匿名希望
「改正京都府個人情報保護条例」についての意見書(2006年5月30日)
京都府議会議長 殿
京都府知事 殿
京都府教育委員会委員長 殿
京都府選挙管理委員会委員長 殿
京都府人事委員会委員長 殿
京都府監査委員 殿
京都府公安委員会委員長 殿
京都府警察本部長 殿
京都府労働委員会会長 殿
京都府収用委員会会長 殿
京都府海区漁業調整委員会会長 殿
京都府内水面漁場管理委員会会長 殿
京都府個人情報保護審議会委員長 殿
2006(平成18)年5月30日
京都弁護士会
会長 浅岡 美恵
京都府は、2005(平成17)年12月の府議会において、京都府個人情報保護条例を改正し、同条例は2006(平成18)年4月1日から施行された(以下、当該改正前のものを「旧条例」、改正後のものを「新条例」という。)。
本会は、旧条例の制定および改正について、これまでにも意見を述べてきたところであるが、今回、かかる条例改正について、改めて以下のとおり意見を述べる。
第1 意見の趣旨
1 京都府議会に対し、センシティブ情報収集禁止原則の例外、本人収集原則の例外、目的外利用・提供禁止原則の例外の各規定が、公安委員会及び警察本部長以外の実施機関に適用されないように条例を速やかに改正するよう求めるとともに、各実施機関(公安委員会及び警察本部長を除く)に対し、条例改正までの間も、従前どおり上記規定による例外を認めない運用とすることを求める。
2 公安委員会及び警察本部長に対し、新条例がセンシティブ情報の収集等につき新たな権限を付与するものではないことに留意し、個人情報の取り扱いについて慎重に行うことを求める。
3 各実施機関及び個人情報保護審議会に対し、「公共の安全と秩序の維持」(意見の理由4(1)参照)目的という例外規定の運用について、早急にガイドラインを作成するなど限定化、明確化するための措置を講ずることを求める。
第2 理由
1 今回の改正内容
本年4月1日から施行された新条例には、以下の内容が新たに盛り込まれることとなった。
実施機関の範囲の拡大
実施機関に、公安委員会と警察本部長が追加された。
センシティブ情報収集禁止原則の例外規定の追加
「思想、信条及び信教に関する個人情報、個人の特質を規定する身体に関する個人情報並びに社会的差別の原因となるおそれのある個人情報(以下、「センシティブ情報」という。)」の収集は原則禁止とされているところ(旧条例4条3項本文・新条例4条3項本文)、その例外として、従前は、(a)「法令等に基づくとき」(旧条例4条3項ただし書き)、(b)「京都府個人情報保護審議会の意見を聴いて行うとき」(旧条例4条3項ただし書き)のみが規定されていたが、新条例では、これらに加えて、(c)「個人の生命、身体又は財産の保護のため緊急かつやむを得ないと認められるとき」(新条例4条3項ただし書き2号)、(d)「犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持(以下、「犯罪の予防等」という。)を目的とするとき」(同3号)が追加された。
本人収集原則の例外規定の追加
個人情報の収集は、原則として本人から収集しなければならないところ、その例外として、「犯罪の予防等を目的とするとき」(新条例4条4項ただし書き5号)が追加された。
個人情報利用・提供禁止原則の例外規定の追加
収集目的以外の目的のために個人情報を利用・提供することは原則として禁止されているところ(旧条例5条1項本文)、その例外として、「犯罪の予防等を目的とするとき」(新条例5条1項ただし書き4号)が追加され、同様に、オンライン提供原則禁止の例外として「犯罪の予防等を目的」とする場合(新条例6条1項3号)、および、個人情報取扱事務登録の適用除外事務として「犯罪の予防等に係る事務」(新条例11条5項3号)が追加された。
不開示事由の追加
個人情報の不開示事由として、「犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがあると公安委員会又は警察本部長が認めることにつき相当の理由がある」場合(新条例13条2項3号)が追加された。
個人情報存否応答拒否規定の新設
