奈良弁護士会
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「少年法等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
2005/07/11
奈良弁護士会 福井 英之
はじめに
本年3月1日に内閣において閣議決定された「少年法等の一部を改正する法律案」(以下、「今回の改正案」と指称する)が国会に上程されている。
今回の改正案は、概要、(1)触法少年及びぐ犯少年にかかる事件について警察官の調査権限を認めること、(2)14歳未満の少年に対しても少年院送致処分を可能とすること、(3)保護観察中の少年に対し遵守事項違反を理由とする施設収容処分を可能とすること、(4)一定の対象事件の審判において弁護士による国選付添人制度を設けることを内容とするものであるが、以下に述べるとおり、これらの内容にはそれぞれ重大な問題点があるため、当会は、今回の改正案における上記(1)ないし(3)の内容には強く反対するとともに、上記(4)に関しても、少年の権利保障をより厚くする方向での再検討・修正を求めるものである。触法少年及びぐ犯少年にかかる事件について警察官の調査権限を認めることについて
今回の改正案は、触法事件について警察官が調査を行ったうえ児童相談所に送致しうること、児童相談所はこのうち一定の重大事件については原則として家庭裁判所に事件送致しなければならないとすること及びぐ犯事件についても警察官の調査権限を認めることを含む。
内閣は、今回の改正案の提出理由について、「少年非行の現状にかんがみ、これに適切に対処するため」とするのみであるが、その背景には、近時、14歳未満の少年による重大事件が社会的注目を集めたことがあると思われる。
しかし、統計上は、14歳未満の少年による重大・凶悪事件が近時特に増加したという事実はなく、仮に社会内においてこのような印象があるとしても、これはマスコミによる事件報道のあり方等が影響しているところが大きい。
触法事件及びぐ犯事件はいずれも犯罪ではなく、したがって、警察官が「捜査」することはできないというのが現行法の建前である。今回の改正案は、これを実質的に修正するものであり、特に触法事件については刑事訴訟法上の強制捜査をも可能とする点で看過できない問題点を含んでいる。しかるに、このような改正をあえてなすことが必要不可欠であるような立法事実は必ずしも存在しない。
また、触法少年の多くは被虐待体験を含む複雑な成育歴を持ち、そのことが非行に至った背景事情となっているところ、このような問題点を発見し、これに対する適切なケアを選択することができるのは、警察官ではなく、子どもに対する福祉・教育の専門機関である児童相談所である。むしろ、警察官が自白の強要等不適切な調査を行った場合には、事件の真相解明が阻害されるおそれさえある(14歳未満の少年ではないものの、当会会員が付添人を務めた少年事件においてこのようなえん罪事件が報告されている)。
さらに、ぐ犯事件についていえば、もともとその限界は曖昧であるうえ、今回の改正案は調査対象を「ぐ犯少年である疑いのある者」としているから、事実上極めて広い範囲の少年が警察官の調査・監視下に置かれることになる。
このように、触法事件及びぐ犯事件において警察官の調査権限を認めることは重大な問題点を含むから、賛成できない。仮に現在の福祉的対応に不十分な点があるとしても、児童相談所及び児童福祉施設等の人的・物的充実を図るなどその改善・充実の方向で問題が考えられるべきである。
14歳未満の少年に対しても少年院送致処分を可能とすることについて
触法少年の多くが被虐待体験を含む複雑な成育歴を持ち、そのことが非行に至った背景事情となっていると考えられることは先に述べたとおりである。このような傾向は、重大な事件を犯した少年ほど強い。
このように複雑な成育歴を持つ少年について再非行を防止するためには、一般社会とは異なる規律を課すことにより少年の規範意識を育てようとする少年院での処遇よりも、むしろ、福祉施設において一般社会にできる限り近いかたちでの育てなおしをし、少年自身が個人として尊重され愛されるという経験を経て、犯した罪の重さに向き合わせることが適切である。未だ14歳未満の未熟な少年を真の意味で更生させるには、このように個々の少年が抱える問題性に対応した福祉的処遇が必要であり、少年院に送致するのみでは必ずしも効果的な処遇とはならない。ここにおいても、むしろ、児童福祉施設における処遇の一層の充実等福祉的対応の強化が図られるのが先決である。
