山梨県弁護士会
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声明・総会決議
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平成29年度分(会長:堀内 寿人)
会長声明 さらなる生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明 2018年1月26日
会長声明 平成29年度司法試験最終合格発表に関する会長声明 2017年12月9日
会長声明 地方消費者行政に対する国の財政支援を求める会長声明 2017年10月14日
会長声明 いわゆる共謀罪法案の成立に強く抗議し廃止を求める会長声明 2017年6月22日
会長声明 修習給付金の創設に関する改正裁判所法の成立にあたっての会長声明 2017年5月13日
平成28年度分(会長:松本 成輔)
会長声明 いわゆる「共謀罪」法案の廃案を求める会長声明 2017年3月11日
意見書 民法の成年年齢の引下げに反対する意見書 2017年2月24日
会長声明 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の廃止を求める会長声明 2017年2月11日
会長声明 南スーダンにPKOとして派遣される自衛隊部隊に「駆け付け警護」等の新任務を付与することに抗議し、改めて安保法制の廃止を求める会長声明 2017年1月14日
会長声明 総合法律支援法の一部を改正する法律の成立に当たって、さらなる民事法律扶助制度の拡充等を求める会長声明 2016年10月1日
会長声明 テロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明 2016年10月1日
会長声明 刑事訴訟法等の一部を改正する法律の成立に当たっての会長声明 2016年8月6日
会長声明 成年後見制度の利用の促進に関する法律の成立に際し、市町村長による後見開始等の審判請求及び成年後見人等に対する報酬の支払助成等の措置の促進を求める会長声明 2016年7月9日
会長声明 消費生活センターの設置を求める会長声明 2016年5月19日
会長談話 69回目の憲法記念日に寄せる談話 2016年5月3日
会長声明 安保関連法の施行に抗議し、その適用・運用に反対し、あらためてその廃止を求める会長声明 2016年4月9日
平成27年度分(会長:關本 喜文)
意見書 民法(債権関係)の改正に関し慎重な国会審議を求める意見書 2016年3月24日
会長声明 消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明 2016年3月12日
会長声明 司法修習生に対する給費の実現・修習手当の創設を求める会長声明 2016年1月20日
意見書 特定商取引法に事前拒否者への勧誘を禁止する制度の導入を求める意見書 2015年11月14日
会長声明 立憲主義違反の安保法案成立に抗議し、即時廃止を求める会長声明 2015年9月19日
会長声明 災害対策を理由とする「国家緊急権」の創設に反対する会長声明 2015年7月29日
会長声明 安全保障関連法案に反対し,衆議院本会議における強行採決に抗議する声明 2015年7月16日
会長談話 安保法案強行採決に抗議する会長談話 2015年7月15日
意見書 市町村における消費生活相談窓口の充実を求める意見書 2015年7月13日
会長声明 少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明 2015年7月11日
会長声明 商品先物取引法施行規則改正による不招請勧誘禁止の緩和に抗議する会長声明2015年5月22日
会長声明 安全保障法制改定法案に反対する会長声明 2015年5月22日
会長声明 労働時間規制を緩和する労働基準法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明 2015年5月11日
平成26年度分(会長:小野 正毅)
意見書 民法(債権関係) 改正の「要綱仮案」についてパブリックコメントを実施するよう求める意見書 2014年12月6日
会長声明 商品先物取引法施行規則改正による不招請勧誘禁止の大幅緩和に反対する会長声明 2014年11月1日
会長声明 共謀罪の新設に改めて反対する会長声明 2014年10月11日
会長声明 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」 (いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明 2014年10月11日
会長声明 貸金業法の規制緩和に反対する会長声明 2014年8月2日
会長声明 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014年7月5日
会長声明 行政書士法改正に反対する会長声明 2014年6月9日
総会決議 集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲に反対する総会決議 2014年5月26日
会長声明 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明 2014年4月12日
平成25年度分(会長:東條 正人)
総会決議 司法試験合格者数の大幅な減少を求める総会決議 2014年2月28日
会長声明 商品先物取引についての不招請勧誘禁止撤廃に反対し、改正金融商品取引法施行令に同取引に関する市場デリバティブを加えることを求める会長声明 2014年2月8日
意見書 高齢者の消費者被害の予防と救済のためのネットワークづくりに関する意見書 2014年2月8日
会長声明 特定秘密保護法の成立に抗議する会長声明 2013年12月7日
会長声明 特定秘密保護法案の参議院での慎重審議及び全面的白紙撤回を求める会長声明2013年12月3日
会長声明 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認と国家安全保障基本法案の国会提出に反対する会長声明 2013年11月9日
会長声明 婚外子の法定相続分についての最高裁判所違憲決定を受けて、家族法における差別的規定の改正を求める会長声明 2013年11月9日
会長声明 民法(債権法)改正に関するパブリックコメントを再度募集することを求める会長声明 2013年11月9日
会長声明 特定秘密保護法案に反対する会長声明 2013年11月9日
会長声明 東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の消滅時効につき特別の立法措置を求める会長声明 2013年10月12日
