平成22年06月01日 世田谷ビラ配布国家公務員法違反事件に関する会長声明
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平成22年5月31日会長声明2010年06月01日
世田谷ビラ配布国家公務員法違反事件に関する会長声明
東京高等裁判所第6刑事部(出田孝一裁判長)は、2010年5月13日、厚生労働省課長補佐が、休暇日に、職場及び自宅から離れた場所の警視庁職員住宅の集合郵便受けに政党機関紙を投函したという国家公務員法違反被告事件について、被告人の控訴を棄却し、第一審どおり有罪判決を言い渡した。本判決は、1974年の猿払事件最高裁大法廷判決を踏襲し、国家公務員の政治的活動を包括的かつ一律に禁止する罰則規定の合憲性を認めた。さらに、その罰則規定の適用において、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、勤務時間外に職場とは無関係な場所で行われる政治的行為であっても、それが累積していく場合には、行政の中立的運営を害し、党派的な政治的介入や干渉を招くおそれが発生するなど、行政組織に弊害が生じるとして、罰則規定を適用することが憲法21条1項、31条などに反しないとした。国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月、日本政府に対し、政府を批判するビラを郵便受けに配布したことによって公務員が逮捕・起訴されたことに懸念を示し、表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである旨の勧告をした。当会は、このことなどを踏まえ、表現の自由が民主主義社会にとって不可欠な人権であり、それに対する規制は必要最小限度でなければならないことを訴え続けてきた。本年3月29日、本件と同種事案(いわゆる堀越事件)において、東京高等裁判所第5刑事部(中山隆夫裁判長)は、社会保険事務所職員が休日に政党機関紙を郵便受けに投函した行為が国家公務員法違反にあたるとして有罪判決を下した一審判決を破棄し、無罪判決を言い渡した。この判決は、当該職員の行為は、行政の中立的運営やそれに対する国民の信頼等を抽象的にも侵害するものとは常識的に考えられず、罰則規定を適用することは国家公務員の政治的活動の自由に必要やむをえない限度を超えた制約を加えるものであって違憲としたものである。これに対し、本判決は、表現の自由の重要性が深まりつつある時代の流れに逆行するものであり、猿払事件最高裁判決を安易に踏襲し、政治的表現活動について、行政の中立的運営に対する国民的信頼の侵害の有無を個別具体的に検討することなく、形式的かつ硬直な判断に終始するものであって、その問題性は極めて大きい。よって、当会は、改めて、最高裁判所をはじめとする各裁判所に対し、表現の自由に関する国際水準に合致する判断を示すよう求めるとともに、警察・検察に対して、今後表現の自由が民主主義社会にとって不可欠な人権であることを十分に踏まえた慎重な捜査・判断がなされることを求め、さらに政府・国会に対して、国家公務員法の政治的活動に対する不合理な制限を撤廃することを求めるものである。
2010(平成22)年5月31日仙台弁護士会 会長 新 里 宏 二
平成25年02月23日 個人保証の原則的な廃止等を求める決議
2013年(平成25年)2月23日仙台弁護士会 会 長 髙橋春男
http://senben.org/archives/4373http://senben.org/archives/4373
平成25年02月23日 法曹の質を維持するために司法試験合格者数の減員を求める決議http://senben.org/archives/4384
司法制度改革推進計画(2002年3月19日閣議決定 以下「推進計画」という。)は,司法試験合格者数を年間3000人程度とすることを目指すとした。これにより,近年,司法試験合格者数が急増し,結果として,弁護士人口(登録者数)も,2003年の段階では約1万9500人であったところ,2012年3月現在で約3万2000人と,急増している。しかし,司法試験合格者数が年間2000人程度の現状でも,司法修習修了時点で大量の弁護士未登録者が出るなど弁護士の就職難が顕著であり,また弁護士登録した場合でも,就職難に起因する即時独立弁護士の増加などによりOJT(先輩法曹の指導を受けながらの訓練)不足の事態が生じている。従来であれば弁護士は就職後もOJTを受けることで仕事の質を高めていくところ,司法試験合格者の急増は上記の通りその機会を奪っており,今後弁護士の平均的な質が低下することが懸念される。また,就職難を初めとする様々な要因で法曹資格の魅力が低下し,法曹志願者数(適性試験受験者数)も著しい減少を見せており,さらには有為な人材が法曹界を目指さなくなっているのではないかとの懸念も生じている。