平成26年02月06日 少年法改正法案に強く反対する会長声明
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1 平成26年1月24日召集された通常国会において,少年法の一部を改正する法案が2月上旬に提出される見込みとなった。この法案は,国選付添人制度の対象事件の範囲を拡大することを内容に含むものではあるが,他方,検察官関与対象事件の範囲も拡大し,かつ,有期刑の上限引き上げをも含んでいる点において,少年法の改悪以外の何ものでもない。
2 少年法は「少年の健全な育成」を目的に掲げ(法1条),保護主義を基本理念とする。すなわち,非行を少年の成育環境や少年期の不安定さ等に起因する成長過程に生じる「歪み」と捉え,少年が自らの抱える問題を克服し成長し得る力と可塑性に依拠し,教育的な措置によりその問題性の解決を援助し,調和のとれた成長を確保するということである。そして,少年が自らの抱える問題を克服し成長していくためには,少年が自らの気持ちを率直に語り,少年と裁判官ら大人との対等な対話の中で,内省を深め,自らの真の問題性に気付き,これを克服する覚悟を決め,問題を解決する方法を探る必要がある。そのため,審判は,もともと表現力,理解力の未熟な少年らが心を開き自由に語れる場でなくてはならず,決して糾問的,弾劾的な場であってはならない(法22条1項参照)。ところが,平成12年の少年法改正により検察官関与制度が創設されたことによって,上記のような少年法の理念は後退を余儀なくされた。少年は,捜査段階で,長期間自由を拘束され,時には一方的な厳しい追及を受け,場合によっては虚偽自白を迫られることもある。そのような捜査機関の一員である検察官が審判にも関与した場合,少年が検察官の前で萎縮し,取調べ段階での供述に縛られ,あるいは検察官への反発から感情的になり,自由に本心を語り自分自身の問題性を深く掘り下げることができなくなるおそれがある。このように重大な問題を孕む検察官関与の対象事件が更に拡大されれば,少年法の保護主義の理念はなし崩し的に骨抜きにされ,取り返しのつかない重大な変容が生じかねず,ひいては,検察官が関与しない審判においてすら,保護主義は忘れ去られ,少年審判が,行為責任を追及する刑事裁判と同質のものとなることが懸念される。そして,このような状況下においては,いくら国選付添人制度が拡大されたとしても、検察官関与拡大による弊害を解消することはできない。少年が,自らの問題性に気づき克服していこうとする姿は,審判を捜査機関の影響から遮断し,懇切かつ和やかな雰囲気の中で,少年の立ち直りを援助する保護主義のもとでこそ実現するものであり,決して付添人弁護士単独の力によってなしえるものではない。したがって,上記法案に国選付添人対象事件の拡大が含まれていることは,上記法案に賛成する理由にはなりえない。
3 さらに,上記法案には,少年法における有期刑の上限引き上げ規定が含まれているが,この点も決して是認できない。少年法が不定期刑を導入し,成人に比べて有期刑の期間を大幅に短縮しているのは,少年の可塑性や,未熟ゆえに成人に比べてその責任が減少すること,情操保護の必要性等,少年の特性を踏まえた理由があるのであり,成人の有期刑の上限が引き上げられたことから直ちに少年の有期刑も上限を引き上げるべきということにはならない。特に少年受刑者は,刑執行開始後3年間は,少年受刑処遇要領の下で処遇するとされているが,その後は成人と同様の処遇になる。このような点からも,長期間の受刑は,少年の社会復帰を著しく困難にする。少年事件は凶悪犯罪を含め,減少傾向にあることが統計上明らかである。このような中で,重大事件を対象に厳罰化しなければならない立法事実は存在しない。ゆえに,少年の刑の厳罰化を図るべき根拠はなく,そもそも,厳罰化は非行の問題を解決することにはつながらず,逆に少年の社会復帰を困難にし,少年の更生を阻害するものであるから,このような観点からも,上記法案は決して容認できないものである。
1 以上のとおり,当会は,少年の刑を厳罰化し、少年法の理念の崩壊という極めて重大な弊害をもたらす上記法案に,強く反対する。
2014年(平成26年)2月6日仙台弁護士会会長内田正之
平成25年12月13日 特定秘密保護法の参議院採決に抗議し同法の廃止を求める会長声明
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12月5日,参議院国家安全保障に関する特別委員会において特定秘密保護法案の採決が強行され,翌6日,本会議において可決され,特定秘密保護法が成立した。当会は,これまで同法案について,①特定秘密の範囲が広範かつ不明確で,恣意的な秘密指定がなされるおそれがあるため,知る権利の保障や国民主権を後退させるものであること,②秘密指定等の適正をチェックする独立した第三者機関が存在しないこと,③処罰範囲も広範かつ不明確であり,罪刑法定主義の観点からも重大な疑義が存し,取材活動にも深刻な萎縮効果をもたらすこと,④国会議員への特定秘密の提供についても行政の裁量の余地が残されており,国会の内閣に対するコントロール機能が後退すること,⑤適性評価制度により国民のプライバシーが侵害されるおそれがあること,などを指摘し,同法案の廃案を求めてきた。