匿名希望
いわゆる「共謀罪」法案の廃案を求める会長声明
2017年04月27日更新
政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法一部改正案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、衆議院に提出した。
当会は、2016年12月8日付けで「いわゆる共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明」を発しているところであるが、それにもかかわらず本法案が提出されたことは極めて遺憾であり、改めて本法案に対する当会の意見を表明する。
本法案では、①犯罪主体について、従前「組織的犯罪集団」とされていた規定が「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と改められており、また、②対象犯罪を676から277に減じたとされている。
①の「テロリズム集団」の文言は、テロ対策を標榜しつつテロとの関係が明らかでなかった政府原案に対する批判を受けて急遽追加されたものであるが、本法案には「テロリズム集団」の定義規定はない。「組織的犯罪集団」の意義が捜査機関によって恣意的に解釈され、摘発される対象が拡大する危険性が高いという問題点は何ら解消されていない。
すなわち「テロリズム集団」の文言が加わったとしても、処罰範囲の限定にならないことは明白である。
また、②についても、仮に対象犯罪が277に減じられたとしても、組織的犯罪やテロ犯罪と無縁のものも依然として対象とされている。共謀罪は、「行為」を処罰する我が国の刑法の基本原則を否定するものである以上、いかに対象犯罪数を減らそうとも、軽々に認められるものではない。
つまり、本法案は、過去3回も廃案になった共謀罪の問題点が何ら解消されていないのである。
当会が従前指摘していたとおり、構成要件が不明瞭であって罪刑法定主義にも反する本法案は、共謀という意思の連絡自体が犯罪として捜査対象となるために、通信傍受の対象とされた場合監視社会化を招き、憲法の保障する思想・良心の自由、表現の自由、通信の秘密及びプライバシーなどを侵害し、基本的人権の行使に対して深刻な萎縮効果をもたらすおそれがある。
当会は、本法案の閣議決定および衆議院提出に対して、改めて抗議すると共に、本法案の廃案を求めるものである。
2017(平成29)年4月26日
神奈川県弁護士会
会長 延 命 政 之
匿名希望
憲法改正国民投票法案についての意見書(2006年10月13日)
2006年(平成18年)10月13日
衆議院議長 河 野 洋 平 殿
参議院議長 扇 千 景 殿
内閣総理大臣 安 倍 晋 三 殿
自由民主党総裁 安 倍 晋 三 殿
民主党代表 小 沢 一 郎 殿
公明党代表 太 田 昭 宏 殿
日本共産党委員長 志 位 和 夫 殿
社会民主党党首 福 島 みずほ 殿
国民新党代表 綿 貫 民 輔 殿
新党日本代表 田 中 康 夫 殿
衆議院日本国憲法に関する調査特別委員会 御中
参議院憲法調査会 御中
京都弁護士会
会長 浅 岡 美 恵
憲法改正国民投票法案についての意見書
1 はじめに
第164回国会に、自民党・公明党から日本国憲法の改正手続に関する法律案(以下、与党案という)が、民主党から日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(以下、民主党案という)が提出された。それらの法案は継続審議となったが、今臨時国会においては、本格的な審議がなされるものと思われる。
民主党案は、国民投票(憲法改正について国民の承認に係る投票)のほかに「国政における重要な問題に係る案件」を入れているので、その部分は独自のものであるが、その他の部分は、与党案と民主党案とは、法律の形式として同じものである。
与党案、民主党案には、投票権(20歳以上か18歳以上か)、公務員・教育者の地位利用の制限の有無、国民の承認の要件(有効投票総数の過半数か、投票総数の過半数か)などにおいて相違点があるものの、国民投票の期日(両2条)、投票のやり方(改正案ごとに、一人一票・両48条)、投票日前の国民投票運動のための広告放送の制限、政党等による放送及び新聞広告、無効の訴訟などについて、それぞれについて検討すべき論点が多々あるにかかわらず、それらの点を含めて多くの点で一致している。
