新潟県弁護士会
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秘密保全法制定に反対する総会決議
第1 決議の趣旨
当会は、現在政府がめざしている秘密保全法制に反対であり、秘密保全法案やその関連法案が国会に提出されないよう強く求める。政府は直ちに法案化作業をとりやめるべきである。
第2 決議の理由
1 はじめに
政府は、昨年8月の「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」の「報告書」を受け、「情報保全に関する検討委員会」による法案化作業を経たうえ、国会に秘密保全法制関係法案を提出しようとしている。報告書の提起する法制は、国民の知る権利、取材・報道の自由、思想信条の自由、プライバシー権など憲法の保障する基本的人権を侵害し、国民主権を否定する危険性を有するものである。その一方、法制化の必要性を裏付ける立法事実に関しては、その検証は論外といっていいほど不十分である。
基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体である当会は、このような秘密保全法制そのものに対して反対であり、その国会への上程に強く反対する。
政府が本通常国会への法案提出を断念した旨の報道もあるが、法案化のための作業はまだ継続しているものと推認される。政府は直ちに法案化作業をとりやめ、秘密保全法の制定を断念してこれを公表すべきである。
2 広範囲の重要な情報が国民から隠される危険性
報告書は、「我が国の利益を守り、国民の安全を確保するためには、政府が保有する重要な情報の漏えいを防止する制度を整備する必要がある」といい、秘密とすべき事項の範囲を「①国の安全、②外交、③公共の安全及び秩序の維持」の3分野とし、「特別秘密」として保護すべき情報を指定するのは当該情報の作成・取得主体である各行政機関等であるとしている。
本来国政に関する情報は主権者である国民に対し原則として公開されるべきところ、この法制が成立するとあらゆる分野の情報を対象として行政機関の恣意的な判断によって特別秘密に指定される危険性がある。例えば、福島第一原子力発電所の事故に関する政府や東京電力の情報管理と運用の実態などに照らすと、情報保有者に不都合な情報が国民の目から隠されてしまうことの危険性が、抽象的な杞憂の範疇にとどまらないものであることは明らかである。
3 取材や報道の自由が制約され国民の知る権利が侵害される危険性
報告書は、犯罪行為のみならず「社会通念上是認できない行為」を含む取得行為も「特定取得行為」として処罰の対象としている。また、実際に漏洩行為が行われたか否かにかかわらず、共謀、教唆、煽動行為を独立犯として処罰するとしている。
メディアの取材行為も処罰の対象とされる可能性がある。取材の自由が規制され、自己規制的に取材活動が萎縮することになり、国民に必要な情報がもたらされなくなり、ひいては主権者である国民の知る権利が侵害される危険性がある。
4 「適性評価」の名の下に国民のプライバシー等が侵害される危険性
報告書は、特別秘密を取り扱う予定の者(以下、取扱者という)の適性を判断するため、「適性評価制度」を創設し、取扱者のみならずその家族や交際者等に関するプライバシー情報を行政機関等が収集することを認めている。また、報告書は、適性評価の観点として、「我が国の不利益となる行動をしないこと」を掲げ、調査事項として「我が国の利益を害する活動への関与」等をあげている。
特別秘密が広範囲であるうえ、取扱者の範囲や調査対象の範囲も無限定であり、「適性評価」の名のもとに行われる情報収集活動によるプライバシー侵害が無限に広がる危険性を秘めている。
また、「我が国の利益」は何かについては議論が分かれており、行政機関等が国益に反すると恣意的に判断することにより、思想・信条等を理由とする差別が行われる危険性がある。
5 裁判を受ける権利や弁護人選任権が侵害される危険性
国民には公平な裁判所において迅速かつ公開の裁判を受ける権利が保障されており、被疑者被告人には弁護人を選任する権利が保障されている。
しかし、秘密保全法違反の刑事裁判の場合には、「特別秘密」の立証を、もっぱら外形立証により推認させる方法によることが予想され、被疑者被告人側にとって「実質的に秘密として保護すべき情報といえるのか」という主張立証が極めて困難となり、どのような事実が争点となっているかも明らかにされないまま裁判が進行し、実質的に公開原則違反及び裁判を受ける権利が侵害される。
また、秘密保全法違反の弁護人は、被告人が接した情報が「特別秘密」にあたるのか否か、保護されるべき実質秘なのかを調査するために当該情報の関係者に聴き取りを行う場合も、特別秘密の特定取得行為または漏えいの教唆行為として秘密保全法違反とされてしまう危険性がある。そうすると、弁護人の弁護活動は委縮し、ひいては被疑者・被告人の弁護人選任権や裁判を受ける権利が侵害される危険性がある。
6 立法の必要性は検証されていない
有識者会議は、秘密保全法の立法の必要性を、「国の安全や国民の安全を確保するとともに、政府の秘密保全体制に対する信頼を確保する観点から、政府が保有する特に秘匿を要する情報の漏えいを防止することを目的として、秘密保全法制を早急に整備すべきである」と説明している。
また、政府の検討委員会は、この点に関して、「情報漏えいに関する脅威が高まっている状況及び外国との情報共有を推進していくことの重要性」などといっている。
これらはいずれについても、極めて抽象的な言及にとどまっていてその検証は論外といっていいほど不十分である。秘密保全法制の規制により危殆にさらされようとしているのは、思想良心の自由、表現の自由、プライバシー権といった、国民主権主義の根幹をなす人権である。立法事実の緻密な検証なしにかかる法制が設けられることは、わが国の民主主義と自由主義に対し、深刻な脅威をもたらすことが必至である。
他方、秘密の保全は、現行法においても、国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法等の規定により十分に対応が可能であるという事実を想起するなら、秘密保全法制定のための立法事実は十分に検証されておらず、制定の必要性はまったく裏付けられていないことは明らかである。
7 国民が主権者として判断するためには、情報開示の姿勢こそが望まれる
報告書が「特別秘密」とする「①国の安全、②外交、③公共の安全及び秩序の維持」こそ、国民が主権者として判断することが必要な事項である。何が我が国の利益になるか、何が国民の安全になるかについて、国民が判断するためには、政府が保有する情報を広く開示していくことこそが望まれる在り方であり、その統制に向かおうとする姿勢は、方向性をまったく間違えているといわざるをえない。
