本件事案の総括
本件は、弁護士会が、弁護士行政機関という公的性質を顧みず、政治団体化・北朝鮮の代理人化して大量会長声明を発出した問題につき、多くの国民が懲戒請求という形で是正を求めたところ、弁護士会が対象弁護士一人につき3億円の損害をわざわざ発生させ、対象弁護士が法律のしろうとの懲戒請求者を法廷に引きずり出して多額の金員を支払わせて「血祭り」「落とし前」をつけ(甲116)、もって弁護士会批判を封じ、弁護士会の政治団体化、北朝鮮の代理人化の問題を棚上げにしたままという事件である。
弁護士会は弁護士の懲戒を司る目的で法が設立を義務付けた懲戒制度の専門家である。一方、懲戒請求者は一般人であり懲戒制度の知識は無い。
懲戒請求を呼び込んだのは弁護士会の大量会長声明であり、秘密に処理されるべき懲戒請求を「大量懲戒請求問題」に膨らませ損害を異常拡大させたのも弁護士会であるから、対象弁護士1人に生じた3億円もの損害は、これを発生させた弁護士会が負担するのが社会正義に叶う。
訴状 4/5
第5 原告2について~佐々木弁護士の会長声明事案の異常な手続き~p19
1 事実経過 p19
(1)懲戒請求書p19
(2)第一陣p20
(3)第二陣p22
(4)第三陣p23
(5)原告2(第四陣)p23
(6)第10陣までp25
2 損害賠償請求訴訟2と弁済p25
3 佐々木弁護士が主張する損害と被告の不法行為責任p26
(1)弁明の負担p26
ア 佐々木弁護士の主張p26
イ 被告東京弁護士会の不法行為p26
(2)ア 利益相反確認の負担p29
イ 大量性の苦痛p29
ウ ファイルの負担p30
エ 被告東京弁護士会の不法行為責任p30
(3)登録替え等の制限p30
ア 佐々木弁護士の主張p30
イ 被告東京弁護士会の不法行為p31
第5 原告2について~佐々木弁護士の会長声明事案の異常な手続き~
1 事実経過
(1)懲戒請求書
原告2は、右肩No.189のひな型の懲戒請求書に記名押印し、日付欄は空欄にして、日本再生大和会に郵送した者である。
当該懲戒請求書に不動文字で印字されていた懲戒事由は、
「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である。」
という文言であった(甲55)。
このうち、懲戒事由たりうる「事実」に該当する部分は「朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為」であり、その余はそれに対する懲戒請求者の評価である。以下、「朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為」を懲戒事由とする事案を「本件会長声明事案」という。(※)
※ ここで「賛同し」「推進する行為」が具体的に何を指すかは特定されておらず、懲戒請求者ごとに異なる行為を指している可能性がある。その場合、異なる懲戒事由であり事案が複数ある可能性がある。したがって、弁護士会は、事案の異同や数を明確化するため、弁護士法70条の7に基づき、懲戒請求者らに対し、具体的にいつのどの行為を指すのか、説明を求めることが考えられる。
しかし被告東京弁護士会は、そのように事実を具体的に特定することを求めず、同一のひな型に記載された懲戒事由は1つであると解釈し処理した。それ自体は被告東京弁護士会の裁量の範囲であり許されると考える。
(2)第一陣
ア 平成29年6月9日以前に、被告東京弁護士会には、佐々木弁護士を含む10名を対象弁護士とし、本件会長声明事案を懲戒事由とする、同一のひな型による懲戒請求書200枚が、まとめて一括で送られてきた。(以下、この200通を「第一陣」という。)
イ 被告東京弁護士会は、第一陣の懲戒請求書一つ一つに、対象弁護士ごとに別々の「事案番号」を付した。200名の懲戒請求者が10名の対象弁護士を記載しているから、全部で2000個の「事案番号」であり、それは平成29年(東綱)第298ないし2297号であった。このうち、下一桁が「7」の番号が、佐々木弁護士を対象とするものであった。
ウ 同年6月9日、被告東京弁護士会は、第一陣について懲戒手続きに付して綱紀委員会に調査をさせた。
