仙台弁護士会会長声明
高校無償化制度の平等な実施を求める会長声明
政府は,本年4月1日,「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(以下「高校無償化法」という。)を施行し,公立高等学校の授業料を原則無償とするとともに(法3条1項),私立高等学校等についても,在学生のための就学支援金を支給することとした。
ところが,文部科学省は,本年4月30日付け告示「高等学校等就学支援金制度における外国人学校の決定について」において,朝鮮高級学校について,他の外国人学校と取扱いを異にし,就学支援金支給制度の対象である「高等学校の課程に類する課程を置くもの」(法2条1項5号)に指定しなかった。その上で,指定するか否かについて,本年5月26日に設置した省内の専門家会議で検討することとした。
しかし,高校無償化法は,全ての意志ある高校生達が安心して教育を受けられるよう,高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り,もって教育の機会均等に寄与することを趣旨とするもので,この趣旨は国籍や使用言語を問わず当てはまるものである。
そして,朝鮮高級学校は,各都道府県知事から各種学校としての認可を受け,その際必要に応じて教育課程についての情報も提供されており,確立したカリキュラムにより安定した教育を長年にわたって実施している。
また,日本全国のほぼ全ての大学が,朝鮮高級学校の卒業生に対し,「高等学校を卒業した者と同等以上の学力がある」として大学受験資格を認定している。
これらの社会的事実に照らせば,朝鮮高級学校も,日本の私立学校や他の外国人学校と同じく,「高等学校の課程に類する課程を置くもの」として,就学支援金支給制度の対象に指定されるのが相当である。
にもかかわらず,朝鮮高級学校のみを就学支援金の支給対象から除外することは,高校無償化法の立法目的に適合しない上,憲法26条1項,子どもの権利条約,人種差別撤廃条約及び国際人権規約に照らし,朝鮮高級学校に在学する子どもたちに保障される学習権について,他と合理的な理由なく差別するものにほかならず,憲法14条に反するものである。
よって,当会は,内閣総理大臣及び文部科学大臣に対し,朝鮮高級学校について,就学支援金の支給対象から除外することなく,速やかに法2条1項5号の各種学校に指定するよう求めるものである。
2010(平成22)年6月16日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 新 里 宏 二
魚拓
http://senben.org/archives/1681http://senben.org/archives/1681
被告発人
住所 〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町2-9-18
氏名 新里宏二
職業 仙台弁護士会会長(2010.616現在。 任期は2010.4-2011.3)
電話 022-223-1001
札幌弁護士会会長声明
高校無償化法案の平等な適用を求める会長声明
政府が第174回国会に提出した、いわゆる高校無償化法案(「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案」)は、3月16日の衆議院本会議で与党などの賛成多数により可決され、参議院に送付された。問題となっている朝鮮学校が無償化の対象となるか否かについては、同法案の規定により「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」に該当することが必要とされている。
この点、政府は、朝鮮学校において「日本の高校に類する教育」が行われているかどうかを判断するとの立場を取っているが、一方で、朝鮮学校を当面は無償化の対象から外す方針であるとも伝えられている。さらに、政府は、当初から朝鮮学校を除外する前提であったとの報道もあり、朝鮮学校が朝鮮民主主義人民共和国の影響下にあることとの関連性が指摘されているところである。
また、朝鮮学校については、教育内容の確認ができないといった意見も報じられているが、朝鮮学校の教育課程に関する情報は、各種学校の認可を受ける際に必要に応じて提出されており、朝鮮学校自らもホームページ等で公開している。現に、わが国のほとんどの大学が、朝鮮学校の卒業生に入学資格を認めている。
本法案の趣旨は、「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与するため…授業料を徴収しない」(本法案の理由)ことにある。教育を受ける機会は、政治・外交問題に左右されてはならず、朝鮮学校に通う生徒についても等しく保障されるべきものである。朝鮮学校が本法案の適用対象外とされ、その生徒が高等学校、専修学校、インターナショナル・スクール、中華学校等の生徒より不利益な取扱いを受けることは、法の下の平等(憲法第14条)、ひとしく教育を受ける権利(同第26条第1項)の趣旨に反しており、国際人権規約(社会権規約第2条第2項、第13条。自由権規約第26条)、人種差別撤廃条約第5条等が禁止する差別にもあたる。また、全ての児童に対する教育についての機会の平等や、少数民族に属する児童が存在する国において自己の文化を享有し、自己の言語を使用する権利を保障した子どもの権利条約第28条、第30条の趣旨にも反するものと言わざるを得ない。
