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兵庫県弁護士会
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2016年1月6日付兵庫県警察本部及び垂水警察署宛意見
兵庫県内にある警察署内の留置施設には、机や机の代わりになる物がありません。
本件は、申立人が垂水警察署の留置施設に勾留されていた間、机がないため食事を床に直接置いて食べる生活を強いられた等を理由として申立があったものです。
 机がないことによる生活上の支障については、食事の際の衛生面の問題のほか、書類の作成、記録や書籍の閲読の際の不便さも考えられます。
このような状況は、いずれも、食事をしたり、手紙を書いたり、本を読んだりすることを直接的に制限するものではありませんが、一般的に考えられる生活環境の水準を下回っていると考えられることから、収容されている人が小机やその代わりとなる物を利用出来るよう、意見を表明しました。
なお、警察署の留置施設と同じく、未決被拘禁者(逮捕による身柄拘束後、裁判による有罪判決が確定していない人)が収容されている拘置所では一般的に居室内には小机が常備されているほか、他の都道府県では、警察署内の留置施設において収容されている人に小机を貸与しているところもあるようです。
2015年6月23日付法務省、同大阪矯正管区及び加古川刑務所に対する勧告
 申立人は、戸籍上は男性ですが、女性としての性自認を持ち、かつ性適合手術を受けて女性としての身体的特徴も備えている被収容者(申立当時)です。
 同人からの申立については、既に当会から2012年2月23日付けで、法務省等に対し、同様の受刑者は女性用の施設へ移送するよう勧告していますが、当会からの勧告後も申立人は女性用施設には移送されることなく、反則調査の際に単独室内で男性刑務官から着衣の検査をされる等の処遇を受けていました。
 当会としては、先の勧告同様、本件のような女性としての性自認及び女性としての身体的特徴を有する者は女性として処遇すべきと考え、このような被収容者に対する身体、着衣の検査は女性の被収容者と同じ扱いとするよう、また、男性刑務官が身体、着衣検査をすることを許容している現行の運用については速やかに改めるよう勧告したものです。

2014年11月16日付神戸刑務所宛勧告
本件は、刑務所における処方薬の変更及びその説明が問題となった事案です。
 申立人には、相手方刑務所に入所する前から、パニック障害等の持病があり、投薬等の治療を受けていたところ、相手方刑務所は、同所入所後の申立人の治療について、一部の薬の処方中止を含む投薬の変更を行い、その後申立人の症状が悪化しました。
 調査の結果、当会としては、この時それまでの処方薬を漸減中止ではなく突然中止したことは厚生労働省研究班が作成した「パニック障害の治療ガイドライン」や処方薬の添付文書における禁忌に照らして不適切な処置であり、症状悪化もその突然の中止による離脱症状であった可能性も考えられると判断しました。また、相手方神戸刑務所では、この処方変更について申立人にほとんど説明がなされていませんでした。
このような刑務所側の処遇は、申立人の適切な医療処遇を受ける権利(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第56条参照)を侵害していることから、再び同様の行為がなされないよう勧告しました。

2014年7月31日付加古川刑務所宛勧告
刑務所内で雑誌の閲読制限が問題となった事案です。
一般的に、刑務所内では、刑務所が所蔵する官本の貸し出しのほか、自費で私本を購入して書籍・雑誌を閲読出来ます(冊数制限があります。)。
本件は、加古川刑務所に収容中の複数の受刑者が、それまで自費で購読していた雑誌(成人向けの月刊誌)について、平成24年12月頃から急に閲読できなくなったというものです。
 憲法21条1項は表現の自由を保障しています。表現の自由は、本来、表現の受け手を抜きにしては考えられない権利ですから、表現の自由には、知る権利(国家の妨害を受けずに自由に情報を受取る権利)が含まれます。書籍や雑誌の情報に自由に接することは憲法で保障された重要な権利です。
ただし、受刑者の場合、「刑事施設の規律秩序を害するおそれ」や「受刑者の矯正処遇の実施に支障を生じるおそれ」がある場合に限り、必要かつ合理的な範囲で制限できることが法律で認められています(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律70条1項)。
そこで刑務所は、受刑者が読む前に雑誌を検査し、問題ある箇所を黒塗りしたり(抹消)、ページを切取ったり(削除)、雑誌そのものを閲読禁止したりできます。
しかし、本件受刑者は、詐欺や薬物事件により服役中で、罪名からは性犯罪傾向は認められず、それまで閲読できていた成人雑誌の閲読を、禁止する必要性が認められません。また、禁止された雑誌は、一般書店やインターネットで市販されているもので、わいせつ物にあたるものでもありません。
こうした雑誌を丸ごと閲読禁止とすることは、行き過ぎた制限と判断し、今後は抹消や削除など部分的な閲読制限で対応するよう勧告したものです。

2014年3月25日付加古川刑務所宛勧告
本件は、受刑者の刑務作業における刑務所側の安全性の確保が問題となった事案です。
 申立人は、受刑者として相手方加古川刑務所に収容されていた間、刑務所内の工場において、生産目標額が記載されたホワイトボードの付け外し作業を数回行いました。この際、申立人は踏み桟の高さが1.45メートルの脚立に登り、さらに床から2.33メートルの高さにある鉄鋼に足をかけて作業をすることがありました。
 労働安全衛生規則は、高さが2メートル以上の高所で危険な作業を行う場合には、危険を防止する措置を講じるよう定めています。この規則は、刑務所と受刑者との関係において直接適用されるものではありませんが、受刑者の刑務作業における安全のためには、尊重されるべきものと考えられます。
 申立人の行った作業は、高所での危険な作業に該当するものでしたが、刑務所側は、申立人に対して、鉄鋼に足をかけることを制止することなく、また、ヘルメットや安全帯を着用させる等の措置も講じていませんでした。
そこで、今後は受刑者の安全を確保するため必要な措置を講じるよう勧告したものです。

2014年2月6日付兵庫県警察本部宛警告
警察が警察官に対して実施する水泳訓練において、訓練対象者への安全配慮義務の履行を怠ったことを問題とする事案です。
本件の申立人は、50歳で機動隊に配属された警察官です。申立人は、新隊員訓練の一環としての水泳訓練の対象者となりました。
 水泳訓練中に、申立人は疲労により二度にわたりプールの縁に掴まりましたが、指導員らは二度とも申立人に事情も聴かずに、訓練を再開させようとプールの縁から手を離させました。その結果、申立人は水中に沈み、呼吸停止及び心停止の状態となりました。
 申立人は訓練対象者の中では高齢でしたし、他に同訓練の約2週間前までは傷病休暇を取得していた、水泳訓練前日の別の訓練では熱射病で倒れていた、という事情もありました。
このような申立人の年齢や健康状態からすれば、指導員らは申立人が溺水しないよう十分に配慮すべきでしたが、基本的な安全への配慮を怠り、申立人の生命・身体に重大な危険を生じさせました。
これは重大な違法行為であり、二度と起きてはならないことですから、警察内部の諸訓練について、対象者の生命身体の安全確保のため十分な措置を講じ、再びかかる危険を生じさせることのないよう警告しました。

2013年11月15日付法務大臣宛勧告及び神戸刑務所宛要望
本件の申立人は申立当時神戸刑務所に収容されている受刑者でしたが、収容時、反則行為による懲罰の審査期間中及び懲罰(閉居罰)期間中に、何十日にもわたり昼夜間、単独室に他の収容者と2名で収容されました。
 単独室というのは、その名前のとおり、本来は1名を収容するための居室です。部屋の中は3畳ほどの生活空間の奥に洗面台と便座が設置されており、合わせて4畳ほどの広さ、また、トイレは腰の高さほどのついたてで仕切られているのみで、個室にはなっていません。
このような狭い空間に他人の成人男性を2名収容すれば、お互いの距離が非常に近く、さらにトイレでの用便も同室者の目前でするような生活を強いられることになり、多大な精神的ストレスを受けることは想像に難くないことと思います。
 刑務所側はやむを得ない場合に了解を得て行っていると主張していますが、平成18年5月には神戸刑務所において単独室に2名収容されていた受刑者が同室の受刑者を暴行し死亡させるという事件も起きており、この処遇が引き起こす人権侵害性に鑑みれば、いかなる場合でもこのような処遇が許されるべきではありません。
したがって、全国の刑事施設においてこのような処遇が行われないような措置を講じるよう法務大臣に対して勧告すると共に、神戸刑務所にもこのような運用を改めるよう要望しました。
なお、日本における昼夜間独居拘禁の人権侵害性については国際的にも懸念されており、国連の拷問禁止委員会は、平成25年5月、日本政府に対し、「(a)独居拘禁が、厳しい監督の下で最小限の期間、司法審査が可能な状況で最終手段として用いられるよう法改正し、独居拘禁の明確かつ具体的な基準を確立すること」、「(b)独居拘禁中、被拘禁者の心身の状態につき医師が定期的に監視・ 検査するシステムを確立し、その医療記録を被拘禁者とその弁護士に開示すること」などを勧告しました。この勧告を受けた日本政府の対応が注目されます。

2013年7月31日付神戸刑務所宛勧告
本件は、受刑者(申立人)が、刑務所(相手方)に対して訴訟に関する書面及び人権救済申立書を作成したいと願い出たところ、閉居罰中であることを理由に認められなかったという事件です。
たとえ受刑者であっても、訴訟に関する書面を作成することは、裁判を受けるにあたって必要不可欠な準備行為であって、理由なく拒否されてはなりません。
また、弁護士会等に対する人権救済申し立ては、裁判と直結しなくとも、その前提となる法的援助を受ける権利の一環として、理由なく拒否されてはなりません。
そのため、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律152条1項6号では、閉居罰中においても、受刑者は「弁護人等との間で信書を発受する場合及び被告人若しくは被疑者としての権利の保護又は訴訟の準備その他の権利の保護に必要と認められる場合」は、信書を「発受」することができることが規定されています。
「発受」が許されている以上、その前提となる「作成」が制限される理由はどこにもありません。
 法の趣旨を踏まえて当弁護士会で検討した結果、本件において、申立人の裁判を受ける権利および十分な法的援助を受ける権利の侵害があったとの結論に達しました。
そこで、相手方に対し、今後は訴訟の準備その他の権利の保護に必要と認められる書類の作成を妨げないよう勧告しました。
弁護士 小川 政希 弁護士 園田 洋輔

2013年7月31日付明石区検察庁宛要望
勾留延長の必要性が疑われる事案です。申立人は、図書館において館長と口論になり、体当たりなどの暴行を加えたとして現行犯逮捕されました。その後、相手方明石区検察庁の検察官によって勾留請求がなされ、明石簡易裁判所は勾留決定を行いました。さらに、10日目の勾留満期日に同じ検察官によって勾留延長請求がなされ、裁判所は勾留延長決定を行い、結果として19日間にわたる勾留がなされた後、申立人は不起訴処分となって釈放されました。
 本件は軽微な暴行事件であり、関係者らの供述によれば容易に事件の終局処分をすることができ、申立人が早期に釈放されてしかるべき事案でした。しかし、本件で勾留延長請求がなされた時点において、相手方明石区検察庁は、被害者取調べ、参考人事情聴取、実況見分、被疑者取調べのいずれも行っていませんでした。これは、適切な捜査を行うことなく漫然と勾留を延長して申立人を身柄拘束したものに他ならず、人権侵害に当たるといえます。
よって、今後、このように安易な勾留延長請求がなされることのないよう相手方明石区検察庁に要望するとともに、兵庫県下の全ての裁判所に要望書を参考送付し、安易に勾留延長決定をすることのないよう注意喚起を行いました。 弁護士 北村 拓也

2013年3月19日付育英高等学校及び同校生徒指導部長に対する警告
本件は教育機関における指導の限度が問題となった事案です。
 申立人は相手方高等学校の在学中に複数回の喫煙をしたとして相手方生徒指導部長らから自主退学の勧告を受けました。この喫煙行為は、相手方校内の体育館で起きた火災の調査において判明したものですが、申立人の喫煙とこの火災との間には関連は認められていませんでした。ところが、この退学勧告の場において、相手方生徒指導部長は何ら証拠もないまま申立人を火災の犯人と決めつけて「放火魔」と告げ、机を叩いての恫喝、大声で怒鳴り付ける等の言動により申立人に弁明の機会を与えず、侮辱的な言辞を浴びせ続けました。また、同席した他の教諭も、生徒指導部長の言動を制止しませんでした。
 相手方の自主退学勧告は、教育機関として許容される懲戒行為の範囲を明らかに逸脱しており、申立人の人格権を著しく侵害し反論の機会を抑圧するなど適性手続にも違反しているものです。従って、本件について猛省し、今後生活指導において人格権侵害をすることがないように十分な措置を講じるよう相手方高校及び同校生徒指導部長に警告しました。

2013年3月13日付兵庫県警察本部及び飾磨警察署に対する勧告並びに大阪入国管理局神戸支局に対する要望
本件の申立人はマレーシア国籍を有する女性で、事情により在留許可が認められなくなったものの、子供を置いて出国することが出来ないためオーバーステイ状態で日本に留まり在留特別許可を求めていました。申立人はオーバーステイに先立って相手方大阪入国管理局神戸支局(神戸入管)に違反調査にはいつでも応じる旨を伝え、その後神戸入管からの呼出に応じて仮放免許可を得たのちも、呼出の都度、入管へ出頭していましたが、仮放免許可から3カ月が経過する頃に、飾磨警察署に「神戸入管から通報があった」として不法滞在の疑いで逮捕されました。
 確かに、別々の機関である入管と警察とで、仮放免の判断と逮捕の判断が同一である必要はありません。しかし、当時申立人については既に入管から仮放免の許可を受けており、また家族と同居しており、容易に逃亡するとも思えない状況でもあったのですから、不法滞在の事実のみに基づいて警察が直ちに逮捕して身体を拘束する必要があったかについては疑問が残ると言わざるをえません。
そこで、今後は仮放免されている外国人を漫然と逮捕することがないよう、勧告及び要望に至ったものです。

2012年12月13日付神戸刑務所に対する勧告
本件は、簿記学習の自習のため申立人が電卓の使用を願い出たが神戸刑務所がこれを許可しなかったという事案です。
 刑務所内においては、自費購入したものでも、様々な物品について使用が制限されていますが、このうち、電卓については「受刑者からの申出内容及び当該物品の用途に鑑み、使用が必要と認められる事情があり、かつ、処遇上有益であると認められる場合には、使用を許すことが相当である」とされています。この点、簿記を学習することが社会復帰後の生活に有益であることは言うまでもなく、また、簿記学習において電卓の使用は必要不可欠なものですから、電卓の使用が認められるべき場合にあたると思われますが、神戸刑務所においては、通信講座を受講中である場合などに限って使用を許可し、自習で簿記を勉強したい者には使用を許可しないという運用がなされていました。
よって、通信講座の受講の有無にかかわらず、真に簿記学習の意欲が認められるものには電卓の使用を許可するよう勧告したものです。

2012年10月2日付神戸刑務所に対する勧告
申立1 ルーペの複数使用について
申立人は視覚障害を有しており、刑務所に入所する前から用途に応じた複数のルーペを使い分けていたため、刑務所内においても複数の種類のルーペを使用出来るよう願い出たものの、神戸刑務所から許可されなかったという事案です。  確かに、補正器具であっても必要性のないものまで無制限に使用を認めれば、刑務所の管理上支障が生じるおそれがあるかもしれません。しかし、申立人が使用を願い出たルーペはその倍率や構造がそれぞれ異なるものであり、用途に応じて使い分けることにより視覚障害による不自由不便を解消することが期待できること、また、複数(2つ)のルーペの所持を認めることで刑務所の管理運営上具体的な支障が生じるおそれも低いと思われることから、ルーペの復讐所持を認めるよう勧告したものです。
申立2 雑誌の付録の宅下げ制限について
雑誌の宅下げについては「2012年2月23日付神戸刑務所に対する勧告書」において記載しましたが、付録においても雑誌同様、宅下げを制限する根拠はないため宅下げを認めるよう勧告したものです。

2012年8月1日付兵庫県高等学校教育研究会視聴覚部会に対する警告
本件は放送コンクールにおける「表現の自由」の侵害が問題となった事案です。
 申立人が顧問を務める県立高校の放送部が放送コンクールに応募し、全国大会の予選まで進出したテレビドキュメント作品が審査ミスにより予選落ちとなる出来事がありました。この放送部は審査ミスを題材にラジオドキュメント作品を作成し、翌年の地区大会に応募したところ、地区予選を勝ち抜き兵庫県大会決勝に進出することとなったものの、決勝を直前に控えた時期に、この兵庫県大会を運営しており、申立人も所属する兵庫県高等学校教育研究会視聴覚部会(高等学校の放送部顧問が任意に加盟する団体)において緊急理事会が開催され、結果として、申立人側の高校がこのラジオドキュメント作品を取り下げることになったというのが本件事案の概要です。
 相手方部会は、本件ラジオドキュメント番組の構成が、審査ミスに対する全国大会事務局の尽力(複数回の謝罪や代替措置の提案など)がまったく紹介されていないばかりか、さらに全国大会事務局を批判するものになっていたため、このような番組構成が教育的配慮を欠いているとして、緊急理事会においてこの点を申立人に指摘したところ、申立人からの同意のもと作品が取り下げられたものであると主張し、一方、申立人は、相手方部会からの大会と2者択一的に迫られたもので、半ば強制的に取り下げられたものであると主張しました。
 両者の主張を踏まえて検討した結果、当会としては、申立人の同意は真意に基づくものとは認められず、相手方部会の対応は、不当に申立人側放送部の表現の自由を侵害したものと判断しました。なお、表現の自由は憲法21条1校により保障された重大な権利ですから、相手方部会に警告したものです。