国会における審議では,衆議院において法案の修正案が提案されたものの,それらについての十分な審議はなされず,当会が指摘し,多くの国民が懸念している問題点がなんら解消されないままで可決されたものであり,参議院においては,衆議院における審議において検討が不十分であった点についてさらなる審議がなされる必要があった。それにもかかわらず,法案全文が国民に明らかにされた10月25日からわずか1ヶ月余りの短期間で,十分な審議による問題点の解消すらなされずに衆議院に引き続き参議院でも特別委員会において採決を強行し,本会議において同法案を可決したことは,国民主権・民主主義を冒涜するものと言わざるを得ず,当会はその採決に強く抗議する。当会は,国民主権や基本的人権の保障を損なうおそれのある特定秘密保護法の廃止を求める。
2013年(平成25年)12月13日仙台弁護士会会長内田正之
平成25年12月13日 死刑執行に断固抗議し,死刑執行を停止するとともに,死刑に関する情報を広く公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を求める会長声明
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本年12月12日,東京拘置所及び大阪拘置所において,それぞれ1名(計2名)の死刑確定者に対する死刑の執行が行われた。谷垣禎一法務大臣による死刑執行は今回で4度目であり,死刑を執行された者はこの1年間で計8名となった。当会は,これまでも,死刑が罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を内在しているものであること,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものであることから,政府に対し,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行い,その間死刑の執行を停止するよう繰り返し求めてきた。そして,当会は,本年5月22日付けの会長声明において,政府が死刑制度を廃止することが適当ではない理由として挙げている点に関し,第1に,死刑制度に関する情報が国民に周知されていない状況における世論調査は死刑制度を正当化するものとしては説得力に乏しいと言わざるを得ないこと,第2に,我々国民が死刑制度の存廃について十分に議論を尽くし意見を形成するためには死刑制度に関する情報が広く公開されることが必要であること,第3に,死刑の犯罪抑止効果は科学的・統計的に証明されているとは言い難いことを指摘した。そのうえで,死刑の執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始することを要請していた。さらに,当会は,本年9月19日付け会長声明においても,国民への情報公開,国民的議論を尽くさないまま死刑執行を行った政府に対し,抗議したばかりである。そのような中,政府が,前回の執行からわずか3か月後に今回の死刑執行を行ったことについては,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討と見直しの必要性を軽視し,死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を著しく欠いたものと言わざるを得ない。よって,当会は,政府に対し,今回の死刑執行について,断固抗議するとともに,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始するよう改めて要請する。
2013年(平成25年)12月13日仙台弁護士会会長内田正之
平成25年11月29日 特定秘密保護法案の衆議院採決に抗議し、参議院での廃案を求める会長声明
2013年(平成25年)11月29日仙台弁護士会会長 内 田 正 之
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平成26年08月27日 精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに反対する会長声明
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現在、日本には約34万床の精神病床があり、約32万人の患者が入院している。このうち、1年以上の長期入院患者は約20万人、10年以上の入院患者は約6万5000人にのぼる。入院患者数や入院期間は諸外国と比較すると極めて多く、この中には受け入れ条件が整えば退院可能な患者(社会的入院患者)が多数存在する。この現状は、国による精神障害者に対する隔離収容政策が招いた人権侵害である。このような中、2014年(平成26年)7月、厚生労働省の「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」(以下、「検討会」という)において、「病床の適正化により将来的に不必要となった建物設備を有効活用する」として、精神科病院の病棟をグループホーム等の施設(病床転換型居住系施設)に転換することを認める方向性が取りまとめられた。