よって、当会は、高校無償化法案の適用において、朝鮮学校が不当に排除されることのないように強く要請する。
2010年3月26日
札幌弁護士会 会長 高崎 暢
魚拓
http://www.satsuben.or.jp/info/statement/2009/15.html
被告発人
住所 〒060-0001 札幌市中央区北1条西10丁目札幌弁護士会館7F
氏名 高崎 暢
職業 札幌弁護士会会長(2010.3.26現在。任期は2009.4-2010.3)
電話 011-251-7730
日本弁護士会会長声明
朝鮮学校を高校無償化制度等の対象から除外しないことを求める会長声明
文部科学省は、2012年(平成24年)12月28日付けで、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令案を発表した。現在の施行規則は、インターナショナルスクールや民族学校といわれる外国人の子弟が在籍する学校について、大使館等を通じて本国における高校と同等程度の課程を有するものと確認できる学校及び国際的評価機関の認定を受けた学校を制度の対象とする一方、これに該当しない学校についても、日本との国交の有無にかかわらず、日本の高等学校と同程度の課程を持つと評価される学校については、文部科学大臣が個別に指定することにより就学支援金などの対象とすることができることとしているが、改正案は、かかる個別指定の根拠条文を削除するものである。
今回の改正案の趣旨について、下村博文文部科学大臣は、2012年12月28日の定例記者会見において、拉致問題の進展がないこと等を理由として朝鮮学校の指定の根拠を削除する内容の省令改正である旨の発言を行っており、上記省令改正案が、朝鮮学校を制度の対象から除外することを目的とするものであることは明らかである。
当連合会が2010年3月5日付けの「高校無償化法案の対象学校に関する会長声明」において指摘したとおり、高校無償化法の趣旨・目的は、「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与すること」にあり、これは、子どもの権利条約28条も求めているものである。また、同条約や国際人権(自由権)規約が、民族的アイデンティティの保持や、民族的アイデンティティを保持しながら教育を受ける権利を保障していることに鑑みれば、インターナショナルスクールや民族学校についても無償化の対象となり得る現行の省令は、正しい方向性を持っている。さらに、法案審議の過程でも、高校無償化制度の対象となる外国人学校の指定については、外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべきものであるということが政府の統一見解として明らかにされている。
これに対して、今回の改正案は、国交がないということや、拉致問題の進展の度合いなどの子どもの教育を受ける権利とは何ら関係を持たない事柄を根拠に就学支援金の給付を否定するものであり、憲法14条などが禁止する差別的取扱に当たる。
また、全国の朝鮮学校は、2010年11月末までに現行の法令に基づく上記指定の申請を適法に終えているところ、今般の省令改正は、申請から2年以上も経過した段階で、申請の根拠となる法令の規定を消滅させて、朝鮮学校の申請を遡及的に門前払いとしようとするものであり、手続的にも重大な疑義がある。
よって、当連合会は、日本に居住する全ての外国人や民族的少数者が、差別なく民族的アイデンティティを保持しながら教育を受ける権利を享受することができるよう、上記省令改正案を撤回するとともに、朝鮮学校からの申請について、現行の法令及び審査基準に基づき速やかに審査を終結させるよう、強く求めるものである。
2013年(平成25年)2月1日
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司
魚拓
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/130201.html
被告発人
日本弁護士会会長声明
高校無償化法案の対象学校に関する会長声明
今国会に提出された、いわゆる高校無償化法案(「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案」)について、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁措置の実施等を理由に、朝鮮学校を対象校から外すか否かが、政府内で検討されている。
しかし、本法案の趣旨は、「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与する」(法律案の理由)ことにある。教育を受ける機会は、政治・外交問題に左右されてはならず、朝鮮学校に通う子どもたちについても変わることなく保障されるべきものである。
また、朝鮮学校については、教育課程等の確認ができないとの考え方も報道されているが、朝鮮学校の教育課程に関する情報は、各種学校の認可を受ける際に必要に応じて提出され、朝鮮学校自らがホームページ等でも公開しているのであるから容易に調査可能であり、現に、ほとんどの大学は朝鮮学校卒業生に入学資格を認めている。