従前から、実施機関の保有する個人情報について、開示請求(旧条例12条)、訂正請求(旧条例19条)、利用停止請求(旧条例22条)により、個人がどのような情報を保有されているのかを知り、誤った情報や不正な利用・提供などについて是正する方法が保障されていたところ、新条例では、上記3つの手続きすべてにおいて、「個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、……不開示情報を開示することとなるとき」(新条例13条の2、19条の2、22条の2)には、個人情報の存否応答を拒否できるという規定が新設された。
2 意見の趣旨1について
(1) 上記1のとおり、今回の改正によって公安委員会と警察本部長が実施機関に追加された。これは、公安委員会及び警察本部長についても個人情報保護条例による個人情報保護のための規制を及ぼそうとするものという意味では評価できる。
この点、「京都府個人情報保護条例の実施機関の範囲についての提言」(平成17年9月京都府個人情報保護審議会)(以下、単に「提言」という。)1(1)イにおいても、「公安委員会及び警察本部長においては、膨大かつ高度の秘匿性が要求される個人情報を取り扱っており、個人情報の適正な取り扱いを確保し、個人情報の権利利益の保護を図る必要性は、京都府の他の実施機関と異なるところはなく、むしろ取扱う個人情報の内容を考慮すれば、個人情報の適正な取扱いの確保等に係る要請は他の実施機関に比べて高いというべきである」とされており、かかる規制の必要性の考え方それ自体については異論がない。
(2) そもそも、自己の個人情報をコントロールする権利は憲法13条により保障されたものである。条例が、個人情報の収集目的・根拠の明確化、目的達成に必要最小限度の収集(4条1項)、適法かつ公正な収集手段(同条2項)を規定するとともに、センシティブ情報収集禁止原則、本人収集の原則、目的外利用・提供禁止原則等を定めているのはここから導かれるものである。特に、センシティブ情報は、人の人格の核心に直結した情報であり、あるいは社会的差別に容易につながるおそれのある情報であることから、その収集は原則として行ってはならず、必要性が認められる場合であっても必要最小限度とされるべきである。
(3) 新条例では、公安委員会及び警察本部長を実施機関に追加したことに伴い、上記1のとおり、センシティブ情報の収集禁止原則、本人収集原則、目的外利用・提供の禁止原則についての例外規定が設けられた。
これらの例外規定は、公安委員会及び警察本部長が犯罪捜査等を責務としており、その扱う個人情報の内容について秘匿性が強く求められること、都道府県警察は警察庁長官の指揮監督に服することなどの特殊性から設けられたものと考えられる(提言1(1)エ参照)。そうであれば、これらの例外規定が適用される実施機関は、公安委員会及び警察本部長のみに限定されるべきである。
ところが、新条例の上記1の規定は、公安委員会及び警察本部長のみならず、その他のすべての実施機関に及ぶ形で規定されている。これは、広範に例外を認めることにつながり、原則と例外を逆転させるおそれがある。
(4) 以上のとおり、前記の憲法および条例の趣旨からするならば、センシティブ情報収集禁止原則の例外(新条例4条3項ただし書き3号)、本人収集原則の例外(同条4項ただし書き5号)、目的外利用・提供禁止原則の例外(新条例5条1項但し書き4号)は、公安委員会と警察本部長についてのみ適用があるよう、速やかな条例改正により限定されなければならず、条例改正までの間も同様の運用がなされなければならない。
なお、他府県、たとえば新潟県においては、犯罪の予防等目的という例外は、「公安委員会又は警察本部長が事務を行うとき」に限定した規定の仕方をしており、このような規定の仕方は十分に可能である。
3 意見の趣旨2について
(1) センシティブ情報の収集について、旧条例においては、実施機関は、法令等に基づくときであるか、第三者機関である個人情報保護審議会の意見を聴かなければ、これを収集することができなかった。
しかし、新条例4条3項ただし書き3号に列挙された目的は、警察法2条1項後段に規定された警察の責務と同様であり、かつ、同号においては個人情報保護審議会の意見を聴くことが要件とされていないため、実質的には公安委員会及び警察本部長によるセンシティブ情報収集については何の制限も課していないかのような規定ぶりとなっており、原則と例外が逆転してしまっている。