2012年7月13日付神戸刑務所に対する警告
本件は刑務所内における懲役受刑者の隔離処遇が問題となった事案です。
 一般的に懲役受刑者は、刑務所内にある作業所(工場)に配属され、日中はそで他の受刑者と共に刑務作業を行っています。
しかし、ある受刑者に「他の受刑者と接触することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき」もしくは「他の受刑者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」には、日中も夜間もその受刑者を他の受刑者から隔離して処遇すること(昼夜間独居拘禁処遇)が認められています。また、この期間は3カ月とするが、特に継続する必要がある場合には、さらに1カ月毎に期間を更新することが出来るとされています。
それでは更新を続ければこのような昼夜間独居拘禁処遇は無制限に認められるべきなのでしょうか。
 本件の申立人は、2009年10月から2011年5月まで1年7カ月の間、神戸刑務所において他の受刑者からほとんど隔離され、4畳ほどの広さの単独室(一人部屋)に収容されていました。また刑務所側は、2010年5月以降は部屋の外窓にプラスチック板、視察窓に遮光フィルムを、部屋の外側の廊下の窓に寒冷紗(織り目の粗い布)をそれぞれ設置しました。
 当会は、調査の結果、申立人の長期間に及ぶ昼夜間独居拘禁処遇は隔離の必要性を慎重に判断せずになされたものとの結論に至りました。さらに、申立人の収容された居室は、プラスチック板等の設置により、天気や気候などの外部の様子さえまったく窺えない状況にされていましたが、人を長期間このような状況下に置くことは、著しい精神的苦痛を与えるものと思われます。
したがって、長期間の隔離処遇と居室窓へのプラスチック板等の設置についてこれを改めるよう神戸刑務所へ警告を行いました。
また、刑務所においては、秩序や規律の維持のため、移動の際に手足を揃えた行進を行う等の指導がなされることがありますが、このような指導に従わない際に懲罰を科す等、懲罰により行進等を矯正することがないように併せて要望しました。

2012年5月14日付兵庫県警察本部及び長田警察署に対する警告
逮捕の適法性が疑われる事案です。申立人は自宅近くの路上で、携帯電話で通話しながら運転していたとして相手方長田警察署の警察官2名に呼び止められたため、車を車庫に入れる旨、降車して警察官らに伝えた上で車を車庫に停車しました。その後、申立人が下車して車庫から出ようとすると、警察官のうち1名が、両手を広げて申立人を追い込むように近づいてきたため、申立人は「やめて下さい」と言いながら警察官の肩を押したところ、平手打ちをされ、両手首を掴んで強くひねられた上で、手錠をかけられ、公務執行妨害を理由に現行犯逮捕されました。
もともと、申立人の行為は運転中に携帯電話を使用したという軽微なものでした。恐怖を感じた申立人が警察官の肩を押した行為が仮に違法なものであったとしても、申立人を平手打ちし、両手を強くひねったうえ手錠まで使用する必要があったとは思えず、警察官らの制圧行為は限度を超えたものです。
また、申立人はその後2日間にわたって警察署に拘束されましたが、これについても、2日間もの拘束が必要であったか疑問があります。
よって、申立人への制圧行為及びその後の2日間の身体拘束について警告したものです。

2012年2月23日付警察庁、兵庫県警察本部及び神戸西警察署に対する警告
申立人は、自動車の後部座席に積んでいた買い物カゴについて、相手方神戸西警察署警察官から職務質問を受けました。その際、申立人はゴミ置き場に捨ててあったものを約1年半前に拾ったと答えましたが、警察官は申立人の行為が占有離脱物横領罪にあたると一方的に判断し、同行を求めました。同行先の警察署内において、申立人は写真と指紋の採取を求められたためこれを拒みましたが、警察官から大声で怒鳴られ、無理矢理立ち上がらせようとパイプ椅子を強引に引くなどされたため、恐怖心をいだき、仕方なく指紋採取や顔写真撮影、身長測定、微罪処分手続書への署名押印に応じました。
 申立人は相手方警察官に椅子を強く引かれた際、椅子から転落して臀部を打撲するけがをしましたが、警察官のこのような行為は暴行にあたります。また、任意の同行に応じているだけで身柄を拘束されている訳ではない申立人に対して令状なしに指紋採取、顔写真撮影、身体測定を強制した行為は令状主義に反しており、いずれも人権侵害にあたると考えられます。さらに、本件においては、問題となった買い物カゴが、所有者がいない無主物なのか、占有を離れた他人の所有物なのかを客観的に判断することは困難であったと推測されますが、このように裏付けが十分でないにもかかわらず、暴行により申立人の意思を制圧した上で微罪処分手続書に署名・押印させたことについても、刑事手続における適性手続の要請に反しており、人権侵害にあたるといえます。
なお、一般的に捜査の際に採取された指紋や顔写真については、警察庁及び都道府県警察に置いて保管し、被疑者の特定に利用されているところ、本件のように不適切な手続により取得された指紋や顔写真を捜査機関が保有し続けるべきではありません。
よって、今後このような事が行われないよう警告した事に加え、本件における微罪処分手続書、申立人の指紋、顔写真、測定身長等の個人情報を廃棄することを求めて勧告したものです。

2012年2月23日付法務省、同大阪矯正管区及び加古川刑務所に対する勧告
本件の申立人は、性同一性障がいにより女性としての性自認を持ち、かつ性適合手術を受けており女性としての身体的特徴を備えているものの、戸籍には変更手続きをせず男性として搭載されていたことから、男性受刑者用の施設に収容されました。
 刑事施設においては男女が分離して収容されていますが、それは主として異性、特に男性による女性に対する性的虐待による身体的直接的な侵害を防止するとともに、女性受刑者が男性受刑者との接触を強制されず、また、男性受刑者や男性職員からプライバシー侵害を受けないなど、広く女性の性的尊厳を守るためと考えられます。
 本件申立人に対して、加古川刑務所は、定期的に女性ホルモンの注射を受けさせ、女性の看守を配置する等の配慮を行っていましたが、一方で女性の衣類を支給せず、女性用の下着の使用を認めず、髪型は男性としての基準に基づいた髪型とし、入浴時の監視を男性刑務官が行うなど、女性としての性自認を有する申立人にとって精神的苦痛を感じさせる処遇も見受けられました。
 当会としては、分離の要件となる男女の区別については、戸籍を基準とするのではなく、本件申立人のように女性としての性自認及び女性としての身体的特徴を有する者については、女性として処遇すべきと考え、申立人を女性用の施設へ移送するよう勧告しました。

2012年2月23日付神戸刑務所に対する勧告
刑務所内では居室内で私物等を保管するスペースを制限されており、居室内で保管しきれないものは領置(刑務所内の別のスペースで保管すること)もしくは宅下げ(私物を親族や知人等に引き取って持ち帰って貰うこと)することになります。
 神戸刑務所では、新聞や雑誌について閲覧後は原則として廃棄させ、釈放後の社会生活上必要な場合などに限り、宅下げを認めるとの運用をしており、本件申立人が「趣味を活かし、出所後の生活に役立てたい」として特別宅下げ願いを申し出た雑誌の宅下げを2度にわたって不許可としました。
 本件は、神戸刑務所が「釈放後の社会生活上必要があり、・・・領置を認めることが相当な場合に限」り領置が認められるとの「領置」に関する通達の定めを「宅下げ」にも援用して運用していたものです。しかし刑務所内で保管するため、保管容量に物理的制約がある領置と異なり、宅下げにはこのような物理的制約はないため、領置に関する定めを宅下げにも適用するのは誤った解釈といえます。よって、このような運用は、本来なら宅下げによって廃棄を免れるはずの書類を廃棄されることにより、被収容者の財産権を不当に侵害している恐れがあることから、今後は改めるよう刑務所へ勧告しました。

2012年2月23日付兵庫県警察本部及び三木警察署に対する警告
本件では、申立人の逮捕について、その必要性が問題となりました。1月中旬の午後6時頃、三木警察署署員が、信号無視があったとして申立人の車を停車させ、申立人に免許の提示を求めました。その際、署員は免許証を手渡すよう求めましたが、申立人は免許証を手渡すことを拒否し、自らの手に持ったまま、3度にわたって相手方署員に提示しました。
 逮捕の際には逮捕の必要性(証拠隠滅のおそれ及び逃亡のおそれ)があるか否かが問題となるところですが、本件において申立人は警察官の指示に従って直ちに車両を路側帯近くに停車しており、免許証についても相手方署員が記載事項を確認出来るように提示しようとしていました。したがって、本件逮捕はその必要性が認められない違法な身柄拘束であると判断し、今後このようなことがないよう警告したものです。

2011年11月8日付姫路少年刑務所に対する勧告
本件は、少年刑務所の受刑者(申立人)が、少年刑務所(相手方)に、申立人が治療を受けた病院名を教えて欲しいと申し出たが、教えてもらえなかったという事件です。申立人は、刑務所内で他の受刑者から暴力を受け、市内の病院で治療を受けましたが、土地勘がなく、また、暴力によって意識が混濁し、自分が搬送された病院名を覚えていませんでした。申立人は診断書を取得して被害届を出すために上記申出をしました。
本件では、知る権利の侵害の有無が問題になります。
 「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」では、自己を本人とする保有個人情報については、開示が原則であって非開示は例外とされています。また「被収容者の診療記録の取り扱い及び診療情報の提供に関する訓令」でも、診療情報は公開が原則であると定められています。
 当弁護士会では、法の趣旨を踏まえ、申立人の申出を拒否するだけの合理的な理由があったかどうかを慎重に検討し、少なくとも本件においては知る権利の侵害があったとの結論に達しました。そこで、相手方に対し、申立人が受診した病院名を知らせる等必要な処置をとるよう勧告しました。
弁護士 小川 政希

平成22年11月18日付神戸刑務所に対する勧告
平成21年2月ころ、神戸刑務所内で複数の受刑者が、刑務所の規則に違反して、菓子類、手紙、レンズ付きフィルムなどの物品を所持し、あるいはこれらを外部とやりとりするなどの規則違反(反則行為)をしたとされる事件に関連して、受刑者の一人である申立人が、刑務所から反則行為の一部に関与した疑いをもたれ、隔離措置(反則行為の証拠隠滅を防ぐなどの目的で、受刑者を一人ずつ引き離して相互の交流を禁止し、刑務作業からも除外するなどの制約を設ける措置)を受けたことについて、刑務所による人権侵害であるとして救済を求めた事案です。
 法律上、反則調査のための隔離期間は原則として2週間とされていますが、この期間が延長されて長期間の隔離が行われており、このような長期間の隔離が正当と認められるだけの理由があったかどうかが問題とされました。
 調査の結果、延長後の隔離を正当化するに足りる事情が認められないことから、これについて刑務所の人権侵害を認定し、再発防止等を勧告しました。

2011年5月30日付加古川刑務所に対する勧告
本件は、刑務所における個人情報の管理が問題となった事案です。
 行政機関である刑務所には保有している個人情報を適切に管理し、漏えいを防ぐ義務があります。しかしながら神戸刑務所では、一日の刑務作業の始業から終業までの間、計算係の受刑者に工場内の受刑者の姓、配役年月日、生年月日や刑期終了日等が記載された手控えを預けるとの取扱いがなされていました。これらの情報は単に個人を識別することのできる情報に過ぎないという訳ではなく、刑務所という限られた空間に収容されている者の情報であるという点で、極めて慎重な取扱いが求められる「センシティブ情報」に該当するものですから、刑務所側の管理方法は杜撰であったと言わざるを得ません。
 加古川刑務所においては、申立人からの苦情申し出により速やかに管理方法を改める等の措置を講じていましたが、この点に限らず、今後は収容されている受刑者の個人情報が漏えいすることのないために必要な措置を講じるよう勧告しました。

2011年5月30日付神戸刑務所に対する勧告
本件は、刑務所における身体障がい者への刑務作業の配役について問題となった事案です。
本件申立人は入所当時、右足首の運動機能低下により身体障害6級の認定を受けており、また腰部に過度の負担がかかる長時間の立ち作業が困難な状態でした。
 入所当初、申立人は椅子に座りながら刑務作業の出来る工場に配役されましたが、他の受刑者との口論により懲罰を受け、他の工場に転役されることになりました。その後、申立人は右足首及び腰部の痛みやしびれを理由に作業を拒否し、懲罰を受けて工場を転々とすることを繰り返しました。
 例えば、刑務所側が申立人の障がいを「立ち作業が困難」という程度において把握していたのであれば、座位の作業などによって申立人の腰部への負担について予見困難な面もあったと思われます。しかしながら、申立人は作業復帰後に腰痛の悪化により休養を余儀なくされる等しており、刑務所には受刑者の健康に対してより慎重な配慮を行うべきであったと言えます。
そこで、障がいや健康上の理由により刑務作業による病状悪化が見られる受刑者の作業拒否に対して、刑務作業がその症状に与える影響を的確に把握し、懲罰権の行使及び配役の変更については、十分慎重に判断することを求めて、神戸刑務所へ勧告しました。

死刑執行に関する会長声明
2010年(平成22年)7月28日、東京拘置所において2名の死刑確定者に対し死刑が執行された。
 死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会において採択され(1991年発効、1997) 年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本を含む死刑存置国に対し、「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。
このような状況の下で死刑廃止国は着実に増加し、2009年1月1日現在、死刑存置国59か国、死刑廃止国138か国(アムネスティ・インターナショナル日本『年報死刑廃止2009』による)と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。にもかかわらず、日本政府は、2007年は4月、8月、12月に各3名、2008年は2月に3名、4月に4名、6月に3名、9月に3名、10月に2名、2009年1月に4名、7月の3名の合計31名に対し死刑を執行した。
しかし、2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、わが国の死刑制度の問題が端的に示された上、死刑執行をすみやかに停止すべきことなどが勧告され、同年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択され、さらに、2008年5月の国連人権理事会第2回普遍的定期的審査では、わが国における死刑の執行の継続に対する懸念が多数表明され、政府に対し死刑執行の停止が勧告された。しかも、同年10月15日、16日の両日には、国際人権(自由権)規約委員会により、わが国の人権状況に関する審査が行われ、その審査の中で特に死刑制度の現状に対する深刻な懸念が示された。そして、同年12月8日の国連総会本会議において、死刑執行停止を求める決議が、2007年を上回る圧倒的多数の賛成で採択された。
このような死刑を必要としない潮流の中、わが国がなすべきは、国際社会の要請にいかに応えるべきかをも含めた継続的な議論を行うことであり、死刑の執行を急ぐことではない。
 当会は、1996年5月18日、憲法週間記念行事「死刑制度の存続・廃止を巡る『どうする死刑』シンポジウム」を行い、死刑に関し議論すべき様々な問題があることを確認し、それらを取り上げ冷静かつ継続的に議論することの重要性を確認した。また、2008年9月には人権擁護委員会において死刑問題特別部会を設置し、死刑に関する当会内外の議論をさらに活発化すべく活動を開始した。死刑制度が国民の間で必要とされかつ許容されているのか否かについて、この問題に関心をもつ人々の間の議論にとどまらず、広く国民的議論がなされることが望まれる。
 加えて、2009年5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性はますます高くなっているといわなければならない。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2010年(平成22年)7月29日
兵庫県弁護士会会長乗鞍良彦

死刑執行に関する会長声明
本日、大阪拘置所において2名、東京拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対し死刑が執行された。
 死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会において採択され(1991年発効、1997) 年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本を含む死刑存置国に対し、「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。
このような状況の下で死刑廃止国は着実に増加し、2008年7月1日現在、死刑存置国56か国、死刑廃止国141か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかであるにもかかわらず、日本政府は、2007年は4月、8月、12月に各3名、2008年は2月に3名、4月に4名、6月に3名、9月に3名、10月に2名、2009年1月に4名の計28名に対し死刑を執行した。
しかし、2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、わが国の死刑制度の問題が端的に示された上、死刑執行をすみやかに停止すべきことなどが勧告され、同年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択され、さらに、2008年5月の国連人権理事会第2回普遍的定期的審査では、わが国における死刑の執行の継続に対する懸念が多数表明され、政府に対し死刑執行の停止が勧告された。しかも、同年10月15日、16日の両日には、国際人権(自由権)規約委員会により、わが国の人権状況に関する審査が行われ、その審査の中で特に死刑制度の現状に対する深刻な懸念が示された。そして、同年12月8日の国連総会本会議において、死刑執行停止を求める決議が、2007年を上回る圧倒的多数の賛成で採択された。
このような死刑を必要としない潮流の中、わが国がなすべきは、国際社会の要請にいかに応えるべきかをも含めた継続的な議論を行うことであり、死刑の執行を急ぐことではない。
 当会は、1996年5月18日、憲法週間記念行事「死刑制度の存続・廃止を巡る『どうする死刑』シンポジウム」を行い、死刑に関し議論すべき様々な問題があることを確認し、それらを取り上げ冷静かつ継続的に議論することの重要性を確認した。また、2008年9月には人権擁護委員会において死刑問題特別部会を設置し、死刑に関する当会内外の議論をさらに活発化すべく活動を開始した。死刑制度が国民の間で必要とされかつ許容されているのか否かについて、この問題に関心をもつ人々の間の議論にとどまらず、広く国民的議論がなされることが望まれる。
 加えて、本年5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は、ますます高くなっているといわなければならない。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2009年(平成21年)7月28日
兵庫県弁護士会会長春名一典

