匿名希望
難民申請者に対する生活保障のための緊急の措置を求める会長声明
2009年07月10日
東京弁護士会 会長 山岸 憲司
2009(平成21)年5月より、政府が外務省の所管法人であるアジア福祉教育財団難民事業本部を通じて支給する難民申請者に対する「保護費」が、申請者増加による予算不足を理由に、重篤な病気の者、子ども及び合法的に滞在し就労許可のない者を優先し、それ以外の者には支給されないことになった。その結果、新聞報道によれば、約150人の難民申請者が「命綱」を切られる状況に追い込まれているという。
もとより、日本が加盟する難民条約は、難民認定を受けた者に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民と同一の待遇を与えることを義務づけている。そうであるならば、難民申請中の者に対しても、その結論が出るまでの間、健康的で文化的な最低限度の生活を営むことを可能とするための手当がなされて然るべきである。
しかしながら、難民申請者の多くは、法律上就労を認められず、他方で生活保護や社会保険の対象から排除されている。このため「保護費」は、その代替措置として設けられ、難民申請者にとってのいわば命綱としての役割を担ってきたものであるが、制度開始当初から支給水準の低さなどの問題が指摘されてきた。
この点に関連して、国連の自由権規約委員会は、2008年(平成20年)10月に採択した国際人権規約の日本政府報告に対する総括所見25項において、「難民申請者がその間就労を禁じられ、かつ、限られた社会的扶助しか受けられないにもかかわらず、難民申請の手続にしばしばかなりの遅延があることに、懸念を持って留意する」とした上、「全ての難民申請者に対し、手続の全期間にわたる適当な国庫による社会保障あるいは雇用へのアクセスを確保すべき」との勧告を行っている。
にもかかわらず、難民申請者に対する唯一の生活保障ともいえる「保護費」の支給を、予算不足という理由で停止することは、難民条約の締約国として許されないというべきである。2009年度(平成21年度)の「保護費」の予算額は、新聞報道によれば1億0900万円程度であり、難民申請者の生命・健康の危機を回避するためには、さらなる予算措置を講ずることが不可欠である。これにより締約国としての責務をはたさなければならない。
かかる状況を踏まえ、当会は、日本政府に対し、「保護費」の安定的支給のための予算措置を緊急に講じるよう求めるとともに、難民申請者の安定的な生活保障のため、就労許可を広く付与すること、生活保護や国民健康保険の対象とすること等について、法務省、外務省、厚生労働省等関係省庁が連携して検討を開始するよう求めるものである。
匿名希望
沖縄県知事による公有水面埋立承認の取消しに関する会長声明
2015年10月19日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭
1 翁長雄志沖縄県知事は、2015年10月13日、公有水面埋立法(大正10年法律第57号)第42条第3項に準用される同法第4条第1項に基づき、2013年12月27日付けで沖縄防衛局が受けた普天間代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認(以下「本件承認」という。)を取り消し、沖縄防衛局に対して通知した。
2 本件承認の取消処分の理由は、①普天間飛行場代替施設を沖縄県内に建設せねばならないこと及び県内では辺野古に建設せねばならないことについての実質的な根拠が乏しく、「埋立ての必要性」を認めることができないこと、②埋立対象地は、自然環境的観点から極めて貴重な価値を有する地域であって、埋立てが実施されると現況の自然への回復がほぼ不可能となり、埋立対象地に普天間飛行場代替施設が建設された場合、新たに騒音被害の増大が住民の生活や健康に大きな被害を与える可能性があること、③全国の在日米軍専用施設の73.8%を抱える沖縄県において、米軍基地の固定化を招く契機となり、基地負担についての格差や過重負担の固定化に繋がることから、公有水面埋立法第4条第1項第1号の要件を充足していないこと、並びに、環境保全措置は問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く、これに対する措置が適正に講じられているとも言い難いこと、その程度が十分とも認め難いことから、同条同項第2号の要件も充足していないというものである。