保護観察中の少年に対し遵守事項違反を理由とする施設収容処分を可能とすることについて
今回の改正案は、保護観察中の少年の遵守事項違反を理由とする少年院送致等の施設収容処分の創設を含む。
しかし、遵守事項違反がぐ犯に該当すると考えられる場合は現行法のぐ犯通告制度(犯罪者更生予防法42条)により保護処分を行うことが可能であるから、このような制度をあえて設ける必要性は全くないばかりか、少年と保護司との間の信頼関係を基礎としつつ少年の自律的更生を目指す保護観察に対して、施設収容の威嚇を背景とした緊張関係を持ち込むものであって、有害でさえある。また、そもそも、遵守事項違反のみを理由として施設収容という重大な処分をなすということは、既に保護観察処分とした以前の非行を実質的に再度考慮しているといわざるを得ず、少年を「二重の危険」にさらすおそれがある。
先の2点も同様であるが、今、拙速に従来の福祉的対応を、少年に対する監視及び厳罰の方向に転換するのは正しい方向性ではない。保護司の少年に対する温かい見守り・信頼に基づき運用されてきたわが国の保護観察制度はこれまで概ねよい成果を誇ってきたといえるのであり、その基本的方向を維持しつつ、保護司の増員等のさらなる制度改善こそが今必要とされるものである。
一定の対象事件の審判において弁護士による国選付添人制度を設けることについて少年審判において、付添人の存在は、少年の法的権利の実質的保障の観点からも更生の実現の観点からも極めて重要であるが、これまでは、極めて限定された場合においてのみ国選付添人の必要的関与が定められているにすぎなかった。
したがって、今回の改正案が国選付添人制度の対象を広げ、必ずしも非行事実の存否に大きな争いがないような事案についてもその対象に含めたこと自体については、積極的に評価することができる。しかし、少年鑑別所に収容された少年の全員に国費による付添人選任権を保障すべきであるとの観点からすれば、今回の改正案の内容は未だ不十分であり、かかる国選付添人制度のいっそうの拡充が必要である(なお、日本も批准している「子どもの権利条約」においては、その40条で、「刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は」「事案が権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関により法律に基づく公正な審理において、弁護人その他適当な援助を行う者の立会い及び、特に当該児童の年齢又は境遇を考慮して児童の最善の利益にならないと認められる場合を除くほか、当該児童の父母又は法定保護者の立会いの下に遅滞なく決定されること。」が保障されるべき旨定められている)。
また、少年が終局決定前に釈放されたときには国選付添人選任の効力は失われるとする点は、先に述べたような少年の権利保障及び更生の実現の観点からは不十分といわざるを得ず、この点も改善されるべきである。
まとめ
以上のような理由から、当会は、今回の改正案に対して、上記のような意見を述べるものである。
「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」の廃案を求める声明
2004/07/21
奈良弁護士会 会長 川崎 祥記
裁判員制度は、国民の司法参加の理念の下に民主的裁判の実現を目指して導入されるものである。そのため同制度は、国民的基盤に立脚し裁判員が主体的に参加できるものとする必要がある。よって、当会は、2004年通常国会において同制度にかかる法案が上程され審議されるにあたり、以下の点につき強く要望する。
1.(合議体の構成)
裁判官の人数は1人または2人、裁判員の人数は9人ないし11人とし、国民が主体的、実質的に関与できる制度にすべきである。
2.(評決)
裁判官の人数は1人または2人、裁判員の人数は9人ないし11人とし、国民が主体的、実質的に関与できる制度にすべきである。
3.(取調べの可視化)
裁判官の人数は1人または2人、裁判員の人数は9人ないし11人とし、国民が主体的、実質的に関与できる制度にすべきである。
4.(全面的証拠開示)
検察官が所持する証拠については、検察官の公益性に照らし、できるだけ早期に全面的に開示する制度とすべきである。
5.(裁判員の言論)
