匿名希望
組織的犯罪対策三法案について
1999年07月05日
東京弁護士会 会長 飯塚 孝
通信傍受(盗聴)法案を含む組織的犯罪対策三法案は、6月1日に衆議院本会議を通過し、6月9日には、参議院本会議において、趣旨説明と質疑が行われ、6月29日から、参議院法務委員会で審議が開始されている。
当会は、昨年7月29日に、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律案」は、「組織」の定義があいまいなため合法的に活動している団体に濫用される危険性があること、マネーロンダリング規制が非常に広範囲に拡大されている「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」は、規定の仕方があいまいで、被告人・弁護人の防禦権に対する不当な制限となるおそれがあること、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」は、憲法31条の適正手続き保障や憲法35条の令状主義の要請を充たすことが困難な内容となっていることなどの観点から、組織的犯罪対策三法案に反対する会長声明を発表している。
衆議院での一部修正は、傍受の対象犯罪を薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の4種類の犯罪に限定するとともに、別件傍受の対象犯罪も政府原案より限定し裁判官による事後審査を認めるなど政府原案に比べれば多少の改善は見られるものの、当会が指摘してきた各法案の本質的な問題点は依然として基本的には解消していないといわざるを得ない。
衆議院法務委員会においては、5月27日に修正案が提出され、その翌日には、自民、自由、公明の三党が、民主、社民、共産の野党三党欠席のまま修正案を強行採決し、衆議院本会議でも民主及び社民党欠席のなかで採択された。
この様な採択の方法は、国民の重要な人権を制限する法律の審議のあり方としては、非民主的であり、立法府としての役割を果たしていると言うことはできない。
特にいわゆる通信傍受法について言えば、立会人は捜査官が傍受している通信内容を一切聞く事ができず、捜査官の通信傍受の濫用を防止できないこと、立会人の中立性と公平さを担保できないこと、通信を傍受された全ての人に対して傍受されたという事実を知らせないことなど様々な問題点が山積している。
従って、当会としては、参議院においては、組織的犯罪対策三法案について、更に十分な時間をかけ徹底した審議がなされるよう強く求めるとともに、現在審議されている修正案については、現状のままでの成立に強く反対するものである。
匿名希望
組織的犯罪対策三法案に関する会長声明
1998年07月29日
東京弁護士会 会長 二宮 忠
政府は、本年3月13日、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律案」、「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」のいわゆる組織的犯罪対策三法案を通常国会に提出した。
これらの三法案は、自民党、社民党、さきがけの三党が行った当時の与党協議会において大幅な修正が必要であることが確認されたにもかかわらず、原案のまま国会に提出されたという経緯がある。
7月30日に臨時国会が召集されるが、流動的な政局の成り行きによっては、充分な審議を尽くすことなく組織的犯罪対策三法案が成立してしまうことが危惧される。
組織的犯罪対策三法案は、そもそも現行の法律にどのような問題点があるのか、また急いで立法すべき緊急性・必要性があるのかに重大な疑問がある。さらにそれだけでなく、法案自体にも次のような重大な問題点の存在を指摘することができる。
第1に、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律案」は、「団体」や「組織」の定義があいまいなために、合法的に活動している市民運動団体や労働組合などに適用されて、それらの団体の弾圧に濫用される危険性を有している。また、マネーロンダリング規制については、いわゆる麻薬特例法の立法時に、日弁連が麻薬特例法に限定する措置として是認したものであるが、この法律案ではさらに非常に広範囲にマネーロンダリング規制を拡大しようとしている。
第2に、「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」は、証人尋問を制限する規定を新設しようとするものであるが、規定の仕方があいまいで、被告人・弁護人の防禦権に対する不当な制限となるおそれが強い。