このような状況を踏まえて、本意見書は、とくに問題となる点に絞って意見を述べるものである。憲法改正を目的とした憲法改正国民投票法案を制定すること自体の是非をめぐって議論があるが、すでに国会に法律案として有力な2つの法案が上程されているということもあり、両法案の内容に沿った形での意見とする。
なお、民主党案にある「国政における重要な問題に係る案件」に関する国民投票については、ここでは取り上げない。
2 基本的な視点
いわゆる国民投票法は、国の基本原則である憲法を改正するにあたって国民が意思表明を行うことについての手続法という重要な法律であり、憲法96条に即して言えば、「国会の発議」を受けての「国民の承認」のための手続法である。
国民投票とは、国会が行ったそれぞれの項目ごとの発議に対して、主権者である国民(選挙権者)が行う賛否の投票行為である。その投票行為により、憲法改正がなされ、あるいは、現行憲法が維持され、その後の国の根本的な方向が定まることとなる。
国民主権の具体的な発露というべき大切な意思表明が各人の自由な意思により行われるためには、発議の内容についての正確で豊富な情報が提供されること、国民(単に、選挙権者だけでなく、未成年者、滞在外国人を含む)の間で活発な議論がされること、また、各人の自由な意思表明が保障されることなどが必要である。その意味で、国民の投票行為に向けた一連の国民投票活動は最大限保障されるべきであり、国家ないしマスメディアは、必要な活動は積極的に行うと共に国民の国民投票運動を阻害するような活動は厳に慎まなければならない。
国会の発議の形態(形式)から投票無効に至るまでのすべての局面において、国民が明確に意思を表明できるように、手続的、制度的に保障されることが大切である。
3 国民投票までの期間
この点について両法案とも、「憲法改正を発議した日から60日以降180日以内において、国会の決議した期日」を国民投票の期日としている。
両法案の言う期間は、憲法改正案の内容が確定して投票日までの期間である。この間に、国民は発議された改正案の内容を知り、その当否を判断し、自らの意見を他の者に伝え、国民的な議論を十分に尽くしたうえで、投票日に自らの意思を表明するということになる。そのための期間としてどの程度が必要かということである。
国会では、平成12年1月に両議院の憲法調査会が設置され、今日まですでに6年以上の間、断続的であるが憲法改正についての議論がなされてきた。憲法改正案の発議の後は、「国民の承認」という新たな手続きをとるために、国会ではなく国民の間における議論が必要となる。この法案では、国会で決めれば60日(約2ヶ月)とすることも可能となるが、60日では発議前に国会において議論がなされてきた期間と比較しても短過ぎるし、何よりも、憲法改正という重要問題について国民の議論を尽くすための期間としては極めて不十分である。
また、憲法改正の都度ごとに期間において120日の幅があることについても、国会の多数派がその都度発議の内容によって期間を伸縮できることとなり、国会の裁量として広すぎるものである。
よって、国民投票の期間は、最低「150日以上210日以内」とすべきである。
4 投票権
投票権者の年齢として、与党案20歳以上、民主党案18歳以上という違いがある。国民投票によって憲法改正(ないし現状維持)がなされることの正当性を担保するためには、出来るだけ多くの国民の賛否によって決められる必要がある。我が国の18歳以上20歳未満の者が、この問題についての投票を行う能力がないとは到底考えられない。よって、「18年(歳)以上の者」とするのが妥当である。
なお、民主党案では「国会の議決により16歳以上の者も案件によっては投票権がある」としている。しかし、いかなる案件について16歳以上とするかの基準は示されておらず、またその基準を設定するのは容易ではないので、画一的に18歳以上とする規定が望ましいと考える。
5 改憲発議ないし投票の方法
両法案とも、憲法改正の発議は「内容において関連する事項ごとに区分して行う」とし、また、投票は「国民投票に係る憲法改正案ごとに、1人1票」としている。
一括投票とする考え方については、投票権者である1人1人の国民の意思が正確に投票に反映されないという批判を受けて退けられたが、両法案とも「個別の条項ごと」の投票とはなっていない。よって国会の「内容において関連する事項」かどうかの判断により、一括投票と同じ問題点が浮上することになる。
他方、複数の条項が密接に関連し、投票の結果としてその一部だけが成立した場合には憲法全体として齟齬が生じる場合があることも考えられる。よって、条項の間において密接に関連ないし連動している場合は、その部分をまとめて賛否を問うことはありうることである。