健全な批判がないところに健全な発展はない。裁判員が任務を終えた後には、職務上知り得た秘密及び自己以外の発言者の発言内容であると特定できる事項を除いては、その経験を自由に述べることを容認すべきである。これを制限したり、守秘義務違反に刑罰を科したりすべきではない。
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」案に対する意見書
2002/11/20
奈良弁護士会 会長 本多 久美子
奈良弁護士会は、本年11月20日の常議員会における議決に基づき、標記法案(いわゆる『心神喪失者等「医療」観察法案』、以下「政府案」という)に対し、以下のとおり反対意見を表明する。
1.政府案の概要
政府案は、放火、強制わいせつ、強姦、殺人、自殺関与・同意殺人、傷害、強盗にあたる行為(以下「対象行為」という)を行い、心神喪失または心神耗弱を理由として、不起訴処分にされた者、あるいは無罪または刑を減軽する旨の確定裁判を受けた者について、継続的な医療を行わなくても対象行為の再犯を行うおそれが明らかにないと認められる場合を除き、検察官は、原則として地方裁判所に審判を求めなければならず、そこに設置される裁判官と精神科医である精神保健審判員からなる合議体が、「医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」には、決定により入院もしくは入院によらない医療(いわゆる通院)により指定医療機関において治療を受けさせる、というものである(政府案2条、6条、9条、11条、33条、41条、42条、43条等)。 上記入院は、入院期間の更新により無期限に及ぶ可能性があり、上記通院は3年ないし5年にわたり得る、という処遇制度である(同43条、44条、49条、51条等)。
2.政府案の主な問題点
(1) 疑似医療の強制隔離策
政府案にいう「審判」は、「継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがある」か否かを判定するというのであり(同37条1項、42条1項1号等)、これは医療よりも治安のための隔離を優先させた「再犯のおそれ」を指すものでしかなく、精神障害者の治療や社会復帰に力点を置く判断ではない。 また、現在の精神医学では、将来における再犯の危険性の正確な予測は不可能であるともいわれるのに、「指定医療機関」での「医療」(同42条1項1号、43条1項等)は、精神障害者に無期限に及ぶ可能性のある不定期刑類似の身柄拘束処分を課するものといえ、重大な人権侵害を招くおそれがある。
(2) 適正手続条項の潜脱
政府案は、本人に対し、刑罰による場合に実質的に匹敵するような自由の制限をもたらし、重大な人権制限を招くおそれのある手続を設けるものであるにもかかわらず、上記審判において、弁護士である付添人や本人に証拠取調請求権が認められていないなど(同24条、25条2項)、憲法31条以下の規定による適正手続の保障、人身の自由の保障が確保されていない。
(3) 地域医療・福祉の保安化・刑罰化
政府案は、「入院によらない医療」(同42条1項2号)、いわゆる通院の処遇のための中心的な機関を保護観察所としている(同54条、59条等)。しかし、保護観察所は、刑の執行猶予者や仮釈放者に対する保護観察の実施を主たる任務とし、犯罪の予防を目的として活動する機関であり(執行猶予者保護観察法3条、犯罪者予防更正法18条、33条等)、犯罪の予防を目的として活動する刑事政策を担う機関であって、精神医療の専門機関ではない。保護観察所の現状から見て、「対象行為」とされる重大な犯罪にあたる行為を行った精神障害者の処遇ができる専門性と力量を認め難い。このような機関を通院処遇の中心的な機関に位置づけようとする政府案は、観察下の通院措置なるものが結局は刑罰類似のものであることを認めるものである。また地域医療・福祉の主要機関が保護観察所の管理・介入を受けることにより、精神障害者の地域医療・福祉全体が犯罪防止と保安のための機関に組み入れられていく危険をはらんでいる。
(4) 隔離施設としての専門治療施設
そもそも、精神障害者の医療においては、犯罪にあたる行為を起こした者への特別な「医療」などは存在せず、一般の精神医療と変わらず、医療内容も一般の精神障害者と重大な犯罪にあたる行為を行った精神障害者を区別する理由はないとされている。然るに、重い罪にあたる行為を行った精神障害者だけを、「対象行為」を行った「対象者」(政府案2条2項、3項)として、新たに設置される専門の治療施設たる「指定医療機関」(同2条)において「医療」を受けさせることは、「指定医療機関」が事実上刑務所類似の保安専門施設と解され易く、そこに入、通院する者を差別し特別のレッテルを貼る結果となりかねない。
