となる。)、地域に貢献する弁護士として活動している。
自らの後継者を自らの手によって育成するという理念は、相当程度は達成することができたといえる。もっとも、地域の司法水準を向上させる活動に終わりはなく、法曹養成の地域の拠点である信大ロースクールがこの3月末日をもって閉校となることは、誠に残念というほかない。
一方で、平成28年4月、信州大学には新たに経法学部が誕生し、同学部内に総合法律学科(学士課程)が新設された。長野県内において、法学分野の学士課程が設置されたのは、初めてのことである。当会の理念は、今後も息づいていく。
当会と信州大学とは、平成28年2月24日付で「信州大学と長野県弁護士会との包括連携に関する協定」を締結している。当会は、今後も、法律系人材の育成や法的実務に関する研究へ寄与する等、地域司法の充実に資する活動に邁進する所存である。
平成29年3月27日
長野県弁護士会会長 柳 澤 修 嗣
いわゆる共謀罪法案を国会に提出することに反対する会長声明
1 2017年2月28日,政府が「テロ等準備罪」と名称を変更して第193国会(通常国会)に提出することを明言していた共謀罪法案(以下「新法案」という。)の内容が公表された。
過去3回廃案となった共謀罪法案(以下「旧法案」という。)と新法案の主な違いは,適用の対象を「組織的犯罪集団」としたこと,処罰の対象を「共謀」から「二人以上で計画した者」に変更し,処罰条件としてその計画をした者により「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」(以下「準備行為」という。)に処罰できるとしたこと,対象となる犯罪を676から277に減らしたことである。政府は,新法案の制定目的として,国連越境組織犯罪防止条約の締結と,旧法案を提案した際には挙げていなかったテロ対策を挙げている。
さらに,新法案の内容が公表された後,新法案に「テロ」の文言がないことを強く批判されたことを受け,同年3月7日,政府は「組織的犯罪集団」を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とする修正を行った。
当会は,それでもなお,新法案を本国会に提出することに強く反対する。
2 新法案は,旧法案と同じく,既遂の処罰が原則であり未遂と予備の処罰を例外とする近代刑法の前提を大きく逸脱し,一般市民の内心の意思を処罰する監視社会を招来し,市民の日常生活を萎縮させる危険がある。
(1)政府は,新法案の対象団体を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と限定したことにより,テロ対策という目的が明らかとなり一般市民は対象にならないと説明している。
しかし「組織的犯罪集団」という概念自体が極めて曖昧な概念であるうえ,その認定は捜査機関が行う以上,恣意的な運用の危険性を払拭できない。
また,「一定の犯罪目的を有する団体が組織的犯罪集団である」という構造上,犯罪目的の認定を先行しなければ団体性は認定できず,捜査機関によって犯罪目的を有する団体であると事後的に認定された人の集まりは全て「組織的犯罪集団」とされる余地がある。現に政府は,適法な目的で設立されていた団体が犯罪目的を有するに至った際は「組織的犯罪集団」となり得る,と明言してきた。「テロリズム集団」と明示した点も,「その他」という文言によって例示に過ぎないことになり,「その他」に該当するとして処罰範囲が拡大する余地は消えない。
このように「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」という文言は何ら処罰範囲の限定に役立たない。
(2)また,「計画」とは「犯罪の合意」に他ならないところ,合意は内心と区別がし難いので思想や良心の自由を侵害する危険性が高い。「計画」は共謀共同正犯理論における共謀と同じとされるので,概括的,黙示的,順次的な「計画」が認定されうる。合意の手段も限定しないとされることから,例えば市民に広く利用されているLINEなどのメッセージアプリによる「計画」の認定もあり得る。
(3)さらに、準備行為は予備罪等の準備行為とは異なるから,事実上無限定である。また処罰条件に過ぎない以上,準備行為が行われない時点で既に捜査の対象となる。これは,市民社会に対して著しい萎縮効果をもたらす。
(4)新法案において対象となる犯罪数は,昨年8月に報じられた「テロ等組織犯罪準備罪」の676から277にまで限定された。
しかし,政府の説明は破綻している。国連越境組織犯罪防止条約を締結するためには対象犯罪を限定することは不可能であるとこれまで政府が主張してきたことと矛盾するうえ,テロ対策と関係がある犯罪は277のうち110と4割にも満たず,児童福祉法における児童淫行罪,保険業法における株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為罪など,経済的利益を得るために行う組織犯罪の防止を目的とする同条約やテロ対策とは何ら関係が見出せない犯罪も数多く含まれるからである。
そもそも,対象犯罪を限定したとしても,新法案が市民社会に与える影響が甚大であることに変わりはない。新法案の存在自体が,捜査機関により市民の内心に手を入れ,捜査・処罰する余地を生むことになるからである。
(5)以上のような問題点を抱える新法案が成立した場合,捜査機関は共謀罪の捜査を名目に犯罪が実際に着手され法益が侵害される遥か以前から捜査を行う根拠を獲得する。
2016年12月1日から施行されている通信傍受の対象犯罪の拡大と相まって,電話,メール,LINEなど市民の日常生活をターゲットにした早い段階からの捜査が行われることになる。さらに施行を控えている司法取引制度が施行されれば,共謀罪への引き込みの危険性も急激に拡大する。これらの結果もたらされるのは,国民の正当な政治活動や労働組合活動,その他の活動の萎縮であり,ひいては,捜査機関による監視対象となるかもしれないとの懸念による国民の日常生活の萎縮をもたらす深刻な監視社会の到来である。
我々は,日本の社会がそのような危険な社会に変貌してしまう危険を看過できない。3 当会も,マフィアや暴力団等による越境的組織犯罪を防止するために同条約を締結する必要性は認める。もっとも,同条約は経済的利益を得るために行う組織犯罪の防止が目的であって,テロとは何ら関係がない。
政府は,同条約は参加罪か共謀罪のいずれかの制定を義務付けているとしている。しかし,同条約を締結するにあたり,共謀罪を制定する必要はない。同条約に関する国連の立法ガイド51パラグラフは,共謀罪や参加罪などの法的概念を持たない国においては,これらの概念を強制することなく,組織犯罪集団に対する実行的な措置をとることも条約上認められる,としているからである。
4 我が国は,航空機内の犯罪防止条約(東京条約),航空機不法奪取防止条約(ヘーグ条約),民間航空不法行為防止条約(モントリオール条約),国家代表等犯罪防止処罰条約,人質行為防止条約,核物質及び原子力施設の防護に関する条約,空港不法行為防止議定書,海洋航行不法行為防止条約,大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書,プラスチック爆弾探知条約,爆弾テロリズム防止条約,テロ資金供与防止条約,及び核テロリズム防止条約の合計13のテロ対策を目的とした条約を締結している。さらに,テロを防止するための法律も多数整備されているほか,テロリストの大多数が使用する銃や刃物は銃砲刀剣類所持等取締法や軽犯罪法により所持が禁じられている。これらの現行法によって,テロは未然に防止できる。条約を批准するための環境とテロを防止するための環境は既に整っており,テロ等準備罪を新設する必要はない。
なお,昨今世界各地で拡大しているテロの多くは国内出身者が国内で引き起こすという点でホームグロウンテロと呼ばれるが,その大多数は単独で行われる。共謀罪は単独犯に適用できない以上,このテロに対する抑止力になり得ない。
5 以上のとおり,当会は,新法案を本国会に提出することに強く反対する。
2017(平成29)年3月13日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明
1.日本弁護士連合会は,本年3月の臨時総会決議(以下,「日弁連臨時総会決議」という。)において,現行の法曹養成制度の下で,法曹志望者が毎年大幅な減少を続けており,こうした状況が続くなら我が国の司法と民主主義を担う人的基盤を脅かす危険があるとし,平成27年度司法試験合格者数が1850人であった状況の中で,「まず,司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」を,可及的速やかに実現すべき緊急の課題として,全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組むことを表明した。
2.制度発足後,現実の法的需要を大幅に超える2000人前後の合格者(法曹有資格者)が毎年供給される反面,裁判所の新受件数に現れているとおり,法曹に対する従来型の需要は増加するどころか近年減少を続け,新しい活動領域の拡充も,供給の増加を吸収する規模には至らなかったため,有資格者の過剰供給の弊害は年々顕在化してきた。
司法試験を合格し,司法修習を終了しても,法曹として就職・就業できない者が12月の一括登録時で400人を超え,その1ヶ月後でも200人を超えているという異常事態が,平成23年12月(一括登録時464人,1ヶ月後326人)から昨年(一括登録時468人,1ヶ月後225人)まで続いてきた。また,新人法曹が抱える貸与型奨学金や修習中の貸与資金は,利用者平均で350万円にのぼることも判明している。
