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2259 ら特集10仙台弁護士会⑤10(0)

引用元 

平成25年11月14日 法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書
ttp://senben.org/archives/4796
法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書
2013年(平成25年)11月14日
仙台弁護士会会長 内 田 正 之
【意見の趣旨】
法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対し
第1に,冤罪防止策,とりわけ黙秘権を中核とする被疑者・被告人の権利の保障を実質化するために,取調べ受忍義務否定と取調べへの弁護人立会権を明文化し,取調べの全過程の例外なき録画録音制度を法制化すること。
 第2に,冤罪防止に資することがなく,人権侵害の危険がある捜査権限拡大策等は特別部会の検討対象としないこと。を求める。
【意見の理由】
第1 「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」の問題点(総論)
1 法制審議会特別部会設置の経緯
 近年,足利事件(2010年に再審無罪),布川事件(2011年に再審無罪),氷見事件(無実の人が服役後に冤罪が判明),志布志事件(「踏み字」などの精神的拷問による取調べ)等の数々の自白強要等による冤罪事件や,村木事件(大阪地検特捜部による証拠改ざん,犯人隠避等の,捜査機関の一連の不祥事)を契機として,捜査の在り方等に対する大幅な見直しの必要性に注目が集まるようになった。そのような事態を受けて,法務省に設置された「検察の在り方検討会議」は,平成23年3月31日,「検察の再生に向けて」と題する提言を発表した。同提言は,「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し,制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため,直ちに,国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映しつつ十分な検討を行う場を設け,検討を開始するべきである」と結論づけた。法務大臣は,同提言を受け,平成23年5月18日,法制審議会に対して「近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について,御意見を承りたい。」とする諮問第92号を発した。同諮問を受け,法制審議会は,平成23年6月6日に開催された法制審議会第165回会議において,同諮問について調査・審議するための「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という。)の設置を決定した。
2 諮問第92号の趣旨
 特別部会の設置に至る経緯が以上のとおりであることから,諮問第92号にいう「近年の刑事手続をめぐる諸事情」とは,捜査機関の自白強要を防止し,また捜査機関の暴走を抑止するための制度枠組みが存在しないこと,そのため冤罪・誤判が後を絶たなかったという状況を意味することは明らかである。したがって,諮問第92号の趣旨は,憲法及び刑事訴訟法上の適正手続の保障の趣旨を徹底させ,具体的には,取調べの全面可視化を中心として,密室における取調べなど,捜査機関の構造的な問題を抜本的に改善する方策を検討して,冤罪の根絶に資する方向での提言を行う役割を特別部会に求めたことにあり,これが,同部会が立脚すべき原点であったというべきである。
3 特別部会による「基本構想」の内容等
 特別部会は,設置以来,約1年半の審議期間を経た平成25年1月29日の第19回会議において,「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」と題する取りまとめ(以下,「基本構想」という。)を発表した。「基本構想」は,その冒頭で「これまでの刑事司法制度において,捜査機関は,被疑者及び事件関係者の取調べを通じて,事案を綿密に解明することを目指し,詳細な供述を収集してこれを供述調書に録取し,それが公判における有力な証拠として活用されてきた。」「取調べによる徹底的な事案の解明と綿密な証拠収集及び立証を追求する姿勢は,事案の真相解明と真犯人の適正な処罰を求める国民に支持され,その信頼を得るとともに,我が国の良好な治安を保つことに大きく貢献してきたとも評される」と述べ,その上で,従来の取調べ依存型捜査には「ひずみ」が生じているので,捜査の適正確保という観点で「ひずみ」を修正する必要があるとした。