本件承認の取消処分は、2015年7月16日付けで「普天間代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第三者委員会」が行った、本件承認手続には「法律的瑕疵がある」旨の検証結果報告を踏まえたものである。
1 これに対し、沖縄防衛局は、同年10月14日、国土交通大臣に対し、本件承認の取消処分は違法であることなどから、地方自治法(昭和22年法律第67号)第255条の2に基づき、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)により当該取消処分を取り消す裁決を求める審査請求、及びそれに対する裁決があるまで取消処分の効力を停止するとの決定を求める執行停止の申立てを行った。
しかし、行政不服審査法は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」ものである(同法第1条)。本件承認取消処分にかかる紛争は、国と普通地方公共団体の関係いわば行政機関相互の関係にかかわる問題であるところ、地方自治法は、国と地方公共団体が対等・協力の関係にあることを前提とし、その紛争解決の手続について、国の関与の制度を設け、大臣による是正指示(地方自治法第245条の7)、国地方係争処理委員会による審査(同法第250条の13)、国の関与に関する訴えの提起(同法第251条の5)、都道府県の不作為に関する国の訴えの提起(同法第251条の7)等を定めている。そうすると、本件承認取消処分にかかる紛争について、国の機関が、「一般私人と同様の立場」で「審査請求をする資格を当然に有する」などとして行政不服審査法による手続を進めることは、上記の行政不服審査法の目的を逸脱するうえ、事実上、国土交通大臣の判断をもって沖縄県知事の判断に代えるもので、地方自治法が定める手続を回避する不服申立と言わざるを得ず、地方自治の本旨に悖るものであるから、慎重であるべきである。
4 日本弁護士連合会の、2013年11月21日、「普天間飛行場代替施設建設事業に基づく公有水面埋立てに関する意見書」、及び2015年10月13日、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立ての承認の取消しに関する会長声明」からも、本件承認には、法律的な瑕疵が存在し、瑕疵の程度も重大であり、沖縄県知事による本件承認の取消しは、法的に許容されることを指摘している。
また、当会は、1997年以来、毎年、沖縄米軍基地にかかわる被害・人権侵害等の状況について訪問調査を重ね、辺野古の現地視察や宜野湾市、名護市等からの聞き取りを行い、あるいは沖縄米軍基地をめぐる問題に関するシンポジウムを開催するなど、国による普天間飛行場代替施設建設事業が実施された場合の自然環境や住民の生活への影響、過剰な基地負担の固定化による被害等について調査研究を重ねてきた。
こうしたこれまでの経緯を踏まえたうえで、本件承認手続についての検証結果、自然環境の保全、住民の生活への影響、そして沖縄県民の意思などに鑑みれば、本件承認の取消しという沖縄県知事の判断には十分な理由がある。
よって、当会は、国に対し、かかる沖縄県知事の判断を尊重し、工事の続行をしないことを求めるものである。
以上
匿名希望
横田飛行場へのCV-22オスプレイの配備の中止を求める会長声明
2015年05月22日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭
日米両政府は、2015年5月12日、米空軍横田基地に2017年からCV―22オスプレイを配備する計画を発表した。
当会は、日米両政府に対し、横田飛行場へのオスプレイの配備計画の中止および普天間飛行場からのオスプレイの撤去と日本国内の領土におけるオスプレイの飛行の全面的中止を求める。
1 当会は、2012年10月の普天間飛行場へのMV-22オスプレイの配備にあたって、2013年2月25日付「普天間飛行場へのオスプレイの配備撤回及び国内におけるオスプレイの飛行の全面中止を求める会長声明」を公表し、横田飛行場へ飛来することに対して、「横田飛行場の周辺も市街地であり、オスプレイが墜落する事故が発生した場合に大惨事に至る可能性が高い点は、普天間飛行場と同様である」ことを指摘した。
2 MV-22については、上記会長声明でも指摘したとおり、開発段階から重大事故を繰り返しており、上記会長声明の後にも2013年8月にはネバダ州で着陸失敗後に炎上し、2014年10月にはペルシャ湾で一時的に動力を失った機体を脱出した隊員1人が死亡し、去る5月17日にはハワイでの墜落事故で乗組員2人が死亡している。