第3に、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」は、いわゆる盗聴を合法化する規定を新設しようとするものである。盗聴が憲法で保障された通信の秘密やプライバシーという重要な権利を侵害するものであるにもかかわらず、対象とする犯罪は極めて広範であり、必ずしも組織的犯罪であることが要件とされていない。その上、将来の犯罪に対する盗聴やいわゆる別件盗聴等が認められるばかりか、盗聴期間も最大30日間の長期間が許容されており、事後通知や不服申立ても極めて限定的であるなど、憲法31条の適正手続き保障や憲法35条の令状主義の要請を充たすことは極めて困難な内容となっている。また、違法盗聴に対して、法案の罰則が電気通信事業法、有線電気通信法の1年以下の懲役の限度であることは公務員の違法行為に対する制裁として軽きに過ぎ、かつ違法収集された盗聴の証拠排除についても法案の規定は充分でない。
以上の理由から、当会は、このような組織的犯罪対策三法案に反対することを表明する。
1998(平成10)年7月29日
東京弁護士会
会長 二宮 忠
匿名希望
日本国憲法を改正し国家緊急権規定を創設することに反対する会長声明
2016(平成28)年11月24日
東京弁護士会 会長 小林 元治
本年7月の参議院議員選挙の結果、与党は衆参両院で3分の2以上の議席を 占めることとなり、野党にも憲法改正に前向きな勢力があることから、国会両 院による憲法改正の発議という事態が、現実のものとして差し迫っている。実 際、具体的な改正条項を検討するために、両院の憲法審査会が再開されており、 中でも国家緊急権については、与党首脳や政府高官によって、大災害が発生するたびに、憲法改正による創設の必要性が主張され、政界においては比較的憲 法改正の合意が得られやすい条項と考えられているようである。
しかしながら、国家緊急権(緊急事態条項)とは、大規模災害や外国からの 侵攻に対処するために、権力分立を一時停止して政府に権限を集中させ、国民 の基本権に特殊な制限を加えることを眼目とするものであるが、非常事態における例外的措置とはいえ、立憲主義による人権尊重という憲法の基本理念とは 相反する面がある危険な制度である。
すなわち、人権尊重という憲法の根本理念は、憲法の存在意義を権力の抑制 規範と位置づける立憲主義に支えられるものであるが、国家緊急権の創設により憲法による人権保障の例外が設けられ、さらに行政権に権限が集中され立法 権・司法権による抑制が機能しない領域が作り出されることで、無令状の逮捕・ 捜索をはじめ、報道統制、通信検閲、結社の自由の制限、外出禁止、過度の財 産権制限など、強度の人権侵害がなされる危険性が極めて高い。また、国家緊 急権がひとたび国家権力に濫用されれば、行政権に対する議会による民主的統 制も人権侵害に対する司法による救済も困難となるため、濫用は長期化・恒久 化することが多く、そこからの回復は困難を極める。このような事態が立憲主 義による人権尊重という憲法の基本理念に反することは明白である。
実際に、国家緊急権が発動され、濫用された歴史がある。ワイマール憲法下 のドイツにおいて、ナチスが大統領緊急令を濫用して政敵を倒した挙句、全権 委任法によってワイマール憲法を無力化して独裁体制を築いた。第5共和制下 のフランスにおいて、ドゴール大統領がアルジェリアにおける将軍の反乱の鎮 圧にあたって共和制憲法第16条の大統領緊急権を発動し、反乱自体は1週間 もたたずに鎮圧されたにも関わらず、その後約5か月間にもわたってその発動 を解くことなく、不当な逮捕・監禁や、報道の自由の制限を続けた。このよう に、国家緊急権は、歴史的事実に鑑みれば、いかに厳格な要件を課したとして も、濫用を阻止することは極めて困難であり、ひとたび濫用されるとこれを覆すことは極めて難しい危険な制度である。
そして、そもそも、包括的な政府への権力集中となる憲法上の国家緊急権が必要だとする立法事実についても、重大な疑義がある。必要性の根拠とされる 大規模な自然災害等への対策については、災害対策基本法や大規模地震対策特 別措置法、災害救助法、自衛隊法等が現に存在するし、不十分な点があるので あれば、被災地の自治体にこそ主導権を与える形の個別具体的な新たな立法で 対処すべきで、包括的な政府への権力集中の必要性は認められない。