こうした中で,法曹の魅力,司法試験の魅力は,年々確実かつ急速に失われてきた。その結果として,法科大学院適性試験の受験者数は,試験が開始された平成15年には5万4千人であったものが,昨年3621人,本年3286人にまで激減し,司法試験受験者も,平成16年には4万3千人であったものが,昨年は8016人となり,さらに本年は6899人にまで激減するに至っている。現状は,法曹志望者の減少傾向に歯止めが利かなくなっている状態にあり,政府の法曹養成制度検討会議が平成25年6月26日取りまとめで指摘した,「多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機」は,現実化するに至っている。
多様で有為な人材が法曹を志望せず,試験の選抜機能が働かず,就職環境や法曹に就いた後のOJTの環境も厳しいとなれば,新規法曹の質が低下することも必定である。
日弁連臨時総会決議が,昨年の1850人の現状に対し,まず1500人へと合格者数を減員することを緊急課題としたのも,現行の法曹養成制度がこのような深刻な危機の状態にあるとの認識を反映したものである。
3.法務省は,本年9月に,本年度の司法試験合格者数は1583人であると発表した。数字だけを見ると,日弁連総会決議が緊急課題とした1500人への減員に結果として近づいたともいえる。しかし,昨年度も本年度も受験者数に対する合格者数の割合(合格率)は同一の23%であるから,本年度の合格者の減少は,昨年度と比べ法曹志望者が大幅に減少した結果もたらされたという見方をする意見もあり,政策的な減員がなされたか否か明らかでない状況にある。
日弁連臨時総会決議は,「更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきもの」としているところ,現行の法曹養成制度は,法曹志望者の激減に合わせて,法科大学院適性試験や司法試験の受験者が上記の通り著しく激減した結果,制度の成熟の前提となる多様で有為な人材の確保そのものが危機に瀕する実態にある。また,現実の法的需要が,平成15年以降,倍近くに増えた法曹有資格者の過剰供給を吸収できる状態から程遠い実態にあり,そのことの弊害がますます顕在化していることも,すでに明瞭である。
この間に,法曹有資格者が,既に何年にもわたり,登録年度ごとに供給過多が発生し,そのもとで法曹界に様々な困難が積み重なっていることを考慮すれば,政府が,次年度以降に向け,さらに大幅な減員を行う方針を速やかに採用しなければ,供給過剰による弊害の進行を食い止めることはできず,社会に法曹界の魅力ある将来像を提示することは困難となり,結果として人材の法曹離れの傾向を止めることもおぼつかず,さらに法曹養成制度の危機を深めるという悪循環が繰り返されることになる。
4.法曹は司法を担う人的基盤であって,司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。いま,供給過剰による弊害の進行を食い止め,法曹を目指すことの魅力を保持することは,司法制度存立の基礎を維持するために不可欠な事柄である。
そこで,われわれは,共同で,政府に対し,次年度以降の司法試験合格者数を,さらに大幅に減員する方針を,速やかに採用することを強く求めるものである。以 上
2016年(平成28年)12月27日
埼玉弁護士会 会長 福 地 輝 久
千葉県弁護士会 会長 山 村 清 治
栃木県弁護士会 会長 室 井 淳 男
群馬弁護士会 会長 小 此 木 清
山梨県弁護士会 会長 松 本 成 輔
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
兵庫県弁護士会 会長 米 田 耕 士
三重弁護士会 会長 内 田 典 夫
富山県弁護士会 会長 山 本 一 三
山口県弁護士会 会長 中 村 友 次 郎
大分県弁護士会 会長 須 賀 陽 二
仙台弁護士会 会長 小 野 寺 友 宏
福島県弁護士会 会長 新 開 文 雄
山形県弁護士会 会長 山 川 孝
秋田弁護士会 会長 外 山 奈 央 子
青森県弁護士会 会長 竹 本 真 紀
札幌弁護士会 会長 愛 須 一 史
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長談話
平成28年12月8日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
当会は,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」,以下「本法案」という。)に対して,反対の立場を表明し,同法案の廃案を求める。
本法案は,カジノ施設を含む特定複合観光施設が,「観光及び地域経済の発展に寄与するとともに,財政の改善に資するものである」として,かかる施設の推進を「総合的かつ集中的に行うことを目的」とし(第1条),一定の条件のもと民間業者がその設置運営をすることを認めるというものである。
本法案については,平成26年11月の衆議院解散で一旦廃案となったが,平成27年4月に再提出され,本年12月2日に衆議院内閣委員会において採決され,同月6日の衆議院本会議で可決され,自民党は今国会での成立を目指しているとのことである。
当会は,既に平成26年11月8日付で会長声明を出し,カジノ解禁によるギャンブル依存症及び多重債務問題の悪化,暴力団の資金源となるおそれ,青少年への悪影響等が懸念されることから,本法案に強く反対し,廃案を求めていたところである。しかしながら,今回,前記各弊害に関する十分な議論がなされないまま,拙速に本法案を通過させようとしている。
よって,当会は,本法案の成立に改めて強く反対し,廃案にすることを求める。
長野県子どもを性被害から守るための条例の処罰規定について慎重な運用を求める会長声明
1 本年7月1日,県議会において,長野県子どもを性被害から守るための条例(以下,「条例」という。)が可決成立し,同日,規制項目(第17条から20条まで)以外の規定が施行された。そして,本日,処罰規定を含む規制項目が施行された。
2 子どもを性被害から守ることは重要かつ喫緊の課題であり,条例が,県全体で総合的・恒久的に取り組んでいくことを宣言し,具体的な施策を根拠付け,推進していることは評価できる。
特に,性教育の重要性は各方面から指摘されてきたところ,条例にこれが明示された意義は大きいと考える。学習指導要領の制約を超えて,子どもにとって真に必要な性教育,人権教育,情報モラル教育を徹底すべきである。
また,被害者支援の取り組みについても,県が本年7月27日開設した「性暴力被害者支援センター(りんどうハートながの)」を,子どもの救済という観点から実効的なものにしなくてはならない。同センターは,大人と子どもの区別なく性被害者を対象にしているが,子どもの特性への配慮は不可欠であり,この点についての更なる検討を求める。
その他,相談窓口の充実,県民運動・啓蒙活動の推進についても,これまでの活動を踏まえつつ,新たな施策を策定し,早急に取り組みを開始すべきである。
3 他方,処罰規定については,これまで当会がその問題性を繰り返し指摘してきたところであるが(平成25年7月16日付「淫行処罰条例の制定に反対する会長声明」,同年12月14日付「淫行処罰条例の制定に反対する意見書」,平成28年2月6日付「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明」,同年6月28日付「子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話」),問題性が解消されたとはいえず,また,それを正面から捉えた議論が十分に尽くされたとも言い難い状況のまま,条例に規定され,本日施行日を迎えた。
4 最も懸念される問題は,子どもの真摯な恋愛を除外できるのかという点である。これができなければ,処罰範囲は不当に拡大し,また,子どもの恋愛は過度に制約され,萎縮してしまう。
「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。」(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の規定は,真摯な恋愛か否か(可罰的か否か)の線引きの難しさゆえ,本来罰すべきでない行為に捜査が及んだり,当事者の一方的な被害申告で処罰されるといった事態が懸念される。
5 深夜外出の規制についても,「何人も,保護者の委託を受け,又は同意を得た場合その他の正当な理由がある場合を除き,深夜に子どもを連れ出し,同伴し,又は子どもの意に反しとどめてはならない」(30万円以下の罰金)の規定は,子ども本人の真摯な同意があったとしても,保護者が同意していなければ,罪に問われることになる。これも,子どもの真摯な恋愛を除外せず,子どもの自由を過度に制約するものであり,問題である。
6 捜査機関は,処罰規定のこうした問題性を十分に認識し,運用に際しては,子どもの真摯な恋愛関係に介入したり,子どもの自由を過度に制約することのないよう,特に慎重を期すべきである。
7 また,処罰規定の運用を検証する仕組みが不可欠である。個人の名誉やプライバシーに関わる情報を扱うことから,非公開の第三者機関を設置し,起訴不起訴に関わらず,本処罰規定違反の容疑で捜査権を行使した全ての事案について,その内容に踏み込んで,処罰規定の濫用がないかをチェックすべきである。
8 条例により,長野県は,子どもの性被害の根絶へ向けて新たな一歩を踏み出した。これをスタートラインとして,種々の実効的な施策が速やかに策定され,各所で具体的な取り組みが始まることを切に期待する。