今回横田飛行場に配備が予定されている米空軍所属のCV-22も、構造上は既に普天間飛行場に配備されているMV-22と同様であり、オートローテーション機能(エンジンが停止した際に、下降によって生じる空気の流れで回転翼が自動回転し、安全に着陸する機能)の欠陥や、回転翼機モードと固定翼機モードの切替時の不安定さなど、専門家から構造上重大な危険をはらんでいると指摘されている。
米政府は、過去の墜落事故について、オスプレイの墜落事故は乗組員の人為的ミスであって機体自体には問題がないことを強調し、日本政府もこれを肯定しているが、重大事故が短期間のうちに続発している事実はオスプレイの危険性が極めて高いことを如実に示すとともに、操縦士のわずかなミスが墜落事故につながる点でオスプレイは極めて危険な機種であるといえる。
このような中でハワイにおける事故原因の究明と横田飛行場周辺自治体への説明がなされないまま配備計画が進むことは、人口密集地域の周辺住民の生命・身体等を重大な危険にさらすことになる。
3 また、CV-22は、米軍特殊作戦部隊の輸送を主な任務としており、夜間・低空飛行訓練を行うことが想定されているが、普天間飛行場では日米間で合意した運用ルールや騒音防止協定に違反する飛行訓練が多数目撃され、沖縄防衛局調査でも運用が制限される午後10時以降の飛行が2013年度には60回に及んでいるほか、2013年2月に飲料水ボトル、2015年3月にはアルミ製部品の各落下事故が発生しているが、2015年3月18日、宣野湾市が「MV-22オスプレイからの部品落下について」として沖縄防衛局長、外務省沖縄事務所沖縄担当大使、及び第三海兵遠征軍司令官・沖縄地域調整官へ行った求めに対しても具体的な再発防止策を示していない。普天間飛行場周辺の市民の基地負担は限界に達している。
上記会長声明で指摘をしたとおり、横田飛行場の騒音をめぐっては、最高裁判所を含め裁判所が過去に何度も受忍限度を超えて違法であると認定しているにも関わらず、さらに夜間・低空を含むオスプレイの飛行訓練が実施されることによって、周辺住民の生活により甚大な被害を生じさせることは普天間飛行場での現状から見ても明らかである。
さらに、輸送対象となる米軍特殊作戦部隊が沖縄に駐留していることからすれば、沖縄に飛来し訓練をする可能性があり、沖縄への飛来回数が増加して沖縄にもさらなる深刻な負担を強いることが懸念される。
4 上記のようにオスプレイ配備は、米軍基地周辺をはじめ米軍基地や飛行ルート周辺住民の生命・身体等に対する重大な侵害の危険を生じさせるものであり、憲法が保障する幸福追求権(13条)を侵害し、平和のうちに生存する権利(憲法前文、9条、13条等)の精神にも反するものであり、日本政府が、周辺自治体・住民への具体的な説明もないままに横田飛行場へのオスプレイの配備を受け入れることは容認しがたい。
5 オスプレイ配備問題をはじめとして米軍基地に派生する問題の根底には、我が国の主権の行使を制約している日米地位協定がある。日弁連は2014年2月20日「日米地位協定に関する意見書」を公表し、米軍に対しても航空法の適用等を求めている。
6 当会は、1997年以来、毎年、沖縄米軍基地にかかわる被害・人権侵害等の状況について訪問調査を重ね、2013年3月6日にシンポジウム「米軍機オスプレイ配備の法的問題点と運用実態~日本国の主権と市民の安全は守られているのか~」を開催するとともに、オスプレイ配備後の状況について宜野湾市等からの聞き取り調査を行ってきており、その危険性について認識している。これらを踏まえ、当会は、日米両政府に対し、横田飛行場へのオスプレイの配備計画の中止及び普天間飛行場からのオスプレイの撤去と日本国内の領土におけるオスプレイの飛行の全面的中止を求めるものである。
匿名希望
秘密保全法制定に反対する会長声明
2012年03月15日
東京弁護士会 会長 竹之内 明
昨年8月8日、「秘密保全のための法制のあり方に関する有識者会議」が「秘密保全のための法制の在り方について」と題する報告書を政府に提出し、これを受けて、同年10月7日「政府における秘密保全に関する検討委員会」は、平成24年1月招集の通常国会に法案を提出することを決定し、今通常国会における提出検討中の法案のリストに「特別秘密の保護に関する法案(仮称)」が挙げられており、今通常国会中にも同法案が提出される可能性がある。