会長声明 生活保護法改正法案の再提出および生活保護費の切り下げに反対する会長声明2013年10月12日
会長声明 改めて司法修習生の給費制復活を求める会長声明 2013年10月12日 パブリックコメント 特定秘密の保護に関する法律案に反対する意見書 2013年9月9日
会長声明 憲法第96条の発議要件を緩和する改正に反対する会長声明 2013年6月8日
会長声明 「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明 2013年6月8日
パブリックコメント 法制審議会「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」に対する意見 2013年5月23日
パブリックコメント 法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめに対する意見 2013年5月13日
平成24年度分(会長:清水 毅)
会長声明 司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明 2013年1月17日
会長声明 生活保護の給付基準切り下げに反対する会長声明 2012年11月13日
会長声明 発達障害のある被告人による実姉刺殺事件判決に関する会長声明 2012年9月8日
会長声明 地方消費者行政に対する国の実効的支援を求める会長声明 2012年9月8日
会長声明 上限金利の引き上げ及び総量規制の撤廃に反対する会長声明 2012年8月4日
会長声明 「裁判所法の一部を改正する法律」の成立に伴い司法修習生の給費制の復活を求める会長声明 2012年8月4日
会長声明 任意整理における統一基準に関する会長声明 2012年6月2日
総会決議 秘密保全法制に反対する総会決議 2012年5月22日
平成23年度分(会長:柴山 聡)
会長声明 県内全市町村に対し暴力団排除条例の早期制定を求める会長声明 2011年11月12日
会長声明 労働者派遣法抜本改正に関する会長声明 2011年6月11日
会長声明 「布川事件」の再審無罪判決に関する会長声明 2011年5月24日
総会決議 民法(債権法)改正に関する総会決議 2011年5月13日
総会決議 全面的国選付添人制度の実現を求める決議 2011年5月13日
平成22年度分(会長:信田 恵三)
総会決議 各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及び パリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議 2011年2月25日
会長声明 司法修習費用給費制の在り方等について検討する組織の早期設置を求める会長声明 2011年1月12日
会長声明 秋田弁護士会所属弁護士殺害事件に関する会長声明 2010年11月8日
会長声明 非嫡出子の相続分差別撤廃を求める会長声明 2010年7月13日
会長声明 全面的な国選付添人制度の実現を求める会長声明 2010年7月7日
会長声明 横浜弁護士会所属会員殺害事件に関する会長声明 2010年6月8日
平成21年度分(会長:平嶋 育造)
会長声明 改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明 2009年12月12日
会長声明 司法修習生の給費制の継続を求める会長声明 2009年8月27日
会長声明 労働者派遣法の抜本改正を求める会長声明 2009年7月9日
平成20年度分(会長:石川 善一)
会長談話 裁判員裁判が始まる年を迎えて 2009年1月1日
会長談話 「都留ひまわり基金法律事務所」開設にあたって 2008年9月1日
会長談話 ヤミ金融被害者の救済のために 2008年7月30日
会長声明 強い消費者庁の実現を求める会長声明 2008年6月7日
会長談話 憲法記念日~施行61周年~を迎えて 2008年5月3日
平成19年度分(会長:小澤 義彦)
会長声明 捜査官による取調べの全過程の可視化(録音・録画)を求める会長声明 2008年3月24日
会長声明 「犯罪被害者等による少年審判の傍聴」に反対する会長声明 2008年2月27日
会長談話 理想と現実(会長挨拶に代えて) 2007年11月10日
会長談話 8月と平和と戦争 2007年8月10日
会長談話 会務は他人(ひと)の為成らず 2007年6月5日
平成18年度分(会長:田邊 護)
会長声明 グレー金利絶対反対・緊急会長声明 2006年9月12日
会長声明 高金利の引き下げ等を求める会長声明 2006年4月10日
平成17年度分(会長:田中 正志)
会長声明 「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明 2006年2月24日
総会決議 代用監獄の廃止を求める決議 2006年2月24日
会長声明 共謀罪の新設に反対する会長声明 2006年1月20日
会長声明 少年法等の改正に関する会長声明 2005年10月8日
会長談話 9月度会長談話 2005年9月13日
会長談話 7月度会長談話 2005年7月23日
会長談話 6月度会長談話 2005年6月20日
会長談話 5月度会長談話 2005年5月13日
平成16年度分(会長:水上 浩一)
会長声明 除名処分についての会長声明 2005年2月21日
会長声明 声明 2004年11月22日
会長声明 声明 2004年10月12日
会長声明 司法修習生の給費制堅持を求める声明 2004年8月10日
会長声明 会長声明 2004年4月20日
平成15年度分(会長:深澤 一郎)
会長声明 自衛隊のイラク派遣の中止を求める会長声明 2004年2月27日
会長声明 司法修習生の給費制維持を求める声明 2003年10月16日
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さらなる生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明
厚生労働省は、2017(平成29)年12月14日、社会保障審議会生活保護基準部会がとりまとめた「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」を公表した。
その後、政府は、生活保護受給額のうち食費や光熱費など生活費相当分について、支給水準を2018(平成30)年10月から3年かけて段階的に引き下げて、政府の支出額を年160億円(約1.8%)削減する方針を決めた。政府方針によれば、子育て世帯への児童養育加算は40億円の増額としたものの、生活費本体については180億円、母子加算については20億円の削減となる。
上記の支給水準引下げの根拠として、生活扶助基準額と年収下位10%の層を比較して、生活扶助基準額のほうが高いことが挙げられている。