エ 同年6月15日、被告東京弁護士会は、弁護士法64条の7第1項1号に則り、綱紀委員会に事案の調査をさせたことを佐々木弁護士に通知した(甲7)。被告東京弁護士会はこの時、懲戒請求者全員の氏名をリスト化した「別紙事案番号一覧」を添付し(甲7)、さらに懲戒請求者の住所氏名が書かれた懲戒請求書の写しの束(200枚)も付けて、佐々木弁護士に送付した。
オ 被告東京弁護士会は、会長声明への関与が個々の弁護士の懲戒事由に当たることは「あり得ない」ものであり、そのような懲戒事由による懲戒請求は「濫用的懲戒請求」であるという見解を有していた(甲95、会長声明)。言い換えれば、会長声明に賛同しこれを推進した事実があってもなくても、懲戒事由に当たらないという見解を有していた(議決書、甲37~41)。
カ 弁護士法70条の7は、綱紀委員会は「必要があるときは」対象弁護士に説明等を求めることができると定めている。「必要」とは、綱紀委員会が議決をするための判断に必要という意味である。本件会長声明事案については、会長声明に賛同しようがしまいが非行に当たらないという評価であったのであるから、判断して議決するのに機は熟しており、対象弁護士に認否反論を求める必要は皆無であった。
しかし同年6月15日、綱紀委員会は同法70条の7の「必要」が無いにもかかわらず、「答弁書等の提出の催告」と題する文書(以下「答弁書催告状」という)を作成し、被告東京弁護士会はこれを前記調査開始通知に同封して、その頃佐々木弁護士に送付した(甲17)。
キ 綱紀委員会が答弁書催告状で求めた説明は、会長声明に賛同したかどうかの認否と、「申立ての趣旨に対する答弁」の2点であった。綱紀委員会は答弁書催告状に「正当な理由がなく答弁書を提出しない場合は、請求事由について明らかに争わないものとして調査を進めることがあります。」と記載した(甲17)。
ク 同年6月19日付けで、佐々木弁護士は答弁書を作成し、その頃これを被告東京弁護士会に提出した。答弁書の内容は、「懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決を求める。」、及び、会長声明に賛同した事実は無いというものであった(甲27)。
ケ その後、綱紀委員会が、佐々木弁護士の認否内容を特段疑った形跡はない。佐々木弁護士が会長声明に賛同しこれを推進したかどうかについて、綱紀委員会が佐々木弁護士に対し、さらに別の角度から質問したり、何か資料を示して説明を求めたりしたことは無い。すなわち、前記答弁書の提出を受けたことによって、佐々木弁護士に対する説明の求めは終了した。
コ 綱紀委員会が取り調べた証拠は、懲戒請求者らや佐々木弁護士から提出されたものは皆無であり、綱紀委員会が職権で収集した被告東京弁護士会会長声明(甲93)と日弁連会長声明(甲92)の2つ(朝鮮学校への補助金に関するもの)だけであった(甲37)。
サ 同年7月21日、綱紀委員会は本件会長声明事案について、審査を求めない議決をした(甲37)。議決の理由は、佐々木弁護士が「本件会長声明に賛同したとの事実を認めるべき証拠はないが、仮に、本件会長声明に賛同した事実があったとしても、当該行為を弁護士としての品位を失うべき非行と評価することはできない。」というものであった(甲37)。
シ 綱紀委員会が議決をすれば、弁護士会は裁量の余地なく当該議決のとおりの決定をしなければならない(弁護士法58条4項後段)。言い換えれば、議決が出れば、その議決のとおりの決定を出すだけでよく、即日か、どんなに遅くとも翌営業日には可能である。
同年8月3日、被告東京弁護士会は、議決から2週間も経って、ようやく佐々木弁護士を懲戒しない決定をした(甲42ないし45)。
これで本件会長声明事案の懲戒手続きは終了した。
その後、弁護士法64条1項に基づき異議の申出をした懲戒請求者はいなかったようである。
(3)第二陣
ス 上記経過の間である同年6月10日から同月21日までの間に、第一陣と同一のひな型による懲戒請求書、すなわち本件会長声明事案の懲戒請求書200枚が、一括してまとめて被告東京弁護士会に送られた(以下「第二陣」という)。