朝鮮学校に通う子どもたちが本法案の対象外とされ、高等学校、専修学校、インターナショナル・スクール、中華学校等の生徒と異なる不利益な取扱いを受けることは、中等教育や民族教育を受ける権利にかかわる法の下の平等(憲法第14条)に反するおそれが高く、さらには、国際人権(自由権・社会権)規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約が禁止する差別にあたるものであって、この差別を正当化する根拠はない。
当連合会は、高校無償化法案の適用において朝鮮学校が不当に排除されることのないように強く求めるものである。
2010年3月5日
日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠
魚拓
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2010/100305.html
被告発人
住所 〒100-0013東京都千代田区霞が関1丁目1番3号 弁護士会館15階
氏名 宮﨑 誠
職業 日本弁護士連合会会長(2010.3.5現在。 任期は2008.4-2010.3)
電話 03-3580-9841
自由法曹団団長声明
2010年4月1日、高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与することを目的として、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(以下「高校無償化法」と言う。)及び高校無償化法施行規則(以下「施行規則」と言う。)が施行された。
これを受けて、全ての朝鮮学校は施行規則に基づく無償化指定の申請手続を行ったが、指定手続きが停止され、朝鮮学校に対する無償化は実施されないまま放置されてきた。
かかる状況の中、本年2月20日、文部科学省は、朝鮮学校等が無償化の対象とされる根拠となる規定を削除して朝鮮学校を無償化の対象外とする省令改正(以下「本改正」と言う。)を行った。これは、拉致問題に進展がないことなどを理由とするものである。
私たち自由法曹団は、高校無償化法制定に際して、中井洽拉致問題担当大臣(当時)らの朝鮮学校を無償化の対象外としようとした動きについて、朝鮮学校を無償化の対象とすることを求める声明を2010年3月5日付で発表した。そこで指摘した点は、今回の省令改正にも妥当する。
本改正は、朝鮮学校に対して日本の私立学校あるいは他の外国人学校と比べて教育面で差別的な取り扱いをすることにより、日本社会で暮らさざるを得ない朝鮮学校の生徒が自らのアイデンティティーを学ぶ機会を奪うものである。これは、あらゆる差別を禁止した子どもの権利条約第2条及び人種差別撤廃条約に違反するとともに、あらゆる者に対して教育により人格を完成させ、社会参加等を可能にするために能力に応じた教育の機会を与えることを求める社会権規約13条2項(c)など、様々な国際法規に反するものであり、朝鮮学校に通う子供たちに対する人権侵害である。
更に、「高校無償化制度」は、家庭の状況にかかわらず、全ての高校生等が安心して勉学に打ち込める社会を築くこと、そのために家庭の教育費負担を軽減し、子どもの教育の機会均等を確保するところにある。このような制度趣旨からすれば、朝鮮学校をことさら区別して、「高校無償化」制度の対象から除外することには、多くの法的問題点がある。
また、すでに多くの国公立大学、私立大学が朝鮮学校を卒業した生徒に大学受験資格を認めていることからしても、教育内容を理由に朝鮮学校を他の高校と区別し、対象から外す根拠はない。
しかも、拉致問題の進展という政治的な問題を、これとは無関係な子どもの教育に持ち込むことは、許されてはならないことである。
加えて、本改正は、文部科学省が法律上の根拠なく2年以上にわたって朝鮮学校の無償化の指定手続きを停止した挙句、その根拠規定をも削除したものであり、手続上も大きな問題があると言わざるを得ない。
政府は、本改正について、「国民の理解」を口実としているが、極めて一面的な見方である。この間、多くの人々が朝鮮学校の授業や学校行事を見学し、各地で新たな支援会も立ち上がった。これらをきっかけに知られるようになった生徒たちの、勉学やクラブ活動に励む姿は、多くの国民の共感を得ている。朝鮮学校に対する国民の理解の輪は確実に広がっており、多くの国民が朝鮮学校を高校無償化の対象外とすることの理不尽さを感じている。それにもかかわらず、日本社会の一員として存在する朝鮮学校の生徒を差別的に取り扱う政府の姿勢は厳しく糾弾されなければならない。このことは、本年2月12日に北朝鮮が核実験を行った現在でも、いささかも変わるところはない。
私たち自由法曹団は、本改正に反対するものであり、省令を速やかに是正した上、朝鮮学校も無償化の対象として指定することを強く求める。
2013年3月4日
自由法曹団
団長 篠原義仁
魚拓
http://www.jlaf.jp/menu/pdf/2013/130305_01.pdf
被告発人
住所 〒112-0014 東京都文京区関口1-8-6 メゾン文京関口II202号
氏名 篠原義仁
職業 自由法曹団団長(2013.3.4現在)
電話 03-5227-8255
自由人権協会