それとともに,処罰規定が子どもの真摯な恋愛への介入に繋がらないよう,捜査機関に対し,その慎重な運用を強く求める。また,県に対し,処罰規定の運用を十分に検証するための仕組みを整備するよう求める。
平成28年11月1日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
いわゆる共謀罪法案の提出に反対する会長声明
~内心を広範に処罰し,監視社会を招く共謀罪に断固反対する~
1 政府は,過去に3回廃案になった共謀罪法案(以下「旧法案」という。)に関し,テロ対策の必要性
新たな提出理由に加え,「共謀罪」という名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変更した組織犯罪処罰法改正案を今後の国会に提出する方針であると報じられている(以下「提出予定新法案」という。)。
2 提出予定新法案における旧法案からの主な変更点は,以下のとおりである。
(1)適用の対象について,旧法案が「団体」としていたものを,「組織的犯罪集団」とした。
(2)処罰の対象については,旧法案が単に「共謀」としていたものを「二人以上で計画した者」に変更し,かつその計画をした者が「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という要件を追加した。3 政府は,これらの変更点につき旧法案に対する批判に配慮したものであるとしている。
しかし,提出予定新法案は,行為を処罰し,思想や内心の意思を処罰しないという近代刑法の基本原則に反するとして廃案になった旧法案とその本質において全く異ならない。
(1)提出予定新法案の「計画」とは「犯罪の合意」であるから,従来の「共謀」と事実上同じである。
新たに追加された「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」によっても,何ら処罰の対象行為は限定されない。この「準備行為」は,現行法上の予備罪の予備のようにそれ自体が一定の危険性を備えている必要はなく,犯罪の成立要件の限定としてはほとんど無意味である。例えば,預貯金口座から生活資金を引き出す行為も,捜査機関によって犯罪実行に向けた資金の準備行為と認定されれば立件されうることになる。
このように,内心の意思が処罰されるという点で旧法案と全く違いはない。
(2)「組織的犯罪集団」も極めて曖昧な概念であるうえ,捜査機関が認定し立件することになるため,捜査の対象となる団体が際限なく拡大される危険性は払拭できず,単なる「団体」を処罰するとした旧法案と変わりがない。
(3)対象となる犯罪も,政府はテロ対策を理由とした上で,旧法案と同じく長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪等としているため,600を超える。その結果,偽証罪(刑法第169条),虚偽通訳罪(同法第171条),虚偽告訴罪(同法第172条),賭博場開帳等図利罪(同法第186条第2項),背任罪(同法第247条),貸金業法における無登録営業の罪(貸金業法第47条)など,テロ対策とはおよそ無関係と考えられる罪の共謀までも処罰の対象となる。
4 通信傍受制度の対象犯罪の拡大が2016年12月までに施行されることにより,捜査機関が「計画」つまり「共謀」を捜査対象とする環境は既に整っている。
多くの問題点を含む共謀罪が新設されれば,捜査機関によってテロ対策の名の下に電話やメールなど市民の会話が監視され,思想信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由など憲法上の基本的人権が脅かされることになる。自由主義社会の基盤となる自由な表現活動が委縮し,市民社会の在り方が大幅に変容する可能性が高い。
5 政府が挙げていた旧法案の主な提出理由は,マフィア等の越境的組織犯罪の抑止を目的とする国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「条約」という。)批准のために必要というものであり,テロ対策は挙げられていなかった。条約は経済的な組織犯罪を対象とするものであり,テロ対策や東京オリンピック開催とは本来無関係である。
我が国には,重大な犯罪については既に60を超える陰謀罪及び共謀罪並びに予備罪・準備罪などが規定されているほか,共謀共同正犯理論もある。テロ組織等の組織犯罪集団が行う犯罪行為の大多数は銃器や刀剣など武器の事前準備を伴うことが想定されるが,それらの犯罪行為は,銃砲刀剣類所持等取締法によって未遂以前に取り締まることが可能である。条約を批准するための環境とテロを防止するための環境は既に整っており,共謀罪を新設する必要はない。
6 よって,当会は,共謀罪を内容とする提出予定新法案の提出に強く反対する。
2016(平成28)年10月3日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話
1 現在,長野県議会6月定例会において,子どもを性被害から守るための条例案(以下,「条例案」という。)が審議されている。
条例案は,平成27年9月の「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書」(以下,「条例モデル報告書)という。)の内容に沿ったものである。県は,同報告書を受けて,本年2月1日に条例制定の基本方針を明らかにし,同月12日に骨子案を,本月10日に条例案の骨子と概要をそれぞれ公表し,16日開会の6月定例会に条例案を提出した。
2 当会は,本年2月6日に「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明」を発し,県に対し,規制項目については慎重な検討を求めつつ,子どもを性被害から守るための教育,被害者支援その他の施策については条例を制定して積極的に推進することを求めたところである。
同声明で指摘したところは,条例案にもそのまま当てはまる。特に規制項目の問題性については,その後十分な議論が尽くされたかは疑問であり,県議会に対しては,慎重な検討を強く要望する。
3 条例案の骨子「7 子どもの性被害に関する行為の規制」(規制項目)についての問題は,子どもの真摯な恋愛を除外できているのか,という点にある。これができていなければ,子どもの恋愛は過度に制約され,また萎縮してしまう。
「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。」(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の規定について,県は,あくまでも「威迫」「欺罔」「困惑」という要件の有無が判断されるのであって,真摯な恋愛の有無を問うものではないと説明する。
しかし,真摯な恋愛においても,見方によっては「威迫」「欺罔」「困惑」と捉えられるような行為が伴いうる。すなわち,そのような行為が真摯な恋愛か否か(可罰的か否か)という評価がどうしても求められるところであって,その線引きの難しさゆえ,本来罰すべきでない行為に捜査が及んだり,当事者の一方的な被害申告で処罰されるおそれが類型的に高いのである。
4 深夜外出の規制についても,例えば,「何人も,保護者の委託を受け,又は同意を得た場合その他の正当な理由がある場合を除き,深夜に子どもを連れ出し,同伴し,又は子どもの意に反しとどめてはならない」(30万円以下の罰金)の規定は,子ども本人の真摯な同意があったとしても,保護者が同意していなければ,罪に問われることになる。すなわち,17歳と18歳が真摯な交際をしているが,親が交際に反対している場合,この2人が深夜に外出するだけで,18歳が処罰される。これも,子どもの真摯な恋愛を除外できておらず,子どもの自由が過度に制約されているとみるべき問題である。
5 規制項目のうち,特に上記の罰則を伴う規制については,これらの懸念を正面から取り上げ,それをどのようにクリアするのか,できるのかといった議論が不可欠である。その際には,当事者である子どもの意見も十分に聴取して行われるべきである。
6 条例案は,長野県として,子どもを性被害から守るための総合的で恒常的な取り組みを宣言するものであり,上記規制項目を除いては,積極的に評価しうるものである。
そのような取り組みを一刻も早く開始すべく,上記規制項目については適宜の修正削除のうえ,条例としては早期に成立させて,前進すべきである。
平成28年6月28日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
ヘイトスピーチ対策法律案に関する会長声明
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に関する会長声明
平成28年5月23日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣
1 我が国では,近年,日本国内に居住する外国籍の人々や外国にルーツを持つ日本人等に対するヘイトスピーチ等の深刻な人種差別が横行しており,これらの行為に対する抜本的な対策が求められている。
このような観点から,平成28年5月13日に参議院で可決され衆議院に送付された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下,「本法案」という。)は,人種差別全般を対象としておらず,「不当な差別的言動」(第1条),いわゆるヘイトスピーチに対象を限定している点で充分とはいえないものの,国会がそれらの「不当な差別的言動の解消が喫緊の課題である」(第1条)との問題意識を有し,その対策に乗り出したこと自体は大いに評価する。