3.精神医療の充実こそ本筋である
わが国において、精神障害者は、今なお根深い偏見と無理解のため深刻な差別と人権侵害を受け続けている。このような現状に対し、日弁連は、この奈良の地で昨年11月に開催された日弁連第44回人権擁護大会において、「障害のある人に対する差別を禁止する法律」の制定を提言した。上記政府案は、障害のある人に対する差別と人権侵害を増大させるおそれが強く、上記提言の趣旨に反すると言わねばならない。 精神障害者により時として起こる不幸な事件を防止するためには、退院患者やいまだ精神医療の援助を受けていない精神障害者に対する偏見や差別をなくし、人権に配慮した精神医療の充実という観点から問題の解決を図るのが本筋である。 日弁連は、かねてから、精神障害者に対しては、精神医療を充実してこそ、時として起こる不幸な事件を防止できるという主張を一貫した基本方針とし、当弁護士会もこれに賛同するものであり、上記治安重視の政府案を是認することはできない。 また、政府・与党は政府案を一部修正する意向を示しているが、上記の問題点は一部の修正によって解決しうるものではない。以上のとおりであるから、当弁護士会は、精神障害者に対する重大な人権侵害のおそれがある政府案を廃案とすることを強く求めるものである。
住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期等を求める決議
2002/07/17
奈良弁護士会
1999年8月に住民基本台帳法が改正され、本年8月より住民基本台帳ネットワークシステム(以下、「住基ネット」という)が稼働されることとなっている。住基ネットとは、住民基本台帳上、各国民に住民票コード(11桁の番号)を付け、住民票コードと本人確認情報(氏名、性別、生年月日、住所)を各都道府県、市区町村を結んだコンピュータネットワーク上で流通させ、全国何処ででも本人確認を可能とさせるシステムである。
しかし、行政機関が、何らの制約もなく国民に関するデータを蓄積すれば、行政機関間のデータの共有、データの目的外流用等により、当該個人のあずかり知らないところで行政機関が個人データを集積し、国民一人一人を管理監視する事態が生じる高度の危険性がある。現に、住民票コードと同様の共通番号制を導入したスウェーデンの個人情報濫用監視機関であるデータ検査院の院長が1996年に来日した際、「このシステムを日本に導入することは勧めない。多くの国民がこのシステムを導入したことを後悔している。個人認識番号システムは、気付かないうちに我々を腐敗させプライバシーに対する脅威のシンボルとなった。」と証言している。
また、ネットワーク上の情報には、必ず不正流出の危険がつきまとう。ところが、日弁連の調査によれば、過半数の自治体が住基ネットの管理等を担当する専任職員を置いておらず、担当職員も必ずしもコンピュータに精通している訳ではなく、住基ネットのマニュアルを完全に理解していると答えた自治体は3%しかない。このような状態では、住基ネットのセキュリティ保護に多大な不安を抱かざるをえない。
1999年の住民基本台帳法改正時には、かかる危険に鑑み「この法律の施行に当たっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに所要の措置を講ずるものとする。」との附則が定められた。当時の小渕首相によれば、この措置とは個人情報保護法制の制定を指す。すなわち、個人情報保護法制の制定が、住基ネット稼働の前提となっているのである。
ところが、現国会において、政府与党は行政機関の保有する個人情報保護法案の成立を既に断念している。そうであるにもかかわらず、政府は、本年8月5日より住基ネットを稼働させる予定を変えていない。個人情報保護法制を整備せずに住基ネットを稼働させることは、稼働の前提を欠き、上記の危険を顕在化させる暴挙であって、絶対に許してはならないことである。
よって、奈良弁護士会は、個人情報保護に万全を期した法制度、人的物的制度が整備されるまで住基ネットの稼働を延期すべきと考える。また住基ネット自体について、その廃止をも含めた再検討を求める。
有事法制3法案に反対する常議員会決議
2002/06/12
奈良弁護士会 常議員会