しかし、そもそも生活保護制度の捕捉率(制度を利用できる資格がある人の中で生活保護制度を利用している人の割合)は15.3%から32.1%にすぎず(2010(平成22)年4月9日付厚生労働省発表の「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)、年収下位10%の層の多くは、生活保護制度を利用できておらず、生活保護基準以下の生活を強いられているものと考えられる。したがって、上記引下げの根拠は、単に捕捉率の低さを浮き彫りにしたものに過ぎない。
むしろ、このような年収下位層と生活保護基準の比較によって、支給金額を検討する方法では、捕捉率の低下、つまり生活保護を受けていない低所得者層が増えるほどに、生活保護を受けている層の支給水準も引き下げられ、貧困問題がより深刻化していくことにもなりかねず、いわば負のスパイラルを招きかねない。
上記「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」においても、「絶対的な水準を割ってしまう懸念がある」など、前記手法の問題点が多数指摘されている。
「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法や、子どもの健やかな成長発達を保障する子どもの権利条約に照らせば、どのような生活保護制度であるべきかの検討は、単に特定の算定方式による比較を機械的にあてはめるべきではなく、生活保護利用者を含む低所得者層の生活の実態を十分把握したうえで行うべきである。にもかかわらず、2013(平成25)年以降の生活保護基準引下げについて、このような観点から適切な検討がなされたとは言い難い。
しかも現在の政府は、量的金融緩和によるインフレ誘導政策を基本としているのであるから、当該方針は必然的に物価上昇による必要生活費の上昇を内包するものである。生活保護水準は、健康で文化的な最低限度の生活を保障する趣旨で定められているのであるから、インフレを誘導するのであれば、生活保護水準もそれに合わせて上昇させなければ最低限度の生活の維持も困難となることは明らかである。こうした点を十分に考慮しないまま、生活保護基準を引き下げることはあってはならない。
2013(平成25)年以降の生活保護基準引下げについての十分な検討を欠き、しかも金融政策といった他の政策との整合性もないままに、本来生活保護制度によって保護されるべき低所得者層との比較を根拠として、再び生活保護基準を引き下げることは到底容認できない。
当会は、今後予定されている生活保護基準の引下げに強く反対するものである。
2018年1月26日
山梨県弁護士会会長 堀内寿人
いわゆる共謀罪法案の成立に強く抗議し廃止を求める会長声明
1. 2017年6月15日、いわゆる「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法の改正案(以下「共謀罪法案」という。)が、参議院法務委員会の採決を省略した参議院本会議における採決により成立した。
当会は、共謀罪法案に反対する会長声明を過去数度にわたり発し、「共謀罪」が、刑法の基本原則に反し、内心の自由や表現の自由を侵害する危険が極めて高いことを指摘してきた。
2. しかしながら、本国会の審議において、政府は、一方では「共謀罪」がなければテロ対策を講じることができないかのような印象を市民に抱かせようしながら、「共謀罪」の立法目的、277の対象犯罪の妥当性、構成要件の明確性といった「共謀罪」の根本的な問題点については、市民が納得できるような答弁を行わなかった。
また、「共謀罪」の適用にあたっては、メールや会話等を捜査対象とする必要性から、通信傍受のさらなる拡大や会話傍受等を通じて捜査機関による日常的な監視が拡大し、市民のプライバシーの侵害や表現行為の萎縮につながるおそれがある。実際、国連人権理事会の特別報告者からも、「共謀罪」がプライバシー権を侵害する懸念が示されているところである。
3. さらに、国会の会期を延長するなどして法務委員会で共謀罪法案の審議をさらに継続することが可能であったにもかかわらず、参議院は、法務委員会の採決を経ないままその審議を打ち切り、本会議でこれを成立させた。こうした参議院における法案審議の経過は、民主主義の否定といっても過言ではない。
4. よって、当会は、共謀罪法案が基本的人権を大きく制限する可能性の高い法案であるにもかかわらず、審議を途中で打ち切るという極めて異例な手続を経て成立に至ったことに強く抗議するとともに、成立した法律の廃止を求め、廃止が実現するまでの間は、この法律が濫用されることがないように厳しく注視していく所存である。
2017年6月22日
山梨県弁護士会会長 堀内 寿人
いわゆる「共謀罪」法案の廃案を求める会長声明
1. 2017年3月21日に、過去3度廃案となった「共謀罪」について、テロ対策を名目としてこれを新設する組織犯罪処罰法改正案(以下「「共謀罪」法案」という。)が閣議決定され、国会に提出された。当会は、「共謀罪」は重要な基本的人権を侵害するものであるなどとして、過去3度(2006年1月20日、2014年10月11日、2016年10月1日)「共謀罪」創設に反対する会長声明を出した。「共謀罪」は、具体的な犯罪について2人以上の者が話し合って合意するだけで処罰できる犯罪のことであるが、その合意のみで処罰するのは、内心の自由や表現の自由を侵害する危険が極めて高いことは従前の指摘のとおりである。
2. 「共謀罪」法案では、犯罪主体を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」としている。しかし、「テロリズム集団」について何も定めてない。「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」には「常習性」や「反復継続性」等の要件も付加されておらず、犯罪主体が限定されていると評価することはできない。また、適法な目的を有する団体でも、犯罪の共謀を行った時点で「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」となったと解釈できることから、どのような団体でも「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と認定される危険性が高く、一般市民も処罰の対象となる可能性があることを否定できない。
3. また、「共謀罪」法案では、「準備行為」を要件とし、「準備行為」について、「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」としている。しかし、その「準備行為」も法益侵害の危険性が全くない行為も含むものであって、この要件自体が犯罪を限定する機能をしておらず、本質的には「共謀罪」そのものであることには変わりがない。
