平成27年02月21日 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化並びに捜査・公判協力型協議・合意制度の法制化に反対する決議
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法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会は,2014年(平成26年)7月9日,「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」を決定した。この答申案は,同年9月18日開催の法制審議会第173回会議において全会一致で採択された上,法務大臣に答申された(以下,「本答申」という。)。本答申は,法案化され,2015年(平成27年)通常国会に上程される可能性が高い。本答申に示された通信傍受(盗聴)の対象拡大及び手続簡略化並びに捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)の法制化については重大な問題がある。通信傍受(盗聴)は,捜査対象物が特定されず事前の通知もされない点で憲法の定める令状主義に違反するおそれが強い上,通信の秘密やプライバシー権を侵害する捜査手法であることから,現行法においては極めて厳格な要件のもとでのみ認められてきたものである。具体的には,組織的な重大犯罪のみを対象とし,かつ捜査機関の違法または濫用的な捜査を防止するために通信事業者の立会が要件とされていたのである。ところが,本答申は,通信傍受の対象を,傷害・窃盗・詐欺・恐喝等の一般的な犯罪にまで拡大することとし,さらに通信傍受を行う際の通信事業者による立会を不要とする手続簡略化を行うこととしている。これは,憲法に違反する疑いが極めて強い法改正であり許されない。また,本答申には,一定の犯罪(経済犯罪など)について他人の犯罪事実を申告した者に対して不起訴処分等の利益を与える捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)の導入が示されている。しかし,この制度は「引っ張り込み(自己に有利な結果を得るために他人の罪をねつ造し,無実の他人を陥れること)」の危険を大幅に高め,それによる誤判・えん罪を増加させるものである。本答申の案を作成した法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会は,元々は足利事件や村木事件(厚生労働省郵便不正事件)など近年明らかになった誤判・えん罪事件を受けて,捜査機関の自白強要や証拠ねつ造など違法な捜査を防止し,取調べの適正化等を目指すべく設置された部会であったはずである。にもかかわらず,取調べの可視化や証拠開示がごく限定的にしか行われず,かえって上記のような,憲法違反の通信傍受法改正,誤判・えん罪の危険をかえって高める捜査・公判協力型協議・合意制度の導入が示された答申がなされたことは誠に遺憾である。当会は,通信傍受の対象犯罪拡大及び手続簡略化並びに捜査・公判協力型協議・合意制度の法制化について断固反対し,被疑者・被告人の権利保障を実質化するような刑事司法の実現に向けて邁進する所存である。以上のとおり決議する。
2015年(平成27年)2月21日 仙台弁護士会 会長 齋藤拓生
提案理由
第1 法制化への流れ
1 法制審議会特別部会設置の経緯
志布志事件,氷見事件,足利事件,村木事件(厚生労働省郵便不正事件),布川事件等の,えん罪事件や捜査機関の一連の不祥事を契機として,捜査の在り方等に対する大幅な見直しの必要性に注目が集まるようになった。2010年(平成22年)法務省に設置された「検察の在り方検討会議」は,2011年(平成23年)3月31日,「検察の再生に向けて」と題する提言を発表した。同提言は,「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し,制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため,直ちに,国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映しつつ十分な検討を行う場を設け,検討を開始するべきである」と結論づけた。法務大臣は,同提言を受け,2011年(平成23年)5月18日,法制審議会に対して「近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について,御意見を承りたい。」とする諮問第92号を発した。同諮問を受け,法制審議会は,2011年(平成23年)6月6日に開催された法制審議会第165回会議において,同諮問について調査・審議するための「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という。)の設置を決定した。