現在国会で審議中の「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」及び「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(以下、併せて「有事法制3法案」という。)については、以下のような重大な問題点が存する。
1.「武力攻撃事態」という概念は広範であいまいに過ぎる。
「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し武力攻撃が予想されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされているが、法案に盛り込まれた強力な権限が政府に与えられる要件として、また大幅な基本的人権制限の要件としてこれらの概念は極めて広範かつあいまいである。これでは、政府の恣意的な判断を防ぐことは著しく困難と言わざるを得ない。
2.憲法の中核をなす基本的人権保障原理を変質させる危険性を有する。
いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行われると、陣地構築、軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用、軍隊・軍事物資の輸送、戦傷者治療等のための市民に対する役務の強制、交通・通信・経済等の市民生活・経済活動の規制措置を公用令書の交付のみによりとることができるとされている。しかも取扱物資の保管命令違反に対しては6ヶ月以下の懲役、立入検査拒否、妨害等に対しては20万円以下の罰金が科されるなど、刑罰による強制も規定されている。このような措置は、適正手続によることなく市民の基本的人権を大きく制限するものである。
3.憲法の定める平和原則等に抵触するおそれが強い。
憲法は、国際紛争解決の手段としての武力の行使とその威嚇を禁じ、国権の発動としての戦争を放棄し、戦力の不保持を謳っており、武力攻撃の「おそれ」のある事態や武力攻撃が「予測」される事態というあいまいな概念で自衛隊の出動やその待機をすることとするのは、憲法の前文及び9条に抵触するおそれが強い。「武力攻撃事態」が周辺事態法に定められた米軍の軍事活動に対する自衛隊の後方地域支援活動に際して発生した場合、自衛隊の米軍との共同行動は、政府見解でも違憲とされている「集団的自衛権」の行使にさらに大きく踏み込むこととなるおそれが強い。
4.憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ、民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。
武力の行使、情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し、その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは、行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し、また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行なう措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反する。
5.国民主権と民主主義の基盤を崩壊させるおそれがある。
日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし、これらに対し、「必要な措置を実施する責務」を負わせ、内閣総理大臣が、対処措置を実施すべきことを指示し、実施されない時は自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより、政府が放送メディアを統制下に置き、市民の知る権利、メディアの権力監視機能、報道の自由を侵害し、民主主義の基盤が崩壊するおそれがある。
このように有事法制3法案には、憲法に抵触する重大な疑義が存し、同法案が憲法の基本に関わる重大な問題点を有するにも関わらず、国民の論議が十分に尽くされたとは言い難い。
よって、当会は、有事法制3法案の重大性・危険性を国民に訴えるとともに、有事法制3法案に反対し、同法案を廃案にするよう求める。
ネパール人勾留決定問題に関する会長声明
2000/07/11