2 一方で,本法案には,規制の対象となる「不当な差別的言動」を,専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身者である者又はその子孫であって,かつ「適法に居住するもの」(第2条,以下「適法居住要件」という。)に対する言動に限定しているという問題がある。
3 すなわち,すべての人間は生まれながらにして自由であり,かつ,尊厳と権利において平等であり,いかなる事由による差別をも受けることなく,所定の権利及び自由を受ける権利を有する(世界人権宣言第1条,第2条)。ヘイトスピーチ等の人種差別は誰に対しても許されず,在留資格の有無でその結論が異なるわけではない。
4 「適法居住要件」を定めることになれば,ヘイトスピーチを行おうと意図する者に対し「在留資格を有しない外国籍の人々や難民申請者に対するヘイトスピーチは許される」といった誤ったメッセージを送ることになりかねない。そうなれば,これらの人々に対するヘイトスピーチが増加することはおろか,かえって「不当な差別的言動」そのものの増加を招くおそれすらある。
我が国も加入している「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(以下,「人種差別撤廃条約」という。)の解釈基準である「市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30」が,「人種差別に対する立法上の保障が,出入国管理法令上の地位にかかわりなく市民でない者に適用されること,及び立法の実施が市民でない者に対する差別的な効果を持つことがないよう確保すること。」と規定していることを踏まえれば,在留資格のない者に対する人種差別も対象とするべきである。
5 野党側は,不法滞在者に対する差別を助長するおそれがあるとして適法居住要件の削除を求めてきたが,与野党は,同年4月27日,「第2条が規定する『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』以外のものであれば,いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり,本法の趣旨,日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み,適切に対処する」との文言等を附帯決議に盛り込むことで合意し,同年5月13日,参議院本会議で可決され衆議院に送付された。
しかし,附帯決議には法的拘束力がない以上,不十分であり,目的達成のためには端的に「適法居住要件」を削除した上で本法案を成立させるべきである。
6 よって,当会は,本法案から「適法居住要件」を削除した上での今国会での成立を求める。 以 上
69回目の憲法記念日に寄せる会長談話
2016年(平成28年)5月3日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣
昭和22年5月3日に施行された日本国憲法は、今年、69回目の憲法記念日を迎えた。日本国憲法は、わが国が平和的に繁栄し、国際社会から高い信頼を得るのに重要な役割を果たしてきた。しかし、今、日本国憲法は、大きな試練にさらされている。
昨年9月19日、平和安全法制整備法及び国際平和支援法(いわゆる「安全保障関連法」)が成立し、本年3月29日から施行された。安全保障関連法は、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認し、外国軍隊に対する後方支援を拡大し、自衛隊の海外における武器使用権限を拡大するものである。安全保障関連法は、憲法の定める恒久平和主義に反し、違憲無効である。さらに、安全保障関連法の審議に先立ち、閣議決定により憲法9条の解釈を変更し、国会においても、十分な審議を尽くすことのないまま、多くの国民が反対する中で、拙速にこの法律を成立させたことは、立憲主義に反するものであって、政府の姿勢は、まさに憲法を蹂躙するものである。当会は、安全保障関連法の運用・適用に反対し、その廃止を強く求めるものである。
さらに最近、政府関係者からは、緊急事態条項や憲法9条の改正に向けた発言もなされ、今や、憲法改正が、政治課題にのぼろうとしている。
先の大戦により、わが国は、国民が存亡の危機に陥った。国土は焦土と化し、310万人を超える国民が犠牲になった。戦争の生々しい傷跡が残る中で制定された日本国憲法は、「日本国民は、・・われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と宣言した(憲法前文)。戦後、70余年を経て、戦争を経験した世代は少なくなり、またわが国をとりまく国際情勢も変化しているが、私たちは、憲法に込められたこの崇高な理想を心に刻む必要がある。
さらに、憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している(憲法13条)。私たちが、自分の信ずるところにしたがい、豊かで幸福な人生を全うするためには、私たち一人ひとりが個人として、最大限尊重されなければならない。
立憲主義は、人類が多くの過ちを繰り返し、苦難の歴史を経た結果、確立した近代憲法の基本理念である。憲法は、国家権力のあり方を規定するものであり、そのあり方を決めるのは、主権者である私たち国民である。私たちは、歴史を知り、わが国を取り巻く情勢を正確な情報に基づき冷静に分析し、そして、どのような国を目指すのか深く考えなければならない。憲法に何を託すのか、問われているのは、私たち自身である。
本日の憲法記念日を、憲法の意義について改めて認識するとともに、これからの国のあり方を考える機会としたい。
また、憲法が施行された翌々年(昭和24年)に制定された弁護士法は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定し(第1条第1項)、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」と規定している(同条第2項)。私たち弁護士は、憲法から負託されたこの使命を改めて自覚し、その職責を果たすため、誠実に努力しなければならない。
言うまでもなく戦争は、国民の尊い命を危険にさらし、その生存を脅かすものであり、最大の人権侵害である。当会は、弁護士の使命を果たすため、これからも日本国憲法の基本理念を堅持し、戦争のない平和な社会を守るための取組に全力を尽くす所存である。 以 上
熊本地震に関する会長談話
去る4月14日及び同日以降に発生した熊本地震におきまして、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様方、そのご家族の方々に心よりお見舞いを申し上げます。
この度の地震は、前震が最大震度7・マグニチュード6.5、本震が最大震度7・マグニチュード7.3という規模を記録し、その後も大規模な余震が多発しており、家屋の倒壊等により多数の死傷者が発生し、今なお大勢の方々が避難生活を余儀なくされている状況にあります。
日本弁護士連合会は、地震発生日である4月14日に緊急対策本部を立ち上げ、過去の震災における支援活動で培ってきた経験を活かし、熊本県弁護士会、九州弁護士会連合会及び各地の弁護士会、さらには自治体や日本司法支援センターなど関係諸機関と連携し、被災された方々の支援に全力で取り組んでいく旨の方針を表明しました。
長野県弁護士会としては、既に、会員に対して「熊本地震に係る義援金」を募集する等の活動を開始しておりますが、今後も、日本弁護士連合会や各地の弁護士会と連携して、被災地への法的支援と被災された皆様方の権利回復のために、できる限りの支援をしていく所存です。
被災者の皆様の生活再建をはじめとする被災地の復旧が、一日も早く叶いますよう、心よりお祈り申し上げます。
2016年(平成28年)4月28日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣
労働審判の実施支部拡大に関する会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
1 最高裁判所は、平成28年1月15日に行われた日本弁護士連合会との間の民事司法改革に関する協議会において、平成29年4月から長野地方裁判所松本支部、静岡地方裁判所浜松支部及び広島地方裁判所福山支部の3支部において労働審判の取扱いを開始すべく準備を開始すること等を明らかにした。
2 労働審判は、個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争を、原則3回の手続において、迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的として、平成18年から導入された制度であったが、これまでは各地方裁判所の本庁のほか、支部では東京地方裁判所立川支部及び福岡地方裁判所小倉支部において実施されるのみであった。
3 この間、当会は、平成24年6月23日の総会において「地域司法の充実を求める総会決議」を行い、長野地方裁判所各支部において労働審判手続の取扱いを可能とすること、とりわけ長野地方裁判所松本支部においては、早急に労働審判手続の取扱いを開始することを求めてきた。また、長野県議会においても平成24年11月30日「長野地方裁判所各支部における労働審判事件の取扱いの開始を求める意見書」が採択されたほか、平成26年7月までに、松本市議会を含む47の中南信地域の全ての市町村議会(一部広域連合議会を含む)において、同趣旨の意見書・請願が採択されている。国民に対する司法サービスの提供は、地域間で格差があってはならないのであり、身近で利用しやすい司法の基盤整備の観点からは、支部において労働審判を実施する必要性は明らかであった。