よって以上のとおり決議する。
2012年5月18日
新潟県弁護士会定期総会
死刑執行に抗議する会長声明
声明の趣旨
平成24年3月29日、約1年8か月ぶりに3名の死刑囚に対し、死刑の執行がなされた。この点に関し、新潟県弁護士会会長として、以下のとおり声明する。
1 死刑の執行が、執行に反対する意見において提起されてきた多くの疑問点について十分に議論することなく、意見の趣旨を軽視して断行されたことについては、極めて遺憾である。
2 国会は、死刑の執行を一時的に停止する法律の制定に向けて最大限の努力をして実現にこぎつけるべきである。
3 国会は、死刑判決の確定後6か月以内に法務大臣が執行命令を出さなければならないとする刑事訴訟法475条2項を削除する立法をすみやかに行うべきである。
声明の理由
1 わが国において、死刑の執行は、千葉景子元法務大臣時代の平成22年8月に執行された後、その後4代の法務大臣からは命令が発せられず、約1年8か月間にわたり執行されないまま推移してきた。しかるに、小川敏夫現法務大臣は、就任直後から「大変つらい職務だが、その職責をしっかりと果たしていきたい」等とのべて積極姿勢を示唆し、就任後約2か月にして、執行命令をするに至った。
2 法務大臣の決断の背景には、死刑制度が現存し、適正な裁判手続を経て死刑判決が確定した以上、法が適正に運用されていることを示すためには死刑を執行しなければならないとの判断があったものと推認される。
しかし、わが国では確定した判決に基づく刑が、死刑判決以外は概ね適正に執行されて治安も維持されているのであり、反対意見が少なくないにもかかわらず、この時期に死刑を執行しなければならない必然性があったとは考えられない。
新潟県弁護士会は、平成21年5月20日開催の総会で、「裁判員裁判施行にあたり多数決による死刑評決に反対し、死刑制度の見直しを求める決議」を賛成多数で可決し、その中で、政府・法務省に対し、死刑制度について、国内外から指摘を受けている問題点に対し、早急に、改善のための具体策を明らかにすることを求めた。また、国会に対しては、死刑廃止も含めた検討を行うことと、その間、法務大臣による死刑の執行を一時的に停止する法律を速やかに制定することを求めた。
今回の死刑執行は、かかる決議の趣旨を踏みにじるものであり、極めて遺憾である。
3 死刑執行によって失われるのは、かつて最高裁判所が「地球よりも重い」と表現したことのある人命である。命の大切さという観点からは、死刑囚であることの一点のみをもって他の人とは違うということはいえない。政府・法務省は、国政の運営にあたり、あらためて生命の尊厳ということに思いを至らせるべきである。
4 死刑制度の存廃論については多くの意見があり、新潟県弁護士会の中でも、意見が一つにまとまっているわけではない。存置論にも廃止論にもそれなりの根拠はある。しかし、命の大切さ、生命の尊厳に対する思いは、双方の論者に共通するはずである。そうであればこそ、死刑の執行を一時的に停止して、この問題を国民全体で広範に議論する機運を盛り上げることこそが正しい道筋である。
5 全国の刑務所に収監されている死刑囚の数は、今回の3人の執行後でも132人と言われている。歴代法務大臣の多くが在任中執行命令を出さないままで任期を終えている。もともと訓示規定であるとはいうものの、刑事訴訟法475条2項本文は守られず、事実上空文化している。その原因は、死刑の執行が、生命の尊厳を尊重するという国家の基本理念に関わる問題であることにあるとみるべきであろう。死刑執行命令を出すかどうかは、現実には、法務大臣の個人的な信条や政治理念に左右されている。命令を出した法務大臣は、苦悩したうえで決断したとしても、死刑制度に反対する人たちから強い非難を受ける。こうしたことは、法治国家としては異常な事態であるといわなければならない。このような事態を打開することは立法府である国会の責務である。国会は、速やかに刑事訴訟法475条2項を削る立法を行い、同時に、死刑の執行を一時的に停止する法律の制定に向けて最大限の努力を開始し、必ずその実現にこぎつけるようにすべきである。
2012年(平成24年)4月6日
新潟県弁護士会
会 長 伊 藤 秀 夫
秘密保全法制定に反対する会長声明
有識者会議の「秘密保全のための法制の在り方について」(以下「報告書」という。)を受けた政府の検討委員会は、2011年(平成23年)10月7日、「秘密保全に関する法制の整備について」を決定し、秘密保全に関する法制(以下「秘密保全法」という。)の法案化を進めることとした。
秘密保全法は、①国が、重要な情報を「特別秘密」に指定し、②指定した「特別秘密」の取扱者を選定し(適性評価制度)、③「特別秘密」を漏えい・取得等した者を処罰する法律である。しかし、同法は、国民の知る権利、取材・報道の自由、プライバシー権など憲法上の人権を侵害する極めて問題のある法律であり、立法の必要性も存在しない。
当会は、秘密保全法制定には反対であり、法案が国会に提出されないよう強く求めるものである。
1.内容不明確かつ恣意的に決められる「特別秘密」
(1) 報告書によると、秘密保全法で保護される「特別秘密」は、「国の安全、外交、公共の安全及び秩序の維持」の三分野のいずれかに関わる、秘匿の必要性の高い情報と定義され、何が「特別秘密」に該当するかは、当該情報を扱う行政機関等が判断するとされている。
(2) しかし、三分野に関する情報は極めて広範囲で、秘匿の必要性という限定も機能しない。そのため、「特別秘密」の意義は不明確で、明確性の原則(憲法21条1項)及び罪刑法定主義(憲法31条)に違反する。また、行政機関等に都合の悪い情報は、全て「特別秘密」とされるなど、行政機関等の恣意的な運用の危険性が大きい。
2.「適性評価」の名の下に多くの国民のプライバシーを侵害する
(1) 報告書によると、指定された「特別秘密」を保全するため、誰が当該情報を取り扱うにふさわしいかを判断する制度として、適性評価制度を導入する。
(2) しかし、同制度は、対象者及びその家族等のプライバシー情報を行政機関等が収集することを認める。対象者及びその家族等の範囲が広範囲に広がることも併せると、適性評価制度は、不特定多数の国民のプライバシー権(憲法13条)を侵害する。
3.内部告発を抑制し、取材・報道の自由、知る権利を侵害する
(1) 報告書によると、「特別秘密」の外部流出について、秘密漏えい、特定取得行為、教唆(独立教唆含む)・共謀・煽動を処罰する規定を設けている。