奈良弁護士会 会長 相良 博美
被告人ゴビンダ・プラサド・マイナリに対する強盗殺人被告事件において、被告人は一審東京地方裁判所で無罪判決を受けていたが、東京高等検察庁はこれに対し控訴の申立をするとともに職権による勾留状の発布を要請し、東京高等裁判所は、平成12年5月8日、被告人に対する勾留を決定した。これに対し、弁護人は特別抗告をしたが、最高裁判所は6月28日までに特別抗告を棄却する決定をした。
一審判決は、2年余りにわたって合計34回の公判を行い、慎重かつ十分な証拠調べの下に無罪の判決を下したものである。しかしながら、東京高等裁判所は、一審の判決内容について、何らの実質審理をも行うことなく、すなわち、当事者の意見を聞くことも、自ら証拠調べをすることもなく、わずか7日間記録を読んだだけで、被告人に「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があると一審無罪判決を否定する判断をしているのである。また、最高裁判所も「罪を疑うに足りる相当な理由がある場合で、逃亡などの恐れがあれば一審が無罪を言い渡しても記録などの調査により被告人を勾留できる」と述べ、高裁での審理の段階を問わず記録の検討だけでも被告人を勾留できるとの判断を示した。
このような東京高裁及び最高裁の判断は、無罪判決の場合はもちろん、刑の執行猶予等の裁判の告知があった場合においても、勾留状はその効力を失う旨を規定し、無罪判決後の身柄拘束についてより一層慎重な判断を要求する刑事訴訟法第345条の趣旨に真正面から反するものである。また、一審判決の記録を読むだけで勾留を認めるのは、一審判決を軽く扱うもので不当である。
東京高検、東京高裁及び最高裁が被告人の身柄拘束に固執する実質的理由は、本件被告人は釈放されると同時に強制退去させられることから、控訴審終了まで被告人の帰国を阻止しようという点にある。しかし、強制退去の阻止を目的とする勾留という制度は現行法上のどこにも存在せず、これが憲法および刑事訴訟法の身柄拘束手続に正面から違反することは誰の目にも明らかである。そもそも、強制退去の阻止については、出入国管理及び難民認定法の整備の問題であって、その不備を補うために刑事訴訟法の勾留を用いることを許せば、被告人は強制退去阻止の目的を越えて国内における自由すら剥奪されてしまうのである。
本勾留決定は、無罪の判決を得た被告人を正当な目的も法律上の根拠もなくして拘束するものであり、我々は断じてこれを許してはならない。
弁護士費用の敗訴者負担に関する緊急要請
2000/06/12
奈良弁護士会 会長 相良 博美
1.日弁連速報(№20)並びに本年5月31日付朝日新聞朝刊によれば、5月30日に開催された司法制度改革審議会の審議において弁護士費用敗訴者負担制度を導入することで審議会委員の意見の一致を見たとの報道がなされている。
2.しかし、同日の審議内容について聞くところによれば、主婦連の吉岡委員、連合の高木委員、東電の山本委員らの意見は、専ら片面的敗訴者負担制度に賛成する趣旨で敗訴者負担賛成の意見を述べたとも言われており、必ずしも一般的、原則的に敗訴者負担制度の導入に賛成する意見ではなかったようである。そもそも敗訴者負担に関する意見交換は15分程度であったようであり、十分に検討吟味された結論でもなかったように思われる。
しかるに、審議会終了後、竹下会長代理が上記報道にあるような発表をしたために、いかにも民事裁判一般について敗訴者負担を原則とすることが審議会の結論として一致したかのように報道がなされた。
3.このように同日の審議会が果たしてどのような趣旨で敗訴者負担制度について審議を行い、意見の一致を見たのか、その正確な詳細は明らかではないが、仮に一般的、原則的に敗訴者負担制度を導入するというのであれば、それは日弁連民訴費用制度等検討協議会が昨年11月に作成した報告書の趣旨と相容れないものである。同協議会報告では、一般的な敗訴者負担制度を設けることには問題があるとの大前提で一致した上で、行政訴訟、国賠訴訟、消費者訴訟など社会的弱者と社会的強者との間の訴訟において、社会的弱者が勝訴した場合等において敗訴者に弁護士費用を負担させる、いわゆる片面的敗訴者負担制度を導入するべきであると指摘している。
4.上記のとおり日弁連内において設置された協議会が敗訴者負担制度の導入について一定の見解を示しているなか、日弁連執行部としては同報告書の趣旨に添った見解を示すべきであり、一般的に敗訴者負担制度を導入する意見に対しては日弁連の立場を明確にする必要がある。