消費者庁長官、消費者委員会委員長及び委員の適正な人選を求める会長声明
本年5月29日、消費者庁関連3法案が成立し、この9月にも消費者庁と消費者委員会が設置されることとなった。
日弁連は、1984年10月20日、「消費者の権利確立に関する決議」を行い、そのなかで「バラバラの消費者対策の関連部局を整備統合して消費者保護を最優先課題とする消費者保護庁」実現を求めたところであり、消費者庁の設置は、縦割り行政による弊害を防止し、消費者被害を予防するとともに、消費者の権利を擁護するために消費者行政が大きな第一歩を踏み出したものと高く評価することができる。
また、消費者委員会は、消費者庁から独立した第三者機関として、企画立案段階では、基本的な施策に関する重要事項について調査・建議する権限、資料の提出要求等権限、基本方針を定める際の意見聴取権限・議決権等が認められ、執行段階においても、勧告・報告徴収権限や意見聴取権限等が認められている。かかる権限が与えられている趣旨に鑑みれば、消費者委員会には、消費者保護の観点から消費者保護行政を実質化させ、その機能が後退することのないよう、消費者行政全般の監視機能を果たすことが求められている。
そして、このような消費者庁と消費者委員会に息を吹き込む役割を担うのは、そのトップである消費者庁長官であり、消費者委員会委員長及び委員である。消費者庁と消費者委員会の機能を実効性あるものとするためには、消費者庁長官、消費者委員会委員長及び委員の人選が何よりも重要である。だからこそ、消費者庁及び消費者委員会設置法において、委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた識見を有する者のうちから任命する」と規定(同法第10条)されているのである。
そこで、当会は、消費者庁長官の選任にあたっては、消費者の権利擁護の観点から消費者行政のイニシアティブを発揮し、他の省庁に対しても毅然とした態度で臨むことができる人物を選任することを求める。また、消費者委員の選任にあっても、知名度等にこだわることなく、これまで消費者の立場から長年に亘り消費者問題に積極的に取り組んできた消費者団体関係者・弁護士・学者等から選任すると共に、消費者委員会委員長は、政府等の意向にとらわれず、各委員の自由な判断によって互選されることを求める。併せて、このことを担保するためにも、各設立準備参与会の段階から議事の傍聴を認め、議事録は顕名で公開されることを求めるものである。以 上2009年(平成21年)7月23日
兵庫県弁護士会 会長 春 名 一 典

生活保護における母子加算の復活を求める会長声明
政府は、生活保護の母子加算を2005年(平成17年)4月以降段階的に削減し、本年4月に完全に廃止するに至った。母子加算は1949年(昭和24年)に設けられ、不十分ながらも母子世帯の生存を支え続けてきたものであり、母子加算の廃止は、最後のセーフティネットである生活保護基準の切り下げにほかならない。
 母子加算の廃止は、「保護世帯の消費支出額が一般母子世帯より高い」ことを理由としている。しかし、政府の2006年(平成18年)母子世帯等実態調査によれば、母子世帯の年収は平均171万円であり、一般世帯の4割にも満たない。また母子世帯の就労率は約84%と諸外国よりも極めて高く、その多くは低賃金かつ不安定な非正規雇用で就労しており、「ワーキングプア」の典型とされる。このような現状に照らせば、子育て支援や就学援助などのセーフティネットを拡充し、一般母子世帯の生活水準を底上げすることこそが求められているのであり、母子加算を廃止するのは本末転倒である。
しかも、わが国における、ひとり親世帯の子どもの貧困率(2005年(平成17年))は、OECD 加盟25カ国平均21.0%を大きく上回る57.9%とトルコに次ぐ第2位の高率になっており、極めて深刻化している。貧困連鎖を断ち切ることが社会的課題となっている昨今、母子加算の廃止はそれに逆行するものであり、このような実態は、すべての子どもが社会保障を受ける権利の完全な実現を達成する責務を国が負うとし、また、子どもの健全な発達のために相当な生活水準を確保する権利を全ての子どもが有すると定める「子ども(児童)の権利に関する条約」に明らかに違反している。
 日本弁護士連合会は、2006年(平成18年)10月、第49回人権擁護大会において、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択し、国に対し、「生活保護の切り下げを止め、基礎年金額の引き上げや生活保護法の積極的適用などにより社会保障の充実を進めること」を求め、2008年(平成20年)11月には、生活保護法8条を改正して全国民の代表である国会が保護基準を定めるよう提言するとともに、このような民主的コントロールを受けることなく削減・廃止された老齢加算及び母子加算を復活させることを強く求めた。
 当会も、2007年(平成19年)11月、「生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人だけでなく、わが国の低所得層の生活全般に直ちに影響を及ぼす極めて重大な問題であるから、生活保護基準に関する議論は十分に時間をかけて慎重になされるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取してなされるべきである。」との会長声明を発したところである。
 折から、国会では、野党4党の共同提案による母子加算復活法案が提出されているが、保護基準の決定を民主的にコントロールする観点からもその第一歩として評価すべきである。
以上のことから、当会は、政府に対し、母子加算の復活を強く要望するものである。
2009年(平成21年)6月18日
兵庫県弁護士会会 長 春 名 一 典

「海賊対処法案」に反対する会長声明
政府は、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案(以下「海賊対処法案」という)を、今通常国会に提出し、同法案は、4月23日に衆議院で可決され、今後は、参議院において審議されることになる。同法案は、海賊行為に関する罪を定めたうえで、海上保安庁に海賊行為への対処をさせるとともに、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得たうえで自衛隊に海賊対処行動を命ずることができるとする一方、自衛隊が海賊対処行動を行う海域は、単に「海上」とされていて限定はなく、さらに、自衛官及び海上保安官に停船射撃等の武器使用を認めようとするものである。
しかし、この海賊対処法案は、以下のとおり、憲法に抵触する疑いがあると言わざるを得ない。
1 同法案は、領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を遙かに超えて、自衛隊の活動地域を公海にまで拡張し、また、自衛隊による海賊対処行動の対象を日本船舶だけでなく外国船舶を含む全ての船舶に対する海賊行為にまで拡大し、しかも、恒久的に自衛隊の海外派遣を容認するものである。そして、このような自衛隊による海外での活動に伴う武器使用について、従来から海上警備行動に際して自衛隊法で認められていた警察官職務執行法第7条に定める武器使用の範囲を超えて、「海賊」からの発砲がなくとも、「海賊」船舶の進行を停止させるための先制攻撃的な危害射撃を行うことを容認している。
この結果、同法案によれば、自衛隊の活動領域が、わが国の領海から一挙に世界中の公海へと無限定に拡大し、しかもその活動に伴った武器使用の範囲も拡大することで、憲法9条で禁止されている武力による威嚇、武力の行使に至る危険性も一挙に現実化し、憲法9条に抵触するおそれがある。
そもそも海賊行為等は、本来警察権により対処されるべきものであり、海賊行為抑止のための活動は、警察権行使を任務とする海上保安庁によるべきであって、憲法9条の下で活動が規制されている自衛隊が、警察活動を理由として、その行動範囲を拡大することは軽々に許されるべきことではない。
 本来、憲法9条の下での自衛隊の活動は、「自衛のため」に限定されており、安易に海外で武力行使に至るおそれのある活動を容認することは、自衛隊の海外活動における制約をなし崩しにしていくものであり、憲法9条に抵触するおそれがある。今一度、日本国憲法が、先の大戦の尊い犠牲のうえに、憲法9条を制定したことを思い起こすべきである。
2 しかも、自衛隊の海賊対処行動の「海上の区域」、派遣する「自衛隊の部隊の規模及び構成並びに装備並びに期間」など、その内容を防衛大臣と内閣総理大臣の判断のみで決定することとし、国会へは事後報告で足りるとしている。
しかも、「急を要するときは」防衛大臣が「必要となる行動の概要」を内閣総理大臣に通知すれば足りるとなっている。この結果、国会を通じた民主的コントロールのみならず、内閣による自衛隊活動へのコントロールすら及ばないことになる。これは、国民主権、民主主義を不当に軽視するものである点で看過できない重大な問題である。
 海賊行為等は、深刻な国際問題であり、ソマリア沖の問題について国連安保理決議がなされているなど、問題解決のために、国際協力が重要であることは明らかである。しかし、わが国が今、海賊対策としてなすべきことは、日本国憲法が宣言する恒久平和主義の精神にのっとり、問題の根源的な解決に寄与すべく、関係国のニーズに配慮しながら人道・経済支援や沿岸諸国の警備力向上のための技術指導などの非軍事アプローチを行うことである。
よって、当会は、海賊対処法案に反対するものである。
2009年(平成21年)5月22日
兵庫県弁護士会会長 春 名 一 典

死刑執行に関する会長声明
本年1月29日,東京拘置所において1名,名古屋拘置所において2名,福岡拘置所において1名,計4名の死刑確定者に対し死刑が執行された。
 死刑については,死刑廃止条約が1989年(平成元年)12月15日の国連総会において採択され(1991年(平成3年)発効),1997年(平成9年)4月以降毎年,国連人権委員会(2006年(平成18年)国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い,その決議の中で日本を含む死刑存置国に対し,「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに,死刑の完全な廃止を視野に入れ,死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。
このような状況の下で死刑廃止国は着実に増加し,2008年(平成20年)7月1日現在,死刑存置国56か国,死刑廃止国141か国と,死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
また,2007年(平成19年)5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,わが国の死刑制度の問題が端的に示された上,死刑執行をすみやかに停止すべきことなどが勧告され,同年12月18日には,国連総会本会議において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択された。さらに,2008年(平成20年)5月の国連人権理事会第2回普遍的定期的審査では,わが国における死刑の執行の継続に対する懸念が多数表明され,政府に対し死刑執行の停止が勧告された。しかも,同年10月15日,16日の両日には,国際人権(自由権)規約委員会により,わが国の人権状況に関する審査が行われ,その審査の中で特に死刑制度の現状に対する深刻な懸念が示された。そして,同年12月8日の国連総会本会議において,死刑執行停止を求める決議が,2007年(平成19年)を上回る圧倒的多数の賛成で採択された。
 以上のような死刑を必要としない国際社会の潮流の中,わが国がなすべきは,上記のような国際社会の要請にいかに応えるべきかをも含めた継続的な議論を行うことであり,死刑の執行を急ぐことではない。しかるに,日本政府は,2007年(平成19年)年は4月,8月,12月に各3名の計9名,2008年(平成20年)は2月に3名,4月に4名,6月に3名,9月に3名,10月に2名の計15名に対し死刑を執行した。
 当会は,1996年(平成8年)5月18日,憲法週間記念行事「死刑制度の存続・廃止を巡る『どうする死刑』シンポジウム」を行い,死刑に関し議論すべき様々な問題があることを確認し,それらを取り上げ冷静かつ継続的に議論することの重要性を確認した。また,2008年(平成20年)9月には人権擁護委員会において死刑問題特別部会を設置し,死刑に関する当会内外の議論をさらに活発化すべく活動を開始した。
 死刑制度が国民の間で必要とされかつ許容されているのか否かについて,この問題に関心をもつ人々の間の議論にとどまらず,広く国民的議論がなされることが望まれる。
 加えて,本年から開始される裁判員制度においては,裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることからも,死刑制度全般に関する情報を広く国民が正確に知った上で,死刑制度の存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は,ますます高くなっているといわなければならない。
そこで,当会は,政府に対し,死刑執行の具体的方法,死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか,死刑確定者の処遇,その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに,死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで,死刑の執行を停止することを強く求めるものである。
2009年(平成21年)2月16日
兵庫県弁護士会会長 正 木 靖 子

鹿児島接見国賠請求事件会長声明
鹿児島地方裁判所は、2008年(平成20年)3月24日、鹿児島秘密接見交通権侵害国家賠償請求事件において、原告である鹿児島県弁護士会所属弁護士10名、宮崎県弁護士会所属弁護士1名の全員について、弁護人と被疑者・被告人間の秘密接見交通権の侵害があったとして慰謝料等合計550万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
この事件は、2003年(平成15年)4月に施行された鹿児島県議会議員選挙に際して、公職選挙法違反で刑事責任を追及された被疑者・被告人と弁護人であった上記弁護士らとの接見について、捜査機関が、接見の都度その直後に接見内容に関して被疑者らの取調べを行ったうえこれを供述調書化して刑事公判で合計76通もの供述調書を証拠請求してくるという暴挙に出たため、弁護人である弁護士らが秘密接見交通権を侵害されたとして2004年(平成16年)に提訴していたものである。
この訴訟において、被告国、県側は、秘密交通権は接見終了後には保障されないとか、弁護人が否認の慫慂を行っていたものであるからとか、被疑者らが任意に供述していたものであるから等の理由で接見内容の供述調書化に違法性はない旨主張していたが、同日鹿児島地方裁判所で言い渡された判決では被告らの主張はいずれも排斥されて、取調べにおいて秘密接見交通権の侵害がなされたことを明確に認定し慰謝料等の支払いを命じる判決を言い渡した。
しかしながら、秘密交通権の保護が及ばないとされる例外を認めた点については問題があるところである。
 当会は、弁護人と被疑者・被告人との接見交通権については、「いつでも自由になされ、かつ秘密が保障される」ことが絶対に必要であり、この保障があって始めて被疑者・被告人は安心して弁護人に相談できるので、弁護人との信頼関係が構築でき、弁護権の行使が十全となるとの立場から、秘密接見交通権の確立を訴えてきたもので、この判決を基礎に、今後も秘密接見交通権侵害を許さないための弁護活動実践を行うと共に、これの確立のために全力を傾けることを宣言する。
2008年(平成20年)3月26日
兵庫県弁護士会会 長 道 上 明

少年法「改正」法案に反対する会長声明
法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は、2008(平成20)年1月25日、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し、同年2月13日法制審議会総会で同要綱が採択され、答申がなされた。同年3月7日には閣議決定がなされ、法案の審議入りがなされる。この法案のうち、①犯罪被害者等による少年審判の傍聴を可能とすること、②犯罪被害者等による記録の閲覧、謄写の対象範囲を拡大することについては、少年事件手続が少年の更生と再非行防止に果たす教育的・福祉的機能を損なうおそれが強く、当会は、以下のとおり、その法案に強く反対する。①について、法案は、被害者等による傍聴を許す家庭裁判所の判断基準を「少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」とし、対象範囲の要件の特定も不明確である。
これでは、少年の健全育成という少年法1条の理念が後退し、少年の更生の観点から相当とは言えない場合でも、被害者等の申し出により、裁判長が審判傍聴を許すという運用になりかねない。
そもそも、少年は言葉による自己表現やコミュニケーションを行う力が十分ではなく、被害者等の審判傍聴により萎縮し、事件の内容や非行時の内心の状態、審判の時点での素直な気持ちなどを、ありのままに話せなくなることは避けられない。少年が、裁判官の問いに対し、十分に答えられなかったり、過度に防衛的な受け答えをしたり、審判の場において表面的な謝罪や反省に終始することも生じるであろう。
そうすると、審判における正確な事実認定や、少年審判の本質というべき要保護性の的確な把握に支障が生ずるばかりか、少年による素直な内心の吐露を前提とした、裁判官らによる少年への教育的働きかけが困難となる。
また、少年審判は「懇切を旨として、和やかに行う」ものとされているが(少年法22条1項)、被害者等の傍聴がなされる場合は、裁判官がその被害者等の心情等を配慮して、従来よりも、少年に対して糾問的な姿勢で接したり、儀礼的、形式的な形で審判指揮を行うおそれがあり、被害者等を意識した審判運営に変容していくのではないかとの強い懸念もある。
 犯罪被害者等による審判の傍聴については、現行制度のもとでも、少年審判規則29条に基づき、裁判所が認める範囲で審判への在席が認められる場合があり、それ以上の規定を設けるべきではない。
②についても、閲覧・謄写の対象範囲を、法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分や社会記録についてまで拡大することには反対である。かかる取扱の変更は、少年の更生に対する影響からみて容認できない。
 今なすべきことは、各関係機関が被害者等に対し、2000(平成12)年少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法9条の2)、審判の結果通知(少年法31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ、これを被害者等が活用すること及び犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援体制の制度を拡充することである。
以上のとおり、上記①②の改正案については、少年法の理念と目的に重大な変質をもたらすおそれがあるから、当会はこれに強く反対するものである。
2008年(平成20年)3月21日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 道 上 明