しかしながら、警察の責務は、司法警察、行政警察、警備警察、公安警察と広範に及んでおり、これらのすべてについてセンシティブ情報の収集を無限定に認めることは必要性もなく、却って濫用のおそれが極めて大きい。
もちろん、前記2で述べた憲法及び条例の趣旨からすれば、新条例の規定が公安委員会及び警察本部長に新たな権限を付与するものではなく、他の法令等に基づく正当な権限があって初めて収集できるものであることは当然である。
京都府も、センシティブ情報収集の禁止原則に例外を設けるべきではないとのパプリックコメントに対して、「警察による個人情報の収集・利用等も正当な権限の範囲内で行わなければならないことは当然の前提となっています」と答え、また、府議会総務常任委員会において、猿渡総務部長も、新条例4条3項ただし書き2号・3号は「新たな権限を付与するものではない」ことを明言している。
(2) 以上のとおり、新条例が公安委員会及び警察本部長に対してセンシティブ情報収集についての新たな権限を付与するものではないことに留意し、公安委員会及び警察本部長による個人情報の取扱いは慎重に行われなければならない。
4 意見の趣旨3について
(1) 上記1のとおり、新条例では、「犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持(以下「犯罪の予防等」という。)」(4条3項ただし書き3号、同条4項5号、5条1項4号、6条1項3号、11条5項3号、同条6項)、「犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持」(13条2項3号)など「公共の安全と秩序の維持」という概念が多用されている(以下、これらの概念を合わせて「公共の安全と秩序の維持」という。)。
かかる「公共の安全と秩序の維持」を目的として個人情報を収集・利用・提供する場合、結果として、条例における重要な規制をいずれも受けないような規定ぶりとなっている。
(2) 「公共の安全と秩序の維持」とは、警察法2条1項後段の文言から来ているものと考えられるが、その概念の外延は決して明確でない。
社会情勢の変化に応じて「公共の安全」や「秩序」の内容は変わり得るところ、条例上、当該目的該当性の判断を実施機関自体に委ねており、社会的少数者の個人情報保護がないがしろになされる可能性が懸念される。
(3) 「公共の安全と秩序の維持」概念の多用について、京都府は、既に警察法2条1項によって認められている警察の権限の行使に新たなルールを条例によって加えるものである旨の説明を行っている。
しかし、そもそも警察法2条1項は、警察の一般的な責務を定めた規定であり、これを一般的な権限規定と見ることができるかは疑問の余地が残るところである。同条項は組織法にすぎず、個々の警察活動の一般的な権限規定と見ることはできないと考える学説も有力である。
権限規定か否かという点をおくとしても、憲法上、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、……最大の尊重を必要と」(13条後段)されるのであるから、権利自由の制限は必要最小限度に留められなければならないのは自明の理であるから、事柄に応じた適切な取扱いを個々に定めるべきである。
この点、提言では、「例外規定の内容は、個人情報保護という基本的人権に関わるものであることから、できる限り限定的で明確にすべきであり、将来的には警察業務の特殊性を考慮しつつ公的な利益と個人の基本的人権との調整点をより具体化した形で調整し、規定することが適当である。」(提言1(1)オ)と将来的課題として先送りされている。
しかし、個人情報保護の重要性に鑑みるならば、決して将来的課題として放置するべきではなく、一刻も早く限定化、明確化の検討を行い、「公共の安全と秩序の維持」という一般的、包括的概念による実質的な条例の適用除外の状態をなくすべきである。たとえば、提言も、「警察法第2条第1項後段に係る事務のすべてについて一律に例外規定を適用することは適当ではなく、運転免許証の発給や道路使用許可申請受理等の事務については、他の実施機関と同様に取り扱うことを考慮すべきである。」(提言1(1)オ)としているように、個人情報保護審議会の諮問を経て、ガイドラインの作成をすることなどにより、個人情報取扱事務単位での実務の運用に沿った限定化、明確化は可能と考えられる。