4. さらに「共謀罪」法案は、対象犯罪を600以上の犯罪から277に限定している。しかし、いくら対象犯罪を限定しても、共謀罪が内包している本質的な危険性は変わらない。277に限定した犯罪の中でも、未遂犯・予備犯を処罰せず既遂犯のみを処罰対象としている犯罪を多数含んでおり、既遂犯の処罰を基本とする現行刑法の基本原則を否定するものである。特に、対象犯罪には、偽証罪も含まれているので、刑事裁判における弁護人と証人との打合せ等が偽証罪の共謀として検挙されるおそれがあり、正当な弁護活動が妨害される重大な懸念を含んでいる
5. したがって、組織犯罪処罰法の改正案は、「共謀罪」の問題点を解消することなく、その本質はいわゆる「共謀罪」と何ら変わらず、重要な基本的人権を侵害するものである。
6. よって、当会は、いわゆる「共謀罪」法案の廃案を強く求める。
2017年3月11日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
民法の成年年齢の引下げに反対する意見書
第1 意見の趣旨
民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることについては,反対である。
第2 意見の理由
1. はじめに
平成19年5月に成立した日本国憲法改正手続に関する法律(国民投票法。平成19年5月18日法律第51号)は,満18歳以上が国民投票の投票権を有するとし,同法附則第3条第1項(現在では附則(平成26年6月20日法律75号)3項)では「満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう,選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法,成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と定められた。
この附則を受けて,法制審議会は,第160回会議(平成21年10月28日)で民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが適当であるとする「民法の成年年齢引下げについての最終報告書」(以下「最終報告書」という。)を採択し,法務大臣に答申した。そして,平成27年6月17日,公職選挙法(昭和25年4月15日法律第100号)が改正され,選挙年齢を18歳に引き下げることとなった。
そこで,あらためて同附則第3条第1項が選挙年齢とともに検討課題とした民法の成年年齢の引き下げの問題がクローズアップされることになった。
その後,平成28年9月には民法の成年年齢の引下げの施行方法に関する意見聴取手続(以下「パブリックコメント」という。)がなされ,この結果を踏まえ,現在,成年年齢引下げに関する民法改正法案提出の動きが加速している。
しかしながら,以下に述べるように民法の成年年齢を早急に引き下げる積極的意義はないばかりか,民法の成年年齢の引下げには多くの問題点があり,それに対する十分な対応策も採られていない現在,民法改正による成年年齢引下げには反対である。
2. 民法の成年年齢引下げにおける積極的意義の欠如
最終報告書は,「憲法は成年者に対して選挙権を保障しているだけであって,それ以外の者に選挙権を与えることを禁じてはおらず,民法の成年年齢より低く選挙年齢を定めることが可能であることは,学説上も異論がない」ところであり,理論的には「選挙年齢と民法の成年年齢とは必ずしも一致する必要がない」とした上で,選挙年齢と民法の成年年齢とは一致していることが望ましいと結論づけている。
その根拠としては,「選挙年齢の引き下げにより新たに選挙権を取得する18歳,19歳の者にとって,政治への参加意欲を高めることにつながり,また,より責任を伴った選挙権の行使を期待することができること」,「社会的・経済的にフルメンバーシップを取得する年齢は一致している方が,法制度としてシンプルであり,また,若年者に,社会的・経済的に「大人」となることの意味を理解してもらいやすいこと」,「大多数の国において私法上の成年年齢と選挙年齢を一致させていること」,「国民投票法の法案審議の際の提出者の答弁等において,民法上の判断能力と参政権の判断能力とは一致すべきであるとの説明が行われていること」等を挙げる。
しかし,18歳,19歳の者の政治への参加意欲を高めることや責任を伴った選挙権の行使は,若年者への政治教育の充実や,若年者の政治へのアクセスを容易にする等の直接的な施策によって行うべきであり,民法の成年年齢を引き下げることで直ちにこれらを達成できるとは考えがたい。
また,法律における年齢区分はそれぞれの法律の立法目的や保護法益ごとに,個別具体的に検討されるべきものであり,一致している方がシンプルであるといった単純な理由で安易に決められてはならない。民法の成年年齢については,あくまでも私法上の行為能力を付与するに相応しい判断能力があるか否かが正面から論じられるべきであり,選挙権の判断能力と一致すべき必然性はない。
また,少なくともわが国においては,後述するように各問題点を解決する施策の整備が現段階では不十分であることからすれば,海外諸国とは事情が異なるのであって,諸外国と同様に考える必要はない。
パブリックコメントにおいても,193件の回答のうち,消費者被害など施行に伴う支障があるとの意見が多数寄せられており,また施行までの周知期間として,3年以上の期間が必要とする意見が多い。さらに,193件の回答のほかにも,単に引下げの可否などを回答したものが158件あり,その大半が引下げに慎重や反対であったとの新聞報道がなされている。
したがって,民法の成年年齢を引き下げなければならない積極的意義はないと言わざるを得ない。
3. 若年者に対する消費者被害の拡大のおそれ
現行民法においては,未成年が親権者の同意を得ずに単独で行った法律行為については,未成年者であることを理由として,取り消すことができる(民法第5条2項)。この未成年者取消権は,未成年者が違法若しくは不当な契約を締結するリスクを回避するにあたって絶大な効果を有しており,かつ,悪徳業者に対して未成年者を契約の対象にしないという大きな抑止力となっている。
しかし,民法の成年年齢を18歳に引き下げた場合,18歳,19歳の若年者がかかる取消権を失うことになる。
現行民法の下では,未成年者取消権のない20歳以上の者が消費者被害のターゲットとなっているとみられ,とくに成人したばかりの若年者はターゲットにされやすい傾向にある。独立行政法人国民生活センターの発表(平成28年10月27日付「成人になると巻き込まれやすくなる消費者トラブル-きっぱり断ることも勇気!-」)によれば,2015年度の18歳~19歳の相談件数(平均値)は5,747件であるところ,20歳~22歳の相談件数(平均値)は8,935件に及び,成人後に3,000件以上も相談が増えている。この傾向は,2016年度も同様であり,2016年9月30日までの登録分で18歳~19歳の相談件数(平均値)は2,353件,20歳~22歳の相談件数(平均値)は3,544件となっている。契約内容も,未成年者のトラブルではあまり見られなかった「サイドビジネス」や「マルチ取引」,「エステ」が上位になり,契約金額も高額になっていることが指摘されている。特に「マルチ取引」は,総件数に対する20歳~22歳男性の占める割合が18歳~19歳男性の約7倍に増加している。