少年法「改正」法成立についての会長声明
 2008年(平成20年)6月11日、被害者等の審判傍聴を認める少年法「改正」法が成立した。
 当会は、2008年(平成20年)3月21日、会長声明を発表し、少年法「改正」法案は、少年法の理念・目的に重大な変質をもたらすおそれがあり、問題点が多いと指摘してきた。にもかかわらず、十分な議論がなされないまま拙速に「改正」法を成立させたことに遺憾の意を表さざるをえない。
そもそも、少年審判は、それ自体が少年の健全育成を実践するための教育の場である。そして、少年審判が真に教育の場であるためには、少年の生い立ち・家族関係などに遡りつつ、少年の真の声を聞いた上で、自身の問題点を考えさせ、自覚させることが不可欠である。しかし、被害者が傍聴している状態で、少年が自分の考えを素直に言えるのか、また少年の生い立ち・家族関係など少年のプライバシーに深く関わる事項を取り上げることができるのかについては疑問があるといわざるをえない。このように考えると、当会が2008年(平成20年)3月21日付会長声明で指摘した問題点は、「改正」法でも依然残されたままである。
この点、「改正」法も、被害者傍聴を認める場合の判断基準として「少年の健全育成を妨げるおそれがないこと」を明記するとともに、被害者傍聴を許すには予め弁護士付添人の意見を聴かなければならず、少年に弁護士付添人がないときは家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしたこと、12歳未満の少年の事件を傍聴対象事件から除外したことなど少年法の理念に一定の配慮をしようとしていることは伺える。
しかし、「改正」法が、少年及び保護者が弁護士付添人を必要としない旨の明示の意思表示をしたときに弁護士付添人の選任を要しないとした点については、少年及び保護者が被害者傍聴の実態を十分理解しないまま回答を行う可能性を考えると、少年の手続保障の観点から問題が大きい。また、12歳未満の少年事件の数を考えると、12歳未満の少年の事件を傍聴対象から外したことが、そもそも「限定」と評価できるのか疑問がある。もとより、被害者保護は重要であるが、少年審判は事件発生から比較的早期に開かれることを予定しており、被害者が十分に心の整理ができていない少年の声を直接聴くことが被害者保護につながるのか疑問があるばかりか、かえって被害者を傷つける事態も生じかねない。被害者の審判傍聴が被害者保護につながるという安易な発想をするのではなく、被害者保護の施策は、長期的・総合的に構築していくべきである。
 当会は、十分な議論がなされないまま、少年法が「改正」されたことに遺憾の意を表するとともに、被害者傍聴の運用は、少年審判の教育的・福祉的機能の重要性を看過することなく、「少年の健全育成」という少年法の理念に基づき厳格に行うべきことを強く求めるものである。
2008年(平成20年)7月10日
兵庫県弁護士会会長正木靖子

「真にあるべき」消費者庁設置を求める会長声明
日本弁護士連合会は、平成元年の第32回人権擁護大会で消費者庁の設置を求める決議をしたが、この間、後述するように、多発する消費者問題について行政の対応は立ち後れ、むしろ規制緩和政策によって消費者被害は深刻化し増加の一途をたどった。
このような現状のもと、政府は、本年1 月、「消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限を持つ新組織」を発足させることを表明し、「消費者行政推進会議」を設置した。この動きは、政府が、昨年、国民生活センターの廃止縮小を試み、地方の消費者行政予算・人員が一貫して削減されてきた経過に鑑みれば、重要な政策転換となる可能性もある。
 同会議は、6月13日に最終報告書を採択し、「消費者にとって便利でわかりやすい」など新組織がみたすべき6原則をあげ、縦割行政の弊害や産業育成庁の限界をふまえて消費者・生活者の視点に立った行政への転換を図るため、消費者行政を統一的一元的に推進するための強い権限を持った新組織として、消費者庁を来年度に発足させることを提言したが、これが真に実現するならば、消費者被害の予防と救済、消費者の権利の確立に向けた大きな前進である。
 当会は、消費者被害防止と救済という真にあるべき消費者庁が設置され、加えて地方の消費者行政が実効性あるものとなるためには、次の諸点の実現が不可欠であると考え、これを強く求めるものである。
1 国は、消費者被害が多発する分野についての関連法の所管をできる限り消費者庁に移管し、また、共管になる場合には、消費者庁がリーダーシップを取ること等により縦割り行政・すき間行政の弊害を防止して消費者庁が関係官庁に対する指示、勧告その他諸権限及び新規立法の権限を持つような司令塔としての役割を担わせることにより消費者保護政策の行政施策を最優先とすること。
2 消費者庁は、消費者行政の企画・立案の過程で、地方で消費者被害に取り組む消費生活相談員等現場の声に積極的に耳を傾けること等により、必要に応じて、関係省庁への勧告のみならず、許認可の事後的取消等を含む事業者に対する直接の指揮監督権限を積極的に発揮すること。
3 消費者庁は、消費者被害撲滅のために、地方の消費者相談窓口、消費者、事業者、公益通報者からの被害関連情報を一元的に集約し、調査・分析・公表する権限と原因究明機関を持つこと。
4 国は、消費者基本法第2条第1項に唱われている消費者の権利の実現のため、消費者による意見を反映できるように消費者の知る権利を確保し、また、消費者が消費者行政を監督できるシステムを構築する等実効性を担保するための消費者の具体的な諸権利を法律の明文で規定することにより消費者・生活者の視点に立った消費者保護行政を貫徹できるよう立法その他行政施策を進めること。
5 国は、地方行政における消費者行政の人的・物的制度の拡充を図るために必要な予算を確保することにより消費者行政の財政的な基盤を強固にすると同時に、人員、組織の充実をはかるなど、緊急に必要な措置を講ずること。
6 地方公共団体は、消費者の苦情相談が地方消費者相談窓口における助言・あっせん等で適切に解決・救済されるために、地方自治体の相談窓口を拡充し、雇い止めの解消等消費生活相談員の雇用形態を抜本的に見直し、消費者被害救済実務に精通した消費生活相談員を増員し、十分な研修等養成を図ること。
2008年(平成20年)7月10日
兵庫県弁護士会会長正木靖子

名古屋高裁判決を踏まえて航空自衛隊のイラク早期撤退を求める会長声明
1 名古屋高等裁判所は、本年4月17日、いわゆる自衛隊イラク派遣差止訴訟において、現在イラクで行われている航空自衛隊による多国籍軍の空輸活動は憲法9条1項に違反するとの画期的な判決をした。
すなわち、判決は、詳細な事実認定のもとで、バクダッドはイラク特別措置法にいう「戦闘地域」に該当すること、航空自衛隊による空輸活動は、多国籍軍との密接な連携の下で、多国籍軍と武装勢力との間で戦闘行為がなされている地域と地理的に近接した場所において、対武装勢力の戦闘要員を含むと推認される多国籍軍の武装兵員を定期的かつ確実に輸送していること、このような空輸活動は、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援であり、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力行使を行ったと評価を受けざるを得ない、とした。そのうえで、航空自衛隊の空輸活動は、武力行使を禁止し、活動地域を非戦闘地域に限定したイラク特措法に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいると判示した。
 本判決は、イラクの状況と航空自衛隊の活動を緻密に認定して上記違憲、違法の結論を導いているものであって、高く評価できるものである。
2 また、本判決は、平和的生存権を「全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利」であると位置づけて、憲法上の具体的権利であることを認め、憲法9条に違反する国の行為によって、個人の生命、自由が侵害され又は侵害の危機にさらされた場合等、また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には、裁判所に対して違憲行為の差止請求や損害賠償請求などの方法で救済を求めることが可能であると判示している。これは、戦争行為に至る以前に、いわゆる解釈改憲によって、憲法9条違反の状態を既成事実として作り出すことに対しても司法による歯止めをかける可能性を認めるものであり、「法の支配」を貫徹させる点でも画期的な判決として高く評価できる。
3 この判決に対して、総理、一部閣僚、防衛省の高官などが、判決を軽視する発言を繰り返し、本判決の内容を慎重に検討することもなく、航空自衛隊の活動を継続しようとしている。
しかし、このような態度は、「法の支配」の理念を無視するものであり、政府は本判決の重みを直視すべきである。
4 当会は、航空自衛隊の空輸活動の範囲を拡大して、活動を継続することに対して、2006年(平成18年)8月に「航空自衛隊のイラク早期撤退を求める会長声明」を出し、その中で、航空自衛隊が空輸活動を行う地域が「非戦闘地域」の要件に該当しない可能性が高く、空輸活動の継続は、イラク特措法に違反するとともに、憲法前文の理念や憲法9条に違反すると指摘した。
 今般、上記名古屋高裁判決を踏まえて、当会は、あらためて、政府に対して、空自衛隊について、直ちに派遣を中止し、全面的撤退を行うよう求めるものである。
2008年(平成20年)5月16日
兵庫県弁護士会会長正木靖子

兵庫県弁護士会所属会員に対する業務妨害事件に関する声明
2007年(平成19年)3月26日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
本年3月14日、当会所属会員の法律事務所に、受任している離婚訴訟の相手方男性が押しかけ、応対に出た女性事務職員の顔面を素手で殴って傷害を負わせ、さらに110番通報をしようとしたもう一人の女性事務職員の頭部を所持していた金づちで殴り頭がい骨骨折等の重傷を負わせる事件が発生した。
われわれは、弁護士の業務活動に関して、法律事務所を襲い、事務職員に傷害を負わせるという許し難い行為に対し強い憤りを覚える。
 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とし、国民の正当な権利実現を図る諸活動を日々行っている。このような日常の弁護士の活動により国民の権利が擁護され、法秩序が維持・回復されるのであり、弁護士制度は、法治国家及び健全な民主国家を維持するためになくてはならないものである。弁護士個人の業務活動を妨害する目的でなされた暴力や脅迫は、このような弁護士制度そのものに対する攻撃であり、ひいては司法制度や法秩序に対する悪質な挑戦と言わざるを得ない。暴力的手段による弁護士の業務活動に対する妨害を軽視し、これを放置すれば、司法の一翼を担う弁護士の活動は広範囲にわたって阻害され逼塞し、わが国の司法制度ないし法秩序自体が危殆に瀕することとなる。
かかる認識のもと、われわれは、今回の極めて卑劣で悪質な行為に対して断固抗議し、今後とも弁護士に対する業務妨害行為に対し決して怯むことなく弁護士の使命を貫徹し、法の支配を実現するために、一致団結して闘う所存であることを表明する。

中国残留孤児兵庫訴訟判決に関する兵庫県弁護士会会長声明
2006年(平成18年)12月1日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
本日、神戸地方裁判所は、中国残留孤児兵庫訴訟について、被告国の政策の違法性を認め、被告国に原告65名中61名に対して損害の賠償を命ずる判決を言い渡した。
 中国残留孤児(以下「残留孤児」という)は、国が残留孤児を早期に帰国させる義務を怠り、さらに帰国した孤児の自立を支援する義務を怠ったことにより、「祖国日本の地で、日本人として人間らしく生きる権利」を侵害されたとして、2002年12月の東京地方裁判所への提訴を皮切りに、国家賠償請求訴訟を提起し、現在、全国15の地方裁判所と1つの高等裁判所において残留孤児全体の9割にあたる約2200名が国家賠償請求訴訟を行っており、兵庫県では65名の原告が2004年3月30日に提訴していた。
 一連の訴訟の最初の判決となった、2005年7月の大阪地方裁判所の判決は、不当にも原告らの請求を全面的に棄却した。
しかし、本日言い渡された神戸地方裁判所の判決は、除斥期間の経過により4名についての損害賠償責任を認めなかったものの、国に帰国後の自立支援をする義務を認め、国がその義務の履行を怠ったことを正面から認めたほか、国による残留孤児帰国の妨げとなる違法な措置があったことを認めて、国に損害賠償責任を課したもので、歴史的、画期的なものと評価することができる。
 日弁連は、1984年の人権擁護大会で「中国残留邦人の帰還に関する決議」を採択して国に早期帰国の実現や自立を促進する諸措置を速やかに講じることを求め、2004年3月には、同連合会人権擁護委員会が、国に対して、残留邦人の帰国促進策等の徹底及び帰国者の人間らしく生きる権利を確保するために生活保護に頼らない特別の生活保障給付金制度の創設等の立法措置を講じることを勧告している。
残留孤児は高齢となり、老後の生活や健康に不安を抱えており、これ以上残留孤児に苦難を強いることは許されない。
 当会は、被告国が本判決に対する控訴を断念し、今回除斥期間経過により損害賠償責任が認められなかった原告も含めて、すみやかに残留孤児の生活支援等のための抜本的な救済策の立案と実施を行い、残留孤児の「祖国日本の地で、日本人として人間らしく生きる権利」の実現を図ることを強く求めるものである。

共謀罪新設に改めて反対する会長声明
2006年(平成18年)10月12日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
政府与党は、今国会で「共謀罪」の新設を柱とする「組織犯罪処罰法改正案」の可決成立を重要課題として位置づけている。しかし、「共謀罪」の規定は、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高く、さらに、導入の根拠とされている国連越境組織犯罪防止条約の批准にも不可欠とはいえない。
 「共謀罪」とは、長期4年以上の刑を定める犯罪について、団体の活動として共謀した者を、5年以下もしくは2年以下の懲役または禁固に処するというものである。従って、犯罪の実行行為がなくても、関係者の単なる「合意」だけで処罰ができることになり、内心の自由を侵害し、思想・表現自体に対する処罰に限りなく近くなる。近代刑法においては、原則として犯罪の実行行為を処罰するという基本原則が確立しており、人の内心や思想・表現を処罰することは許されないというべきである。
ところが、「共謀罪」の対象犯罪は600以上に上り、重罪に対する例外的措置というよりは、窃盗、傷害などほとんどの犯罪について、未遂にもいたっていない段階で、広く処罰することになる。これは、戦前の治安立法による深刻な内心の自由の侵害、思想言論表現の弾圧への反省から再出発したわが国の基本原則を揺るがし、基本的人権との深刻な対立を引き起こすおそれが極めて高い。このようなことから政府も、既に7年前、国連の条約起草会議で「共謀罪は日本の法原則になじまない」と主張していた。
そもそも、わが国の現行法においては、既に重大犯罪についての予備罪・準備罪などが規定されており、さらに組織犯罪でよく利用される銃の所持に対する処罰規定などもあり、現在でも組織犯罪に関わる重大犯罪について未遂以前の段階での処罰が十分可能である。従って、共謀罪を導入することなく国連越境組織犯罪防止条約を批准することができる。
 以上のとおり、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高い「共謀罪」の新設には、改めて反対する。

教育基本法「改正」に反対する会長声明
2006年(平成18年)9月12日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
政府が提出した教育基本法改正法案及び民主党が提出した日本国教育基本法案は、それぞれ第164回通常国会に上程され、国会閉会により現在継続審議となっている。そして、政府は、今秋の臨時国会で教育基本法「改正」に最優先で取り組むことを明らかにしている。かかる情勢下、兵庫県弁護士会は、以下の理由によりこの両法案に反対するものである。
1 憲法の基本理念に関する重大な問題であるにもかかわらず十分な国民的議論がなされていないこと教育基本法は、前文で、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」と謳っているように、日本国憲法の理想を実現するための法律であり、かつ憲法が保障する教育にかかわる基本的人権を実現するために定められた教育法規の根本法である。
 1989年国連で採択された子どもの権利条約は、締結国において、子どもの教育は「人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。」を指向すべきとしており(同条約29条)、現行教育基本法が、個人の尊厳を重んじ、子どもが基本的自由の保障のもとで学び成長する権利を保障していることは、我が国も批准している同条約と調和している。かかる教育基本法の「改正」は,憲法及び子どもの権利条約の理念や基本原理にもかかわる重要な問題である。
しかるに、政府案も民主党案も、非公開の協議会等で議論されたに過ぎず、国民に対する十分な情報提供はなされず、国民的な議論などは殆どなされていない状態であって、にもかかわらず政府及び民主党が先の国会に両法案を提出したこと自体が、同法の重要性に鑑み,主権者たる国民の意思を軽視するものと言わざるを得ない。
2 両法案は、教育の自由保障を大きく後退させるものであること
教育基本法は、憲法13条に規定された個人の尊厳原理に基づく教育を構想し、教育の自由の保障のもとで、国民一人ひとりが学び、成長する権利を保障し、国の権力的な教育現場への介入に歯止めをかけている。すなわち、現行教育基本法第10条第2項は、「教育は,不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである。」との同条第1項を受けて、教育行政の役割を、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立に限定している。この規定は、戦前に教育に対して過度の国家統制がなされたことを反省し、教育の自主性尊重の見地から、教育に対する不当な支配や介入を抑止するという歴史的理由のもとに設けられた規定である。
しかるに、両法案は、現行法第10条第2項の規定をあえて削除した。これは教育行政の役割を「条件整備」を超えて、教育内容の決定にまで拡大させる意図があるからとしか考えられない。
さらに政府案は、改正法16条で、教育が「法律の定めるところにより行なわれるべきもの」とし、また、両法案とも政府が「教育振興基本計画」を定めるものとしている。これと両法案が新設しようとしている、教員の養成・研修、家庭教育、幼児教育、学校・家庭・地域住民の連携協力等の規定と合わせて読めば、国が国民の教育全般を管理し、統制することができる制度をめざしていることが危惧される。
3 両法案は、「思想及び良心の自由」(憲法19条)を侵害する事態を招く恐れが強いこと
両法案とも、「わが国と郷土を愛する態度を養う」(政府案)、「日本を愛する心を涵養する」(民主党案)として、いわゆる愛国心について規定したのをはじめ、伝統・文化の尊重、道徳心、公共心など、内心や価値観にかかわることがらについて規定している。政府案は、国が規定するあるべき「態度」を養うことを教育の「目標」とする。
このようなことがらを法律で定めることは、憲法19条、子どもの権利条約14条(「締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。」)によって保障される思想・良心の自由を侵害する事態を招く恐れが強く、決して許されることではない。
4 現行教育基本法の理念を実現することこそが必要であること
政府案について、文部科学省は、子どものモラルの低下、学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下等の問題があることから、教育基本法を改める必要があるとしている(文部科学省「教育基本法案について」平成18年5月説明資料)。民主党案について、同党は、「人生のスタート段階における格差問題、いじめや不登校、学力低下の問題、さらには昨今、小中学生をめぐる悲惨な事件」を「教育現場の問題」と位置づけた上で、同じく教育基本法を改める必要があるとする(民主党提出の「日本国教育基本法案」の趣旨説明)。
しかし、ここで指摘されている「教育上の問題点」は、現行教育基本法を「改正」しなければ解決できないものであるのか、現行教育基本法を「改正」することによって解決できるものであるのか,という点について、両法案とも、説得的な説明はなされておらず、教育基本法を「改正」すべき理由は存在しないと言わざるを得ない。
むしろ、かかる問題点は、例えば、経済的格差の拡大により実質的な教育の機会均等(現行法3条)が実現しないことや、高度に競争主義的な教育制度が改善されず個人の価値の尊重(現行法第1条)がともすればおざなりにされてきた実態があることなど、現行教育基本法の理念が十分に実現されてこなかったことに原因がある。
わが国の教育をより良くしていくために必要なことは、「改正」の必要もないままに現行教育基本法を「改正」することなどではなく、むしろ教育基本法がもつ普遍的理念を具体化するための施策を実施することである。たとえば、少人数学級を速やかに義務教育の全学年に行き渡らせることや、わが国が国連子どもの権利委員会から何度も勧告されている「高度に競争主義的な性格」を是正することこそが、現行教育基本法の理念の実践であり、「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備」(現行法10条2項)を課された教育行政の義務であり、直ちに実現されなければならない。
 以上の観点から、兵庫県弁護士会は、教育基本法の「改正」を内容とする政府案および民主党案の両案に対して、強く反対するものである。