(4) 以上のとおり、「公共の安全と秩序の維持」目的という例外規定の運用について、早急にガイドラインを作成するなど限定化、明確化するための措置を講ずることを求める。
匿名希望
取引履歴開示についての金融庁ガイドライン改正に対する意見書(2005年8月18日)
2005年(平成17年)8月18日
金融庁長官 五 味 廣 文 殿
京都弁護士会
会 長 田 中 彰 寿
取引履歴開示についての金融庁ガイドライン改正に対する意見書
意 見 の 趣 旨
1 貸金業者の取引履歴開示義務は信義則(民法1条2項)に基づくものである旨を明記するべきである。
2 取引履歴開示請求の際の顧客本人の確認手続きの明確化については、以下の方法による場合には、顧客本人及び本人から依頼を受けた代理人としての確認方法としては十分かつ適切なものと明記するべきである。
? 顧客本人が取引履歴の開示を求めた場合には、本人の生年月日、本籍、住所等、通常、本人しか知り得ない情報を即座に正確に回答したとき
? 顧客の代理人として、弁護士・司法書士が取引履歴の開示を求めた場合には、生年月日、住所等本人特定情報及び委任を受けた旨を記載し、かつ、所属弁護士会・所属司法書士会、事務所所在地、職名、代理人氏名等を記した代理人就任通知書の提出があったとき
3 貸金業者が顧客又は顧客の代理人たる弁護士・司法書士の求めに応じて取引履歴の開示に応じる場合に、手数料、謄写代等名目の如何を問わず費用を請求してはならない旨を明記するべきである。
意 見 の 理 由
1 金融庁ガイドライン改正案作成の経緯と概要
金融庁は貸金業関係の取引履歴開示に関して別添資料のようなガイドライン改正案を策定し、平成17年9月2日までをパブリックコメントの期間としている。金融担当大臣は、同年8月12日の記者会見で、「先般7月19日に最高裁において貸金業が債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、特段の事情がない限り信義則上取引履歴を開示する義務を負うとの趣旨の判決が出されました。」「今般の最高裁判決を受け、事務ガイドラインにおいても正当な理由に基づく開示請求を拒否した場合には、行政処分の対象となり得ることを明確化することといたしたところでございます。」「なお、これに併せて弁護士等の代理人を通じる場合を含め、取引履歴の開示が求められた際の本人確認の手続きについても明確化することといたしました」と発表しているが、本件ガイドラインの内容は最高裁判決の趣旨とは大きく異なっている。
今回の取引履歴開示に関するガイドライン案の内容は、取引履歴開示拒否が行政処分の対象になることが明記されたことと、取引履歴開示の本人確認手続きの定めに分けられる。後者の内容は、顧客本人が開示請求をする場合には、いわゆる本人確認法施行規則4条記載の書類(以下「本人確認書類」という)、例えば、印鑑登録証明書、外国人登録証明書、戸籍抄謄本、住民票、各種健康保険証、各種年金手帳、運転免許証等の原本提出を求めている。
また、顧客の代理人が開示請求をする場合には、イ、本人確認書類(写しを含む)に加えて、ロ、委任状原本が必要とされる。当該委任状は本人確認書類の原本が提出された場合には認め印による押印で足りるが、本人確認書類が写しである場合には実印による押印が必要とされ、この場合、印鑑登録証明書は当然に必要とされよう。さらに、ハ、代理人確認書類としては委任状に事務所住所、電話番号等の連絡先が記載されていることを必要としている。
2 取引履歴開示義務が信義則を根拠とする趣旨の明記について
貸金業の規制等に関する法律第13条第2項で禁止されている「偽りその他不正又は著しく不当な手段」に該当するおそれが大きい行為として事務ガイドライン3−2−2に列挙している事項に、顧客等の弁済計画の策定、債務整理その他の正当な理由に基づく取引履歴の開示請求に対してこれを拒否すること、を加えて貸金業者の取引履歴開示義務を明確化することは賛成である。