また,同時に,「我が国の社会情勢及び国民意識の変化等に伴い,捜査段階での供述証拠の収集が困難化していることは,捜査機関における共通の認識となっている。」「公判廷で事実が明らかにされる刑事司法とするためには,その前提として,捜査段階で適正な手続きにより十分な証拠が収集される必要があり,捜査段階における証拠収集の困難化にも対応して,捜査機関が十分にその責務を果たせるようにする手法を整備することが必要となる一方で,公判段階も,必要な証拠ができる限り直接的に公判に顕出され,それについて当事者間で攻撃防御を尽くすことができるものであるべきであり,こうした観点から,捜査段階及び公判段階の双方について適切な配意がなされた制度とする必要がある。」として,次のような各方策を導いている。
(1)「取調べへの過度の依存からの脱却と証拠収集の適正化・多様化」(捜査段階)
ア 取調べの録音・録画制度の導入
イ 刑の減免制度,協議・合意制度及び刑事免責制度
ウ 通信傍受の対象の拡大・会話傍受
エ 被疑者・被告人の身柄拘束の在り方
オ 弁護人による援助の充実化
(2)「供述調書への過度の依存からの脱却と公判審理の更なる充実化」(公判段階)
ア 証拠開示制度
イ 犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充
ウ 公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策
(司法の機能を妨害する行為への対処)
エ 自白事件を簡易迅速に処理するための手続きの在り方
4 「基本構想」の問題点
 最初に述べたとおり,そもそも特別部会は,憲法及び刑事訴訟法上の適正手続保障の趣旨を徹底し,冤罪の発生を根絶するため,密室における取調べなど,捜査機関の構造的な問題を抜本的に改善する方策の検討を行うために設置されたものである。ところが,「基本構想」は,従来の取調べ依存型捜査を抜本的に見直すことなく,取調べによって得られた「供述」に「過度」に依存しないようにすべきというだけで,むしろ,取調べによる自白を獲得することを捜査の主眼に置くこと自体については従前通りのあり方を肯定しているのである。また,供述の採取過程の形式的な「適正化」のみに目を向け,従前の取調べ制度に内在していた根本的な人権侵害の危険について検討することを回避しており,冤罪の温床となる自白の強要を根絶しようとする視点は全くない。さらには供述が獲得しにくくなったことを理由に,人権侵害の危険が増大することを考慮しないままに証拠収集をより容易にすることのみを目指すかのような姿勢までをも示している。この「基本構想」のとおりに法改正がなされるとすれば,黙秘権の保障を中核とする被疑者・被告人の権利の保障を実質化し,憲法及び刑事訴訟法上の適正手続保障の趣旨を徹底して冤罪・誤判等の発生を根絶することは極めて困難となるばかりでなく,かえって捜査機関の権限が不当に拡大され,より多くの冤罪・誤判及び人権侵害が発生することが懸念されるものである。よって,当会は,特別部会が年内にも意見を取りまとめるという状況にあることに鑑み,「基本構想」には多数問題が含まれているが,そのなかでも緊急に「意見の趣旨」記載の2点について要望する。
 第2 黙秘権を中核とする被疑者・被告人の権利の保障を実質化し,捜査の適正を担保するための制度の法制化
1 全過程の例外なき録画録音制度の法制化
 前記の経緯の中で設置された特別部会においては,全ての刑事事件について取調べ全過程の録画録音を法制化することが喫緊の課題であったはずである。しかしながら,「基本構想」の内容,及びその後の特別部会における議論においては,全事件の取調べ全過程の録画録音制度は検討対象としては消え去っており,以下に述べるとおり,録画録音対象犯罪の限定,録画録音の義務を免除する例外を広範に認める方向での議論が進められている。
 第1に,録画録音の対象事件は,全刑事事件の3パーセントにも満たない裁判員裁判事件に限定され,かつ,身体拘束前の任意の取調べは録画録音対象とされていない。これでは,捜査の適正化の契機の一つとなった村木事件は録画録音対象とならず,志布志事件のように任意捜査の段階において被疑者を屈服させるような違法な捜査を防止することもできず,捜査の適正化という録画録音の目的は大きく後退することになる。