航空自衛隊のイラク早期撤退を求める会長声明
2006年(平成18年)8月11日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
1 政府は、本年6月20日に、イラク南部サマワに派遣している陸上自衛隊部隊を撤退させることを決定し、マスコミ報道によれば7月17日に同部隊の撤退が完了した。
しかし、航空自衛隊の派遣は継続しており、8月以降には、これまでの活動範囲を拡大して、首都バクダッドやイラク北部のアルビルなどへの空輸を行うことが決められている。
 当会は、政府がイラク復興支援特別措置法(以下「イラク特措法」という)に基づく自衛隊派遣を決定したことに対して、2003年(平成15年)12月12日付で「自衛隊等のイラク派遣に反対する会長声明」を発表して、自衛隊のイラク派遣中止を求めており、今回陸上自衛隊部隊が完全に撤退したことに対しては一定の評価はできると考える。
2 しかし、当会が、自衛隊のイラク派遣に反対した理由は、自衛隊が他国内において武力行使をせざるを得ない事態が発生する危険性が高く、このような事態を招来するおそれがあるにもかかわらず派遣を行うことは、全世界の人々に平和的生存権を認め、紛争の平和的な解決に努めるとした憲法前文の理念や憲法9条に反すること、また、イラク特措法が「自衛隊などの対応措置は非戦闘地域において」実施するとしている基本原則に違反することによる。
3 この観点からすれば、今後も航空自衛隊がイラクにおいて活動し、更に活動範囲を拡大するということは、その対象地域にイラク駐留の多国籍軍にも多数の死者が発生している地域が含まれており、より一層イラク特措法が定める「非戦闘地域」の要件に該当しないことが明らかであるから、同法に違反し,しかも憲法前文の理念や憲法9条に反するものと言わざるを得ない。
したがって、当会は、航空自衛隊の活動範囲を拡大することに反対し、航空自衛隊についても、直ちに派遣を中止し、全面的撤退を行うよう求めるものである。以上

弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に反対する
兵庫県弁護士会
兵庫県弁護士会は、弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に強く反対する。
この制度は、資金洗浄、テロ資金対策として、不動産の売買等一定の取引について、資金が犯罪収益あるいはテロ関連であると疑われる場合に、依頼者本人に通知することなく、警察庁に対して報告する義務を定めるものであり、弁護士の守秘義務の観点から看過できない問題を有している。
すなわち、守秘義務は、弁護士法において、弁護士にとって、権利であるとともに義務であると定められている。そして、このことは、弁護士に相談あるいは依頼する者にとって、秘密が守られるからこそ全ての事情を弁護士に対して説明することができることを意味する。秘密が守られないおそれがあれば、依頼者は、弁護士に対して安心して全ての事実を打ち明けることができない。そうなれば、弁護士は事実関係の全容を把握した上で、適切な処理をすることができず、その結果、相談者は弁護士から適切な助言、弁護活動を受けることができなくなる。
このような観点から、弁護士が業務を行う上で最も重要な義務の一つである守秘義務を侵すおそれのある報告義務を課す旨の立法は、そもそも容認できるものではない。
 2005年(平成17年)11月17日、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、報告先である金融情報機関を、従来の金融庁から犯罪捜査機関である警察庁に移管することを決定した。しかし、疑わしい取引が警察庁に報告がなされることになれば、その情報は、マネー・ロンダリング等に限定されず、それ以外の犯罪についての捜査の端緒ないし情報として、警察内部において流用されないとの保証はない。
 一般市民からすれば、マネー・ロンダリング、テロ資金に限らず、弁護士に相談する過程で依頼者の秘密、情報が捜査機関である警察に提供されるという危惧を抱かざるをえなくなる。
このような事態は、国家権力からの独立を保障して国民の適切な弁護を受ける権利を保障しようとする弁護士制度を根幹からゆるがすものである。さらには、国民の法の支配への信頼を根底から揺るがせ、法治主義と民主主義を危うくするものである。
よって、兵庫県弁護士会は、弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に強く反対するものである。以上

「教育基本法「改正」法案の今国会成立に反対する会長声明」
2006年(平成18年)5月15日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
今国会(第164回国会)において教育基本法「改正」法案の審議が開始されようとしているが、当会としては、以下の理由により、同法案を今国会で成立させることに反対である。
 第1に、現行教育基本法は、戦前教育への反省から個人の尊厳を重視する理念を打ち出し、前文に「われらは、さきに、日本国憲法を確定し(中略)この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」と明記して、憲法と一体不可分の基本法と位置付けられてきたが、同法案では上記部分が削除されている。百年の計といわれる教育の重要性からして、教育理念の改正を行うのであれば、十分な国民的議論が必要である。しかし、今回の同法案は、非公開の与党教育基本法改正に関する協議会で議論されたに過ぎず、その議事録さえ公開されておらず、国民に対する説明が極めて不十分である。世論の関心も低い現状の下で、急いで見直す必要性があるかどうかは疑問であり、まず国民的議論を先行させるべきである。
 第2に、同法案第2条第5項には「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」と規定されている。表現が見直されたとはいえ「国を愛する」という心や態度を国家が強制するのではないかとの懸念は依然として根強い。教育で個人の内心に踏み込むことになり思想・良心の自由を侵すとの意見が指摘されているほか、国旗国歌法の制定時の政府の公式説明に反して教育現場では強制が広がっているとの声もあり、上記の修正ではこれら不安が払拭されたとはいえない。この点でも十分かつ慎重な検討が必要である。
 第3に、教育行政の役割について、現行法第10条では「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備」と限定していたところ、同法案第16条ではこの部分を削除し、代わりに「国は(中略)教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」、「地方公共団体は(中略)その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない」との規定が新設された。本来、教育内容の決定は、国民と教育現場にその多くを委ねられるべきであるとの意見も根強く、最高裁大法廷1976年(昭和51年)5月21日判決においても「国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」とも指摘されているが、この原則が軽視されかねないおそれもある。
 第4に、同法案では現行法第5条の男女平等に関する条文が全文削除されているが、現代社会における男女共同参画の重要性からするとむしろ後退であると評価されるおそれもある。
そもそも、法改正の必要性として、教育現場や青少年の心の荒廃、犯罪の凶悪化・低年齢化などが指摘されているものの、これら指摘の当否が検証されたわけでもなく、またその原因が基本法の内容にあると断じるのも早計である。むしろ現行法に基づく一連の具体的な教育施策が十分になされてきたのかがまず見直されるべきであろう。
 今回の改正法案につき幅広い視野で十分かつ慎重な検討を行うとともに、国民的議論の深化を図るべきであり、今国会で改正法案を成立させるのは相当ではない。以上

共謀罪の新設に反対する会長声明
2006年(平成18年)4月20日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
報道によりますと、与党は今月21日から「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下、「本法案」という)の修正案に関する審議入りを決定し、今国会での成立を期そうとしています。
 本法案は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下、「国連条約」という)に基づき国内法化を図るものとして2003年の通常国会から審議されてきたものですが、いわゆる「共謀罪」の新設を含むことから、日弁連を初め当会も昨年7月21日及び10月6日の2度にわたり会長声明を発し、強く反対してきました。
 報じられている修正案では、第一に、適用対象の団体を「その共同の目的が罪を実行することにある団体である場合に限る」とする、第二に、「行為」を「犯罪の実行のためにする行為」や「犯罪の実行のために資する行為」として、何らかの準備行為を要件として加える、とされています。
しかしながら、第一の点については、ここにいう「団体」は、恒常的な組織のみを意味するわけでなく、一時的に形成された複数人の集まりをも含むと解される余地もあります。従って、例えば市民団体にも共謀罪が適用されることになりますから、国連条約が取締りを求めるマフィアなど組織的な犯罪集団に限定されません。また、第二の点については、何らかの準備行為を加えるとしても、それは共謀罪の成立を立証するために証拠が必要だという当然の理を述べたにすぎず、何ら、共謀罪の成立範囲を限定したことにはなりません。
このように、修正案も、共謀罪を限定したものとは到底言えません。
また、(1)共謀罪が導入されると、犯罪捜査においても、広範囲の盗聴やメールの傍受などが必要になり、取調べにおいても自白強要の傾向が強まり、人権侵害の頻発、警察が市民生活の隅々まで入り込む監視社会をもたらす危険がある、(2)自首による刑の減免が規定されることから密告などの風潮も強まりかねないなどの、当会の2度の声明で指摘した問題点も、全く解決されていません。
このように、本法案は、仮にこのように修正しても、思想信条の自由など重要な基本的人権を侵害し、自白強要の取調方法が強まり、監視社会を招くなど、市民生活にとって重大な脅威になるものであり、当会は、強く反対します。

ゲートキーパー立法に反対する会長声明
2006年(平成18年)1月18日
兵庫県弁護士会 会長 藤井 伊久雄
当会は、弁護士に対して、一定の取引に関し疑わしい取引を警察庁に報告する義務を課す、いわゆるゲートキーパー立法に強く反対する。
 2005年(平成17年)11月17日、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、弁護士などに対しても一定の取引に関して犯罪収益またはテロ関連が疑われるものについて報告義務を課すFATF(OECD加盟国を中心とする政府間機関である金融活動作業部会)勧告の完全実施、ならびに報告先である金融情報機関(略称FIU)を警察庁とすることを決定した。
この制度は、資金洗浄、テロ資金対策として、不動産の売買等一定の取引について、資金が犯罪収益あるいはテロ関連であると疑われる場合に、警察庁に対して報告する義務を定めるもの(ゲートキーパーは「門番」を意味する)であるが、弁護士の守秘義務、国家権力からの独立という観点から極めて重大な問題を有している。
 守秘義務は、弁護士法において、弁護士の権利であるとともに義務であると定められている。それは弁護士の業務の重要性に鑑み、その適切な遂行を制度的に保障するためのものである。弁護士に相談あるいは依頼する者にとって、秘密が守られるからこそ全ての事情を弁護士に対して説明することができるのであって、秘密が守られない虞があれば、依頼者は、弁護士に対して安心して全ての事実を説明することができない。そうなれば、弁護士は事実関係の全容を把握できず、適切な処理ができないこととなり、相談者は弁護士から適切な助言、弁護活動を受けることができなくなってしまう。
このような観点から、弁護士が業務を行う上で最も重要な義務の一つである守秘義務を侵すおそれのある報告義務を課す旨の立法は、そもそも容認できるものではない。
さらに、今回予定されている制度は、報告先である金融情報機関を、犯罪捜査機関である警察庁とするものである。従前の構想では報告先は金融庁とされていた。金融庁が報告先である場合は、同庁において資金の流れが適切か否かを検討、判断し、当該取引がマネーロンダリング等に該当すると判断した場合に、捜査機関に対して情報を提供することになる。ところが、疑わしい取引が警察庁に報告がなされることになれば、その情報は、マネーロンダリング等に限定されず、それ以外の犯罪についての捜査の端緒ないし捜査中の事件に関する情報として、警察内部において流用されないとの保証はない。
 一般市民からすれば、マネーロンダリング、テロ資金に限らず、弁護士に相談する過程で依頼者の秘密、情報が捜査機関である警察に提供されるおそれを生じることになる。
このような事態は、弁護士の国家権力からの独立を保障したうえで国民の適切な弁護を受ける権利を保障しようとする弁護士制度の根幹をゆるがすものである。
当会は、人権擁護と社会正義実現の観点から、このようなゲートキーパー立法に強く反対するものである。以上

有事法制法案に反対する声明
2002年(平成14年)5月16日
兵庫県弁護士会 会長 藤野 亮司
2002年(平成14年)4月17日、政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国民及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」を上程した(以下「有事法制3法案」という。)。
そして、4月26日衆議院本会議において趣旨説明がなされ、各党からの代表質問がされ、特別委員会における審議が本格的に開始される状況にある。
 日本弁護士連合会は、4月20日の理事会において、憲法原理に照らし、有事法制3法案には、重大な問題点と危険性が存在するとして、同法案に反対し、同法案を廃案にするように求める旨の決議を採択し公表した。
 当弁護士会も、以下の点からみて、同法案には憲法上看過できない疑義が存在すると考える。
1.「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており、その範囲・概念は極めて曖昧である。政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能である。
2.いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行われると、陣地構築、軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用、軍隊・軍事物資の輸送、戦傷者治療等のための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済等の市民生活・経済活動の規制などを行うことにより、市民の基本的人権を大きく制限することとなる。しかも、取扱物資の保管命令違反に対しては、6月以下の懲役、立入検査権拒否、妨害等に対しては20万円以下の罰金が科されるなど、刑罰による強制も規定されている。これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理に背反する重大な危険性を有する。
3.「武力攻撃事態」という曖昧な概念の下で自衛隊による武力行使や部隊の活動を円滑・効果的に行なうための措置を広く認めるこれらの法案は、憲法前文や憲法9条の定める平和主義、戦争放棄、戦力の不保持及び交戦権否認の規定に抵触するのではないかとの重大な疑念がある。「武力攻撃事態」が周辺事態法に定められた米軍の軍事活動に対する自衛隊の後方地域支援活動等に際して発生した場合、自衛隊の米軍との共同行動は、政府見解でも違憲とされている「集団的自衛権」の行使にさらに大きく踏み込むこととなるおそれが強い。
4.武力の行使、情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し、その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは、行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し、また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反し、憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ、民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。なお、対処措置に関する重要事項等を定める「対処基本方針」につき、国会の承認を求めなければならないとされてはいるものの、承認をなすべき期間は定められておらず、国会による修正権限や承認後における濫用抑制権限の存否も明確ではない。
5.日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし、これらに対し、「必要な措置を実施する責務」を負わせ、内閣総理大臣が、対処措置を実施すべきことを指示し、実施されないときは自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより、政府が放送メディアを統制下に置き、市民の知る権利、メディアの権力監視機能、報道の自由を侵害し、国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。
このように、有事法制3法案は、武力又は軍事力の行使を許容するための強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、基本的人権侵害のおそれ、平和原則への抵触のおそれだけでなく、憲法が予定する民主的な統治構造を変容させ、地方公共団体、メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権、直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより、国家総動員体制への道を切り開く重大な危険性を有するものである。
したがって、当弁護士会は、有事法制3法案には、上記の重大な問題が存在し、憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理に反する重大な危険性を有する点で、国民の基本的人権や生活に重大な影響を及ぼすことを懸念する。また、有事法制の必要性及びその内容については、国民の間にも様々な意見が存するところであり、主権者である国民一人一人がその点について慎重に見極めることができるよう、広く国民的な議論を尽くした上で国会に上程するべきであり、今回の法案の国会上程は、拙速であると考える。
 特に、兵庫県には、神戸港という全国でも有数の港湾を擁し、その利便性が大きいことを考えると、ひとたび「武力攻撃事態」との認定がなされれば、神戸港が軍事目的に利用される可能性が大きい。このような軍事目的の利用を規制するために、神戸港の利用に関しては、1975年3月に神戸市会が全会一致で「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」(いわゆる非核神戸方式)を採択しているが、神戸におけるこのような平和憲法の理念を実践してきた歴史に鑑みても、有事法制3法案をこのまま見過ごすことはできない。
よって、当弁護士会は、有事法制3法案の重大性、危険性に鑑み、同法案の問題点を国民に明らかにするとともに、国民が十分に議論する機会が保障されないままでの同法案の成立に反対するものである。