司法制度改革審議会の日程では、6月13日に日弁連に対するヒヤリングがなされるとのことであるが、敗訴者負担制度の導入については軽々に同調されることのないよう、上記報告書の趣旨に添った見解を示されるよう要請する。
司法改革に向けて奈良弁護士会は約束します
2000/05/20
1.昨年内閣に設置された司法制度改革審議会は、「21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現」のため、今日まで十数回に及ぶ審議を行うとともに、今後重要なテーマについて個別の審議を予定しています。
2.他方、日本弁護士連合会は、1990年以来三度にわたり司法改革宣言を発表するとともに、1998年には「司法改革ビジョン」を、昨年11月には「司法改革実現に向けての基本的提言」を発表しました。その基調は法曹一元制度の導入を基本にして、「市民による司法」「市民のための司法」を我が国の隅々にまで浸透させるという国民主権の理念で貫かれています。それは、とりもなおさず「いつでも」「どこでも」「だれでも」必要なときには司法サービスを受けられる権利を保障できるようにしようというものです。
3.こうした司法改革の大きな流れの中で、奈良弁護士会は牽引車の役割を果たすべく県民のニーズに応えたさまざまな活動を行ってきました。
自治体等と提携した無料法律相談は今では県下27市町村に及び、人口比では実に84パーセントの県民が利用できるようになりました。そのほかにも、公的団体が設置した無料法律相談や臨時相談、さらには時宜に応じて女性の権利確保、商工ローン問題、欠陥住宅問題などの相談にも取り組んできました。
裁判ではどうしても時間や費用がかかるため、交通事故の紛争については会内に示談あっせんセンターを開設し、弁護士が解決に当たる活動も積極的に行ってきました。その結果過去5年間に151件の申込があり、100件の紛争を解決してきました。
犯罪を犯したとして逮捕され、あるいは裁判を受ける人々の権利を確保することは、憲法が保障する重要な基本的人権の一つです。その権利を守るため、奈良弁護士会では会員の殆どが国選弁護人として刑事弁護に携わっています。さらに被疑者段階や犯罪を犯した少年の権利を守るべく1990年には当番弁護士制度を発足させ、要請があれば直ちに面会に赴き、被疑者らの相談にのる体制も完備しました。こうして昨年は405回も出動し、弁護人や付添人になるなどして被疑者らの権利の擁護と更生を援助してきました。
現在の裁判制度が非常に分かりにくいものであることを直接体験していただき、市民が参加する裁判制度に変革していくために裁判を傍聴する活動も年々広がっています。
さらに本年4月には高齢者・障害者支援センターを発足させるなど、新たな活動も開始しました。
こうした活動を継続、拡充するには多額の費用がかかりますが、その殆どは弁護士の自己負担でまかなわれています。
そのほかにも自治体等公的団体の審査委員、協議会委員、懇話会委員などを多くの弁護士が担当し、公的、公益活動にも広く関与しています。
このように県民のさまざまな要請に応えられるよう、そして裁判をはじめとする司法が真に住民の財産となるよう、奈良弁護士会は全国各地で実施される以前から会の総力を挙げて取り組んできました。
4.こうした実績を踏まえ、さらに県民のみなさんに利用しやすい司法サービスを提供できるよう、奈良弁護士会は次の運動に取り組みます。
第1に、自治体等の法律相談を、さらに回数も地域も増やして文字どおり県下くまなく実施し、過疎地においても公設事務所構想を始め電話や巡回による相談など、より身近に利用できるように取り組んでいきます。
第2に、今年10月から新たに施行される民事法律扶助制度に伴い、多くの県民が日常生活に大きな負担をかけず弁護士を依頼し、裁判を受けられるよう取り組んでいきます。
第3に、迅速且つ適切な司法サービスを提供できるよう、弁護士の人員増と能力、質の向上に励んでいきます。また、より正確で実効的な情報を県民のみなさまに提供できるよう弁護士情報の広報に努めます。
第4に、被疑者弁護制度のさらなる拡充とともに、刑を受け終わった人々らへの援助、そして犯罪被害者の法的救済に取り組みます。
第5に、「市民による司法」「市民のための司法」を実現し、司法が真に社会における公正と公平を実現する役割を担えるよう、法曹一元制度の導入をはじめとする司法改革に取り組んでいきます。