2 特別部会による基本構想の内容
特別部会は,設置以来約1年半の審議期間を経て,2013年(平成25年)1月29日の第19回会議において,「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」を発表した。それは,従来の取調べ依存型捜査には「ひずみ」が生じているので,捜査の適正確保という観点で「ひずみ」を修正する必要があるとする趣旨のものであり,言い換えれば,取調べ依存型捜査の抜本的な見直しについては消極的な内容のものであった。また,取調べの可視化等のほかに「通信傍受の拡大・会話傍受」「刑の減免制度・協議・合意制度及び刑事免責制度」を盛り込んだ。取調べの可視化により供述を獲得することが困難となることを理由に,人権侵害の危険の増大を考慮せずに,捜査機関の証拠収集をより容易にするかのような姿勢までをも示していた点で,きわめて問題の多い内容であった。
3 特別部会の事務当局試案
特別部会の審議において前記基本構想の問題点は殆ど修正されることはなく,2014年(平成26年)4月30日に事務当局試案が取りまとめられた。「基本構想」の段階から改善されたことは,会話傍受制度及び被告人を証人とする制度の導入が示されなかったことである。もっとも,被告人の虚偽供述禁止規定を新設することは示されていた。
4 法制審議会の答申
2014年(平成26年)7月19日,特別部会において「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」(答申案)が取りまとめられた。前記の事務当局試案から改善されたことは,被告人の虚偽供述禁止規定の導入が見送られたということくらいであった。答申案は2014年(平成26年)9月18日開催の法制審議会第173回会議において全会一致で採択された上,法務大臣に答申された(以下,「本答申」という。)。
5 法制化の危険
本答申に至る経緯は上記のとおりである。「基本構想」の段階で指摘されていた問題点,すなわち,かえって捜査機関の権限が不当に拡大され,より多くの誤判・えん罪事件及び人権侵害が発生しうるという問題点については,何ら改善されていない。本答申は法案化され,早ければ2015年(平成27年)の通常国会に上程される可能性が高い。
第2 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化について
1 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化の内容
本答申には,「通信傍受の合理化・効率化」として,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下,「通信傍受法」という)の適用対象を,現住建造物放火,殺人,傷害,逮捕・監禁,略取・誘拐,窃盗,強盗,詐欺,恐喝等にまで拡大し,さらに現行の通信傍受法が通信傍受時における通信事業者の立会いを要件として規定している点を簡略化し,捜査機関が通信事業者の立会いなくして通信を傍受できる制度が示されている。
2 通信傍受それ自体に憲法違反の問題があること
現行の通信傍受法が定める通信傍受それ自体が,憲法が国民に保障する通信の自由,思想の自由,言論の自由,結社の自由,プライバシー権等の基本的人権を侵害する「盗聴」であり,かつ,通常の捜査とは異なり,事前に捜査の対象者・対象物を特定した令状が呈示されない点で憲法第35条が定める令状主義に違反している疑いが強いものである。
3 対象犯罪の拡大の問題点
通信傍受については前記の問題があるため,通信傍受法制定前の最高裁判所1999年(平成11年)12月16日判決は,通信傍受について「重大犯罪に限り」例外的に許される捜査手法であると位置づけている。2000年(平成12年)の通信傍受法制定の際にも,通信傍受自体に問題があるという反対意見が多く,そのために一部の組織的重大犯罪に限定して,補充的に,通信事業者の監視の下で行われる捜査手法にとなったのである。そのような通信傍受について,対象犯罪を現行法よりも広く拡大することは憲法違反となる疑いが強く,許されるものではない。通信傍受捜査が物証(メモ等)よりも直接的に情報そのものを取得する捜査手法であることに鑑みれば,現行通信傍受法第3条の「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」との要件(補充性の要件)も今後緩やかに解釈される可能性は否定できず,補充性の要件があるとしても,通信傍受について,不当な人権侵害の危険はないとすることはできない。