セ 本件会長声明事案については、既に第一陣により弁護士法58条2項の懲戒手続きが開始されていたにもかかわらず、被告東京弁護士会は、同月21日、第一陣とは別個に懲戒手続きを開始し、第一陣とは別個に綱紀委員会に調査を命じた(甲8)。そしてそのことを同月29日付け文書で佐々木弁護士に通知した(甲8)。尚、第二陣の「事案番号」は平成29年東綱第2384-1から2583-10である(各枝番10が佐々木弁護士に対するもの)。
被告東京弁護士会は、調査開始通知(甲8)に第二陣の懲戒請求者の住所氏名が書かれた懲戒請求書の写しの束(200枚)も付けて、佐々木弁護士に送付した。
弁護士法58条5項の懲戒処分は、弁護士会が弁護士に対して行う行政処分である。1つの懲戒事由に対する懲戒処分は1つである。したがって、1つの懲戒事由についての懲戒手続き(綱紀委員会の調査、懲戒委員会の審査)も1つである。これは二重起訴の禁止の趣旨と同一の法理である(判断の矛盾の回避、応訴の二重負担の防止、訴訟経済)。
したがって、被告東京弁護士会が、第二陣について別個に懲戒手続きを開始したことは誤りである。第二陣の懲戒請求書は、第一陣によって開始されていた本件会長声明事案の懲戒請求者の数が200名追加になったというだけのことである。それは、異議の申出権を有する者が200名増え、弁護士会が弁護士法64条の7に基づき通知を発しなければならない相手が200名増えたというだけのことである。弁護士会内部の事務処理の問題であり、対象弁護士に通知すべき事項ではない。
ソ しかし綱紀委員会は、本件会長声明事案については既に同月15日付けで佐々木弁護士に答弁書催告状を出し(甲17)、佐々木弁護士から同月19日付け答弁書を受領していたにもかかわらず(甲27)、同月29日、佐々木弁護士に重ねて答弁書催告状を送り付けた。答弁書催告状には「正当な理由がなく答弁書を提出しない場合は、請求事由について明らかに争わないものとして調査を進めることがあります。」と記載されていた(甲8)。
タ 佐々木弁護士は、これに対し同年7月4日付けで答弁書を提出した(甲28)。7月4日付け答弁書の内容は、6月19日付け答弁書と、日付以外は全て同文であった。
(4)第三陣
チ 同様に、同年6月22日から7月4日までの間に、第一、第二陣と同一のひな型による本件会長声明事案の懲戒請求書100枚が、一括してまとめて被告東京弁護士会に送られ(以下「第三陣」という)、被告東京弁護士会はこれらについて7月4日に別個の懲戒手続きに付し、その旨の7月13日付け通知書を佐々木弁護士に送った(甲9)。尚、第三陣の「事案番号」は平成29年東綱第2609―1から2708―10であり、各枝番10が佐々木弁護士を対象とするものである。
被告東京弁護士会は、調査開始通知(甲9)を送る際、第三陣の懲戒請求者の住所氏名が書かれた懲戒請求書の写しの束(100枚)も付けて、佐々木弁護士に送付した。
ツ 綱紀委員会は、既に6月19日付け答弁書、それと同文の7月4日付けの答弁書を佐々木弁護士から受領していたにもかかわらず、さらに7月13日付け答弁書催告状を佐々木弁護士に送り付けた(甲19)。答弁書催告状には不提出の場合の不利益が告知されていた。
テ 佐々木弁護士はこれを受けて、日付以外は従前と同文の7月14日付け答弁書を作成し綱紀委員会に提出した(甲29)。
(5)原告2(第四陣)
ト 原告2は、第一ないし三陣と同一のひな型の懲戒請求書、すなわち本件会長声明事案の懲戒請求書に、住所、氏名を記入し、押印をして、日付欄は空欄にして、取りまとめ団体の日本再生大和会に郵送した。
後に訴訟で佐々木弁護士が証拠提出した原告2名義の懲戒請求書には、日付欄に他人の筆跡で「7」「16」と数字が記入されていた(つまり平成29年7月16日付け懲戒請求書となっていた。甲55)。
ナ 被告東京弁護士会は、同年7月5日から18日までの間に、原告2の懲戒請求書を含む同一のひな型による懲戒請求書209枚を、一括でまとめて、受領した(以下「第四陣」という)。
ニ 本件会長声明事案については、既に同年7月21日に、審査を求めない議決が綱紀委員会で出されていた。それにもかかわらず被告東京弁護士会は、同一の事案である第四陣について、同月26日、新たに懲戒手続きを開始して綱紀委員会に調査を命じた。尚、その「事案番号」は平成29年東綱第2740―1から2938―10であり、各枝番10が佐々木弁護士に対するものであった。原告2に付された番号は第■■■■-10である。