高校無償化法の施行規則改正案に反対する声明
2013年1月25日
社団法人自由人権協会
代表理事喜田村洋一
同 紙谷 雅子
同 田中 宏
同 三宅 弘
1 はじめに
自由人権協会は、2010年3月25日、「高校無償化法の対象となる外国人学校の選別基準に関する緊急声明」を発表し、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案(同年3月31日成立。以下「高校無償化法」という。)に基づく高等学校等就学支援金(以下「就学支援金」という。)の支給対象から朝鮮高校を恣意的に除外し、あるいは、その教育内容を経済的給付の可否の判断材料とすることは、子どもの学習権に対する重大な侵害となる点などを指摘した。
さらに、2011年1月17日には、「朝鮮高校生への高校無償化法の適用手続を速やかに進めることを求める声明」を発表し、政府が、外交・防衛上の観点から、就学支援金の指定対象とする外国人学校の指定に関する手続を事実上「停止」した措置を取りやめ、同手続を進めることを求めた。
しかし、指定の申請期限である2010年11月30日までに申請を行っていた朝鮮高校10校は、現在に至るまでいずれも指定を受けることのないまま、2年以上の歳月が経過した。この事実自体が極めて不当であることは明らかである。
このような状況下で、2012年12月28日、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)の改正案が公表された。当該改正案は、朝鮮高校を就学支援金の指定対象から意図的に排除するものであり、教育の機会均等という高校無償化法の趣旨に反し、委任の範囲を逸脱するものであるとともに、憲法及び国際人権諸条約に反するものであって、これを看過することはできない。
そこで、自由人権協会は、ここに本声明を発表し、改正案に反対するものである。
2 高校無償化法の趣旨及び施行規則改正案の内容
高校無償化法が制定された趣旨は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下〈社会権規約〉という。)13条2(b)に定める「無償教育の漸進的な導入により…すべての者に対して[中等教育の]機会が与えられるものとすること」の実現である。そして、同法においては、「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与する」(1条)との目的に沿って、公立高等学校の授業料無償化と併せて就学支援金制度が設けられ、「全ての意志ある後期中等教育段階にある生徒の学びを保障」するため、私立高等学校に限らず、各種学校のうち「高等学校の課程に類する課程」に学ぶ生徒も広く就学支援金の対象としている(「高等学校等就学支援金における外国人学校の指定」文部科学省ウェブサイト)。
具体的には、高校無償化法2条1項5号において、就学支援金の支給対象として、専修学校及び各種学校のうち「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」を挙げている。この委任に基づき、施行規則1条1項2号は、支給対象となる外国人学校として、次の3つの類型を定めている。
イ高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって、文部科学大臣が指定したもの
ロイに掲げるもののほか、その教育活動等について、文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであって、文部科学大臣が指定したもの
ハイ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの
今回の施行規則改正案は、上記のうちハの規定(以下「規定ハ」という。)を削除し、指定対象を、イ(特定の国の学校教育制度に位置付けられている場合)及びロ(国際バカロレア等の認定を受けている場合)の類型に限ることとしている。
この改正案が実施されると、規定ハに基づき文部科学大臣の指定の申請をしていた朝鮮高校はいずれも、指定を受けることができないこと、ひいては同高校に通う生徒が就学支援金を支給されないことが確定する。
3 施行規則改正案は法の委任の趣旨に反する
改めて指摘するまでもなく、委任命令はその授権法律による拘束を受けるものであり、制定された委任命令が委任の趣旨に反し委任の範囲を逸脱している場合には、当該委任命令は違法となる。
高校無償化法が、就学支援金の支給対象となる各種学校を、「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」としたのは、この課程が置かれているかどうかの認定については、その基準や方法を含め、学校教育を所管する文部科学大臣の合理的な裁量に委ねたものである。したがって、施行規則の制定・改正は、教育の機会均等という高校無償化法の目的を実現するために「高等学校の課程に類する課程」を置く各種学校を適切に認定するという委任の趣旨に沿うものでなければならず、これに反する場合には違法となる。