また,本答申に示された組織性要件(「当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があるときに限る」)であるが,その文言は,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の「団体」の定義における「組織」要件(「指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体」)の文言とは異なっており,抽象的な要件であって,広範な解釈の余地を残す。事前共謀が存在することが疑われる事例のほぼ全てにおいて通信傍受が可能となる結果すら招来しかねないものであり,違法不当な人権侵害を防ぐための要件としては極めて不十分である。
4 手続簡略化の問題点
通信傍受時の通信事業者の立会は,違憲の疑いが強い通信傍受について,不十分ながらも捜査機関による通信傍受の濫用を防止し,捜査の適正さを担保するための制度である。傍受時の通信事業者の立会を不要とするならば,通信傍受制度が憲法違反となる疑いがきわめて強い。本答申は通信事業者の代替として,対象となる通信を,裁判所職員が発行する電子鍵により暗号化する制度を示しているが,これは単なるデータ開封用のパスワードに類するものであり,通信事業者の代替として捜査機関に対する監視・抑制の機能を果たし得るものではない。通信事業者の立会を不要とする法改正もまた許されない。
5 通信傍受制度の存在自体が各種人権に対する萎縮効果を与え得ること
通信傍受の対象を拡大し,手続を簡略化すれば,刑事訴訟手続の領域外にも深刻な結果を招来しうる。国民は,自分の知らないところで捜査機関による通信傍受を受け,通信の秘密やプライバシー権を侵されるかもしれないという状況下に常に置かれることになるので,少しでも捜査機関からの監視対象となりそうな個人や団体とは通信をしない,或いは,捜査機関に目を付けられそうな言動や表現はしないという行動を選択する,すなわち,憲法で保障されている各種人権の行使に対して抑制的になることを強いられる可能性が高い。このように,通信傍受の拡大及び手続簡略化は,刑事被疑者・被告人の人権擁護との関係でのみ問題となるのではなく,表現の自由,知る権利,結社の自由等の各種人権の行使に対して萎縮効果をもたらしかねないものであり,憲法上の大きな問題がある。
6 小括
通信傍受の対象拡大及び手続簡略化は,憲法で保障された通信の秘密,プライバシー権を侵害し,さらに国民の各種人権に対する萎縮効果をもたらしかねないものであり,決して許されるものではない。
第3 捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)
1 捜査・公判協力型協議・合意制度の内容
本答申が示す捜査・公判協力型協議・合意制度(以下,「協議・合意制度」という)は,検察官が,特定犯罪について,必要と認めるとき,被疑者又は被告人との間で,被疑者又は被告人が他人の犯罪事実を明らかにするため「真実の供述」その他の行為をすることと引き換えに,当該被疑者・被告人の被疑事件又は被告事件について不起訴処分,特定の求刑その他の行為をする旨を合意できるものとする制度である。自己の犯罪事実の申告を有利に取り扱うものではないが,捜査機関の捜査に協力する見返りとして自己の刑事事件について便宜を受けることを可能とするものであり,司法取引制度の一種である。
2 新たな虚偽自白とそれによるえん罪が生まれる危険が非常に高い協議・合意制度の法制化は,虚偽の供述を誘引するおそれがあり,かえって新たなえん罪を生み出す危険性が高い。そもそも共犯者供述については,「引っ張り込み(自己に有利な結果を得るために他人の罪をねつ造し,無実の他人を陥れること)」の危険があり,虚偽供述が生み出されるおそれの大きいことが,以前から指摘されてきた。協議・合意制度は,不起訴など誘引力の強い約束によって,共犯者による「引っ張り込み」を助長するものであり,本質的に,虚偽の供述を生み出す危険性を内在するものである。しかるに,同制度においては,被疑者又は被告人によって虚偽の供述がなされる危険を防止するための対策は十分に検討されていない。協議・合意制度に賛成する立場からは,協議・合意の過程に弁護人が関与するので供述の真実性が担保されるかのような意見が述べられている。しかし,関与が想定されているのは,協議・合意を利用しようとする側の被疑者・被告人の弁護人であり,引っ張り込みの危険にさらされる側の弁護人ではない。