よって、原則的には個別の条項ごととし、例外的に「密接に関連(連動)する事項ごと」とするべきである。
6 国民の承認の要件
国民の承認について、憲法は「国民投票においてその過半数の賛成を必要とする」とする。そして、その「過半数」の母数として、与党案は有効投票総数とし、民主党案は投票総数とする。他に選挙権者(有権者)総数という考え方もあるが、両案とも採用していない。
国民投票は憲法改正に賛成かどうかを問うものであり、賛成以外の区分けは問題とされていない。改正された憲法が投票権を有する者のみならず広く国民(及び国内で生活ないし滞在する外国人)に適用されることをも考えると、憲法改正のためには、投票権者総数の過半数とまでは言わないにしても、投票をした者の過半数の賛成を必要とすべきであり、承認要件としての過半数の母数としては、投票総数とするのが妥当である。
7 公務員・教育者についての国民投票運動の禁止
投票権者を含めて国民の投票行為に向けての一連の国民投票活動は最大限保障されるべきであることは、「2 基本的な視点」において述べた通りである。ここで特に問題とすべきは、与党案の公務員等、並びに、教育者の地位利用による国民投票運動の禁止規定である。その違反には、刑事罰が予定されている。
憲法改正の発議から投票日までの間、国民各自が自らの経験や見識に基づいて意見を述べ、他の人々と議論を行うことが、よりよい憲法を作る(現行憲法を維持することを含めて)うえで不可欠である。その意味で、公務員や教育者のそれまでの経験や見識は広く国民に共有されるべきものである。
そもそも国民投票活動とは「憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為」とされており、当選を得又は得しめない目的を要件とする選挙運動とは全く異質のものであるから、公職選挙法に規制があるからといって、国民投票活動にも同様の規制が必要ということにはならない。
公務員・教育者の地位利用という場合、どのような行為が地位利用に該当するかについての判断が難しく、ともすればその適用が濫用され、公務員・教育者の自由な国民運動活動が制限されるおそれがある。
大学の教員が憲法改正案について講義、講演、研究会などで意見を表明する行為は、まさに本来の職務の一環であり、小中学校、高等学校の教員が、憲法改正をテーマに取り上げて授業をすることは本来の教育活動である。このように、とりわけ、教育者の場合は、その職務そのものが地位利用による国民投票活動として禁止されることになるおそれがある。
よって、地位利用による国民投票活動の禁止の規定は百害あって一利もなく、民主党案のように削除されるべきである。
8 組織的多数人買収及び利害誘導罪
与党案は、国民投票活動に関し、組織による多数の投票人に対する買収と利害誘導について罰則規定を設けている。前項の地位利用等とは異なり、国民すべての国民投票活動に関係する規定である。
前項でも触れたように、国民投票活動という概念自体、あいまいで広いものである。買収などに該当する場合の構成要件も不明確であり、捜査機関による広汎な規制を招きかねないものである。本来自由であるべき国民投票活動について、不必要に萎縮させる結果をもたらす恐れがある規定である。
よって、民主党案のようにこの規定は削除されるべきである。
9 広報協議会、政党による放送・新聞広告
両法案とも、国民に対して憲法改正案の周知のための組織として憲法改正案(国民投票)広報協議会が予定され、政党が放送・新聞広告において憲法改正案に関する意見を表明することについて便宜が図られている。
広報協議会は、憲法改正案について国民投票公報を作成し、また、憲法改正案に関する説明会を開催することになっており、広報作成に当たっては賛成意見・反対意見を公正かつ平等に扱うものとし、また、説明等については客観的かつ中立的に行うとしている。しかし、広報協議会の委員は、原則として、各会派の所属議員数の比率により割り当てることとなっており、憲法改正の賛成派が多数を占めることを当然の前提としている。
しかし、国会での発議の段階が終わり国民投票の段階では、その改正案(発議)の賛成・反対がニュートラルな形で議論されなければならず、国民に対して憲法改正案の内容を知らせる組織は、その構成自体が公平(賛成反対同数)なものでなければならない。よって、上記の広報協議会の委員の割り当て方法は不適当である。広報協議会に、賛成と反対の委員を平等に割り当てるべきである。
また、政党は、無料で、憲法改正案に対する意見を放送し、新聞広告することができることになっており、その際の放送、広告の回数(頻度)は「議員の数を踏まえた」ものであることが予定されている。