民法の成年年齢が引き下げられ,18歳,19歳の若年者が未成年者取消権を喪失すれば,そのターゲットとなる層が18歳,19歳にまで拡大することは必至である。ところが,世論調査においては,18?19歳の85%が民法の成年年齢の引下げの議論を知らず,50%が「関心がない」又は「あまり関心がない」と回答しており(2013年内閣府「民法の成年年齢に関する世論調査」),自らが消費者被害の標的となりうることについて認識が低く,あまりに無防備である。
しかも,上記未成年者取消権を喪失した際には,それに代わる施策として,事業者に課すべき若年者の特性や取引類型に応じた説明義務の強化策,未成年者取消権にかわる保護制度の創設,若年者に対する消費者教育の充実など若年者に対する消費者保護施策が不可欠であるところ,いずれも現段階においては整っているとは,到底言い難い状況にある。パブリックコメントにおいても,施行に伴う支障として消費者被害について指摘する意見が多数寄せられており,現段階では施策の整備が十分でないことを示している。
したがって,民法の成年年齢の安易な引下げは,若年者の消費者被害を蔓延させることになりかねず極めて危険である。
4. 親権に服する年齢を引き下げた場合の問題点
(1)若年者の困窮の増大のおそれ
最終報告書は,「現代の若年者の中には,いわゆるニート,フリーター,ひきこもり,不登校などの言葉に代表されるような,経済的に自立していない者や社会や他人に無関心な者,さらには親から虐待を受けたことにより健康な精神的成長を遂げられず,自傷他害の傾向がある」者等が増加しているとし,このような状況の下で民法の成年年齢を引き下げ,親権の対象となる年齢が引き下げられると,自立に困難を抱える若年者が親の保護を受けられなくなり,ますます困窮するおそれがある点を指摘する。パブリックコメントにおいても,授業料や学校徴収金等の高校生活に必要な費用も保護者に依存している状況の中で,現在は未納者については保護者に督促を行っており,民法の成年年齢の引下げにより,この部分に課題が生ずる可能性があると全国高等学校長協会より指摘されている。現実には,18歳,19歳の若年者の大部分は学生であり,むしろ経済的に自立している者は少数であるのが現状である。
就労支援,教育訓練制度,シティズンシップ教育などの支援が不可欠であるが,いずれも十分に実行されているとは言い難い状況にある。
(2)高校教育における生徒指導の困難化のおそれ
また,最終報告書は,「民法の成年年齢を18歳に引き下げると,高校3年生で成年(18歳)に達した生徒については,親権者を介しての指導が困難となり,教師が直接生徒と対峙せざるを得なくなり,生徒指導が困難になるおそれがある。」という点を指摘している。高等学校内に成年者と未成年者の生徒が入り交じることとなり,法律関係,指導関係の取り扱いに違いが生じてくることは必然である。どのような問題点が学校内で生じてくるのかなど,議論が十分に尽くされているとは言い難い状況にある。少なくとも,学校外での生活の指導等について,従来の学則をそのままあてはめることができるのかという問題点は明らかであり,この点に対する有効な施策がなされているとは言い難い。
したがって,自立に困難を抱える若年者の困窮の増大や高校教育における生徒指導の困難化のおそれからしても,民法の成年年齢の引下げには反対である。
5. 養育費支払終期の事実上の繰上げのおそれ
養育費は,子の福祉の観点からも非常に重要である。
理論的には,養育費の支払終期については,経済的に自立していない子,すなわち「未成熟子」概念を基準とすべきであり,そもそも成年年齢を基準とすべきものではない。
しかし,裁判所等作成の申立書の定型書式では対象者を「未成年者」と表示していたり,審判書や調停調書のひな型にある当事者目録や主文・条項の記載例でも「子」等ではなく,「未成年者」と表示されていることがある。
そのため,養育費に関する合意や裁判の際,「子が成年に達する日の属する月まで」等と定められる例もある。
このような合意が,民法の成年年齢の引下げにより,養育費支払終期の繰り上げに直結してしまうおそれを否定できない。
養育費の支払終期については「未成熟子」概念を基準とすべきであるとの考え方を裁判実務の中で実現するだけでなく,国民全体にも広く周知を図る必要がある。
そして,民法の成年年齢の引下げにより,養育費支払終期の繰り上げに直結してしまうことのないようにするための施策が必要であるが,現段階で整っているとは言い難い。
したがって,養育費の観点からしても,民法の成年年齢の引下げには反対である。
6. 労働基準法第58条による労働契約解除権の喪失のおそれ
民法の成年年齢を引き下げた場合,18歳,19歳の若年者は,民法の未成年者取消権による保護だけでなく,労働基準法第58条第2項の未成年者にとって不利な労働契約(親権者等の同意に基づいて成立した契約も含む)の解除権による保護も受けられなくなる可能性が高い。労働契約の解除権による抑止力が働かなくなる結果,労働条件の劣悪ないわゆるブラック企業等による労働者被害が18歳,19歳の若年者の間で一気に拡大する可能性がある。
労働環境におけるトラブルは後を絶たず,若年者は経験の不足から労働契約締結時に十分に労働環境を検討することができず,精神的に追い込まれていく事件が後を絶たない。
劣悪な労働環境を回避する制度や,他の保護制度の創設が不可欠であるが,現段階で整っているとは言い難い。
したがって,労働契約解除権喪失の観点からしても,民法の成年年齢の引下げには反対である。
7. 児童福祉法・児童扶養手当法など,児童福祉における若年者支援の後退のおそれ平成28年6月に成立した改正児童福祉法には,児童自立支援生活援助事業の対象期間を22歳の年度末までとする内容が盛り込まれた。
これは,困難を抱え自立に課題のある若者に対しては18歳を超えても社会的な支援が必要であることが社会的合意になっていることを示しており,民法の成年年齢を引き下げることは,この流れに逆行するものであり,若年者支援施策の整備を後退させるおそれがある。
したがって,民法の成年年齢の引下げは,改正児童福祉法の精神にも悖るものであり,反対である。
8. 未成年者後見の終了に伴う支援断ち切りのおそれ
18歳,19歳の若年者のうち,両親がいないために未成年後見が開始されている未成年者で,中でも専門職後見人のみが選任されている場合については,民法の成年年齢の引下げによって,第三者の支援自体が断ち切られる事になる。