 第2に,特別部会においては,録画録音義務を免除する広範な「例外」を設ける方向で論議されており,録音・録画により「弊害が生じるおそれがあると認めるとき」という一般条項さえ検討の対象に上っている。このような広範な例外規定の検討に対して,村木委員からは「原則と例外が逆転している」という批判的意見が述べられている。かかる広範な例外を認めるならば,結果的には捜査官の恣意によって都合の良い場面だけを録画録音するのに限りなく近い制度となり,録画録音は,かえって虚偽の自白を覆い隠す危険な制度と化してしまう恐れがある。捜査官が被疑者を誘導したり威迫・偽計によって困惑させたりする場面について恣意的に録画録音を免除できるような制度では,捜査の適正化を事後的に検証する制度としては機能しない。事後的検証のためには,一切の例外を認めることなく,任意捜査の段階も含めた取調の全過程の録画録音制度が法制化されなければならないのである。
2 黙秘権保障のための取調べ受忍義務否定と弁護人立会権の法制化
(1)黙秘権の保障を担保する取調べ受忍義務の否定法制化
 憲法38条1項は,何人に対しても黙秘権を保障している。黙秘権は,違法の取調べの防止にとどまらず,自己に不利益な告白を強いられないという人間の尊厳に根ざした権利である。被疑者・被告人は無罪を推定され,訴追側の立証に協力したり,積極的に弾劾したり,無罪を立証することを強いられないことが権利として保障されているのである。黙秘権はこうした憲法上の人権として保障されている以上,被疑者・被告人がそれを行使すると決定した以上は,完全に尊重されなければならない。すなわち,黙秘権を行使した被疑者・被告人については,取調べを拒絶する権利の保障が必然的に導かれるのであり,黙秘権は取調拒絶権を必然的に内包しているというべきである。しかしながら,わが国においては,刑事訴訟法198条1項の反対解釈として,身体拘束中の被疑者には取調べ受忍義務があることを前提とした捜査が行われている。被疑者が供述を拒み黙秘権を行使することを決定した場合でも,取調室からの退去が認められないことにより,黙秘しようとする被疑者は,「代用監獄」の取調室という密室の中で,取調官による絶え間ない詰問と利益誘導,精神的なプレッシャーに晒されることになり,これが虚偽自白と冤罪の温床となってきた。密室を利用した捜査官によるプレッシャーによって,無実の人が虚偽自白が原因で冤罪となった事件は,初めに述べた足利事件等の著名な冤罪事件や,遠隔操作ウイルス事件(大学生を含む無実の人が自白を強要され刑事・少年法上の処分を受けた)等,枚挙にいとまがない。特別部会は,憲法が黙秘権を保障している趣旨に立ち返り,取調べ受忍義務を否定する規定を明文で確認する制度を法制化すべきである。自白獲得に依存した捜査構造を改め適正化することを任務とする特別部会において,取調べ受忍義務否定の問題が検討の対象にすら上がっていないこと自体が極めて遺憾と言わざるを得ない。
(2)取調べへの弁護人立会権を認めるべきこと
黙秘権保障を担保するためには,取調べへの弁護人立会権を法制化すべきである。黙秘権が真に保障されているか否かについて,法律専門家の視点からチェックし,供述するか否かについての利益不利益の検討,供述する範囲の検討等について,被疑者が主体性を発揮するためには弁護人の立会権保障が不可欠であり,既に欧米諸国,韓国,台湾など諸外国では当然の制度として位置づけられている。弁護人の立会いのない密室において自白獲得のための取調べに依存した我が国の捜査の構造については,今年の国連拷問禁止委員会において「中世のようだ」と批判されていることを特別部会は銘記すべきである。特別部会では,取調べ受忍義務をめぐって「取調べ受忍義務があるかどうかといった神々の争いとも言うべき議論を正面からしなければならない話になってくるので,そういうところまで踏み込んで議論するつもりですか」との発言,弁護人立会権を認めるべきであるという意見に対して「かつてどこかで読んだ教科書の理想型を全部並べておられる観がありましたけれども」,「このように,教科書的なメニューを羅列するより,もっと現実に必要でインパクトのあるところに絞って議論した方がよいのではないのかと思います」との発言があり,その後,上記の問題は特別部会の議論の対象から除かれてしまっている。こうした議論の仕方は,「抜本的な」見直しを行うとした特別部会の本来の任務を踏み外したものというべきであり,極めて大きな問題がある。特別部会においては,弁護人立会権を認めることは,取調べの自白獲得という有用な機能が果たせなくなるという意見があるが,こうした意見は,自白こそが最も重要な証拠であるとする,自白依存主義とでも言うべき考え方の表れである。しかし,こうした自白獲得に依存した捜査の構造を維持しようとする我が国の捜査実務を改革することこそが特別部会に課せられた任務であり,国際的に求められている水準であることを,特別部会は銘記すべきである。