これらによって,将来的に法科大学院の教育機能や司法試験の選抜機能が低下し,長期的には法曹の質がより一層低下する可能性が生じている。このまま司法試験合格者数を年間2000人程度で維持すれば,供給過剰の状況が進行し,さらなる就職難とOJT不足,法曹志願者の減少,そしてそれらの要因が相まって,より一層深刻な,法曹の質の低下をもたらすことになる。そうなれば,依頼者の権利擁護とそれを通した社会正義の実現という,弁護士の基本的使命が果たされないという結果にも繋がりかねない。需要に関しても,日弁連や各弁護士会の需要拡大の努力にもかかわらず,企業・地方自治体などの組織内弁護士の活躍分野は,上記推進計画の当時に期待されていたほどには拡大していない。裁判所の係属事件数も増えていない。弁護士人口の大幅増の論拠の一つであった司法過疎問題については,日弁連,各弁護士会の努力により弁護士ゼロ地域が消滅し,問題が解消されつつある。また,日弁連及び各弁護士会のこれまでの施策により,被疑者国選,裁判員裁判,専門訴訟等に対応する弁護士は順調に確保されており, 法曹人口を現在のペースで増加させる必要はない。就職難の解消や法曹志願者数の回復には,ほかにも取り組むべき方策がありうる。しかし,当会は,司法試験合格者数の著しい増加がこれらの問題の主たる原因であると考え,政府に対し,法曹の質を維持するために,司法試験の合格者数をまずは速やかに,現状の年間2000人程度から年間1500人程度とすることを求める。また,推進計画における司法試験合格者数を年間3000人程度とするとの目標を直ちに撤回することを求める。そして,さらなる合格者数の減員については,需要等の調査・検討を行った上で対処することを求める。以上の通り決議する。
2013年(平成25年)2月23日仙台弁護士会 会長 髙 橋 春 男
平成25年02月23日 「秘密保全法」制定に反対する決議
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1 2011年8月8日に秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議がとりまとめた報告書(以下「有識者会議報告書」という。)に基づき作成されている「秘密保全法」法案は,2012年3月にはほぼ完成している状況にある。
2 国民主権(憲法前文,1条)の下においては,国政に関する情報は,本来,主権者である国民が共有すべきものであり,国民の知る権利の保障は,国民主権の前提条件である。しかし,有識者会議報告書が想定している「秘密保全法」は,以下に述べるとおり,これまで以上に,国政に関する多くの重要情報を国民から隠すことを容易にする危険があり,国民主権の理念に反し,知る権利や取材・報道の自由,さらにはプライバシー権等の国民の基本的人権を侵害する危険が極めて高いものである。
(1)第一に,「特別秘密」の範囲がはなはだ不明確である。
有識者会議報告書は,保護される「特別秘密」の範囲を,「国の安全」,「外交」,「公共の安全及び秩序の維持」の3分野のうち国の存立にとって特に重要な情報としている。しかし,有識者会議報告書の考え方では,その範囲の特定方法が極めて曖昧である。特に,「公共の安全及び秩序の維持」にかかわるものを「特別秘密」に含めることは,「特別秘密」を指定するのが当該行政機関とされていることからすると,重要な国家情報に関して,恣意的な情報統制・情報隠しが,これまでよりも容易にできるようになるおそれがある。
(2)第二に,処罰範囲が広範で刑罰が重罰化している。
「特別秘密」を取り扱っている者が外部に情報漏えいをすると,有識者会議報告書によれば,懲役5年以下もしくは懲役10年以下の刑を受けることになる。しかし,「特別秘密」の範囲が極めて広範囲に及ぶことや行政機関の恣意的な秘密指定のおそれを前提にすると,実質秘とはいえないものまで「特別秘密」とされる危険がある。そのため,例えば国家の違憲違法な行為に関する情報を内部告発しようとしても,それが「特別秘密」と指定されていれば,公益通報制度で保護されるはずの内部告発者が,漏えい罪により犯罪者として処罰されるおそれすらある。また,「特別秘密」にアクセスしようとする記者や市民などが,それが「特別秘密」と指定されていることを知ることができないにもかかわらず,特定取得行為,独立教唆,共謀又は煽動により処罰されるおそれもある。
(3)第三に,適性評価制度はプライバシーを著しく侵害する危険がある。
適性評価制度は,特別秘密取扱候補者本人のプライバシー情報はもとより,当該人物の行動に影響を与え得る者のプライバシー情報までをも調査の対象としている。そして,適性評価制度では,「国家に不利益となる行動をしないこと」が評価の観点とされるが,前述の通り,「特別秘密」の範囲が恣意的に定められる危険がある中では,適性評価制度も,その特別秘密取扱候補者の考え方が,時の政権にそぐわないかどうかを判断するために利用される危険性が否定できない。