(2) しかし、「特別秘密」の定義は不明確かつ広範囲である上、「特定取得行為」の概念も犯罪に至らない「社会通念上是認できない行為」としており極めて不明確である。また、共謀・煽動も処罰対象としていること等から、内部告発により国民に重要な情報を公開することを抑制するとともに、内部告発を働きかける報道機関の取材の自由や報道の自由を侵害し、ひいては国民の知る権利(憲法21条1項)を侵害する。
4.弁護人選任権を侵害する
秘密保全法違反の被疑事件や被告事件の弁護人が、被疑者・被告人の接した情報について、それが「特別秘密」に該当するか否かを調査するために関係者から聴き取りを行うことも、秘密保全法違反とされるおそれがある。そうすれば、弁護人の弁護活動は制約され、被疑者・被告人の弁護人選任権(憲法37条3項)を侵害する。
5.立法の必要性は存在しない
秘密の保全は、現行の国家公務員法・自衛隊法等による罰則で十分対応できる。過去の秘密漏えい事件も、秘密を漏えいした公務員に対する起訴猶予処分や、執行猶予付きの有罪判決等の比較的軽い処罰で済んだものがほとんどである。
そうすると、そもそも厳罰化等の要請はないといえ、秘密保全法を制定する必要性はない。
2012年(平成24年)3月27日
新潟県弁護士会 会 長 砂 田 徹 也
刑事公判中の偽証嫌疑による証人逮捕・勾留に関する会長声明
現在、新潟地方裁判所新発田支部に係属中であり、被告人が無罪を主張している窃盗等被告事件において、弁護側の証人として被告人のアリバイを証言した者が、平成24年1月27日、偽証の疑いで逮捕され、その後勾留された。
しかし、無罪主張をしている事件の公判係属中に証人を偽証の嫌疑で逮捕・勾留することは、公判中心主義、当事者対等主義の原則に背くものであり、極めて不当である。検察官は、証人の証言の信用性については、法廷において弾劾すべきであって、証人逮捕という強権的な方法を取るべきではない。
今回のような事態が繰り返されれば、刑事事件の法廷で証言しようとする証人に対し、検察側に沿った証言をしなければならないという心理的圧力を与え、証人は記憶に従った自由な証言ができなくなる。その結果、真実発見が阻害され、誤った判決を導く危険性が高まり、ひいては被告人の公正な裁判を受ける権利が奪われることになる。
仮に偽証が疑われる場合であっても、証人が証言した裁判の公判係属中に当該証人の身柄拘束等を伴う強制捜査を行うことは、極力謙抑的であるべきで、安易に行うべきではない。本件でも、罪証隠滅の余地が乏しく、また、逃亡する可能性が低く、勾留の必要性があるとは認められないとして、準抗告により勾留決定が取り消されている。
日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、昭和43年の第11回人権擁護大会において、いわゆる八海事件などの刑事事件公判中、偽証嫌疑による証人の逮捕が行われたことを受け、被告人が無罪を主張する事件の公判係属中においては、「検察官は公訴事実の立証につき証人逮捕という権力的な方法をとらず、他の合理的方法によるべきである。」と決議し、法務大臣及び検事総長に対する要望として執行している。
平成13年1月17日には、検察側証人が公判前に供述していた内容とは異なる証言をしたとして、同事件の被告人が無罪を主張して公判係属中であるにもかかわらず、秋田地方検察庁が偽証などの疑いで同証人を逮捕し、秋田地方裁判所もその勾留を認めたという事件が生じたが、同月19日、日弁連は、前記決議に違背する事態が再び発生したことに対して、「法廷における真実の証言を確保し、被告人の公正な裁判を受ける権利を保障する見地から、前記決議の趣旨が徹底され、同様の事態を今後招くことのないよう求めるものである。」と抗議の会長声明を発している。
このように、日弁連から繰り返し決議や声明が出されているにもかかわらず、この度同様の事態が発生したことは極めて遺憾である。
当会は、公正な刑事裁判の実現と真実発見の見地から、今回の証人逮捕・勾留に対して厳重に抗議するとともに、今後、同様の行為が繰り返されることのないよう強く求めるものである。
2012年(平成24年)2月28日
新潟県弁護士会 会 長 砂 田 徹 也
「米百俵」の精神を受け継いで -法曹養成制度における給費制の意義を考える-
宣 言
司法権の根幹にある「法の支配」は、他の二権の多数意思による人権侵害をチェックするために、現行憲法により司法権に付与された違憲法令審査権を背景としている。
法の支配を担うのは、法曹である裁判官、検察官及び弁護士である。将来の法曹にふさわしい人材を養成する法曹養成制度のありようは、それ自体、司法権の独立性のみならず司法権の機能にも深く関わっているというべきである。
司法修習制度は、統一、公平、平等の理念のもと、昭和22年、戦後の疲弊、困窮による混乱期に誕生した。当初から司法修習生には給与が支給されてきた。
給費制について、当時の法制局は、裁判官や検察官と同じように、弁護士も国家事務を行うものである、弁護士になるには司法修習生を必ず経なければならないものであるから給与を支給する旨説明し、以来、64年に亘り、司法修習制度における給費制は維持されてきた。
この、「弁護士も国家事務を行うものである」との認識は、弁護士は民間でありながら司法権の機能に深く関わり、裁判官や検察官と同等に公益的立場にあることを端的に示すとともに、司法を担うにふさわしい法曹養成は国家の責任と負担によっておこなうべきであるとの意思を明確に示したものというべきである。
「法曹養成に関するフォーラム」は、昨年11月26日の裁判所法改正の際になされた以下の衆議院の附帯決議を実施するために本年5月13日に設置された。
政府及び最高裁判所は、裁判所法の一部を改正する法律の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 改正後の裁判所法附則第四項に規定する日までに、個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。
二 法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること。
右決議する。
給費制は、法曹養成制度を経済的側面から支える重要な柱であり、その採否如何によっては、その制度趣旨の根本的変更を伴うものというべきである。
ところが、フォーラムでは、第3回目の7月13日に、貸与制を前提として議論をするとの方向でとりまとめがなされた。回答率14%にも満たない弁護士の所得調査のデータが提出されるなどして、貸与金の返済は可能との認識に至ったため、とされている。
このようなデータ等を根拠にしたとりまとめをすること自体に大きな問題があるというべ