厚生労働省は、今後、方策の具体化に取り組む予定としている。本年1月に日本が批准し、2月に発効した障害者権利条約は、障害のある人が、障害のない人と等しく、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有し、特定の生活施設で生活する義務を負わないこと、地域社会における生活及び地域社会への包容を支援し、地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な地域社会支援サービスを利用する機会の確保を締約国の義務としている。精神科病棟をグループホーム等の居住系施設に転換して入院患者の退院先としても、生活の場は病院の敷地内に留まり、精神障害者を地域社会から分離している現状を存続させることになるのであり、病床転換型居住系施設は、条約が求める「地域社会への包容・共生」に逆行するもので容認できない。検討会では、精神障害者本人の自由意思に基づく選択の自由が担保されること、地域移行に向けたステップとしての支援とし、基本的な利用期間を設けることなどの条件付けを行うとしている。しかし、地域資源が不足している現状では選択の自由を担保する前提に欠けるし、2004年(平成16年)8月の精神保健医療福祉の改革ビジョンにおいて、達成目標として設定されたとおりに精神病床が減少していない経緯を鑑みれば、病床転換型居住系施設も一度整備されれば恒久化してしまい、形だけの地域移行になる危険性が否定できず、真に地域に根差した生活への移行を骨抜きにしてしまうおそれがある。国は、これまでの地域移行に対する取り組みの遅れを反省し、病床転換型居住系施設整備により病床数や長期入院患者を減らすのではなく、地域福祉サービスの充実、地域における住環境整備、地域医療の充実等、地域の受け皿づくりの実現という真の地域移行に直ちに取り組むべきである。当会は、精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに強く反対し、国に対し、障害者権利条約等に従い、精神障害者が退院して地域社会で生活することを保障する施策を図るよう求めるものである。
2014年(平成26年)8月27日仙台弁護士会 会長齋藤拓生
平成26年08月19日 「特定秘密の指定及びその解除並び適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」に対する意見書
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2014年(平成26年)8月19日
内閣官房特定秘密保護法施行準備室「意見募集」係 御中
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
仙台市青葉区一番町2丁目9番18号
電話 022-223-1001
第1 はじめに
特定秘密保護法は,国民の知る権利やプライバシー権等の人権を侵害し,国民主権にも抵触する重大な問題を孕んでいる。したがって,同法は廃止されるべきであり,少なくとも抜本的な見直しがないままの施行は許されない。そして,法律自体に憲法上の問題がある以上,それに基づく運用基準も制定されるべきではない。また,この点を置くとしても,2014年7月24日付けで公表され意見募集がなされている「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」(以下「運用基準案」という。)にも看過し難い問題があるため,以下のとおり意見を述べる。
第2 意見
1 総論
(1)法形式について
そもそも法律で定めるべき重要事項を政令及び運用基準において定めているという法形式自体に問題がある。 政令及び運用基準は,法律の委任を受けて政府が定めるとされているが,白紙委任に等しい項目もあり,国民の権利義務に直結する重要事項は法律で定めるべきとの原則に照らしても問題がある。また,政令や運用基準が,法律と異なり,国会の議論を経ることなく改廃できる点においても大きな不安が残る。
(2)意見の観点
前記第1で述べたとおり,当会は,特定秘密保護法は廃止されるべきと考えるが,本意見書では運用基準案について,①特定秘密保護法の濫用的な運用を抑制できないこと,②特定秘密保護法の委任の範囲外の事項を定めていること,③特定秘密保護法の問題点がより一層明らかになったこと,の観点から意見を述べる。
2 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「1 策定の趣旨」について
(1)意見
特定秘密の指定の範囲を極力限定すること,指定の恣意性の排除を担保することを「策定の趣旨」に明記していないのは不適切である。
(2)理由
「策定の趣旨」では,「特定秘密の漏えいの防止を図るとともに,その適正を確保する」ことを掲げているが,全体として特定秘密指定された情報の漏えいを防止することに力点が置かれ,特定秘密の指定範囲の限定や恣意的な指定の排除といった国民の知る権利への配慮や秘密指定の適正さの担保の観点が欠落している。