しかしながら、有識者会議の報告書が提案する秘密保全法制は、主権者である国民の知る権利を奪い、国政の重要な情報を隠して民主政治の根幹を掘り崩すと同時に、憲法が保障する国民の表現の自由、取材、報道の自由、プライバシーの権利などを侵害することが明らかであり、その内容は、1985年に国民の強い反対で廃案となった国家秘密法案以上に危険であるから、このような法律の策定は絶対に認めることはできない。
まず、立法化されようとしている秘密保全法制は、中国漁船の海上保安艇への衝突映像のネットへの流出事件を契機としてなどを念頭に置いているとされるが、これは、国家秘密(特別秘密)の流出というべき事案とは到底言えず、むしろ、その映像を国民に公開しなかった政府の対応に問題があり、秘密保全法制を必要とする理由とはなりえないことは明らかである。
また、立法化されようとしている秘密保全法制は、①国の安全(防衛)、②外交に関する情報だけではなく、新たに、③公共の安全及び秩序の維持に関する情報をも特別秘密の対象としようとしている。
これには、国や地方自治体など行政機関が保有する重要な情報はすべて該当し、原発事故の被害の実情や危険性に関する情報などもこれに含まれることになろう。
福島第一原発事故の際のSPEEDI情報が秘匿されて公表されなかったことが被害を取り返しがつかないほどに拡大させたことを想起しても、「公共の安全及び秩序の維持」を名目に、国民にとって重要な情報が隠されることの理不尽は明らかである。
有識者会議の報告書は、「特に秘匿する必要性の高い情報」に限り「特別秘密」として保護すると言うが、秘匿の必要性の高・低はもっぱら行政機関により判断され、行政機関が「特別秘密」と指定しさえすれば、保護されてしまうから、行政機関にとって都合の悪い情報や知られたくない情報が「特別秘密」として秘匿される危険を何ら否定できない。
さらに、立法化されようとしている秘密保全法制は、罰側として、漏洩行為の過失犯、共謀、独立教唆、扇動まで広く処罰するとともに、新たに、「特定取得行為」と称する秘密探知行為も処罰しようとしている。
特に、「特定所得行為」は、犯罪行為(財物の窃取、不正アクセス、欺罔、暴行脅迫など)による特別秘密の取得行為だけでなく、「社会通念上是認できない態様の行為」による特別秘密の取得行為も処罰するというが、「社会通念上是認できない態様の行為」の概念は曖昧であり、夜討ち、朝駆けの取材行為まで、非常識で社会通念上是認できない行為として処罰の対象とされかねない。
これにより、取材活動を萎縮させることは明らかであり、報道機関の取材・報道の自由を侵害するとともに、主権者である国民の知る権利をも侵害することになる。
報道によると、国会議員にも特別秘密についての守秘義務を課し、これに違反した場合には処罰することが検討されている。国政の重要な事柄が、主権者である国民の監視下に置かれることが民主主義の基本であるが、国民がこれらの情報から遠ざけられ、批判・監視ができなくなれば、民主主義は崩壊しかねない。
有識者会議の報告書は、秘密情報を扱う者の「適性評価制度」の導入を提案しているが、そのための調査は、人定事項(住所、氏名など)から、学歴・職歴、我が国の利益を害する活動(暴力的な政府転覆活動、外国情報機関による情報収集活動、テロリズム等)への関与の有無など広く及ぶことになる。加えて、その配偶者など、身近にあって対象者の行動に影響を与える者までも調査の対象となる。指定される「特別秘密」は広範であり、公務員に限らず、広く研究者、民間の技術者・労働者も対象となる。
秘密情報の管理が厳格でないと疑われると、適格性なしと評価されて担当職務から排除されたり差別的取扱いをされる危険もあるから、適性評価制度による人権侵害の危険は深刻である。
有識者会議の報告書は、業務により特別秘密を取り扱う者(取扱業務者)が特別秘密を漏えいした場合に、5年又は10年以下の懲役刑により処罰することを提案していたが、現在、政府では、10年以下の懲役刑を選択することを検討していると報道されている。これは、初犯者でも実刑になるという大幅な重罰化であり、過失犯も処罰されることから、秘密情報を取扱者を萎縮させるとともに、取材活動を行う記者やフリージャーナリストに対しても萎縮的効果を与えるものである。
以上から、立法化されようとしている秘密保全法制は、民主政治の根幹を揺るがし、憲法に保障された国民の人権を侵害することが明らかであるから、当会は、政府による法案の国会提出に対しては強く反対する。