しかし、発議を受けての国民投票の場面では、賛成・反対は対等に扱われるべきであり、このような偏頗な割り当ては、賛成派に偏したものであり不当である。政党は自らの力で必要な活動を行うべきであり、むしろ、無償で意見表明が保障されるべきは、政党ではなく1人1人の国民である。よって、政党の無料での放送・新聞広告といったお手盛りの規定自体必要なく、削除されるべきである。
10 無効訴訟
両法案は、国民投票に関し異議のあるものは、中央選挙管理委員会を被告として、国民投票の結果の告示後30日以内に東京高等裁判所に訴訟を提起することができるとしている。
国民(投票人)の裁判を受ける権利を実質的に保障するという観点から、その管轄を各地の高等裁判所に置くというのも1つの考え方であるが、憲法改正案という全国一体として確定が必要な事案の性質上、各地の裁判所ごとの管轄ではなく、東京高等裁判所のみに管轄を置くというのもまた1つの考え方である。
しかし、国民投票を無効とする事実について、国民が国民投票の後すぐに分かるかどうか疑問がある。国民投票の後一定期間を経過して、広く国民に国民投票を無効とする事実が分かってくるというのが通常であると考えられるが、両法案では、そのような場合でも30日を経過しているということで、その効力を争えないということになる。
憲法改正という事案の重要性に鑑みると30日の期間は短すぎる。申立期間は最低90日とすべきである。
以上
匿名希望
「朝鮮学校を高校無償化の対象から排除しないことを求める会長声明」(2013年1月24日)
文部科学省は、2012年(平成24年)12月28日、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(以下「高校無償化法」という。)施行規則(以下「施行規則」という。)の一部を改正する省令案(以下「省令案」という。)に関するパブリックコメントの実施を公表した。
この省令案の内容は、施行規則第1条第1項第2号において外国人を専ら対象とする各種学校で高校無償化法の対象になるものとして定められた(イ)外国の学校の高等学校と同等の課程を有するもの、(ロ)文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたもの、(ハ)それ以外の高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものという類型のうちの(ハ)を削除するというものである。
しかしながら、「教育の機会均等に寄与すること」(高校無償化法第1条)という目的に合致するものとして就学支援金支給の対象とされたはずの3類型のうちの(ハ)の類型のみを高校無償化法の対象から排除するべき根拠について、本パブリックコメントは何も述べておらず、立法事実もない。
この(ハ)の規定の主な対象として想定されていたのは、朝鮮学校である。2010年(平成22年)11月5日に高校無償化法施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程の公表を受け、同月30日までに全国の全ての朝鮮学校が申請手続を行っている。
ところが、同月23日に起きた韓国・延坪島での軍事衝突事件の直後、何の明文上の根拠もなく上記申請に対する指定手続が停止され、2年以上指定されないまま現在に至っている。
しかるところ、今回の省令案は、朝鮮学校に対する指定手続について恣意的に結論を出さないまま2年以上も放置した上に、指定手続の根拠条項そのものを無くすというものであり、法律による行政の原理を逸脱し、法治国家として許されないものである。また、(ハ)の類型として指定済みの外国人学校については経過措置を設けるとしていることとあわせて見れば、実質的には朝鮮学校のみを高校無償化法の対象から排除することによって、朝鮮学校に通う子どもたちの教育を受ける権利を侵害するものであり、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約及び国際人権規約等の禁止する差別にあたるものである。
以上により、当会は、施行規則第1条第1項第2号ハの規定を削除することに反対する。そして、朝鮮学校に対し、速やかに施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定手続を進めることを改めて強く求めるものである。
2013年(平成25年)1月24日
京 都 弁 護 士 会
会長 吉 川 哲 朗