3以上のように,「秘密保全法」には看過できない重大な憲法上の問題が存する。他方,我が国では現在においても,国家公務員法や自衛隊法等で国家秘密の保護が図られており,「秘密保全法」を制定する立法事実はない。
4情報公開請求により得られた資料によれば,既に秘密保全法案はほぼ完成している状況にある。しかしながら,法案がほぼ完成している現時点においてもなお,法案の内容は国民の前に明らかにされていないばかりか,国会議員にさえほとんど知らされていない。国民の権利・自由に重大な影響を及ぼす法案が秘密裏に作成されている事態は極めて問題である。
5よって,当会は,「秘密保全法」の制定に反対し,広く市民に同法の危険性を周知するなどして,同法の国会提出を断念させるよう全力で取り組む。以上のとおり決議する。
2013年(平成25年)2月23日仙台弁護士会 会長 髙橋春男
平成25年01月10日 オスプレイの普天間基地配備に反対する会長声明
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2012年10月1日、沖縄県宜野湾市の普天間飛行場に、垂直離着陸輸送機MV‐22オスプレイが配備され以来訓練飛行が続けられている。オスプレイについては、オートローテーション機能(エンジン停止時に、機体が落下する際に生じる気流を利用して安全に着陸する機能)の欠陥や、回転翼機モードから固定翼機モードへの切り替え時の不安定さ、風の影響を受けやすい操縦性等、多くの構造的欠陥のあることが専門家から指摘されている。また、オスプレイは開発段階から事故を繰り返しており、2006年量産体制に入った後も事故が絶えない(2006年から2011年まで大小58件の事故発生が報道されている)。2012年4月にはモロッコで訓練中に墜落して2名が死亡し、同年6月にもフロリダ州で訓練中に墜落して5名が負傷し、同年7月には米ノースカロライナ州で民間空港に、同年9月には同州で市街地に各々緊急着陸するなど、その安全性には大きな疑念がある。これらの墜落事故等について、米海兵隊は人為的ミスが原因だと強調し、日本政府もこれを追認し、同年9月「安全宣言」を出している。しかし、そもそも、人為的ミスだから安全であるとの論理が成り立たない。現実にこれだけの事故が起きている以上、オスプレイの危険性は明らかである。加えて、オスプレイが配備された普天間基地は、宜野湾市の市街地のただ中に位置し、「世界一危険な飛行場」と言われ(2010年7月29日福岡高裁那覇支部判決参照)、ひとたび墜落事故が起きれば大惨事に至ることは明白である。また、オスプレイは今後、沖縄県内だけでなく、宮城県上空を含む東北六県を通過する2ルートを始め、20県にまたがる6ルート(山陰地方を飛行する第7のルートもあるとされる)など、全国各地で低空飛行訓練を行うことが予定されている。オスプレイの飛行による墜落や騒音、回転翼による強い下降気流等による環境破壊の危険は、沖縄県にとどまらず全国に広がっている。このように、オスプレイを配備したこと及び今後低空飛行訓練が予定されていることは国民の生命・身体の安全に対する重大な脅威である。また、沖縄県をはじめとする多くの地方自治体がオスプレイ配備に反対する意見書や決議案を可決する等、オスプレイ配備に反対する国民の意思が多数示されている。全国各地における不安の高まりを受け、日米両政府は9月、オスプレイの飛行ルールを合意したものの、①学校を含む人口密集地の上空を極力避け飛行する、②運用上必要な場合を除き、ヘリモード飛行は米軍基地内に限る、などの合意は早々に破られている。又、1996年には午後10時から午前7時までの離着陸を必要最小限度にするとの騒音協定を結んでいるが、その実効性はなく、米海兵隊の環境審査報告書によれば、オスプレイが配備されることによって普天間基地における夜間、早朝の離着陸の回数が著しく増大し、基地周辺の住民の生活を圧迫している。オスプレイ配備の強行と飛行訓練の実施は、日本国民の生命、身体、財産に対する重大な侵害のおそれを生じさせるものであり、人格権(13条)、財産権(29条)、平和のうちに生存する権利(前文、9条、13条など)等を保障する日本国憲法の精神に反し、到底看過できない。よって、当会は、アメリカ政府に対し、オスプレイの普天間基地への配備を撤回し、全ルートでの低空飛行訓練を中止するよう求めるとともに、日本政府に対し、オスプレイの普天間基地配備と全ルートにおける低空飛行訓練の計画を撤回するよう米国政府と交渉するよう求める。
2013(平成25)年1月10日仙台弁護士会会長 髙 橋 春 男
平成24年12月13日 生活保護基準引下げに反対する会長声明
2012(平成24)年12月13日仙台弁護士会会 長 髙 橋 春 男
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平成24年10月26日 防災集団移転促進事業における被災宅地の買取に関する要望書http://senben.org/archives/3999