前同日、被告東京弁護士会は、調査開始通知を佐々木弁護士に送り(甲10)、第四陣の懲戒請求者の住所氏名が記載された懲戒請求書の写しの束(209枚)も同弁護士に送り付けた。
ヌ 本件会長声明事案については、既に審査を求めない議決で調査は終了しているのであり、被告東京弁護士会が速やかに懲戒しない決定を出していれば懲戒手続きは終了していたはずの段階であった。
しかし綱紀委員会は、またも7月26日付けで答弁書催告状を佐々木弁護士に送り付けた(甲20)。同答弁書催告状には「正当な理由がなく答弁書を提出しない場合は、請求事由について明らかに争わないものとして調査を進めることがあります。」と記載されていた。
ネ 佐々木弁護士はこれを受けて、日付以外は従前と同文の8月1日付け答弁書を綱紀委員会に提出した(甲30)。
ノ 前記のとおり、同年8月3日に被告東京弁護士会は本件会長声明事案につき、懲戒しない決定をした。1人の弁護士に対する1個の「事案」についての懲戒処分は1つであるから、懲戒手続きも1つである。懲戒手続きは「事案」単位である(弁護士法58条2ないし4項)。したがって、原告2の懲戒請求にかかる懲戒手続きも、前同日、終了したものである。原告2には異議の申出権が与えられるが(同法64条1項)、被告東京弁護士会はこの時点で原告2に同法67条7第1項二号の通知を送らなかった。
ハ 綱紀委員会は、原告2含む第四陣について、同年9月15日に改めて審査を求めない議決をした(甲39)。
ヒ 被告東京弁護士会は、議決のとおりに決定をするだけであるのに、懲戒しない決定を出したのは議決から1ヶ月半も経った同年10月31日であった(甲47)。
(6)第10陣まで
平成29年の「事案番号」がついた本件会長声明事案の懲戒手続きの全容は、別紙「佐々木弁護士懲戒請求手続き一覧」のとおりである。同一の事案であるにもかかわらず、被告東京弁護士会は佐々木弁護士に対して計10回も答弁書催告状を送り付けている。また、懲戒請求者の住所氏名が書かれた懲戒請求書の写しの束をその都度送り付けた。
佐々木弁護士は平成29年9月2日、「業務妨害以外の何ものでもない」とツイートしている(甲116②)。
また、懲戒しない決定が出た後に届いた懲戒請求書については、同一の事案であるから本来であれば一事不再理の観点から「対象弁護士等につき懲戒の手続を開始することができない」とするか、又は「既に懲戒しない決定で終了しており、新たな懲戒請求によっても決定を覆すべき事情や証拠が見当たらない。」という理由で、早々に(即日か翌日に)審査を求めない議決をして懲戒しない決定をすべきである。ところが被告東京弁護士会は、毎回、漫然と一から“本案”の調査と議決を行い、懲戒手続きを延々長期化させた。
平成29年の「事案番号」がついた本件会長声明事案につき、最初の調査開始は同年6月9日、懲戒しない決定は8月3日であるにもかかわらず、佐々木弁護士は翌平成30年3月19日まで、一日も絶えることなく懲戒手続き中の立場に置かれたのである。
2 損害賠償請求訴訟2と弁済
佐々木弁護士は、原告2の懲戒請求は不法行為でありこれにより損害を被ったとして原告2に損害賠償請求訴訟を提起し(東京地裁平成30年(ワ)第×××××号。以下「別件訴訟2」という)、原告2は不当懲戒請求ではないとして争ったが、一審判決で30万円の慰謝料と平成29年12月31日から支払い済まで年5分の遅延損害金が認容され(甲64)、控訴審(東京高裁令和元年(ネ)第××××号、甲65)で弁護士費用3万円の損害も追加で認容され、上告及び上告受理申立てを経て、令和2年10月28日確定した(甲66)。
原告2は令和3年3月30日、佐々木弁護士代理人西川治弁護士に対し、認容された損害賠償金の元金33万円と遅延損害金計38万3568円を弁済した(甲84ないし86)。
3 佐々木弁護士の主張する損害と被告の不法行為責任
(1)弁明の負担
ア 佐々木弁護士の主張
佐々木弁護士が主張した損害に、弁明の負担がある。
曰く、
「(対象弁護士)は弁明を余儀なくされ、その範囲で本来の業務が妨害される。」(甲62、訴状の14頁)。