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律(仮称)案に関する会長声明
2002年(平成14年)3月29日
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
政府は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(仮称)案」を今国会に上程しようとしている。
この法案は、殺人、放火、強姦、強制わいせつ、強盗、傷害にあたる行為(以下「対象行為」という。)を行った心神喪失又は心神耗弱であると認められた者で、不起訴処分とされた者或いは無罪の裁判又は有罪の裁判が確定した者について、検察官は、「継続的な医療を行わなくても対象行為の再犯を行うおそれが明らかにないと認められるときを除き」裁判所に対して審判開始の申立をしなければならず、そして、その審判手続で、「再犯を行うおそれがあると」認められた場合には、入院又は通院させて医療を受けさせるというものである。これは、刑事手続を終えた精神障害者に対し、さらに、「再犯のおそれ」という治安維持の観点から、拘禁の可否等の処遇を決定することを認めようとするものと言わざるを得ない。
そもそも、人身の自由は何人に対しても保障されるべき基本的人権の一つであり、その制限に対しては特に慎重でなければならない。もとより犯罪から社会の安全が守られなければならないことは言うまでもないが、だからと言って、その法益の保護ために人身に自由に対する制限が直ちに許されるわけではない。しかし、政府案は、「再犯のおそれ」という極めて不明確な要件によって、精神障害者を社会から隔離することを目指そうとするものであり、人権侵害の可能性が大きいことは否定し得ない。
また、処遇の決定は、裁判官1名と精神科医1名の合議体で判断されるというが、医学的に「再犯の可能性」を判断することは不可能と言うべきであり、それ故に社会防衛的観点を重視しがちな裁判官の判断が優位に立つ可能性が高い。このことを考えれば、今回の政府案は、過去に日弁連が反対し廃案となった「改正刑法草案」の保安処分と同様の問題をはらんでいる。
 日弁連は、「改正刑法草案」が問題となった1970年代以降、時として起こる精神障害者による不幸な事件の発生を効果的に防ぐためには、日本の貧困な精神医療の改善こそが必要であることを繰り返し主張してきた。精神障害者が、医療機関で人として遇され、そして、地域社会の一員として生活できる状況が作り出されるよう医療的福祉的なサポートを行うシステムの構築こそが政府に強く求められるのである。しかし、政府は、真に必要とされるこうした施策には着手しようとせず、あえて極めて問題のある内容の法案を上程しようとしている。その態度は、問題の根本的解決を先送りするものであり、極めて政治的な思惑に基づくものと言わざるをえない。
 以上のとおり、当会は、精神障害者に対する重大な人権侵害の可能性がある政府案に強く反対し、真の問題解決のための、国会における、医療、福祉、社会政策、そして司法を含めた多角的観点からの議論の展開を求めるものである。

人権擁護法案に対する意見書
2002年(平成14年)3月28日
衆議院議長 綿貫 民輔 殿
参議院議長 井上 裕 殿
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
同人権擁護委員会 委員長 高橋 敬
人権擁護法案に対する意見
第1、はじめに
2001年5月25日に人権擁護推進審議会が「人権救済制度の在り方について」の答申(以下「答申」という。)を出し、これに基づき2002年1月30日、法務省が新たな人権救済機関として「人権委員会」の新設を盛り込む「人権擁護法案(仮称)の大綱」(以下「大綱」という。)を発表され、同年3月8日、「人権擁護法案」が閣議決定され(以下「人権擁護法案」ないし「法案」という)、今国会での成立並びに2003年5月ないし7月の人権委員会発足が目指されています。
これに対し、日本弁護士連合会は、上記答申に対して2001年12月20日に「人権擁護推進審議会の『人権救済制度の在り方について』の答申に対する意見の提出について」と題する総括的な意見書を提出されており、さらに上記法案に対して2002年3月15日理事会決議にて「独立性の保障がない」等の理由で反対の意思を表明されています。
 当会も、上記日弁連意見書及び理事会決議に賛同するものでありますが、とくに今般、当会独自の意見書を提出する趣旨は、
 (1)当会が、戦後長年にわたり地元兵庫県下において地域密着型の人権救済活動を継続してきた経験に基づき、民間団体である弁護士会の人権救済活動の実態、特にその特徴と限界をここに改めて考察し、今般、新たに創設されることが予定されている「人権委員会」は弁護士会人権救済活動の特徴は活かし、限界は克服する体のものであるべき、との願いを込めて、(2)あわせて、(1)に関連して、そもそも今般、何故、新しい国内人権救済機関の創設が求められているのか、その由縁を再確認し、とくに1991年国連人権委員会で決議され、1993年国連総会でも採択された「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」が定立されるまでの経緯を振り返り、パリ原則が求めるあるべき国内人権機関像が今回の法案に本当に適切に反映されているか、という観点からの真摯な対応を求めたい、という意味で、真に求められる新しい「人権委員会」の在り方について、意見を申し述べるものであります。
第2、意見
上記観点に立って本意見書において申し述べる意見は、以下のとおりです。
1、民間団体である弁護士会の人権救済活動の特徴と限界の観点から
(1)特徴-民間性、独立性、専門性、自発性
わが国の国内人権救済機関としては、法務省の人権擁護行政と人権擁護委員制度の外に、日本弁護士連合会や各地弁護士会の人権擁護委員会、放送メディアによる人権侵害の苦情を受け審理し当事者に対し勧告・見解を提示・公表している「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)」などの民間団体があります。
 民間団体である弁護士会は、各都道府県に置かれた単位会ごとに人権擁護委員会を設置しており、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命として、市民からの申立を待って、あるいは弁護士会自らの判断で調査を開始し、在野法曹である弁護士が委員となって自ら直接調査に当たり、国際人権規約等の人権国際基準に配慮した事実認定と法的判断を行い、人権侵害の事実を認定した場合は、加害者に対し、警告、勧告、要望等の措置を取り、マスコミの協力により警告等を公表して世論喚起ないし人権啓蒙を行うという、無償の救済活動を展開しています。
そして、近時はその社会的認知度が高まり、兵庫県レベルで年間30~40件の人権救済申立を受けて具体的調査活動を行っています。
また、弁護士会は、必ずしも市民からの申立を待たず、時の重要課題について自発的に調査を開始する場合もあり、当会では、1997年3月に「阪神淡路大震災と応急仮設住宅」と題する調査報告と提言を行いました。
(2)限界
しかし、同時に、弁護士会の人権救済活動には、前述の特徴と裏あわせの形で限界が存在します。
すなわち、民間団体である弁護士会人権擁護委員会活動の最大の限界は、調査対象者の協力義務を伴った強制的な調査権限がないことであります。そのため、とくに警察、刑務所、拘置所、入国管理局等の公的機関等が相手方とされる事案においては、直接の加害行為者とされる者との面談調査を求めても常に拒否され、各種照会をしても上司ないし広報部門による間接的、形式的な回答がなされる程度であり、これでは具体的事実を認定して真実を究明し市民の人権を擁護し、正義を実現すべき使命に鑑み、極めて不十分というほかなく、まさに遺憾の極みであります。
その他の限界としては、委員が個人としての弁護士業務と兼務であり、予算も報酬も専属スタッフもなく、警告等に法的拘束力もない等の限界があり、その意味で、弁護士会人権擁護委員会もパリ原則が求める実効的な国内人権救済機関とは言えないというほかありません。
 (3)かかる観点に照らし、今回新たに創設される人権委員会は、弁護士会が従来とくに苦汁を飲んでまいりました、公的機関の協力義務を伴った強制的な調査権限の不存在という限界を克服しつつ、他方で、弁護士会が市民の人権救済に一定の役割を果たし得てきた由縁であるところの民間性、政府からの独立性、人権救済経験を積み憲法・国際人権法等に通じた法律家委員による直接調査、積極的調査提言機能などといった特徴は取り入れるべきであると考えます。
2、今、新しい国内人権救済機関が希求される由縁
 当会が、実体験的に希求する上記「人権委員会」のあるべき姿は、以下に述べるとおり、戦後の人権救済機関創設に関する国際的な潮流とも軌を一にするものであります。
(1)世界の潮流
 国連は、第2次大戦中のドイツにおけるユダヤ人虐殺等、歴史上稀に見る人権侵害は各国内的には合法的に行われたという反省の下に、すべての人の権利と尊厳を保障するための、人類に共通した普遍的な価値基準を作り上げ、その基準の遵守を、各々の国のレベルを超えた、全人類的な約束事として広めていくとの考えに立って、1948年に「世界人権宣言」を採択し、以後、1966年に採択された「国際人権規約」をはじめとして、1989年採択の「児童の権利条約」に至るまで23もの人権関係条約を採択してきました。
そして、国連は、1990年代に入ってから、これらの条約によって合意された人権の内容を、いかに各国内的に実現するか、を検討するようになり、1993年12月、「国内人権機関の地位に関する原則(「パリ原則」)」を採択し、国内人権機関のあるべき姿を示しました。
そして、「パリ原則」は、人類普遍の原理である基本的人権の実現、人権侵害に対する実効的救済を図れることができるよう、国内人権機関の主な機能として、[1]人権侵害・差別からの救済、[2]政府・議会に対する人権政策の提言、[3]人権教育・広報活動の連絡調整を挙げ、これらの機能を実効的に果たすために、[1]機関構成員は社会の多元性を反映するよう選出し、[2]任期を明確に定め、[3]独立した財源を持つなど、機関としての独立性の確保及び権限の強化がなさるべきことを求めました。
これを受けて、世界の諸国において、政府からの独立性の確保、対象者の義務付けを伴った調査権限の強化、政策提言機能などをもった国内人権救済機関の整備が進んでいます。
(2)わが国の状況-法務省の人権擁護行政と人権擁護委員制度の問題点
 一方、わが国の人権擁護全般を担っているのは法務省の人権擁護行政と人権擁護委員制度であるところ、人権擁護行政を所掌している法務省人権擁護局及びその出先機関である法務局・地方法務局・支局の職員は戸籍、登記業務に従事する者との兼務が多く、同局の幹部職員は検察官で充当されており、前記のとおり国や行政による人権侵害もありうる状況の中で、人権擁護の仕事が行政から独立しておらず、行政自体の中に位置づけられていることは、市民の人権保障という視点からは問題であると言わざるを得ません。
また、人権擁護委員制度は、国の人権擁護行政を補完するものとして、全国で約1万4000人が議会の同意を得て法務大臣から委嘱された民間ボランティアとして活動していますが、その平均年齢は60才を超えており、しかも無給であることから名誉職的に委嘱されることが少なくなく、人権侵犯事件の調査処理についても関係者の任意協力による調停機能が中心であり、法的強制力を持った救済措置を持たないことから、人権救済に十分対処できていない現状にあることを否定できません。
このような日本の人権擁護行政の状況を踏まえて、1998年、国連自由権規約人権委員会は、法務省の人権擁護委員制度について、「委員会は、人権擁護委員は、法務省の監督下にあり、また、その権限は勧告を発することに厳しく限定されていることから、そのような仕組み(国内人権機関-引用者注)にはあたらないと考える。委員会は、締約国(日本国-引用者注)に対し、人権侵害の申立を調査するための独立の機関の設置を強く勧告する。」と求め、これを受けて2001年5月、前記答申がなされると、直ちに国連社会権規約人権委員会は、同年8月、「委員会は、締約国が国内人権機関の導入を提案する意向を示したことを歓迎」するとしつつ、「締約国に対し、1991年のパリ原則及び委員会の一般的意見第10号に合致した国内人権機関をできる限り早急に設置するよう要請する。」とさらに注意深く求めるに至っています。
この社会権規約人権委員会の要請は、答申が、新設される人権委員会の組織について、現行人権擁護行政を改編して、従前の人権擁護局を新たに中央に設置される「人権委員会」の「事務局」に改組、法務局人権擁護部を「地方事務所」に改組する構想を示したことから、それでは新しい人権委員会と言っても名ばかりで、従前の人権擁護行政の焼き直しにすぎなくなり、機関としての独立性、権限行使の実効性の確保に危惧を抱いたことを示すもので、まさに今回の答申並びに法案の根本的問題点を指摘するものであります。
 (3)かかる経緯に照らし、今回の法案のご審議にあたりましては、今回新設される人権委員会が従前の法務省人権擁護行政の上に人権委員5名を置いただけの形に終わるのではなく、歴史上往々にして人権侵害は各国内的には合法的に行われたという歴史的反省の下に(そして、このことは過去の出来事でもなく、他国のことでもないことは「ハンセン病」問題等を見ても明らかです。)、従前の機構を超えて、人類普遍の基本的人権を実効的に救済できる機構を作り上げるためには何が必要かという原点に常に立ち戻り、機関としての独立性の確保、権限の強化、積極的政策提言機能への真摯な配慮がなされるべきものと考えます。
3、以上の諸観点に鑑みたとき、今般設置される新たな人権救済機関としての「人権委員会」は、次の諸点を満たしたものであることが求められます。
(1)実効的な救済権限行使のための制度的担保をもつこと
人類普遍の原理である基本的人権を実効的に救済できるだけの制度的担保をもった機構であること
(2)公的機関の調査協力義務を明記すること
 そのためには、人権委員会に、調査対象者の協力義務を伴った調査権限が付与されるべきことは、マスコミ事案等別途考慮を要するものを除き、必須の要請であります。とくに公権力による人権侵害事案ではそれなくして真相究明は到底図れるものではありません。
しかるに、この点、法案では、「特別救済手続」として、出頭要求・質問調査権、文書提出要求権、立ち入り調査権を明記しているものの(44条)、それらの権限の実効性確保については、30万円以下の過料の制裁による担保しか規定されておらず(88条)、答申では明記されていた「公的機関の協力義務」の文言が全く抜け落ちています。これは、とくに従前の公的機関の人権侵犯事件調査に対する著しい非協力的対応を回顧したとき、極めて大きな問題であります。国、行政には、憲法99条「憲法尊重擁護義務」からしても国民からの基本的人権侵犯の訴えに対し、直接の当事者による弁明等により事実関係を真摯に説明すべき義務があると考えます。
よって、過料による制裁規定に加えて、「公的機関の調査協力義務」を明記することを強く求めます。
(3)機構上、実効的権限行使が客観的に期待できるシステムを構築すること
 かつ、より重要なことと言って過言ではない点は、人権委員会の体制上ないし運用上も、上記調査権限を遺憾なく実効的に行使することが客観的に期待できるシステムが構築されるべきことであります。
そのためには、以下の事項が実現されることが必要であります。
ア、独立性の確保
[1] 内閣府の外局とするべきこと
法務省管轄下の刑務所、拘置所、入管等は、人権侵害の加害者側として申し立てられることも多いのが実情ですが(2000年度の当会に対する兵庫県下の救済申立件数40件中、7件)、それだけに人権委員会を、同じ「法務大臣の所轄に属する」(5条2項)とするのではなく、少なくとも内閣府の外局にするべきであり、
[2] 事務局及び地方事務所職員の独立性と多元性を確保すること
答申では、従前の法務省人権擁護局の事務局をそのまま改組して人権委員会事務局とするとしており、法案では、事務局職員の構成について「弁護士となる資格を有する者を加えなければならない」(15条2項)と規定するのみで、それ以上に明確な規定を置かず、むしろ、「人権委員会は地方事務所の事務を地方法務局長に委任することができる」(16条3項)と規定していますが、これは以下の観点から十分ではなく、事務局ないし地方事務所職員には弁護士のみならず、人権救済活動経験を積んだ民間の人権NGOや学者、医者、カウンセラー、自治体職員等からの採用もできるよう規定を整備すべきであります。
そもそも人権侵犯事件の多くは各地方で発生します。
法案では、人権委員は全国で5名(しかも3名は非常勤)しか選任されませんので(8条)、各地方の人権侵犯事件の調査は地方法務局長に処理を委任する外ないと予想されます。とすると、実際に中央、地方における具体的事件の調査に当たるのは事務局ないし地方事務所職員ということにならざるを得ず、事務局ないし地方事務所職員に独立性と多元性が確保されていなければ、前記調査権限は到底実効的に遺憾なく行使することが客観的に期待できないからであります。この点はいくら強調しても過言ではないと考えます。
そして、事務局ないし地方事務所職員の採用にあたっては、ジェンダーバランスや平均年齢に明確に配慮して、男女はできる限り同数とし、最低限、定年制、年代別選任義務や男女比率の最低遵守義務等に関する具体的基準を定めるべきであります。
当会としましては、この点は「公的機関の協力義務」の明記とともに、本法案における最重要課題と認識しています。
[3] 人権委員の独立性と多元性を確保すること
「人権委員」の選任について、それが事務局の上位者に位置し、人権委員会の最高意思決定機関とされるものである以上、同様に独立性と多元性が確保される必要があり、ジェンダーバランスや年齢層に明確に配慮しつつ(法案では男女一方が2名未満とならないよう努めるとされている〔9条2項〕ことは評価できますが、年齢層にも言及されるべきです)、人権救済活動経験を積んだ民間の人権関係NGOや弁護士、「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)」関係者、学者、医者、カウンセラー、自治体職員等からの採用もできるよう規定を整備すべきであります。
[4] 人権擁護委員を有給制とし、選任について推薦委員会の設置、平均年齢、定年制、再任制限、年代別選任義務、男女比率の最低限の遵守義務、外国人の選任を可能にする方策等を盛り込むこと
「人権擁護委員」人選の方法について、法案は、「市町村長が推薦した者のうちから弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、人権委員会が委嘱する」(22条)としていますが、答申で「各地の実情に応じた実効的な人選の在り方を追求していくことが適当」としていることを踏まえ、それが名誉職的なものにとどまらず、人権救済のためより実効的な機能を持つためには、地方ごとに、推薦委員会の設置や公募制の採用、各種民間団体との事前協議などの方法を積極的に検討し実現できるような規定とすべきであります。
 年齢層・男女比率・外国人の参加問題についても、答申はそれぞれ、様々な年齢層の者で構成されることが望ましい、半数が女性であることが望ましい、外国人の選任を可能にする方策を検討すべきなどとしていますが、法案にはこれらに関する規定が全く欠けており、これは看過し得ない問題であります。平均年齢、定年制、再任の制限、年代別の均等な選任義務、男女比率の最低限の遵守義務等について、たとえば、平均年齢55才目途、70才定年制、再任は2回(計3期)まで、男女の一方の性が40%をくだらないこと等、具体的な基準を定めることが望ましいと考えます。
ちなみにこの点、当会は、かねて1992年10月20日付神弁発第284号をもって、神戸地方法務局に対して、「原則的に70才を超える委員の委嘱は望ましくなく、又再任の際も、長期在任による意識の弛緩による名誉職化などの弊害を避けるためにも、原則として3期、9年を超える委員の委嘱は望ましくないと考えられます。」との要望を行っております。
また法案は現行の無給制を維持するとしていますが、年齢層の多様化を図り、また日常的・積極的な活動を期待するためには、有給化を採用するのが妥当であります。(さらに有給化だけでなく、自由業以外の者も参加できるよう、企業や団体の理解を得られるような運動も重要です。)
イ、調査権限の実効的行使の観点から、
[1] 人権委員を各地方ごとに選任すること
具体的事件に対応して実効的に調査権限を行使するという観点から、調査を事務局ないし地方事務所に全面的に委ねる運用は適当ではなく、「人権委員」自ら一定の関与をするべきであります。
そのためには、人権委員が委員長以下5名(うち非常勤3名)、東京に置くだけで地方には置かないとの法案では不十分であり、少なくとも各都道府県及び政令指定都市に1名は常勤として選任されるべきであります。
[2] 人権擁護委員にも研修等のうえで特別調査権限も持たせること
仮に、それが困難であるならば、現在、全国に渡り多数選任されており、民間性を有する人権擁護委員が、特別救済手続における具体的調査に関与できるよう手続規定を整備し、現在の啓発活動中心ともいえる人権擁護委員の在り方を変革すべきであります。
この点、法案では、人権擁護委員に、任意調査である一般救済手続事件における調査及び措置権限を付与しているものの(28条5号、39条2項、41条2項)、人権侵犯事件の救済手続の中心となるべき、強制的な調査権限を伴った特別救済手続への関与は全く認めていません(44条2項)。
 人権擁護委員の人選の独立性と多元性を確保し、かつ、専門性という意味で一定の選抜ないし国際人権法等に関する研修等を義務付けた上で、特別救済手続に一定の関与ができるようにすることにより、人権委員会の調査手続に民間性と独立性を注入すべきであると考えます。
[3] 人権委員の調査立会及び事務局の報告義務
また、人権委員会事務局ないし地方事務所が調査に関与する場合でも人権委員、人権擁護委員はできるだけ調査に立ち会い、あるいは少なくとも事務局の人権委員、人権擁護委員に対する個別事件ごとの定期的な報告義務を課すべきであり、
[4] 国際人権法を修得しうる研修の実施
 人権侵害は往々にして国内的には合法的に行われるという過去及び現在の歴史的教訓を踏まえ、事務局、地方事務所職員、人権擁護委員に国際人権規約等に基づく具体的事件の調査活動を想定した事例研修等を課すべきであります。
(4)職権調査及び政策提言機能の積極的行使
ア、前述の「パリ原則」等によって国内人権機関に要請される「職権調査」および「政策提言活動」について、法案では38条3項、20条にて規定されておりますが、今後の運用の問題でもありますが、以下の理由から、かかる権限及び活動の積極的行使が要請されます。
イ、すなわち、パリ原則では、国内人権機関が扱う問題は、単に申立人が申立をした個別事案にとどまらず、「国内人権機関が自ら取り上げることを決めたあらゆる人権侵害の情況」も含むこと、さらに「現行の法律や行政規定」に対しても、「上位機関の照会なしに」意見、勧告、提案および報告をなしうる、という活動をするよう求められており、パリ原則の後、1995年に、国連人権センター(現国連人権高等弁務官事務所)が発行した「国内人権機関人権の伸長と保護のための国内機関作りのための手引き書」(いわゆる「ハンドブック」)においても、「第4部政府に対する助言と援助の任務」として、「諮問なしで意見や勧告を提出できる広範な権限付与が望ましい」「現行法及び提出法案の見直しと新法起草における援助」「一般政策上及び行政上の助言」の項が設けられています。また、「第5部 人権侵害の申立に対する調査の任務」の中にも「3職権による調査」の項が設けられ、人権侵害に関する調査について、申立以外に職権による調査活動も念頭におかれています。
ウ、各国における国内人権機関の規定を見てみると、
・オーストラリア
 オーストラリアの国内人権機関である「人権委員会」においては、職権による調査の権限があり、「公開調査」と呼ばれる広範な調査や聞き取りを元に、報告書を作成、司法大臣を通じて議会に提出し、行政に対する提言や法改正の提言を行っています。
・ニュージーランド
同じく、国内人権機関である「人権委員会」では「いかなる法律の制定、または政府のものであれ否であれ、いかなる慣行もしくは手続きを含め、人権がそれによって侵害されると委員会が考えるいかなる問題についても、一般的な調査を行うこと」が権限とされており、差別の申立の処理にとどまらず、人権に関わるあらゆる事柄についての公的声明の発表や調査、立法行政措置(案)に関する提言など、人権問題一般について自らのイニシアチブで行動をとることが認められています。なお、1995年に人権委員会が作成した報告書では、社会保障改正法が人権法違反になるとの見解を出すなど、積極的な活動をしています。
・フィリピン
国内人権機関である「人権委員会」の調査部では、所属する地域事務所もしくは地方事務所に直接寄せられた申立、もしくは新聞、NGOなどの第三者からの情報を受けた場合、人権委員会の管轄圏内であると各事務所の所長によって判断されれば職権により調査を開始する制度になっています。
・イギリス
包括的権限のある国内人権機関はなく、分野ごと独立して活動している委員会が分野・地位別に個別に活動しています。中でも、「人権平等委員会」と「機会均等委員会」は、差別禁止法によって調査権限が与えられています。委員会が違法な差別行為が存在する疑いがあると判断した場合、委員会は公式調査を開始することができます。また、委員会は、設置法である差別禁止法に定められた範囲内において、人権状況の監視や政策提言活動を行っています。設置法に関して必要に応じて見直しを行い、議会に改正案を提出することが任務とされています。
エ、当会が、自主的・能動的調査権限および政策提言活動の重要性を説く理由は、以下のとおりであります。
・現在も残る、法律・行政による人権侵害
つい先頃まで長年にわたり放置されつづけた、ハンセン病に関する「らい予防法」と「隔離政策」の継続は、法律と行政による人権侵害事案でありました。このような、法律や行政による人権侵害は過去のことではありません。残念ながら、我が国では現行法や行政政策の中に、少なくとも「人権侵害の可能性」を含んでいるものが存在すると思われます。身近な例でも、民法中には「非嫡出子の不平等取扱」などの問題があり、行政においても、拘禁施設における拘禁者に対する処遇の問題や、生活保護受給における運用などにおいて、恒常的・全国的に人権侵害的な行政施策が行われている可能性があります。
このような法律・行政による人権侵害をくい止めるためには、国内人権機関に、法律や行政施策に対する意見を(単なる「助言」にとどまらず)積極的に明らかにし、公表できるようにするべきであります。
・職権による調査の積極的行使を
 また、人権侵害が制度や規則の運用として全国的に行われているような場合には、個別的な申立事案の救済活動だけでは根本部分についての解決は図れません。
また、救済が必要と考えられる人権侵害事案の被害者が必ずしも申立をするとは限らないため、社会的に問題になっているような人権侵害についても手つかずのまま放置されてしまう危険があり、職権による調査の介入を認める必要性は高いと考えられるのであります。
 かかる歴史的経緯及び広域的な人権侵犯事犯の性格等からして、職権調査及び政策提言が積極的に行使される体制が構築されることも重要な課題であると考えます。そのためにも、人権委員、人権擁護委員、事務局等の独立性と多元性、有給制、国際人権法による研修等、前記事項が実現されることが重要となってくるものと考えます。
(5)調査対象を限定すべきでないこと
 法案は、任意調査及び関係人間の調整機能を中心とする一般救済手続の対象となる人権侵害事件については特に限定を加えていませんが、強制的な調査権限及び調停仲裁、勧告・公表、訴訟援助を行う「特別人権侵害」事件について、「差別的取扱」、「虐待」、「セクハラ」、「それに準ずる人権侵害で自ら排除又は回復措置を取ることが困難なもの」、「差別助長行為」に限定しています。しかし、これは狭きにすぎるものであります。
 たとえば、弁護士会人権擁護委員会に対する救済申立のうち、刑務所・拘置所あるいは警察代用監獄における人権侵害事例では、職員等による暴行など「虐待」と分類できる顕著な人権侵害ばかりではなく、むしろ細々とした日常行動上の多岐にわたる掣肘(たとえばノートの利用制限、運動や入浴制限、日常動作の細かな掣肘等々)を過剰な自由の制限であるという趣旨の申立も多くあります。このような申立に対し、法案のような類型列挙方式をとると、「虐待」とはいえない、「差別」とはいえない、などとして切り捨てられる恐れが大きくなります。「差別」といえなくとも、また「虐待」とまではいえなくとも人権に関わる不当な処遇はありえることは否定できず、救済活動の入り口で人権救済の対象を狭く限定するのは適当ではないと考えられます。
 法案では、「それに準ずる人権侵害で、被害者自ら排除回復困難な場合」との絞りがかけれらていますが、「被害者自ら排除回復困難な場合」とはたとえば民事裁判ないし行政不服手続をできる場合は人権委員会の救済対象から排除するとの解釈に容易に結びつきかねません。しかし、訴訟ではでは迅速性、費用等に課題があり、行政不服手続では審査期間の独立性、中立性等に課題があるゆえに、今般、独立した国内人権救済機関の設置が要請されている経緯に照らして考えたとき、あくまで例示列挙と位置づけ、最後に「それに準ずる人権侵害行為」程度の項目を置くべきであります