3 結論
 以上述べたとおり,仮に取調べの録画録音が実現したとしても,それだけで冤罪の原因となった密室における自白獲得依存の取調の在り方が根本的に改革されるわけではない。取調べ全過程の例外なき録画録音は,捜査の適正化のための最低限の必要条件であって十分条件ではないのである。捜査を適正化するためには,被疑者には取調べ受忍義務がないことの明文での確認,及び取調べへの弁護人立会権を明文化しなければならない。取調べ受忍義務の否定,取調べへの弁護人立会権の保障,捜査の適正を事後的に検証する制度としての取調べ全過程の例外なき録画録音制度が一体となってこそ,真に黙秘権を中核とする被疑者・被告人の権利は保障され,捜査の適正化が図られるのである。特別部会は,本来の任務に立ち戻って,上記のような制度の検討を行うべきである。
第3 捜査権限拡大策等を検討対象から除外すべきであること
1 捜査権限拡大策等が検討されていることについての批判
 特別部会は,取調べの可視化については上記の通り不十分な検討しかしていない反面,捜査機関の権限を拡大させる方向等での検討には不必要なまでに重点を置いている。以下,重要なものに絞って指摘する。
2 通信傍受法の合理化・効率化及び会話傍受の導入の危険性
 (1)特別部会は,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下,「通信傍受法という)に定める通信傍受が組織犯罪等に対して持つ捜査上の有用性を強調し,これを「取調べを通じた事後的な供述証拠の収集に代替するもの」としてより効果的・効率的に活用する方向で検討を始めた。「基本構想」は,対象犯罪を拡大し,一定の場合に通信事業者による立会いを不要とすることなどを検討課題として掲げており,さらに,特別部会第1作業分科会が検討結果を中間的に取りまとめた「作業分科会における検討(1)」においては,通信傍受法の対象犯罪を窃盗,強盗,詐欺,恐喝,殺人,逮捕・監禁,略取・誘拐まで拡大することとして,重大犯罪とは言い難い類型の犯罪についてまで通信傍受の対象犯罪を拡大する方向での検討がなされている。
 (2)しかし,そもそも通信傍受はその性質上,憲法の定める捜索・差押えにあたって場所及び対象物の特定を要求している令状主義(憲法35条),適正手続の保障(憲法31条)をはじめとする憲法上の要請を満たすことが困難な捜査手法である。また,かかる捜査手法はプライバシーの侵害等深刻な人権侵害をひろく生じさせる危険性をも内在するものである。現行の通信傍受法は平成11年に成立しているが,同法の検討段階から既にこのような批判はなされていたところであり,それゆえに従来の通信傍受法においては,対象犯罪はごく重大なものに絞られ,また,人権侵害を完全に防ぐにはなお不十分なものではあるにせよ,通信事業者の立会いなど厳格な手続的要件が設けられていたものである。それにも関わらず,特別部会においては,同法を「使い勝手が悪い」とする意見も出されており,特別部会全体としても対象犯罪を拡大し,通信事業者の立会いを不要とするなど,通信傍受をより広く認める方向での改正が検討されているのである。しかし,特別部会の議論は通信傍受という捜査手法に内在する危険を無視するものであり,同法の成立過程に照らしてみても到底許容できないものである。
 (3)最大の問題は,一定の場所を対象とした会話傍受の制度化をも検討の対象としていることである。会話傍受は,傍受機器を用いて室内等で行われる会話そのものの傍受を可能とするものであるから,通信傍受以上に,令状主義,適正手続保障違反,個人のプライバシーに対する甚大な侵害となる。特別部会が会話傍受に関する議論を始めたこと自体,問題と言わざるを得ない。ところが,特別部会は,十分な議論を尽くすことさえしないまま,既に制度の採用を前提とするかのような技術的課題に関する議論を進めているのである。
 (4)特別部会は,そもそも,今般の刑事司法制度改革をめぐる議論の始まりが,取調官による自白の強要に基づく冤罪事件の相次ぐ発覚と検察による証拠の改ざん問題にあったことを想起すべきである。捜査機関の構造的な問題を,捜査の適正を監視することによってではなく,捜査権限を拡大することによって解決するというのでは明らかに議論の方向性を誤っている。通信傍受法の対象犯罪の拡大や会話傍受の制度化といった捜査権限の拡大と強化は,自白の強要による冤罪の発生を抑止する効果を持つものではない。むしろ,このような改正を認めるならば,自白しなければ関係者・関係機関に対する会話傍受を行うことを示唆して捜査対象者を無理矢理自白に追い込むなど,かえって自白への不当な圧力を強める結果となるおそれさえある。通信・会話傍受の検討は,冤罪の根絶と適正な捜査の実現とは無関係であるだけでなく,令状主義等の憲法上の要請に反することにつながるものであり,特別部会において議論すべきものではない。