なお、大震災等の影響で自治体の首長や地方議会議員が欠けて自治体が機能 不全に陥ったり、被災地の選挙区で選挙を施行できずに当該選挙区の衆議院議 員の任期が切れて国会が機能不全になるという指摘もあるが、地方自治法では 首長も立法権を有し、首長が欠けた場合の職務代理者の規定も整備されている ので緊急時にも立法機能はカバーできるし、公職選挙法上も衆議院議員選挙の 繰り延べ投票の規定もあり、参議院の緊急集会も含めてそれらの解釈や運用で 対処は十分可能と思われ、少なくともそれらのことが、包括的な政府への権力 集中となる憲法上の国家緊急権の創設の立法事実になるとは考えられない。
また、テロ・内乱等の事態への対処についても、警察権の適切な行使と最低 限必要な立法的措置により対応すべきものであり、人権制約の要素が極めて強く濫用の危険性も高い憲法上の国家緊急権の必要性までは認められない。
さらに、他国から武力攻撃があった場合という想定についても、そもそも、 日本国憲法は、戦争を放棄し交戦権を認めていないのであるから他の国々のような戦時的緊急権を規定する余地はないし、我が国自体の専守防衛のための実 力行使の場合については自衛隊法等の立法的措置が既にあるのであり(ただし 集団的自衛権までは憲法上認められない)、それ以上に憲法上の国家緊急権まで 必要だという具体的な根拠はない。のみならず、いかに国家緊急権の発動要件 を厳格に定めても、安全保障関連情報が特定秘密保護法の特定秘密に指定されている以上、国会議員でさえも判断の基礎となる情報が十分に得られず適切な 判断ができないおそれがあり、濫用に対する歯止めが極めて困難である。
なお、自由民主党が2012年に発表した憲法改正草案においても国家緊急 権は盛り込まれているが、緊急事態宣言の発動要件が内閣総理大臣に包括的に 委ねられており、国会の事前・事後の承認規定も多数与党の際には民主的抑制 機能に疑問があること、緊急事態の期間に制限がないこと、重要な部分を法律に委任していること等に鑑みれば、やはり濫用につながりかねない。
以上のとおり、一時的にせよ立憲主義を機能停止させる国家緊急権は、重大な人権侵害の危険性が極めて高く、また国家権力による濫用のおそれも強く、かつ立法事実の存在も認めることはできないことから、憲法を改正して憲法典中に国家緊急権を条項化することには反対する。
匿名希望
共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法の改正案の衆議院での採決に抗議し、その廃案を求める会長声明
2017年06月01日
東京弁護士会 会長 渕上 玲子
1 2017年5月23日、共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法の改正案(以下「共謀罪法案」という。)が衆議院において可決された。
当会は、上記採決に抗議し、共謀罪法案の廃止を求めるものである。
2 当会は、本年1月11日、共謀罪法案の国会上程に反対する会長声明において、共謀罪法案が、犯罪遂行の合意そのものを処罰し、法益侵害の具体的危険性が存在しない段階の「合意」だけで犯罪が成立するというものであり、「行為」を対象とし、原則として結果犯を処罰するという我が国の刑事法の基本原則や法体系を根底から覆すものであり、 人権保障機能を危うくするものであること、その成立要件が極めて曖昧なため捜査機関の恣意的な解釈・運用によって特定の団体やその構成員を強制捜査の対象とすることも可能になるなど、結社の自由、表現の自由、さらに内心の自由をも侵害するおそれがあることを指摘した。
3 政府は、本法案について、「オリンピックやパラリンピックをテロの危険から守る」として「テロ等準備罪」との略称を用いているが、同時に「国際組織犯罪防止条約」を批准するための法改正であるとも説明する。しかし同条約は、マフィア等の組織犯罪による国際的なマネーロンダリングの防止を目的とする条約であり、テロ防止を目的とするものではないし、実際の法案の内容も、テロを防止するものではなく、広く実行行為以前の共謀や準備行為を処罰の対象とするものであるため、実態はこれまで3度廃案になった共謀罪にほかならず、法案の略称や政府の説明は、市民を誤導するものといわざるをえない。
さらに、同条約の立法ガイドによると、それぞれの国内の事情に合わせて批准すればよく、すでに予備陰謀罪の規定や資金洗浄に関する法規制がある我が国においては、条約批准のために広範に予備・陰謀罪を認める新たな共謀罪を制定する必要性を裏付ける立法事実は存在しないというべきである。
4 とりわけ、本法案の曖昧な規定は、構成要件の明確性の原則に反するものであり、市民の予測可能性を損ない、健全な活動を萎縮させ、民主政の基盤を揺るがすものといわざるをえない。
また、法益侵害の具体的危険性が存在しない段階の「合意」だけで犯罪が成立することにより、日常的な生活にまで内偵が及ぶおそれがあることについては、これまで廃案としてきた過去の状況と変わりはないのであり、むしろ対象が拡大された改正通信傍受法などの運用とも相まって、より深刻な監視社会化を招き、プライバシー侵害の恐れが一層強まると言うべきである。