3 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(1)拡張解釈の禁止並びに基本的人権及び報道・取材の自由の尊重」について
(1)意見
国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)を踏まえておらず不適切である。また,ツワネ原則で示されている諸原則が特定秘密保護法に明記されていないこと自体が不適切である。 (2)理由
国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)で定められている以下の諸原則が特定秘密保護法や運用基準案では定められておらず,恣意的な秘密指定を抑制することができず,不適切である。
①国民の情報アクセス権を制限する正当性の証明が政府の責務であることの明示(原則1,4)
②政府が秘密にしてはならない情報の明示(原則10)
③秘密指定が許される最長期間の明示(原則16)
(特定秘密保護法第4条は秘密指定の有効期間を定めているが,同条ただし書では永久秘密を認めており,最長期間の明示が不徹底である。)
④国民が秘密解除を請求するための明確な手続規定(原則17)
⑤全ての情報にアクセスできる独立した監視機関の設置(原則6,31~33)
⑥内部告発者の保護規定(原則37~46)
⑦一般国民は秘密情報を求めたり入手したりしたという事実を理由にした刑事訴追をされない(原則47)
4 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(2)公文書管理法と情報公開法の適正な運用」について
(1)意見
① 特定秘密指定の有効期間の長短にかかわらず,恣意的な文書廃棄を防止するための具体的措置が明記されていないのは不適切である。
② 特定秘密指定についての政府の説明責任が不明確である。
(2)理由
① 特定秘密に指定される情報は,国家の安全保障に関するものであるから,基本的に歴史資料として重要なものであると認められる。したがって,事後の検証を確保するために,特定秘密に指定された情報を記録する公文書については恣意的に廃棄されない仕組みが必要不可欠である。しかし,特定秘密保護法や運用基準案ではその仕組みが無く,恣意的な文書廃棄を許容するかたちになっている。② ツワネ原則(原則1,4)にも示されている点であり,国民主権の下では国政に関する情報は国民に開示されるのが大原則であり,政府は特定秘密指定する場合には,当該情報を特定秘密にした具体的根拠について説明する責任がある。しかし,特定秘密保護法や運用基準案ではこの点が明記されておらず,恣意的な特定秘密指定をしても抽象的な説明のみに終始し,国民がそれを追及する可能性を閉ざしている。
5 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(3)特定秘密を取り扱う者等の責務」について
(1)意見
特定秘密取扱者等が違法秘密や疑似秘密(時の政府の政治的利益のために特定の情報を秘匿する目的で指定される秘密)に接したときには通報の措置をとる責務が無いのは不適切である。
(2)理由
恣意的な特定秘密指定を排除するためには特定秘密取扱者等からの通報も重要な意義を有するところ,特定秘密取扱者等の責務として違法秘密や疑似秘密に接したときの措置を定めていないのは不適切である。
6 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(1)別表該当性」について
(1)意見
違法な行為に関する情報が除外されていないのは不適切である。
また,特定秘密保護法で定められていない米軍に関する情報までをも運用基準案に盛り込むことは法律の委任の範囲を逸脱しており不適切である。 運用基準案に示されている事項は抽象的・広範であり,具体的な対象が示されていない。そのため,限定機能を果たしておらず,特定秘密の範囲が広範であるという特定秘密保護法の問題点は何ら解消されていない。
(2)理由
例えば,運用基準案の別表第1号のイa(b)では「自衛隊の情報収集・警戒監視活動」が定められているが,ここには仙台地裁平成24円3月26日判決(判例時報2149号99頁)において,「各原告がした活動等の状況にとどまらず,これら各原告の氏名,職業に加え,所属政党等の思想信条に直結する個人情報を収集」しており,「人格権を侵害」し違法であるとされた自衛隊情報保全隊による国民監視活動も含まれることになる。自衛隊情報保全隊国民監視訴訟における自衛隊情報保全隊長等の証人尋問申請に対して,防衛大臣は民事訴訟法第191条第2項に規定する「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」に該当するとして証言することの承認を行わない旨回答しているが,特定秘密保護法施行後は特定秘密に指定されているという理由のみで証言の承認を拒否するおそれがあり,違法行為が国民に知らされないことが「保障」されてしまう。 運用基準案の別表第1号のイbには「アメリカ合衆国の軍隊(以下「米軍」という。)の運用」が明記されている。しかし,これは特定秘密保護法には明記されていない事項であり,明らかに法律の委任の範囲を逸脱している。 運用基準案によっても特定秘密の範囲は限定されておらず,広範な情報を特定秘密にし,刑事罰の威嚇をもって国民から遠ざけるという特定秘密保護法の問題点は何ら解消されていない。