きである。また、検討の順序やあり方を示した、同附帯決議二の、「法曹養成の在り方全体について検討し、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずる」という文言にも反するというべきである。
少なくとも、法曹養成制度全体の在り方という制度の根本に関わる議論をした後、他の制度との兼ね合いの中で、給費制の是非を問い、議論を経た上でとりまとめがなされるべきであろう。
その際、給費制導入について、弁護士の公益的立場を前提とした司法修習制度発足当時の法制局の説明を転換すべき必要性の有無を検証することが必要である。
今般の、貸与金の返済可能性のみに焦点を当てた座長の取りまとめは、法曹養成制度のありようを検討する立場にある機関として、拙速且つ不充分であるとの批判を免れないというべきである。
明治3年(1870)5月、戊辰戦争に敗れ疲弊し困窮する長岡藩(現長岡市)の士族には、日に三度の粥(かゆ)すらすすることのできない者もいたという。この窮状を見るに見かねた支藩の三根山藩(現新潟市巻町)の士族たちは、見舞いとして米百俵を贈った。
長岡藩の大参事小林虎三郎は、米の分配を求める士族たちを前に、将来の長岡の発展は人にある、米は人材養成のために学校の建設資金にしようと提案して説得し、米百俵を売却して国漢学校を建て、今日の長岡発展の礎をつくった。
これがいわゆる「米百俵」の故事であり、危急存亡のときにこそ将来を見据えた先見を持つべきこと、それが今を生きる人間の務めであることを教えている。
現在、将来の司法を担おうと希望する若者たちが激減している。
私たちは、これが、有為な人材の司法離れと、それによる法曹養成制度の弱体化を招きかねず、将来的に司法権の機能低下につながりかねない、という危惧を共有した。
私たちは、この「米百俵」の精神に学び、震災復興の中にあっても、先人が持ち合わせた先見の明を持ち続けたいと考える。
私たちは、司法修習生の給費制が、法曹養成制度の根幹として、将来においても維持存続されるべきであること、それが米百俵の精神を受け継ぐ私たちの先見であることを確認するとともに、フォーラムに対し、現下における法曹養成制度の矛盾やゆがみ並びにその根本的な是正について徹底した議論を行ったうえで、再度、給費制の是非について検討するよう求める。
以上宣言する。
平成23(2011)年7月30日
市民集会
「米百俵」の精神を受け継いで
-法曹養成制度における給費制の意義を考える-
主催 新潟県弁護士会 共催 日本弁護士連合会・関東弁護士会連合会
守田貴雄司法書士に対する懲戒処分に関する会長談話
平成23年4月8日、新潟地方法務局長は、新潟市内で司法書士業務を営む守田貴雄司法書士に対し、債務整理事件における司法書士法等違反行為を理由として、4月22日から1か月間の業務停止処分をした。
当会が聞知するところでは、同司法書士は、数百名の債務整理事件を受任しており、今回の業務停止処分の結果、債務整理を依頼した方々に混乱や被害が発生しかねない事態が予想される。
新潟県弁護士会は、債務者の生活再建の視点で多重債務者の救済活動に長年取り組んできたものであり、同司法書士のこの度の行為は甚だ遺憾である。当会の会員は、今後も、多重債務者の救済の観点から、法に基づく債務の減免や過払金の取戻しなどに誠実に取り組む決意であり、当会は、同司法書士に依頼した方々の混乱と被害の発生を防止するため、本日、無料電話相談を開始した。
2011年(平成23年)4月22日
新潟県弁護士会会長 砂 田 徹 也
少年に対する死刑確定に関する会長談話
最高裁判所は、1994年(平成6年)秋、大阪、愛知、岐阜の3府県で少年らのグループによって計4人の若者を死亡させた、いわゆる連続リンチ殺傷事件の被告人ら3人の死刑判決に対する上告について、3月11日、上告を棄却する判決を下した。
1983年(昭和58年)7月8日のいわゆる永山最高裁判決以降、犯行当時少年に対する死刑判決が確定しているのは2人だけであるところ、この度の上告棄却により、犯行当時少年であった被告人ら3人に対する死刑判決が確定することになる。
死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会で採択され(1991年発効)、1997年4月以降、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。また、2008年10月には国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府に対し、「政府は、世論調査の結果に拘わらず死刑廃止を前向きに検討し、必要に応じて国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」との勧告をしている。
また、死刑廃止国は着実に増加し、1990年当時、死刑存置国96か国、死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)であったのに対し、現在は、死刑存置国58か国、死刑廃止国139か国(前同)となっており、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
とりわけ、少年については、死刑については、子どもの権利条約は18歳未満の子どもに対する死刑を禁止しており、少年法も第51条で「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。」として、罪を犯した当時18歳未満の少年に対しては死刑を科さないとしている。これは、18歳未満で重大な事件を起こした少年の場合、成育過程においていくつものハンディを抱えていることが多く、精神的に未成熟であることから、あらためて成長と更生の機会を与え、自らの行為の重大性に向き合わせようとする趣旨である。本裁判における少年は犯行当時18歳であったが、これらの法の趣旨は、犯行当時18歳の少年に対する判決においても尊重されるべきである。
このような状況の下で、最高裁判所が犯行時少年であった被告人3人に対し、少年事件の特性に何ら考慮を払うこともなく、死刑判決を確定させたことは誠に遺憾であるといわねばならない。
当会は、2009年(平成21年)5月20日の定期総会決議において、「生命の尊厳」を尊重しなければならないという立場から、「裁判員裁判施行にあたり多数決による死刑評決に反対し、死刑制度の見直しを求める」決議を採択し、2010年(平成22年)8月11日、「死刑執行に関する会長声明」において、裁判員裁判制度のあり方も踏まえながら死刑制度に対する国内外からの問題点の指摘を真摯に受け止め、死刑廃止を含めた死刑制度に関する国民的議論を行うことを求め、同年12月10日、「裁判員裁判における死刑判決についての会長談話」において、裁判員裁判において少年に対して死刑判決を下すことの問題点を指摘してきたところである。本判決を契機として、改めて、政府に対し、死刑確定者に対する処遇の実態や死刑執行方法などの情報を、今後裁判員となりうる国民一般に広く公開し、死刑制度の存廃を含む在り方について国民的議論を行うよう、改めて求めるものである。