4 この度、最高裁判所が、長野地方裁判所松本支部を含む3支部で新たに労働審判の取扱いを開始する準備を開始したことは、身近で利用しやすい司法の実現に沿うものであり、歓迎するものである。当会としても、長野地方裁判所松本支部において、平成29年4月から労働審判が円滑に実施することが可能となるように協力する所存である。
5 しかしながら、本来、個々の労働者と事業主との間に生じる民事に関する紛争は、全ての支部管内において生じるものであり、その解決に当たっては、身近な裁判所支部において解決すべきものである。今回、労働審判の実施予定支部として長野地方裁判所松本支部を含む3支部が追加されたが、全国的にも労働審判を扱える支部は、従前から労働審判を扱っている2支部と合わせてもわずか5支部にすぎない。長野地方裁判所には、松本支部のほかに、上田支部、佐久支部、諏訪支部、伊那支部及び飯田支部があるが、これらの支部において、労働審判が実施される目処は立っていない。
6 よって、当会は、地域における司法制度が「真の意味で住民にとってより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」となるように、労働審判の実施支部のさらなる拡大を求めるものである。以 上
子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明
1 県は、平成25年5月に「子どもを性被害等から守る専門委員会」を設置して、子どもを性被害から守る施策の検討を始め、平成26年3月同専門委員会による報告書の提出、同年8月長野県青少年育成県民会議による報告書の提出を経て、同年11月「子どもを性被害から守るための県の取り組み」をとりまとめた。そして、条例制定の是非について建設的な議論をする材料としての条例のモデルを作成するとして、平成27年2月「子どもを性被害から守るための条例のモデル検討会」を設置し、以後6回の会議を経て、同年9月同検討会より「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書」(以下、「条例モデル報告書」という。)が提出された。これをもとに、県は、各地で県民や関係団体との意見交換を実施し、本月1日条例モデル報告書に基づく条例の制定が必要との基本的方針を示した。
2 子どもを性被害から守ることの必要性、重要性については論を俟たない。性被害は子どもの尊厳を傷つけ、その健全な成長発達を著しく阻害するものであり、子どもが誰一人として性被害に苦しむことのないよう全ての大人が全力で取り組むべきことに異論はないと思われる。
昨今のインターネットの進展により、子どもは親を始めとした周囲の大人の目の届かないところで外の世界と繋がることが容易になった。様々な情報に触れ、世界が格段に広がることが子どもの成長発達に資する側面がある一方、悪意を持った大人と直接繋がってしまう危険を孕んでいる。
性被害という結果の深刻さと現代の子どもを巡る社会環境を考えると、子どもを性被害から守る取り組みは急務であり、県下一丸となって必要十分な施策を実施していくことが求められる。
3 その意味で、県が子どもを性被害から守るために種々の施策を検討し、その条例化を模索していること自体は評価に値するものである。
予防の観点で最も重要なのは、子どもに対する性教育、情報リテラシー教育である。ここでいう性教育とは、子どもの性的な自己決定の力を育むための教育と捉えるべきである。その内容は、人間の体や性のしくみを科学的に理解することにとどまらず、性が人間の営みの根源であり人間の存立にとっていかに重要であるかを知り、自己や他者の性、生命を大切にする気持ちを育むこと、性犯罪や性産業、インターネットの世界の実態など性をめぐる社会的事象について考え学ぶことをも含むものである。また、性は相手の存在を前提とするものであるから、相手との関係を形成する力も必要である。相手に対して自分の思いを伝え、相手の思いを受け止めて自分の考えや行動を変えること、相手と対等の立場で、受け入れるか断るかを主体的に判断できることも必要である。その前提には、子ども自身に十分な自尊感情や自己肯定感が備わっていなくてはならない。
平成27年3月26日付で長野県警察本部が発表した「平成25年・26年中における17事例説明資料」(現行法で対処できなかったとされる性被害の事例。以下、「17事例」という。)には、このような教育が明らかに不足している子どもの現状が浮き彫りにされている。SNS越しの相談相手が、もしかしたら自分が想定している人格とはまったく異なる人格であるかもしれないという可能性に思い至らない。そのような相手と2人だけで会い、密室という状況下に身を置くことについて事前にその危険性を感じとることもない。性的な誘いに対して、家に帰れないとか相談相手を失うといった理由で、安易に応じてしまう。あまりに無防備で、流されやすく、性の大切さに無頓着な子どもの姿がそこにある。このような子どもが現実社会で生きていくための成長発達を遂げるためには、前述の性教育や情報教育が不可欠である。
もちろん、能力等で教育の効果が発揮されない子どもや、家庭環境等教育とは別の問題を抱える子どもがいる。教育により全てが解決するというわけではない。
しかし、前者については、子どもの特性に応じたきめ細やかな教育を施すことは可能である。また、後者についても、教育の必要性自体を否定するものではない。この点、17事例の多くについて、その背景には、子どもを取り巻く環境にも問題があるように見受けられる。適切な居場所や相談相手がおらず、周囲の大人によるサポートが欠如している。突き詰めれば、周囲の大人が、子どもの主体性を認めその成長発達を支援し見守っていくという子ども観に立っていないことが原因と考えられるところであり、そのような大人の意識改革が本来的には必要というべきである。子どもに対しては、このような子ども観に立ち、子どもが主体的に性的自己決定をできるようその力を育む教育を十分に施すべきであり、それこそが大人の責務である。
このような教育は、子ども自身が性被害に遭わないためだけでなく、将来、加害者にならないためにも重要である。加害者に対する罰則を設けるということは、表面的な効果はあるのかもしれないが、加害者自身の性に対する考え方が変わらない限り、被害はなかなか減らないと考える。子どもは将来の大人である。現在問題とされている性被害の予防には、このような教育こそが最も効果的な方策であると考える。
現状行われている性教育は、上記の意味で内容的に不十分であり、また、発達段階のより早い時期からなされる必要がある。例えば、CAP教育は、自己肯定感を高める効果があり、かつ生きた人権教育でもあり、性的自己決定力を育む上でも極めて有効である。
県は、このような教育を小学生以上の全ての子どもに向けて実施するよう働きかけるなど、より踏み込んだ施策を講じるべきである。県は、条例の規定として、以上述べてきた性教育・情報教育の必要性を明示し、具体的な内容を掲げ、その実施を宣言するべきである。
4 被害者支援(ケア)も極めて重要である。
子どもを性被害等から守る専門委員会の第5回会議において、過去に性被害に遭った女性は、周囲の大人の無理解もあり、長年苦しんできた心情を吐露した。周囲の大人が当時この女性に対して適切な支援をしていれば、現在の心境も違ったのではないかと考えられるところである。
性被害に遭った子どもに対しては、あらゆる側面から支援が必要である。県が現在検討している性被害者のためのワンストップ支援センターを実効性あるものにしなくてはならない。また、司法面接の手法を導入するなど、二次被害の防止に努めることも重要である。
5 他方、規制項目のうち、威迫等による性行為等の禁止として罰則を制定することについては、相当慎重な検討を要する問題であり、安易に賛成できない。
当会は、平成25年7月16日に「淫行処罰条例の制定に反対する会長声明」を、同年12月14日に「淫行処罰条例の制定に反対する意見書」をそれぞれ発出し、安易な刑罰法規の制定に警鐘を鳴らしてきた。
条例モデル報告書に明記されている処罰規定「何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて、性行為又はわいせつな行為を行ってはならない」(罰則2年以上の懲役又は100万円以下の罰金)は、従来の淫行概念を排除した限定的な規定であり、その問題性は相当程度払拭されている。
しかしながら、捜査機関が真摯な恋愛感情による行為か否かの判断を行うことには変わりなく、捜査機関がそれを適切に行うことができるのかは疑問であり、過度に広汎な規制につながるおそれを否定できない。特に「困惑に乗じて」という類型については、行為者に積極的な働きかけの言動がなくても、被害者の「困っていた」という申告だけで処罰の対象とされる可能性がある。
性や恋愛は人間の根源的な営みであり、その有り様は人それぞれであって、個人の高度なプライバシーに属し、その選択と自己決定に任されるべきものである。そこに踏み込むおそれのある刑事罰であることに鑑み、謙抑性を重視し、必要性及び相当性の判断は厳格になされなければならない。
また、現在、法制審議会の刑事法(性犯罪関係)部会において性犯罪に係る刑法改正の議論がなされており、その中で、地位・関係性を利用した性的行為に対する罪の新設等が検討されている。これにより、例えば知的障害を有する子どもの監護者による性被害に対する処罰はカバーされる可能性がある。本処罰規定の必要性に関わる議論であり、この議論の経過も踏まえる必要がある。