平成24年10月26日
仙台弁護士会会長 髙 橋 春 男
要 望 書
第1 要望の趣旨
防災集団移転促進事業において、被災者から被災宅地を買い取るにあたっては、関係規則及び運用を改正・改善するなどして、抵当権抹消の先履行を条件としない手続によって進めるよう、要望する。第2 要望の理由
東日本大震災の被災地の集団移転の促進のため、金融機関が対象地の宅地に設定された抵当権抹消の特例措置を検討していることが、平成24年10月12日、13日に報道各社より報じられた。防災集団移転促進事業の多くは、自治体が被災者から土地を買い取って、移転先に宅地を整備する方針であるが、抵当権の抹消を買取条件としていることから、抵当権の存在が障壁となっている。この点、住宅金融支援機構が抵当権放棄の方針を既に打ち出していたにもかかわらず、民間の金融機関は抵当権の抹消に消極的であったところ、今般、大きく方向転換をしたものであり、被災者の生活再建及び被災地の復興促進に資するものとして、歓迎すべき動きと評価される。ところで、被災自治体の多くは、公有財産規則や財務規則上、公有財産を取得する場合は、所有者に抵当権を消滅させ、取得に支障のないようにすることと定め、また、一部の被災自治体では、公有財産規則上、市長が特にやむを得ないと認める場合のほか、予めこれを消滅させた後でなければ、これを取得してはならないと定めている。他方、金融機関は、被災者である債務者からの債権回収の必要上、代金支払いに先立っての抵当権抹消に応じられないという状況にある。その結果、金融機関が対象地の宅地に設定された抵当権抹消の方針を打ち出しているにもかかわらず、自治体の要請する抵当権抹消の先履行に応じられないため、現状においてもなお、抵当権の存在が自治体による宅地買取りの重大な障害となっている。よって、当会は、被災自治体に対し、防災集団移転促進事業において被災者からの被災宅地の買取りが円滑に進められるように、被災宅地の買取りにあたり、抵当権抹消の先履行を条件としない手続で進められるよう、規則・運用を改正・改善するよう、要望する。なお、上記問題を解決する上で、弁護士による法的な支援等が必要な場合は、当会としてはこれに全面的に協力する所存である。以 上
平成24年10月09日 死刑執行に対する会長声明
2012(平成24)年10月9日 仙台弁護士会会長 髙 橋 春 男
http://senben.org/archives/3930http://senben.org/archives/3930
平成24年08月22日 発達障害のある被告人による実姉刺殺事件判決に関する会長声明
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発達障害のある被告人による実姉刺殺事件判決に関する会長声明
大阪地方裁判所は、本年7月30日、発達障害がある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、被告人に対し、検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。同判決は、アスペルガー症候群という精神障害が認められる被告人に対し、動機の形成過程にその障害が影響しており、被告人が未だ十分な反省に至っていないことには同症候群の影響があると認定した上で、「いかに精神障害の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば・・・被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される」ことや「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない」こと等を理由として、「被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」として、有期懲役刑の上限にあたる量刑での判決を言い渡した。 脳機能障害が原因とされるアスペルガー症候群の特性は、他人の心情をくんだり、自分の内面を表現したりするのが苦手で、対人関係の構築が難しい場合が多いとされるが、この障害があることが反社会的行動に直接結びつくわけではない。それにも関わらず上記判決は、アスペルガー症候群について十分な医学的検討を加えることなく、障害の存在を社会的に危険視した認定を行っており、発達障害に対する正しい理解を欠いているばかりか、障害に対する社会的偏見を助長させかねない危険性を有している。また、刑事施設における発達障害に対する治療・改善体制や矯正プログラムの現状は十分なものとはいえないことから、長期収容によって被告人の発達障害が改善され、内省を深めることはほとんど期待できない。むしろ、発達障害者に対する受け皿については、発達障害者支援法に基づく支援策等により社会的な整備が進んでいるのであり、上記判決はこのような現状の正確な理解を欠いている。 