しかし、改正ガイドライン案は取引履歴開示の根拠として、3−2−8(1)本文で「個人情報保護法の趣旨を踏まえ」としているが、取引履歴開示義務と個人情報保護法とは無関係である。すなわち、個人情報保護法が施行される平成17年4月1日の何十年も以前から、多重債務者から依頼を受けた弁護士が、破産・任意整理・過払い金返還請求等(以下「債務整理」という)の依頼を受けて受任し、貸金業者等に対し、受任通知を出し、依頼者の取引履歴の開示ないし債権調査票の提出を求めた場合、貸金業者等はこれに応じてきたし、まして手数料を要求することもなかった。弁護士が受任していない案件につき受任通知を出すことはないから、委任状の写しの提出も求められることもなかった。
この従前の実態を前提に平成17年7月19日言い渡しの最高裁判決は、貸金業法19条が貸金業者に帳簿の作成・備え付け義務を課しているのは、債務内容に疑義が生じた場合には紛争を速やかに解決することを図った趣旨であるし、金融庁事務ガイドライン3−2−7が債務内容の開示に協力しなければならない旨記載されていたのも貸金業法の趣旨を踏まえたものと解している。また、同判決は、顧客がその債務内容を正確に把握できない場合には、弁済計画を立てることができなくなったり、過払金があるのにその返還が請求できないばかりか、さらに弁済を求められるなど大きな不利益を被る可能性があるのに対し、貸金業者には特段の負担は生じないとして信義則を根拠として開示義務を認めたのである。
従って、貸金業者の取引開示義務は個人情報保護法とは無関係な法的性質をもっており、同法の、「他の法令の規定により開示することとされている場合」(同法25条3項)に該当し、個人情報取扱事業者が本人からの個人情報の開示等の求めに応じる手続きを定めることができる旨定めている規定(同法25条1項、29条1項、3項、4項)から除外される場合である。
よって、無用な混乱を避けるために取引開示義務の根拠が信義則にあることを明記するべきである。
3 本人確認手続きについては従来通りの扱いで足りる旨を明記するべきである
本人確認手続きに関する今回の金融庁改正ガイドライン案は、最高裁の前記趣旨を踏みにじるものである。すなわち、従来、多重債務者から依頼を受けて案件処理にあたってきた弁護士は、受任通知書の送付のみで事務を遂行してきたし、特段、それで問題が生じた事例はほとんどなかった。前記最高裁判決はその実態を是認したのである。しかるに、金融庁改正ガイドライン案は、前記の通り、本人確認書類をいわゆる本人確認法施行規則4条に準拠して提出することを求めている。最高裁が認めた取引履歴開示請求を事実上制限しようという趣旨である。従前の取り扱いで明確化を欠くところなど全くなかったのであるから、今回の改正ガイドライン案は、明確化とは無関係なもので開示請求に障壁を設ける結果となってしまうことは明白である。
改正ガイドライン案が依拠している本人確認法は、その1条の目的で明記されているように、テロに対する資金供与や組織犯罪に対する資金供与等が金融機関を通じてなされること、及び預金口座等の不正利用を防止することを目的としている。債務者が自己の債務内容の詳細を知るための行為について、犯罪行為に関係する行為規制法に依拠させることは筋違いであるだけでなく、債務者に過重な負担を強いるものであって不当な扱いである。
よって、従来どおり、以下の場合には確認方法としては十分かつ適切なものと明記するべきである。
? 顧客本人が取引履歴の開示を求めた場合には、本人の生年月日、本籍、住所等、通常、本人しか知り得ない情報を即座に正確に回答したとき
? 顧客の代理人として、弁護士・司法書士が取引履歴の開示を求めた場合には、生年月日、住所等本人特定情報及び委任を受けた旨を記載し、かつ、所属弁護士会・所属司法書士会、事務所所在地、職名、代理人氏名等を記した代理人就任通知書の提出があったとき
4 手数料等費用の請求をしてはならない旨明記するべきである
貸金業が顧客等から開示請求を受けた場合、手数料、謄写代等名目の如何を問わずに費用請求を許すことは、経済的に困窮している債務者にとって開示請求を事実上困難にするものである。他方、貸金業者にとって、「保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり」(前記最高裁判決)、特段の経済的負担を課すようなものではない。
貸金業者が顧客又は顧客の代理人たる弁護士・司法書士の求めに応じて取引履歴の開示に応じる場合に、手数料、謄写代等名目の如何を問わず費用を請求してはならない旨を明記するべきである。
以 上