ところで、規定ハが設けられた理由については、「[(イ)及び(ロ)]の方法では確認できない、後期中等教育に相当する外国人学校が存在し得ると考えられることから、[施行規則1条1項2号]において、(イ)(ロ)に加え、(ハ)[中略]と規定し、これらについても制度の対象としております」(文部科学大臣談話)と説明されている。そして、「『高等学校の課程に類する課程』であるかどうかを制度的・客観的に判断する」(同)べく、外国人学校の指定に関する基準及び手続等を定める規程(文部科学大臣決定)が定められ、既に、ホライゾンジャパンインターナショナルスクール及びコリア国際学園の2校が、同規程所定の手続を経て、「高等学校の課程に類する課程」を置くものと認定されている。
このように、イ又はロには該当しないが、「高等学校の課程に類する課程」を置く外国人学校は現実に存在しており、また今後設置される可能性もある。それにもかかわらず、今回の改正により規定ハが削除されると、これに該当する外国人学校に学ぶ生徒は、就学支援金の支給を受けることができなくなってしまう。しかし、教育の機会均等という高校無償化法の目的に照らせば、就学支援金の対象となる外国人学校を、イ又はロに該当する学校に限定すべき理由はない。規定ハは、イ及びロに該当しない学校に学ぶ生徒が就学支援金を受けるために不可欠な規定であり、規定ハを削除することは、高校無償化法の目的に真っ向から反する。
もともと、規定ハは、政府自身が必要であるとして設けたものである。それにもかかわらず、これを削除しようとする理由について、文部科学大臣は、「朝鮮学校については拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から、現時点での指定には国民の理解が得られ[ない]」(2012年12月28日下村博文文部科学大臣記者会見テキスト版、文部科学省ウェブサイト)と述べている。ここから明らかなとおり、今回の施行規則の改正は、北朝鮮との関係という政治的理由から、朝鮮高校を就学支援金の指定対象から排除しようとするものである(施行規則改正案について行政手続法に基づく意見募集手続において示されている「省令案の概要」においても、施行規則を改正すべき理由は、一切説明されていない。)。しかも、この「省令案の概要」によれば、すでに指定を受けている上記2校については、「当分の間、就学支援金制度の対象とする旨の経過措置を設ける」こととする一方で、申請済みの朝鮮高校についてはそのような経過措置を講じていない。朝鮮高校だけを排除しようとする意図は明白である。
このように、専ら政治的理由に基づき、明らかに朝鮮学校を排除する意図をもって、イ又はロに該当しない学校を就学支援金の指定対象とするために必要な規定ハを削除することは、教育の機会均等という高校無償化法の目的のために「高等学校の課程に類する課程」を置く学校を適切に認定するという委任の趣旨に明らかに反し、委任の範囲を逸脱するものであって、違法というほかない。
4 憲法及び国際人権諸条約に違反する
このような政治的理由に基づく朝鮮学校の排除は、高校無償化法の委任の趣旨に反し違法であるに留まらず、朝鮮高校に学ぶ生徒に対する不合理な差別であり、憲法14条1項の定める平等原則に反するほか、日本において法的効力を有する国際人権諸条約に反する。
上述したとおり、高校無償化法は、社会権規約13条2(b)の要請する「無償教育の漸進的な導入」の実現を目指すものであった。ところが、同条に定める教育についての権利に関して、「拉致問題」等の外交上の配慮や政治的な理由に基づき朝鮮高校に学ぶ生徒を不利益に取り扱うことは、不合理な差別というほかなく(文部科学大臣自身が、「子どもには罪がありません」と認めている。)、社会権規約2条2項及び市民的及び政治的権利に関する国際規約26条の定める無差別原則・平等原則に反する。
さらに、朝鮮高校の排除は、民族的出身に基づく差別を行うものであるから、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)により政府が撤廃義務を負う人種差別に該当する。すなわち、今回の改正は、人種差別撤廃条約において、国等の公的機関に人種差別に従事しないことを義務づけた2条1項(a)、国等の政策の再検討及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有する法令の改廃を義務づけた同項(c)、及び、教育についての権利を人種差別なしに享有することを保障した5条(e)(ⅴ)に抵触する。この問題に関しては、既に国連の人種差別撤廃委員会から、高校無償化法の対象から朝鮮高校を除外する動きについて懸念が表明されたところである(2010年実施の日本政府報告書審査に対する総括所見22パラグラフ)。政治的な理由に基づき、教育に対する権利について政府が公然と差別を行うのであれば、国際社会の強い非難は免れない。
以上のとおり、施行規則の改正案は、高校無償化法の委任の趣旨に反し委任の範囲を逸脱するものであり、また憲法及び国際人権諸条約に反し朝鮮高校に学ぶ生徒を不合理に差別するものであるから、自由人権協会は、この改正案に反対する。
魚拓
http://jclu.org/wp-content/uploads/2016/08/hs-musyoukakisoku-pubcom.pdf
被告発人
住所 〒105-0002 東京都港区愛宕1-6-7 愛宕山弁護士ビル306号室
社団法人 自由人権協会
氏名 喜田村洋一
職業 自由人権協会代表理事(2013.1.25現在)
電話 03-3437-5466