「被請求者たる弁護士は、その請求が全く根拠のないものであっても、それに対する反論や反証活動のために相当なエネルギーを割かれる」(平成19年最判の田原睦夫裁判官補足意見を引用して、下線を引いて強調して)(甲62、訴状の15頁)。
「被請求者は、その反論のために相当な時間を割くことを強いられる」(甲62、訴状の16頁)。
「懲戒請求書には答弁書を提出せねばならず、その対応も面倒なものです。これは、出す書類が簡易なものであっても、事の性質上、他人に書かせるわけにはいきませんので、すべて自分で対応します。」「そして、書いた答弁書を、当事務所の事務員に弁護士会の綱紀委員会へ持参してもらいます。私の事務所は弁護士が28名おりますので、私の専属の事務員はおりません。ですので、こんなことのために事務員を使うことに、私は他の先輩弁護士や同僚弁護士に対して申し訳ない気持になります。」(甲63、別件訴訟2の甲9号証の陳述書の2頁4項)。
「弁明を余儀なくされる負担を負わされるなどして、精神的苦痛を被った」(甲64、別件訴訟2の一審判決8頁の損害認定)。
「証拠(甲9,10)によれば,被控訴人らは,本件各懲戒請求①及び②によって(中略)答弁書を提出するなど弁明を余儀なくされ(中略)たこと等により、精神的苦痛を被った」(甲65、別件訴訟2の控訴審判決8~9頁の損害認定した)。
イ 被告東京弁護士会の不法行為
被告東京弁護士会の綱紀委員会が佐々木弁護士に弁明の負担を負わせたことは、被告東京弁護士会の同人に対する不法行為を構成する。以下、理由を述べる。
弁護士会は、公権力に代わって弁護士を監督することを主たる目的として法が設立を義務付けた公的性格の法人である(弁護士法31条)。全ての弁護士を監督に服させるため、弁護士の加入は強制である(同法8条)。
資格審査と懲戒手続きは、弁護士法に規定のある、弁護士会の最も根幹的、基本的事務である(同法第7章、第8章)。
したがって、弁護士会は、懲戒手続きについての法令(つまり弁護士法)及び判例(平成19年最判)を熟知し、これに精通している。
弁護士法で綱紀委員会の調査が前置されていることの制度趣旨は、なんぴとでも懲戒請求できるとしたことの反面「みだりに懲戒請求の弊を防止するため」である(弁護士法制定時の国会議事録、甲96の2頁目2~3段)。
綱紀委員会の前置の趣旨は、最高裁平成23年7月15日判決(橋下徹氏VS山口県光市母子殺人事件弁護団)の竹内裁判官の補足意見でも述べられている。曰く「懲戒請求権の濫用により惹起される不利益や弊害を防ぐことを目的として、懲戒委員会の審査に先立っての綱紀委員会による調査を前置する制度が設けられている。」(甲97の4~5頁)
平成19年最判は、弁護士法に則った懲戒請求であっても対象弁護士に対する不法行為となり得る旨を判示したものであるが、その理由として「弁明を余儀なくされる負担を負うことになる」ことを述べている。すなわち、前記国会議事にいう「みだりに懲戒請求の弊」、前記竹内裁判官のいう「不利益や弊害」の具体例は、弁明の負担だというのである。弁護士会は、このことを熟知している。
そうすると、綱紀委員会は、懲戒請求を受けて調査開始された事案について、議決をするのに必要な資料を集めるためであれば、対象弁護士に弁明を求めること(すなわち対象弁護士に弁明の負担を負わせること)は、弁護士法70条の7によって当然許されるものであるが、同条は「必要があるときは」と限定しているのであるから、必要性が全く無いにも関わらず、弁明の負担を負わせることは、同条に違反するのみならず、対象弁護士に対する不法行為を構成する。
もちろん、弁明を求める必要があるか否かの判断には、綱紀委員会に一定の裁量があり、その裁量権は尊重されなければならない。しかし、裁量権があることを考慮しても尚、合理性必要性を全く認めることの出来ない場合には、裁量権の逸脱濫用の違法があることになる。
本件では、前記のとおりそもそも被告東京弁護士会は、本件会長声明事案について、会長声明に賛同しようがしまいが懲戒事由となることは「あり得ない」という見解を有しており、その懲戒請求は濫用的だという評価までしていたのであるから(甲95)、佐々木弁護士に答弁を求める必要は全く無かったのである。