2011年(平成23年)3月22日
新潟県弁護士会 会 長 遠 藤 達 雄
身体拘束を受けた少年に対する全面的国選付添人制度の早期実現を求める決議 決議理由
1 弁護士付添人の現状
(1) 国選付添人制度
2007年(平成19年)に発足した国選付添人制度は、その対象を、ア。いわゆる重大事件(①故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪、②死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪であり、「家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるとき」)、イ。被害者等による少年審判の傍聴が許されたときに限定している。このように極めて限られた制度であるため、2009年(平成21年)度の国選付添人の選任数は、全国で550人であり、これは少年鑑別所に収容された少年のわずか4.9パーセントに留まっている。
(2) 少年保護事件付添援助制度
弁護士による少年保護事件付添援助制度(以下、「少年付添援助制度」という。)は、財団法人法律扶助協会が1973年(昭和48年)から開始し、日弁連は、1995年(平成7)5月26日の定期総会において、刑事被疑者弁護援助制度及び少年付添援助制度を支えるために、特別会費徴収を決議し、以後特別会費の増額を繰り返しながら、同制度を維持してきた。
当会においては、2004年(平成16年)12月、当会基金からの援助により先駆的に当番付添人制度を創設し、2009年(平成21年)10月より、観護措置が採られた少年について全件付添人制度を実施している。これは、観護措置を受けた少年については、その少年が弁護士付添人の選任を希望する限り、弁護士会の責任により、弁護士付添人を選任するという制度である。
その弁護士付添人の費用は、前記の特別会費による「少年・刑事財政基金」(日弁連)からの支給のほか、当会の独自財源(法律援助基金)によって賄われている。
このように、当会では、日弁連及び当会の財源によって、観護措置が採られた少年について、ほぼ100%の付添人選任を実現している。
2 弁護士付添人の重要性
(1) 少年事件においては、少年が観護措置決定を受けた場合、観護措置の期間中に少年鑑別所での身体拘束を受けることとなる。また、審判の結果によっては、少年院送致、児童自立支援施設等への送致といった長期の身体拘束を伴う処分が下される可能性がある。このように、少年事件では、少年の自由を大きく制限する処分も含まれる。
(2) そのため、非行を犯していない少年が重大な処分を受けるといった冤罪を防止する必要があることは言うまでもなく、非行を犯した少年であっても、適正な手続により適正な処分がなされることが必要である。さらに、非行を犯した少年が、自立・更生して社会に復帰するための援助がなされることが必要である。
(3) 私たちは、このような弁護士付添人の必要不可欠性に応えるべく、少年の人権擁護のために付添人活動を行ってきた。すなわち、弁護士付添人は、少年の立場に立って真相を解明することで、非行を犯していない少年を冤罪から守ってきた。また、少年が非行を犯した場合でも、少年に対する処分が適正な手続により行われるよう付添人の責務を尽くし、必要以上に重い処分がなされないように活動をしてきた。さらに、非行を犯した少年に、内省を促し、被害者に対する謝罪や被害弁償を働きかけ、また、少年の社会復帰後の環境調整に取り組むなど、少年の自立・更生を援助してきた。
3 全面的国選付添人制度実現の必要性
(1) このような弁護士付添人の重要性やこれまで果たしてきた役割からすれば、現在の国選付添人制度が不十分であることは明白である。弁護士付添人により、少年を冤罪から守り、少年に対する適正な手続が確保されるよう活動し、少年の自立・更生を図る必要性は、現在の国選付添人制度の対象となる重大事件や被害者等の傍聴がなされる事件に限られるものではないからである。窃盗や傷害といった比較的軽微な非行事件、さらに少年法特有のぐ犯事件などについても、少年の人権を守り、少年の更生を図る弁護士付添人の活動は非常に重要である。その意味からは、少なくとも、観護措置決定を受けて身体拘束を受けている少年については、少年院送致等の重大な処分を受ける可能性が高いことからも、弁護士付添人の存在は不可欠である。
(2) また、2009年(平成21年)5月21日からは、いわゆる必要的弁護事件については、被疑者国選制度が被疑者段階から国選弁護人を選任できるよう拡充された。そのため、少年も、被疑者段階であれば、窃盗や傷害などの必要的弁護事件について、捜査段階においては、国選弁護人を選任できるようになった。
しかし、成人であれば、起訴と同時に被告人国選弁護人が選任されるにもかかわらず、少年の場合には、前述のとおり国選付添人制度がいわゆる重大事件に限定されているため、家庭裁判所に送致されると同時に、多くの少年が弁護士の関与を失ってしまう制度とされている。このように、少年であるがゆえに、国費での権利保護を受けられなくなるという「置き去り」現象が生じてしまう点で、現在の制度には重大な欠陥がある。
(3) 日弁連及び当会は、このような「置き去り」現象から少年を保護するため、前記のとおり、少年付添援助制度による対応をしているものであるが、この法律援助制度は、我々会員が拠出した資金により運用されており、国選付添人制度が拡大されない限り、その拠出は継続されることになる。
しかしながら、少年の権利保護のために必要不可欠な弁護士付添人の報酬は、国の責務として国費で賄われるべきものであり、現状はあるべき状態とはいえないことは明らかである。
4 総会決議の必要性
日弁連は、2010年(平成22年)12月9日付「全面的な国選付添人制度の実現を求める弁護士会総会決議の発表について(要請)」(日弁連人1第1007号)において、全国の各単位に対して、弁護士会総会決議を行うよう要請をしている。
当会としても、これまで先駆的に当番付添人制度及び全件付添人制度を実施してきた立場において、改めて、少年の立ち直りに不可欠な付添人活動に全力を尽くし、その能力向上ための研鑽を重ねる決意を表明するとともに、当会会員の総意として、身体を拘束された少年への全面的国選付添人実現の一日も早い実現を政府及び国会に強く求める必要があると考え、本決議の提案に及んだ次第である。