子どもを性被害から守るための条例に淫行処罰規定を盛り込むべきかどうかについては、賛否両論がある。県は、拙速にならず、相当に慎重な検討のうえ、県民全体の十分な議論を経て、その是非を判断するべきである。
6 深夜外出の制限については、保護者の委託等正当な理由なく深夜に子どもを連れ出す等の行為を禁止することの必要性は理解しうる。
しかし、それ以外の規定は、子どもが深夜に外出することそれ自体を原則として認めないという前提に立つものであり、子どもの行動の自由に対する制約の度合いが大きい。当該子どもの帰宅できない事情を一切考慮することなく、一律に帰宅を促すというのも問題である。これらについても、慎重な検討が必要である。
7 その他、条例モデルに示された相談体制の充実、保護者を含む大人に対する啓発活動、人材育成の取組に対する支援は、いずれも重要な取り組みであり、着実に実施される必要がある。また、県民運動の活性化の方策も欠かすことはできない。
これらの諸施策及び子どもに対する教育、被害者支援については、施策の継続性を確保するという観点から、全てを条例化すべきである。間違っても、規制項目のみを条例化して終わりということはあってはならない。
8 以上のとおり、当会は、県に対し、規制項目については慎重な検討を求めつつ、子どもを性被害から守るための教育、被害者支援その他の施策については条例を制定して積極的に推進することを求める。
平成28年2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受け,民法の差別的規定の早期改正等を求める会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会 長 髙 橋 聖 明
1 最高裁判所大法廷は,平成27年12月16日,女性のみに6ヶ月間の再婚禁止期間を定める民法第733条について,「100日超過部分」は「過剰な制約」として憲法に違反している旨判示する一方,夫婦同氏を強制する民法第750条については同制度が合理性を欠くとは認められないとして憲法に違反しないとの判断を下した。
2 当会は,これまで平成22年4月30日付「民法(家族法)の早期改正を求める会長声明」において表明し,上記両規定の改正を求めてきた。この度の民法第733条違憲判決は,当会の主張に沿うものであり,その限りで妥当なものと評価することができる。しかしながら,下記の通り,100日以内を合憲とした点は,依然合理的な制約とは言えず反対である。また,夫婦同氏制を規定する民法第750条につき合理性を欠くとは言えず合憲とした点も,合理的な理由によるものとは評価できず,反対である。
3
(1)民法第733条につき,多数意見は,婚姻をすることについての自由は憲法第24条1項の趣旨に照らし,十分に保障されるべきものなので,本件規定が再婚をする要件に関し男女の区別をしていることに対しては,立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が立法目的との関連において合理性を有するものであるか否かという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当であるとした上で,本件規定の立法目的は,嫡出子について出産の時期を起点とする明確で画一的な基準から父親を推定し,父子関係を早期に定めて子の身分関係の法的安定を図ることにあって合理性が認められるが,かかる立法目的を実現し父子関係の重複を回避するためには,計算上100日の再婚禁止期間を設ければ足り,それを超える部分については上記立法目的との関連において合理性を欠くものである,と判断している。
しかしながら,婚姻の自由は,家族の形成・維持に係わる事柄として自己決定権の中核をなすものであるから,かかる自由に対する制限や区別に対する合憲性については,立法目的の合理性や手段の合理的関連性に関しより厳格な審査を行う必要がある。本件規定に関しては,仮に,上記多数意見が指摘するような立法目的の合理性が認められるとしても,父性推定の重複回避のために再婚禁止期間を設けなければならない場合は極めて例外的である上,父子関係については,立法当時とは異なりDNA検査により極めて正確に確定することができるようになっているのであるから,そのような科学技術の発達の状況を踏まえれば,上記目的を達成するために再婚禁止期間を設ける必要性・合理性は既に失われているものと言わざるを得ない。
(2)民法第750条につき,多数意見は,氏名は,人が個人として尊重される基礎であり,個人の人格の象徴であって人格権の一内容を構成するものであるが,氏に関しては,夫婦やその子が同一の氏を称することにより,社会の構成要素である家族の呼称として一体性を確保する意義があり,氏が婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることはその性質上当然に予定されているのであるから,婚姻の際に氏の変更を強制されない自由は人格権の一内容とまでは言えないとし,夫婦が同一の氏を称することは,家族という一つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し識別する機能を有しており,子においても夫婦の共同親権に服する嫡出子であることを示すことができ,いずれの親とも氏を同じくすることによる利益も享受しやすくなること,他方,夫婦同氏制といっても婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではないから,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度とは言えない,と判断している。
しかしながら,氏は、家族(夫婦と子という身分関係)の一体性を確保するためにあるだけでなく,個人が自己実現を図るためのアイデンティティとして,社会において個人の尊厳の基礎である個人識別機能を実現するものであって,このような氏を尊重しその変更を強制されない権利は,重要な人格権を構成するものと言わなければならない。殊に,女性の社会進出が進んでいる現代社会においては,この意義はより一層尊重されなければならないと確信する。氏が家族という社会の基本的な集団単位の呼称であり,家族を構成する一員であることを公示し識別する機能があるとしても,夫婦のあり方や家族の形態の多様化の下に,一片の例外も許さずに一律に同氏を強制しようとすることには合理性が存するとは到底言えない。又,通称使用についても,あくまで便宜的かつ例外的な対処であり,公的文書には用いることができない等極めて不安定・不確実なものであるから,夫婦同氏を認める合理的な根拠には到底なり得ない。
4 日本弁護士連合会及び他の連合会並びに当会をはじめとする多くの弁護士会においてこれまで再三再四主張してきたとおり,民法第750条は,憲法第13条,14条及び24条に反するのみならず,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」にも反するものである。また,我が国の法制審議会からの法改正の答申及び国連の女性差別撤廃委員会から再三の法改正勧告があったにもかかわらず,「家族の一体感が損なわれる」などの抽象的な理由で,国会は現在まで頑なに法改正を拒否してきた状況がある。
5 以上の状況を踏まえ,当会は,国に対し,改めて民法第733条の廃止及び同第750条の改正を速やかに実施するよう強く求めるものである。以 上
司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2016年(平成28年)1月20日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会をはじめ,当会を含む全国の各弁護士会に対して,多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられているが,今般,賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数の過半数を超えた。メッセージを寄せていただいた国会議員の皆様に心より感謝申し上げる。
司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであり,これを担う法曹になる司法修習生は,公費をもって養成するべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた。しかし,この給費制が、2011年(平成23年)11月から貸与制(修習期間中に費用が必要な修習生に対して修習資金を貸与する制度)に変更された。この修習資金の債務に加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている修習生も多く,その合計額が多額となる者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが指摘されている。
こうした事態の中で,昨年6月30日に政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」とされた。これは,それまでの貸与制を前提とする支援から,給費型の経済的支援の実現に向けた大きな一歩と評価することができる。これは,賛同いただいた国会議員,市民,諸団体の皆様との運動の成果である。
法務省,最高裁判所等の関係機関は,有為の人材が経済的な理由によって法曹となることを断念することがないよう,司法修習生に対する経済的支援策について直ちに検討を開始し,司法修習生が安心して修習に専念できるような給付型の経済的支援(修習手当の創設)を実現すべきである。