加えて、原告2の懲戒請求書が被告東京弁護士会に到達した時点で、佐々木弁護士は既に答弁書を綱紀委員会に提出していたのである。しかも全く同一内容の答弁書を3通も、である(甲27ないし29)。それでも尚、被告東京弁護士会は、原告2の懲戒請求書受理後、さらにまた、4通目の答弁書の提出を求めたのである。それも、不提出の場合の不利益まで告知してである。この4回目の答弁の催告は、その必要性合理性を微塵も見出すことが出来ない。
この不必要不合理であることが一見明白な答弁催告の結果、佐々木弁護士は無意味な4通目の答弁書を提出したのである(甲30)。
佐々木弁護士は「業務妨害以外の何ものでもない」とツイートしている(甲116②)。
このように必要も無いのに佐々木弁護士が負わされた「弁明の負担」の責めは、100パーセント、被告東京弁護士会に帰せられる。
原告2の懲戒請求書は、ただの懲戒請求書であって、不必要な弁明の負担まで対象弁護士に負わせる危険性を有していない。弁明を求めるまでもなく綱紀委員会の結論が決まっている場合や、先行の懲戒請求によって既に答弁書が提出されている場合にまで、対象弁護士に不必要な弁明を負わせる危険性を、原告2の懲戒請求書は有していない。「何が何でも対象弁護士に弁明書を提出させよ。さもなければ弁護士会館を爆破する」とでも記載されていれば、そのような危険性を有していたであろうが、そのような懲戒請求書ではない。
そうである以上、佐々木弁護士が被ったとする「弁明の負担」は被告東京弁護士会の不法行為によるものであるから、被告東京弁護士会は、損害を弁償した原告2に対し、共同不法行為者として、求償債務を負う。その割合は100パーセントである。
(2)
ア 利益相反確認の負担
佐々木弁護士も、利益相反確認の負担が多大であると主張している。
曰く、
「同一の法律事務所の弁護士を含め、事件を受任するに当たって利益相反関係があるか否かを確認するためにも、全件の管理と把握の負担を負う。」(甲62、別件訴訟2の訴状17頁)。
「これだけ多数の、様々な地域の見知らぬ人から懲戒請求をされることは、私の所属する事務所のコンフリクトチェック(利益相反チェック)の際にも多大な負担となります。というのも、弁護士会は書面で懲戒請求書を送ってきますが、これをデータで送ってくれるわけではありませんので、懲戒請求者をデータベース化する必要があります。そのうえで、私の所属する事務所の弁護士が現在受任していたり、新たに受任する事件の依頼者名と突合作業を行います。世の中には同姓同名の人も少なからずいるため、そうした場合は住所などにも遡ってのチェックが必要となります。」(甲109,訴外人との訴訟に佐々木弁護士が出した陳述書3頁)
イ 大量性の苦痛
佐々木弁護士も、前記「大量性の苦痛」を主張している。
曰く、
「原告らと直接の面識のない者達(被告らを含む)が、全国各地から根拠のない大量の懲戒請求に及ぶという行為は、原告らに対して、原告らの身の回りにいる人物が自らに害意をもって懲戒請求をした者ではないかという恐怖心、猜疑心などの不安と精神的苦痛を恒常的に与えるものであり、その被害及び萎縮効果は甚大である。」(甲62、別件訴訟2の訴状16~17頁)。
「本件ブログの呼びかけに応じて、私にはのべ3000を超える懲戒請求書が届いています。見ず知らずの人たちから、これほどの大量の悪意が寄せられている状況は心理的に非常に辛いものです。」「私としても、一つ一つの懲戒請求によって、傷ついています。」(甲62、別件訴訟2の陳述書3頁)。
「見ず知らずの者から不当な悪意を向けられるという恐怖を感じた」(甲65、別件訴訟2の控訴審判決9頁)。
ウ ファイルの負担
佐々木弁護士は、懲戒手続きにかかる記録ファイルの手間とスペースの損害を主張している。
曰く、
「懲戒請求書を捨てるわけにもいきませんので、ファイリングして保管する必要があります。私が主に扱っている労働事件は、事件記録が厚くなる傾向があり、ファイルを置くスペースの確保についてはいつも気を遣っています。はっきり言って、このような懲戒請求の記録を作成し、保管することも負担です。」(甲63、別件訴訟2の陳述書2頁)
「懲戒請求の記録を作成し保管する負担を負わされた」(甲65、別件訴訟2の控訴審判決9頁)。