例えば,被後見人である若年者が高校在学中に18歳に達し,後見が終了すると,進学を希望したとしても,その後の進学に関わる事務作業の継続的支援が断ち切られることになる。
このような場合に関する議論が十分になされたとは言い難い。
したがって,未成年被後見人に対する支援継続の観点からも,民法の成年年齢の引下げに反対である。
9. 結語
以上のとおり,民法の成年年齢の引下げについては,積極的意義がないばかりか,既に述べたような様々な問題点があることからすれば,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることについては,反対である。
2017年2月24日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の廃止を求める会長声明
平成28年12月15日,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下,「カジノ解禁推進法」という。)が,衆議院本会議で可決,成立した。
当会は,平成26年10月11日付会長声明において,カジノ解禁推進法案が,ギャンブル依存症患者・多重債務者増加のおそれ,青少年の健全育成への悪影響,暴力団関与のおそれ,経済効果に対する疑問,といった諸問題を含み,さらには,カジノにおけるギャンブルが刑法の禁止する「賭博」にあたることを指摘して,カジノ解禁推進法案に反対する旨の意見を表明した。
これらの諸問題は,国民生活に重大な影響を及ぼすものばかりであり,カジノ解禁推進法案の審議にあたっては,広く国民各層から意見を吸い上げたうえで,法案の是非を慎重に判断すべきであった。
しかし,衆議院内閣委員会では,わずか6時間という極めて短い審議時間で採決が強行された。参議院内閣委員会でも,十分な審議が行われず,修正案についても,修正動議の後,わずか数十分の審議で可決された。
加えて,当会が指摘した諸問題の解決策については,何ら具体的な提案がなされておらず,施行期間までに作成されるとしても諸問題の解決が短期間で実現できる見込みは低く,国民生活に重大な影響が及ぶおそれは払拭されていない。
よって,当会は,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」の成立に強く抗議し,本法律の廃止を求める。
2017年2月11日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
南スーダンにPKOとして派遣される自衛隊部隊に「駆け付け警護」等の新任務を付与することに抗議し、改めて安保法制の廃止を求める会長声明
1. 政府は、平成28年11月15日、南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に国際連合平和維持活動(PKO)として派遣される自衛隊に対して、「駆け付け警護」の新任務を付与する閣議決定を行うとともに、「宿営地の共同防護」が可能となることを確認した。
「駆け付け警護」とは、離れた場所にいる国連やNGOの職員が武装勢力等に襲撃された場合、その救出等を行うものであり、「宿営地の共同防護」とは、自衛隊が宿営する宿営地が襲撃を受けた場合に、他国軍部隊とともに反撃を行うというものである。上記閣議決定に基づき、同年12月12日以降、南スーダンに派遣された自衛隊部隊が「駆け付け警護」等の新任務遂行のために武器使用を行うことが可能となった。
2. 「駆け付け警護」及び「宿営地の共同防護」の任務遂行のために武器使用を認めることは、従来自衛隊のPKO活動の合憲性の根拠とされた自己保存型のみへの武器使用の制限を超え、憲法9条が禁止する海外での武力の行使に至る危険を有するものである。そのため、当会はPKO法改正も含む安保法制に対して一貫して反対してきた。
この度、安保法制の初めての発動として、南スーダンに派遣した自衛隊部隊に「駆け付け警護」等の新任務を付与したことは、日本国憲法の立憲主義・平和主義に反するものと言わざるを得ない。
3. 南スーダンの現状は、自衛隊が派遣された首都ジュバにおいて平成28年7月に大規模な武力衝突が発生し、同年10月には反政府軍のトップが和平合意は崩壊したと発言している。さらに、国連の報告等でも、和平合意は崩壊したとされ、民族対立を背景に今後さらに戦闘が激化することへの懸念が表明されている。また、政府軍・反政府軍による国連施設等への攻撃が行われていることも報告されている。
政府は、新任務付与の合憲性の根拠として、「紛争当事者間での停戦合意」を掲げているが、現在の南スーダンでは、「停戦合意」がすでに破たんしていることは明らかである。
このような極めて危険な現状において、自衛隊が新任務を遂行すれば、戦後初めて自衛隊員が戦闘により殺傷され、また、他国の市民を殺傷することになりかねない。
4. 以上より、当会は南スーダンにPKOとして派遣される自衛隊部隊に「駆け付け警護」等の新任務を付与することに強く抗議し、閣議決定の撤回を求めるとともに、改めて立憲主義違反の安保法制の廃止を求めるものである。
2017年1月14日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
テロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明
1. 政府は、過去3度廃案となった共謀罪創設規定を含む法案について、「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を改めたうえで、これを新設する組織犯罪処罰法改正案(以下「新法案」という。)を来年の通常国会に提出する方針であるとの報道がなされている。
2. 当会は、共謀罪は外形的行為のない「意思」を処罰しないとする刑事法体系の基本原則に反するばかりか、表現行為を処罰する点で表現の自由や思想信条の自由等基本的人権を侵害するものであることなどから、過去2度(2006年1月20日、2014年10月11日)共謀罪創設に反対する会長声明を出している。
3. 現在報道されている新法案では、犯罪の「遂行2人以上で計画した者」を処罰することとしている。しかし、「計画」とは「犯罪の合意」と同義であり、その法的性質は「共謀」と何ら変わることはない。また、新法案では、「犯罪の実行の準備行為」を新たな要件として付加している。しかし、資金の準備等といった予備罪・準備罪における予備行為・準備行為より前段階の危険性の乏しい行為を広範に含む可能性があり、極めて抽象的で恣意的な解釈が可能であって、処罰範囲を限定するような機能を有しておらず共謀罪の危険性は変わることはない。