以上のような現状認識の誤りに止まらず、上記判決は、社会的な受け皿が十分ではないという障害者本人の責に帰すことができない事情や障害による再犯のおそれ等を理由として、被告人の刑を加重するという判断を行っている。このような判決の考え方は、刑法の大原則である責任主義を真っ向から否定し、障害者を社会から隔離する社会防衛的な発想であり、到底許されるものではない。さらに、本件においては、審理や評議にあたり、裁判員が当該障害の特性を正しく理解できるように、十分な対応がとられたのかという疑問を禁じ得ない。裁判員裁判において、本件のような障害を有する者の審理を行うにあたっては鑑定手続等により量刑判断に必要な医学的・社会福祉的情報が提供され、評議では裁判長から刑法上の理念や原則の説明が適切に行われなければならない。上記判決においては「被告人は未だ十分な反省に至っていない」と断じているが、深く反省していても、それをうまく表現できないアスペルガー症候群の特性を慎重に検討した上で、責任主義の原則を踏まえた審理がなされたのか大いに疑問が残る。 当会は、本判決が発達障害者に対する理解を欠いて行った不当な判断に対し問題点を指摘するとともに、このような判決により、発達障害者に対する社会的偏見や、社会防衛のための不当な収容が助長されかねないことに重大な懸念を表明する。2012年(平成24年)8月22日仙台弁護士会 会長 髙 橋 春 男
平成24年08月10日 死刑執行に対する会長声明
2012(平成24)年8月10日 仙台弁護士会会長 髙 橋 春 男
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平成24年04月10日 大阪市職員に対するアンケート調査に関する会長声明
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大阪市職員に対するアンケート調査に関する会長声明
大阪市(橋下徹市長)は,本年2月9日,同市職員に対して,氏名,職員番号,所属部署を明記させた上で,組合活動や政治活動に関する回答を求めるアンケート調査を実施し,その際市長メッセージとして,「市長の業務命令として,全職員に,真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。」と告知している。しかしながら,地方公務員も地位利用による選挙運動(公職選挙法136条の2)や政党その他の政治団体の結成関与・役員就任(地方公務員法36条1項),その属する自治体の区域内における選挙運動(同条2項)などが限定的に禁止されているほかは,一般国民と同様,プライバシー権(憲法13条),思想・良心の自由(憲法19条),政治活動の自由(憲法21条),及び団結権(憲法28条)を有するところ,本アンケート調査は,以下に述べるように,市職員の基本的人権を著しく侵害するものであって,憲法上許容されない。第一に,本アンケート調査は,労働組合への加入の有無や組合活動・政治活動(特定の政治家を応援する活動で,求めに応じて知り合いの住所等を知らせたり,街頭演説を聞いたりする活動も含む。)への参加の有無,組合活動及び選挙運動に関する見解といった市職員の思想信条又はこれと密接に関連する事実についての回答を強制している。これは,思想・良心の自由として絶対的に保障されるべき沈黙の自由(思想の告白を強制されない又は思想を推知されない自由)を侵害するものである。また,厳密には思想信条に関わるとはいえない事実に関する情報であっても,市職員にとっては私的事項に関するものと思料されるところ,そういった情報を強制的に収集することは,市職員のプライバシー権(自己情報コントロール権)の侵害にもなる。そして,このような思想・良心の自由やプライバシー権を侵害する調査は,市職員の政治活動に対する萎縮効果を発生させ,政治活動の自由も侵害する。第二に,本アンケート調査は,違法ないし不適切と思われる組合活動の調査という名目の下,労働組合への加入や組合活動への参加の有無などについて回答を強制し,また任意としているものの組合活動の内容や誘った人の氏名,組合に加入することのメリットや加入しないことによる不利益についての見解,組合に待遇等の改善について相談したことの有無などの回答を求めている。これは,正当な組合活動も対象にしてその参加人員や活動内容を調査しようというものであり,本来使用者からの独立が保障されている労働組合に対する監視行為に等しく,組合活動を妨害する支配介入として,団結権を侵害するものである。また,本アンケート調査は,市職員が労働組合に加入し又はとどまって組合活動を行うような労働基本権の行使に心理的圧迫を与えることで,その行使を抑止させる効果を有するものである。当会は,本アンケート調査による人権侵害の重大性に鑑み,このような憲法に違反するアンケート調査を行ったことに強く抗議し,今後,再び行うことのないように求める。
2012(平成24)年4月6日 仙 台 弁 護 士 会会 長 髙 橋 春 男