また,協議・合意を利用しようとする側の弁護人においても,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を申告しようとしたときに,被疑者・被告人の利益と,引っ張り込みの危険,ひいては誤判・えん罪を生み出す危険とをどのように判断するのか,困難な問題が生じる。このように,弁護人が関与したからといって制度に内在する問題点が解消されるわけではない。本答申は,合意の当事者である被疑者又は被告人が虚偽供述等をした場合,当該行為を処罰の対象とすることで真実性の担保となると考えているようであるが,問題は虚偽の供述により誤判・えん罪その他不当逮捕等の人権侵害が生まれることであり,供述者に事後的な不利益を課すことによっては,虚偽供述の発生を未然に防ぐことは困難である。処罰では真実性の担保たり得ない。そればかりか,かかる制度設計のもとでは,合意により一旦虚偽の供述をした被疑者または被告人が,良心の呵責により翻意して真実の供述をしたいと考えても,処罰をおそれて,もはや後戻りをすることができなくなるといった事態が生じ得るので,この点でも問題が大きい。
3 小括
協議・合意制度の法制化には,重大な問題がある。その法制化は捜査機関の捜査権限をいたずらに拡大するものでしかない。協議・合意制度は,誤判・えん罪の防止にとって有益でないばかりか,有害である。
第4 結論
当会は,本答申の答申案を取りまとめた法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の審議が,取調べの適正化という本来の目的から外れて,かえって捜査権限を強化する内容となりつつあることを問題視し,2013年(平成25年)11月14日に「法制審議会新時代の刑事司法特別部会に対する意見書」を,2014年(平成26年)5月16日に「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会『事務当局試案』に関する会長声明」を,同年7月23日に「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会における答申案についての会長声明」を発し,特別部会の各段階における基本構想,事務当局試案,答申案の問題点を指摘してきた。東北弁護士会連合会も,2014年(平成26年)5月10日に「『通信傍受の合理化・効率化』に反対する会長声明」を,同年6月7日には「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会『事務当局試案』に関する会長声明」を発し,通信傍受の対象拡大・手続簡略化等に反対の意思を表明している。同様の指摘は,各地の弁護士会や有識者等からも数多くなされている。しかし,本答申の内容は,本来の目指したはずの取調べの可視化については,裁判員裁判対象事件の取調べに加えて検察独自捜査事件における検察官取調べという極めて狭い範囲の可視化に限定されている。そして,証拠開示も証拠の詳細が示されない一覧表の交付に留まり,被告人の権利保障の実質化という見地からは不十分と言わざるを得ないものになっている。他方,通信傍受の対象拡大及び手続簡略化や捜査・公判協力型協議・合意制度の導入など捜査権限を強化するものとなっており,基本的人権の擁護という見地から許されない内容となっている。当会は,通信傍受の対象犯罪拡大及び手続簡略化,並びに,捜査・公判協力型協議・合意制度の法制化について断固反対し,取調べの全過程の全面可視化,全面的証拠開示制度の導入など,被告人の権利保障を実質化するための刑事司法の実現に向けて邁進する所存である。以上
平成26年08月19日 「特定秘密の保護に関する法律施行令(案)」に対する意見書
ttp://senben.org/archives/5493
2014年(平成26年)8月19日
内閣官房特定秘密保護法施行準備室「意見募集」係 御中
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
仙台市青葉区一番町2丁目9番18号
電話 022-223-1001
第1 はじめに
特定秘密保護法は,国民の知る権利やプライバシー権等の人権を侵害し,国民主権にも抵触する重大な問題をはらんでいる。したがって,同法は廃止されるべきであり,少なくとも抜本的な見直しがないままの施行は許されない。そして,法律自体に憲法上の問題がある以上,それに基づく施行令も制定されるべきではない。また,この点を置くとしても,2014年7月24日付けで,内閣官房特定秘密保護法施行準備室において公表され,意見募集がなされている「特定秘密保護法に関する法律施行令(案)」(以下「施行令案」という。)にも看過し難い問題があるため,以下のとおり意見を述べる。