3 刑事免責制度(司法取引)の危険性
 (1)特別部会においては,捜査への協力と引き換えに刑罰を減免する刑事免責制度,いわゆる司法取引の制度を設けようとしている。
 (2)しかし,従前の司法取引に関する議論においては,刑罰の減免を条件に供述をさせることは,黙秘を貫けば相対的には不利な処分になり得ることから,被疑者の虚偽の自白を生み出す危険性が非常に高い,違法な「利益誘導」とされてきたところである。また,共犯者の自白についても,従前は引っ張り込みの危険があるとされ,その証拠能力・信用性が,通常の証言・供述よりも厳密に検討されるべきとされてきたところ,司法取引を認めるとすれば,かえって引っ張り込みの危険は増大する。
 (3)また,従前は,量刑は裁判所が判断し,捜査機関の取調べの結果は量刑の判断においては検討の一つの材料に過ぎなかったところ,司法取引が導入された場合には,捜査機関が量刑の判断に直接の影響を及ぼすことになり,捜査機関の取調べの刑事司法制度への影響力をむしろ強めることになる。これは,密室での取調べによって自白を得ることを中心に据える従前の捜査のあり方を抜本的に見直すとした,そもそもの諮問の趣旨に反する結果となる。
 (4)結局,司法取引を導入したとしても,虚偽の自白が強要・誘発される危険性が今までよりも増大し,結果的には黙秘権が侵害される危険が生じるのみならず,捜査機関が量刑の帰趨までも実質的に掌握する結果が招来されるだけであり,極めて問題が大きい。
4 被告人の証人化の危険性
 (1)「基本構想」では,証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引き上げ,証人の勾引要件の緩和,証拠隠滅等の法定刑の引き上げの他に,公判廷に提出される証拠が真正であることを担保するための方策として,被告人を証人として扱うという法改正が検討されている。具体的には,現在の被告人質問制度を廃止し,被告人が事件について事実を述べるためには,証人とならなければならず,被告人が証人となれば包括的黙秘権を放棄したものとし,一般の証人と同様の証言拒絶権の行使以外は黙秘や供述拒否を認めないこと,被告人の虚偽供述に対する制裁(偽証罪)を設けることが検討されている。
 (2)しかし,被告人を証人として扱い,偽証罪の適用を認めることになれば,被告人の公判廷での供述に萎縮効果を与えることは明らかである。刑事訴訟法322条により,被告人の不利益供述は任意性さえ認められれば公判廷に提出されうる扱いとなっているのであるから,もし捜査段階では取調べの圧力に負けて虚偽の自白をした被告人が,公判廷において調書の内容と異なる供述をした場合には,「偽証罪」の圧力を背景に,検察から調書を元にした反対尋問がなされ,かえって被告人が真実を語ることができないことになりかねない。刑事訴訟法322条を改正せずに単に被告人を証人として偽証罪の制裁を科すことが可能になれば,裁判が,被告人の言い分に対して充分に耳を傾ける手続ではなくなってしまうことになり,適正手続の保障に反する結果となる。また,無実の被告人が証言のうえ有罪となった場合,公判廷で証言したことが偽証罪で処罰される事態も生じかねず,二重に冤罪を生み出す危険もある。
5 結論
 特別部会は,取調べの可視化によって捜査機関の自白採取機能が低下することを懸念し,その交換条件としてこのように捜査機関の権限を拡大させる方向での改正を盛り込む方針であるとみられる。
しかし本意見書の意見の理由第1の通り,そもそも可視化について不十分な検討しかなされていない現状で捜査機関の権限拡大策等を検討するとすれば,特別部会の設置の趣旨は没却され,かえって違法捜査及びそれによる人権侵害を一層助長する結果になりかねない。
したがって,上記のような冤罪防止に資することがなく,人権侵害の危険がある捜査権限拡大策等は検討の対象から外されるべきである。

平成25年10月18日 特定秘密保護法案の制定に強く反対する会長声明
ttp://senben.org/archives/4763