扶助協会の不足財源を弁護士会から補てんすることについての総会決議
2002年(平成14年)2月21日
兵庫県弁護士会
総会決議
民事法律扶助法は、法律扶助を国の責務と規定している。しかし、財団法人法律扶助協会の深刻な財源不足は、本年度末を迎えて各地において扶助申込の受付を中止せざるを得ないという深刻な事態を招いた。憲法に規定された「裁判を受ける権利」を実質的に保障するための法律扶助が、予算不足という本来あり得べからざる理由によって、機能を停止するという未曾有の事態を、私達は何としてでも回避しなければならない。
 兵庫県弁護士会は、今回だけの緊急措置として、本年度末の不足資金については扶助協会の不足財源を弁護士会から補てんし、扶助受付を一日たりとも停止しないために最大限の努力を払う。
 兵庫県弁護士会は、国民の基本的人権としての裁判を受ける権利を守る法律扶助制度の根幹を揺るがしかねない今回の事態を深く憂慮し、国の抜本的な予算措置を強く求めるものである。

大阪教育大学付属池田小学校の事件に関する会長談話
2001年(平成13年)6月11日
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
1.今回の痛ましい事件について、直接の被害者はもちろん、ご家族や周囲の児童、保護者、教職員、その他の関係者に対して、心からお見舞い申し上げます。
2.兵庫県弁護士会は、従来から「犯罪被害者支援センター」を設置して、犯罪被害者の支援にあたってきました。今回の事件に関しても、もし私たちの力が必要とされるなら、ご遠慮なくご連絡いただきたいと思います。第1回の無料面接相談をはじめ、ご依頼があれば、マスコミ対応や、関係者との交渉や協議などの代理もさせていただきます。
3.すでに、兵庫県下の現場周辺の健康福祉事務所(保健所)と連絡を取り、当支援センターを必要とするケースがある場合には、ご連絡を頂くようお願いしました。
兵庫県弁護士会の犯罪被害者支援センターは、
〒650-0016 神戸市中央区橘通1-4-3 兵庫県弁護士会
電話078-341-7061 ファクシミリ078-351-6651
です。
4.今回の事件の規模と重大性に鑑み、支援センターの弁護士だけでなく、必要に応じて「子どもの権利委員会」などの関連委員会の弁護士にも応援を求めるなど、万全の体制を作ります。また、従来からのカウンセラーや精神科医などとのネットワークをより強化していく予定です。
5.今回の事件に関して、一部では被害者やその関係者に対して、そのプライバシーを侵害したり、被害者の心情を無視したような、無神経な接触や報道がなされています。もとより報道の自由は尊重されるべきでありますが、被害者や関係者に対しては、マスコミ等の関係者は十分な配慮をつくして、慎重な対応をされるよう、切に希望します。
 6.今回の事件に関連して、精神障害者の犯罪の問題については、ぜひとも冷静な議論をしていただくよう、お願いします。今回の事件はあまりにも悲惨で重大でありますが、事件の再発防止や、これからの社会のあり方を考えるにあたっては、一時の感情的な議論ではなく、冷静な議論が必要です。

少年法改正に関する会長声明
2000年(平成12年)5月1日
兵庫県弁護士会 会長 模 泰吉
少年法「改正」については、法制審議会が平成11年1月21日、検察官の審判出席と抗告権を認め、観護措置期間を最長12週間に延長するなどを主たる内容とする要綱骨子を採択し、それを受けて政府は、同年3月10日、同内容の「改正」案を国会に提出した。
 兵庫県弁護士会は、同年2月8日には要綱骨子、同年5月14日には「改正」案に対し、予断排除原則や伝聞証拠排除法則を採用していない現行の職権主義の下で検察官の審判出席を認めると、審判は少年を糾問する場と化し、教育的・福祉的機能が損なわれる危険性が極めて大きく、検察官に抗告権を付与すれば、少年を長期間に亘って不安定な地位に置くことになり、観護措置期間の延長によって、退学や解雇を余儀なくされ、少年の社会復帰を妨げるなどと指摘して、これらに反対する旨の会長声明を発表した。
その後、「改正」案は審議入りできない状況が続いていたが、今般、本年6月頃の衆議院解散が必至となるに及び、「改正」案に、検察官関与を殺人など重大事件に限定する、被害者や遺族が審判を傍聴することを認める、検察官への抗告権付与を削除する、観護措置期間を最長8~10週間に短縮するなどの修正を加え、今国会中に成立させようとする動きがみられる。
しかし、検察官の抗告権を排除しても、その審判出席を認めること自体、前述した危険性を孕むものであり、観護措置期間をこの程度短縮したとしても、退学や解雇は避け難く、ひいては少年に非行事実を否認することを断念させ、冤罪につながりかねないことに変わりはない。また、被害者や遺族の審判包丁を認めることは、少年の抱える問題点を明らかにし、その改善方法を探索するために少年の育成歴・人格・家族らのプライバシー等に深く立ち入らなければならない審判の本質的要請である非公開原則に反し、多くの弊害が予想される。このように、「修正」案も、「必罰化」「厳罰化」を企図した「改正」案と根本的には変わらず、少年の可塑性に信頼し、教育的・福祉的働きかけによって少年を健全に保護・育成しようとする少年法の理念に悖るものであると言わざるを得ない。
さらに、少年法は、教育基本法や児童福祉法とともに、将来を有し、次代を担うべき少年の健全な成長を支える基本法である。したがって、その改正には、審判における教育的・福祉的機能、適正手続の保障、被害者の関与など諸問題について、法律関係者のみならず、教育・福祉関係者や心理・精神面の専門家、被害者をはじめ幅広く国民の意見を聴取し、慎重かつ徹底的に議論を尽くすべきである。
よって、当会としては、「修正」案に対しても、強く反対の意を表明するとともに、政治的情勢に左右されて杜撰で拙速な審議をすることのないよう求めるものである。

少年法改正問題に関する会長声明
1999年(平成11年)5月14日
兵庫県弁護士会 会長 丹治 初彦
政府は、本年3月11日、国会に少年法「改正」案を上程した。
 少年法は、少年が未熟で可塑性に富む存在であること及びどんな少年にも成長発達する権利があることを前提として、非行を犯した少年がその弱点を自覚し、これを克服できるよう教育するということを基本理念としている。
ところが、「改正」案は、少年審判に検察官が立ち会うことや検察官の抗告権を認め、観護措置期間を現行の最長4週間から最長12週間まで延長するなど、少年法の基本理念を揺るがす重大な問題を含んでいる。
すなわち、予断排除の原則や伝聞証拠排除法則を採用していない現行の職権主義の下で、少年審判に検察官が立ち会うことを認めると、少年審判の場は、少年を糾問する立場に偏する活動に終始することが避けられず、検察官の追及によって少年の心が閉ざされ、ひいては少年審判の教育的・福祉的機能が損なわれてしまう危険性は極めて大きいといわざるを得ない。
さらに、検察官に抗告権を付与することは、少年を長期間にわたって不安定な地位に置くことになるし、観護措置期間の延長を認めることは、家裁送致前の23日間の逮捕・勾留期間を併せると、学校の1学期を超える程の長期の身柄拘束が生じることになり、退学や解雇を余儀なくされるなどして、少年の社会復帰に重大な妨げとなる。
このように、「改正」案は非行少年にとって再出発の場となるべき少年審判の意義をないがしろにするものである。
 私たちは、保護主義の理念に基づく現行少年法が敗戦直後の少年非行の激増と凶悪化に対応するために制定され、その後も十分その機能を果たしていることを忘れてはならない。犯罪白書によると、たとえば少年の殺人事件の数は、昭和50年頃より100件前後で推移しており、特に増加している事実はない。しかも、ピーク時の昭和36年の4分の1にも達していないのである。
 特に、兵庫県においては、須磨小学生殺傷事件などの重大な非行事件が続いたため、少年非行の防止の問題について強い関心が寄せられているが、21世紀を担う少年たちの将来に大きな影響を及ぼす少年法のあり方については、教育関係者、児童福祉関係者をはじめ、市民による十分な議論が尽くされなければならないと考える。
 私たちは、子供たちの健やかな成長を願う者として、十分な議論が尽くされないまま提出された「改正」案に強く反対するものである。