また、新法案では、適用対象を単に「団体」ではなく「組織的犯罪集団」とし、その定義を「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」としている。しかし、そのような「組織的犯罪集団」を明確に定義することは困難であり、その解釈によっては適用対象が拡大する危険性が高い。犯罪を計画すれば犯罪の実行がその団体の目的であると解釈することも可能であり、適用対象の限定はないことになる。
さらに、新法案は、これまでの共謀罪法案と同様にその対象となる「犯罪」を長期4年以上の懲役・禁錮刑が定められている罪について一律に定め、現時点では対象となる「犯罪」は600以上にもわたる。その範囲は非常に広範にわたることになり、表現の自由等を侵害する危険性は何ら変わることはない。
4. そのうえ、新法案によっても、その「準備行為」の捜査のためには、さらなる通信傍受の拡大や、捜査機関による会話傍受が導入される事態が予想される。その結果、捜査機関が個人の会話や電話、メールなどの日常的なやりとりを常時監視することとなり、市民の表現活動を萎縮させてしまう懸念が消え去ることはない。
5. 政府は、新法案の新設は国連越境組織犯罪防止条約(以下「条約」という。)を締結するための国内法の整備としている。しかし、現行法上でも、重大犯罪について予備罪、共謀罪が存在しているし、判例上も共謀共同正犯理論が確立していて、その是非は格別としても、予備の共謀共同正犯、他人のための予備についても処罰が可能であり、条約を締結するために新法案の制定は不可欠なものではない。
また、テロ対策の必要性は認めるものの、そもそも条約は経済的な組織犯罪を対象とするものであり、テロ対策とは無関係である。新法案の対象行為である600以上の犯罪にはテロとは全く関係ない犯罪も含まれている。
6. したがって、テロ等組織犯罪準備罪は、共謀罪の問題点が解消されておらず、その本質は共謀罪と何ら変わらないことから、基本的人権を侵害する危険性が高く、その新設には強く反対する。
2016年10月1日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
消費生活センターの設置を求める会長声明
第1 声明の趣旨
当会は,県内全市町村が,消費生活センターを設置することを求める。
第2 声明の理由
1. はじめに
当会は,日ごろの消費者問題への取組状況から,消費者被害の予防と救済のためには,消費者に身近な市町村において,消費生活相談体制を充実することが不可欠であるとの認識に至り,平成27年7月13日,消費生活相談窓口の充実を求めるための意見書を発表した。
また,国は,消費者問題に関する相談・救済体制の整備のため,①人口5万人以上の全市町及び人口5万人未満の市町村の50%以上に消費生活センターを設置,②市町村の50%以上に消費生活相談員を配置,③相談員の資格保有率を75%以上にする,という数値目標を定めている。しかし,山梨県は,この3つの数値目標すべてで目標未達成であり,かつ,全国平均を下回っている。山梨県は,全国の都道府県の中でも,消費者問題の相談・救済体制の整備が遅れている県の1つと言わざるを得ない。
2. 山梨県消費者基本計画の策定
山梨県は,平成28年3月29日,上記数値目標未達成の現状を踏まえ,県内の消費者施策を総合的に推進するために「山梨県消費者基本計画」(以下「県計画」という。)を策定した。
県計画では,重点施策の1番目に「市町村における消費生活センターの設置または消費生活相談員の配置による相談体制の充実」が掲げられており,山梨県として「どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられ,安全・安心が確保される体制整備を促進」(県計画19頁)するとしている。
そして,市町村が実施する相談体制の充実等に関し,山梨県が支援を行い,県計画の実施期間である平成28年度から平成32年度の5年間で,上記3つの数値目標を達成するとしている。
3. 当会の意見
しかし,当会は,「どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられ,安全・安心が確保」されるためには,上記3つの数値目標に関わらず,県内の全市町村に消費生活センターを設置すること(複数の市町村による広域連携を含む。)が必要と考える。
なぜなら,消費生活センターは,消費生活相談員を配置し,消費者問題に専門特化した相談・あっせん業務を行う専門機関であり(消費者安全法第10条第2項),この相談・あっせん業務は連続的かつ速やかに行うことが想定されている。そして,このような相談・あっせん業務を行う機関を,県内全市町村が設置することで,初めて,消費者が,どこに住んでいても,質の高い相談・救済を迅速に受けられるようになるからである。
また,既に消費生活センターを設置し,週5日の終日相談を実施する甲府市,および富士吉田市ほか5町村(山中湖村,忍野村,西桂町,富士河口湖町,鳴沢村)の消費生活相談件数は,センター設置以降,急激に増加しており,市町村の相談体制充実により住民の相談利用が促進される結果となっている。
さらに,当会は,住民から消費者問題に関する法律相談を受付けているほか,平成28年4月から,消費生活相談員を対象とした無料法律相談である「消費生活相談員ほっと相談」の運用を開始した。この制度は,消費生活相談員が対応に悩む事例について,経済的負担なく当会の弁護士に相談することができる制度である。当会は,県内全市町村が消費生活センターを設置し,消費生活相談体制を整備するための取組みの一環として,上記ほっと相談を実施するものである。これにより,県内市町村の消費生活センターと当会が連携して消費者問題に対処することが期待される。
よって,当会は,声明の趣旨のとおり,県内全市町村が消費生活センターを設置することを求める。
2016年5月19日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
69回目の憲法記念日に寄せる談話
関東弁護士会連合会及び当連合会管内の13弁護士会の会長は、憲法記念日に寄せて、以下のとおり談話を発表する。
1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今年、69回目の憲法記念日を迎えた。日本国憲法は、わが国が平和的に繁栄し、国際社会から高い信頼を得るのに重要な役割を果たしてきた。しかし、今、日本国憲法は、大きな試練にさらされている。
昨年9月19日、平和安全法制整備法及び国際平和支援法(いわゆる「安全保障関連法」)が成立し、本年3月29日から施行された。安全保障関連法は、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認している。そもそも、安全保障関連法の審議に先立ち、閣議決定により憲法第9条の解釈を変更し、国会においても、十分な審議を尽くすことのないまま、多くの国民が反対する中で、極めて拙速にこの法律を成立させたことは、立憲主義に反するものである。