政府は,本年10月15日に開会した臨時国会における特定秘密の保護に関する法律案(以下,「本法案」という。)の提出及びその成立を目指している。従来,当会は秘密保護法制の問題点を指摘してきたが,本法案にも,看過できない重大な問題が存する。本来,国政に関する情報は主権者である国民に提供されるのが原則であるところ,現状,情報公開は不十分である。また,秘密の保護については既に国家公務員法や自衛隊法,MDA秘密保護法(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法)等によって秘密漏えい行為に対する罰則が設けられており,過去の秘密漏えい事案にしても情報管理システムの適正化や情報保全教育により防止できたものである。かかる状況に加え,以下に述べる具体的問題点からは,本法案は,弊害のみ多く,特定秘密保護の名の下に国民が知るべき情報を秘匿し,ひいては国民主権を後退させかねない危険をはらむものであることから,当会はその提出及び制定に強く反対するものである。
 第一に,「特定秘密」の範囲が,「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」,「テロリズムの防止」と広範かつ不明確であり,本来秘密として保護すべき必要性のない情報までもが「特定秘密」として保護される危険性がある。この点,本法案は,「特定秘密」の指定等の統一的な運用基準について有識者の意見を聴かなければならない旨規定するが(法案第18条2項),これは,「特定秘密」指定の統一基準について意見を述べるにとどまり,個々の秘密の内容をチェックする権能を有さない。また,本法案は,「特定秘密」の指定を30年を超えて延長する場合には内閣の承認を必要とする旨規定するが(法案第4条3項),行政権力の恣意により秘密を維持する危険性があることに変わりはなく,また事実上30年間は「特定秘密」の指定を維持できることを認めることにほかならないのであって,問題点はなんら解消されていない。
 第二に,「特定秘密」の範囲が広範かつ不明確であるとともに,故意の漏えい行為にとどまらず,過失による漏えい行為のほか,漏えい行為の未遂,共謀,教唆及び扇動,並びに「特定秘密」の取得行為(特定秘密の管理侵害行為)とその行為の未遂,共謀,教唆及び扇動についても処罰しようとしている(法案第22条ないし第26条)。これは,犯罪と刑罰を法律により具体的かつ明確に規定しなければならないという罪刑法定主義(憲法第31条)の観点から重大な疑義が存し,取材活動の萎縮や知る権利に対する制約をもたらす。この点,本法案は,「知る権利の保障に資する報道の自由又は取材の自由に十分に配慮」する旨規定する(法案第21条1項)。しかし,判例上,報道の自由が憲法第21条の保障のもとにあることは確立されており,また,取材の自由も憲法第21条の趣旨に照らし十分尊重に値するものとされているのであるから,改めてその文言を規定する実益は乏しい。また,本法案は,取材行為について「専ら公益を図る目的を有し,かつ,法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは,これを正当な業務による行為とする」と規定するが(法案第21条2項),「著しく不当」の意味内容が漠然不明確であり,濫用防止効果には疑義がある。このように,知る権利や報道の自由,取材の自由について配慮規定が置かれたとしても,取材活動などの国民の自由に対して深刻な萎縮効果を与える懸念は全くぬぐい去れない。
 第三に,本法案では,国会議員への特定秘密の提供は行政機関の長等の裁量に委ねられており,提供するための条件も政令で定めるとされている(法案第10条)。加えて,特定秘密を漏えいした国会議員も処罰(過失も含む)の対象としており(法案第22条2項,3項,5項,第10条1項1号イ),国会議員が秘密の委員会や調査会で知得した「特定秘密」に係る情報を他の議員等に知らせることができなくなってしまう。これは,国会や国会議員が行政機関のコントロール下にあるに等しく,議会制民主主義の否定ともいうべき大問題である。
 第四に,特定秘密を取扱う者を選別する適性評価制度は,特定有害活動及びテロリズムとの関係,犯罪・懲戒歴や薬物の乱用又は影響に関する事項,精神疾患に関する事項,飲酒についての節度に関する事項,信用状態等といった機微にわたるプライバシー情報を調査するとともに(法案第12条2項),本人の友人等についてまで調査するおそれがあり,プライバシーを侵害する危険がある。
 上記問題点に加え,政府が本法案の提出に先だって実施したパブリックコメントにおいては,わずか2週間の間に9万件を超える意見が寄せられ,そのうちの実に4分の3以上となる約77%が法案に反対している点も重く捉えられるべきである。以上の理由から,本法案は国会に提出されるべきではなく,当会は本法案の制定に強く反対する。
2013年(平成25年)10月18日仙台弁護士会会長内田正之

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