住民基本台帳法改正案に対する会長声明
1999年(平成11年)7月30日
兵庫県弁護士会 会長 丹治 初彦
去る6月15日、衆議院本会議において、住民基本台帳法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という)が可決され、現在参議院において審議されている。
 改正法案では、すべての国民一人ずつの住民票に「住民票コード」と呼ばれる10桁のコード番号を付し、氏名、住所、性別、生年月日の4情報とともに市町村の電子計算機に登録し、電気通信回線を通じて指定情報処理機関が一括管理するとされている。
しかしながら、改正法案には、憲法上の権利である国民のプライバシー権保護の観点から重大な疑義があると言わざるを得ない。
まず第1に、コード番号の利用範囲が、上記4情報に限定される保障がないことである。改正法案は、本来の目的以外での利用をしてはならない旨規定するのみで、提供目的違反に対する罰則規定もない。政府はすでに税務、医療、教育、社会保障・福祉、家族、犯罪情報などの多様な個人情報を保有しており、これらの情報がコード番号と結合される可能性が極めて高い。もし、それらの個人情報がコード番号と結合された場合には、国民総背番号制に道をひらくものであり、国家による個人情報の集中管理が行われることになる危険性をはらんでいる。
 第2に、改正法案は、情報漏洩を防ぐ安全確保措置の徹底、情報を漏洩した公務員に対する罰則ならびに情報の目的外使用の禁止について定めているものの、これだけではプライバシー権の保護として極めて不十分なことである。例えば、現行の行政機関の保有する電子計算機処理にかかる個人情報の保護に関する法律では、処理情報の開示請求権を認め、開示請求による書面開示を原則として義務づけているが、開示請求対象外事項と不開示事項を広範に認めることで、個人情報の保護が実質的に形骸化している。また、情報の目的外利用について、個人の中止請求権も認められていない。
 改正法案においても、個人情報の訂正について、訂正の申出及び再調査の申出ができるだけであって、訂正請求権を認めていない。従って、どのように訂正されるのかは、保有機関の判断にゆだねられることになり、情報が間違っていても適正に訂正することができない。
このように改正法案には、憲法13条が保証するプライバシーを侵害するさまざまの問題があり、参議院において慎重で踏み込んだ審議が行われることを強く求めるものである。

仙台地方裁判所・寺西和史判事補に対する懲戒処分決定に関する会長声明
1998年(平成10年)8月18日
神戸弁護士会 会長 小越 芳保
平成10年7月24日、仙台高等裁判所は仙台地方裁判所の寺西和史判事補に対する分限裁判において、戒告処分を決定した。
 決定の理由は、本年4月18日東京で開催されたいわゆる組織的犯罪対策三法案に反対する集会において、現職の裁判官であるとの紹介をうけたうえ、「集会でパネリストとして話すつもりだったが、地裁所長に『処分する』と言われた。法案に反対することは禁止されていないと思う。」旨の発言をし、言外に右法案に反対する意思を明らかにして同法案に反対する運動を盛り上げたことが、裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」に該当するというものである。
しかし、裁判官といえども裁判官である前に国民の一人として、言論・表現の自由が保障されねばならないことは当然であり、現に国会で審議中の法案について意見を表明したり、集会等で見解を述べることは、市民的自由の範囲内であって、裁判所法52条1号にいう「積極的な政治運動」には該当しないというべきである。まして明確に法案に対する意見を表明してもいないのに、「言外に」法案反対の意思を表明したという程度の行為をとらえ、積極的な政治運動に該当すると認定するのは、明らかに同条の文言解釈を越える不当な解釈といわねばならない。
これまで「積極的に政治運動をすること」を理由に懲戒処分された例はなく、今回の分限裁判は、裁判官の憲法上保障された市民的自由がいかに確保されるべきか、裁判官はいかにあるべきかを問う極めて重大な影響を生ずる裁判であり、それだけに憲法と裁判所法に関する論議を尽くす必要がある。
 当会は、本年5月27日、本件懲戒の申立がなされたことについて、寺西判事補の本発言が「積極的政治活動」として懲戒申立の対象とされることは、裁判官の自由な意見表明を封ずることになることに鑑み、仙台地方裁判所による懲戒申立は極めて遺憾であることを表明するとともに、事案の重大性と問題性に鑑み、分限手続においては寺西裁判官から十分な弁明意見を聴取し憲法に照らした慎重なかつ歴史の批判に耐える適正な判断を強く望むものである旨の会長声明を出したが、今回の決定内容及びその経過を見るとき、今回の分限裁判は極めて短期間のうちにしかも同判事補からの十分な弁明と反論がなされないまま結論を導いたきらいは否めず、憲法的論議が尽くされたとは到底言えない。
 今日、司法制度を改革し、市民の信頼に足る司法を実現するために、裁判官に対する統制を排除し、裁判官の市民としての自由の保障を確立することが急務であるところ、同分限裁判が裁判官に対する一層の統制と萎縮に繋がることを深く危惧する。
 当会は、ここに今回の懲戒処分決定に対して、重大な疑念を表明するとともに、上級審においては論議を尽くし、裁判官の市民的自由について国民の納得できる判断がなされることを期待するものである。

弁護士自治・弁護士の法律事務独占・厳格な法曹資格制度を否定しようとする動きに強く反対する決議
1998年(平成10年)6月12日
神戸弁護士会
1.自民党司法制度特別調査会は、1997年11月11日、「司法制度改革の基本的な方針(案)-透明なルールと自己責任の社会へ向けて-」(以下、「方針(案)」という。)を発表した。この方針(案)には、我々の方針と一致するものもあるが、一方きわめて重大な問題点が数多く含まれているのであり、その中から特に重要だと思われる論点を掲げれば、以下のとおりである。
 第一に、弁護士自治を否定し、「弁護士の懲戒について外部機関による審査方式を導入すること」等を検討している。
 第二に、弁護士の法律事務独占を否定し、「司法書士等の隣接資格者の法律事務への参入」等を検討するとしている。
 第三に、法曹資格について、「司法試験あるいは司法修習を経ていない者に対する法曹資格の付与」を検討するとしている。
2.弁護士自治は、弁護士の懲戒権が戦前は司法大臣にゆだねられていたことに対する反省から、戦後における司法の民主化の一環として導入された。戦前、弁護士自治が否定され、弁護士に対する懲戒、監督権を司法省が行使していた制度の下で、如何に国民の権利が侵害されたかは、歴史の教えるところであって、弁護士自治は、国民のために認められている制度なのである。
 弁護士自治が認められる根拠には、弁護士・弁護士会に課せられた人権擁護活動と社会正義の実現、社会秩序維持・法律制度改善努力の義務(弁護士法1条)にその本質部分をみることができる。行政や他の諸権力から独立を 保障されたものであってこそ、上記の立場からの活動、研究、意見発表をよく行うことができる。弁護士自治こそ、弁護士が弁護活動、その他の人権擁護活動の使命を果たすための担保であり、源泉の位置にある。
3.弁護士の法律事務独占は国民に良質な法的サービスを提供するために必要なものとして制度化されているものである。弁護士は国家試験と司法修習制度によって専門知識と専門的技法の習得を求められ、またその業務の遂行にあたっては高度な職業倫理の遵守を要求されている。これに対して誰でもが自由に他人の法律事務を扱うことができるようになれば、弁護士でない者の行う法律事務によって多くの国民が権利を侵害され、あるいは様々な被害を被ることになる。借地借家、交通事故、消費者被害、相続等の法律問題が絶えることなく発生している状況に鑑みれば、こうした事態を招くことは不可避である。現在においても弁護士の法律事務独占の意義は少しも減少しておらず、我々はこれを見直すことには反対である。
4.司法試験及び司法修習を経た者にのみ法曹資格を付与することを原則としている現行制度も国民の権利を守り、国民に良質な法的サービスを提供するために必要なものとして制度化されているものである。
 法律事務の取扱は、その処理如何によって依頼者の生命・身体・財産に重大な影響を及ぼすだけでなく、国の法秩序を害することにもなる。そこで、法律事務を一定の資格を持った者に限って行うことを認めるとともに、資格取得に高度な専門的知識と専門的技能の習得のために、司法試験と司法修習を法曹資格取得の要件としたのである。
 弁護士法第5条の各号に掲げる者には、司法試験・司法修習を経ていなくても法曹資格が付与されているが、1号及び3号は、これらの職にあった者は司法試験合格に匹敵するだけの幅広い専門的法律知識を有するものとの考え方に立ち、2号はこれらの職のあった者はその職務経験が司法修習と同価値であるとの考え方に立って、例外的に司法試験・司法修習を経ない者に法 曹資格を付与したものである。
 厳格な法曹資格制度を維持することが国民の権利を守ることになるのであるから、現在の弁護士法第5条を改正して司法試験・司法修習を経ていない者に対する法曹資格の付与を拡大するべきではない。
5.自民党司法制度特別調査会の方針(案)における弁護士自治・弁護士の法律事務独占・厳格な法曹資格制度を根底から否定しようとするこれらの動きは、これまで国民の人権擁護に資する役割を果たしてきた現行司法制度及び弁護士制度の民主的な要素を奪い去ろうとするものであり、断じて容認することはできない。いまや、司法と弁護士制度は、未曾有の危機を迎えていると言わなければならない。
 我々は、この危機を克服するために、現在の司法制度と弁護士制度が国民の利益を擁護する上で果たしている重要な役割について、国民の理解がさらに得られるように努力する。そして、国民とともに、弁護士自治・弁護士の法律事務独占・厳格な法曹資格制度の破壊を許さないため、全力をあげて奮闘する。
上記のとおり決議する。

(須磨少年事件に関連して)株式会社講談社に対する申入書
1998年(平成10年)5月27日
株式会社 講談社 御中
神戸弁護士会 会長 小越 芳保
申入書
貴社は5月25日発売の「週刊現代」(6月6日号)において、神戸小学生連続殺傷事件の精神鑑定書なるものを入手したとして、これを掲載して発売されたことは、誠に遺憾であります。
この行為は、鑑定書が真実であると否とに関わらず少年法の趣旨に反するものであり、少年の矯正とりわけ社会復帰後に著しい影響が懸念されるばかりか、被害者感情にも重大な影響を及ぼすものと考えられ、人権尊重の理念に反するものです。この記事を掲載して社会的病理に対峙することよりも、より人権が尊重されるべきです。
よって、貴社におかれましては、今後このような記事の掲載については差し控えるべく、より慎重に対応されたく申し入れいたします。

(須磨少年事件に関連して)株式会社新潮社に対する申入書
1998年(平成10年)3月10日
株式会社 新潮社 御中
神戸弁護士会 会長 間瀬 俊道
申入書
 貴社は、3月4日発売の「FOCUS」誌において、昨年神戸市内で発生した小学生殺傷事件に関し、この事件で保護処分を受けた少年が書いたとされる犯行ノートや作文などの写真を掲載しております。
 貴社の今回のこのような掲載は、現行少年法の精神に反するものと言うだけではなく、被害者やその遺族らのプライバシーを侵害するものとして到底許されるものではありません。
 少年法は、少年審判手続を非公開と定めておりますが、これは少年の成長発達する力に着目して少年の立ち直りを援助しようとするものであり、このことから少年の成長発達に影響を与えるような報道を厳しく制限しているものです。少年法の精神からすれば、この少年審判非公開の原則は、単に捜査手続や審判過程にとどまるものではなく、処遇時においてもまた処遇終了後においても貫かれなければならないものです。したがって、法治社会におけるメディアとしても少年の更生に影響を与えるような報道は厳に慎まなければなりません。今回「FOCUS」誌に掲載された犯行ノートや作文などは、少年審判手続において資料となったものとされ、本来ならば公表されるはずのないものであるばかりか、その入手経過についても同誌編集部に郵送され、その送り主も意図も不明のままであるとされております。このような資料を少年法の精神に背馳してあえて掲載することは、社会的責任を負うべき言論機関として許されないものと言うほかありません。
 当会は、昨年7月以降、神戸市須磨区の少年事件や堺市内で発生した幼児殺害事件に関して、貴社の少年法を軽視する人権侵害報道に対して、再三にわたり抗議の意を表明してきました。
しかるに、このたび、少年法をないがしろにするだけでなく、被害者やその家族のプライバシーを踏みにじるような報道を繰り返したことは誠に遺憾であり、あらためて厳重に抗議するとともに、このような報道を繰り返すことのないように強く要請するものです。

(須磨少年事件に関連して)株式会社文藝春秋に対する申入書
平成10年2月12日
東京都千代田区紀尾井町三-二三
株式会社 文藝春秋 御中
神戸市中央区橘通一丁目四番三号
神戸弁護士会
会長 間瀬 俊道
申入書
貴社は、二月一〇日発売の文藝春秋三月号において、神戸小学生殺傷事件に関し神戸家庭裁判所において保護処分を受けた少年の検察官調書を七通入手したとして、そのほぼ全文を掲載し同誌を販売されましたが、以下に述べるとおり、右記事の掲載及び販売は国民の知る権利又は報道の自由に名を借りた暴挙としか考えられず、当会は貴社に対し、右掲載に対し抗議を行うとともに速やかに同誌を回収するよう強く求めるものです。
 貴社もご承知のとおり、少年法は、審判を非公開とし、また少年の特定可能な情報の報道を禁じています。これは少年のプライバシーを厚く保護して少年の更生及び社会復帰を期すためです。少年法は、環境的要因の大きい少年非行の特性そして少年特有の可塑性などに着目して、家庭裁判所に対し教育的福祉的機能を付与しましたが、それが充分に機能するためには審判の非公開等は不可欠の前提と考えられ、原則として何人に対してもこれの逸脱を禁止しているものです。
このように少年法は、本来報道の自由を抑制しても少年のプライバシーや人権を保護しようとする趣旨によって制定されているものです。貴社の今回の調書掲載においては、この点の理解が欠如しているとしか考えられません。
 同誌の「編集部から」によれば「・・・少年法の精神に配慮しつつ、それよりもなお、言論の自由、国民の知る権利の価値を重くみたいと思う」と述べておられますが、この見解には到底承服できません。国民の知る権利は、憲法の基本原則の一つである国民主権と関係の深い権利であり、この国民主権の具体化として国民が有する参政権の適正な行使を支える権利として位置づけられております。従って、国民の知る権利は主として、国政に関する情報に向けられ、そうした知る権利に奉仕するものとして、報道の自由が位置づけられているのです。この度掲載された記事は、むしろ、私人、しかも、少年及び被害者の児童などに関する情報(プライバシー)であり、国民の知る権利や報道の自由を根拠として直ちには正当化できるような性質のものではありません。
このプライバシーに関する権利は、憲法一三条(個人の尊厳、幸福追求権)等に根拠づけられる国民の最も基本的な権利の一つです。すなわち、この権利は国民全てが等しく享有する権利であり、例え、非行を侵した少年或いは刑事被告人であろうとこの権利の主体です。
 報道機関は表現の自由としての報道の自由を有しておりますが、決して無制限ではありません。他の憲法上の権利との調和の上でその行使が保障されているのであり、その不当な行使によって他の人権を侵害することまでを許容したものではありません。
 貴社は、正当化の根拠として事件の真相解明による犯罪抑止等を指摘されておられますが、あまりに抽象的であり、また、掲載された調書の公表が同種犯罪の抑止につながるとは到底考えられません。憲法は決してこのような抽象的な理由による基本的人権の侵害を是認することはないと考えます。
 今回の貴社の掲載・販売行為は、少年法の趣旨を逸脱するということだけではなく、少年あるいは被害者らのプライバシーという憲法上の基本的な権利をも侵害するものです。
さらに、今回の記事は、事件によって痛ましい被害を受けた被害者及びその遺族らの心情には何ら配慮することなく、むしろ、これを蔑ろにするものであることをも特に指摘しておきます。
 被害者の方々が事件の真相を知りたいという思いを持たれることが当然だとしても、今回のごとく調書の公表などという方法によっては、具体的な殺傷状況などが一般大衆の目に哂されることになり、被害者らの心情をより一層深く傷つけることになり、極めて不当であるというほかありません。
 同誌上に検察官作成の供述調書を公表するという行為は、国民の司法に対する信頼に重大な悪影響を与えかねないものでもあります。少年事件のみならず成人の刑事事件においても、易々と供述調書が一般の目に哂されるということになれば、国民の司法に対する信頼が大きく揺らぐことは明らかです。本来、供述調書をそのまま外部の者に手渡す行為は守秘義務に違反し、刑罰をもって制裁される性質の行為です。今回、このような刑罰をもってその漏洩を禁じている調書をもとに、これをほぼそのまま公表した貴社の行為も刑事司法全般に対する信頼をそこなう非見識な行為というほかないと考えます。
 以上、今回の貴社の掲載・販売行為は、人権上もまた司法に対する信頼、特に少年審判手続に対する信頼を損なうものとして、到底許されない行為であり、当会としてもこれを看過できません。よって、当会としては、右の如く貴社に対する抗議の意を表明するとともに、速やかに同誌の回収に努めるよう申し入れるものです。

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