2011年(平成23年)2月25日
新潟県弁護士会臨時総会決議
各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議 決議理由
1 個人通報制度の導入について
(1) 個人通報制度とは、人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害され、国内で手段を尽くしても救済されない場合、被害者個人などがその人権条約上の委員会に通報し、その委員会の見解を求めて救済を図ろうとする制度である。
(2) 国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約は、条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め、人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約は、本体条約の中に個人通報制度を備えている。したがって、わが国が選択議定書の批准、あるいは当該条項の受諾宣言をすることによって、個人通報制度を実現することができる。世界では既に多くの国が個人通報制度を採用しており、OECD加盟30か国やG8の8か国など先進国とされる諸国の中で何ら個人通報制度を有していないのは日本だけである。
このような事態を踏まえ、2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見をはじめとして、各条約機関から、政府に対し、個人通報制度の導入について度重なる勧告を受けるに至っている。このようなことは、わが国の国際的地位からしても誠にふさわしくないものと言わざるを得ない。
(3) また、日本の裁判所は、人権保障条項の適用について積極的とはいえず、民事訴訟法の定める上告理由には国際条約違反が含まれず、国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている。そのため、各人権条約における個人通報制度が実現すれば、被害者個人が各人権条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能となり、わが国の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得なくなると考えられ、その結果として、わが国における人権保障水準が国際水準にまで前進し、また憲法の人権条項の解釈が前進することが期待される。
(4) 日本弁護士連合会は、2010年5月の定期総会において、国内人権機関の設置等とともに個人通報制度の実現をするための決議を採択した。
民主党は、2009年の衆議院総選挙において個人通報制度の導入をマニフェストに掲げ、政権与党となった後も、法務大臣は幾度となくその実現に意欲を示す発言を繰り返しているが、現時点においてもその実現に至っていないのは誠に遺憾である。
2 国内人権機関の設置について
(1) 国内人権機関とは、人権侵害からの救済、人権基準に基づく立法や行政への提言及び人権教育の推進などを任務とする国家機関である。
国連人権理事会、国際人権(自由権)規約委員会、国際人権(社会権)規約委員会、女性差別撤廃委員会、人権差別撤廃委員会、子どもの権利委員会などが、わが国に対し、国内人権機関の設置を求める勧告をしている。
(2) 国内人権機関を設置する場合、1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に合致したものである必要がある。具体的には、法律に基づいて設置されること、権限行使の独立性が保障されていること、委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること、調査権限及び政策提言機能を持つことが必要である。
(3) 現在、わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが、独立性等の点からも極めて不十分であり、2002年に提出され、廃案となった人権擁護法案の定める人権委員会は、①法務省の外局として法務大臣の所轄におかれ、政府からの独立性の点に問題がある、②公権力による人権侵害のうち、調査・救済対象が「差別と虐待」に限定され狭すぎるなどの欠陥があった。
(4) 日本弁護士連合会は、2008年11月18日、パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権制度の制度要綱」を発表した。
さらに、2010年6月22日には、法務省政務三役が、「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において、パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど、国内人権機関設置に向けた動きがみられており、今こそ、パリ原則に沿った国内人権機関の設置を実現すべきである。
3 結論
よって、当会は、わが国における人権保障を推進し、また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため、国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く導入し、パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。
2011年(平成23年)2月25日
新潟県弁護士会臨時総会決議
身体拘束を受けた少年に対する全面的国選付添人制度の早期実現を求める決議
1 次代を担う子どもたちは皆、われわれの社会にとって宝であり希望である。すべての子どもたちが、それぞれの能力、特性を十分伸ばし、未来に向かってまっすぐ育っていってくれることを誰しも願う。
しかし時として、家庭環境やさまざまな事情により、「非行」に走る少年がいる。そうした少年に対しても、周囲の人々がつまずきの原因をともに考え、立ち直りに向けて手を差し伸べて行くことが重要であり、弁護士付添人による援助も不可欠である。
弁護士付添人は、少年への適正な手続を保障するとともに、少年につまずきの原因を気付かせ内省の機会を与え、被害者への謝罪や被害弁償を行い、戻るべき家庭や学校、職場等の環境を調整するなどして、少年の立ち直りにとって最も適切な保護処分を受けさせる、という重要な役割を担っている。
また、少年は心身共に未成熟であることから、取調官に迎合し誘導を受けやすく、事実に反する調書が作成される危険も大きく、それによるえん罪を防ぐためにも、弁護士付添人からの援助を受ける意味は大きい。