5 当会は、結社の自由、表現の自由、さらに内心の自由をも侵害するおそれが強い共謀罪法案の衆議院における採決に抗議し、市民に対してその危険性を訴え、ともにその廃案を求めるために全力を尽くすことをあらためて表明する。
匿名希望
最高裁判所
長官 竹崎博允 殿
東京地方裁判所
所長 岡田雄一 殿
2012年3月16日
東京弁護士会
会長 竹之内 明
国籍を問わず司法委員の任命を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 東京地方裁判所は、2012年4月選任見込みの司法委員の候補者として当会が推薦した会員のうち、当会が東京地方裁判所からの国籍についての問い合わせに対して回答を拒否した会員について、国籍が確認できないことを理由とする任命をしないとの決定を撤回し、改めて任命するよう求める。
2 最高裁判所は、裁判所の司法委員について、日本国籍を有することを選任要件とする 取扱いを速やかに変更し、日本国籍の有無にかかわらず、適任者を任命する扱いとする よう求める。
匿名希望
特定秘密保護法施行令等の閣議決定に反対する会長声明
2014年10月21日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦
2014年(平成26年)10月14日、特定秘密の保護に関する法律(以下秘密保護法という)の施行令(以下施行令という)及び特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(以下運用基準という)が閣議決定された。
当会は、「政府の持つ情報は、基本的に国民の財産であるから、可能な限り開示されるべきであり、国民は豊富で正確な情報にアクセスできて初めて国の在り方や政府の方針について正しい判断ができる。ところが、秘密保護法は全く逆の立場をとって国民から多くの情報を隠蔽しようとするものであって、国民主権原理に反するものであるばかりでなく、基本的人権を侵害し、恒久平和主義をないがしろにするものである」として繰り返し会長声明や意見書で容認できないことを表明し、秘密保護法の廃止を求めてきたところである。
今回閣議決定された施行令、運用基準は、情報保全諮問会議が作成した素案に対し、2万3820件ものパブリックコメントが寄せられたにもかかわらず、運用基準の一部を除き、ほとんど素案と変わらないものである。こうした国民の多数のパブリックコメントを無視した姿勢にも、国民主権原理に反する秘密保護法(施行令、運用基準含む)の内実が表れている。
当会は、2013年12月10日付会長声明により、秘密保護法と集団的自衛権の容認・行使との関連に対し危惧を述べたが、今回の運用基準の閣議決定により、その危惧が一層明らかとなり、集団的自衛権行使が、国民のあずかり知らないところで決定、行使される恐れが現実のものとなった。すなわち、2014年7月1日の閣議決定によると、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力行使が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」には武力行使が許されることとなるが、今回閣議決定された運用基準によると、秘密指定されうる事項として、「(別表1号防衛に関し)自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究のうち、b(略)アメリカ合衆国の軍隊との運用協力に関するもの」が明記されたほか、「(別表2号外交に関し)外国の政府等との交渉又は協力の方針又は内容のうち、a国民の生命及び身体の保護、c海洋、上空等における権益の確保、d国際社会の平和と安全の確保(我が国及び国民の安全に重大な影響を与えるものに限る、以上運用基準6頁)」、「(別表4号テロ対策に関し)テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報」が明記されている。このように、武力行使の要件に該当するかどうかの基本的な情報が秘密指定され、国民や国民の代表である国会に何ら明らかにされないまま、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」として武力行使が決定・行使されてしまう危険がまさに現実のものとなりかねない。
当会は、このような秘密保護法(施行令、運用基準含む)を即刻廃止するよう強く求める。