7 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(2)非公知性」について
(1)意見
非公知性の判断は,客観的になされるべきであり,少なくとも外国の政府により公表・開示されたり,報道機関により公表された情報は一律に非公知性の要件を欠くとすべきである。
(2)理由
国民の知る権利保障の観点からは,当該情報が国民が知り得べき状態に至った場合には一律に非公知性を欠くとするのが適切である。
8 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(3)特段の秘匿の必要性」について
(1)意見
運用基準案で示されている例示は抽象的であり,不適切である。
(2)理由
当該情報の漏えいにより「我が国の安全保障に著しい支障を与える事態が生ずるおそれ」の有無は具体的になされるべきであり,運用基準案に例示されている程度の抽象的判断では限定機能を果たさない。
9 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(4)特に遵守すべき事項」について
(1)意見
「イ 公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠蔽を目的として,指定してはならないこと」の「隠蔽を目的」は不要である。また,公益通報の対象事実その他の行政機関による法令違反は特定秘密指定してはならないことは,特定秘密保護法に明記すべき事項である(前記第2-3参照)。
(2)理由
「隠蔽目的」という主観的要素が加えてしまうと,法令違反を特定秘密に指定する際に隠蔽目的は無いという口実を与えることになる。10 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「3 指定手続」の「(2)」について
(1)意見
① 「行政機関の長は,指定する際には書面又は電磁的記録により,当該指定に係る情報を他の情報と区別することができ」は「区別しなければならず」となっておらず,不適切である。
② 「指定の要件を満たしていると判断する理由」は,具体的に記述されるべきであり,特に,別表該当性については,単に別表に該当するだけでなく,その具体的事情が明記されるべきところ,運用基準案ではそこまで言及しておらず不適切である。
(2)理由
① 特定秘密を明確にするためには,当該指定に係る情報と特定秘密として取り扱うことを要しない他の情報とは,常に区別することが求められるというべきである。
② 「指定の要件を満たしていると判断する理由」が形式的・定型的な記述で良いとすれば,特定秘密の要件を定めた趣旨が失われるおそれが大きいので,「指定の要件を満たしていると判断する理由」は具体的に記述されるべきである。特に,別表該当性については,単に別表に該当するというだけでは実質的には理由が全く記述されていないのとを同じであるから,具体的事情まで記述されるべきである。
11 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「3 指定手続」の「(4)」について
(1)意見
災害時の住民の避難等国民の生命及び身体を保護する観点から,特定秘密の指定を解除すべきとされる情報は,そもそも特定秘密指定の対象とすべきではない。
(2)理由
上記情報は,本来,被災時に国民が適確に判断して避難できるように広く公開されるべきであり,特定秘密指定にはなじまない。
12 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「4 指定の有効期間の設定」について
(1)意見
情報通信技術の動向に密接に関係する情報については,指定に理由を見直すに当たって適切な最も短い期間を「3年等」としているのは不適切である。
(2)理由
情報通信技術の発展速度に鑑みれば,3年等は長すぎる。
13 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「6 指定した特定秘密を適切に保護するための規程」について
(1)意見
特定秘密の保護措置は,政令や運用基準に委ねるのではなく特定秘密保護法で明記すべきである。
また,施行令案第12条第1項第10号は特定秘密の漏えいのおそれがある緊急事態に際して特定秘密文書等の廃棄を定めているが,これは法律の委任の範囲を逸脱するものであるから削除すべきであり,運用基準案からも削除すべきである。
(2)理由
特定秘密の保護措置は,特定秘密の保護を目的とする法律の中心的な事項であるから,本来法律で明記すべき事項である。にもかかわらず,政令や運用基準に委ねることは,国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではない。また,施行令案第12条は特定秘密保護法第5条第1項に基づくものであるところ,同項では政令への委任の範囲として特定秘密文書等の廃棄にまでは言及していない。にもかかわらず,政令や運用基準案で廃棄を規定することは法律による委任の範囲を逸脱するものである。