当会は,国に対し,国会議員の賛同メッセージが過半数を超えたことを踏まえ,早期に給付型の経済的支援(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の改正を求めるものである。以 上
消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明
016年(平成28年)1月9日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
政府は,「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置して,政府関係機関の地方移転を検討しているところ,現在,徳島県からの提案を受け,消費者庁,国民生活センター(相模原事務所を含む全体),消費者委員会を同県に移転することが具体的に審議されている。
しかしながら,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会の地方移転は,これら機関の機能を低下させ,我が国の消費者行政の推進を阻害することになるから,当会は,これらの地方移転に強く反対する。
有識者会議は,道府県等からの提案のうち「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」や「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」に係る提案,「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」については受け付けないものとしているが,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会の地方移転は,受け付けられない提案の典型である。
すなわち,消費者庁は,食品偽装問題や中国産冷凍餃子への毒物混入事件などの重大な消費者問題の発生を受け,従来の消費者行政が各省庁による縦割りであったことによる弊害が問題視された結果,消費者行政を一元化し,安全安心な市場の確保を図るため,政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担うべき機関として創設され,重大事故の発生時には,官邸と一体となった緊急対応を行うこととされたのである。現に,一連の偽装表示事案においては官房長官の下で,冷凍食品からの農薬検出事案においては担当大臣の下で,関係省庁と連携しその司令塔となって速やかに対応しているところである。
消費者問題は国民生活のあらゆる場面に関わることから,消費者庁は,政府全体の消費者行政にかかる消費者基本計画の策定,消費者被害防止のための消費者安全法に基づく他省庁が所管する法律の権限発動の働きかけ,所管法・所管大臣がない隙間事案への対応,新規立法や法改正の作業など,日常的にほぼ全ての政府関係機関と連携し一体となった業務を行っている。今後,消費者庁が地方移転することになれば,その業務の実効的な遂行は阻害されかねない。
また,国民生活センターは,全国の消費生活相談情報を集約・分析し,消費者庁と連携して,諸問題を検討して関連省庁に意見を述べ,地方消費者行政を支援し,消費者・事業者・地方自治体・各省庁に情報提供を行っている。これを切り離して地方移転することは,消費者行政全体の機能の低下をもたらすことになる。
さらに,消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか,任意のテーマを調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を有している。他省庁からの諮問を受ける場合も建議等の監視機能を行使する場合も,他省庁や関連事業者,事業者団体からの事情聴取や協議が頻繁に行われており,地方移転となれば他省庁との関係は希薄化し大幅な機能低下が懸念される。
以上,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会は,いずれも,有識者会議の示す地方移転の提案を受け付けない機関の典型であり,これらの機関が地方に移転すれば我が国の消費者行政の推進を大きく阻害することは明らかであるから,当会は,これらの地方移転に強く反対するものである。以上
面会室内での写真撮影等に関する会長声明
平成27年11月10日
長野県弁護士会会長 髙 橋 聖 明
第1 意見の趣旨
刑事収容施設において,弁護人による写真撮影等について不当な制約がなされることのないよう強く要請する。
第2 意見の理由
1 接見交通権は,憲法第34条が保障する被疑者・被告人が弁護人から援助を受ける権利の中核であり,刑事手続上最も重要な権利である。このような権利が保障されてこそ,弁護人は,被告人等の刑事手続上の諸権利を実現すべく,被告人にとって,誠実にして最善の弁護活動をすることができ,ひいては,適正な刑事裁判が実現することができる。
2 弁護人が,東京拘置所で勾留中の被告人と面会室で接見していた際に,被告人の様子を写真撮影したところ,拘置所職員がこれを制止し,接見を中断させた事件があった。
この事件に関して,拘置所職員の行為が接見交通権や弁護活動の自由を侵害するとして国家賠償を求めたところ,平成26年11月7日,第一審の東京地方裁判所は,接見交通権の重要性から,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)第117条,第113条第1項1号ロ及び第2項に基づき弁護人の接見を中止することができるのは,具体的事情の下,未決拘禁者の逃亡・罪証隠滅のおそれ,その他の刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られるとして,拘置所職員による撮影制止・接見中止行為は違法であり,国家賠償を認める判決を言い渡した。
3 ところが,平成27年7月9日,その控訴審である東京高等裁判所第2民事部は,原判決を破棄し,請求を棄却するとの判決を言い渡した。
同判決は,まず,写真撮影等の禁止について,刑事訴訟法39条1項にいう「接見」は,「面会」と同義に解されること,刑事訴訟法が制定された昭和23年7月10日当時,カメラやビデオ等の撮影機器は普及しておらず,弁護人等が被告人を写真撮影したり動画撮影したりすることは想定されていなかったことなどを理由に,接見時の様子や結果を弁護人が音声や画像等に記録化することは「接見」には本来的に含まれないと判断した。
その上で,情報の記録化のための行為のうち,メモ以外の行為が許されるか否かは,記録化の目的及び必要性,その態様の相当性,立会人なくして行えることからくる危険性等の諸事情を考慮して検討されるべきであり,広範囲な制約が及ぶとしながら,メモ以外の情報の記録化をするためには,刑事訴訟法第179条の証拠保全を行えば足りるから,弁護活動を不当に制約することにならないとした。
そして,接見を中止させたことについては,「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」(刑事収容施設法第117条,第113条第1項1号ロ及び第2項)があれば,弁護人の接見に対して,その行為の制止,面会の一時停止及び終了などの措置をとることができ,違法となるものではないとした。
4 周知のとおり,科学技術は飛躍的な発展を遂げており,市民の生活環境は大きく変化しているのであって,それに即した刑事訴訟法の解釈・適用がなされるべきであることはいうまでもない。しかるに,前記東京高裁判決は,あくまで刑事訴訟法制定当時の事情にこだわり接見交通権の内容を限定的に解釈するものであって,接見交通権が憲法に由来する権利であることを否定するに等しい。
接見時の写真撮影や録音録画は,弁護人のメモやスケッチに準じるものであることはもちろん,主観を差し挟む余地のない客観的な証拠の保全方法であることに鑑みれば,メモやスケッチ以上に重要な手段と位置づけることができる。
したがって,弁護人が弁護活動の一環として接見室内で写真撮影等を行うことは,具体的な事情の下において逃亡のおそれ等が生ずる相当の蓋然性がない限り,弁護人の弁護活動の一環として当然に認められるべきものである。
5 前記東京高裁判決を契機に,今後,刑事収容施設において,写真撮影等をすることが不当に制約され,弁護人の弁護活動に支障が生じ,ひいては,被疑者・被告人の防御権の保障が損なわれる結果となることが憂慮される。
そこで,当会は,刑事収容施設において,弁護人による写真撮影等について不当な制約がなされることのないよう強く要請するものである。以 上
安全保障関連法案の採決強行に抗議する会長談話
平成27年9月25日
長野県弁護士会会長 髙 橋 聖 明
9月19日、参議院本会議において、安全保障関連法案の採決が強行された。
当会は、この間、再三、本法案の制定に強く反対することを表明してきた。同様に、国内全ての各地の弁護士会や日本弁護士連合会も反対の意見表明を行ってきた。
その主たる理由は、本法案が、第1に、「存立危機事態」の名のもとに集団的自衛権の行使を容認し、わが国が攻撃を受けていないにもかかわらず、自衛隊が海外で戦闘行為・武力行使を行いうるとしているからである。第2に、「重要影響事態」「国際平和支援」の名のもとに、自衛隊が世界中どこでも地理的制限なしに広範に米国軍その他の外国軍の「後方支援」を行うことができるようにするものであって、いかなる事態に対しても「切れ目のない」対応を可能にするとして、なし崩し的に自衛隊が戦闘行為に参加することを認めるものであり、自衛隊の武力行使や集団的自衛権行使への道を一層広げるものであるからである。これらは、いずれも憲法の定める恒久平和主義に反すると言わなければならない。