エ 被告東京弁護士会の不法行為責任
上記「大量性の苦痛」「利益相反確認の負担」「ファイルの負担」は全て、被告東京弁護士会が佐々木弁護士に、懲戒請求者の個人情報の提供(本件提供)を行ったことに因り、初めて生じたものである。
嶋﨑弁護士の場合は懲戒請求者のリスト(本件591人リスト及び本件367人リスト)の提供だけであり、それだけでも結構な枚数であるが(甲3、甲4)、佐々木弁護士の場合は、リストに加えて、懲戒請求書のコピーの束まで、意味も無く送り付けられたのである。だから佐々木弁護士は「ファイルの保管の負担」まで主張しているのである。
本件提供の不法行為性は、前記嶋﨑弁護士事案のところ(第4の4(2)ウ)で既に論じたとおりである。
よって被告東京弁護士会は、佐々木弁護士に賠償金を支払った原告2に対し、求償債務を負う。その求償割合は100パーセントである。
(3)登録替え等の制限
ア 佐々木弁護士の主張
佐々木弁護士も、登録替え等の制限の損害を主張している。
曰く、
「綱紀委員会の調査に付されると、その日以降、被請求者たる当該弁護士は、その手続きが終了するまで、他の弁護士会への登録換え又は登録取消しの請求をすることができないと解されており(中略)、その結果、その手続きが係属している限りは、公務員への転職を希望する弁護士は、他の要件を満たしていても弁護士登録を取り消すことができないことから転職することができず、また、弁護士業務の新たな展開を図るべく、地方にて勤務しあるいは開業している弁護士は、東京や大阪等での勤務や開業を目指し、あるいは大都市から故郷に戻って業務を開始するべく、登録換えを請求することもできないのであって、弁護士の身分に対して重大な制約が課されることとなるのである。」(甲62,別件訴訟2の訴状16頁)。
イ 被告東京弁護士会の不法行為
本件会長声明事案について、被告東京弁護士会が懲戒請求者らと共通の価値観を有し、北朝鮮の代理人のような会長声明の発出を許してしまったことについて、対象弁護士を処分するか否か、議論していたのであれば、ある程度懲戒手続きに時間がかかっても、受忍限度の範囲であろう。
ところが、被告東京弁護士会はもともと、会長声明に賛同した事実があってもなくても懲戒事由に当たらないという価値観を有していた。それであれば、対象弁護士が不当に長い期間、登録替え等の制限を受けることが無いよう、調査開始とほぼ同時に審査を求めない議決、懲戒しない決定をすべきであった。どんなに長くても1週間で懲戒手続きを終了させることが可能であった(実際、後述の金竜介弁護士、金哲敏弁護士の事案では1週間で終わらせている)。
それであるのに6月9日に調査を開始して、審査を求めない議決をしたのが7月21日というのは、不必要、不合理に長く、対象弁護士に対する不法行為を構成する。
しかも、議決後すぐに懲戒しない決定をすることなく、8月3日の決定まで漫然放置し続けたことも、不法行為を構成する。
のみならず、8月3日の懲戒しない決定に先立って、なぜか第二陣から第五陣までの懲戒請求書について、別個の懲戒手続きを開始してしまい、8月3日に懲戒しない決定を出したにもかかわらず、それら別個の懲戒手続きを終了させることをせず、引き続き佐々木弁護士の登録替え等を制限し続けた。これも同弁護士に対する不法行為を構成する。
結局被告東京弁護士会は、第一陣の開始から第十陣の終了まで、1年9ヶ月以上もの間、一度も途切れることなく、佐々木弁護士の登録替え等を制限し続けたのである。
したがって、佐々木弁護士が被った登録替え等の制限の損害は、被告東京弁護士会の責めに帰するものである。原告2の懲戒請求書が受理された時、既に最初の1人の懲戒請求に因って佐々木弁護士の登録替えは制限されていたから、原告2は登録替え制限に何の原因も与えていない。そして最初の1人の懲戒請求について8月3日に懲戒しない決定が出たのであり、それで原告2の関係でも懲戒手続きは終了したのであるから(同一事案である以上当然である)、その後に登録替え制限が継続したことについても、原告2は何らの責めも負わない。それにもかかわらず原告2が損害賠償を支払わされたから、被告東京弁護士会は共同不法行為者として原告2に対し求償債務を負う。求償割合は100パーセントである。