14 運用基準案「Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」の「1 指定の有効期間の満了及び延長」の「(1)指定時又は延長時に定めた有効期間が満了する場合」について
(1)意見
アないしオに掲げられた情報について,特定秘密指定の有効期間を延長する前提での記述となっており不適切である。
(2)理由
アないしオに掲げられた情報は役割を終えた情報であるから,特定秘密として保護する必要性は認められない。
15 運用基準案「Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」の「3 指定が解除され,又は指定の有効期間が満了した当該指定に係る情報を記録する行政文書で保存期間が満了したものの扱い」の「(2)指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密」について
(1)意見
指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密も,すべて国立公文書館等に移管すべきであり,法律で明記すべきである。
(2)理由
特定秘密に指定される情報は,国家の安全保障に関するものであるから,基本的に歴史資料として重要なものであると認められる。したがって,事後の検証を確保するために,特定秘密に指定された情報を記録する公文書については恣意的に廃棄されない仕組みが必要不可欠である。
16 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(1)プライバシーの保護」について
(1)意見
同意を得る対象に評価対象者の家族同居人も加えていないのは不適切である。また,この点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
適性評価の実施においては,評価対象者のみならず家族同居人のプライバシーも関わる以上,彼らのプライバシー情報を同意無く取得することは不適切である。
17 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(2)調査事項以外の調査の禁止」について
(1)意見
「適法な」政治活動及び労働組合の活動の内容が曖昧であり,不適切である。信教の自由への配慮がないのも不適切である。禁止事項に違反した調査を行った職員に対する懲戒処分その他適切な措置を講ずることの明記がないことも不適切である。 以上の点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
政治活動や労働組合活動に「適法な」と限定を付すことにより,その内容の曖昧性,第一次判断者が政府や行政機関となることに鑑みると,恣意的判断のおそれや萎縮効果の危険がある。
また,警察庁や自衛隊情報保全隊はイスラム教徒やその団体を「国際テロ容疑」で調査していたことが明らかになっており,このような調査が信教の自由を侵害していることは明らかである。このような違法な調査を禁止する措置が特定秘密保護法や運用基準案で明記されていないのは不適切である。プライバシーや思想信条の自由,信教の自由等の保護の観点からは,禁止事項に違反した職員に対して懲戒処分その他適切な措置を講じる必要があるところ,その記述がないのも不適切である。
18 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(3)適性評価の目的外利用の禁止」について
(1)意見
目的外利用の禁止の範囲を「人事評価のために」に限定するのは不適切である。また,禁止事項に違反した調査を行った職員に対する懲戒処分その他適切な措置を講ずることの明記がないことも不適切である。この点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
特定秘密保護法第16条は,特定秘密の保護以外の目的で適性評価の結果やその実施に当たって取得した個人情報の利用・提供を禁止している以上,運用基準案で「人事評価のために」に限定するのは不適切である。プライバシー保護の観点からは,禁止事項に違反した職員に対して懲戒処分その他適切な措置を講じる必要があるところ,その記述がないのも不適切である。
19 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(1)評価対象者に対する告知」について
(1)意見
① 別添1の「告知書」の「2 適性評価で調査する事項」のうち,特定有害活動及びテロリズムの防止に関する事項が具体的でなく,不適切である。
② 別添1の「告知書」の「3 調査の方法」において,個別的に同意書をとることを前提にしていないのは不適切である。
(2)理由
① 特定有害活動及びテロリズムの防止に関する事項が具体的でないため,どのようなことが調査されるのかが不明であり,同意不同意についての正確な判断を阻害しかねない。