2 それにもかかわらず、現在成人であればほぼすべての刑事事件において、国の費用で弁護人に依頼し裁判を受けることができるが、少年事件では一部の身柄重大事件で裁判所の裁量による場合等を除き、国費で弁護士付添人を付けることは認められていない。
また、2009年(平成21年)5月の被疑者国選制度の拡充により、少年でも勾留された場合は国選弁護人が付される範囲が拡がったが、家庭裁判所に送致され観護措置が取られると、要保護性の点から引き続き援助の必要性が高いにもかかわらず、一転して国費で弁護士付添人を選任できなくなる。少年を権利保護から「置き去り」状態にしてしまっているのである。
3 日本弁護士連合会では、こうした状態を少しでも解消し、費用を支払えない少年でも弁護士付添人を付けられるように、現在、全会員の特別会費により少年保護事件付添援助制度を実施しているが、それでも弁護士付添人が選任された少年は、少年鑑別所に収容された全少年のうち54%程度にとどまっている(2009年(平成21年)度統計)。
当会においては、2004年(平成16年)12月、当会基金からの援助により先駆的に当番付添人制度を創設し、現在では身柄を拘束されたすべての少年に弁護士を派遣し、観護措置が採られた少年について全件付添人を実質的に実現している。
4 日弁連は、本年2月9日開催の臨時総会において、少年保護事件付添援助制度の維持のため、特別会費の値上げを決議したが、そもそも少年の権利保護のために必要不可欠な弁護士付添人の報酬は、国の責務として国費で賄われるべきものであり、現状は決してあるべき状態とはいえない。
とりわけ、観護措置により身体拘束を受けた少年については、少年院送致等の重大な保護処分を受ける可能性が高く、社会において立ち直りの機会を与えるために環境調整等を行う必要性も高いことから、国費で弁護士付添人を付けることより一層強く求められる。
5 当会は、2010年(平成22年)2月、身柄全面的国選付添人制度の早期実現を求める会長声明を発し、国に対し同制度の早急な実現を求めたが、未だ政府及び国会は、制度実現に向けた動きをほとんど見せていない。
そこで、当会は、改めて、少年の立ち直りに不可欠な付添人活動に全力を尽くし、その能力向上ための研鑽を重ねる決意を表明するとともに、当会会員の総意として、身体を拘束された少年への全面的国選付添人実現の一日も早い実現を政府及び国会に強く求める。
以上、決議する。
2011年(平成23年)2月25日
新潟県弁護士会臨時総会決議
各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議
第1 決議の趣旨
当会は、わが国における人権保障を推進し、国際人権基準の実施を確保するため、以下の2点を速やかに実現するよう政府及び国会に対して強く求める。
1 国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を導入すること。
2 「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した真に政府から独立した国内
人権機関を内閣府外局に設置すること。
2011年(平成23年)2月25日
新潟県弁護士会臨時総会決議
裁判員裁判における死刑判決についての会長談話
11月16日、横浜地方裁判所において、強盗殺人等に問われた被告人に対して、裁判員裁判事件で初めての死刑判決が言い渡された。さらに、11月25日、仙台地方裁判所において、犯行当時18歳7か月であった少年に対して、死刑判決が言い渡され、12月7日、宮崎地方裁判所において、22歳の男性に対し、3例目の死刑判決が言い渡された。
裁判員制度下では、法定刑に死刑が含まれる重大事件は裁判員裁判対象事件とされており、特に検察官が死刑を求刑する場合には、一般市民から選任される裁判員は、死刑を選択すべきか否かの極めて重い判断に直面することとなる。
記者会見等の報道によれば、横浜地方裁判所の判決に関与した裁判員の多くは、短い期間で重い決断を下すことについての深い苦悩と大きな精神的負担があったとの感想を述べている。裁判長が、被告人に対して、「控訴を勧めます」との異例の説示を行ったことも、自分たちの判断だけで死刑を確定させたくないとの裁判員の心情に配慮したものであったとみられる。また、仙台地方裁判所の判決に関与した裁判員は、「一生悩み続ける」「判決を出すのが怖かった」との感想を述べ、判決言い渡しに際して涙をこぼしていた裁判員もいたという。
これらの判決については、各種報道においても、「死刑」という重大な決断を下すのに、裁判員の負担が大きすぎないか、3日間という評議の期間が十分であったか、少年事件については、少年法の理念に基づいて更生の可能性を検討する必要があり、短期間で裁判員から判断してもらうのは困難であるなどの意見がみられるところである。
これらの死刑判決は、そもそも死刑制度の存廃を含む在り方についての国民的議論を経ないまま、裁判員を死刑求刑事件の量刑に関与させることの問題点を示すものである。死刑制度そのものについて十分な情報開示や議論がないまま、裁判員を死刑判決に関与させることは、裁判員の精神的負担を著しく過重なものとする一方、死刑判決を下すのに十分な検討がなされたかについての懸念を残す結果となる。
とりわけ、少年に対する死刑については、子どもの権利条約は18歳未満の子どもに対する死刑を禁止しており、少年法も第51条で「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。」として、罪を犯した当時18歳未満の少年に対しては死刑を科さないとしている。これは、18歳未満で重大な事件を起こした少年の場合、成育過程においていくつものハンディを抱えていることが多く、精神的に未成熟であることから、あらためて成長と更生の機会を与え、自らの行為の重大性に向き合わせようとする趣旨である。本裁判における少年は犯行当時18歳であったが、これらの法の趣旨は、犯行当時18歳の少年に対する判決においても尊重されるべきである。しかし、短期間の審理の中で、裁判員が少年法の理念を十分に踏まえつつ、十分な証拠に基づいて判断を下すことは極めて困難な作業であると言わざるを得ない。
上記の点について十分な検討が行われるためにも、当会は、政府に対し、死刑確定者に対する処遇の実態や死刑執行方法などの情報を、今後裁判員となりうる国民一般に広く公開し、死刑制度の存廃を含む在り方について国民的議論を行うよう、改めて求めるものである。
2010年(平成22年)12月10日
新潟県弁護士会 会長 遠藤 達雄
取調べの全面可視化を求める決議