さらに、本法案の国会審議が始まってからは、衆議院憲法審査会における3名の参考人をはじめとする多くの憲法学者、歴代の内閣法制局長官、さらには元最高裁長官を含む最高裁判事経験者からも、本法案の違憲性が指摘されるに至った。
これに対し、国会において、政府による十分な説明がなされたとは到底言えない状況である。この間の世論調査によれば、国民の多数がこの法案に反対しており、また少なくともこの国会での成立には圧倒的多数が反対している。このことは、本法案に対する国民の理解が深まらなかったことを示している。
それにもかかわらず、国会での議席が多数であることに依拠し、本法律を成立させることは、国民の意思に反するものであって、「多数者の専制」とも言うべき暴挙と言わなければならない。
当会は、このように、十分な審議も尽くさないまま、参議院が採決を強行したことは、立憲民主主義国家として許されないことであるとの立場から、強く抗議するものである。
しかし、忘れてはならないことは、本法律は、可決成立したとしても、いずれも憲法違反であって、国の最高法規である憲法に反する法律、命令、条例、国務に関するその他の行為は、効力を有しない(日本国憲法98条)ということである。
今後、政府が本法律に基づく様々な措置を実行すれば、それらは全て憲法に反する無効な行為であり、国民に重大な人権侵害を生ぜしめるおそれがある。
日本国憲法の下で制定された弁護士法は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」とし、その使命に基き、「誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」としている(弁護士法1条)。
当会は、この使命を果たすべく、本法律の条項の適用及び運用に反対し、さらに廃止に向けた取組を進めていくとともに、本法律の施行によって生ずるであろう人権侵害の救済の取組も行っていく決意を表明するものである。以 上
特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
2015年(平成27年)8月8日
長野県弁護士会 会 長 髙 橋 聖 明
第1 意見の趣旨
特定商取引に関する法律を改正し、訪問販売及び電話勧誘販売について、事前拒否者への勧誘禁止制度(訪問販売について「Do?Not?Knock制度」、電話勧誘販売について「Do?not?Call制度」)を導入することを求める。
第2 意見の理由
1 現在、内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会では、特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」という。)の改正へ向けた検討が行われており、訪問販売及び電話勧誘販売について、事前拒否者への勧誘を禁止する制度の是非が議論されている。
2 現行の特定商取引法では、訪問勧誘・電話勧誘を受けた消費者が、勧誘にかかる契約を締結しない意思表明をした場合に、継続した勧誘や再勧誘をする行為のみが禁止されている(特定商取引法第3条の2第2項、第17条。継続勧誘・再勧誘の禁止)。
他方、消費者が、例えば「訪問勧誘お断り」のステッカーを玄関ドア外側に貼るなどして、予め、包括的に勧誘を拒絶する意思を表示していても、このような行為は、前記勧誘にかかる契約を締結しない意思表明とは認められていない(消費者庁「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針?再勧誘禁止規定に関する指針?」)。
すなわち、消費者は、現行法上、訪問勧誘・電話勧誘を事前に拒絶・回避する手段を有しておらず、事業者による突然の訪問や電話にその都度応答した上で、それぞれの事業者に対し、個別に拒否の意思を伝えなければならない現状にある。
しかし、これでは、望みもしない事業者からの勧誘に伴う迷惑自体を免れることができず、生活の平穏やプライバシーを十分に確保することができない。
また、いったん事業者による巧みな勧誘が開始されてしまうと、消費者の側でこれを拒絶することは容易でなく、消費者が不本意な契約や不当な契約を締結させられる事例も多発している。
3 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO?NET)のデータによれば、2008年の特定商取引法改正以降の相談件数は、訪問販売全体では近年やや減少傾向にあるが、家庭訪販については増加傾向にあり、電話勧誘販売についても増加傾向にある(内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(第4回)における消費者庁からの配付資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」)。
さらに、60歳代以上の高齢者が契約当事者である相談の割合は、訪問販売で53.6%、電話勧誘販売で70.8%を占めており、店舗販売や通信販売と比較して、極めて高い割合を示している(国民生活センター「2013年度のPIO?NETにみる消費生活相談の概要」)。長野県内でも、同様の傾向である(長野県「平成26年度の消費生活相談の状況」)。
高齢者は、自宅にいる機会が多く、認知症等により判断力が低下している場合が少なくないところ、上記のデータは、そのような高齢者を狙って、不意打ち的な訪問勧誘・電話勧誘が広く行われている実態を表していると考えられる。
今後も、高齢者の独居あるいは夫婦のみの世帯が増加していくことが見込まれる中、現行の特定商取引法で定める継続勧誘・再勧誘の禁止の規制だけでは、訪問勧誘・電話勧誘による消費者被害の発生を十分に防止できないことは明らかである。
4 そもそも、事業者からの勧誘を受けるかどうかは、消費者の自己決定権の下に位置づけられるものである(「消費者基本計画」2015年3月24日閣議決定)。すなわち、事業者の営業活動において、「勧誘を望まない」という消費者の意思は当然尊重されなければならない。
とりわけ、近時の調査によれば、消費者の96%以上が訪問勧誘・電話勧誘を「全く受けたくない」と回答しているのである(消費者庁「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」2015年5月)。
このような現状をみれば、予め勧誘を拒否する意思を表明した消費者に対し、事業者があえて勧誘することを認める正当性・合理性はまったくないといわざるをえない。
5 以上より、現行の特定商取引法の規制だけでは、消費者被害の発生を十分に防止できず、また、消費者の生活の平穏等を確保することもできないことから、特定商取引法を改正し、事前拒否者への勧誘禁止制度を導入することが必要である。
具体的には、訪問販売については、訪問勧誘を望まない消費者が、勧誘を受ける意思がない旨を表示したステッカーを門戸に表示した場合には、事業者は勧誘を行ってはならないとする制度(Do?Not?Knock制度)を導入すべきである。
この点、事前拒否の方式については、ステッカー方式の他に、登録簿への登録による方式もあるが、既に多くの自治体においてステッカーを配布する取組が重ねられていること、登録簿の管理のためコストがかかることから、前者の方式によるべきである。
また、電話勧誘販売については、電話勧誘を受けたくない消費者が電話番号の登録を行い、登録者への電話勧誘を法的に禁止する制度(Do?not?Call制度)を導入すべきである。
この制度における事業者による登録者の確認方法については、事業者が保有していない情報を新たに取得することを防ぐため、いわゆるリスト洗浄方式(事業者が電話番号等のリストを登録機関に開示し、登録機関がそこに登録者の情報があるかを確認する方式)によるべきである。
これらの制度は、既に欧米各国、オーストラリア、韓国等の諸国で採用され、実績を上げているところであり、「Do?Not?Knock制度」に関しては、日本国内でも条例を設けている自治体があり、これに法律上の根拠を与え、全国に拡大する意味を有するものである。
6 これに対し、訪問販売及び電話勧誘販売を行う事業者から、「営業の自由」に対する過剰な制約であるとの反対意見が出されている。
しかし、営業の自由も、人が嫌がることを行うことを正当化するものではありえない。事前拒否者に対する勧誘は、住居等の管理権ないしは私生活の平穏を本人の意に反して侵害する行為に他ならず、「営業の自由」として保障される行為とはいえないものである。
また、事前拒否者への勧誘禁止制度は、営業活動についての時・場所・方法の規制にすぎない。すなわち、同制度の下であっても、事業者は、消費者から承諾を得た勧誘や、勧誘を拒絶してない者に対する勧誘を行うことはできるし、訪問・電話以外の方法による勧誘を行うこともできる。
さらに、電子メール広告については事前の同意がある場合のみ送信できるというオプト・イン方式を採用しているが(特定商取引法第12条の3、同第36条の3,同第54条の3、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第3条)、これと比較してもより緩やかであり、管理者の管理権や私生活の平穏を求める権利を保護するための最小限の規制といってよいものである。
したがって、事前拒否者への勧誘禁止制度は、営業の自由を過剰に制約するものではない。
7 以上のとおりであるから、当会は、特定商取引法を改正し、訪問販売及び電話勧誘販売について、事前拒否者への勧誘禁止制度を導入することを強く求める。以 上