② 調査開始前に同意書を提出するため,評価対象者は,どのような事項について,どのような調査(調査のためにどこに照会するのか,どのような内容の調査をするのか等)が具体的に分からないまま同意書の提出を余儀なくされる。このような同意書をあらゆる調査についての包括的同意を与えたものとすることは,白紙委任を認めたに等しくプライバシー保護の観点からは不適切である。
20 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(2)同意の手続」について
(1)意見
① 包括的な同意は不適切である。
② 評価対象者の家族・同居人を調査する際に彼らから同意書を取得しないことは不適切である。
(2)理由
① 別添2-1の「同意書」では,「私の知人その他の関係者に」質問させ,資料の提出を求めさせることに同意する旨の記載がある。しかし,これではどの範囲の知人その他の関係者なのかが不明であり,白紙委任的な内容である。このような同意取得の手続では,真の同意を取得したことにならない。
② 特定秘密保護法第12条第2項第1号は,評価対象者の家族・同居人の氏名,生年月日,国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を調査事項と定め,同条第4項ではさらに調査することも認めている。これらは個人情報に該当するところ,家族・同居人の同意を取得せずに調査することはプライバシー保護の観点からみて不適切である。
21 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(3)不同意の場合の措置」について
(1)意見
不同意書面を要求するのは不適切である。
(2)理由
添付3の「不同意書」には,不同意の結果「特定秘密の取り扱いの業務が予定されていないポストに配置換となること等」があることが予告されている。「配置換となること等」という不明確な取扱いの予告は,評価対象者に強い不安感を与えるものであり,事実上同意を強制することにつながるおそれがある。
22 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「8 苦情の申出とその処理」の「(1)苦情の処理のための体制」及び「(3)苦情の処理の手続」について
(1)意見
苦情処理担当者には,当該苦情申立をした評価対象者の適性評価の実施に直接従事した職員のみならず,調査の過程で質問や資料提供に応じた職員も指定されるべきではない。
(2)理由
適正に苦情処理を行うためには,当該適性評価の実施に関与していない者が行うのが適切である。
23 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」の「(1)内閣府独立公文書管理監(仮称)による検証・監察・是正」について
(1)意見
内閣府独立公文書管理監(仮称)及び内閣府情報保全監察室の独立性を確保するためには,構成員に弁護士,研究者その他外部の有識者を入れ,行政機関から就任する構成員についてはいわゆるノーリターン・ルールを導入すべきである。
(2)理由
内閣府独立公文書管理監及び内閣府情報保全監察室も内閣府に設置される組織であり,独立性・中立性には問題がある。そこで,少なくとも構成員については独立性・中立性が確保できる措置を講じるべきである。
24 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」の「(2)行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等」について
(1)意見
内閣府独立公文書管理監に特定秘密に対するアクセス権限が認められていないのは不適切である。
(2)理由
運用基準案では,行政機関の長は内閣府独立公文書管理監からの特定秘密の提供の求めに対して拒否できることになっている。しかし,これでは特定秘密の指定の適正を検証・監察・是正することは不可能であり,ツワネ原則31~33にも反している。
25 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報」の「(1)通報の処理の枠組み」,「(2)通報の処理」について
(1)意見
通報窓口が行政機関と内閣府独立公文書管理監に限定されており,いずれの対応も不十分だった場合における通報の手段が無いのは不適切である。また原則として最初に行政機関の通報窓口に通報する仕組みとしていることは,不適切である。
(2)理由
行政機関及び内閣府独立公文書管理監の通報処理が不十分な場合の仕組みがなければ,特定秘密指定の適正確保は実現できない。
また,行政機関の通報窓口に通報しても適正に処理されるか疑わしい面もあり,通報者も心情的に躊躇してしまうおそれがあるため,少なくとも独立公文書管理監への通報も自由に選択できるような仕組みにすべきである。
26 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「5 特定秘密保護法第18条第2項に規定する者及び国会への報告」について
(1)意見
報告事項が基本的に件数のみであり,適切な監督が期待できない。
(2)理由
件数のみの報告では,概要すら知ることができず,報告に基づいた適切な監督を行うことは不可能である。以 上