立憲主義は、人類が多くの過ちを繰り返し、苦難の歴史を経た結果、権力を制限し、国民の権利・自由を擁護することを目的として確立した近代憲法の基本理念である。憲法は、国家権力のあり方を規定するものであり、そのあり方を決めるのは、主権者である私たち国民である。私たちは、歴史を知り、わが国を取り巻く情勢を正確な情報に基づき冷静に分析し、そして、どのような国を目指すのかを深く考えなければならない。憲法に何を託すのか、問われているのは、私たち自身である。本日の憲法記念日を、憲法の意義について改めて認識するとともに、これからの国のあり方を考える機会としたい。
先の大戦により、わが国は、国民が存亡の危機に陥った。国土は焦土と化し、310万人を超える国民が犠牲になった。世界的に見ても甚大な犠牲が伴った。このような戦争の生々しい傷跡が残る中で制定された日本国憲法は、「日本国民は、・・われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と宣言した(憲法前文)。戦後、70余年を経て、戦争を経験した世代は、少なくなり、またわが国を取り巻く国際情勢も変化しているが、私たち国民は、憲法に込められたこの崇高な理想を心に刻む必要がある。
また、憲法が施行された翌々年(1949年(昭和24年))に制定された弁護士法は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定し(第1条第1項)、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」と規定している(同条第2項)。私たち弁護士は、この使命を改めて自覚し、その職責を果たすため、誠実に努力するとともに、戦争が、国民の尊い命を危険にさらし、その生存を脅かすものであり、最大の人権侵害であることを常に意識して、人権擁護活動をしなければならない。
以上の次第であるので、関東弁護士会連合会及び当連合会管内の13弁護士会の会長は、安全保障関連法の運用・適用に反対し、その廃止を強く求めるとともに、弁護士の使命を果たすため、これからも日本国憲法の基本理念を堅持し、戦争のない平和な社会を守るための取組に全力を尽くす所存である。
2016年5月3日
関東弁護士会連合会理事長 江藤 洋一
小林 元治(東京弁護士会会長)
小田 修司(第一東京弁護士会会長)
早稲田祐美子(第二東京弁護士会会長)
三浦 修(神奈川県弁護士会会長)
福地 輝久(埼玉弁護士会会長)
山村 清治(千葉県弁護士会会長)
山形 学(茨城県弁護士会会長)
室井 淳男(栃木県弁護士会会長)
小此木 清(群馬弁護士会会長)
洞江 秀(静岡県弁護士会会長)
松本 成輔(山梨県弁護士会会長)
柳澤 修嗣(長野県弁護士会会長)
菊池 弘之(新潟県弁護士会会長)
安保関連法の施行に抗議し、その適用・運用に反対し、あらためてその廃止を求める会長声明
本年3月29日、安保関連法(平和安全法制整備法及び国際平和支援法)が施行された。
同法は、歴代の内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を、「存立危機事態」なる不明確かつ抽象的な要件の下、容認するものであって、明らかに憲法9条に反し、無効である。
また、従前、非戦闘地域でのみ可能であった後方支援において、武器及び弾薬提供、並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備(以下「戦闘行為への給油等」という。)は禁止されていた。それにもかかわらず、同法は、現に戦闘が行われていない地域であれば後方支援を可能とし、加えて、弾薬提供及び戦闘行為への給油等をも許すものであり、このことは、自衛隊が海外において、外国軍隊の武力行使と一体化する危険性を孕むものであって、武力の行使を禁止する憲法9条に明白に反する。
さらに、同法は、一内閣の閣議決定による憲法解釈の変更に基づき法案が作成されたうえ、大多数の国民の反対意見を無視し、国会における十分な審議が尽されることなく、強行採決され成立したものである。これは本来必要な憲法改正手続を経ることなく、立法によって憲法を実質的に変えようとするものであるから、立憲主義、国民主権の基本原則に明らかに反する。
当会は、2014年5月の「集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲に反対する総会決議」以降、2015年5月の安保関連法案の提出、並びに同年7月及び9月の衆参両議院での強行採決に当たり、その都度、一内閣による極めて横暴な一連の行動に対し、抗議してきた。こうした当会の抗議は、昨年6月と9月に行った当会主催の安保関連法反対の憲法市民集会・パレードに参加頂いた延べ2000人もの市民の方々の賛同により支持されている。
したがって、当会は、安保関連法が施行されたことに抗議し、その適用・運用に反対し、あらためてその廃止を求めるものである。
2016年4月9日
山梨県弁護士会会長 松本成輔
立憲主義違反の安保法案成立に抗議し、即時廃止を求める会長声明
安保法案(平和安全法制整備法及び国際平和支援法)が9月17日に参議院平和安全法制特別委員会において採決され、本日、参議院本会議において可決され、成立した。
当会は、平成26年5月の「集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲に反対する総会決議」以降、同年7月に集団的自衛権行使容認の閣議決定に対する抗議及び撤回を求める会長声明、平成27年5月に安保法案に反対する会長声明を発出した。さらに、同年6月と9月に安保法案反対の憲法市民集会・パレードを開催し、延べ2000名の市民の方々の賛同を得た。
これらの決議、声明及び集会・パレードにおいて繰り返し述べてきたとおり、安保法案は、憲法改正手続によって実現すべき日本の安全保障について、十分な審議を尽くさず、多数決の名のもとに、多くの国民の反対や慎重審議を求める声を無視して成立したものであり、国民主権、民主主義に反する。そして、戦争が究極の人権侵害であり、二度と政府による戦争の惨禍を行わせないとした日本国憲法(前文及び第9条)を踏みにじる安保法案の成立経過は、主権者国民が権力者の濫用から基本的人権を守るために憲法を制定し、権力者に守らせるという立憲主義にも反するものである。憲法によって国政を行うという法の支配を意味する世界の共通のルールである立憲主義をないがしろにする行為は決して許されないものである。
したがって、当会は、基本的人権の擁護と社会正義を実現する使命に基づき、法律制度の改善に努める義務を負う弁護士の団体として、国民主権、民主主義、そして立憲主義に反する安保法案の成立に対して抗議し、即時廃止を求めるものである。
2015年9月19日
山梨県弁護士会会長 關本喜文