1 2010年(平成22年)9月10日、大阪地方裁判所は、心身障害者団体としての実体がない組織に対し、虚偽の公的証明書を発行したとして逮捕・起訴された厚生労働省元局長に対して、無罪判決を言い渡した。
この事件で、大阪地検特捜部の検察官らは、捜査段階で元局長の元部下ら関係者に対する取調べで、元局長の事件への関与を認めさせる供述調書を作成し、これを拠り所として元局長を起訴した。しかし、元部下らの公判廷における証言や被疑者ノート等により、実際には元局長は事件に関与しておらず、供述調書の内容は検察官の強引な取調べにより、予め描かれたストーリーに沿って作文された虚偽であることが明らかとなった。また、この事件では、特捜部の取調べ検察官全員が、その取調べメモを廃棄したと証言し、取調べメモの廃棄が明らかとなった。
2 さらに、この事件については、同月21日、大阪地検特捜部の主任検事が、証拠として押収したフロッピーディスクを改ざんしたとして逮捕され、10月11日起訴された。報道によれば同検事は起訴事実を認めているという。その後、改ざんの事実を知りながら、大阪地検検事正及び次席検事に故意ではないとの虚偽の報告をしたとして、特捜部長と副部長も逮捕・起訴された。これが事実であるとすれば、大阪地検特捜部が、組織ぐるみで客観証拠を歪め、罪を犯していない一市民を逮捕し、5ヶ月にもわたり身柄を拘束し、冤罪に陥れようとしたことになる。検察が組織ぐるみで無実の人に罪を着せる犯罪行為をしていた疑いがもたれているものであって、まさに、刑事司法の根幹を揺るがす事態である。
3 このフロッピー改ざん事件の最中、今度は大阪府警において、警部補が、任意で事情聴取していた男性に対し、大声を浴びせ続けたりするなどして自白を強要し、その内容を録音したICレコーダーのファイルを削除しようとしたという事件が発生した。検察に次いで、警察における密室の取調べでも違法不当な捜査が行われている実態が明らかになった。
4 これまでも、数々の冤罪事件等において、捜査機関の違法な行為が指摘されてきたが、これら一連の事件において、我が国の刑事司法において、警察官・検察官の見立てたストーリーにあわせて、強引な誘導やときには脅迫によって虚偽の内容の供述調書を作成したり、証拠を廃棄したり、証拠の捏造までして無罪の証拠を隠すなど、意図的に証拠を操作してでも有罪に持ち込もうとする違法不当な捜査手法が行われてきたことが白日の下に晒された。
5 これらの事態は、当該警察官や検察官の個人的な資質、偶発的問題では到底すまされず、日本の刑事司法における捜査の構造的ないしは制度的問題であるとの認識に立って、冤罪を防止するための構造的・制度的な改革を行う必要がある。
そのためには、まずもって、違法不当な捜査の温床となっている密室での取調べを是正し、直ちに取調べ全過程の録音・録画(全面可視化)を実現する必要がある。全面可視化の実現は、取調べの過程を事後に検証することを容易にするだけでなく、冤罪の原因となっている違法不当な取調べ自体を抑制することができるからである。
6 これに対し、法務省は、2010年(平成22年)6月18日に「被疑者取調べの録音・録画の在り方について~これまでの検討状況と今後の取組方針~」(以下「法務省方針」という。)を公表したが、かかる法務省方針は、「録音・録画を行うべき取り調べの範囲についても、さらに検討を要する。」とするなど多くの検討課題を列挙し、「平成23年6月以降のできる限り早い時期に、省内勉強会としての検討の成果について取りまとめを行う」などとしている。
しかし、取調べの一部録音・録画では、捜査側に都合のよい部分だけが録音・録画されかねず、かえって危険である。また、法務省指針で示された「検討」に1年もの時間を要するとは到底考えられない。密室での取調べを理由とする虚偽自白、冤罪が頻発している中で今回の一連の事件が発生しているのであり、裁判員裁判も実施されていることからしても、現時点において、取調べの全面可視化は、喫緊の課題であり、もはや一刻の猶予も許されない。
7 当会も、取調べの全面可視化については、総会決議、会長声明等により再三にわたって訴え続けてきたところであるが、本件を契機にあらためて、被疑者等取調べの全面可視化の実現のため、全力を挙げて取り組むことを宣言するとともに、政府及び国会に対し、法務省指針を根本的に改めて、直ちに取調べの全面可視化の実現のための立法作業を開始することを強く求める。
以上決議する。
2010年(平成22年)11月19日
新潟県弁護士会臨時総会決議
明日の「権利の守り手」を育てる市民集会 宣言
1.現在、裁判所法の一部改正により、本年11月1日から司法修習生に対して給与を支払う制度(給費制)が廃止され、代わりに希望者に対して修習資金を貸し付ける制度(貸与制)が導入されようとしている。しかし、この改正には重大な問題がある。
2.司法修習は、修習する個々人の利益のためにこれに職業的技能を身につけさせる制度では決してなく、国民の権利擁護、法の支配の実現に関わる専門家たる法曹を養成する為の制度である。司法試験の合格者に直ちには法曹資格を与えず、なおも引き続き司法修習生に任じて教育を行い、これを終えて初めて法曹資格を与えるという司法修習制度は、国民に対して法曹が果たすべき役割の重大性に鑑みて考案され、長年にわたり実践されてきた、我が国における伝統的法曹養成制度の総仕上げの段階である。
そして、このような責務を全うできる人材を育成するため、司法修習生には修習専念義務が課せられ、その期間中は他の職業に就いて収入を得る方法が閉ざされている。法曹養成にとって修習専念義務は不可欠であるところ、給費制は、司法修習生の生活を支え、修習専念義務を実質化し、その実現を裏付けるための大前提であり、両者を切り離すことはできない。
3.また、新司法試験制度のもとでは、司法修習生となるためには原則として法科大学院に最低2年間通学することが要求されているため、法曹を志す者は法科大学院在学中の学費・生活費の経済的負担を覚悟しなければならない。この上給費制が廃止されれば、司法修習期間中の経済的負担もこれに加わることとなる。これでは、そもそもこれらの経済的負担に耐えられない経済的弱者は法曹への志望を断念せざるを得なくなる。
司法制度改革の理念は、国民の権利擁護を担う有為な人材を多様な層から得るというものであったはずである。給費制廃止は、この理念に逆行するものであり、国民の権利擁護を担い、法の支配を実現するという重大な責務を担う法曹が特定の層に偏ることは、我が国にとって大きな国家的・社会的損失である。
4.以上の理由から、司法修習制度の根幹を揺るがし、司法制度改革と矛盾する貸与制への移行に反対し、給費制維持を求めることをここに宣言する。
2010年9月19日
明日の「権利の守り手」を育てる市民集会