第2 意見
1 総論
そもそも法律で定めるべき重要事項を政令及び運用基準において定めているという法形式自体に問題がある。政令及び運用基準は,法律の委任を受けて政府が定めるとされているが,白紙委任に等しい項目もあり,国民の権利義務に直結する重要事項は法律で定めるべきとの原則に照らしても問題がある。また,政令や運用基準が,法律と異なり,国会の議論を経ることなく改廃できる点においても大きな不安が残る。
2 施行令案第3条第1号(法第3条第1項ただし書の政令で定める行政機関の長)について
(1)意見
法務省及び金融庁を施行令案第3条第1号に加えるべきである。
(2)理由
2012年12月31日時点で法務省が保有していた特別管理秘密文書等の件数は,0件であった(平成25年3月12日衆議院議員赤嶺政賢君提出 特別管理秘密及び秘密取扱者適格性確認制度に関する質問に対する答弁書)。したがって,法務省については特定秘密の指定機関に加える必要性がない。同様に,2012年12月31日時点で金融庁が保有していた特別管理秘密文書等の件数は,49件に過ぎず(同上),特定秘密の指定機関に加える必要性は乏しい。また,同庁が国家の安全保障に関する情報を取り扱っているとも考えがたい。
3 施行令案第3条第2号(法第3条第1項ただし書の政令で定める行政機関の長)について
(1)意見
原子力規制委員会を施行令案第3条第2号に加えるべきである。
(2)理由
原子力規制委員会は,国民の生命・健康の安全に重大な影響を及ぼす原子力発電に関する情報を扱っている。同委員会が特定秘密の指定機関となり,これらの情報を特定秘密に指定できるようになると,これらの情報にアクセスしようとする取材活動までもが刑事罰の対象になりかねず,国民が知るべき情報を入手できなくなってしまうおそれがある。公開するのが好ましくない情報については情報公開法の不開示情報該当性の問題として扱うことで十分であり,情報漏えい策としては公文書管理システムの適正化を徹底することで対応できる(日弁連2013年10月23日付け「秘密保護法制定に反対し,情報管理システムの適正化及び更なる情報公開に向けた法改正を求める意見書」参照)。
4 特定秘密保護法第4条第4項第7号について
(1)意見
施行令案には,特定秘密保護法第4条第4項第7号の政令で定める情報が規定されていないが,今後も規定すべきではない。また,法第4条第4項第7号は削除すべきである。
(2)理由
特定秘密保護法第4条第4項第7号は,同項第1号ないし第6号以外の情報でも政令で定めることができるとしている。しかし,これでは60年を超えて秘密指定できる情報の範囲が無限定に広がりかねない。したがって,今後も同号に基づき政令で定める情報を規定すべきではない。
また,そもそも同号のように政令に白紙委任するような規定は国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではないから,このような規定は削除すべきである。
5 施行令案第12条(行政機関の長による特定秘密の保護措置)について
(1)意見
特定秘密の保護措置は,政令や運用基準に委ねるのではなく特定秘密保護法で明記すべきである。また,施行令案第12条第1項第10号は特定秘密の漏えいのおそれがある緊急事態に際して特定秘密文書等の廃棄を定めているが,これは法律の委任の範囲を逸脱するものであるから削除すべきである。
(2)理由
特定秘密の保護措置は,特定秘密の保護を目的とする法律の中心的な事項であるから,本来法律で明記すべき事項である。にもかかわらず,政令や運用基準に委ねることは,国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではない。また,施行令案第12条は特定秘密保護法第5条第1項に基づくものであるところ,同項では政令への委任の範囲として特定秘密文書等の廃棄にまでは言及していない。にもかかわらず,政令で廃棄を規定することは法律による委任の範囲を逸脱するものである。
6 施行令案第21条(評価対象者に対する告知等)について
(1)意見
書面による告知及び同意は,包括的なものになるおそれがあり適切ではない。
(2)理由
施行令案第21条は,評価対象者に対する告知及び同意は「書面により行う」としている。しかし,同意書は適性評価の調査実施前に取り付けることとされているところ,運用基準案で示されている同意書の内容は包括的なものであり,具体性に欠ける。これではどのような事項について,どのような調査(調査のためにどこに照会するのか,どのような内容の調査をするのか等)が具体的に分からないまま同意書提出を余儀なくされてしまいかねず,プライバシー保護としては不適切である。以 上